説明

反応装置

【課題】 伝熱管を管板に取り付ける部分の溶接や運転開始後の機器の保守が容易な反応装置を提供する。
【解決手段】 反応容器と、反応容器の内部に設けられた冷却もしくは加熱のための熱媒体を流通させる伝熱管3を有し、反応容器の一部が残部に固定された管板1であり、管板1が、反応容器内に収容される反応流体と接触する位置に配された第一の板状部材1aと、反応流体と接触しない位置に配された第二の板状部材1bを有し、第一の板状部材1aの少なくとも反応流体と接触する部分が、反応流体に対して相対的に高い耐蝕性を有する高耐蝕金属からなり、第二の板状部材1bは、反応流体に対して相対的に低い耐蝕性を有する低耐蝕金属からなり、伝熱管3は第一の板状部材1aに溶接によって固定され、第一の板状部材1aは反応容器の前記残部に溶接によって固定され、第二の板状部材1bは反応容器の前記残部に着脱可能に固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応容器内部に冷却もしくは加熱のための熱媒体を流通させる伝熱管を有し、この伝熱管が管板に接続された構造を有する反応装置であって、反応容器内部に腐食性の反応流体を収容する反応装置に関する。特には、アンモニアおよび二酸化炭素ガスを含む混合ガスの凝縮と尿素合成が一体化された尿素凝縮合成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
尿素を生産する方法としてはアンモニアと二酸化炭素とを尿素合成圧力および尿素合成温度下にて合成塔内で反応させ、得られた尿素合成混合物から未反応の(尿素合成への中間生成物である)アンモニウムカーバメートをアンモニアおよび二酸化炭素との混合ガスとして分離し、この混合ガスを凝縮させて尿素合成域に循環し、一方、アンモニウムカーバメート等を分離した尿素合成混合物から尿素溶液を得ることがよく知られており、種々の提案がなされてきた。
【0003】
最近では、高圧合成系の機器数を減らして総合的な機器容積を減らし、そして設備の設置面積や設置高さを低くしてより経済的な尿素プラントを実現するために、アンモニアおよび二酸化炭素ガスを含む混合ガスの凝縮のための装置と、尿素合成のための装置とを一体化する凝縮合成塔が開発されている。
【0004】
特許文献1(特開2002−20360号公報)およびこれに対応する特許文献2(米国特許第6,476,262号公報)には、縦型合成塔の中央部から底部にかけて冷却のための管束を設置し、未反応アンモニアおよび二酸化炭素ガスを含む混合ガスと吸収媒体を底部から導入し原料アンモニアを底部と中央部に供給して、中間生成物であるアンモニウムカーバメートの生成反応熱を管束で冷却除去して混合ガスの凝縮を促進させ、更に合成塔の中央部から上部にかけて合成反応を進行させることにより、従来は別々の機器として設置されていた凝縮器と合成塔を一体化させることが記載される。
【0005】
特許文献3(米国特許第5,767,313号公報)には、横型凝縮合成塔の片側に冷却のための管束を設置し、管束側から原料アンモニアを導入して多数の堰を経て反管束側に順次流れるようにし、反応器全体の底部から未反応アンモニアおよび二酸化炭素ガスを含む混合ガスを流入させて主として管束部で混合ガスの凝縮を行い、残りの容器内で更に合成反応を行わせることにより別々の機器として設置されていた凝縮器と合成塔を一体化させることが記載される。特許文献4(欧州特許第0155735号公報)に記載される装置は、凝縮器と合成塔は完全には一体化されてはいないが凝縮器では混合ガスの凝縮のみならず合成反応も開始されている点では同じである。
【0006】
一般に尿素合成に於ける中間生成物であるアンモニウムカーバメートを含んだ尿素合成混合物は金属に対して激しい腐食性を有する。そのため尿素合成系の合成塔、凝縮器やストリッパー等の機器では、尿素の合成液に触れる部分は全て尿素合成混合物に対して耐蝕性を有する高クロムオーステナイト鋼、二相合金、チタンあるいは316Lオーステナイト鋼などの耐蝕金属で形成される。他方で、尿素合成に必要な圧力は12.5MPaG〜35MPaG(圧力単位におけるGは、ゲージ圧であることを意味する)程度と高圧であるために機器の耐圧部の基本材料は経済的でかつ信頼性の高い炭素鋼や低合金鋼とすることが好ましい。このため尿素合成系の機器は耐圧部を炭素鋼や低合金鋼とし、内面の尿素合成混合物に接する部分を全て耐蝕金属で覆う方法が採用されてきた。
【0007】
最近開発された尿素凝縮合成塔でも機器本体の材料構成は基本的に同じである。ただし尿素凝縮合成塔の場合は従来とは異なり冷却のための管束が腐食性の高い尿素合成混合物中に挿入されており、管を管板に取り付ける部分には特別な配慮が求められる。すなわち耐蝕金属製の管を、耐蝕金属と炭素鋼もしくは低合金鋼との2種の材料で構成される管板の耐蝕金属側に、すなわち尿素合成混合物に接する側に、隙間のない完全とけ込み溶接で固定しなければならないことである。この現実的な溶接方法として、実際には、管側(チャンネル側)管板面から溶接トーチを挿入して行うインナーボアー溶接が採用される。これは次の2つの理由による。
【0008】
(1)尿素の合成圧力の高圧力に耐えかつ尿素合成混合物の腐食性に耐えるために、管束を取り付ける管板は耐圧部材料を炭素鋼や低合金鋼とし、尿素合成混合物に接する機器内側部分に耐蝕金属を貼り合わせた物とされる。通常は耐圧部の炭素鋼もしくは低合金鋼の上に耐蝕金属による肉盛(オーバーレイ)溶接を行って2種の材料が機械的に一体化された管板を製作する。この管板に耐蝕金属製の管を取り付けるには通常の管側(チャンネル側)から拡管あるいは溶接取り付けする方法は適用できず、管板の耐蝕金属層に直接管を溶接取り付けする事が必須である。それは通常の管側からの拡管あるいは溶接で管を管板に取り付ける方法では腐食性の尿素合成混合物が管板の耐圧部である炭素鋼や低合金鋼部分に進入し大事な耐圧部を腐食させることを防止出来ないからである。
【0009】
(2)尿素合成混合物に対する経済的でよく使用される耐蝕材料である高クロムオーステナイト鋼(25Cr−22Ni−2Mo鋼など)、二相合金(25Cr−7Ni−3Mo鋼など)、チタンおよび316Lオーステナイト鋼では、尿素合成混合物中の溶存酸素により金属表面に不働態被膜を生成させることにより、尿素合成混合物に対して耐蝕性を得ている。従って、金属の表面に狭い隙間があると、隙間の中に溶存酸素が供給されず、その部分では不働態被膜が形成されず、隙間の部分のみ選択的に腐食される隙間腐食を起こす。このために上記の管を管板の耐蝕金属層に溶接する溶接は尿素合成混合物側に隙間の出来ない溶接方法を採用する必要がある。
【特許文献1】特開2002−20360号公報
【特許文献2】米国特許第6,476,262号公報
【特許文献3】米国特許第5,767,313号公報
【特許文献4】欧州特許第0155735号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来の尿素凝縮合成塔で管束の管を管板に取り付ける部分で採用されていた、2種の材料で構成され機械的に一体化した管板に、耐蝕金属製の管を管板の耐蝕金属側にインナーボア溶接で取り付ける方法は、次のような点で更なる改善が求められている。
【0011】
(1)管を管板に取り付ける溶接が難しく、かつ溶接後に溶接欠陥等の問題が発生した場合の対応が容易でない。
【0012】
尿素凝縮合成塔は高圧機器であり、管板は一般に超厚肉となり機器の大きさや設計条件により500mmから800mmの厚さにも及ぶ。図8に示すように、インナーボア溶接は管側の管板面から通常は20mm以下の細い管穴82を通して長尺の溶接トーチ84を差し込み、超厚肉の管板81の反対側(胴側)でトーチ位置を正確に設定して、管板と管83との溶接部85において十分な溶け込みの溶接を確実に行う必要があり、かなり高度な溶接管理が要求されるため、このような溶接は容易ではない。また、溶接とそれに引き続いて行う検査が完了し次の管列の溶接を一旦開始してしまうと、もはやそれ以前に溶接した管には管外からはアクセスすることが極めて難しくなり、もし既に溶接を終えた管の溶接部等で欠陥が発見されたら多くの場合管内側から補修するしかない。この作業も細い管板穴を通して奥深く超厚肉管板の反対側(胴側)位置での作業となり極めて難しい。
【0013】
(2)運転開始後の管と管板の取り付け溶接部の保守が容易でない。
【0014】
管と管板の溶接部85あるいは管板のオーバーレイ溶接部(耐蝕金属部81aと耐圧部81bとの溶接部)に潜在していた溶接欠陥が運転開始後に運転に伴う腐食により顕在化して尿素合成混合物側から管側に漏れを生じることが想定される。また伝熱管83そのものに管製作時に潜在していた欠陥が運転に伴う腐食により顕在化して尿素合成混合物側から管側に漏れを生じることも考えられる。このように漏れが生じた場合は、ほとんどのケースで管板の管側から管板の耐蝕金属層に細くて長い管穴を通して溶接補修するなり、プラグ溶接を行うしかないが、製作時と同じようにこれらの作業は極めて難しい。
【0015】
また管板の耐圧部と耐蝕金属オーバーレイ層の界面に割れが生じそれが尿素合成混合物側に貫通した場合や、あるいは運転中の管側への尿素合成混合物の漏れにより管板の炭素鋼や低合金鋼部分が大きく腐食損傷した場合には現実的な補修方法が見あたらない。
【0016】
尿素凝縮合成装置のみならず、内部に冷却もしくは加熱のための伝熱管束を有し、この管束が固定される管板が、反応流体に対してより高い耐蝕性を有する材料とより低い耐蝕性を有する材料とで形成されるような反応装置においても上記と同様な状況となりうる。
【0017】
本発明の目的は、伝熱管を管板に取り付ける部分の溶接が容易でかつ運転開始後の機器の保守が容易な反応装置、特には尿素凝縮合成装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明により、反応容器と、該反応容器の内部に設けられた冷却もしくは加熱のための熱媒体を流通させる伝熱管を有し、
該反応容器の一部が、残部に固定された管板であり、
該管板が、反応容器内に収容される反応流体と接触する位置に配された第一の板状部材と、該反応流体と接触しない位置に配された第二の板状部材を有し、
第一の板状部材の少なくとも該反応流体と接触する部分が、該反応流体に対して相対的に高い耐蝕性を有する高耐蝕金属からなり、
第二の板状部材は、該反応流体に対して相対的に低い耐蝕性を有する低耐蝕金属からなり、
該伝熱管は第一の板状部材に溶接によって固定され、
第一の板状部材は反応容器の該残部に溶接によって固定され、
第二の板状部材は反応容器の該残部に着脱可能に固定された
ことを特徴とする反応装置が提供される。
【0019】
上記反応装置が、アンモニアと二酸化炭素を反応させて尿素合成混合物を得るための反応装置であって、
前記熱媒体が冷却媒体であり、前記反応流体が尿素合成混合物であることが好ましい。
【0020】
前記高耐蝕金属が高クロムオーステナイト鋼、二相合金、チタンまたは316Lオーステナイト鋼であることが好ましい。
【0021】
前記低耐蝕金属が炭素鋼または低合金鋼であることが好ましい。
【0022】
前記第一の板状部材が、高耐蝕金属からなることが好ましい。
【0023】
前記第二の板状部材が、第一の板状部材より厚いことが好ましい。
【0024】
前記伝熱管が、インナーボア溶接によって第一の板状部材に溶接されたことが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、冷却管などの伝熱管を管板に取り付けるための溶接が容易で、運転開始後の保守が容易な反応装置、特には尿凝縮合成装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下図面を用い、本発明について尿素凝縮合成装置を例に詳細に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0027】
図1には縦型尿素凝縮合成反応装置の下部の断面を示す。図中の上方は鉛直上方に一致する。管板1は第一の板状部材1aと第二の板状部材1bとを有する。第一の板状部材は、尿素合成混合物に対する耐蝕性を主な機能とし、第二の板状部材は尿素合成反応の圧力に耐えることを主な機能とする。このように、管板は、機能別に独立した、すなわち一体化されていない、二つの部材に分割されている。なお、尿素合成混合物は、少なくともアンモニアと二酸化炭素を含む混合ガスと、少なくともアンモニウムカーバメート(カルバミン酸アンモニウム)を含む水溶液との混合物である。この水溶液には尿素が含まれることもある。
【0028】
このために、第一の板状部材の少なくとも尿素合成混合物に接する部分は、第二の板状部材より尿素合成混合物に対する耐蝕性が相対的に高い高耐蝕金属で形成する。第二の板状部材は尿素合成混合物に接触せず、従って、第一の板状部材より尿素合成混合物に対する耐蝕性が相対的に低い低耐蝕金属で形成する。
【0029】
なお、第一の板状部材1aは反応容器の一部をなし、残部(反応容器本体2)に固定され、第二の板状部材は反応容器本体に着脱可能に固定される。また、ここに示す反応容器本体2は、円筒状の胴部2bと鏡板部2cとが溶接部2dにおいて溶接された構造を有し、その内面部2aが高耐蝕金属で形成されたものであり、第一および第二の板状部材とも円板状である。
【0030】
第一の板状部材は、尿素合成混合物に接する部分が高耐蝕金属で、残りの部分が低耐蝕金属で形成されていてもよい。例えば、低耐蝕金属からなる板状部材に高耐蝕金属からなる層を設けた構造とすることができる。しかし、耐蝕性についての信頼性の観点から、第一の板状部材が高耐蝕金属からなることが好ましく、第一の板状部材が高耐蝕金属を圧延や鍛造などして得た無垢材であることがより好ましい。所望の寸法の無垢材が得られない場合は、無垢材を溶接してつなぎ合わせ、所望の寸法の部材を得ることができる。
【0031】
耐圧部の低耐蝕金属(炭素鋼や低合金鋼材)の上に耐蝕金属材によるオーバーレイ溶接により耐蝕金属層を設ける場合、オーバーレイ層そのものやオーバーレイ層と耐圧部層との界面に溶接欠陥を生じる恐れがある。上述のように第一の板状部材に高耐蝕金属からなる無垢材を用いることにより、材料欠陥の恐れが極めて低く、より信頼性の高い機器とすることが出来る。また管板の耐圧部と耐蝕金属オーバーレイ層の界面に割れが生じそれが尿素合成混合物側に貫通するような問題は起こりえない。
【0032】
高耐蝕金属としては、尿素合成混合物に対する耐蝕性が所望のレベルにある金属を適宜使用することができる。尿素合成混合物に対する耐蝕性の観点から、25Cr−22Ni−2Mo鋼などの高クロムオーステナイト鋼;25Cr−7Ni−3Mo鋼などの二相合金;チタン;または316Lオーステナイト鋼が好ましい。
【0033】
低耐蝕金属としては、所望の強度を有する金属を適宜使用することができる。機械的強度やコストの観点から、炭素鋼;またはMn−Mo鋼やCr−Mo鋼などの低合金鋼が好ましい。
【0034】
なお、高クロムオーステナイト鋼は、概略、Crを21〜28質量%、Niを13〜24質量%、Moを0.5〜3質量%を含む鋼である。二相合金は、概略、Crを24〜30質量%、Niを5〜10質量%、Moを0.5〜4質量%含む鋼である。低合金鋼は、概略、Crを0.5〜10質量%、Moを0.4〜1.2質量%、Mnを0.2〜2質量%含む鋼である。
【0035】
第一の板状部材の厚さは、第一の板状部材だけ(第二の板状部材を取り外した状態)で冷却管の重さ等予想される加重(運転時の反応容器内の圧力による加重を除く)に対して耐えられる厚さとして適宜設計できる。運転時の反応容器内の圧力による加重は、主に第二の板状部材によって支えることができるので、第一の板状部材は運転圧力による加重に耐えることのできない厚さであってよい。第一の板状部材の高耐蝕金属部の厚さは、腐れ代を考慮して決めることができる。第一の板状部材の厚さは、冷却管の径や長さなどの条件にもよるが、概ね20mm以上100mm以下とすることができる。
【0036】
第一の板状部材をより薄くするために、第一の板状部材に、特にはその尿素合成混合物側に補強ビーム4を配することができる。補強ビームは高耐蝕金属で形成し、溶接によって第一の板状部材に固定することができる。
【0037】
第二の板状部材は、運転時の反応容器内圧力による加重を、第一の板状部材を経由して受け止める。このため、第一の板状部材の背面(尿素合成混合物とは反対側の面)に接するように設ける。このとき、第一の板状部材にかかる負担を小さくするために、第二の板状部材は、第一の板状部材の背面のできるだけ多くの部分と接するように配することが好ましく、第二の板状部材が第一の板状部材の背面全体と接することがより好ましい。
【0038】
第二の板状部材の厚さは、運転圧力等の条件にもよるが、強度の観点から第一の板状部材より厚くすることが好ましく、概ね100mm以上800mm以下とすることができる。
【0039】
第一の板状部材1aは反応容器本体2に溶接により固定される。第一の板状部材と反応容器本体は尿素合成混合物を収容する領域を形成する。尿素合成混合物を収容する領域を、高耐蝕金属によって形成するために、反応容器本体内面2aは高耐蝕金属で形成され、第一の板状部材の尿素合成混合物と接する部分も高耐蝕金属で形成され、これら高耐蝕金属部分同士を、尿素合成混合物に対する耐食性を有する溶接により溶接部5において接続する。
【0040】
第二の板状部材1bは、反応容器本体2に着脱可能に固定される。この固定のための構造は適宜設計できるが、例えば、図2に示すように、反応容器本体(ここではその鏡板部2c)に第二の板状部材を押さえるリング状部材22をボルト21によって固定することができる。また、また図3に示すように、このリング状部材と第二の板状部材とを一体化した構造を採用し、第二の板状部材をボルトで反応容器本体に固定することもできる。あるいは、図4に示すように、ブリーチロック構造によって第二の板状部材を反応容器本体に固定することもできる。つまり、第二の板状部材に勘合する部分を反応容器本体に設け、その部分の内面にネジ部41を設け、第二の板状部材をはめ込んだ後、ネジ部41と勘合するネジ部を外周に有するリング42をねじ込み、リング41に設けられたボルト43によって第二の板状部材を押さえることができる。
【0041】
冷却管3は少なくとも尿素合成混合物に接する部分が高耐蝕金属からなればよいが、管の肉厚は比較的薄いため、冷却管の全体が高耐蝕金属からなることが実用上好ましい。
【0042】
冷却管は、第一の板状部材に溶接される。特には、冷却管は第一の板状部材の高耐蝕金属部分に溶接される。冷却管と第一の板状部材との溶接は、溶接部の完全溶け込みの観点から、インナーボア溶接が好ましい。溶接部の完全溶け込みが保証できれば、他の溶接方法も採用できる。なお、インナーボア溶接は、管内側に溶接トーチを挿入し、管と管板とを内側から突き合わせて溶接する溶接方法である。
【0043】
このような構造によって、次のような効果が得られる。
【0044】
(1)管を管板に取り付ける溶接が容易となり信頼性の高い溶接継ぎ手が得られる。
【0045】
管を管板に取り付ける溶接は、第二の板状部材を取り外した状態で行えるので、管側(チャンネル側)管板面から溶接部までの距離は、従来数百mm程度にも達したのに対し、例えば数十mmと至近距離になるので溶接の管理がしやすく、より容易により信頼性の高い継ぎ手が得られる。
【0046】
また溶接部までの距離が短いことと、高耐蝕金属による部分は強度部材として期待する必要が無く、大きな管穴を設定することが可能なために、突き合わせ形状のインナーボア溶接とする必要はなく、隅肉形状の溶接継ぎ手も採用可能となる。図5にはインナーボア溶接による管3と第一の板状部材1aとの溶接部51を示し、図6には隅肉溶接による溶接部61を示す。第一の板状部材に設ける管穴は図5の場合より図6の場合の方が大きい。
【0047】
(2)製作中に溶接欠陥等の問題が発生した場合でも対応が容易である。
【0048】
製作途中で、ある管列を溶接した後に、以前に溶接した部分の管の溶接部に欠陥が発見され、管内側からこれを補修しなくてはならない場合でも、管側管板面から溶接部までの距離が近く補修がより容易である。また場合によってはインナーボア溶接で第一の板状部材に管を取り付けた後、隅肉形状の溶接継ぎ手に変更して補修する事も出来る。
【0049】
(3)運転開始後も管と管板の取り付け溶接部の保守が容易である。
【0050】
運転開始後に管と管板の溶接部あるいは管そのもののに潜在していた欠陥が運転に伴う腐食により顕在化した場合でもその対応はより容易である。
【0051】
主たる耐圧部材である第二の板状部材を取り外して高耐蝕金属による部分を露出させて対応することが出来る。管と管板の溶接部を補修する必要が有れば至近距離で作業が出来る。元々インナーボア溶接で管を取り付けた場合に、もしインナーボア溶接での補修が容易でなければ隅肉形状の溶接継ぎ手に変更して補修する事も出来る。管そのものに漏れが生じて管板面でプラグ溶接を行う必要が生じても高耐蝕金属による管板面を露出させることができるためにその溶接は極めて容易である。
【0052】
また万が一、運転中の管側への尿素合成混合物の漏れにより第二の板状部材が大きく腐食損傷したとしても、第二の板状部材を反応容器本体から取り外し溶接補修するなり丸ごと新しい物に更新することにより対応することができる。
【0053】
冷却媒体は入口側仕切室7aに不図示の供給口から供給され、管板1の管穴から逆U字状の冷却管3を通過し、管板1の管穴を経て、出口側仕切室7bに集合し、不図示の排出口から装置外に排出される。図には管の一部しか示していないが、実用上は管は複数設けられ、数百本にも及ぶことが多い。これら仕切室は適宜カバー8およびカバー内を区画する仕切り板9によって形成することができる。カバーは冷却媒体の圧力に耐えれば良く、比較的薄くすることができる。
【0054】
冷却媒体としては水を用いることができる。水で反応器内を冷却する際、水自身は加熱されるので、この熱を、スチームを発生させる際に必要な熱として利用することが好ましい。
【0055】
第一の板状部材と第二の板状部材との間には、管側流体すなわち冷却媒体を良好にシールするためのガスケットを設けることができる。例えば、円板状の第一および第二の板状部材の外周より内側に外周に沿ってリング状のガスケット6aを設け、さらに冷却媒体の入口側と出口側との間をシールするために、リング状ガスケットの中央部にその直径方向に延在しリング状ガスケットに2個所で連結されたガスケット6bを設けることができる。このガスケットは尿素合成混合物には接触しない位置に設けられるため、水等の冷却媒体に耐える材質であれば良く、公知のOリング等から適宜選んで用いることができる。
【0056】
尿素合成装置の、上記以外の構成については、アンモニアと二酸化炭素を反応させて尿素合成混合物を得ることのできる、冷却管を備える尿素合成装置、いわゆる尿素凝縮合成塔の分野で公知の構成を適宜採用しうる。
【0057】
以下に図7を参照して尿素合成の例について具体的に説明する。縦型凝縮合成塔101の底部および中間部に、予熱器120で予熱されたうえでライン102から供給される原料液体アンモニアが、それぞれライン103および104を経て導入される。縦型凝縮合成塔101の底部にはストリッパー121において分離されたアンモニア、二酸化炭素および水の混合ガスがライン122を経て導入される。ライン122の凝縮合成塔への開口部には、ガスを塔内の液中にバブリングさせるバブリング手段が設けられる。バブリングを行うことにより塔内を攪拌する効果があり、これは反応促進の観点から好ましい。バブリング手段は、液中にガスをバブリングさせる公知の技術を利用して設計することができる。またライン105を経て、後記する吸収媒体が導入される。
【0058】
縦型凝縮合成塔101の凝縮部(底部から中間部までの部分)Aには、冷却管3が設けられる。管の熱膨張に対して管を拘束することを防ぐ観点から、冷却管は逆U字管の管束からなるのが好ましい。冷却管は管板1に固定されるが、この管板は上述のように第一の板状部材および第二の板状部材を有する。冷却管には冷却媒体として水が通され、冷却部Aで生成されるアンモニウムカーバメートの生成熱をスチームの形で回収することができる。生成したアンモニウムカーバメートは、未凝縮のアンモニウムおよび二酸化炭素と共に凝縮部Aを上昇して縦型凝縮合成塔101の合成部(中間部から頂部の液面までの部分)Bに入る。
【0059】
縦型凝縮合成塔101の凝縮部Aから合成部Bに入った凝縮液はライン104を経て導入された原料液体アンモニアと混合され、それによって未凝縮のアンモニアおよび二酸化炭素からアンモニウムカーバメートが生成され、その生成熱によってアンモニウムカーバメートから尿素への吸熱反応の反応熱をまかないつつ尿素合成反応が進む。
【0060】
縦型凝縮合成塔101の合成部Bの頂部には、生成した尿素合成混合物をストリッパー121に導入するための、好ましくは縦型凝縮合成塔の内部に設けられたライン107の上端が開口しており、それより上の位置に液面が形成されている。その液面の上は、気液分離部Cとなっており、尿素合成混合物からイナートガス(原料二酸化炭素中に含有されてる水素および窒素、ならびに装置の腐食防止のために導入した空気)およびそれに随伴するアンモニアおよび二酸化炭素を分離する機能を果たす。
【0061】
縦型凝縮合成塔101の最頂部には気液分離部Cで分離されたガス中のアンモニアおよび二酸化炭素を吸収媒体で洗浄吸収する機能を有するスクラビング部Dが設けられる。上記の吸収媒体としては、後記するように、ストリッパーからの尿素液中の未反応アンモニアおよび二酸化炭素を回収して得られるアンモニウムカーバメートを含有する回収液がライン108からスクラビング部Dの頂部に導入される。導入された吸収媒体は充填層109において気液分離部Cから上昇してくるガスと接触し、アンモニアおよび二酸化炭素の一部を吸収し、チムニー部110に開口するライン105を通り縦型凝縮合成塔101の底部に流下する。ライン105は縦型凝縮合成塔101の内部に設けるのが好ましいが、外部に設けることも可能である。
【0062】
縦型凝縮合成塔101の、少なくとも凝縮部Aにはバッフルプレート130を設けて気液接触を良好にするのが好ましい。バッフルプレートとしては公知の種々のものが使用可能である。
【0063】
スクラビング部Dの頂部のライン115から排出されるアンモニアおよび二酸化炭素を含む未吸収ガスは水により洗浄されてアンモニアおよび二酸化炭素が回収される。
【0064】
縦型凝縮合成塔101の合成部Bの頂部からライン107を通って流下する尿素合成混合物は、ライン111、制御弁112を経てストリッパー121の頂部に導入される。導入された尿素合成混合物はストリッパー121内の加熱器(ライン123からスチームが導入されライン124から凝縮水が排出される。)を流下しながらライン113からストリッパー121の底部に導入される原料二酸化炭素と接触し、含有する未反応のアンモニアおよび二酸化炭素の大部分が分離され、原料二酸化炭素との混合ガスとしてライン122を通って縦型凝縮合成塔101の底部に供給される。
【0065】
尿素と未反応のアンモニアおよび二酸化炭素を含む液はストリッパーの底部から抜き出され、ライン125を経て低圧分解工程に送られて処理され、尿素が得られる。この未反応アンモニアおよび二酸化炭素は、水、稀アンモニア水などに吸収されて回収液が得られ、この回収液は前記したように吸収媒体として縦型凝縮合成塔101のスクラビング部Dに供給される。
【0066】
以上、縦型の尿素凝縮合成装置を例に、本発明について詳細に説明したが、本発明の装置は横型の尿素凝縮合成装置であってもよい。また尿素凝縮合成装置においては、尿素合成混合物を冷却するために冷却媒体が流通する冷却管を設けているが、冷却管の替わりに内部に加熱媒体を流通が流通する加熱管を設ける場合にも本発明は適用できる。さらに、尿素合成反応に限らず、他の反応を行う反応装置においても、特には、反応流体に対する耐蝕性が比較的高い材料と比較的低い材料とで構成される管板が用いられる反応装置において、本発明を好適に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の反応装置は、尿素合成をはじめ、反応が比較的高圧で行われ反応流体の腐食性が比較的強い反応に広く好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の反応装置の一部を示す模式的断面図である。
【図2】第二の板状部材を固定する構造の一例を説明するための模式的断面図である。
【図3】第二の板状部材を固定する構造の別の例を説明するための模式的断面図である。
【図4】第二の板状部材を固定する構造のさらに別の例を説明するための模式的断面図である。
【図5】管を第一の板状部材に固定する構造の一例を説明するための模式的断面図である。
【図6】管を第一の板状部材に固定する構造の別の例を説明するための模式的断面図である。
【図7】尿素合成プロセスを説明するための模式図である。
【図8】インナーボア溶接を説明するための模式図である。
【符号の説明】
【0069】
1 管板
1a 第一の板状部材
1b 第二の板状部材
2 反応容器本体
2a 内面部
2b 胴部
2c 鏡板部
2d 溶接部
3 伝熱管
4 補強ビーム
5 溶接部
6a ガスケット(リング状部)
6b ガスケット(直線部)
7a 冷却媒体入口側仕切室
7b 冷却媒体出口側仕切室
8 冷却媒体仕切室のカバー
9 仕切り板
21 ボルト
22 リング状部材
41 ネジ部
42 リング
43 ボルト
51 溶接部(インナーボア溶接)
61 溶接部(隅肉溶接)
81 管板
81a オーバーレイ溶接された耐蝕金属部
81b 耐圧部材
82 管板の管穴
83 管
84 溶接トーチ
85 溶接部
101 尿素凝縮合成塔
109 充填層
110 チムニー部
112 制御弁
120 予熱器
121 ストリッパー
130 バッフルプレート
A 凝縮部
B 合成部
C 気液分離部
D スクラビング部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応容器と、該反応容器の内部に設けられた冷却もしくは加熱のための熱媒体を流通させる伝熱管を有し、
該反応容器の一部が、残部に固定された管板であり、
該管板が、反応容器内に収容される反応流体と接触する位置に配された第一の板状部材と、該反応流体と接触しない位置に配された第二の板状部材を有し、
第一の板状部材の少なくとも該反応流体と接触する部分が、該反応流体に対して相対的に高い耐蝕性を有する高耐蝕金属からなり、
第二の板状部材は、該反応流体に対して相対的に低い耐蝕性を有する低耐蝕金属からなり、
該伝熱管は第一の板状部材に溶接によって固定され、
第一の板状部材は反応容器の該残部に溶接によって固定され、
第二の板状部材は反応容器の該残部に着脱可能に固定された
ことを特徴とする反応装置。
【請求項2】
アンモニアと二酸化炭素を反応させて尿素合成混合物を得るための反応装置であって、
前記熱媒体が冷却媒体であり、前記反応流体が尿素合成混合物である請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記高耐蝕金属が高クロムオーステナイト鋼、二相合金、チタンまたは316Lオーステナイト鋼である請求項2記載の装置。
【請求項4】
前記低耐蝕金属が炭素鋼または低合金鋼である請求項1〜3の何れか一項記載の装置。
【請求項5】
前記第一の板状部材が、高耐蝕金属からなる請求項1〜4の何れか一項記載の装置。
【請求項6】
前記第二の板状部材が、第一の板状部材より厚い請求項1〜5の何れか一項記載の装置。
【請求項7】
前記伝熱管が、インナーボア溶接によって第一の板状部材に溶接された請求項1〜6の何れか一項記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−102590(P2006−102590A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−290258(P2004−290258)
【出願日】平成16年10月1日(2004.10.1)
【出願人】(000222174)東洋エンジニアリング株式会社 (69)
【Fターム(参考)】