説明

受信機の同期方法および受信回路

【課題】直交アンダーサンプリング技術を用いた受信機に簡素な同期回路を提供する。
【解決手段】A/D変換器(1)から出力されるベースバンドI/Q信号のサンプル点につき、4/シフトQPSK変調の同一シンボル期間中において+I成分と−I成分または+Q成分と−Q成分の和を時系列的に連続して算出し(21)、時間的変化からシンボルタイミングを再生する(22)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受信機の同期方法および受信回路に関し、特に直交アンダーサンプリング技術を用いた受信機におけるシンボルタイミング同期の方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
無線通信の受信機においては、ヘテロダイン構成が広く普及している。またデジタル通信においては、PSK,MSK,FSKなどの直交変調が多く用いられる。
【0003】
ヘテロダイン受信機では、リミッタなどを使い、A/D変換器を持たない構成のものもあるが、ここではA/D変換器を使うものについて説明する。ヘテロダイン受信機は、直交変調されて送られてきたRF信号を受信し、ミキサ回路で少なくとも1回以上の周波数変換を行いIF信号を得て、さらに直交復調器によりベースバンドI/Q信号を得る。こうして得られたベースバンドI/Q信号をA/D変換器に入力してデジタル信号に変換し、その後、デジタル信号処理により、受信データを復号する。あるいは、IF信号をA/D変換器に入力してデジタル信号に変換してから、デジタル信号処理により直交復調を行い、ベースバンドI/Q信号を得て、その後、復号処理を行う構成のものもある。
【0004】
また、近年ではダイレクトコンバージョン受信機が普及しており、この場合は、直交変調されて送られてきたRF信号を受信し、周波数変換を行わないまま、直交復調器に入力して、ベースバンドI/Q信号を得る。こうして得られたベースバンドI/Q信号をA/D変換器に入力してデジタル信号に変換し、その後、デジタル信号処理により、受信データを復号する。
【0005】
ヘテロダイン方式およびダイレクトコンバージョン方式とは異なる受信機アーキテクチャとして、直交アンダーサンプリング技術を用いた受信機アーキテクチャが提案されている。直交アンダーサンプリング技術とは、直交変調されたRF信号を受信し、そのままの周波数もしくはIF周波数に変換したのち、A/D変換器に入力し、入力信号の周波数に対して式(1)に示す特定の関係にあるサンプリング周波数でサンプリングすることにより、変調波をデジタル信号に変換すると同時に直交復調してベースバンドI/Q信号を得るものである。
【0006】
fs=4fc/(4k+1) …(1)
ここでfs:サンプリング周波数,fc:搬送波周波数である。
また、kは自然数(k=1,2,3,…)である。
【0007】
ヘテロダイン受信機およびダイレクトコンバージョン受信機では、A/D変換のサンプリング周波数は、A/D変換器に入力されるIF信号またはベースバンドI/Q信号の周波数に対してナイキスト条件から導かれる範囲内である必要があるが、それ以外は、入力信号の周波数とは独立して決められる。
【0008】
A/D変換器などでアナログ信号をサンプリングして離散時間信号に変換する場合、サンプリングされるアナログ信号の周波数とサンプリング周波数の関係によっては、元のアナログ信号に存在しない周波数成分が、サンプリング後の離散時間信号に含まれる場合があり、エイリアシング現象と呼ばれる。エイリアシングは、一般的には好ましくないものとして、これを回避するような設計や運用がなされるが、逆に、エイリアシングを周波数変換作用とみなして積極的に利用することも可能であり、サンプリングミキサとして知られている。直交アンダーサンプリング技術は、サンプリングミキサの原理に基づくものである。
【0009】
ヘテロダイン方式およびダイレクトコンバージョン方式の受信機で使われるアナログ回路またはデジタル回路による直交復調器は、2個のミキサ回路に、それぞれ互いに位相が90度ずれたローカル信号を与え、入力信号と乗算することで直交復調を行いベースバンドI/Q信号を得るものである。一方、直交アンダーサンプリング技術は、A/D変換器への入力信号の周波数に対して特定の関係にある周波数でサンプリングすることにより、A/D変換器に周波数変換作用を持たせ、アナログ回路またはデジタル回路による直交復調器を使うことなく、A/D変換器で直交復調を行う技術である。
【0010】
直交アンダーサンプリング技術を用いた受信機では、受信した変調波をそのままの周波数で、もしくは周波数変換してIF信号としたのち、A/D変換器に入力する。一般にこの間で、不要な周波数成分を取り除くフィルタリングや、A/D変換器への入力レベルが適切になるよう増幅が行われる。直交アンダーサンプリング受信機では、A/D変換でサンプリングされた離散信号は、1サンプル毎に順に、+I成分,−Q成分,−I成分,+Q成分に対応する。これらのデジタル信号列から4サンプル間隔で、各成分を取り出すことでベースバンドI/Q信号が得られる。
【0011】
直交アンダーサンプリング技術を用いた受信機の同期方法については、CDMA方式における周波数補償として、I成分とQ成分を乗算して相関値を求めることにより、サンプリング周波数を補正する方法(例えば、非特許文献1参照)や、OFDM方式における周波数捕捉として、受信信号を微小位相差を持つ2点でサンプリングして、搬送波に対する周波数誤差を検出して同期を確立する方法(例えば、非特許文献2参照)が知られている。
【0012】
従来の技術として、例えば特許文献1では、π/4シフトQPSK変調波を復調するヘテロダイン受信機において、受信信号をA/D変換器でサンプリングした後、直交復調し、サンプル毎にレベルを検出して、最小レベルのタイミングを、隣接する2シンボルの中点と見なしてシンボルタイミング同期を取る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2009−44363号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】高橋央,稲田祐大,須崎皓平,村口正弘「RF直交アンダーサンプリングを用いたCDMA方式における周波数補償」2008年 電子情報通信学会総合大会 エレクトロニクス講演論文集1、p.168
【非特許文献2】猪又稔ほか「RF直交アンダーサンプリングを用いたOFDM受信機における周波数捕捉」2009年 電子情報通信学会総合大会 エレクトロニクス講演論文集1、p.139
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
特許文献1に示されるシンボルタイミング同期方法では、一定数のサンプル点を保持しながら、サンプル毎に電力を算出してしきい値と比較し、最小値を検索するという、比較的複雑な処理が必要であった。
本発明は、上述の課題を解決するためになされたもので、直交アンダーサンプリング受信機において、より簡易な処理でシンボルタイミング同期を得る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の受信機の同期方法は、
受信したPSK変調波またはQAM変調波を該変調波の周波数に対して特定の関係にあるサンプリング周波数でサンプリングすることで、復調されたべースバンドI/Q信号を得るA/D変換工程と、
前記A/D変換工程のサンプリング周波数を発生する発振工程と、
サンプリングされたデジタル信号を時系列的に信号成分毎に分離し、サンプリング周期毎に、ベースバンドI/Q信号の+I成分,−Q成分,−I成分,+Q成分の離散信号を順次出力する分離工程と、
分離された各信号成分のうち時間的に隣り合う+I成分と−I成分の和または、時間的に隣り合う+Q成分と−Q成分の和を、一定周期毎に時系列的に算出し、出力する成分和生成工程と、
前記成分和生成工程から出力される前記和の時間的変化の周期性からシンボルタイミングを再生するシンボルタイミング再生工程とを備える
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の効果として、簡単な構成で直交アンダーサンプリング受信機のシンボルタイミング同期を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明の実施の形態1に係る受信機の回路構成を示すブロック図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る入出力信号のタイミング関係を示すタイミング図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係る変調波とサンプル点の関係を示すタイミング図である。
【図4】この発明の実施の形態1に係る変調波とサンプル点の関係を示すタイミング図である。
【図5】この発明の実施の形態1に係るシンボルタイミングパルスを示すタイミング図である。
【図6】この発明の実施の形態2に係る受信機の回路構成を示すブロック図である。
【図7】この発明の実施の形態2に係るシンボルタイミングパルスで、サンプリング周期が期待と異なる周波数に収束している場合の例を示すタイミング図である。
【図8】この発明の実施の形態3に係る受信機の回路構成を示すブロック図である。
【図9】この発明の実施の形態3に係るI成分和出力およびQ成分和出力の時間的変化の一例を示すタイミング図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
実施の形態1.
図1は、本発明に係る受信機の回路構成を示す図である。
図示の受信機は、PSK変調波またはQAM変調波を受信するものであり、発振手段としてのVCO2と、A/D変換器1と、分離手段としてのセレクタ3と、加算器4と、
ラッチ回路5と、絶対値回路6と、比較回路7と、タイミング回路8とを有する。
以下の説明では、受信信号がπ/4シフトQPSK変調されたものであるとする。
【0020】
VCO2は、周波数fsのサンプリングクロックパルスCLKを発生する。
A/D変換器1は、受信したπ/4シフトQPSK変調波をサンプリングし、デジタル信号に変換する。サンプリングのタイミングは、サンプリング信号(サンプリングクロック)CLKで決められる。サンプリング信号CLKの周波数(サンプリング周波数)fsは、受信されるπ/4シフトQPSK変調波の搬送波周波数fcに対して特定の関係、即ち式(1)で表される関係を有し、そのような周波数のサンプリングクロックCLKで決められるタイミングでサンプリングを行なうことにより、A/D変換器1でA/D変換及び直交復調が行なわれ、A/D変換器1からはベースバンドI/Q信号が出力される。
【0021】
なお、A/D変換器に入力されるπ/4シフトQPSK変調波の周波数fcは、必ずしも伝送路上の搬送波周波数と同じである必要はなく、例えば無線通信装置の場合、アンテナで受信したのち、フィルタリング、増幅・減衰、周波数変換が行われたのちにA/D変換器に入力される構成でもよい。
【0022】
セレクタ3は、サンプリングされたデジタル信号を時系列的に信号成分毎に分離する。
即ち、セレクタ3は、サンプリング周期毎に、ベースバンドI/Q信号の+I成分,−Q成分,−I成分,+Q成分の離散信号を順次出力する。図示の実施の形態では、+I成分、−Q成分、−I成分、+Q成分が、セレクタ3の4つの出力端子3a、3b、3c、3dから出力されるものとして図示している。
【0023】
加算器4は、分離された各信号成分のうち2種類の成分の和を求める。
図示の例では、加算器4は、端子3aから出力される+I成分と端子3cから出力される−I成分とを加算する。
なお、このように構成する代わりに、端子3bから出力される−Q成分と、端子3dから出力される+Q成分とを加算することとしても良い。
【0024】
ラッチ回路5は、加算器4の出力をタイミング回路8から加算タイミングパルスATPが供給されるタイミングでラッチする。図2では、各サンプリングと次のサンプリングの中間のタイミングでラッチが行なわれるものとして図示してある。
【0025】
なお、加算器として、その加算のタイミングが、A/D変換器1におけるサンプリングと同じ周波数で、かつA/D変換器1においてサンプリング及びA/D変換により得られたデータが確定し、セレクタ3から出力されるタイミングで行なわれるように制御される(例えば第1のタイミングパルスにより制御される)ものを用い、加算の結果が確定したタイミングで、ラッチ回路5にラッチを行なわせる(例えばタイミング回路6からの第2のタイミングパルスでタイミング制御する)こととしても良い。
【0026】
絶対値回路6は、ラッチ回路5の出力の絶対値を求める。
比較回路7は、絶対値回路6の出力を所定値と比較し、所定値以上のときは、第1の値、例えば「1」或いはHighレベルの信号を出力し、所定値未満であれば、第2の値、例えば「0」或いはLowレベルの信号を出力する。
比較回路7による比較結果の出力も、ラッチ回路5におけるラッチのタイミングに同期して更新される値「1」又は「0」を取る信号の列であるが、後述のように、比較回路7の出力は通常「0」が続き、時々(シンボルタイミングにおいて)「1」が発生するので、それをパルス(シンボルタイミングパルス(STP))と呼ぶことがある。
【0027】
加算器4とラッチ回路5とで、セレクタ3により分離された各信号成分のうち時間的に隣り合う+I成分と−I成分の和または、時間的に隣り合う+Q成分と−Q成分の和を、一定周期毎に時系列的に算出し、出力する成分和生成手段21が構成され、
絶対値回路6と、比較回路7とで、シンボルタイミング再生手段22が構成され、このシンボルタイミング再生手段22が、成分和生成手段21から出力される和の時間的変化の周期性からシンボルタイミングを再生する。このシンボルタイミング再生手段22は、ラッチ回路5の出力を波形整形してシンボルタイミングパルスSTPを生成するものであるので、波形整形手段とも呼ばれる。
【0028】
以下、上記の回路の動作を説明する。
π/4シフトQPSK変調された受信信号がA/D変換器1に入力され、
A/D変換器1では、VCO2からの周波数fsのサンプリングクロックでA/D変換及び直交復調が行われ、ベースバンドI/Q信号を表すデジタル値が出力される。
【0029】
A/D変換器1からサンプリングタイミング毎に生成されるデジタル値は、セレクタ3の4つの出力端子3a、3b、3c、3dから順に(循環的に)出力される。言い換えると、出力先が1サンプリング時間ごとに順次切り替えられ、4系統に分離される。
このとき、サンプリングクロックの周波数fsは、式(1)を満足するように設定されているので、4系統に分離された信号は、π/4シフトQPSK変調波を復調した信号となり、端子3a、3b、3c、3dから出力される信号はそれぞれ+I成分、−Q成分、−I成分、+Q成分に対応する。
【0030】
セレクタ3の4系統の出力は、出力先としてそれぞれの系統に切り替わる時点を出力値の更新タイミングとし、各系統の次の更新タイミングまで同じ出力値が保持されるものとする。
図2は、セレクタ3から出力される各系統の出力値の更新タイミングの関係を示している。各系統においてはサンプリング周期の4倍の周期で更新が行なわれ、相前後して出力が行なわれる系統間では、更新のタイミングが互いに1サンプリング周期ずつずれている。
【0031】
図3および図4は、搬送波周波数fcのπ/4シフトQPSK変調波に対して、式(1)においてk=1としたものを満足するサンプリング周波数fsでサンプリングして復調出力を得るときの時間軸波形の例を示している。
+I成分は、●で示され、
−I成分は、○で示され、
+Q成分は、■で示され、
−Q成分は、□で示されている。
図3に示すように、同一シンボル期間内で隣り合う+I成分(●)と−I成分(○)の和はゼロになる。一方、図4に示すように、異なるシンボル期間に跨る+I成分(●)と−I成分(○)の和はゼロでない値を取る。
【0032】
図2では、この様子を図1の回路の動作をもとに時系列的に示している。
図1のタイミング回路8では、VCO2が発生するサンプリングクロックから、+I成分と−I成分の更新タイミングに同期した(更新タイミングより少し後で発生する)パルスを生成し、加算タイミングパルスATPとしてラッチ回路5に入力する。その結果、加算タイミングパルスATPの周期毎に、+I成分と−I成分の和がラッチ回路5にラッチされ、該和の値が更新される。
【0033】
図2に示すように、時系列的に隣り合う+I成分と−I成分の和を連続的に求めると、例えば+I[n]と−I[n]の和のように同一シンボル期間内でサンプリングされた2点の場合はゼロになり、例えば+I[n+2]と−I[n+2]の和や+I[n+6]と−I[n+7]の和のように、それぞれの更新タイミングの間にシンボル境界がある場合は、ゼロでない値となる。これは、π/4シフトQPSK変調では同一シンボル期間中は位相変化が無く、シンボル境界で必ず位相変化があることによる。
【0034】
したがって、シンボル境界毎にゼロでない値となる箇所が現れ、それ以外はゼロが続く。シンボル境界に現れるゼロでない値は、符号が正負のいずれの場合もあり、値の大きさも一様でない。これを一様なパルス状にするために、図2に示したI成分和出力を、図1の絶対値回路6を通すことで、ゼロでない箇所の符号を正に統一し、さらに比較回路7を通すことで、所定の高さのパルスSTPを出力することができる。
【0035】
このようにして、図5に示すような、シンボルタイミングパルスSTPを得ることができる。実施の形態1に係る受信機は上記のようにして得られたシンボルタイミングパルスSTPを使って変調波のシンボルタイミングに同期を取ることができる。
【0036】
実施の形態2.
図6は、本発明の実施の形態2に係る受信機の回路構成を示す図である。図1の回路構成に対し、記憶装置9と制御回路10を付加したものであり、図1の回路が行う動作は全て図6の回路でも同様に行われる。
【0037】
記憶装置9は、所定のサンプリング周波数fsrでA/D変換が行われている場合に、PSK変調波またはQAM変調波、例えばπ/4シフトQPSK変調波の1シンボル期間中に算出される(ラッチ回路5から出力される)+I成分と−I成分の和または+Q成分と−Q成分の和の個数NSRを、定数として予め記憶しておくものである。
【0038】
制御回路10は、1シンボル期間中に実際に得られた上記和の個数NSを数え、記憶装置9に記憶した定数NSRと比較し、VCO2が発生するサンプリング周波数fsを補正する。即ち、上記和の個数NSと上記定数NSRの比較の結果得られた差分から、VCO2が発生するサンプリング周波数fsを所定のサンプリング周波数fsrに合わせるための補正量を決定して、VCO2が発生するサンプリング周波数fsを上記所定のサンプリング周波数fsrになるように制御する。
【0039】
直交アンダーサンプリング受信機では、入力される変調波の搬送波周波数に対して式(1)を満たすサンプリング周波数が複数存在する。そのため、サンプリングクロックの周波数を調節して周波数同期を取る場合、ひとつのサンプリング周波数に収束することを期待しても、期待と異なるサンプリング周波数に収束する場合がある。例えば、本来期待されるサンプリング周波数に収束している状態では、図5のように、I成分和出力の4点おきにシンボルタイミングパルスSTPが現れるものとする。これに対して、本来期待されるサンプリング周波数と異なる周波数に収束している場合は、例えば、図7に示すように8点おきにシンボルタイミングパルスSTPが現れるようなことが起こる。
【0040】
一般に通信システムにおいては、シンボル周期Tsは、通常、通信方式のシステム諸元として予め確定しているので、サンプリング周波数についても本来期待する周波数が確定していれば、受信機がシンボル周期の長さを記憶しておけば、シンボル周期の長さを既知の値として扱うことができ、1シンボル期間中に得られる(ラッチ回路5から出力される)I成分和出力の個数を確定することができる。
【0041】
図6の回路においては、記憶装置9に、本来期待される1シンボル期間中のI成分和出力の個数NSRを記憶しておき、制御回路10に、シンボルタイミングパルスSTPと加算タイミングパルスATPを入力して、シンボルタイミングパルスSTP1周期の間に出力される加算タイミングパルスATPの個数NSをカウントする。そしてカウントの結果得られた個数NS(実際に1シンボル期間内に得られたI成分和(またはQ成分和)の個数)を記憶装置9に記憶されている個数NSRと比較することにより、現在のサンプリング周波数fsを推定する。即ち、比較された個数NSが個数NSRに一致すれば、現在のサンプリング周波数fsが期待するサンプリング周波数fsrに収束しているものと判定する。
【0042】
一方、サンプリング周波数fsが期待と異なる周波数に収束していると判定された場合には、推定された周波数fsをもとに、本来期待されるサンプリング周波数fsrとの現在のサンプリング周波数fsの差分から必要な補正量を算出し、VCO2が発生するサンプリング周波数fsを制御して、本来期待されるサンプリング周波数fsrに収束させる。
【0043】
実施の形態2に係る受信機は、上記のように、誤ったサンプリング周波数に一旦収束してしまった場合にも、その状態に留まることなく、誤りを検出して、確実に本来期待されるサンプリング周波数に収束させることができる。
【0044】
実施の形態3.
図8は、本発明の実施の形態3に係る受信機の回路構成を示す図である。図1の回路構成に対し、加算器11、ラッチ回路12、絶対値回路13、比較回路14及び合成回路15を付加したものであり、図1の回路が行なう動作は全て図8の回路でも同様に行なわれる。
【0045】
加算器11は、加算器4と同様のものであるが、セレクタ3の出力のうち、−Q成分と+Q成分とを加算する。
ラッチ回路12、絶対値回路13及び比較回路14は、それぞれラッチ回路5、絶対値回路6及び比較回路7と同様のものである。
【0046】
加算器4とラッチ回路5とで、セレクタ3により分離された各信号成分のうち時間的に隣り合う+I成分と−I成分の和を、一定周期毎に時系列的に算出し、出力する成分和生成手段(第1の成分和生成手段)21が構成され、加算器11とラッチ回路12とで、セレクタ3により分離された各信号成分のうち時間的に隣り合う+Q成分と−Q成分の和を、一定周期毎に時系列的に算出し、出力する成分和生成手段(第2の成分和生成手段)23が構成され、絶対値回路6及び13、比較回路7及び14、並びに合成回路15により、第1の成分和生成手段21から出力される+I成分と−I成分の和の時間的変化の周期性及び第2の成分和生成手段23から出力される+Q成分と−Q成分の和の時間的変化の周期性からシンボルタイミングを再生するシンボルタイミング再生手段24が構成されている。
【0047】
加算器4、ラッチ回路5、絶対値回路6及び比較回路7は、+I成分と−I成分の和からシンボルタイミングパルスSTPaを得るための回路ブロック31を構成し、加算器11、ラッチ回路12、絶対値回路13及び比較回路14は、+Q成分と−Q成分の和からシンボルタイミングパルスSTPbを得るための回路ブロック32を構成する。すなわち回路ブロック32においては、回路ブロック31と同様の仕組みで、+Q成分と−Q成分の和を求める。
【0048】
合成回路15は、シンボルタイミングパルスSTPaとシンボルタイミングパルスSTPbを合成して、合成結果をシンボルタイミングパルスSTPとして出力する。合成回路15は例えばOR回路で構成され、シンボルタイミングパルスSTPaとシンボルタイミングパルスSTPbを入力としてそれらのうちの少なくとも一方が「1」(又はHigh)であれば、「1」(又はHigh)を出力し、それ以外のときは「0」(又はLow)を出力する。
【0049】
実施の形態1で示したように+I成分と−I成分の和からシンボルタイミングパルスSTPaを得ることができ、また、+Q成分と−Q成分の和からも同様にしてシンボルタイミングパルスSTPbを得ることができる。これは、+I成分と−I成分の和および+Q成分と−Q成分の和を時系列的に連続して求めた場合に、シンボル境界を跨ぐところでゼロでない値を取ることを利用するものである。しかし、シンボル境界で発生するゼロでない値は、シンボル点遷移による位相変化に起因し、一定の値にはならず、絶対値の小さい値になる場合がある。一方、受信機に入力される変調波の品質が悪いとき、すなわち雑音成分が多く含まれる場合には、同一シンボル期間内のI成分和出力が雑音成分の影響で誤差を含み、厳密にはゼロにならない。このような条件下では、シンボル境界に現れるゼロでない値と、シンボル期間中の誤差によって現れるゼロでない値の差が小さく、誤判定を起こす可能性が高くなる。図8の回路では、このような問題を緩和するため、+I成分と−I成分の和からシンボルタイミングパルスSTPaを生成するとともに、+Q成分と−Q成分の和からも並行してシンボルタイミングパルスSTPbを生成し、これらを合成することで、シンボルタイミングパルスSTPを生成し、これにより、誤判定の発生を抑制するものである。
【0050】
図9は、図8の受信機におけるI成分和出力とQ成分和出力を同じ座標軸上に表したものである。シンボル期間中のI成分の和とQ成分の和が、いずれの点も、わずかにゼロからずれた位置にあり、雑音成分による誤差が含まれていることを表している。シンボル境界に現れるゼロでない値の絶対値は、I成分とQ成分で必ずしも同じではなく、I成分の和が小さな絶対値でもQ成分の和が小さくない場合が多い。したがって、I成分の和だけでシンボル境界を判別するよりも、I成分の和とQ成分の和の両方からシンボル境界を判別する方が、誤判定が発生する確率は低くなる。実施の形態3に係る受信機は、上記のように、I成分の和とQ成分の和から並行してシンボルタイミングパルスSTPa、STPbを得て合成し、シンボルタイミングパルスSTPa、STPbの少なくとも一方が「1」、即ちHighレベルであれば、「1」或いはHighレベルの信号を出力することにより、より確実にシンボルタイミング同期を取ることが可能となる。
【0051】
なお、実施の形態3においても、実施の形態2について説明したのと同様の記憶装置9及び制御回路10を加えることができる。
【符号の説明】
【0052】
1 A/D変換器、 2 VCO、 3 セレクタ、 4,11 加算器、 5,12 ラッチ回路、 6,13 絶対値回路、 7,14 比較回路、 8 タイミング回路、 9 記憶装置、 10 制御回路、 15 合成回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信したPSK変調波またはQAM変調波を該変調波の周波数に対して特定の関係にあるサンプリング周波数でサンプリングすることで、復調されたべースバンドI/Q信号を得るA/D変換工程と、
前記A/D変換工程のサンプリング周波数を発生する発振工程と、
サンプリングされたデジタル信号を時系列的に信号成分毎に分離し、サンプリング周期毎に、ベースバンドI/Q信号の+I成分,−Q成分,−I成分,+Q成分の離散信号を順次出力する分離工程と、
分離された各信号成分のうち時間的に隣り合う+I成分と−I成分の和または、時間的に隣り合う+Q成分と−Q成分の和を、一定周期毎に時系列的に算出し、出力する成分和生成工程と、
前記成分和生成工程から出力される前記和の時間的変化の周期性からシンボルタイミングを再生するシンボルタイミング再生工程とを備える
ことを特徴とする受信機の同期方法。
【請求項2】
前記シンボルタイミング再生工程が、前記成分和生成工程から出力される和の絶対値を求める絶対値工程と、
前記絶対値工程から出力される絶対値が所定の値以上のときは第1の値となり、そうでないときは第2の値となる信号を出力する比較工程と
を有することを特徴とする請求項1に記載の受信機の同期方法。
【請求項3】
受信したPSK変調波またはQAM変調波を該変調波に対して特定の関係のあるサンプリング周波数でサンプリングすることで、復調されたべースバンドI/Q信号を得るA/D変換工程と、
前記A/D変換工程のサンプリング周波数を発生する発振工程と、
サンプリングされたデジタル信号を時系列的に信号成分毎に分離し、サンプリング周期毎に、ベースバンドI/Q信号の+I成分,−Q成分,−I成分,+Q成分の離散信号を順次出力する分離工程と、
前記分離工程により分離され時間的に隣り合う+I成分と−I成分の和を、一定周期毎に時系列的に算出し、出力する第1の成分和生成工程と、
前記分離工程により分離され時間的に隣り合う+Q成分と−Q成分の和を、一定周期毎に時系列的に算出し、出力する第2の成分和生成工程と、
前記第1の成分和生成工程から出力される前記+I成分と−I成分の和の時間的変化の周期性及び前記第2の成分和生成工程から出力される前記+Q成分と−Q成分の和の時間的変化の周期性からシンボルタイミングを再生するシンボルタイミング再生工程を備える
ことを特徴とする受信機の同期方法。
【請求項4】
前記シンボルタイミング再生工程が、
前記第1の成分和生成手段から出力される前記+I成分と−I成分の和の絶対値を求める第1の絶対値工程と、
前記第1の絶対値工程から出力される絶対値が所定の値以上のときは第1の値となり、そうでないときは第2の値となる信号を出力する第1の比較工程と、
前記第2の成分和生成手段から出力される前記+Q成分と−Q成分の和の絶対値を求める第2の絶対値工程と、
前記第2の絶対値工程から出力される絶対値が所定の値以上のときは第1の値となり、そうでないときは第2の値となる信号を出力する第2の比較工程と、
前記第1の比較工程の出力と前記第2の比較工程の出力の論理和を取る合成工程と
を有する
ことを特徴とする請求項3に記載の受信機の同期方法。
【請求項5】
所定のサンプリング周波数でA/D変換が行われている場合に、前記PSK変調波またはQAM変調波の1シンボル期間中に算出される+I成分と−I成分の和または+Q成分と−Q成分の和の個数を、定数として予め記憶しておく記憶工程と、
1シンボル期間中に得られた前記和の個数を計数し、前記計数の結果と前記定数の比較の結果に基づいて前記発振工程が発生する前記サンプリング周波数を前記所定のサンプリング周波数になるように制御する制御工程をさらに有する
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の受信機の同期方法。
【請求項6】
受信したPSK変調波またはQAM変調波を該変調波の周波数に対して特定の関係にあるサンプリング周波数でサンプリングすることで、復調されたべースバンドI/Q信号を得るA/D変換手段と、
前記A/D変換手段のサンプリング周波数を発生する発振手段と、
サンプリングされたデジタル信号を時系列的に信号成分毎に分離し、サンプリング周期毎に、ベースバンドI/Q信号の+I成分,−Q成分,−I成分,+Q成分の離散信号を順次出力する分離手段と、
分離された各信号成分のうち時間的に隣り合う+I成分と−I成分の和または、時間的に隣り合う+Q成分と−Q成分の和を、一定周期毎に時系列的に算出し、出力する成分和生成手段と、
前記成分和生成手段から出力される前記和の時間的変化の周期性からシンボルタイミングを再生するシンボルタイミング再生手段とを備える
ことを特徴とする受信回路。
【請求項7】
前記シンボルタイミング再生手段が、
前記成分和生成手段から出力される和の絶対値を求める絶対値回路と、
前記絶対値回路から出力される絶対値が所定の値以上のときは第1の値となり、そうでないときは第2の値となる信号を出力する比較回路と
を有することを特徴とする請求項6に記載の受信回路。
【請求項8】
受信したPSK変調波またはQAM変調波を該変調波に対して特定の関係のあるサンプリング周波数でサンプリングすることで、復調されたべースバンドI/Q信号を得るA/D変換手段と、
前記A/D変換手段のサンプリング周波数を発生する発振手段と、
サンプリングされたデジタル信号を時系列的に信号成分毎に分離し、サンプリング周期毎に、ベースバンドI/Q信号の+I成分,−Q成分,−I成分,+Q成分の離散信号を順次出力する分離手段と、
前記分離手段により分離され時間的に隣り合う+I成分と−I成分の和を、一定周期毎に時系列的に算出し、出力する第1の成分和生成手段と、
前記分離手段により分離され時間的に隣り合う+Q成分と−Q成分の和を、一定周期毎に時系列的に算出し、出力する第2の成分和生成手段と、
前記第1の成分和生成手段から出力される前記+I成分と−I成分の和の時間的変化の周期性及び前記第2の成分和生成手段から出力される前記+Q成分と−Q成分の和の時間的変化の周期性からシンボルタイミングを再生するシンボルタイミング再生手段を備える
ことを特徴とする受信回路。
【請求項9】
前記シンボルタイミング再生手段が、
前記第1の成分和生成手段から出力される前記+I成分と−I成分の和の絶対値を求める第1の絶対値回路と、
前記第1の絶対値回路から出力される絶対値が所定の値以上のときは第1の値となり、そうでないときは第2の値となる信号を出力する第1の比較回路と、
前記第2の成分和生成手段から出力される前記+Q成分と−Q成分の和の絶対値を求める第2の絶対値回路と、
前記第2の絶対値回路から出力される絶対値が所定の値以上のときは第1の値となり、そうでないときは第2の値となる信号を出力する第2の比較回路と、
前記第1の比較回路の出力と前記第2の比較回路の出力の論理和を取る合成回路と
を有する
ことを特徴とする請求項8に記載の受信回路。
【請求項10】
所定のサンプリング周波数でA/D変換が行われている場合に、前記PSK変調波またはQAM変調波の1シンボル期間中に算出される+I成分と−I成分の和または+Q成分と−Q成分の和の個数を、定数として予め記憶しておく記憶手段と、
1シンボル期間中に得られた前記和の個数を計数し、前記計数の結果と前記定数の比較の結果に基づいて前記発振手段が発生する前記サンプリング周波数を前記所定のサンプリング周波数になるように制御する制御手段をさらに有する
ことを特徴とする請求項6乃至9のいずれかに記載の受信回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−77639(P2011−77639A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−224503(P2009−224503)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】