説明

取鍋の操業方法

【課題】低コストで、安全性を考慮しつつ、ポーラスプラグの寿命延長を図る。
【解決手段】底部に設けたポーラスプラグから不活性ガスを吹込む取鍋操業である。ポーラスプラグに不活性ガスを供給する配管の途中に逆止弁を設置して、当該逆止弁とポーラスプラグ間の配管内のガス圧力が、取鍋精錬終了後から取鍋が連続鋳造設備に到着して溶鋼排出を開始する時点で、10×104Pa以上となるように維持する。さらに、取鍋内溶鋼を排出後のポーラスプラグの酸素洗浄時には、取鍋外よりポーラスプラグに、前記した圧力以上で不活性ガスを吹込み、予め定めておいた所定のガス流量になった時点で信号を発するようにしておくことが好ましい。
【効果】ガスの吹込み停止後もポーラスプラグの通気性を確保できるので、ポーラスプラグへの地金差し等が抑制でき、ポーラスプラグの洗浄時間が短かくなってポーラスプラグの損耗が減少し、寿命が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低コストで、安全性を考慮しつつ、ポーラスプラグの寿命延長を図ることができる取鍋の操業方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
取鍋精錬時、溶鋼を攪拌するための不活性ガスは、取鍋の底部に設けたポーラスプラグから吹込まれる。取鍋精錬後は、取鍋を連続鋳造設備まで搬送して取鍋内の溶鋼をタンディッシュに排出し、溶鋼の排出後は、取鍋整備場でポーラスプラグの点検を行う。
【0003】
上記を基本とする取鍋操業方法において、従来は取鍋精錬以後、取鍋整備場でのポーラスプラグの点検開始までは、ポーラスプラグへの不活性ガスの供給は行われない。従って、取鍋精錬以後タンディッシュへの溶鋼排出完了までの、取鍋内に溶鋼が存在する間は、取鍋内溶鋼の静圧によってポーラスプラグ内に地金差しが発生し、また、スラグの浸潤が頻繁に起こっていた(図7参照)。図7中の1は取鍋、2はポーラスプラグ、3は不活性ガスの供給用ホース、4は溶鋼である。
【0004】
このようなポーラスプラグを再使用するため、取鍋整備場では、取鍋の内部側からポーラスプラグを酸素ガスを用いて洗浄しているが、前記地金差し等によってその洗浄に長時間を要していた。その結果、ポーラスプラグの取鍋内部側の損傷が過大になって、ポーラスプラグの寿命が短くなるという問題があった。
【0005】
そこで、取鍋の側面または底面に蓄圧ボンベ式ガス吹込み装置を着脱可能に取付け、ポーラスプラグからの不活性ガス吹込み終了と同時に蓄圧ボンベからのガス吹込みに切り替える方法が開示されている(特許文献1)。
【0006】
この特許文献1で開示された方法によれば、ポーラスプラグへの溶鋼の侵入を抑えることで、酸素洗浄数を軽減でき、プラグの寿命延長に効果があると記載されている。
【0007】
しかしながら、この特許文献1で開示された方法を実施するには、取鍋の側面または底面に蓄圧ボンベ式ガス吹込み装置を着脱可能に取付けることができるように取鍋を改造する必要があり、コストがかかる。また、取鍋の側面または底面に取付けた蓄圧ボンベが障害物等に接触した場合には、蓄圧ボンベが破損する危険性が懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4107409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、その課題は低コストかつ安全性を考慮して、ポーラスプラグ整備時の酸素洗浄の負荷と耐火物の損傷が軽減できる、取鍋ポーラスプラグ使用における効果的な操業方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る取鍋の操業方法では、一つの特徴として、取鍋精錬後にポーラスプラグから溶鋼へのガス吹込みを停止した後にも、取鍋精錬中にポーラスプラグ内に充満させておいたガスを保持しておき、かつ、それを取鍋からの溶鋼排出末期に効果的に吐出させることでポーラスプラグの通気性を確保する。
【0011】
そのために、取鍋底部に設けたポーラスプラグから不活性ガスを溶鋼へ吹込む取鍋精錬において、前記ポーラスプラグに不活性ガスを供給する配管の途中に逆止弁を設置し、当該逆止弁とポーラスプラグ間の配管内のガス圧力が、取鍋精錬以後、タンディッシュへの溶鋼排出完了までの取鍋内に溶鋼が存在する間は、取鍋内の溶鋼静圧に近い値に保持できるようにしておく。
【0012】
こうしておくことにより、その後、取鍋から連続鋳造機へ溶鋼が排出されるにつれて取鍋内の溶鋼静圧が低下した際、ポーラスプラグから溶鋼へと不活性ガスが自然に吐出するようにできる。
【0013】
この特徴により、ポーラスプラグへの地金差しやスラグの浸潤が抑制でき、かつ、使用後のポーラスプラグの通気性が確保されて、その後のポーラスプラグの整備において、ポーラスプラグを酸素洗浄しなくてよい確率を高くすることができる。
【0014】
さらに、本発明ではもう一つの特徴として、ポーラスプラグを酸素洗浄する必要が生じた場合、取鍋整備場にてポーラスプラグを酸素洗浄する際にポーラスプラグに取鍋外より取鍋内へ向けてガスを流し、予め定めておいた所定流量以上の通気を確保すると自動的に信号を発するようにしておく。
【0015】
この特徴により、ポーラスプラグ内の通気性が確保されたら酸素洗浄を終了し、過剰な洗浄を防止することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、前記した二つの特徴によって、多数回使用を目的としたポーラスプラグ整備における酸素洗浄の必要性を下げ、かつ、その洗浄時間を短縮して、酸素洗浄によるポーラスプラグの損耗速度の低減によるポーラスプラグの寿命向上が図れる。その結果、低コストでかつ安全性を考慮した、ポーラスプラグ使用を伴う効果的な取鍋操業方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の取鍋操業方法の前段階の構成を説明する図である。
【図2】本発明の取鍋操業方法における溶鋼排出中の説明図で、(a)は溶鋼排出初期、(b)は溶鋼排出末期の図である。
【図3】本発明の取鍋操業方法の後段階の構成を説明する図である。
【図4】本発明方法と従来方法のポーラスプラグの酸素洗浄時間を比較した図である。
【図5】本発明方法と従来方法のポーラスプラグの溶損速度を比較した図である。
【図6】本発明方法と従来方法のポーラスプラグの寿命を比較した図である。
【図7】従来の取鍋操業方法について説明する図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明について説明する。
ポーラスプラグは、取鍋精錬において不活性ガスを溶鋼中に吹込むために使用しており、従来、取鍋精錬後、連続鋳造機へ溶鋼を排出して、取鍋整備場でポーラスプラグの点検を開始するまで、終始不活性ガスを溶鋼中に吹込むことなく操業をしていた。
【0019】
そのため、ポーラスプラグへの地金差し、スラグ浸潤が頻繁に起こり、ポーラスプラグを酸素洗浄する必要性が高く、しかもその洗浄時間が長くなる場合が多かった。その結果、ポーラスプラグが過大に溶損され、その寿命が低迷するという問題があった。
【0020】
そこで、取鍋精錬操業中にポーラスプラグ内に充満した不活性ガスが、取鍋精錬後に溶鋼が連続鋳造機へ排出されて取鍋底部に作用する溶鋼静圧が小さくなった際に自然に流れ出す機構を着想した。こうすることにより、取鍋内の溶鋼静圧と充満させたガス圧力が釣り合って、地金差しやスラグの浸潤の防止が可能となる上に、使用後のポーラスプラグの通気性も確保されると考えた。
【0021】
さらに、鋳造終了後にポーラスプラグから不活性ガスを強制的に吐出させることで、ポーラスプラグの酸素洗浄時間の短縮、酸素洗浄によるポーラスプラグの損耗速度の低減が図れ、一層ポーラスプラグの寿命向上が図れると考えた。
【0022】
また、ポーラスプラグの酸素洗浄を行う場合、ポーラスプラグの酸素洗浄中にポーラスプラグに取鍋外より取鍋内へ向けてガスを流すことで、ポーラスプラグの通気性が確保できたら信号を発し、過剰なポーラスプラグの洗浄を終了させることで大幅な洗浄時間の短縮が可能になると考えた。
【0023】
本発明は、発明者の上記着想に基づいて成されたものであり、以下の構成を備えることによって実現する事ができる。
【0024】
先ず、取鍋精錬中に取鍋のポーラスプラグ内に不活性ガスを充満させ、取鍋精錬後、取鍋内の溶鋼量の減少に応じてポーラスプラグから不活性ガスを吐出させる手段として、図1に示すように、不活性ガスの供給用配管、例えばホース3の途中に逆止弁5を設置する。
【0025】
この逆止弁5の設置位置は、ホース3の途中であれば特に問わないが、取鍋精錬後連続鋳造設備に移動させる時に邪魔にならず、タンディッシュへの溶鋼排出時にポーラスプラグ2から吐出させる不活性ガスの量を考慮して決定する。
【0026】
この様に逆止弁5を設置することによって、ポーラスプラグ2からの不活性ガスの吹込み終了後も、逆止弁5とポーラスプラグ2を繋ぐホース内に、タンディッシュに排出する前の取鍋内の溶鋼静圧と例えば同等の20×104Paの不活性ガスを存在させることが可能になる。従って、取鍋精錬後、連続鋳造設備に到着して溶鋼排出を開始するまでの間で地金差しやスラグの浸潤の発生を防止できて、ポーラスプラグ2の通気性を確保することができるようになる。この不活性ガスの圧力は、取鍋精錬終了時の溶鋼静圧にバランスする値を保持することが望ましくはあるが、それより低い圧力であっても期待効果が全く発揮されないわけではない。
【0027】
また、取鍋内の溶鋼4をタンディッシュに排出している間は、取鍋内の溶鋼量の減少に伴い、前記ホース3の内の不活性ガスの圧力が溶鋼静圧より大きくなると、図2に示すように、ポーラスプラグ2から徐々に不活性ガスが取鍋内に吐出する。従って、取鍋内の溶鋼4をタンディッシュに排出している間も、地金差しやスラグの浸潤の発生を防止できると同時に、高温溶鋼の存在も利用してポーラスプラグ2の通気性を確保できるようになる。
【0028】
したがって、上記取鍋精錬終了後から連続鋳造設備に到着して溶鋼排出を開始するまでの間の期待効果と、その後、取鍋からの溶鋼排出末期までの期待効果を合わせて考えると、ポーラスプラグ内に封じ込めておく不活性ガスの圧力は、取鍋からの溶鋼排出開始時点で10×104Pa以上が必要である。但し、この圧力は高いほど効果が大きくなるので、取鍋からの溶鋼排出開始時点で18×104Pa以上等であることが望ましい。
【0029】
その後、取鍋内の溶鋼4の排出が終了した時点以降で、外部から不活性ガスを供給するホースと連結し、取鍋1のポーラスプラグ2から、タンディッシュに排出する前の溶鋼静圧以上の圧力(例えば50×104Pa)で不活性ガスを再度吹込めば、さらなる通気性の向上を見込むこともできる。
【0030】
以上の構成により、取鍋内溶鋼4のタンディッシュへの排出後のポーラスプラグ2の整備において、ポーラスプラグ2を酸素洗浄しなくても良い割合を大きくすることができる。
【0031】
さらに、取鍋内溶鋼4のタンディッシュへの排出終了後、ポーラスプラグ2を酸素洗浄する際には、図3に示すように、取鍋1の外側よりポーラスプラグ2に不活性ガス供給用のホース6を繋いで、タンディッシュへの排出を開始する前の溶鋼静圧以上の圧力(例えば50×104Pa)で取鍋1の外側から内側に不活性ガスを流してポーラスプラグの通気性を確保する。
【0032】
この際、所定の流量(例えば、取鍋精錬で使用する流量の半分である0.45Nm3/min)の不活性ガスが流れた時点で例えば警報ランプ7を点灯し、ポーラスプラグ2の過剰な酸素洗浄を終了するようにして、洗浄時間を大幅に短縮すると共にポーラスプラグ2の内部からの劣化、溶損を防ぐことができる。
【0033】
すなわち、本発明では、上記二つの特徴を組み合わせることによって、多数回使用を目的としたポーラスプラグ2の整備における酸素洗浄の必要性を低減し、かつ、酸素洗浄が必要となった場合にもその酸素洗浄時間を短縮して、大きな設備改造を要することなく、酸素洗浄によるポーラスプラグ2の損耗速度の低減によるポーラスプラグ2の寿命向上を図ることができる。
【実施例】
【0034】
次に、本発明の効果を確認するために行った実施結果について説明する。
本発明方法では、逆止弁とポーラスプラグを繋ぐホース内の不活性ガスの圧力を18×104Paに維持した。また、ポーラスプラグを酸素洗浄する際には、45×104Paの圧力で取鍋の外側から不活性ガスを流し続け、ガス流量が0.45Nm3/minに上昇した時点で酸素洗浄を終了した。なお、比較として、逆止弁を設置せず、取鍋の外側から不活性ガスを流さない他は同様の操業を行った従来方法についても実施した。その結果を図4〜図6に示す。
【0035】
図4はポーラスプラグの酸素洗浄に要した時間を比較した結果を示した図、図5はポーラスプラグの損耗速度を比較した結果を示した図、図6はポーラスプラグの寿命を比較した結果を示した図である。
【0036】
図4に示すように、ポーラスプラグの酸素洗浄に要した時間は、従来法では2.0〜3.0分かかっていたものが、発明方法では1.0分以下に短縮することができた。この酸素洗浄に要した時間の短縮により、図5に示すように、ポーラスプラグの損耗速度は従来法では平均20mm/回であったものが、発明方法では10mm/回に軽減でき、結果として、ポーラスプラグの寿命は、発明方法では従来法の2倍に向上した。
【0037】
本発明は上記の例に限らず、請求項に記載された技術的思想の範疇であれば、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【0038】
例えば上記の例では、逆止弁とポーラスプラグを繋ぐホース内に存在させた不活性ガスの圧力は、タンディッシュに排出する前の取鍋内の溶鋼静圧に近い18×104Paとしたが、溶鋼静圧と同等な具体的圧力値は取鍋容量(溶鋼深さ)に依存して変化することは当然である。本発明に係る技術的思想としては、取鍋からの溶鋼排出開始までは10×104Pa以上であって溶鋼静圧に極力近い圧力値を維持し続けることが望ましいのであるが、本発明に係る発明実施効果を享受するためには、18×104Paあれば十分ということが本発明の実施例によって確認されたということである。
【0039】
また、ポーラスプラグを酸素洗浄する際に流す不活性ガスの圧力は、ポーラスプラグの通気性が確保できればよいので、45×104Paでなくても良い。
【符号の説明】
【0040】
1 取鍋
2 ポーラスプラグ
3 ホース
4 溶鋼
5 逆止弁


【特許請求の範囲】
【請求項1】
取鍋底部に設けたポーラスプラグから溶鋼に不活性ガスを吹込む取鍋精錬を伴う取鍋操業において、
前記ポーラスプラグに不活性ガスを供給する配管の途中に逆止弁を設置して、当該逆止弁とポーラスプラグ間の配管内のガス圧力が、取鍋精錬終了後から取鍋が連続鋳造設備に到着して溶鋼排出を開始する時点で、10×104Pa以上となるように維持することを特徴とする取鍋の操業方法。
【請求項2】
前記した取鍋内溶鋼を排出後のポーラスプラグの酸素洗浄時に、取鍋の外側よりポーラスプラグに前記溶鋼排出を開始する時点での圧力と同等の圧力をかけて不活性ガスを吹き込み、当該不活性ガスの流量が予め定めておいた流量になった時点で信号を発するようにしておくことを特徴とする請求項1に記載の取鍋の操業方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−135779(P2012−135779A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−288381(P2010−288381)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】