説明

原料蒸留用器具、及び、シンチレータ用結晶の製造方法

【課題】不純物の含有量が十分に少ない原料を製造するのに有用な原料蒸留用器具を提供すること。また、この原料蒸留用器具による蒸留処理を経た原料からシンチレータ用結晶を製造する方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係る原料蒸留用器具10は、シンチレータ用結晶の製造に使用する原料を蒸留するためのものであって、被処理原料を収容する原料収容部12と、この原料収容部12の加熱により気化した原料が固体の状態で付着する内壁面14aを有する原料固化部14と、原料収容部12と原料固化部14とを連通する屈曲した流路16aを有する屈曲部16とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原料蒸留用器具に関し、特に、シンチレータ用結晶の原料に含まれる不純物を低減するのに使用される原料蒸留用器具に関する。また、この原料蒸留用器具による蒸留処理を経た原料を用いたシンチレータ用結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シンチレータを備えた、いわゆるシンチレータ型放射線検出器が知られている。この放射線検出器では、まずシンチレータにγ線等の放射線が入射して蛍光が発生する。次いで、発生した蛍光を光電子増倍管などの光検出器で検出して電気信号に変換する。次に、種々の電子回路でその電気信号を処理して、計数率、蛍光量、時間情報などの各種情報を得る。そして、その各種情報から、入射した放射線の強度、エネルギー、発生位置・方向などの情報を入手する。このシンチレータ型放射線検出器は、主に核医学、高エネルギー物理、放射線管理、地下検層などの分野で幅広く利用されている。
【0003】
シンチレータは、その材料の観点から有機シンチレータと無機シンチレータとに大別される。このうち、無機シンチレータとしては、その材料にNaI:Tl、CsI:Tl、BiGe12(BGO)、GdSiO:Ce(GSO)、LuSiO:Ce(LSO)などを用いたものが挙げられる。これらの中でも、無機シンチレータとして最もよく知られているのは、材料にNaI:Tlを用いたものである。この無機シンチレータは、1948年にR.Hofstadterによって発見されて以来、現在に至るまでほとんどのγ線検出器分野で最も使用されているシンチレータである。
【0004】
近年、新しいシンチレータ材料として、Ceを賦活材とした希土類ハライド単結晶が注目されている。この希土類ハライド単結晶を用いたシンチレータは、蛍光量が大きく、エネルギー分解能に優れ、しかも蛍光減衰時間も短いという利点を有する。シンチレータに用いられる希土類ハライドとしては、LaCl(例えば、特許文献1参照)、LaBr(例えば、特許文献2及び非特許文献1参照)、CeBr(例えば、非特許文献2参照)、及びLuI:Ce(例えば、非特許文献3参照)などが開示されている。
【0005】
これらのなかでも、LaBr:Ce及びCeBrは、蛍光量(蛍光出力)、蛍光減衰時間、エネルギー分解能などの基本的な特性がNal:Tlよりも優れている。そのため、これらの材料は、あらゆるシンチレータ型放射線検出器の応用分野で期待されており、特に、そのエネルギー分解能の高さ、並びにそのシンチレータを組み込んだ放射線検出器の時間分解能の高さが注目されている。
【0006】
以上説明した、従来の材料を用いた主な無機シンチレータの特性を表1に示す。
【表1】


【特許文献1】特表2004−500462号公報
【特許文献2】特表2003−523446号公報
【非特許文献1】Nuclear Instrument And Methods In Physics Research A486(2002)p.254
【非特許文献2】IEEE Transactions Nuclear Science, Vol.52(2005)p.3157
【非特許文献3】Nuclear Instrument And Methods In Physics Research A537(2005)p.279
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、希土類塩化物、希土類臭化物及び希土類ヨウ化物などの希土類ハライド系材料は非常に強い吸湿潮解性を持つことが知られている。一般的に原料に含まれる不純物は単結晶の育成を妨げ、また特性に影響を与える。したがって、基本的にはこれを可能な限り除去することが望まれる。最近では純度の高い希土類ハライド系原料が市販されているが、必ずしも結晶育成効率やシンチレータ特性に十分とは限らない。特に強い吸湿潮解性は、大気中の水分(HO)を容易に取り込み、加水分解によって希土類オキシハライドを生じてしまう。
【0008】
例えば、下記反応式(i)に示すように、加水分解によってCeBrからCeBrOが生じ、原料中に含まれるCeBrOの量が多くなると、CeBrOは結晶育成を妨げる働きをする。このため、原料中のオキシハライドは希土類ハライド系単結晶の製造を困難にする主因と考えられる。
CeBr+HO→CeBrO+2HBr …(i)
【0009】
希土類ハライドからオキシハライドが生成するのを抑制する方法としては、ハロゲン化アンモニウムを用いた酸素スカベンジング法が知られている(例えば、特表2006−508227号公報を参照)。この方法によれば、使用する原料からの効率的な水分や酸素の除去が期待できる。しかし、例えば、下記反応式(ii)で示されるように、反応の過程で生じた水分(HO)が再度、原料に付着することを十分に抑制することはできないといった問題点がある。
LaBrO+2NHBr→LaBr+HO+2NH …(ii)
【0010】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、不純物の含有量が十分に少ない原料を製造するのに有用な原料蒸留用器具を提供することを目的とする。また、この原料蒸留用器具による蒸留処理を経た原料からシンチレータ用結晶を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、原料に含まれる不純物を低減させるべく、希土類ハライドと希土類オキシハライドとを完全に分離することが可能な真空蒸留法に着目した。真空蒸留法によれば、原料を所定の温度に加熱することにより融点の低い希土類ハライドが気化し、融点の高い希土類オキシハライドは気化せずに残存するため、両者を分離することができる。
【0012】
他方、原料中にはカーボン系の不純物が存在することがあり、このような不純物も優れた特性の結晶の製造を困難にさせる原因の一つと考えられる。カーボン系不純物の具体例としては、例えば、脂肪族炭化水素などが挙げられる。カーボン系不純物は原料を溶融させると集積し合い、目視でも確認できる黒色の異物として表れることがある。このため結晶の透明性を悪くする原因にもなる。
【0013】
本発明者らは、シンチレータ用結晶の原料を真空蒸留法によって製造するに際し、希土類オキシハライドのみならず、カーボン系不純物の含有量をも十分に低減できる原料蒸留用器具の構造について鋭意検討を重ねた。その結果、カーボン系不純物などを十分に低減するには、気化した原料を屈曲した流路を通過させることが有効であることを見出し、以下の本発明を完成させた。
【0014】
すなわち、本発明に係る原料蒸留用器具は、シンチレータ用結晶の製造に使用する原料を蒸留するためのものであって、被処理原料を収容する原料収容部と、この原料収容部の加熱により気化した原料が固体の状態で付着する内壁面を有する原料固化部と、上記原料収容部と上記原料固化部とを連通する屈曲した流路を有する屈曲部とを備える。
【0015】
本発明に係る原料蒸留用器具を用いて被処理原料を蒸留処理することで、不純物の含有量が十分に少ない原料を得ることができる。例えば、希土類ハライド原料(被処理原料)が希土類オキシハライド及びカーボン系不純物を含有する場合、本発明に係る原料蒸留用器具内に被処理原料を投入し、真空引きしながら、被処理原料を溶融、蒸発させ、蒸発した原料を固化させることにより高純度の希土類ハライド原料を得ることができる。一般的に低い融点を有するハライドとそれに比べ高い融点を有するオキシハライドとを分離する場合、特に、上記のような真空蒸留法が適すると考えられる。
【0016】
一方、カーボン系不純物は、上述の通り、原料の溶融過程において集積する傾向があり、集積した不純物は器具内を浮遊するような挙動を示す。このことから、本発明に係る原料蒸留用器具においては、内部に屈曲した流路を設けたことで、当該流路でカーボン系不純物を効率的に捕獲することができる。
【0017】
本発明に係る原料蒸留用器具においては、屈曲部の流路は、当該原料蒸留用器具の長手方向の中心線に対して斜め方向に直線的に延び、その後所定の角度αで折れ曲り再度直線的に延びる部分を2箇所以上有することが好ましい。かかる構成を採用することにより、屈曲部の流路でカーボン系不純物をより確実に捕獲することできる。上記所定の角度α、すなわち、屈曲部の折れ曲った部分を形成する流路のなす角度は60〜100°であることが好ましい。
【0018】
本発明に係るシンチレータ用結晶の製造方法は、下記式(1)で表されるシンチレータ用結晶を製造するためのものであって、本発明に係る上記原料蒸留用器具の原料収容部に収容された被処理原料を加熱して気化させ、気化した原料を原料固化部の内壁面に固体の状態で付着させる蒸留工程と、原料固化部から回収した原料からシンチレータ用結晶を製造する結晶製造工程とを備える。
Ln(1−y)Ce …(1)
式中、Lnは希土類元素からなる群より選択される1種以上の元素を示し、Xはハロゲン元素からなる群より選択される1種以上の元素を示し、yは下記式(A):
0.0001≦y≦1 (A)
で表される条件を満足する数値を示す。
【0019】
本発明に係るシンチレータ用結晶の製造方法によれば、上記原料蒸留用器具を用いた蒸留工程を経た原料を使用するため、結晶製造工程において、不純物によってシンチレータ用結晶の製造が阻害されるといった問題を十分に回避することができる。このことにより、不純物の含有量が少なく優れた特性を有するシンチレータ用結晶を効率的に製造することができる。
【0020】
本発明に係るシンチレータ用結晶の製造方法によって製造するシンチレータ用結晶のLn(希土類元素)はLaであることが好ましい。希土類元素としてLaを用いることによって、より透明度の高い結晶が得られ且つ含有される蛍光賦活材(Ce)が更に効率よく蛍光するシンチレータを得ることができる。
【0021】
本発明に係るシンチレータ用結晶の製造方法によって製造するシンチレータ用結晶のX(ハロゲン元素)はBrであることが好ましい。ハロゲン元素としてBrを用いることによって、より効率よく蛍光するシンチレータを得ることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る原料蒸留用器具によれば、不純物の含有量が十分に少ない原料を得ることができる。また、本発明に係るシンチレータ用結晶の製造方法によれば、優れた特性を有するシンチレータ用結晶を効率的に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。また、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0024】
<原料蒸留用器具>
図1は、本実施形態に係る原料蒸留用器具を示す側面図である。同図に示す原料蒸留用器具10は、石英ガラス製の管状部材の一端が閉鎖されてなる容器である。原料蒸留用器具10は、被処理原料を収容する原料収容部12と、原料収容部12の加熱により気化した原料が固体の状態で付着する内壁面14aを有する原料固化部14と、原料収容部12と原料固化部14とを連通する屈曲した流路16aを有する屈曲部16とを備える。
【0025】
原料収容部12は、図1の矢印Aで示された部分であり、希土類オキシハライドやカーボン系不純物を含有する希土類ハライド原料(被処理原料)を収容する部分である。原料収容部12をヒータなどで加熱することにより、内部の被処理原料が溶融し、さらに温度を上げると気化する。
【0026】
原料固化部14は、図1の矢印Cで示された部分であり、原料収容部12で気化した希土類ハライドを固化させて収集する部分である。原料固化部14は内壁面14aを有しており、この面に希土類ハライドが固体の状態で徐々に付着する。
【0027】
図1に示すように、原料固化部14の上方には、直管部18が設けられている。直管部18は、図1の矢印Dで示された部分であり、原料蒸留用器具10内を減圧するための排気用開口18aに連通する流路18bを有する。直管部18の排気用開口18aに真空ポンプなどを接続することで、原料蒸留用器具10内を減圧できるようになっている。
【0028】
屈曲部16は、図1の矢印Bで示された部分であり、上記の原料収容部12と原料固化部14との間に設けられた部分である。屈曲部16は、原料収容部12内で気化した原料が通過する流路16aを有する。この流路16aは、図1に示すように、3箇所の折れ曲り部分16bを有しており、いわゆるクランク状に形成されている。屈曲した流路16aを気化した原料を通過させることで、流路16a内で原料に含まれるカーボン系不純物をひっかけるようにして捕獲することができる。なお、流路16aの折れ曲り部分16bの数は、3箇所に限定されるものではない。ただし、折れ曲り部分が1箇所の場合、2箇所以上の場合と比較し、カーボン系不純物を捕獲が不十分となりやすい。
【0029】
図2は、原料蒸留用器具10の屈曲部16を拡大して示す断面図である。同図に示すように、流路16aの折れ曲がり部分16bは、原料蒸留用器具10の長手方向の中心線に対して斜め方向に直線的に延び、その後所定の角度αで折れ曲り再度直線的に延びている。この角度αは60〜100°の範囲であることが好ましい。角度αが100°を超えると、屈曲部16におけるカーボン系不純物の捕獲が不十分となる傾向がある。他方、角度αが60°未満となるように折れ曲り部分16bを形成することは60°以上に形成する場合と比較し、ガラス加工の点で難しい傾向にある。
【0030】
原料蒸留用器具10の各部分のサイズは、被処理原料の処理量、処理条件(温度・圧力)などに応じて適宜設定すればよい。例えば、25g程度のCeBrを真空蒸留する場合には、原料蒸留用器具10の各部分のサイズは以下のようにすればよい。
【0031】
すなわち、原料収容部12は、内径35mm程度、図1の矢印Aで示す長さを70mm程度とすればよい。屈曲部16は、流路16aの内径8mm程度、外径10mm程度とすればよい。原料固化部14は、気体状の原料が固化するのに十分な内径及び長さを有していることが好ましく、原料収容部12よりも十分に長いことが好ましい。原料固化部14は、内径35mm程度、図1の矢印Cで示す長さを250mm程度とすればよい。直管部18の長さ及び形状は、排気用開口18aに接続する真空排気系の構造に応じて適宜設定することができ、外径10mm程度、内径8mm程度とすればよい。
【0032】
<シンチレータ用結晶の製造方法>
本実施形態に係るシンチレータ用結晶の製造方法は、下記式(1)で表されるシンチレータ用結晶を製造するためのものである。
Ln(1−y)Ce …(1)
ここで、上記式中、Lnは希土類元素からなる群より選択される1種以上の元素を示し、Xはハロゲン元素からなる群より選択される1種以上の元素を示し、yは下記式(A):
0.0001≦y≦1 …(A)
で表される条件を満足する数値を示す。
【0033】
シンチレータ用結晶としては、透明性が高く、比較的単結晶育成が容易であることと、蛍光賦活材が効率よく蛍光することが望まれることから、希土類元素Lnのうち、Laを最も好適に使用することができる。
【0034】
蛍光賦活材であるCeは、広い濃度範囲でシンチレータ用結晶に含有させることができ
る。例えば、式(A)のyが1の場合、一般式CeXで示される希土類ハライドシンチレータ用結晶となる。この場合、シンチレータ用結晶に他の蛍光賦活材を含有させる必要はない。
【0035】
シンチレータ用結晶中のCeの濃度は、一般式(1)のyの値で0.0001未満である場合、蛍光量が減少してしまう傾向がある。Ceの濃度は、一般式(1)のyの値で0.001〜0.1が好ましく、0.005〜0.5がより好ましい。
【0036】
一般式(1)のXはハロゲン元素からなる群より選択される1種以上の元素であり、具体的にはF、Cl、Br、I等を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。このうち、シンチレータ用結晶としては、透明性が高く、比較的単結晶育成が容易であることと、蛍光賦活材が更に効率よく蛍光することが望まれることから、Br元素が最も好適に使用できる。
【0037】
本実施形態に係るシンチレータ用結晶は、高い透明度のシンチレータを得る観点から、単結晶であることが好ましい。
【0038】
シンチレータ用単結晶の製造方法は、ハロゲン化物と蛍光賦活材との混合原料を加熱して熔融させたのち、冷却して結晶化するような、例えばブリッジマン法やチョクラルスキー法を用いることができる。以下、ブリッジマン法によって、シンチレータ用単結晶を製造する方法の一例を説明する。
【0039】
まず、シンチレータ用単結晶を製造するに先立ち、上述の原料蒸留用器具10を用いて所望の組成の被処理原料の蒸留処理を行う(蒸留工程)。この蒸留工程では原料蒸留用器具10の原料収容部12に収容された被処理原料を加熱して気化させ、気化した原料を原料固化部14の内壁面14aに蒸着させる。
【0040】
原料収容部12内の被処理原料を溶融するため、原料収容部12及び屈曲部16を管状炉内に入れて加熱することが好ましい。管状炉の温度は、シンチレータ用結晶の製造に使用する原料の沸点よりも高く、除去すべき不純物の沸点よりも低い温度に調整することが好ましい。例えば、シンチレータ用結晶の原料として使用するCeBr(融点733℃)を得る場合、管状炉の温度は1000℃程度とすればよい。管状炉内の温度が低すぎると、蒸留処理に長い時間を要する傾向があり、他方、管状炉内の温度が高すぎると、原料収容部12や屈曲部16の内部で対流が起こり分離された不純物(CeOBr)が原料固化部14に混入しやすくなる。
【0041】
蒸留工程を経ることにより、原料固化部14から回収した原料の含有量を十分に少なくすることができる。具体的には、原料の不純物含有量は、0.1質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以下であることがより好ましい。また、加水分解の進行を十分に抑制する観点から、回収した原料は乾燥状態を維持することが好ましい。
【0042】
次に、原料固化部14から回収した原料を使用し、ブリッジマン法によってシンチレータ用の単結晶を育成する(結晶製造工程)。図3は、ブリッジマン法に用いられる炉(VB炉)の構造を示す模式断面図である。
【0043】
図3に示すVB炉100は、原料2を収納し昇降方向に可動するるつぼ1と、るつぼ1の降下方向(図中矢印)に沿って温度勾配を形成するためのヒーター4と、るつぼ1を昇降方向に可動するためのシャフト6と、これらを取り囲む断熱部材5と、これら全てを外包する気密化可能な容器3とを備える。なお、容器3の側面には排気口3Aが設けられている。
【0044】
るつぼ1としては、1000℃程度の高温においても熔融しない、例えば石英ガラス、カーボン、白金等の材質のるつぼを用いることができる。このるつぼに、上記の蒸留工程を経て得た原料を投入することができる。
【0045】
るつぼ1として、例えば石英ガラス製の管を用いる場合、原料2が収容された管は1Pa以下の減圧状態にて封管し、アンプルとすることが好ましい。このようなアンプルは、原料蒸留用器具10の原料固化部14から回収した原料を収容する石英ガラス製の管を減圧下で封管することによって作製できる。あるいは、原料蒸留用器具10で原料の真空蒸留を行った後、不純物を含む原料が収容された原料収容部12を原料蒸留用器具10から切断し、不純物が低減された原料を収容する原料固化部14を含む部分を減圧下で封管することによってアンプルを作製してもよい。
【0046】
一方、カーボン製や白金製のるつぼを用いる場合は、使用するVB炉100を10−2Pa以下の減圧状態とするか、窒素などの不活性ガスで満たすことが好ましい。なお、VB炉100は、排気口3Aから排気して減圧状態で気密することができるような構造とすることができる。
【0047】
シンチレータ用単結晶の育成は、原料2を投入したるつぼ1をVB炉100内に設置し、原料2を800℃程度に加熱して熔融した後、るつぼ1を3℃/cm〜10℃/cmの温度勾配を有するVB炉内で徐々に降下(図3の矢印方向)させて冷却することによって行う。
【0048】
るつぼ1の降下速度は、クラックがなく、透明度の高い結晶を得易くする観点から、3mm/h以下が好ましく、1mm/h以下がより好ましく、0.5mm/h以下が更に好ましい。
【0049】
このようにして得られたシンチレータ用結晶は、光電子増倍管の光電面の外側に設けられてシンチレータとして機能する。放射線検出器は、これらシンチレータ及び光電子増倍管を備えるものである。このような放射線検出器は、公知の放射線検出器と同様に陽電子放出型断層撮像装置に組み込んで使用することができる。なお、光電子増倍管は公知のものであってもよく、放射線検出器及び陽電子放出型断層撮像装置におけるシンチレータ以外の部材は公知のものであってもよい。
【0050】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、上記実施形態においては、特に好ましいとして、原料蒸留用器具10を形成する材質として石英ガラスを例示したが、耐熱性を有するものであれば、セラミックスや金属などを採用してもよい。
【0051】
また、上記実施形態においては、図1に示す形状の原料蒸留用器具10を例示したが、蒸留処理の条件に応じて、適宜変更が可能である。例えば、屈曲部16の流路16aは、図2に示すようなクランク状に限らず、曲線状に湾曲したものであってもよい。
【0052】
更に、上記実施形態においては、被処理原料の蒸留法として減圧下にて行う真空蒸留法を例示したが、沸点が比較的低い原料の処理を行う場合などにあっては、大気圧下で原料蒸留用器具10による蒸留処理を行ってもよい。
【実施例】
【0053】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0054】
(実施例1)
図1と同様の形状の石英ガラス製の原料蒸留用器具を準備した。この原料蒸留用器具のサイズは表2に示す通りである。なお、表2における各部分の長さは、当該原料蒸留用器具の長手方向の長さを意味する。
【表2】

【0055】
被処理原料として、市販のLaBr(SIGMA ALDRICH社製、純度99.99%)25gを準備した。これを蒸留用器具の原料収容部に投入した後、1000℃で溶融しながら真空蒸留を行った。蒸留処理を施した後のLaBr原料を石英アンプル(内径10mm)に投入し、石英アンプル内を1Paに減圧して、その状態で密閉した。
【0056】
続いて、次の通りブリッジマン法による単結晶育成を行った。まず、ヒーターを800℃に加熱し、その加熱状態で石英アンプルを24時間保持することによって混合原料を溶融した。その後、石英アンプルを0.5mm/時間の速度で200時間下降させた。下降終了後、ヒーターの電源を切って、その位置、すなわち200時間かけて下降させた位置に石英アンプルを保持して室温まで徐冷し、単結晶を得た。
【0057】
次に、得られたシンチレータ用単結晶を目視に観察し、クラックの発生箇所の数及びカーボン系不純物が凝集して生じる黒色の異物の存否を確認した。目視による観察の結果、育成した結晶にクラックはなく、また、黒色の異物も存在しなかった。
【0058】
また、カーボン系不純物については、その含有量の分析を次のようにして行った。まず、単結晶に含まれるカーボン系不純物を低極性溶媒(塩化メチレン)で抽出した後、顕微FTIRを用いて脂肪族炭化水素の含有量を測定することにより、カーボン系不純物を部分的に定量化した。顕微FTIR測定の結果、脂肪族炭化水素の検出量は0.001質量%以下であった。
【0059】
(実施例2)
被処理原料として、LaBrの代わりに、市販のCeBr(SIGMA ALDRICH社製、純度99.99%)25gを真空蒸留処理し、この原料が減圧下(1Pa)にて収容された石英アンプル(内径10mm)を使用したことの他は、実施例1と同様にして単結晶の製造及びその評価を行った。目視による観察の結果、育成した結晶にクラックはなく、また、黒色の異物も存在しなかった。顕微FTIR測定の結果、脂肪族炭化水素の検出量は0.001質量%以下であった。
【0060】
(実施例3)
被処理原料として、市販のCeBr(SIGMA ALDRICH社製社製、純度99.99%)25gを準備した。これを蒸留用器具の原料収容部に投入した後、1000℃で溶融しながら真空蒸留を行った。この工程を計4回行うことによって、計100gの被処理原料の真空蒸留処理を行った。この原料が減圧下(1Pa)にて収容された石英アンプル(内径25mm)を使用したことの他は、実施例2と同様にして単結晶の製造及びその評価を行った。目視による観察の結果、育成した結晶にはクラックの発生箇所が2箇所認められたが、黒色の異物は存在しなかった。顕微FTIR測定の結果、脂肪族炭化水素の検出量は0.001質量%以下であった。
【0061】
(比較例1)
真空蒸留処理を行うことなく、市販のLaBr(SIGMA ALDRICH社製、純度99.99%)25gが減圧下(1Pa)にて収容された石英アンプル(内径10mm)を使用したことの他は、実施例1と同様にして単結晶の製造及びその評価を行った。目視による観察の結果、育成した結晶にはクラックの発生箇所が5箇所以上認められ、また、黒色の異物も目視で確認された。顕微FTIR測定の結果、脂肪族炭化水素の検出量は0.004質量%であった。
【0062】
(比較例2)
真空蒸留処理を行うことなく、市販のCeBr(SIGMA ALDRICH社製、純度99.99%)25gが減圧下(1Pa)にて収容された石英アンプル(内径10mm)を使用したことの他は、実施例2と同様にして単結晶の製造及びその評価を行った。目視による観察の結果、育成した結晶にはクラックの発生箇所が5箇所以上認められ、また、黒色の異物も目視で確認された。顕微FTIR測定の結果、脂肪族炭化水素の検出量は0.005質量%であった。
【0063】
(比較例3)
真空蒸留処理を行うことなく、市販のCeBr(SIGMA ALDRICH社製、純度99.99%)100gが減圧下(1Pa)にて収容された石英アンプル(内径25mm)を使用したことの他は、実施例3と同様にして単結晶の製造及びその評価を行った。目視による観察の結果、育成した結晶にはクラックの発生箇所が10箇所以上認められ、また、黒色の異物も目視で確認された。顕微FTIR測定の結果、脂肪族炭化水素の検出量は0.0040質量%であった。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明に係る原料蒸留用器具の好適な実施形態を示す側面図である。
【図2】図1に図示した原料蒸留用器具の屈曲部を拡大して示す断面図である。
【図3】ブリッジマン法に用いられる炉(VB炉)の構造を示す模式断面図である。
【符号の説明】
【0065】
1…るつぼ、2…原料、3…容器、3A…排気口、4…ヒーター、5…断熱部材、6…シャフト、10…原料蒸留用器具、12…原料収容部、14…原料固化部、14a…内壁面、16…屈曲部、16a…流路、18…直管部、100…VB炉。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シンチレータ用結晶の製造に使用する原料を蒸留するための原料蒸留用器具であって、
被処理原料を収容する原料収容部と、前記原料収容部の加熱により気化した原料が固体の状態で付着する内壁面を有する原料固化部と、前記原料収容部と前記原料固化部とを連通する屈曲した流路を有する屈曲部と、を備える原料蒸留用器具。
【請求項2】
前記屈曲部の流路は、当該原料蒸留用器具の長手方向の中心線に対して斜め方向に直線的に延び、その後所定の角度で折れ曲り再度直線的に延びる部分を2箇所以上有する、請求項1に記載の原料蒸留用器具。
【請求項3】
前記所定の角度は60〜100°である、請求項2に記載の原料蒸留用器具。
【請求項4】
下記式(1)で表されるシンチレータ用結晶の製造方法であって、
請求項1〜3のいずれか一項に記載の原料蒸留用器具の原料収容部に収容された被処理原料を加熱して気化させ、気化した原料を前記原料固化部の内壁面に固体の状態で付着させる蒸留工程と、
前記原料固化部から回収した原料から前記シンチレータ用結晶を製造する結晶製造工程と、
を備える、シンチレータ用結晶の製造方法。
Ln(1−y)Ce …(1)
(式中、Lnは希土類元素からなる群より選択される1種以上の元素を示し、Xはハロゲン元素からなる群より選択される1種以上の元素を示し、yは下記式(A):
0.0001≦y≦1 …(A)
で表される条件を満足する数値を示す。)
【請求項5】
上記式(1)においてLnで示される希土類元素がLaである、請求項4に記載のシンチレータ用結晶の製造方法。
【請求項6】
上記式(1)においてXで示されるハロゲン元素がBrである、請求項4又は5に記載のシンチレータ用結晶の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−256119(P2009−256119A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−104802(P2008−104802)
【出願日】平成20年4月14日(2008.4.14)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】