説明

双ロール式薄板鋳造工程により製造されたマルテンサイト系ステンレス鋼及びその製造方法

双ロール式薄板鋳造工程により製造されたマルテンサイト系ステンレス鋼及びその製造方法を提供する。双ロール式薄板鋳造工程により製造され、重量%で、C:0.1〜1.5%、Cr:12〜15%、Ni:1%以下、及びTi:0.005〜0.1%を含有し、残部がFe及びその他不可避的不純物からなり、粒界に析出した1次クロム化合物が分節及び微細化されている、耐クラック性に優れたマルテンサイト系ステンレス熱延鋼板及びその製造方法と、この熱延鋼板をバッチ焼鈍処理した後、冷間圧延して製造された、高硬度マルテンサイト系ステンレス冷延鋼板及びその製造方法を技術的要旨とする。本発明によれば、双ロール式薄板鋳造工程を適用し、粒界強化元素を添加することにより、鋳造の際に中心偏析、亀裂及び板破断を防止して鋳造安定性を確保するとともに、鋼内に均一に分布した微細組織を形成して、刃物類や工具類の製作の際に硬度が高く且つエッジ品質に優れた製品を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、双ロール式薄板鋳造工程により製造されたマルテンサイト系ステンレス鋼及びその製造方法に関し、より詳しくは、鋳造中に中心偏析、亀裂及び板破断を抑制して鋳造安定性を確保し、鋳造組織の微細化によって硬度が高く且つエッジ品質に優れた製品を製造することが可能なマルテンサイト系ステンレス鋼及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、マルテンサイト系ステンレス鋼は、耐食性、硬度及び耐磨耗性に優れて各種工具類や刃物類の製造に用いられる。
【0003】
このようなマルテンサイト系ステンレス鋼を連続鋳造工程によって製造する場合には、炭素添加量が高いほど鋳片中心部に粗大な中心偏析が激しく形成され、固液共存領域が広くて鋳造性に脆弱な問題がある。そのため、主にインゴットでスラブを製造した後、再加熱し熱間圧延して熱延コイルを生産し、バッチ焼鈍工程を経て酸洗処理した後、冷間圧延してマルテンサト系ステンレス鋼を製造している。
【0004】
ところが、上記インゴット鋳造法を用いる場合にも、遅い冷却速度のため、スラブに粗大な中心偏析が形成され、この中心偏析は後続の熱処理工程で十分に除去されないため、熱延鋼板に残留してストリップの切断過程で2枚割れ欠陥を伴い、粒界には粗大な1次クロム炭化物(炭化クロム)が析出して、後処理工程で鋼板に亀裂又は板破断が発生することがある。
【0005】
上記の問題点を解決するために、炭化物を固溶させるために熱間圧延の後にバッチ焼鈍工程(BAF、Batch Annealing Furnace)で焼鈍温度を高め、焼鈍時間を長時間維持する技術が公知になっているが、加熱炉の設備投資が必要であって生産コストが増大し、生産性が急減するという問題がある。
【0006】
さらに、低温鋳造及び低速鋳造方法も提案されているが、これらの方法は鋳片中心部に粒状の等軸晶組織を形成し、鋳片凝固層を速く形成させて中心偏析を減少させるが、鋳造中にノズルが詰まって操業が不安定で生産性が低下するという問題がある。
【0007】
したがって、鋳造の際に中心偏析が抑制され、且つ粒界に1次クロム炭化物を微細に析出させて、優れた耐クラック性により鋳造安定性が確保された、高品質のマルテンサイト系ステンレス鋼及びその製造方法に関する開発が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる問題点を解決するためになされたもので、その目的は、双ロール式薄板鋳造工程を適用し粒界強化元素を添加することにより、中心偏析、亀裂及び板破断が抑制されて鋳造安定性が確保された、耐クラック性に優れたマルテンサイト系ステンレス熱延鋼板及びその製造方法と、鋼内に均一に分布した微細組織を形成して、刃物類や工具類の製作の際に硬度が高く且つエッジ品質に優れた高硬度マルテンサイト系ステンレス冷延鋼板及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、双ロール式薄板鋳造工程により製造され、重量%で、C:0.1〜1.5%、Cr:12〜15%、Ni:1%以下、Ti:0.005〜0.1%を含有し、残部がFe及びその他不可避的不純物からなり、粒界に析出した1次クロム化合物が分節及び微細化されている、耐クラック性に優れたマルテンサイト系ステンレス熱延鋼板を提供する。
【0010】
この際、前記マルテンサイト系ステンレス熱延鋼板は、重量%で、Mo:0.005〜0.1%及びV:0.005〜1.0%を単独或いは組み合わせてさらに添加してなってもよい。
【0011】
また、前記1次クロム炭化物は0.5μm以下の厚さを有してもよい。
【0012】
また、前記マルテンサイト系ステンレス熱延鋼板は中心気孔が除去されていてもよい。
【0013】
また、前記マルテンサイト系ステンレス熱延鋼板の断面組織における等軸晶率は5〜30%であってもよい。
【0014】
本発明は、双ロール式薄板鋳造工程により製造され、重量%で、C:0.1〜1.5%、Cr:12〜15%、Ni:1%以下、Ti:0.005〜0.1%を含有し、残部がFe及びその他不可避的不純物からなり、球状の2次クロム炭化物が微細に分布している、高硬度マルテンサイト系ステンレス冷延鋼板を提供する。
【0015】
この際、前記マルテンサイト系ステンレス冷延鋼板は、重量%で、Mo:0.005〜0.1%及びV:0.005〜1.0%を単独或いは組み合わせてさらに添加してなってもよい。
【0016】
また、前記2次クロム炭化物は、サイズが5μm以下であり、前記サイズを有するクロム炭化物が100μmの面積当たり30個以上存在してもよい。
【0017】
前記マルテンサイト系ステンレス冷延鋼板は100〜300Hvの硬度を有してもよい。
【0018】
本発明は、双ロール式薄板鋳造工程において、重量%で、C:0.1〜1.5%、Cr:12〜15%、Ni:1%以下、Ti:0.005〜0.1%を含有し、残部がFe及びその他不可避的不純物からなる溶鋼を注入して薄板を鋳造する段階と、前記薄板をインライン圧延器によって5〜50%の圧延率で圧延して熱延鋼板を製造する段階と、前記熱延鋼板を還元性ガス雰囲気中で650〜950℃の温度でバッチ焼鈍処理した後、冷間圧延を行う段階とを含み、前記冷間圧延は数回繰り返し行い、前記冷間圧延の間に中間焼鈍を行う、高硬度マルテンサイト系ステンレス冷延鋼板の製造方法を提供する。
【0019】
ここで、前記溶鋼に重量%でMo:0.005〜0.1%及びV:0.005〜1.0%を単独或いは組み合わせてさらに添加してもよい。
【発明の効果】
【0020】
上述した本発明によれば、双ロール式薄板鋳造工程を適用し粒界強化元素を添加することにより、鋳造の際に中心偏析、亀裂及び板破断を防止して鋳造安定性を確保し、鋼内に均一に分布した微細組織を形成して刃物類や工具類の製作の際に硬度が高く且つエッジ品質が優れた製品を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】双ロール式薄板鋳造工程の構成図である。
【図2】鋳造中のマルテンサイト系ステンレス鋼の亀裂発生を示す写真である。
【図3】鋳造中のマルテンサイト系ステンレス鋼の亀裂破断面を示す写真である。
【図4】マルテンサイト系ステンレス鋼の粒界に析出した1次クロム炭化物を示す写真である。
【図5】マルテンサイト系ステンレス鋼の平衡状態図である。
【図6】マルテンサイト系ステンレス鋼のTi含量による等軸晶率及び亀裂発生を示すグラフである。
【図7】マルテンサイト系ステンレス鋼の熱間圧延の圧延率による断面組織における中心気孔写真であって、(a)は熱間圧延を適用していないときの写真、(b)は熱間圧延を25%の圧延率で適用したときの写真である。
【図8】マルテンサイト系ステンレス熱延鋼板のTi含量による結晶粒の粒径を示す写真である。
【図9】マルテンサイト系ステンレス熱延鋼板のTi含量による粒界に析出した1次クロム炭化物を示す写真である。
【図10】本発明に係るマルテンサイト系ステンレス冷延鋼板の2次クロム炭化物の分布を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に添付図面を参照しながら、本発明のマルテンサイト系ステンレス鋼について詳細に説明する。
【0023】
本発明に係る耐クラック性に優れたマルテンサイト系ステンレス熱延鋼板は、双ロール式薄板鋳造工程を用いて製造される。図1に示すように、双ロール式薄板鋳造工程は、回転する一対の鋳造ロール3の間に溶鋼4を供給し、その溶鋼から直接厚さ数mmの薄板製品を連続的に製造する設備である。
【0024】
すなわち、反対方向に回転しながら冷却する鋳造ロール3の間に、ノズル2を介して注入された所定の成分を有する溶鋼4が凝固して凝固シェルを形成し、ロールニップで圧下されて薄板7が製造される。このように製造された薄板7は、ピンチロール10によって案内され、インライン圧延器(IRM)11内の圧延ロールによって圧延されてマルテンサイト系ステンレス熱延鋼板に製造される。
【0025】
従来の連続鋳造工程又はインゴット鋳造法によってマルテンサイト系ステンレス鋼を製造する場合には、中心偏析が形成されて線状欠陥又は板状分離が発生し、粒界に粗大な1次クロム炭化物が析出して、後処理工程で鋼板に亀裂又は板破断が発生するという問題がある。しかし、上記双ロール式薄板鋳造工程によってマルテンサイト系ステンレス鋼を製造する場合には、ロールニップ付近の溶鋼が圧下されながら圧搾流動が発生して、中心部の溶質の濃縮が発生する区間の溶鋼が圧出されながら中心偏析が除去されるうえ、溶鋼が凝固する冷却速度が速くて粒界の結晶粒が微細化されて1次クロム炭化物の析出物が低減するので、鋳造の際に中心偏析及び亀裂を抑制して鋳造安定性を確保することができる。
【0026】
このように、上記双ロール式薄板鋳造工程によって製造されたマルテンサイト系ステンレス鋼は、従来の鋳造法に比べて中心偏析が除去され、図4に示すように、粒界に1次クロム炭化物が微細に析出して亀裂及び板破断が抑制されるが、図2及び図3の写真に示すように、この1次クロム炭化物は鋳造の際に亀裂及び板破断の発生原因として作用しうるので、粒界強化元素などを添加してその影響度を最大限抑制しなければならない。
【0027】
本発明のマルテンサイト系ステンレス鋼は、重量%で、C:0.1〜1.5% 、Cr:12〜15%、Ni:1%以下、Ti:0.005〜0.1%を含有し、残部がFe及びその他不可避的不純物からなる。この際、重量%で、Mo:0.005〜0.1%及びV:0.005〜1.0%を単独或いは組み合わせてさらに添加してもよい。
【0028】
上述した成分の組成範囲の限定理由は次のとおりである。
【0029】
上記Cは、ステンレス鋼の硬度向上に非常に効果的な元素であって、Cの含量が0.1重量%未満であれば、マルテンサイト系ステンレス鋼に要求される硬度を確保することができず、Cの含量が1.5重量%超過であれば、比較的粗大な1次クロム炭化物を形成して亀裂敏感度が増加し、耐食性を減少させる。よって、Cの含量は0.1〜1.5重量%に限定する。
【0030】
上記Crは、耐食性の向上のために添加するが、Crの含量が12重量%未満であれば、耐食性向上効果が微々たるものであり、Crの含量が15重量%超過であれば、耐食性は向上するが、強度が高く、延伸率が低くて加工性が低下し、相対的に高い費用が求められる。よって、Crの含量は12〜15重量%に限定する。
【0031】
上記Niは、γ相生成元素であって、多く添加するとγ相が増加し、熱間圧延後にコイルを空冷する場合、マルテンサイト相の生成が促進されて強度及び硬度が増加する反面、延伸率が低下するので、Niの含量は1重量%以下に限定することが好ましい。
【0032】
上記Tiは、粒界強化元素であって、粒界の1次クロム炭化物を分節させ或いは微細に析出させて亀裂及び板破断を抑制する。Tiの含量が0.005重量%未満であれば、鋼板の亀裂及び板破断抑制効果が微々たるものであり、Tiの含量が0.1重量%超過であれば、Ti系酸化物によりタンディッシュのストッパーが詰まる目詰まり現象が発生して鋳造に問題が発生するので、Tiの含量は0.005〜0.1重量%に限定する。
【0033】
上記Mo及びVは単独で或いは組み合わせて含有でき、粒界の強化と耐食性の向上のために0.005重量%以上含有されることが好ましいが、0.1重量%を超過すれば靱性が低下するので、Mo、Vの含量は0.005〜0.1重量%に限定する。
【0034】
図8及び図9に示すように、双ロール式薄板鋳造工程によって鋳造された薄板をインライン圧延器で圧延して製造された、上記組成を有するマルテンサイト系ステンレス熱延鋼板は、粒界に析出した1次クロム炭化物が帯状であり、結晶粒が微細化されており、分節されて断続的に分布することにより粒界が強化されて鋳造の際にクラック及び板破断が抑制され、これにより完鋳率が向上する。
【0035】
この際、上記1次クロム炭化物は、0.5μm以下の厚さを有し、主に0.05〜0.30μmサイズの帯状の微細結晶粒として分布している。
【0036】
上記マルテンサイト系ステンレス熱延鋼板は、インライン圧延器によって熱間圧延の際に5〜50%の圧延率で圧延することにより、図7(b)のように中心気孔が除去されて気孔による脆化現象が抑制され、延伸率を確保することができる。
【0037】
また、図6のグラフに示すように、Tiの添加量が増加するほど上記マルテンサイト系ステンレス熱延鋼板の断面組織における等軸晶率は増加することが分かる。上記等軸晶率が拡大すると、中心偏析が減少し、クラックが除去される効果がある。上記グラフより、5%以上の等軸晶率を確保した場合には鋳造の際にクラックが大きく減少し、上記等軸晶率が7%以上の場合にはクラックが全て除去されることを確認することができる。
【0038】
ここで、上記等軸晶率が5%未満と低い場合には、柱状晶組織が互いに衝突してクラック発生が容易になり、不均一凝固生成の際にクラック発生がさらに増加する問題があり、上記等軸晶率30%超過は技術的に確保することが難しい。
【0039】
一方、本発明は、上記耐クラック性マルテンサト系ステンレス熱延鋼板をバッチ焼鈍処理した後、冷間圧延して製造された高硬度マルテンサイト系ステンレス冷延鋼板にもその特徴があり、重量%で、Mo:0.005〜0.1%及びV:0.005〜1.0%を単独或いは組み合わせてさらに添加してもよい。
【0040】
上記マルテンサイト系ステンレス冷延鋼板は、図10に示すように、2次クロム炭化物が球状に形成され、微細に均一に分布しており、高硬度のマルテンサイト系ステンレス冷延鋼板を提供することができ、工具類や刃物類の製造の際にエッジ品質に優れた製品を生産することができる。
【0041】
この際、上記2次クロム炭化物は、5μm以下のサイズを有するが、大部分は0.1〜3.0μmの直径で均一に分布している。また、5μm以下のサイズを有するクロム炭化物は、100μmの面積当たり30個以上存在する微細組織を形成することにより、100〜300Hvの高硬度を有し、工具類や刃物類の製造の際にエッジ品質に優れたマルテンサイト系ステンレス冷延鋼板を製造することができる。
【0042】
以下、添付図面を参照して、本発明に係るマルテンサイト系ステンレス鋼の製造方法について詳細に説明する。
【0043】
反対方向に回転しながら冷却する鋳造ロール3の間にノズル2を介してC:0.1〜1.5%、Cr:12〜15%、Ni:1%以下、Ti:0.005〜0.1%を含有し、残部がFe及びその他不可避的不純物からなる溶鋼を注入し、凝固させて凝固シェルを形成し、ロールニップで圧下して薄板を製造する。この際、上記溶鋼には、重量%で、Mo:0.005〜0.1%及びV:0.005〜1.0%を単独或いは組み合わせてさらに添加してもよい。
【0044】
このように製造された薄板7は、ピンチロール10によって案内され、インライン圧延器(IRM)11内の圧延ロールによって熱間圧延されてマルテンサイト系ステンレス熱延鋼板に製造される。この際、上記熱間圧延を適用していないときは、バッチ焼鈍の後に延伸率が確保されないため、後工程としての酸洗及び冷延工程を行うことが難しい程度に脆化するので、本発明に係る製造方法では熱間圧延を必須的に行う。
【0045】
この際、圧延率5〜50%で圧延することが好ましいが、これは、圧延率が5%未満の場合には中心に気孔が生成してこの気孔により鋼板が脆化し、延伸率が低いという問題があり、圧延率が50%超過の場合には設備構成上費用が増加するためである。
【0046】
図7はマルテンサイト系ステンレス鋼の熱間圧延の圧延率による断面組織における中心気孔の写真を比較したものであって、図7(a)のように熱間圧延を適用していないときは等軸晶領域に気孔が生成し、図7(b)のように圧延率25%を適用したときは等軸晶領域に気孔が全て除去されることを確認することができる。
【0047】
このように双ロール式薄板鋳造工程で製造された熱延鋼板は、クロム炭化物の固溶を安定化させるために、バッチ焼鈍(BAF)工程を行う。本来、熱間圧延された状態で、鋼の組織はマルテンサイト相、焼き戻しマルテンサイト、フェライト相などが混在するが、上記バッチ焼鈍工程を経て、高強度の炭素が過飽和しているマルテンサイト相をフェライトとクロム炭化物に分解して材質を軟質化させることにより、加工性を向上させる。
【0048】
上記バッチ焼鈍工程は、還元性ガス雰囲気中で650〜950℃の焼鈍温度で徐々に加熱維持され、さらにゆっくりバッチ形態の炉で冷却する。
【0049】
この際、上記焼鈍温度が650℃未満であれば、熱処理効果が微々たるもので軟性が確保されないため、後工程で亀裂又は板破断が発生する可能性があり、焼鈍温度が950℃超過であれば、再固溶したクロム炭化物の析出が過度であって局部的に析出物の大きさが大きくなり、材質が過度に軟質化してクロム炭化物の制御が困難であるため、焼鈍温度は650〜950℃に限定した。
【0050】
上記バッチ焼鈍工程で熱処理を済ませた鋼板は、酸洗処理した後、冷間圧延を行うことにより、マルテンサイトステンレス鋼に変態する。ここで、上記冷間圧延は数回繰り返し行い、上記冷間圧延の間に中間焼鈍を施すことにより、再分解された球状の2次クロム炭化物を微細且つ均一に分布させて高硬度のマルテンサイト系ステンレス冷延鋼板を製造することができる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0052】
下記表1に示した成分と残部Fe及びその他不純物からなるマルテンサイト系ステンレス鋼を鋳造幅1300mm、鋳造厚さ2mmにして100トンずつ薄板に鋳造し、インライン圧延器で熱間圧延して厚さ1〜2mmの熱延鋼板を連続製造した。その結果を調べて表2に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
*クラック発生状態:○(不良)、△(良好)、×(発生せず)
*タンディッシュストッパー状態:○(詰まり)、△(良好)、×(優秀)
【0056】
上記表1及び表2に示すように、粒界強化元素Tiなどの成分を始めとした鋼成分の含量が本発明の範囲に該当する発明鋼1〜8は、1次クロム炭化物が0.5μm以下の厚さで粒界に微細に析出し、等軸晶率は5〜30%を確保してクラックが発生しないか或いはクラック発生状態が良好であり、タンディッシュストッパーが詰まる状態も発生しないため、鋳造性にも優れた。
【0057】
ところが、Tiが添加されていない或いは微量添加された比較鋼1〜3は粒界に沿って亀裂が伝播してクラックが発生し、Tiが過度に添加された比較鋼4及び5はクラックが発生していないが、Ti系酸化物により目詰まり現象が現れて鋳造適用が困難であることを確認することができた。
【0058】
また、表2に示すように、発明鋼1〜8のように熱間圧延の際に圧延率を5〜50%適用したときは、中心部に気孔が除去されて脆化現象が抑制され、延伸率を確保することができることを確認することができた。
【0059】
このように製造されたマルテンサイト系ステンレス熱延鋼板は、酸洗処理された後、650〜950℃で長時間バッチ焼鈍し、数回冷間圧延を繰り返し行い、これら冷間圧延の間に中間焼鈍を施した。その結果、図10のマルテンサイト系ステンレス冷延鋼板の2次クロム炭化物の分布写真に示すように、クロム炭化物が球状に析出して微細かつ均一に分布している。このような微細組織において直径5μm以上のクロム炭化物は観察されておらず、この微細組織を有するマルテンサト系ステンレス鋼は、硬度100〜300Hvと非常に優れるから、工具類や刃物類を製造する場合、エッジ品質に優れた製品を製造することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 タンディッシュ
2 ノズル
3 鋳造ロール
4 溶鋼
5 エッジダム
6 ブラシロール
7 薄板
8 ループピット
9 メニスカスシールド
10 ピンチロール
11 インライン圧延器(IRM)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
双ロール式薄板鋳造工程により製造され、重量%で、C:0.1〜1.5%、Cr:12〜15%、Ni:1%以下、及びTi:0.005〜0.1%を含有し、残部がFe及びその他不可避的不純物からなり、粒界に析出した1次クロム化合物が分節及び微細化されている、耐クラック性に優れたマルテンサイト系ステンレス熱延鋼板。
【請求項2】
前記マルテンサイト系ステンレス熱延鋼板は、重量%で、Mo:0.005〜0.1%及びV:0.005〜1.0%を単独或いは組み合わせてさらに添加してなる、請求項1に記載の耐クラック性に優れたマルテンサイト系ステンレス熱延鋼板。
【請求項3】
前記1次クロム炭化物は0.5μm以下の厚さを有する、請求項1に記載の耐クラック性に優れたマルテンサイト系ステンレス熱延鋼板。
【請求項4】
前記マルテンサイト系ステンレス熱延鋼板は中心気孔が除去された、請求項1に記載の耐クラック性に優れたマルテンサイト系ステンレス熱延鋼板。
【請求項5】
前記マルテンサイト系ステンレス熱延鋼板の断面組織における等軸晶率は5〜30%である、請求項1に記載の耐クラック性に優れたマルテンサイト系ステンレス熱延鋼板。
【請求項6】
双ロール式薄板鋳造工程により製造され、重量%で、C:0.1〜1.5%、Cr:12〜15%、Ni:1%以下、及びTi:0.005〜0.1%を含有し、残部がFe及びその他不可避的不純物からなり、球状の2次クロム炭化物が微細に分布している、高硬度マルテンサイト系ステンレス冷延鋼板。
【請求項7】
前記マルテンサイト系ステンレス冷延鋼板は、重量%で、Mo:0.005〜0.1%及びV:0.005〜1.0%を単独或いは組み合わせてさらに添加してなる、請求項6に記載の高硬度マルテンサイト系ステンレス冷延鋼板。
【請求項8】
前記2次クロム炭化物は、5μm以下のサイズを有し、前記サイズを有するクロム炭化物が100μmの面積当たり30個以上存在する、請求項6に記載の高硬度マルテンサイト系ステンレス冷延鋼板。
【請求項9】
前記マルテンサイト系ステンレス冷延鋼板は100〜300Hvの硬度を有する、請求項6に記載の高硬度マルテンサイト系ステンレス冷延鋼板。
【請求項10】
双ロール式薄板鋳造工程において、重量%で、C:0.1〜1.5%、Cr:12〜15%、Ni:1%以下、Ti:0.005〜0.1%を含有し、残部がFe及びその他不可避的不純物からなる溶鋼を注入して薄板を鋳造する段階と、
前記薄板をインライン圧延器によって5〜50%の圧延率で圧延して熱延鋼板を製造する段階と、
前記熱延鋼板を還元性ガス雰囲気中で650〜950℃の温度でバッチ焼鈍処理した後、冷間圧延を行う段階とを含み、
前記冷間圧延は数回繰り返し行い、前記冷間圧延の間に中間焼鈍を施す、高硬度マルテンサイト系ステンレス冷延鋼板の製造方法。
【請求項11】
前記溶鋼に、重量%で、Mo:0.005〜0.1%及びV:0.005〜1.0%を単独或いは組み合わせてさらに添加する、請求項10に記載の高硬度マルテンサイト系ステンレス冷延鋼板の製造方法。

【図1】
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【図5】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2013−512347(P2013−512347A)
【公表日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−541964(P2012−541964)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際出願番号】PCT/KR2010/009004
【国際公開番号】WO2011/081331
【国際公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(592000691)ポスコ (130)
【Fターム(参考)】