説明

原料精製装置およびシンチレータ用単結晶の製造方法

【課題】 不純物が少ない希土類ハライド材料を製造する原料精製器具および原料精製装置を提供する。また、上記の装置により精製した原料を使用してシンチレーション検出器に用いられるシンチレーション単結晶を育成する方法を提供する。
【解決手段】 本発明に係る希土類ハライド原料の精製装置は、シンチレーション検出器に用いられるシンチレーション単結晶の育成に使用する原料を精製するためのものであり、被処理原料および石英を主原料とする不純物付着体を収容する原料収容部と前記原料収容部に収容された原料を溶融するための電気炉などの加熱装置と精製済み原料通過部と精製済み原料の収容部からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルタリング法による原料精製装置に関し、特に、シンチレータ用単結晶の原料に含まれる不純物を低減するのに使用される原料精製装置に関する。また、この原料精製装置によるフィルタリング処理により得られた原料を用いたシンチレータ用単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シンチレーション単結晶は、X線、ガンマ線などの放射線のエネルギを吸収し、特定波長を持ったフォトンを放出する特性を持っている。シンチレータは、シンチレーション単結晶と当該単結晶から放出されるフォトンを検出する光電子増倍管やフォトダイオードなどの光検出器から構成される。シンチレーション単結晶から放出されるフォトンは、入射放射線のエネルギ、強度などの情報を含んでいるため、光検出器から得られる電気信号を処理することにより、入射放射線のエネルギ、強度、入射方向、発生場所などの入射放射線に関する情報を得ることができる。シンチレーション検出器は室温における動作の長期安定性に優れていることから、医療、産業、天文学、安全保障などの分野における放射線検出素子として広く用いられている。近年では、シンチレーション検出器の高速応答特性を活かし、陽電子断層撮影装置(PET)への応用が最新の医療診断装置として普及している。PETは、癌細胞に特異に蓄積させた放射性同位元素から180°方向に放出されるガンマ線を円周上に配列したシンチレーション検出器で検出することにより、癌の位置を検出することが可能であり、最新の診断装置として年間180万件以上の診断に使用されている。
【0003】
物質の透過力が高いX線、ガンマ線の検出には表1のようなNaI:Tl、BGO、LGSO、LaBr:Ce,CeBrなどの固体シンチレータが用いられている。NaI:Tlはシンチレーション単結晶としての歴史が古く、安価で高い蛍光出力が得られることから幅広い分野で汎用性が高いシンチレーション検出器として用いられてきた。BGO、LGSOは密度が高いことから高エネルギガンマ線検出器として応用されている。特にLGSOは、NaI:Tlに迫る蛍光出力を示し、蛍光減衰時間が短いことから、PET用シンチレーション検出器として実用化されている。LaBr:Ce(例えば、非特許文献1参照)、CeBr(例えば、非特許文献2参照)のような希土類ハライド単結晶は、蛍光出力だけでなく蛍光減衰時間においても従来のシンチレーション単結晶を圧倒的に凌駕する新規シンチレーション単結晶である。また、希土類ハライドシンチレーション単結晶が示すエネルギ分解能は、CdTe検出器やCdZnTe検出器などの半導体検出器が示すエネルギ分解能に匹敵することから、希土類ハライドシンチレーション検出器は、従来のシンチレーション単結晶の適用が少なかった高エネルギ分解能が要求される新たな分野へも展開が期待されている。
【0004】
【表1】

【0005】
シンチレーション材料が持つ特性を最大限に引き出すためには、不純物、欠陥などが少ない高品質の単結晶を得ることが必要である。LaBr:Ce,CeBrなどの希土類ハロゲン化物は、高い潮解性を示す材料であり、空気中の水分と反応し安定な希土類オキシハロゲン化物を形成する(下記式III参照)。
LnX+HO→LnXO+2HX (III)
(式中、Lnは希土類元素からなる群より選択される1種以上の元素を示し、Xはフッ素、塩素、臭素、沃素から選択される1種以上の元素を示す。)
原料中に含まれる酸化物やカーボン系化合物のような不純物は、結晶育成において単結晶の成長を妨げる原因となる。また、含有する酸化物により発光効率などのシンチレーション特性が劣化することが報告されている(特許文献1参照)。
【0006】
市販されている希土類ハライド原料には既に微量の水分が含まれており、また、単結晶育成工程において、材料と水分との接触の機会を完全に断ち切ることは非常に難しい。希土類酸化物をハロゲン化させる方法には、ハロゲン化アンモニウムを用いた方法(特許文献1参照)や真空蒸留法(特許文献2参照)が報告されている。また、無機化合物に含まれている不純物を取り除く方法として、フィルタリング法が報告されている(非特許文献3参照)。
ハロゲン化アンモニウム(下記式NHX)は、希土類オキシハロゲン化物と混合、加熱することにより酸素スカベンジャとして働き、希土類オキシハロゲン化物のハロゲン化をもたらす(下記式IV参照)。
LnOX+2NHX→LnX+HO+2NH (IV)
(式中、Lnは希土類元素からなる群より選択される1種以上の元素を示し、Xはフッ素、塩素、臭素、沃素から選択される1種以上の元素を示す。)
この方法は、原料に僅かな量のハロゲン化アンモニウムを添加するだけで効率的なハロゲン化が可能である。
【0007】
真空蒸留法は、材料の蒸気圧の違いを利用した精製方法である。希土類ハライド化合物は希土類オキシハロゲン化物やカーボン系化合物例えば脂肪族炭化水素と比較し融点が低いことから、真空中で溶融させると希土類ハライド原料のみが蒸発し低温部に堆積する。特許文献2によれば、さらに精製に使用する石英管の形状を工夫することにより、精製済み希土類ハライド原料への希土類オキシハロゲン化物やカーボン系不純物の混入を防ぎ、高効率の精製が可能である。
フィルタリング法による精製は、不純物を物理的に濾し、取り除く単純な精製法であり、融液に含まれ,未溶融状態の不純物に対し高い精製効果をもたらす。無機材料におけるフィルタリング法では、融液にした原料を白金のろ過材を通過させることにより精製する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2006−508227号公報
【特許文献2】特開2009−256119号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Nuclear Instruments and Methods in Physics Research,vol.A486,Issues1−2,p.254−258,(2002).
【非特許文献2】Journal of Crystal Growth,vol.310,p.2085−2089,(2008).
【非特許文献3】Journal of Applied Physics,vol.31,No.10,p.1720−1722,(1960).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ハロゲン化アンモニウムを用いた方法では、式(IV)のスカベンジングで生じたHOによる原料のオキシハロゲン化反応を抑制する必要がある。また、スカベンジング反応で生じる2NHは、金属を腐食することから育成設備へ与える損傷が懸念される。
【0011】
また、真空蒸留法による精製では、希土類ハライド原料を高効率で蒸発させるため,原料を1,000℃以上の高温に加熱する必要があり,精製を容易に実行することができない。
【0012】
また、白金を用いたフィルタリング法は、精製装置を構築するためのコストが高いため,精製装置は小規模なものに限られ,工業的に大量の精製を実現することは困難である。
【0013】
本発明はこれらの課題を解決するものであり、希土類酸化物およびカーボン系化合物などの不純物が非常に少ない希土類ハライド原料をより簡便な工程で得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は鋭意検討した結果、希土類ハライド単結晶の育成を進めている中で、原料に含まれる不純物、特に希土類酸化物やカーボン系化合物が石英に吸着しやすい性質を持つことを見出し、本発明に至った。
すなわち本発明は、シンチレーション単結晶の製造に使用する原料を精製するための原料精製装置であって、被処理原料を収容する原料収容部と前記原料収容部に収容された原料を溶融するための加熱装置と精製した原料が通過する精製済み原料通過部とを備え、前記通過部上部に不純物付着体を充填してなる原料精製装置に関する。
また、本発明は、前記不純物付着体が、石英を主原料とする石英ウール、石英ビーズ、石英板、石英紛体、またはこれらの破砕物から選ばれる少なくとも1種以上である請求項1記載の原料精製装置に関する。
また、本発明は、下記式(I)で表されるシンチレータ用単結晶の製造方法であって、
請求項1または2記載の原料精製装置の原料収容部に収容された原料を溶融する工程と、
溶融した原料を溶融原料通過部上部に収容した不純物付着体に通過させる工程と、
前記(2)の工程により得られた原料から前記シンチレータ用単結晶を製造する結晶製造工程とを含むシンチレータ用結晶の製造方法に関する。
Ln(1−y)Ce・・・(I)
(式中、Lnは希土類元素からなる群より選択される1種以上の元素を示し、Xはフッ素、塩素、臭素、沃素から選択される1種以上の元素を示し、yは下記式(II)で表される条件を満足する数値を示す。0.0001≦y≦1・・・(II))
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、この性質を活かし、石英を主原料とするろ過材をフィルタリング法に適用することにより、不純物を高効率で容易かつ安価に除去することができる。本発明による原料精製装置を用いれば、希土類酸化物が非常に少ない希土類ハライド原料が複雑な工程を踏むことなく得られる。また、本発明に係るシンチレータ用結晶の製造方法によれば、高い蛍光特性を示すシンチレータ用単結晶を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る原料精製装置の構成図である。
【図2】本発明に係る原料精製器具の好適な実施形態を示す側面図である。
【図3】本発明に係る精製済み原料通過部の概略図である。
【図4】本発明に係る精製済み原料の採取を簡便にする原料精製装置の概略図である。
【図5】本発明に係る精製済み原料へ不純物混入を防ぐことが可能となる原料精製器具の概略図である。
【図6】ブリッジマン法による結晶育成を行うためのブリッジマン炉の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のフッ化物結晶の育成方法の好適な一つの実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。また、以下に説明するブリッジマン法によるフッ化物結晶の育成方法は本発明の例示にすぎず、本発明はこれに限定されるものではない。
【0018】
<原料精製装置>
図1は、本実施形態に係る原料精製装置の側面図である。同図に示す原料精製器具は、下端が閉じられた石英製の管を用いた例である。原料精製装置は、被処理原料4を収容する原料収容部3と被処理原料4を溶融するための電気炉1と精製済み原料が通過する精製済み原料通下部6とを備え、精製済み原料通過部6の上部に石英を主原料とする不純物付着体5を充填した構成である。
【0019】
原料収容部3は、希土類酸化物を含有する希土類ハライド原料(被処理原料)を収容する部分である。原料収容部を加熱することにより、被処理原料4を溶融する。原料収容部を加熱する方法としては、図1に示すように、原料精製装置全体を電気炉内に設置し加熱する方法、原料収容部3および不純物付着体5および精製済み原料通過部6の周囲に設置した電気炉で加熱する方法などが挙げられる。また、熱源には、抵抗加熱だけではなく高周波加熱などが挙げられる。加熱装置は、被処理原料を溶解する目的で使用するため、加熱温度は被処理原料の融点よりも僅かに高い温度とする。例えば、CeBrを被処理原料とした場合、加熱温度は750〜800℃程度で構わない。
【0020】
被処理原料4は、希土類ハライド単結晶の原料とする場合、希土類ハライド化合物を用いるが、収容時の形状に特に制限はない。例えば、粉末状、焼結体、ビーズ状、チップ状、バルク状などが挙げられる。また、原料は一度溶融、固化させたものであっても構わない。
溶融した被処理原料4は、不純物付着体5を通過することにより、希土類酸化物およびカーボン系化合物を除去することができる。
【0021】
不純物付着体5としては、石英を主原料とするものであれば特に制限はなく、例えば石英ウール、石英ビーズ、石英板、石英紛体、またはこれらの破砕物が挙げられる。中でも石英ウールを用いることが、被処理原料の融液との接触面積が大きく、精製済み原料収容部へ落下する可能性が少なく好ましい。
【0022】
精製済み原料は、精製済み原料通過部6を通過し回収される。
【0023】
精製済み原料通過部6は、図2に示すように石英管内部に、孔のあいた円盤を取り付けた構造になっている。精製済み原料通過部6の目的は、原料精製器具における不純物付着体5の設置位置を保ち、かつ、精製済み原料だけを精製済み原料収容部8への通過させることである。よって、前述の目的が果たされるのであれば、精製済み原料通過部6の形状は、図2に示したように、円盤の中心に孔を持つ構造だけではなく、図3に示したような石英管に窪みを持たせた形状、網目状であっても構わない。
【0024】
精製済み原料収容部は、希土類酸化物が取り除かれた希土類ハライド原料を収容する部分である。精製済み原料の回収方法は、図1のように原料精製装置2の底部を閉じられた構造にすることにより、精製済み原料通過部6を通過した原料を直接回収することができる。精製済み原料を回収する方法としては、精製済み原料収容部のみをガラス切りなどで切断する方法が挙げられる。また、図4のように原料精製器具および加熱装置全体を真空排気可能なチャンバ内に設置することにより、精製済み原料収容部を着脱可能とすることができる。また、図5のように精製済み原料収容部の下端を結晶を育成する上で好ましい形状にし、精製が終了した後に精製済み原料収容部のみを封じることにより、精製済み原料の取り出しから育成容器への結晶育成までの工程を省くだけでなく、不純物の混入を防ぐことができる。
本発明によれば、原料精製装置を用いて原料に含まれる希土類酸化物、カーボン系化合物などの不純物を取り除いた希土類ハライド原料を得る。
【0025】
図2は、原料精製器具の概略図である。原料精製器具の寸法は被処理原料の処理量に合わせ適宜設定して構わない。例えば、およそ10gのCeBrを精製する場合、原料精製器具の各部分の寸法は図2のようにすればよい。
【0026】
<シンチレータ用単結晶の製造方法>
本実施形態に係るシンチレータ用単結晶の製造方法は、下記式(I)で表されるシンチレータ用単結晶を製造するためのものである。
Ln(1−y)Ce (I)
(式中、Lnは希土類元素からなる群より選択される1種以上の元素を示し、Xはフッ素、塩素、臭素、沃素から選択される1種以上の元素を示し、yは下記式(II)で表される条件を満足する数値を示す。0.0001≦y≦1 (II))
【0027】
入射ガンマ線のエネルギ,強度などの情報を精確に得るため,シンチレーション単結晶には、蛍光出力が高く、蛍光減衰時間が短いことが望まれることから、Lnには希土類元素の中でもLaが望ましい。
【0028】
Ceは高い蛍光、短い蛍光減衰時間を与える賦活材であり、添加濃度を変化させることによりシンチレーション検出器の用途に合ったシンチレーション特性を持たせることができる。式(II)のyが1の場合は、CeX3で示される希土類ハライド単結晶となる。
【0029】
シンチレータ用結晶中のCeの濃度は、式(I)のyの値で0.0001未満である場合、蛍光量が減少してしまう傾向がある。Ceの濃度は、式(I)のyの値で0.001〜0.1が好ましく、0.005〜0.5がより好ましい。
【0030】
式(I)中のXはフッ素、塩素、臭素、沃素から選択される1種以上からなる。その中でも高い蛍光出力と短い蛍光減衰時間をもつ臭素が好ましい。
入射放射線により放出されるシンチレーション光を効率よく光検出器まで導くため、シンチレーション結晶は単結晶であることが望ましい。
【0031】
次に、本発明の希土類ハライド単結晶の育成方法の好適な一実施形態について図面を参照しながら説明する。シンチレーション単結晶の育成法には、融液にした原料を冷却、固化させて単結晶を成長させるブリッジマン法やチョクラルスキ法が挙げられる。以下に、ブリッジマン法を例にしてシンチレータ単結晶の製造方法の一例を示す。なお、以下に説明するブリッジマン法による希土類ハライド単結晶の育成方法は本発明の例示にすぎず、本発明はこれに限定されるものではない。
【0032】
本発明による原料精製装置で得られた精製済み原料から単結晶を育成する際は、例えば、精製済み原料融液を冷却固化したものを原料精製装置の石英管から取り出し、ブリッジマン法で用いる育成容器に収容する。なお、これらの操作は、空気中の水分との接触を避けるため、窒素などの乾燥ガスで置換したグローブボックス内で行うことが望ましい。
【0033】
図6は、本発明に係るフッ化物結晶のブリッジマン法による育成を行うために好適に用いられるブリッジマン炉15の概略図である。図6に示すブリッジマン炉15は、ヒータ12と、その周囲を囲む断熱材13及びこれらを覆う気密可能なチャンバ9から構成される。また、チャンバ内部は真空ポンプにより10−5Pa程度まで排気可能な構造である。ヒータ12により炉内部には、上部から下部にかけて高温から徐々に低温となる温度勾配が形成される。温度勾配は20℃/cm〜5℃/cmが好ましく、10℃/cm〜5℃/cmがさらに好ましい。結晶を育成するためのルツボ10は、炉内部のシャフト14上部に設置される。ルツボ10の素材は、カーボン、石英、白金など用いられるが、特別に限定されるものではない。ルツボ10の上部には孔が備えてあり、ルツボ内部も真空排気される仕組みになっている。また、原料を収容する容器は、原料13を石英管などのアンプルに真空封入したものであっても構わない。ルツボ10は、シャフト14の動きによって昇降可能であり、温度勾配に沿ってルツボ10を降下させることにより結晶が育成される。
【0034】
精製で得られた希土類ハライド原料をルツボ10に収容する。このルツボ10をチャンバ内上部に設置し、チャンバ内部を真空排気する。ヒータ12の加熱によって、ルツボ10内の原料を完全に溶融させ、ルツボ10をゆっくりと下降させることにより、ルツボ10下部の方から融液を結晶化させる。クラックがなく透明な単結晶を育成する観点から、ルツボ10の降下速度は、5mm/h以下が好ましく、1mm/h以下がより好ましく、0.5mm/h以下がさらに好ましい。固化した直後の結晶は高温であり、熱収縮により結晶にクラックが発生しやすいため、融液が完全に固化した後、ヒータをゆっくりと冷却し結晶を徐冷することが望ましい。この観点から、結晶が固化した後のヒータ12の冷却速度は、30℃/h以下が好ましく、10℃/h以下がより好ましく、5℃/h以下がさらに好ましい。
【0035】
このようにして育成したシンチレーション単結晶は、読み出し面以外の面を反射材で囲み、シンチレーション光の取り出し面を鏡面状に研磨し光検出器の光電面に光学接続することによりシンチレーション検出器となる。シンチレーション検出器は、X線、ガンマ線などの放射線を検出する素子としてX線回折装置などの分析装置やPETのような診断装置に用いられる。
【0036】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、上記実施形態において、原料精製器具の材質として石英を例示したが、不純物吸着体が石英であれば、不純物吸着体の周囲を構成する材質は耐熱性および被処理原料との反応を示さない材料であれば、セラミックスや金属でも構わない。
【実施例】
【0037】
本発明に基づき、実施例および比較例を挙げ、本発明を具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0038】
(実施例1)
原料精製装置には、石英を材質とする図2のような形状のものを準備した。被処理原料には、市販のシグマアルドリッチ社製CeBrビーズ(公称純度99.99%)10gを準備した。不純物付着体として直径1mmの石英棒を長さ2.5〜3mm程度に不規則に砕いた石英小片を準備し、精製済み原料通過部上部に約20mm程度の高さに堆積させた。窒素で置換したグローブボックス内で被処理原料を原料精製装置内に収容した石英小片の上部に収容した。原料精製装置の開放側をロータリーポンプ(ULVAC製 GLD−051)に接続し、原料精製装置内を1Pa程度まで真空排気した。真空排気を維持しながら、原料精製装置の被処理原料収容部から精製済み原料収容部までを原料精製装置の周囲を取り囲むように設置した電気炉により800℃に加熱し、被処理原料を完全に溶融した。石英小片の上部に収容したCeBrの溶融体が完全になくなるまで電気炉の温度を7800℃に維持し、その後電気炉の電源を切り、精製済み原料を固化させた。得られた精製済み原料を目視により観察したところ、全体的に白色を示し、異物は確認されなかった。一方、不純物付着体には黒い異物が付着していた。
【0039】
次に、窒素で置換したグローブボックス内において上述で得られた精製済み原料を原料精製装置から取り出し、内径6mmの石英管に移し入れ、石英管内を1Pa程度に真空排気した後封じ、ブリッジマン法による結晶育成を行った。ヒータを750℃〜850℃に加熱し、石英管内の原料を完全に溶融した後、石英管を1mm/hの速度で降下させた。降下後、電気炉を10℃/hの速度で室温まで冷却し単結晶を得た。
【0040】
得られた結晶を目視にて観察したところ、結晶中に異物は確認されなかった。また結晶中にクラックは含まれず、結晶全体が単結晶であった。
【0041】
(実施例2)
被処理原料としてシグマアルドリッチ社製LaBrビーズ(公称純度99.99%)10gを用い、実施例1と同様にして原料の精製を行った。得られた精製済み原料を目視により観察したところ、全体的に白色を示し、異物は確認されなかった。一方、不純物付着体には黒い異物が付着していた。
また、精製済み原料を用いて実施例1と同様にしてブリッジマン法による単結晶の育成を行った。得られた結晶を目視にて観察したところ、結晶中に異物は確認されなかった。また結晶中にクラックは含まれず、結晶全体が単結晶であった。
【0042】
(比較例1)
被処理原料としてシグマアルドリッチ社製CeBrビーズ(公称純度99.99%)10gを用い、原料のフィルタリング法による精製を行わずに実施例1と同様の条件で結晶育成を行った。得られた結晶を目視で確認したところ、結晶中には全体的に黒い異物がまばらに存在し、結晶上部にも不純物の偏析が見られた。また、結晶全体に亘り細かいクラックが分布し、育成した結晶は多結晶であった。
【0043】
(比較例2)
被処理原料としてシグマアルドリッチ社製LaBrビーズ(公称純度99.99%)10gを用い、原料のフィルタリング法による精製を行わずに実施例1と同様の条件で結晶育成を行った。得られた結晶を目視で確認したところ、結晶中には全体的に黒い異物がまばらに存在し、結晶上部にも不純物の偏析が見られた。また、結晶全体に亘り細かいクラックが分布し、育成した結晶は多結晶であった。
【符号の説明】
【0044】
1・・・電気炉、2・・・原料精製器具、3・・・原料収容部、4・・・被処理原料、5・・・不純物付着体、6・・・精製済み原料通過部、7・・・精製済み原料、8・・・精製済み原料収容部、9・・・チャンバ、10・・・ルツボ、11・・・原料、12・・・ヒータ、13・・・断熱材、14・・・シャフト、15・・・ブリッジマン炉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シンチレータ用単結晶の製造に使用する原料を精製するための原料精製装置であって、被処理原料を収容する原料収容部と、前記原料収容部に収容された被処理原料を溶融するための加熱装置と、精製した原料が通過する精製済み原料通過部と、を備え、前記精製済み原料通過部上部に不純物付着体を充填してなる原料精製装置。
【請求項2】
前記不純物付着体が、石英を主原料とする石英ウール、石英ビーズ、石英板、石英紛体、またはこれらの破砕物から選ばれる少なくとも1種以上である請求項1記載の原料精製装置。
【請求項3】
下記式(I)で表されるシンチレータ用単結晶の製造方法であって、
請求項1または2記載の原料精製装置の原料収容部に収容された原料を溶融する工程と、
溶融した原料を溶融原料通過部上部に収容した不純物付着体に通過させる工程と、
前記(2)の工程により得られた原料から前記シンチレータ用単結晶を製造する結晶製造工程と、
を含むシンチレータ用結晶の製造方法。
Ln(1−y)Ce (I)
(式中、Lnは希土類元素からなる群より選択される1種以上の元素を示し、Xはフッ素、塩素、臭素、沃素から選択される1種以上の元素を示し、yは下記式(II)で表される条件を満足する数値を示す。0.0001≦y≦1 (II))
【請求項4】
上記式(I)においてyが1である、請求項3に記載のシンチレータ用単結晶の製造方法。
【請求項5】
上記式(I)においてXで表される元素が臭素である、請求項3または4記載のシンチレータ用単結晶の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−225742(P2011−225742A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−97800(P2010−97800)
【出願日】平成22年4月21日(2010.4.21)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】