説明

反応方法

【課題】例えば、trans-1,2-ビス(フェニルスルホニル)エチレン等を合成できる化合物を、簡単、かつ、低廉なコストで、生産性良く製造する方法を提供することである。
【解決手段】下記一般式[I]で表される化合物と下記一般式[II]で表される化合物との反応工程Aと、前記反応工程Aによる生成物が酸化される酸化工程Bとを具備し、前記酸化工程Bは、酸化触媒および相間移動触媒の存在下で行われる反応方法。
一般式[I] CRHX−CRX
一般式[II] PhSM

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は反応方法に関する。例えば、有機電子デバイスや導電性材料として有望なベンゾポルフィリンやイソインドールポリマーの合成原料として有用な、例えばtrans-1,2-ビス(フェニルスルホニル)エチレン等の化合物の工業的に有利な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
次の反応が有る。尚、下記では、本発明の理解を助ける為、公知の反応と本発明の反応とが、併せて、記載されている。




【0003】
非特許文献1,2には、化合物3から化合物10,11が合成される方法が開示されている。
【0004】
非特許文献3には、化合物3から化合物9が合成される方法が開示されている。
【0005】
非特許文献4には、化合物4から化合物10,11,8が合成される方法が開示されている。
【0006】
非特許文献5には、化合物7から化合物8が合成される方法が開示されている。化合物7は非特許文献6,7に開示の方法で合成されたと記載されている。
【0007】
非特許文献6には、化合物1から化合物5が合成される方法が開示されている。
【0008】
非特許文献7には、化合物5から化合物8が合成される方法が開示されている。化合物5から化合物7が合成される方法も開示されている。
【0009】
非特許文献8には、化合物2から化合物7が合成される方法が開示されている。化合物5から化合物7が合成される方法も開示されている。
【0010】
特許文献1,2には、化合物1から化合物6を経由して化合物8が合成される方法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】J.Chem.Soc.,PerkinTrans.,1.,2775,(1990).
【非特許文献2】Tetrahedron Letters,39,8089,(1998).
【非特許文献3】Phosphorus,Sulfur andSilicon,178,521,(2003).
【非特許文献4】Synthesis,3,491,(1999).
【非特許文献5】J.Org.Chem.,49,596,(1984).
【非特許文献6】J.Am.Chem.Soc.,77,1175,(1955).
【非特許文献7】J.Am.Chem.Soc.,76,5745,(1954).
【非特許文献8】Synth.Commun.,26(2),211,(1996).
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2003−304014号公報
【特許文献2】特開2004−351636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
化合物4は常温で気体である。従って、取扱いが困難である。化合物2は液体であるものの、沸点が32℃である。更に、高価で、可燃性が極めて高い。化合物1も高価である。従って、化合物8を得るのに、これ等の化合物が出発原料となる合成技術は好ましいとは言えない。
【0014】
化合物5から化合物6を経由して化合物8を合成する手法は、高価で、かつ、有毒なセレン試薬の使用が必要である。又、高価で、かつ、爆発の恐れが有るm−クロロ過安息香酸(m−CPBA)を使用する必要が有る。更に、化合物7から化合物8を合成する際に、大量製造設備対応困難な光異性化反応が必要などの問題も有る。
【0015】
化合物10から化合物8が、直接、合成される手法は、反応が進行し難く、未反応物などの不純物が多い。この為、精製が必要であった。従って、コストが高く付いた。又、大量の溶媒を必要とし、一つの反応容器で1回に合成できる生産量にも限界が有る。すなわち、生産性が悪い。
【0016】
従って、本発明が解決しようとする課題は、例えばtrans-1,2-ビス(フェニルスルホニル)エチレン等を合成できる化合物(例えば、中間化合物)を、簡単に、高収率、かつ、低廉なコストで、生産性良く製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記課題は、
下記一般式[I]で表される化合物と下記一般式[II]で表される化合物との反応工程Aと、
前記反応工程Aによる生成物が酸化される酸化工程B
とを具備し、
前記酸化工程Bは、酸化触媒および相間移動触媒の存在下で行われる
ことを特徴とする反応方法によって解決される。
一般式[I] CRHX−CRX
[一般式[I]中、RはH、X又はアルキル基である。全てのRは同一でも異なっていても良い。Xは反応性基である。全てのXは同一でも異なっていても良い。]
一般式[II] PhSM
[一般式[II]中、Phは置換基を有することもあるフェニル基である。MはH又は金属原子である。]
【0018】
好ましくは、前記反応方法であって、反応工程Aで生成する化合物が下記一般式[III]で表される化合物であることを特徴とする反応方法によって解決される。
一般式[III] PhS−CRH−CRX
[一般式[III]中、Phは置換基を有することもあるフェニル基である。RはH、X又はアルキル基である。全てのRは同一でも異なっていても良い。Xは反応性基である。全てのXは同一でも異なっていても良い。]
【0019】
好ましくは、前記反応方法であって、酸化工程Bで生成する化合物が下記一般式[IV]で表される化合物であることを特徴とする反応方法によって解決される。
一般式[IV] PhOS−CRH−CRX
[一般式[IV]中、Phは置換基を有することもあるフェニル基である。RはH、X又はアルキル基である。全てのRは同一でも異なっていても良い。Xは反応性基である。全てのXは同一でも異なっていても良い。]
【0020】
好ましくは、前記反応方法であって、酸化工程Bにおける酸化剤がHであることを特徴とする反応方法によって解決される。Hは、例えば過酸化水素水である。
【0021】
好ましくは、前記反応方法であって、酸化工程Bは水と有機溶媒との混合溶媒下で行われることを特徴とする反応方法によって解決される。特に、好ましくは、水:有機溶媒=1:0.01〜10(体積比)の割合の混合溶媒下で行われる。前記有機溶媒は、好ましくは、炭化水素系の溶剤である。特に好ましくは、トルエン、酢酸エチル、ジクロロメタン、クロロホルム、メチルイソブチルケトン、メチル−t−ブチルエーテル等の溶剤である。
【0022】
好ましくは、前記反応方法であって、相間移動触媒が、一般式RNX及び一般式RPX(Rは炭化水素残基、Xは酸基)で表される化合物の群の中から選ばれる少なくとも一種の化合物であることを特徴とする反応方法によって解決される。
【0023】
好ましくは、前記反応方法であって、反応工程Aは塩基触媒の存在下で行われることを特徴とする反応方法によって解決される。
【0024】
好ましくは、前記反応方法であって、反応工程Aは窒素雰囲気下および/または窒素ガスバブリング下で行われることを特徴とする反応方法によって解決される。特に好ましくは、窒素ガスバブリング下で行われる。
【発明の効果】
【0025】
例えば、trans-1,2-ビス(フェニルスルホニル)エチレン等の原料となる化合物が、簡単、高収率、かつ、低廉なコストで、生産性良く得られる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は反応方法である。この反応方法は、反応工程Aと、酸化工程Bとを具備する。反応工程Aは、下記一般式[I]で表される化合物と、下記一般式[II]で表される化合物とが反応する工程である。反応工程Aで生成する化合物は、例えば下記一般式[III]で表される化合物である。酸化工程Bは、前記反応工程Aによる生成物が酸化される工程である。酸化工程Bで生成する化合物は、例えば下記一般式[IV]で表される化合物である。前記酸化工程Bは、特に、酸化触媒および相間移動触媒の存在下で行われる。
【0027】
一般式[I] CRHX−CRX
[一般式[I]中、RはH、X又はアルキル基である。全てのRは同一でも異なっていても良い。Xは反応性基である。全てのXは同一でも異なっていても良い。]
一般式[II] PhSM
[一般式[II]中、Phは置換基を有することもあるフェニル基である。MはH又は金属原子である。]
一般式[III] PhS−CRH−CRX
[一般式[III]中、Phは置換基を有することもあるフェニル基である。RはH、X又はアルキル基である。全てのRは同一でも異なっていても良い。Xは反応性基である。全てのXは同一でも異なっていても良い。]
一般式[IV] PhOS−CRH−CRX
[一般式[IV]中、Phは置換基を有することもあるフェニル基である。RはH、X又はアルキル基である。全てのRは同一でも異なっていても良い。Xは反応性基である。全てのXは同一でも異なっていても良い。]
【0028】
前記酸化工程Bにおける酸化剤は、酸化能力を有する剤であれば良い。しかしながら、好ましくは、Hである。特に、過酸化水素水である。前記酸化工程Bは、好ましくは、水と有機溶媒との混合溶媒下で行われる。特に、水:有機溶媒=1:0.01〜10(体積比)の割合の混合溶媒下で行われる。前記有機溶媒は、好ましくは、炭化水素系の溶剤である。有機溶媒は、例えば水との相溶性が乏しい溶媒である。本明細書で「炭化水素系」と言った場合、C,Hのみで構成される炭化水素に限られるのでは無く、例えばC,H,Oで構成される場合、C,H,Nで構成される場合なども広く含まれる。そして、前記炭化水素系の溶剤としては、例えばトルエン、酢酸エチル、ジクロロメタン、クロロホルム、メチルイソブチルケトン、メチル−t−ブチルエーテル等である。この種の溶剤は、水との相溶性が低く、混和が起き難い。
【0029】
前記反応工程Aは、好ましくは、塩基触媒の存在下で行われる。前記反応工程Aは、好ましくは、窒素雰囲気下および/または窒素ガスバブリング下で行われる。特に好ましくは、窒素ガスバブリング下で行われる。尚、窒素ガスバブリング下で行われた場合、最終的には、反応系は窒素ガス雰囲気のものになる。
【0030】
以下、更に詳しく説明される。
【0031】
前記一般式[I]におけるRは、H,X又はアルキル基である。アルキル基は、好ましくは、炭素数が5以下のアルキル基である。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などである。Xは反応性基である。前記反応性基は、好ましくは、例えばCl,Br,I等のハロゲン原子である。或いは、メシル基、トシル基、トリフラート基である。特に好ましいのはハロゲン原子である。前記RはH又はアルキル基の場合が特に好ましいものであった。中でもHであった。前記XはClの場合が特に好ましいものであった。そして、前記一般式[I]で表される化合物は、入手が容易であった。低廉なコストで得られた。かつ、取扱いが容易であった。
【0032】
前記一般式[II]におけるPhはフェニル基である。フェニル基は、1〜5個の置換基を有していても良い。この置換基は、好ましくは、炭素数が5以下の炭化水素系の基である。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などのアルキル基である。或いは、アルキレン基である。又は、メトキシ基などのアルコキシ基である。フェニル基は、勿論、置換基を持たない場合も有る。前記一般式[II]におけるMは、H又は金属原子である。
【0033】
前記一般式[III][IV]のPh,R,Xは、前記一般式[I][II]のPh,R,Xに準ずる。
【0034】
前記酸化工程Bで用いられる相間移動触媒としては各種の化合物が挙げられる。例えば、一般式RNX(Rは炭化水素残基(例えば、アルキル基、アリル基、アリール基など)、Xは酸基(Cl,Br,I,HSO等))で表される化合物や、一般式RPX(Rは炭化水素残基(例えば、アルキル基、アリル基、アリール基など)、Xは酸基(Cl,Br,I,HSO等))で表される化合物が挙げられる。例えば、水にも有機溶媒にも可溶な長鎖アルキルアンモニウムカチオンを持つ塩(テトラブチルアンモニウム塩、メチルトリオクチルアンモニウム塩、ベンジルジメチルオクタデシルアンモニウム塩など)が挙げられる。勿論、これ等に限られない。その他にも、相間移動触媒として、例えばホスホニウム塩などの各種のイオン液体やクラウンエーテル等が挙げられる。そして、このような群の中から選ばれる一種または二種以上の化合物を適宜用いることが出来る。尚、本発明において、好ましい相間移動触媒は、塩化テトラメチルアンモニウム、臭化テトラエチルアンモニウム、塩化テトラエチルアンモニウム、臭化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、臭化テトラブチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、硫酸水素テトラブチルアンモニウム、塩化トリオクチルメチルアンモニウム、塩化トリオクチルメチルアンモニウム(C6〜C10の混合物)、硫酸水素トリオクチルアンモニウム、塩化ベンジルトリメチルアンモニウム、塩化ベンジルトリエチルアンモニウム、塩化ベンジルトリブチルアンモニウム、塩化フェニルトリメチルアンモニウム等であった。中でも好ましい相間移動触媒は、水への溶解度が低い塩化トリオクチルメチルアンモニウム、塩化トリオクチルメチルアンモニウム(C6〜C10の混合物))、硫酸水素トリオクチルアンモニウムであった。
【0035】
本発明において相間移動触媒が用いられた理由は次の通りである。
前記酸化工程Bにおいて、非特許文献1では、溶媒に酢酸が用いられ、又、非特許文献2では、メタノールが用いられている。前記反応工程Aにおいて、抽出に用いられる有機溶媒は、水との相溶性が低く、混和し難い溶媒が用いられる。従って、非特許文献1,2では、前記酸化反応Bを行う前に、溶媒を置き換える必要が有った。一方、本発明では、前記反応工程Aで得られた一般式[III]で表される化合物と有機溶媒とを含む溶液をそのまま前記酸化工程Bに用いることが出来、有機溶媒と水との2層反応で実施できる。このとき相間移動触媒がない場合は、反応速度が極めて遅い。2層反応を促進させる為、相間移動触媒の使用が重要である。
又、反応終了後においても、非特許文献1,2では、反応溶媒を濃縮し、水を添加し、有機溶媒で抽出する方法や、水を添加して晶析させ、結晶を取り出す方法が採用されている。このような手法は、溶媒の使用量が増え、工程が長くなり、非効率である。すなわち、コストが高く付いた。本発明では、反応終了後、そのまま、一般式[IV]で表される化合物と塩基との反応系に用いることが出来る。
【0036】
前記酸化工程Bで用いられる酸化触媒としては、例えば塩酸、硫酸、酢酸、リン酸などの酸が用いられた。他にも、タングステン酸やモリブデン酸などの金属の酸を用いることも出来る。これ等の混酸を用いることも出来た。本酸化反応では酸化剤が用いられた。この酸化剤は、好ましくは、H(過酸化水素水も含まれる。)であった。
【0037】
前記酸化工程Bで用いられる溶媒は水と有機溶媒との混合溶媒であった。好ましくは、水:有機溶媒=1:0.01〜10(体積比)の割合の混合溶媒下であった。前記比(有機溶媒/水)は、更に好ましくは、0.2以上であった。前記比(有機溶媒/水)は、更に好ましくは、5以下であった。前記有機溶媒は、好ましくは、水との相溶性が低く、混和し難い溶媒である。例えば、トルエンであった。その他にも、酢酸エチル、ジクロロメタン、クロロホルム、メチルイソブチルケトン、メチル−t−ブチルエーテル等の有機溶媒であっても良い。本酸化反応の後、例えばトルエンによる抽出が行われる。すなわち、前記一般式[IV]で表される化合物を含むトルエン溶液が得られた。この場合、この溶液を、そのまま、一般式[IV]で表される化合物と塩基との反応系に用いることが出来る。
【0038】
前記反応工程Aは、好ましくは、塩基触媒の存在下で行われた。塩基触媒としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水素化ナトリウム、ナトリウムメトキシド、カリウム−t−ブトキシド、炭酸カリウム等が用いられた。
【0039】
前記反応工程Aは、好ましくは、窒素雰囲気下あるいは窒素バブリング下で行われた。特に、窒素ガスを溶液中に供給するバブリング下で行われた。これにより、ジフェニルジスルフィドの副生反応が大幅に抑制できた。すなわち、窒素ガスバブリングが行われて無い非特許文献1,2,3の技術にあっては、ジフェニルジスルフィドの副生量が多かった。本反応後に、有機溶媒による抽出が行われた。これにより、前記一般式[III]で表される化合物と有機溶媒とを含む溶液が得られた。この溶液が前記酸化反応の系に供された。これから判る通り、上記反応系では、有機溶媒として同一の溶媒(例えば、トルエン)を用いることが出来た。このことは好都合である。
【0040】
前記酸化工程Bで生成した化合物(例えば、下記一般式[IV]で表される化合物)からは、塩基との反応によって、下記一般式[V]で表される化合物が生成する。
一般式[V] PhOS−CR=CRX
[一般式[V]中、Phは置換基を有することもあるフェニル基である。RはH、X又はアルキル基である。全てのRは同一でも異なっていても良い。Xは反応性基である。]
前記塩基は、好ましくは、アミン類であった。アミン類としては各種のアミンを用いることが出来る。例えば、アルキルアミンや、環状アミン(例えば、ピリジン、N−メチルモルホリン等)が挙げられる。特に好ましいアミンはアルキルアミンであった。最も好ましいアミンは第3級アミンNR(Rは、好ましくは、炭素数が1〜8のアルキル基。全てのRは同一でも、異なっていても良い。)であった。
【0041】
このアミン類による脱ハロゲン化水素(例えば、脱塩化水素)の反応においても、相間移動触媒を用いるのが好ましかった。尚、本反応で用いる相間移動触媒としては前記相間移動触媒と同様な相間移動触媒が挙げられる。この反応系でも相間移動触媒を用いるのが好ましかった理由は次の通りであった。
非特許文献4の技術の再現試験が本発明者により行われた。反応条件は次の通りであった。PhOSCHCHCl中にEtN(1当量)が滴下された。滴下温度は5℃であった。滴下時間は45分であった。反応時間は16〜18時間であった。反応溶媒はベンゼンであった。反応後、濾過した。濾液を6MのHClで中和した。この後、濃縮し、カラムを用いて精製した。PhOSCH=CHClの収率は78%であった。非特許文献2の技術の場合でも、PhOSCH=CHClの収率は87%である。
これに対して、相間移動触媒(Aliquat336)が用いられた反応系では、PhOSCH=CHClが、高収率で、得られた。すなわち、PhOSCHCHCl中にEtN(1当量)が滴下された。滴下温度は15℃であった。滴下時間は30分であった。反応時間は30分間であった。反応溶媒はトルエンと水の混合溶媒であった。反応後、分液洗浄が行われた。この後、活性炭による処理が行われ、濃縮が行われた。精製なしで得られたPhOSCH=CHClの収率は略100%であった。すなわち、格別な精製操作なしでも、高純度なPhOSCH=CHClが高収率で得られた。尚、トルエンの代わりに、酢酸エチル、ジクロロメタン、クロロホルム、メチルイソブチルケトン、メチル−t−ブチルエーテル等の有機溶媒が用いられても同様な結果であった。
このことから、本反応系で相間移動触媒を用いた場合、その優位性(重要性)を理解することが出来る。
【0042】
前記一般式[V]で表される化合物と下記一般式[VI]で表される化合物との反応によって、下記一般式[VII]で表される化合物が生成する。trans-1,2-ビス(フェニルスルホニル)エチレンに代表される下記一般式[VII]で表される化合物は、例えば有機電子デバイス(例えば、電界効果トランジスタ等)、光学記録媒体、導電性高分子材料(例えば、帯電防止材料、電池の電極材料、表示素子などの電子材料)等の原料となる。例えば、ベンゾポルフィリンやイソインドールポリマー等の原料として好適である。
一般式[VI] (PhSO
[一般式[VI]中、Phは置換基を有することもあるフェニル基である。kは1又は2である。MはH又は金属原子である。]
一般式[VII] PhOS−CR=C(R)SOPh
[一般式[VII]中、Phは置換基を有することもあるフェニル基である。全てのPhは同一でも異なっていても良い。RはH、X又はアルキル基である。全てのRは同一でも異なっていても良い。Xは反応性基である。]
尚、この一般式[VII]で表される化合物は、例えばtrans型の化合物である。
前記一般式[VI][VII]におけるPhはフェニル基である。フェニル基は、1〜5個の置換基を有していても良い。置換基は、好ましくは、炭素数が5以下の炭化水素系の基である。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などのアルキル基である。或いは、アルキレン基である。又は、メトキシ基などのアルコキシ基である。フェニル基は、勿論、置換基を持たない場合も有る。前記一般式[VI]におけるMは金属原子である。例えば、アルカリ金属(例えば、Na,K等)である。又は、アルカリ土類金属(例えば、Mg,Ca等)である。Mは、好ましくは、アルカリ金属であった。中でも、Na,Kであった。前記一般式[VI]におけるkは1又は2である。金属の配位数により、kは1であったり、2であったりする。
【0043】
前記一般式[V]で表される化合物と前記一般式[VI]で表される化合物との反応は、好ましくは、相間移動触媒の存在下で行われる。相間移動触媒としては前述した相間移動触媒を用いることが出来る。そして、好ましくは、一般式[V]で表される化合物が一般式[VI]で表される化合物の溶液中に添加された。例えば、一般式[V]で表される化合物を含有する溶液が、一般式[VI]で表される化合物を含有する溶液中に滴下された。その理由は次の通りであった。すなわち、一般式[V]で表される化合物が一般式[VI]で表される化合物の溶液中に添加(滴下)された場合と、一般式[VI]で表される化合物が一般式[V]で表される化合物の溶液中に添加(滴下)された場合とを比べた処、未反応物の結晶へのかみ込みは前者の場合の方が少なかったからである。つまり、前者の場合に、より高純度なtrans-1,2-ビス(フェニルスルホニル)エチレンが得られたからである。この反応は、好ましくは、水と有機溶媒との混合溶媒下で行われる。前記反応は、特に好ましくは、水:有機溶媒=1:0.01〜10(体積比)の割合の混合溶媒下で行われた。中でも、前記比(有機溶媒/水)が0.2以上であった。前記比(有機溶媒/水)が5以下であった。用いられる有機溶媒としては各種の化合物が挙げられる。例えば、炭化水素系の溶媒が挙げられる。例えば、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等)、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等)、ニトリル類(例えば、アセトニトリル等)、エーテル類(例えば、テトラヒドロフラン等)、芳香族炭化水素類(例えば、ベンゼン、トルエン等)、脂肪族炭化水素類(例えば、ヘキサン等)、エステル類(例えば、酢酸エチル等)などが挙げられる。中でも好ましい有機溶媒は、トルエン、テトラヒドロフランであった。そして、このような群の中から選ばれる一種または二種以上の化合物を適宜用いることが出来る。
【0044】
前記一般式[V]で表される化合物と前記一般式[VI]で表される化合物との反応は、好ましくは、相間移動触媒の存在下で行われる。その理由は次の通りであった。
非特許文献4の技術の再現試験が本発明者により行われた。反応条件は次の通りであった。溶媒はメタノール/水=2/1(体積比)であった。反応温度は室温であった。反応時間は3時間であった。得られたtrans-1,2-ビス(フェニルスルホニル)エチレンの反応率は低かった。ここで反応率とは、HPLC分析における生成物の面積百分率/(生成物の面積百分率+未反応物の面積百分率)×100の値をいう。例えば、1当量のPhSONaが用いられた場合の反応率はたった5%であった。2当量のPhSONaが用いられ場合の反応率は13%であった。還流温度まで上げると、ようやく、反応は終了した。反応後には濾取・乾燥が行われた。この後、メタノールでの再結晶操作が行われた。非特許文献1の技術が用いられた場合、大量の溶媒を使わない限り、未反応物の結晶へのかみ込みの多いことが判った。すなわち、精製によっても、高純度品が得られ難かった。
次の条件下で上記反応が行われた。相間移動触媒の使用が特徴の一つである。以下の例で用いられた相間移動触媒はAliquat336(メチルトリオクチルアンモニウムクロライド(C6〜C10の混合物))である。反応温度が63℃、反応時間が3時間、溶媒がTHF/水=2/1(体積比)で、2当量のPhSONaが用いられた場合には、trans-1,2-ビス(フェニルスルホニル)エチレンの収率は92.4%であった。反応温度が87℃、反応時間が1時間、溶媒がトルエン/水=2/1(体積比)で、2当量のPhSONaが用いられた場合には、trans-1,2-ビス(フェニルスルホニル)エチレンの収率は92.3%であった。反応温度が50℃、反応時間が4時間、溶媒がトルエン/水=2/1(体積比)で、1.5当量のPhSONaが用いられた場合には、trans-1,2-ビス(フェニルスルホニル)エチレンの収率は95.7%であった。反応温度が70℃、反応時間が3時間、溶媒がトルエン/水=2/1(体積比)で、1当量のPhSONaが用いられた場合には、trans-1,2-ビス(フェニルスルホニル)エチレンの収率は91.3%であった。反応後に冷却(0〜5℃)が行われた。そして、濾取・乾燥が行われた。但し、再結晶操作は行われなかった。再結晶操作の必要が無かった。すなわち、非特許文献1の場合に行われた再結晶操作が行われなくても、高純度品が得られた。つまり、精製なしでも99%以上の高純度品が得られた。未反応物の結晶へのかみ込みは少なかった。
このことから、本反応系で相間移動触媒を用いた場合、その優位性(重要性)を理解することが出来る。
【0045】
PhOSCHCHClにPhSONaを大量の溶媒中で作用させ、直接、PhOSCH=CHSOPhを得ることも出来る。しかしながら、この場合には、反応率が悪く、収率が低かった。反応温度を高くすると、不純物が増加した。このようなことから、PhOSCHCHClにPhSONaを作用させ、直接、PhOSCH=CHSOPhを得る手法は好ましくなかった。
【0046】
以下、具体的な実施例を挙げて説明する。しかし、本発明は、以下の実施例に限定されるものでは無い。
【0047】
[実施例]
[1,1−ジクロロ−2−(フェニルチオ)エタン(化合物9)]
[化合物9の具体的な合成例1]
ナトリウムメトキシド(59.0g)とDMF(654.0g)とが、3Lの四ツ口フラスコに加えられた。この後、溶液中に窒素ガスが供給され、バブリングが行われた。このバブリングは反応終了まで行われた。バブリング開始時の温度は10〜15℃であった。バブリング開始後、30分経過してから、チオフェノール(109.0g)とDMF(218.0g)との混合溶液が前記溶液(ナトリウムメトキシド+DMF)中に滴下された。滴下後、15分間の撹拌が行われた。この後、1,1,2−トリクロロエタン(396.0g)が滴下された。滴下後、60℃に加熱が行われた。この後、3時間の撹拌が行われた。この後、冷却(20〜30℃)が行われた。冷却後、トルエン(700.0g)と水(700.0g)とが添加された。添加後、15分間の撹拌が行われた。撹拌後、静置・分液が行われた。水層がトルエンで抽出された。この後、有機層は混合され、3%苛性ソーダ水溶液(700.0g)による分液洗浄が2回行われた。
これにより、1,1−ジクロロ−2−(フェニルチオ)エタン(化合物9)のトルエン溶液(1637.0g)が得られた。一部サンプリングが行われ、トルエンの留去が行われた。収率は94.8%であった。トルエン溶液(1637.0g)中の化合物9は194.2gであった。
得られた1,1−ジクロロ−2−(フェニルチオ)エタン(化合物9)のNMRデータは次の通りであった。

【0048】
[化合物9の具体的な合成例2]
ナトリウムメトキシド(1.2g)とDMF(18.9g)とが、100mLの三ツ口フラスコに加えられた。この後、窒素ガスバブリングが行われた。このバブリングは反応終了まで行われた。バブリング開始時の温度は10〜15℃であった。バブリング開始後、30分経過してから、チオフェノール(2.36g)が前記溶液(ナトリウムメトキシド+DMF)中に滴下された。滴下後、15分間の撹拌が行われた。この後、1,1,2−トリクロロエタン(8.7g)が滴下された。滴下後、60℃に加熱が行われた。この後、3時間の撹拌が行われた。この後、冷却(20〜30℃)が行われた。冷却後、MTBE(25.9g)と水(35g)とが添加された。添加後、15分間の撹拌が行われた。撹拌後、静置・分液が行われた。水層がMTBEで抽出された。この後、有機層は混合され、5%苛性ソーダ水溶液(25g)による分液洗浄が2回行われた。この後、硫酸マグネシウムによる脱水操作が行われた。この後、濃縮が行われた。そして、MTBEが留去された。
これにより、1,1−ジクロロ−2−(フェニルチオ)エタン(化合物9)が得られた。収率は95.5%であった。
【0049】
[1,1−ジクロロ−2−(フェニルスルホニル)エタン(化合物10)]
[1−クロロ−2−(フェニルスルホニル)エチレン(化合物11)]
[化合物10,11の具体的な合成例]
前記合成例[化合物9の具体的な合成例1]で得た1,1−ジクロロ−2−(フェニルチオ)エタンのトルエン溶液(1637.0g:化合物9は194.2g)と、タングステン酸ナトリウム・2水和物(3.1g)と、塩化トリオクチルメチルアンモニウム(C6〜C10の混合物:Aliquat336:3.8g)と、85%リン酸(2.1g)と、水(332.0g)とが3Lの四ツ口フラスコに加えられた。この後、50℃に加熱された。この後、35%過酸化水素水(200.0g)が、ゆっくり、滴下された。滴下後、2時間の撹拌が行われた。撹拌後、冷却(15〜25℃)が行われた。冷却後、10%チオ硫酸ナトリウム水溶液の滴下が行われ、過剰な過酸化物の分解が行われた。この後、炭酸水素ナトリウムによる中和(pH7〜8)が行われた。トルエン層には、化合物10が存在している。
この後、トリエチルアミン(94.0g)が滴下された。滴下後、30分間の撹拌が行われた。この後、静置・分液が行われた。有機層が水洗された。この後、活性炭が添加された。そして、30分間の撹拌が行われた。撹拌後、濾過により活性炭が除去された。
これにより、1−クロロ−2−(フェニルスルホニル)エチレンのトルエン溶液(1810.0g)が得られた。一部サンプリングが行われ、トルエンの留去が行われた。収率は、ほぼ100%であった。トルエン溶液(1810.0g)中の化合物11は190.0gであった。
得られた1−クロロ−2−(フェニルスルホニル)エチレン(化合物11)のNMRデータは次の通りであった。

【0050】
[trans-1,2-ビス(フェニルスルホニル)エチレン(化合物8)]
[化合物8の具体的な合成例1]
ベンゼンスルフィン酸ナトリウム・2水和物(62.7g;1.0当量)と水(249.7g)とが、1Lの四ツ口フラスコに加えられた。この後、加熱(70℃)が行われた。前記合成例[化合物10,11の具体的な合成例]で得た1−クロロ−2−(フェニルスルホニル)エチレン(化合物11)のトルエン溶液(603.3g:化合物11は63.3g)が、ゆっくり、滴下された。尚、このトルエン溶液は前記合成例[化合物10,11の具体的な合成例]で得た1−クロロ−2−(フェニルスルホニル)エチレン(化合物11)のトルエン溶液であり、特別な精製が施されてない為、化合物10の合成時に使用された相間移動触媒(Aliquat336)が残存している。滴下後、3時間の撹拌が行われた。撹拌後、冷却(0〜5℃)が行われた。析出した結晶が濾過された。そして、トルエン(300g)によるリンスが行われた。次いで、THF(300g)によるリンスが2回行われた。この後、減圧乾燥(60℃,16時間)が行われた。
これにより、白色の粉末が得られた。収率は91.3%であった。LC面百値は99.6%であった。更なる追加の精製が不必要であった。
得られたtrans-1,2-ビス(フェニルスルホニル)エチレン(化合物8)のNMRデータ等は次の通りであった。

【0051】
[化合物8の具体的な合成例2(溶媒はTHF)]
ベンゼンスルフィン酸ナトリウム・2水和物(18.8g;1.0当量)と水(74.9g)とが、300Lの四ツ口フラスコに加えられた。この後、加熱(50℃)が行われた。前記合成例[化合物10,11の具体的な合成例1]で得たトルエン溶液を濃縮した1−クロロ−2−(フェニルスルホニル)エチレン(化合物11:19.0g)とTHF(162.0g)との混合溶液が、ゆっくり、滴下された。尚、この化合物11は前記合成例[化合物10,11の具体的な合成例]で得た1−クロロ−2−(フェニルスルホニル)エチレン(化合物11)であり、特別な精製が施されてない為、化合物10の合成時に使用された相間移動触媒(Aliquat336)が残存している。滴下後、64℃に昇温し、8時間の撹拌が行われた。撹拌後、冷却(0〜5℃)が行われた。析出した結晶が濾過された。そして、60%メタノール水(30g)によるリンスが行われた。この後、減圧乾燥(60℃,4時間)が行われた。
これにより、白色の粉末が得られた。収率は88.8%であった。LC面百値は99.8%であった。更なる追加の精製が不必要であった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式[I]で表される化合物と下記一般式[II]で表される化合物との反応工程Aと、
前記反応工程Aによる生成物が酸化される酸化工程B
とを具備し、
前記酸化工程Bは、酸化触媒および相間移動触媒の存在下で行われる
ことを特徴とする反応方法。
一般式[I] CRHX−CRX
[一般式[I]中、RはH、X又はアルキル基である。全てのRは同一でも異なっていても良い。Xは反応性基である。全てのXは同一でも異なっていても良い。]
一般式[II] PhSM
[一般式[II]中、Phは置換基を有することもあるフェニル基である。MはH又は金属原子である。]
【請求項2】
反応工程Aで生成する化合物が下記一般式[III]で表される化合物である
ことを特徴とする請求項1の反応方法。
一般式[III] PhS−CRH−CRX
[一般式[III]中、Phは置換基を有することもあるフェニル基である。RはH、X又はアルキル基である。全てのRは同一でも異なっていても良い。Xは反応性基である。全てのXは同一でも異なっていても良い。]
【請求項3】
酸化工程Bで生成する化合物が下記一般式[IV]で表される化合物である
ことを特徴とする請求項1又は請求項2の反応方法。
一般式[IV] PhOS−CRH−CRX
[一般式[IV]中、Phは置換基を有することもあるフェニル基である。RはH、X又はアルキル基である。全てのRは同一でも異なっていても良い。Xは反応性基である。全てのXは同一でも異なっていても良い。]
【請求項4】
酸化工程Bにおける酸化剤がHである
ことを特徴とする請求項1〜請求項3いずれかの反応方法。
【請求項5】
酸化工程Bは水と有機溶媒との混合溶媒下で行われる
ことを特徴とする請求項1〜請求項4いずれかの反応方法。
【請求項6】
酸化工程Bは水:有機溶媒=1:0.01〜10(体積比)の割合の混合溶媒下で行われる
ことを特徴とする請求項1〜請求項4いずれかの反応方法。
【請求項7】
有機溶媒が炭化水素系の溶媒である
ことを特徴とする請求項5又は請求項6の反応方法。
【請求項8】
相間移動触媒が、一般式RNX(Rは炭化水素残基、Xは酸基))で表される化合物、及び一般式RPX(Rは炭化水素残基、Xは酸基)で表される化合物の群の中から選ばれる少なくとも一種の化合物である
ことを特徴とする請求項1〜請求項7いずれかの反応方法。
【請求項9】
反応工程Aは塩基触媒の存在下で行われる
ことを特徴とする請求項1〜請求項8いずれかの反応方法。
【請求項10】
反応工程Aは窒素雰囲気下および/または窒素ガスバブリング下で行われる
ことを特徴とする請求項1〜請求項9いずれかの反応方法。



【公開番号】特開2013−14543(P2013−14543A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−148645(P2011−148645)
【出願日】平成23年7月4日(2011.7.4)
【出願人】(000175618)三協化成株式会社 (10)
【Fターム(参考)】