説明

反射防止積層体の製造方法

【課題】本発明は、低屈折率と実用上十分な物理的強度を有し、しかも安価で、防汚性、生産性等に優れた反射防止積層体を提供することを目的とする。
【解決手段】プラスチックやガラス等の透明基材の少なくとも片面に、下記一般式(A)と一般式(B)で表されるフッ素含有ケイ素化合物、およびその加水分解物とを主成分とする低屈折率コーティング剤を塗布形成された低屈折率層を設けたことを特徴とする反射防止積層体である。
一般式(A) Si(OR)
(ただし、Rはアルキル基)で表されるSiアルコキシド、およびその加水分解物
一般式(B) CF−(CF−(CH)−Si(OR)
(ただし、pは0≦p≦8の整数、nはn<5の整数、Rはアルキル基)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスやプラスチック等の透明基材などに塗工した、低屈折率で、かつ物理的強度に優れた光学多層膜が形成された反射防止積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラスやプラスチックなどの透明基材に、酸化チタンや酸化ケイ素などの無機酸化物を蒸着法あるいはスパッタ法などのドライコーティングによって薄膜を形成して反射防止膜などの光干渉による光学多層膜を形成する方法が知られている。
しかし、このようなドライコーティングプロセスでは装置が高価で、成膜速度が遅く、生産性が高くないなどの課題を有している。
特に、ディスプレイの反射防止膜などの最外層に使用される形態においては、表面の汚れ防止、容易拭き取り性いわゆる防汚性能が必要であるが、これらの機能を付与するために別途ウェットあるいはドライプロセスにてフッ素含有ケイ素化合物などの保護膜を設ける必要があり、工程が煩雑でより高価なものとなってしまうなどの課題もある。
【0003】
これに対して、金属アルコキシドなどを出発組成とし、基材に塗工して光学多層膜を形成する方法が知られている。この高屈折率材料としては、TiやZrなどのアルコキシドが用いられる。また、低屈折率材料としては、Si系アルコキシドあるいはSiアルコキシドの一部をエポキシ基やアルキル基など他の有機置換基に置き換えた有機ケイ素化合物、いわゆるシランカップリング剤などを用い、さらに防汚成分としてフッ素含有ケイ素化合物を添加されてなる塗膜を設ける方法が提案されている(特許文献1)。
【0004】
しかし、これらの塗膜は塗膜形成時の乾燥・重合に高温、長時間を必要とするため生産性に問題がある。また、この塗膜は、ある程度の低い屈折率と、ある程度の防汚性を付与するとはできるが、硬度や耐擦傷性、基材との密着性などの物理的強度を満足することができない。上記塗膜は、最外層に使用されるため、強度が不十分では実用に耐えることができないといった欠点を有している。
【0005】
上記に述べたような問題点を解決するために、塗膜を形成する組成物としてケイ素アルコキシドを出発物質としたシリカゾルと反応性有機ケイ素化合物(シランカップリング剤や末端に反応基を有するジメチルシリコーンなど)との複合材料などが提案されている(特許文献2)。
【0006】
【特許文献1】特開平9−208898号公報
【特許文献2】特開平9ー220791号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、これらのSiO系複合膜組成物からなる塗膜に十分な物性を得ようとすると加熱に長時間を要する。例えば、塗膜が、アクリロイル基などの重合性不飽和基を含有する有機ケイ素化合物からなる場合、いずれもアクリロイル基が1個ないし2個の単官能あるいは2官能性の化合物であり、電子線による重合しても高い架橋密度が得られない。上記組成物からなる塗膜の硬度や耐擦傷性などの物理的強度を向上させようとすると、上記塗膜成分中にシリカ成分以外の成分、例えば、アクリル系化合物を複合させて、アクリル成分比率を高くする必要がある。また、ケイ素アルコキシドを出発物質とした塗膜は、アクリル成分比率を高くなると光学特性を決定するSi系などのアルコキシドを出発組成とするシリカ成分の体積比が減少し、低屈折率化をはかることができないという欠点を有する。前記組成物からなる塗膜では、低屈折率化と硬度や耐擦傷性、密着性などの物理的強度が両立し、かつ指紋などの汚れを簡単に拭き取ることができる反射防止積層体は見出されていない。
【0008】
そこで、本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、低屈折率と実用上十分な物理的強度を有し、しかも安価で、防汚性、生産性等に優れた反射防止積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、プラスチックやガラス等の透明基材の少なくとも片面に、
一般式(A) Si(OR)
(ただし、Rはアルキル基)で表されるSiアルコキシド、およびその加水分解物と、
一般式(B) CF−(CF−(CH)−Si(OR)
(ただし、pは0≦p≦8の整数、nはn<5の整数、Rはアルキル基)で表されるフッ素含有ケイ素化合物、およびその加水分解物とを主成分とする低屈折率コーティング剤を塗布形成された低屈折率層を設けたことを特徴とする反射防止積層体である。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1記載の透明基材と低屈折率層の間にハードコート層を設けたことを特徴とする反射防止積層体である。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項2記載の反射防止積層体において、前記ハードコート層が、紫外線、電子線等の電離放射線硬化樹脂からなることを特徴とする。
【0012】
請求項4に係る発明は、請求項3記載の反射防止積層体において、前記電離放射線硬化樹脂が、分子中にビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基等の重合可能な不飽和結合を少なくとも3個以上有するアクリル系化合物を主成分としたことを特徴とする。
【0013】
請求項5に係る発明は、請求項4記載の反射防止積層体において、前記電離放射線硬化樹脂が、アクリル系化合物の少なくとも1種が分子中にウレタン結合を有するウレタンアクリレートからなることを特徴とする。
【0014】
請求項6に係る発明は、請求項5記載の反射防止積層体において、前記ハードコート層を形成するウレタンアクリレートが分子中に2個以上のイソシナート基を有する化合物と該イソシア基と反応するOH基を有しアクリロイル基を2個以上有するアクリル化合物との反応生成物であることを特徴とする。
【0015】
請求項7に係る発明は、請求項6記載の反射防止積層体において、前記電離放射線硬化樹脂が、平均分子量600〜5000の範囲であることを特徴とする。
【0016】
請求項8に係る発明は、請求項6記載の反射防止積層体において、前記電離放射線硬化樹脂が、生成分子中のアクロイル基が4個以上の多官能ウレタンアクリル化合物であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
以上述べたように、本発明により、特定組成のハードコート組成物とゾルゲル系低屈折率トーティング組成物とを組合せたことで、ハードコート層と低屈折率層との密着強度に優れ、しかも低屈折率という光学特性と実用上十分な物理的強度を有する反射防止積層体が得られた。
本発明の反射防止積層体は、過酷な環境に充分に耐えられるもので、防汚性に優れているので取り扱い易く、反射防止膜として、ディスプレイの前面に好適に使用される。
また、本発明の反射防止積層体は、コーティング方式によって製造することができるので、従来の蒸着方式などと比較して、装置コストも比較的安価で、生産速度も10倍以上で、大量生産ができることから、安価な反射防止積層体が得られる。

【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の一実施例を詳細に説明する。
【0019】
本発明の反射防止積層体はウレタン結合を有する紫外線、放射線等の電離放射線硬化樹脂からなるハードコート層とゾルゲル系低屈折率組成物を基材に順次塗工し、ハードコート層、低屈折率層を形成し、反射防止積層体を得るものである。
本発明における低屈折率層は、テトラエトキシシランなどのSiアルコキシドとフッ素含有ケイ素化合物およびその加水分解物を主成分とする組成物からなるものであり、これを基材に塗工し、加熱乾燥し、塗膜を形成可能とするものであり、該組成物中にさらに長鎖Rf基など導入し膜密度を制御することで、膜の屈折率を低下させるものである。
【0020】
低屈折率層のコーティング材料に含まれる各成分について以下に詳述する。
本発明において用いられる、Siアルコキシドは、
一般式(A) Si(OR)
(ただし、Rはアルキル基)で表されるものであり、テトラメトキシシラン、テ
トラエトキシシランなどが例示される。
フッ素含有ケイ素化合物は、
一般式(B) CF−(CF−(CH)−Si(OR)
(ただし、pは0≦p≦8の整数、nはn<5の整数、R:アルキル基、)で表されるもので、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、トリデカフルオロオクチルトリメトキシシランなどが例示され、mが8より大きくなると均質な膜が形成できなくなるため不適である。
一般式(A)のSiアルコキシドと一般式(B)のフッ素含有ケイ素化合物との比率がモル比で(A)/(B)=1.0/0.01〜1.0/0.2とすることで低屈折率化と強度を両立することができ、防汚性能も発現でき好適であるが、さらに好ましくは1.0/0.03〜1/0.1の範囲である。フッ素含有ケイ素化合物のSiアルコキシドに対するモル比が、0.01以下では低屈折率化が図れず、また防汚機能も充分ではない。また、フッ素含有ケイ素化合物のSiアルコキシドに対するモル比が、0.2より過剰になると低屈折率化と防汚は良好であるが、Rf基の増加によりシロキサン架橋が充分得られず強度が著しく低下してしまい不適である。
有機ケイ素化合物は、上記に例示した化合物に例示に限定されるものでなく、2種以上組み合わせても何ら差し支えなく、Siアルコキシドとフッ素含有ケイ素化合物を併用してあれば良い。
【0021】
有機ケイ素化合物は、コーティング組成物中にp−トルエンスルホン酸などの有機酸触媒を含有させることで、塗工後に大気中の水分でもって加水分解反応させて塗膜形成しても良いし、また予め水(塩酸などの触媒を含む)を添加し、加水分解反応させたものを用いることもできる。
特に、下地との密着性を重視する場合、塩酸を触媒として通常用いられる加水分解水(通常、アルコキシド1molに対し、水2〜4mol)よりも多い状態で反応させる。すなわち、一般式(A)のSiアルコキシドと一般式(B)のRf−Siとを合わせた全シラン化合物を0.1N〜5.0Nの塩酸によって加水分解を行い、加水分解の際の塩酸中の水が、全シラン化合物:水のモル比で1:5〜1:10mol/molの比率とすることで密着良好で均一な透明塗膜が形成することができる。
塩酸の規定度が低い場合、水の比率が高すぎる場合(1:10以上)は、その加水分反応溶液を基材にコーティングしたとき、斑点状のハジキや欠陥が生じ易く、水の比率が低い(1:5以下)場合は、塗膜は均一であるが、下地のハードコート層との密着がやや低下するため望ましくない。
また各成分を別々に加水分解反応させた後、混合させても良いが、反応させる前に混合して、同時に共加水分解させた方が均質な重合体ができるため望ましい。
【0022】
上記のゾルゲル系組成物の組み合わせは、一般に公知ではあるが、本発明の積層体は単なる組み合わせではなく、下地のウレタン結合とマトリックスであるコート組成物の無機のネットワークとの相溶性、親和性が高く、単に有機樹脂からなる層上に積層するより密着性が高い塗膜が得られる材料系である。そして、上記調整方法のようにコントロールされた加水分解条件によって密着性がさらに向上する。
【0023】
ハードコート層は、透明プラスチック基材表面の硬度を向上させ、鉛筆等の荷重のかかる引っ掻きによる傷を防止し、また透明基材の屈曲による反射防止層のクッラク発生を抑制することができ、反射防止積層体の機械的強度が改善できるものであり、通常、分子中にビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基などの重合可能な不飽和結合を少なくとも3個以上を有するアクリル系化合物を主成分とする電離放射線硬化樹脂が用いられる。
本発明におけるハードコート層は、アクリル化合物の少なくとも1種が分子中にウレタン結合を有する、いわゆるウレタンアクリレートからなる電離放射線硬化樹脂を用いることで、ハードコートとしての性能を発揮しつつ、低屈折率層との高い密着性も発現させるものである。
【0024】
ウレタン結合を有する多官能アクリル化合物とは、その分子中にビニル基、アクリロイル基やメタクルロイル基など重合可能な不飽和結合を少なくとも3個以上有し、かつウレタン結合を有するものであって、例えば、ジイソシアネートとアクリル基含有ポリオールとのプレポリマーなどがあげられ、特に限定されるものではないが、なかでもOH基含有多官能モノマーであるペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA)とヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)などのジイソシアネートとの反応生成である多官能アクリル化合物で、平均分子量600〜5000のものであれば好適である。
ウレタン/アクリルの混合比は塗膜中における固形分比で30wt%以上が好適であるが、30%より少ない固形分比では効果が少ない。
【0025】
多官能モノマーは、1種類のみを使用しても良いし、2種類以上を併用しても良い。また、必要で有れば単官能モノマーと併用して共重合させることもできる。ハードコート層は、透明基材と屈折率が同等もしくは近似していることがより好ましい。膜厚は2μm以上あればある程度十分な強度となるが、透明性、塗工精度、取り扱いから4〜7μmの範囲が好ましい。
前記ハードコート層に、平均粒子径が0.01〜3μmの無機あるいは有機物微粒子を混合分散させる。または、表面形状を凹凸させることで、一般的にアンチグレアと呼ばれる光拡散性処理を施すことができる。上記微粒子は透明であれば特に限定されるものではないが、低屈折率材料が好ましく、酸化珪素が安定性、耐熱性等の点からで好ましい。
【0026】
ハードコート層を紫外線照射によって硬化する際には、ラジカル重合開始剤を添加すると好適である。ラジカル重合開始剤として、ベンゾインメチルエーテルなどのベンゾインエーテル系開始剤、アセトフェノン、2、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンなどのアセトフェノン系開始剤、ベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系開始剤などが挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0027】
ハードコート層を形成するコーティング組成物は、上述した各成分をいくつか組み合わせて加えることができ、さらに、物性を損なわない範囲で、分散剤、安定化剤、粘度調整剤、着色剤など公知の添加剤を加えることもできる。
【0028】
コーティング組成物の塗布方法には、通常用いられる、ディッピング法、ロールコティング法、スクリーン印刷法、スプレー法など従来公知の手段が用いられる。
塗膜の厚さは、目的の光学設計にあわせて、液の濃度や塗工量によって適宜選択調整することができる。
【0029】
ハードコート層上に、コーティング溶液を塗工する前に、コート層に予め表面処理を施すことにより、ハードコート層と低屈折率層との密着性を向上させることができる。
前処理としては、アルカリ処理法、酸処理、コロナ処理法、大気圧グロー放電プラズマ法等を挙げることができるが、なかでもアルカリ処理が有効で、使用するアルカリ水溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水溶液、あるいはそれらの水溶液に、更にアルコール等の各種有機溶媒を加えたアルカリ水溶液等を挙げることができる。アルカリ処理の条件は、例えば、水酸化ナトリウム水溶液を用いた場合、0.1〜10Nの濃度の水溶液として使用することが望ましく、更には、1〜2Nの濃度が望ましい。また、アルカリ水溶液の温度は、0〜100℃、好ましくは、20〜80℃である。アルカリ処理の時間は、0.01〜10時間、好ましくは、0.1〜1時間である。
【0030】
ハードコート層に、予めアルカリ処理を施すことでハードコート表面の粗度(凸凹状態)を制御し、コート層表面にナノ凸凹構造を形成することにより、より低屈折率層との密着を向上させるものである。
本発明における表面粗さとは、表面粗さの定義は、JIS―B0601に準拠するものではあるが、原子間力顕微鏡などによって測定される微小領域、微小スケールにおける表面粗さのことである。算術平均粗さRa、10点平均粗さの計算はJIS−B0601の定義に準じた。
【0031】
本発明における反射防止積層体は、可視領域の光学干渉を利用した反射防止層であるため、積層される塗膜の膜厚が100nm〜200nm程度であり、塗膜が連続した膜を形成できかつ、光散乱の影響がでない程度の表面粗さである必要がある。凸凹の差が大きすぎたり、凸凹の頻度が高すぎると積層体のヘイズが増加し、さらに強度の低下を引き起こすので適当ではない。また、平滑過ぎる表面ではハードコート層と低屈折率層との密着強度向上が期待できない。以上のことから、表面粗さRzが50nm以下で、Raが2〜10nmが好適である。
【0032】
<作用>
本発明によれば、ハードコート層をウレタン結合を有する電離放射線硬化樹脂とし、低屈折率層を
一般式(A) Si(OR)
(ただし、Rはアルキル基)で表せられるSiアルコキシド、およびその加水分解物と
一般式(B) CF−(CF−(CH)−Si(OR)
(ただし、pは0≦p≦8の整数、nはn<5の整数、Rはアルキル基、)で表されるフッ素含有ケイ素化合物、およびその加水分解物とを主成分とする低屈折率のゾルゲルコーティング剤で形成される塗膜で、ハードコート層と低屈折率層との密着性を高めることができるものである。
【0033】
本発明の低屈折率層は、Si系成分が低屈折率成分として機能するものではあるが、パーフルオロアルキル基の導入により塗膜内部のシロキサンネットワークを寸断することで塗膜内部に分子レベルの隙間を形成し、膜密度を低下させ、低屈折率化(1.44以下)をはかることができるものであり、特定の加水分解方法で調整することで架橋構造をある程度寸断しても、分子レベルで均一で、溶液中で適当な分子量の重合体を形成しハイブリッド構造を呈しているものである。塗膜の密度は低下しても充分な架橋構造を有しているので、充分な強度を発揮でき、硬度が高く耐擦傷性性も良好であって、従来の低屈折率組成物の欠点を大幅に改善することができ、低屈折率化と高強度化の両立可能でなおかつ防汚機能も有する積層体を提供するものである。
【実施例】
【0034】
以下、本発明の反射防止積層体の具体的な実施例について説明する。
【0035】
<実施例1〜4>
80μm厚のトリアセチルセルロース(TAC)フィルムを基材として、下記に示したハードコート組成物として、ウレタン結合を有するアクリル系紫外線硬化樹脂組成物を表面に塗工して、紫外線硬化させてハードコート層(5μm)を設けた基材を作製した。このハードコート層の表面をアルカリ処理を施し、下記に示した低屈折率コーティング組成物として、A1、A2を用いて、バーコーターにより塗布して、乾燥機で120℃―5min乾燥後、光学膜厚(nd=屈折率n*膜厚d(nm))が、nd=550/4nmになるよう濃度調整をして低屈折率層を形成し、各種評価用の反射防止積層体を得た。その反射防止積層体を、下記に示した評価方法に基づいて評価した結果を表1に示す。
【0036】
ここで、低屈折率コーティング組成物として、A1の組成物を塗工したものを実施例1、A2の組成物を塗工したものを実施例2とした。また、ハードコート層の表面をアルカリ処理を施していないハードコート層に、低屈折率コーティング組成物として、A1の組成物を塗工したものを実施例3、A2の組成物を塗工したものを実施例4とした。一方、比較例として、ウレタン結合を含まないハードコート組成物として、ペンタエリスリトールトリアクリレートのみを用いてハードコート層を形成し、そのコート層をアルカリ処理を施し、低屈折率コーティング組成物として、A1の組成物を塗工したものを比較例1とした。
【0037】
<ハードコート組成物>
市販のウレタンアクリレート(ヘキサンメチレンジイソシアネートとペンタエリスリトールトリアクリレートの反応生成物)をMEK溶剤にて希釈NV50%溶液。紫外線硬化用開始剤として、アセトフェノン系開始剤を重合成分に対して2%添加した。
【0038】
<低屈折率コーティング組成物>
(A1):テトラメトキシシラン1molにトリデカフルオロオクチルトリメトキシシラン0.1molになるように所定量混合し、混合物1molに対して0.3Nの塩酸3molと固形分換算で10%になるようにイソプロピルアルコールを混合し、室温で2時間攪拌反応させたて基本組成A1を得た。
(A2):テトラメトキシシラン1molにトリデカフルオロオクチルトリメトキシシラン0.1molになるように所定量混合し、混合物1molに対して0.3Nの塩酸7molと固形分換算で10%になるようにイソプロピルアルコールを混合し、室温で2時間攪拌反応させたて基本組成A2を得た。
【0039】
<評価方法>
(1)表面粗さ:原子間力顕微鏡AFM(SPI3700;セイコー電子)を用い走査範囲□5μmにて測定した。
(2)光学特性:分光光度計により入射角5で550nmにおける反射率を測定した。
(3)密着性:塗料一般試験法JIS−K5400のクロスカット密着試験方法に準じて塗膜の残存数にて評価した。
(4)鉛筆硬度:塗料一般試験法JIS−K5400の鉛筆引っかき値試験方法に準じて塗膜の擦り傷にて評価した。
(5)耐擦傷試験:スチールウール#0000により、250g/cm2の荷重で往復5回擦傷試験を実施、目視による傷の外観を検査した。評価は、傷なし(◎)、かるく傷あり(○)、かなり傷つく(△)、著しく傷つく(×)の4段階評価を行った。
(6)指紋拭き取り性:塗膜表面に指紋を付着させ、ティッシュペーパーにて拭き取り性を目視で検査した。評価は、容易に拭き取れる(○)、拭き取れる(△)、拭き取れない(×)の3段階評価を行った。
(7)接触角:塗膜表面に水滴をのせ、水滴と表面の接触角を測定した。測定には協和界面科学(株)製の接触角計を用いた。
【0040】
【表1】

【0041】
表1に示すように、いずれも反射率が低く、目的の低屈折率層を得ることができたが、本発明の反射防止積層体におけるウレタン系ハードコート組成物からなるハードコート層の塗膜は、密着性、硬度、耐擦傷性、防汚性にも優れるが、それに対して、比較例での反射防止積層体のハードコート層の塗膜は、耐擦傷性や密着性など強度面で著しく特性が劣っていることがわかる。
また、本発明の反射防止積層体において、ハードコート層表面のアルカリ処理(実施例1および2)のほうが密着強度に優れ、またコーティング組成物の加水分解条件で、水のモル比が多いA2を用いた系(実施例2)のほうが密着性、耐擦傷性も優れている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックやガラス等の透明基材の少なくとも片面に、
一般式(A) Si(OR)
(ただし、Rはアルキル基)で表されるSiアルコキシド、およびその加水分解物と、
一般式(B) CF−(CF−(CH)−Si(OR)
(ただし、pは0≦p≦8の整数、nはn<5の整数、Rはアルキル基)で表されるフッ素含有ケイ素化合物、およびその加水分解物とを主成分とする低屈折率コーティング剤を塗布形成された低屈折率層を設けたことを特徴とする反射防止積層体。
【請求項2】
請求項1記載の透明基材と低屈折率層の間にハードコート層を設けたことを特徴とする反射防止積層体。
【請求項3】
前記ハードコート層が、紫外線、電子線等の電離放射線硬化樹脂からなることを特徴とする請求項2記載の反射防止積層体。
【請求項4】
前記電離放射線硬化樹脂が、分子中にビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基等の重合可能な不飽和結合を少なくとも3個以上有するアクリル系化合物を主成分としたことを特徴とする請求項3記載の反射防止積層体。
【請求項5】
前記電離放射線硬化樹脂が、アクリル系化合物の少なくとも1種が分子中にウレタン結合を有するウレタンアクリレートからなることを特徴とする請求項4記載の反射防止積層体。
【請求項6】
前記ハードコート層を形成するウレタンアクリレートが分子中に2個以上のイソシナート基を有する化合物と該イソシア基と反応するOH基を有しアクリロイル基を2個以上有するアクリル化合物との反応生成物であることを特徴とする請求項5記載の反射防止積層体。
【請求項7】
前記電離放射線硬化樹脂が、平均分子量600〜5000の範囲であることを特徴とする請求項6記載の反射防止積層体。
【請求項8】
前記電離放射線硬化樹脂が、生成分子中のアクロイル基が4個以上の多官能ウレタンアクリル化合物であることを特徴とする請求項6記載の反射防止積層体。

【公開番号】特開2008−55911(P2008−55911A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−235205(P2007−235205)
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【分割の表示】特願2001−34947(P2001−34947)の分割
【原出願日】平成13年2月13日(2001.2.13)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】