説明

反射防止フィルム

【課題】単層構成で十分な反射防止性能を有し、かつ密着性及び耐擦傷性に優れた生産性の高い反射防止フィルムを提供する。
【解決手段】反射防止フィルムは、透明基材フィルムの表面に易接着層を介して低屈折率層が積層されて構成されている。そして、易接着層は屈折率が1.50〜1.65で厚みが1〜50nmに設定されていると共に、低屈折率層は屈折率が1.20〜1.50に設定されている。低屈折率層は、平均粒子径が10〜100nmの中空シリカ微粒子と重合性バインダーとを含有する低屈折率層塗布液を硬化させて形成される。また、低屈折率層の厚みは、kλ/4(但し、λは光の波長400〜650nm、kは1又は3)であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばプラズマディスプレイパネル(PDP)、液晶ディスプレイパネル(LDP)等に適用され、反射防止層が単層構成で十分な反射防止性能を発揮することができると共に、密着性及び耐擦傷性に優れている反射防止フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラズマディスプレイパネル、液晶ディスプレイ等の電子画像表示装置(電子ディスプレイ)は、テレビやモニター用途として著しい進歩を遂げ、広く普及している。これら電子画像表示装置は、大型化に伴い、外光の映り込みによる視認性の低下が問題となっている。そのため、透明基材フィルムの表面に反射防止層を設けて形成された反射防止フィルムをディスプレイ表面に貼り合わせ、視認性を高める方法が一般的に採用されている。
【0003】
従来この反射防止フィルムに備えられる反射防止層は、反射防止性能を得るために、高屈折率層と低屈折率層とを複数層積層させた多層構成が一般的であったが、より低屈折率である材料を用いれば、低屈折率層だけの単層構成でも、広波長域において反射を抑えることが可能となる。また、単層構成の反射防止フィルムは、多層構成の反射防止フィルムに比べて層構成が簡易であるため、生産性の点で優れている。
【0004】
例えば、単層構成の反射防止フィルムとしては、100〜300nmのシリカ粒子と、該シリカ粒子の粒径よりも小さな粒径を持つコロイダルシリカとの混合物により形成された細密充填塗膜が知られている(特許文献1を参照)。この細密充填塗膜によれば、簡単な方法で、超微粒子を基板上に一層だけ高密度に規則正しく配列された塗膜、特に反射防止膜に適した塗膜を形成することができる。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された該細密充填塗膜では、100nm以上という大きなシリカ粒子を含むことから、そのシリカ粒子が塗膜の表面に露出し、塗膜表面の耐擦傷性が悪く、基板に対する密着性が明らかに不十分であった。従って、反射防止層が単層構成で十分な反射防止性能を有し、かつ密着性及び耐擦傷性に優れた生産性の高い反射防止フィルムが求められている。
【0006】
また、反射防止フィルムの構成として、透明基材フィルム上に紫外線硬化型樹脂、電子線硬化型樹脂などの電離放射線硬化型樹脂を用いた透明(クリア)なハードコート層を設けることが一般的である。しかし、透明基材フィルムとして主に使用されているポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの屈折率は1.65であり、また、通常使用されるハードコート層の屈折率は1.50〜1.55であるために、PETフィルムとハードコート層との間には0.10〜0.15の屈折率差が生じる。このように、屈折率の異なる層の界面では光の反射が発生するため、両者の界面で生じる反射光の干渉によって、蛍光灯などの下でフィルムをみると虹色の干渉縞が観察される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−198904号公報(第2頁及び第4頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明の目的とするところは、単層構成で十分な反射防止性能を有し、かつ密着性及び耐擦傷性に優れた生産性の高い反射防止フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するために、第1の発明の反射防止フィルムは、透明基材フィルムの表面に易接着層を介して低屈折率層が積層されて構成されている。そして、前記易接着層は屈折率が1.50〜1.65で厚みが1〜50nmであると共に、低屈折率層は屈折率が1.20〜1.50であることを特徴とする。
【0010】
第2の発明の反射防止フィルムは、第1の発明において、易接着層が導電性易接着層であることを特徴とする。
第3の発明の反射防止フィルムは、第2の発明において、導電性易接着層がポリチオフェン骨格を有する導電性化合物を含むことを特徴とする。
【0011】
第4の発明の反射防止フィルムは、第1から第3のいずれか1項の発明において、低屈折率層は、平均粒子径が10〜100nmの中空シリカ微粒子と重合性バインダーとを含有する低屈折率層塗布液を硬化させて形成されるものであることを特徴とする。
【0012】
第5の発明の反射防止フィルムは、第1から第4のいずれか1項の発明において、低屈折率層の光学膜厚はkλ/4(但し、λは光の波長400〜650nm、kは1又は3)であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、次のような効果を発揮することができる。
本発明の反射防止フィルムは、透明基材フィルムの表面に易接着層を介して低屈折率層が積層されて構成され、易接着層は屈折率が1.50〜1.65で厚みが1〜50nmに設定されていると共に、低屈折率層は屈折率が1.20〜1.50に設定されている。このため、低屈折率層の機能により反射防止作用が発現され、また易接着層の厚みが薄く設定されていることからその反射防止作用が妨げられることなく有効に発現される。さらに、低屈折率層の屈折率が易接着層の屈折率以下に設定されていることから、低屈折率層の反射防止作用が一層有効に働く。その上、易接着層により透明基材フィルムに対する低屈折率層の密着性を高めることができると共に、耐擦傷性の向上に寄与することができる。
【0014】
従って、本発明の反射防止フィルムは単層構成で十分な反射防止性能を有し、かつ密着性及び耐擦傷性に優れると共に、生産性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本実施形態の反射防止フィルムは、透明基材フィルムの表面に易接着層を介して低屈折率層が積層されて構成されている。そして、前記易接着層は屈折率が1.50〜1.65で厚みが1〜50nmに設定されると共に、低屈折率層は屈折率が1.20〜1.50に設定されている。次に、この反射防止フィルムの構成要素について順に説明する。
<透明基材フィルム>
反射防止フィルムに用いられる透明基材フィルムは、透明性を有している限り特に制限されないが、光の反射を抑えるため、屈折率(n)が1.55〜1.70の範囲内のものが好ましい。そのような透明基材フィルムを形成する材料としては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET、n=1.65)等のポリエステル、ポリカーボネート(PC、n=1.59)、ポリアリレート(PAR、n=1.60)及びポリエーテルスルフォン(PES、n=1.65)等が好ましい。これらのうち、ポリエステルフィルム特にポリエチレンテレフタレートフィルムが成形の容易性、入手の容易性及びコストの点で好ましい。
【0016】
また、透明基材フィルムの厚みは、好ましくは25〜400μm、さらに好ましくは50〜200μmである。透明基材フィルムの厚みが25μmより薄い場合や400μmより厚い場合には、反射防止フィルムの製造時及び使用時における取り扱い性が低下して好ましくない。なお、透明基材フィルムには、各種の添加剤が含有されていてもよい。そのような添加剤として例えば、紫外線吸収剤、帯電防止剤、安定剤、可塑剤、滑剤、難燃剤等が挙げられる。
<易接着層>
反射防止フィルムの易接着層は、透明基材フィルムに対する低屈折率層の密着性を高めるため、すなわち透明基材フィルムに対する低屈折率層の密着を容易にするための層である。この易接着層を形成する材料は特に制限されず、例えばポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂が用いられる。易接着層は導電性易接着層であってもよい。また、易接着層は、透明基材フィルムの製造時に公知の方法で透明基材フィルム表面に形成することができ、或いは予め易接着層が形成された透明基材フィルムの市販品を使用することもできる。
【0017】
導電性易接着層はポリチオフェン骨格を有する導電性化合物、ポリピロール、4級アンモニウム塩基、有機スルホン酸塩、界面活性剤や導電性微粒子などをバインダーに分散させた導電性材料により形成される。導電性微粒子としては、例えばインジウム、亜鉛、スズ、モリブデン、アンチモン、ガリウムなどの酸化物或いは複合酸化物微粒子、銅、銀、ニッケル、低融点合金(ハンダなど)の金属微粒子、金属を被覆したポリマー微粒子、各種のカーボンブラック、ポリピロール、ポリアニリンなどの導電性ポリマー粒子、金属繊維、炭素繊維等の導電剤が用いられる。
【0018】
このような導電性材料を含む導電性易接着層の表面抵抗率は好ましくは1×1012Ω/□以下、より好ましくは1×1010Ω/□以下、特に好ましくは1×10Ω/□以下である。表面固有抵抗が1×1012Ω/□より高い場合には、塗布面上に低屈折率層を積層する場合に、塵埃等の異物付着防止性やハンドリング性が悪化し、より精巧な積層を十分に行うことができない場合があるため好ましくない。
【0019】
該易接着層の屈折率は1.50〜1.65であり、好ましくは1.55〜1.60である。易接着層の屈折率が1.50を下回る場合又は1.65を上回る場合には、光の干渉むらが発生する結果を招き、反射率が高くなって不適当である。
【0020】
また、この易接着層の厚みは1〜50nmであり、好ましくは1〜30nmであり、さらに好ましくは5〜25nmである。易接着層の厚みが1nmより薄い場合には、透明基材フィルムと低屈折率層との密着性が不足する。その一方、50nmより厚い場合には、反射防止フィルムは光学干渉を受けるようになるため反射率が高くなって不適当である。
<低屈折率層>
反射防止フィルムの低屈折率層は、反射を抑制する反射防止層として機能する層である。この低屈折率層は、例えば平均粒子径が10〜100nmの中空シリカ微粒子と重合性バインダーとを含有する低屈折率層塗布液を硬化させて形成される。
【0021】
この低屈折率層の屈折率は1.20〜1.50であり、好ましくは1.25〜1.45である。低屈折率層の屈折率が1.20未満の場合には、重合性バインダーの含有量が少ないため、低屈折率層は十分な塗膜強度を持つことが難しくなる。その一方、屈折率が1.50を超える場合には、低屈折率層が十分な反射防止性能を発現することができなくなる。
【0022】
低屈折率層を形成する成分である前記中空シリカ微粒子は、シリカ(二酸化珪素、SiO)がほぼ球状に形成され、その外殻内に中空部を有する微粒子である。中空シリカ微粒子の平均粒子径は、好ましくは10〜100nm、より好ましくは20〜60nmである。中空シリカ微粒子の平均粒子径が10nmより小さい場合、中空シリカ微粒子の製造が難しくなって好ましくない。一方、平均粒子径が100nmより大きい場合、低屈折率層における光の散乱が大きくなり、薄膜においては反射が大きくなり、反射防止機能が低下する。
【0023】
この中空シリカ微粒子は、有機溶剤に分散された市販のものをそのまま使用することができ、或いは市販の各種シリカ粉体を有機溶剤に分散して使用することもできる。該中空シリカ微粒子は、例えば特開2006−21938号公報に開示された、外殻内部に空洞を有する中空で球状のシリカ系微粒子の製造方法により合成することもできる。すなわち、シリカ系微粒子は下記の工程(a)、(b)、(d)及び(e)を経て製造される。
【0024】
工程(a):珪酸塩の水溶液又は酸性珪酸液と、アルカリ可溶の無機化合物水溶液とをアルカリ水溶液中に所定の比率で添加して複合酸化物微粒子分散液を調製する際に電解質塩を添加する工程。
【0025】
工程(b):前記複合酸化物微粒子分散液に酸を加えてシリカ系微粒子分散液とする工程。
工程(d):前記シリカ系微粒子分散液を常温〜300℃の範囲で熟成する工程。
【0026】
工程(e):50〜300℃の範囲で水熱処理する工程。
次に、低屈折率層を形成する成分である前記重合性バインダーは、含フッ素有機化合物の単体又は混合物である。また、重合性バインダーとしてフッ素を含まない有機化合物(以下、非フッ素系有機化合物と略記する)の単体若しくは混合物又は重合体を用いることができる。
【0027】
含フッ素有機化合物としては、例えば1−(メタ)アクリロイロキシ−1−パーフルオロアルキルメタン、1−(メタ)アクリロイロキシ−2−パーフルオロアルキルエタン、1,10−ビスアクリロイルオキシ−1,1,10,10−テトラヒドロパーフルオロデカン、1,10−ビスビスアクリロイルオキシ−2,9−ジヒドロキシー4,4,5,5,6,6,7,7−オクタフルオロデカン、1,9−ビスビスアクリロイルオキシ−2,10−ジヒドロキシー4,4,5,5,6,6,7,7−オクタフルオロデカン、2,9−ビスビスアクリロイルオキシ−1,10−ジヒドロキシー4,4,5,5,6,6,7,7−オクタフルオロデカン、1,2−ジ(メタ)アクリロイルオキシ−3−パーフルオロアルキルブタン、2−ヒドロキシ−1H,1H,2H,3H,3H−パーフルオロアルキル−2’,2’−ビス{(メタ)アクリロイルオキシメチル}プロピオナート、α,ω−ジ(メタ)アクリロイルオキシメチルパーフルオロアルカン、α,β,ψ,ω−テトラキス{(メタ)アクリロイルオキシ}−αH,αH,βH,γH,γH,χH,χH,ψH,ωH,ωH−パーフルオロアルカン等が好ましい。
【0028】
非フッ素系有機化合物として、例えば単官能(メタ)アクリレート〔ここで、本明細書では(メタ)アクリレートとは、アクリレートとメタクリレートの双方を含む総称を意味する。〕、多官能(メタ)アクリレート及びテトラエトキシシラン等の反応性珪素化合物等を出発原料とするものが挙げられる。これらのうち生産性及び硬度を両立させる観点より、紫外線硬化性有機化合物特に紫外線硬化性多官能アクリレートを主成分として含む組成物が好ましい。そのような紫外線硬化性多官能アクリレートを含む組成物としては特に制限されるものではなく、例えば公知の紫外線硬化性多官能アクリレートを2種類以上混合したもの、紫外線硬化性ハードコート材として市販されているもの等が挙げられる。前記紫外線硬化性多官能アクリレートとしては特に制限されず、例えばジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,6−ビス(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)ヘキサン等の多官能アルコールのアクリル誘導体や、ポリエチレングリコールジアクリレート及びポリウレタンアクリレート等が好ましい。
【0029】
透明基材フィルム表面の易接着層上に低屈折率層を形成する方法は特に制限されないが、低屈折率層塗布液をロールコート法、スピンコート法、コイルバー法、ディップコート法、ダイコート法等の塗布方法により易接着層上に塗布した後、紫外線を照射する方法が挙げられる。低屈折率層塗布液の塗布方法としては、ロールコート法等の低屈折率層を連続的に形成できる方法が生産性の点より好ましい。
【0030】
低屈折率層の厚みは、kλ/4とすることが光の干渉作用により表面反射が減少し、透過率が向上するため好ましい。ここで、λは光の波長(400〜650nm)、kは1又は3を表す。このように低屈折率層の厚みをkλ/4とすることで反射防止の効果をより高めることができる。この場合、kが1のときには、反射防止性能(視感度反射率)が向上し、kが3のときには耐擦傷性が向上する。
<反射防止フィルム>
上記のように反射防止フィルムは、透明基材フィルムの表面に易接着層が設けられ、その上に低屈折率層が積層されて構成される。低屈折率層の屈折率は易接着層の屈折率以下の大きさに設定されると同時に、易接着層の厚みが極薄く形成されていることから、良好な反射防止性能が発現される。しかも、易接着層により低屈折率層が透明基材フィルムに十分に密着される。
【0031】
斯かる反射防止フィルムは、プラズマディスプレイパネル、液晶ディスプレイパネル、フィールドエミッションディスプレイ、表面電界ディスプレイ等の平面電子ディスプレイ或いは額縁や美術館等の展示カバー、ショーケース等の表面に好適に適用することができる。
<実施形態による作用、効果のまとめ>
(1) 本実施形態の反射防止フィルムは、透明基材フィルムの表面に易接着層を介して低屈折率層が直接積層されて構成され、易接着層は屈折率が1.50〜1.65で厚みが1〜50nmに設定されていると共に、低屈折率層は屈折率が1.20〜1.50に設定されている。このため、低屈折率層の機能により反射防止作用が発現され、また易接着層が極薄い厚みに設定されていることからその反射防止作用が妨げられることなく有効に発現される。さらに、易接着層に基づいて透明基材フィルムに対する低屈折率層の密着性が高められると共に、耐擦傷性の向上が図られる。
【0032】
従って、本実施形態の反射防止フィルムでは、反射防止層が単層構成で十分な反射防止性能を発揮することができ、かつ低屈折率層の密着性及び耐擦傷性に優れると共に、生産性に優れている。加えて、透明基材フィルムの表面にハードコート層を設けることなく、極薄い易接着層を介して直接低屈折率層を設けたため、反射光の干渉による干渉縞の発生を回避することができる。
【0033】
(2) 易接着層が導電性易接着層であることにより、該導電性易接着層が異物付着防止効果を発揮することができ、導電性易接着層上に低屈折率層を精度良く積層することができると共に、ハンドリング性を向上させることができる。その導電性易接着層がポリチオフェン骨格を有する導電性化合物を含むことにより、上記の効果を有効に発揮させることができる。
【0034】
(3) 低屈折率層は平均粒子径が10〜100nmの中空シリカ微粒子と重合性バインダーとを含有する低屈折率層塗布液を硬化させて形成されることにより、低屈折率層を容易に形成することができると共に、中空シリカ微粒子の粒子径、重合性バインダーの種類等に基づいて反射防止性能の調整を図ることができる。
【0035】
(4) 低屈折率層の厚みがkλ/4(但し、λは光の波長400〜650nm、kは1又は3)であることにより、光の干渉作用により低屈折率層表面での反射が減少し、反射防止フィルムの透過率を向上させることができると共に、耐擦傷性も向上させることができる。
【実施例】
【0036】
以下に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
各実施例の反射防止フィルムは、透明基材フィルム上に、易接着層及び低屈折率層が順次形成されて構成されている。
(A)光学的特性
(a−1)視感度反射率
測定面の裏面反射を除くため、裏面をサンドペーパーで粗し、黒色塗料で塗りつぶしたものを分光光度計〔日本分光(株)製、商品名:U−best560〕により、光の波長380〜780nmの5°、−5°正反射スペクトルを測定した。得られる380〜780nmの分光反射率と、CIE標準イルミナントD65の相対分光分布を用いて、JIS Z8701で規定されているXYZ表色系における、反射による物体色の三刺激値Yを視感度反射率とした。
(a−2)ムラ
三波長光源下、作製した反射防止フィルムの裏面に黒粘着層を施したフィルムを貼合して目視で観察し、以下の4段階で評価した。ムラ(色のむら)が無い場合を◎、ムラが弱い場合を○、ムラが強い場合を×、ムラが強く干渉縞が見える場合を××とした。
(a−3)屈折率の測定
次の(1)〜(4)の工程に従って屈折率を算出した。
【0037】
(1)屈折率1.49のアクリル樹脂板〔商品名:「デラグラスA」、旭化成工業(株)製〕上に、ディップコーター〔杉山元理化学機器(株)製〕により、低屈折率層塗布液をそれぞれ乾燥膜厚で光学膜厚(λ/4)のλが550nm程度になるように層の厚みを調整して塗布した。
【0038】
(2)低屈折率層塗布液中の溶媒乾燥後、必要に応じて紫外線照射装置〔岩崎電気(株)製〕により窒素雰囲気下で120W高圧水銀灯を用いて、出力400mJの紫外線を照射して低屈折率層塗布液を硬化させた。
【0039】
(3)アクリル樹脂板の裏面をサンドペーパーで荒らし、黒色塗料で塗りつぶしたものを分光光度計〔「U−best50」、日本分光(株)製〕により、400〜650nmにおける5°、−5°正反射率を測定し、その反射率の極小値又は極大値を読み取った。
【0040】
(4)反射率の極値より以下の式を用いて屈折率を計算した。
最小反射率(%)={〔アクリル樹脂板の屈折率×空気の屈折率−(層の屈折率)〕/〔アクリル樹脂板の屈折率×空気の屈折率+(層の屈折率)〕}×100
但し、アクリル樹脂の屈折率は1.49及び空気の屈折率は1.00である。
(a−4)平均粒子径
粒子径分布測定装置〔大塚電子(株)製、PAR−III〕を使用し、レーザー光を用いた動的光散乱法により平均粒子径を測定した。
(B)物理的特性
(b−1)密着性
低屈折率層を設けた面側について、JIS D0202−1998に準拠して碁盤目剥離テープ試験を行った。セロハンテープ〔ニチバン(株)製、CT24〕を用い、反射防止フィルムに密着させた後剥離した。判定は100マスのうち、剥離しないマス目の数で表し、全く剥離しない場合を100/100、完全に剥離する場合を0/100として表した。
(b−2)耐擦傷性の評価
(株)本光製作所製の消しゴム摩耗試験機の先端に、#0000のスチールウールを固定し、2.5Nの荷重(250gfの荷重)及び1Nの荷重(100gfの荷重)の荷重をかけて、反射防止フィルム表面上を10回往復摩擦した後の表面の傷を目視で観察し、以下のA〜Eの6段階で評価した。
【0041】
A:傷なし、A’:傷1〜3本、B:傷4〜10本、C:傷11〜20本、D:傷21〜30本、E:傷31本以上
(C)変性中空シリカ微粒子(ゾル)
中空シリカゾル〔触媒化成工業(株)製、商品名:ELCOM NY−1001SIV、イソプロピルアルコールによる中空シリカゾルの25質量%分散液、平均粒子径:60nm〕2000質量部、γ−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン〔信越化学工業(株)製、KBM5103〕70質量部及び蒸留水80質量部を混合して変性中空シリカ微粒子(ゾル)(平均粒子径:60nm)を調製した。
(D)導電性易接着PETフィルムの作製
(d−1)導電性易接着PETフィルムAの作製
特開2003−157724号公報に記載されている実施例1の電子導電層の組成に準じて導電性易接着PETフィルムAを作製した。すなわち、極限粘度が0.65dl/g、平均粒子径が2.4μmのシリカ粒子を0.006質量%含有するPETのペレットを180℃で加熱後、押出装置に供給した。続いて、280〜300℃の温度でシート状に押出し、厚み720μmの未延伸フィルムを得、これを85℃で縦延伸して一軸延伸PETフィルムを得た。この一軸延伸PETフィルムの一方の面に放電処理を施した後、その面にポリチオフェン80質量%及びポリエチレングリコール20質量%の水性塗布液を6μmの厚みに塗布した。その後、110℃で横延伸し、さらに230℃で熱処理し、厚み50μmの二軸延伸PETフィルム上に厚み0.016μmの導電性易接着層が形成された導電性易接着PETフィルムAを得た。得られた導電性易接着PETフィルムAの屈折率は1.52であった。
(d−2)導電性易接着PETフィルムBの作製
特開2008−255177号公報の実施例1に記載されている積層二軸延伸フィルムの製造方法に準じて導電性易接着PETフィルムBを作製した。すなわち、実質的に粒子を含有しない極限粘度0.66のPETと平均粒子径2.5μmの非晶質シリカを0.6質量部含有する極限粘度0.66のPETとを質量比で80/20の割合にて混合した。これを280〜300℃に加熱溶融し、シート状に押出して未延伸PETフィルムを作製した。この未延伸PETフィルムを長手方向に延伸して一軸延伸PETフィルムとし、その片面に次の塗布組成物を塗布量として0.03g/m塗布した。塗布組成物は、所定のピロール単位と所定のアクリルアミド単位とが質量比95/5の比率で共重合され数平均分子量が20000の高分子化合物、メチル化ヘキサメチロールメラミンの架橋性樹脂、アミノ樹脂系架橋剤の架橋触媒及び界面活性剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテル(オキシエチレンの平均重合度が4)を固形分質量比が60/40/2/5となるように混合されたものである。
【0042】
この塗布組成物が塗布されたフィルムを加熱して乾燥し、幅方向に延伸し、さらに加熱処理を施してフィルムの厚みが38μmの二軸配向PETフィルムの上に0.03g/mの量の導電性易接着層を形成した導電性易接着PETフィルBを得た。得られた導電性易接着PETフィルムBの屈折率は1.56であった。
(E)低屈折率層塗布液
(e−1)低屈折率層塗布液Aの調製
前記変性中空シリカ微粒子60質量部と、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート40質量部と、光重合開始剤〔チバスペシャルティケミカルズ(株)製、イルガキュア907〕2質量部と、イソプロピルアルコール2000質量部とを混合して低屈折率層塗布液Aを得た。得られた低屈折率層塗布液Aの塗膜(低屈折率層)の屈折率は、1.41であった。
(e−2)低屈折率層塗布液Bの調製
パーフルオロ−(1,1,9,9−テトラヒドロ−5,8−ビスフルオロメチル−4,7−ジオキサ−1−ノネン)−9−オールすなわち下記の化学式に示す化合物
〔CH=CFCFOCF(CF)CFOCF(CF)CHOH〕
を104質量部と、ビス(2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7−ドデカフルオロヘプタノイル)パーオキサイドの8質量%パーフルオロヘキサン溶液11質量部との重合反応によりヒドロキシル基含有含フッ素アリルエーテル重合体(数平均分子量72,000、質量平均分子量118,000)を得た。
【0043】
次に、ヒドロキシル基含有含フッ素アリルエーテル重合体5質量部、メチルエチルケトン(MEK)43質量部、ピリジン1質量部及びα−フルオロアクリル酸フルオライド1質量部より重合性二重結合を有する含フッ素反応性重合体溶液(固形分13質量%、α−フルオロアクリロイル基の水酸基への導入率40モル%)を調製した。この含フッ素反応性重合体溶液40質量部と、変性中空シリカ微粒子60質量部と、光重合開始剤〔チバスペシャルティケミカルズ(株)製、イルガキュア907〕2質量部と、イソプロピルアルコール2000質量部とを混合して、低屈折率層塗布液Bを得た。該低屈折率層塗布液Bの塗膜(低屈折率層)の屈折率は、1.35であった。
(実施例1−1)
片面に屈折率1.58、厚み5nmの易接着層が設けられている二軸延伸ポリエステルフィルム(PETフィルム、厚さ100μm、屈折率1.65:以下フィルムCとする)の易接着層面上に前記低屈折率層塗布液Aを、光学膜厚がkλ/4(k:1、λ:550nm)になるようにグラビアコート法で塗布し、乾燥後、窒素雰囲気下で400mJ/cmの出力にて紫外線を照射して硬化させることにより、反射防止フィルムを作製した。得られた反射防止フィルムについての評価結果を表1に示した。
(実施例1−2)
実施例1−1において、易接着層の厚みが10nmである以外は実施例1−1と同様にして反射防止フィルムを作製した。得られた反射防止フィルムについての評価結果を表1に示した。
(実施例1−3)
実施例1−1において、易接着層の厚みが30nmである以外は実施例1−1と同様にして反射防止フィルムを作製した。得られた反射防止フィルムについての評価結果を表1に示した。
(実施例1−4)
実施例1−2において、光学膜厚がkλ/4(k:3、λ:550nm)になるようにグラビアコート法で塗布した以外は実施例1−2と同様にして反射防止フィルムを作製した。得られた反射防止フィルムについての評価結果を表1に示した。
(実施例1−5)
実施例1−1において、低屈折率層塗布液Aに代えて低屈折率層塗布液Bを用いた以外は実施例1−1と同様にして反射防止フィルムを作製した。得られた反射防止フィルムについての評価結果を表1に示した。
(実施例1−6)
実施例1−2において、低屈折率層塗布液Aに代えて低屈折率層塗布液Bを用いた以外は実施例1−2と同様にして反射防止フィルムを作製した。得られた反射防止フィルムについての評価結果を表1に示した。
(実施例1−7)
実施例1−3において、低屈折率層塗布液Aに代えて低屈折率層塗布液Bを用いた以外は実施例1−3と同様にして反射防止フィルムを作製した。得られた反射防止フィルムについての評価結果を表1に示した。
(実施例1−8)
実施例1−6において、光学膜厚がkλ/4(k:3、λ:550nm)になるようにグラビアコート法で塗布した以外は実施例1−6と同様にして反射防止フィルムを作製した。得られた反射防止フィルムについての評価結果を表1に示した。
(実施例1−9)
実施例1−1において、易接着層の厚みが50nmである以外は実施例1−1と同様にして反射防止フィルムを作製した。得られた反射防止フィルムについての評価結果を表1に示した。
(実施例1−10)
実施例1−1において、屈折率1.58の易接着層に代えて、屈折率1.50の易接着層が設けられた以外は実施例1−1と同様にして反射防止フィルムを作製した。得られた反射防止フィルムについての評価結果を表1に示した。
(実施例1−11)
実施例1−1において、両面に屈折率1.58、厚み5nmの易接着層が設けられた以外は実施例1−1と同様にして反射防止フィルムを作製した。得られた反射防止フィルムについての評価結果を表1に示した。
(実施例2−1〜2−11)
実施例1−1〜1−11のフィルムCが導電性易接着PETフィルムAであること以外は実施例1−1〜1−11と同様に反射防止フィルムを作製した。得られた反射防止フィルムについての評価結果を表2に示した。
(実施例3−1〜3−11)
実施例1−1〜1−11のフィルムCが導電性易接着PETフィルムBであること以外は実施例1−1〜1−11と同様に反射防止フィルムを作製した。得られた反射防止フィルムについての評価結果を表3に示した。
(比較例1−1)
実施例1−1において、易接着層が形成されていないこと以外は実施例1−1と同様にして反射防止フィルムを作製した。この反射防止フィルムについての評価結果を表1に示した。
(比較例1−2)
実施例1−1において、易接着層の厚みが100nmである以外は実施例1と同様にして反射防止フィルムを作製した。得られた反射防止フィルムについての評価結果を表1に示した。
(比較例1−3)
片面に、屈折率1.58、厚み15nmの易接着層が設けられている二軸延伸ポリエステルフィルム(PETフィルム、厚さ100μm、屈折率1.65)に、屈折率1.60、厚み5μmのハードコート層を塗布した。ハードコート層上に、前記低屈折率層塗布液Aを、光学膜厚がkλ/4(k:1、λ:550nm)になるようにグラビアコート法で塗布し、乾燥後、窒素雰囲気下で400mJ/cmの出力にて紫外線を照射して硬化させることにより、反射防止フィルムを作製した。得られた反射防止フィルムについての評価結果を表1に示した。
【0044】
【表1】

表1に示す結果より、実施例1−1〜1−3においては、易接着層の厚みが5〜30nmの範囲であることから、易接着層の光学干渉をほとんど受けることなく、十分な視感度反射率を得ることができ、さらにムラ、密着性、耐擦傷性に優れた反射防止フィルムを得ることができた。また、実施例1−5〜1−7においては、実施例1−1〜1−3と比較して低屈折率層塗布液の屈折率が低いため、さらに良好な視感度反射率を得ることができた。なお、実施例1−4及び1−8は、低屈折率層の光学膜厚を3λ/4にすることにより、光学膜厚λ/4の場合と比較して耐擦傷性が向上する結果が得られた。
【0045】
また、実施例1−9では易接着層の厚みが50nmであったことから、易接着層の光学干渉を受けて視感度反射率が上昇する結果となった。さらに、実施例1−10のように、易接着層の屈折率が異なる場合でも、実施例1−1と同等性能を達成することができた。加えて、実施例1−11のように、易接着層が両面に設けられている場合でも、実施例1−1と同等性能を得ることができた。
【0046】
一方、比較例1−1では易接着層が設けられていないため、透明基材フィルムに対する低屈折率層の密着性及び耐擦傷性が全く不良であった。また、比較例1−2では易接着層の厚みが100nmであったことから、易接着層の光学干渉を受けて視感度反射率が悪化する結果となった。さらに、比較例1−3では、易接着層上にハードコート層を介して低屈折率層を設けたことから、反射光の干渉によるムラが強く、干渉縞が見られた。
【0047】
【表2】

【0048】
【表3】

表2及び表3に示した結果から、実施例2−1〜2−11及び実施例3−1〜3−11では易接着層が導電性易接着層であるため、表1に示した実施例1−1〜1−11の場合に比べて表面抵抗率を著しく低下させる効果が得られた。
【0049】
なお、本実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ 易接着層として、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂に、シリカ、アルミナ、酸化チタン等の金属酸化物の微粒子を配合して、屈折率を調整できるように構成することもできる。
【0050】
・ 低屈折率層を形成する材料として、コロイダル酸化珪素、フッ化ランタン、フッ化マグネシウム等の無機微粒子や有機重合体微粒子を用いることができる。これらの微粒子の平均粒子径は、光の散乱を抑えるため低屈折率層の厚さを大きく超えないことが好ましく、例えば0.1μm以下に設定することが好ましい。
【0051】
・ 低屈折率層に、例えば無機又は有機顔料、重合体、重合開始剤、光重合開始剤、重合禁止剤、酸化防止剤、分散剤、界面活性剤、光安定剤、レベリング剤などの添加剤を添加することもできる。
【0052】
さらに、前記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
(イ) 前記易接着層の厚みは1〜30nmであることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の反射防止フィルム。このように構成した場合、請求項1から請求項5のいずれかに係る発明の効果に加えて、反射防止性能を一層向上させることができる。
【0053】
(ロ) 前記重合性バインダーは、紫外線硬化性有機化合物であることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の反射防止フィルム。このように構成した場合、請求項4又は請求項5に係る発明の効果に加えて、紫外線照射により低屈折率層を速やかに形成することができ、反射防止フィルムの生産性を高めることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材フィルムの表面に易接着層を介して低屈折率層が積層されて構成されている反射防止フィルムであって、
前記易接着層は屈折率が1.50〜1.65で厚みが1〜50nmであると共に、低屈折率層は屈折率が1.20〜1.50であることを特徴とする反射防止フィルム。
【請求項2】
易接着層が導電性易接着層であることを特徴とする請求項1に記載の反射防止フィルム。
【請求項3】
導電性易接着層がポリチオフェン骨格を有する導電性化合物を含むことを特徴とする請求項2に記載の反射防止フィルム。
【請求項4】
低屈折率層は、平均粒子径が10〜100nmの中空シリカ微粒子と重合性バインダーとを含有する低屈折率層塗布液を硬化させて形成されるものであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の反射防止フィルム。
【請求項5】
低屈折率層の光学膜厚はkλ/4(但し、λは光の波長400〜650nm、kは1又は3)であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の反射防止フィルム。

【公開番号】特開2010−170089(P2010−170089A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−254035(P2009−254035)
【出願日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【Fターム(参考)】