説明

受信装置

【課題】
光通信量子暗号通信を行う受信装置における、閾値を変動制御する閾値生成部や他の論理部の温度特性や遅延量変化等による位相誤差を補正し受信データの誤検出を防止する。
【解決手段】
Yuen量子暗号通信による多値信号を受信する受信装置は、送信側と同一のRunning鍵を用いて閾値信号を可変制御する閾値生成部146と、閾値生成部によって生成された閾値信号を用いて、多値信号から成る受信信号を識別する識別部147と、受信装置内部で生成される再生クロックと閾値生成部から出力される監視クロックの位相のずれを補正するように、出力クロックの位相を制御するPLL回路51を有し、閾値生成部は、PLL回路からの出力クロックを基に、再生クロックと閾値信号の位相を一致するように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は受信装置に係り、特に、光通信量子暗号通信のような光多値変調を用いた通信に好適な受信装置における閾値位相の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信量子暗号は、光の量子ゆらぎ(量子ショット雑音)を変調によって拡散させ、盗聴者が光信号を正確に受信できなくすることにより、無限の計算能力でも解読不能な共通鍵量子暗号が開発されている。この共通鍵量子暗号は、2値の送信データを搬送する2値の光信号を1つのセット(基底という)とし、この基底をM個用意し、どの基底を使ってデータを送るかは暗号鍵に従う擬似乱数によって不規則に決めるようにしたことにより、現実的には多値光信号は量子ゆらぎによって識別ができないほど信号間距離が小さく設計されているため、結局、盗聴者は全く受信信号からデータ情報を読みとることができない。
【0003】
正規送受信者の光変復調装置は、2値のM個の基底を共通の擬似乱数にしたがって切り換えて通信するため、正規受信者は信号間距離の大きな2値の信号判定によってデータを読みとることができ、結局、量子ゆらぎによるエラーは無視でき、正確な通信が可能となる。
【0004】
光通信量子暗号は、Yuen−2000暗号通信プロトコル(Y−00プロトコルと略称される)によるYuen量子暗号と呼ばれ、現在このY−00プロトコルを具現化する通信方式としては、P.KumarやH.YuenらのNorthwestern大学が非特許文献1により光位相変調方式を発表し、また玉川大学グループが非特許文献2により光強度変調方式を発表している。
このYuen量子暗号は、通信システム自体が量子性の弱い従来の光通信で構成されているが、鍵を知らない盗聴者は量子ゆらぎによって情報が得られない工夫がなされていることに基づく安全性を提供する暗号である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】G.A.Barbosa, E.Corndorf, P.Kumar, H.P.Yuen, “Secure communication using mesoscopic coherent state,” Phys. Rev. Lett. vol−90, 227901, (2003)
【非特許文献2】O.Hirota, K.Kato, M.Sohma, T.Usuda, K.Harasawa, “Quantum stream cipher based on optical communication” SPIE Proc. on Quantum Communications and Quantum Imaging vol−5551,(2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
光強度変調方式によるY−00量子暗号通信は、送信装置で、送信データに対して、共通鍵(共有鍵ともいう)を用いて生成したRunning鍵の値に基づいて多値光信号を発生して通過路に伝送する。受信装置では、光多値信号をフォトダイオードで受信して光電変換し、送信時と同一のRunning鍵を用いて閾値生成部で受信閾値を制御し、その閾値を用いて受信データを識別する。
【0007】
受信装置において、受信した暗号信号(多値信号:ビット毎に基底信号レベルが変化する)に含まれる基底信号の識別を行うために、図2に示すように、Running鍵に基づいて、送信基底の選択及び受信閾値の選択を信号ビット毎に行い、ダイナミックに閾値レベルを変化させる。この受信閾値の選択制御により、図3に示すように、受信信号301に対して、閾値信号302(破線)は一定の識別マージンを保つように遷移する。そして、受信信号301と閾値信号302のレベルを比較することで受信データを復号する。
【0008】
然しながら、受信装置において、受信信号を処理するロジック処理部や閾値生成部が持つ温度特性や部品の個体差等に因り、生成される閾値信号の位相が変化することがある。その結果、図4に示すように、閾値信号302´の位相がFだけ変動し、受信信号の識別において随所で不定状態や識別マージンの不足が発生する。その結果、受信信号を正確に識別できなくなり、通信エラー(ハッチング部の識別信号303´)を引き起こす要因となる。
【0009】
本発明の目的は、光通信量子暗号通信を行う受信装置において、閾値を変動制御する閾値生成部や他の論理部の温度特性や遅延量変化等による位相誤差を補正し、受信データの誤検出を防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、好ましくは、Yuen量子暗号通信による多値信号を受信する受信装置であって、送信側と同一のRunning鍵を用いて閾値信号を可変制御する閾値生成部と、該閾値生成部によって生成された閾値信号を用いて、多値信号から成る受信信号を識別する識別部と、受信装置内部で生成される再生クロックと該閾値生成部から出力される監視クロックの位相のずれを補正するように、出力クロックの位相を制御する位相制御部を有し、該閾値生成部は、該位相制御部からの出力クロックを基に、該再生クロックと該閾値信号の位相を一致するように制御することを特徴とする受信装置として構成される。
【0011】
好ましい例において、前記位相制御部は、該再生クロックと該位相制御部から出力されてフィードバックされた出力クロックの位相を比較して位相ずれを検出する位相比較器と、該位相比較器の比較結果に従って、該再生クロックと監視クロックの位相が一致するように、該出力クロックの位相を制御する電圧制御クロック発信器を有するPLL回路で構成される。
また、好ましくは、前記識別器からの識別信号に同期したクロックを生成するCDRを有し、該CDRで生成される該クロックを、前記再生クロックとして使用する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、光通信量子暗号通信を行う受信装置において、閾値を変動制御する閾値生成部や他の論理部の温度特性や遅延量変化等による位相誤差を補正し、受信データの誤検出を防止できる。これにより光通信量子暗号通信の信頼性を向上することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】Yuen量子暗号を用いた通信システムの一般的な構成を示す図。
【図2】Yuen量子暗号通信における信号基底、受信閾値の配置を示す図。
【図3】Yuen量子暗号通信における受信信号と閾値信号の遷移、識別信号を示す図。
【図4】Yuen量子暗号通信において閾値位相が変動した場合の識別信号の検出を示す図。
【図5】本発明の実施形態による受信装置の構成ブロックを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の好ましい実施形態について説明する。
まず、図1を参照して、光強度変調方式によるYuen量子暗号の通信システムの一般的な構成について説明する。
この通信システムは、送信装置10と受信装置14が光ファイバーのような通信路12で接続して構成される。送信装置10は、共有鍵101を用いて送信用のRunning鍵を発生するRunning鍵生成部102と、送信データとRunning鍵から多値光信号を生成発生する多値光信号生成部103を有する。
【0015】
受信装置14は、通過路12を通して伝送された光信号をフォトダイオードで受信して光電変換するO/E変換部145と、共有鍵141を用いて受信用Running鍵(送信用のRunning鍵を同期が取られた同一のRunning鍵)を生成するRunning鍵生成部142と、Running鍵生成部142で生成されたRunning鍵を用いて多値信号判定用の受信閾値を生成する閾値生成部146と、O/E変換部145で受信した光信号に対して、閾値生成部146で生成された閾値を用いて1と0との判定(弁別)を行って受信データを出力する識別器147を有する。
【0016】
図5は、本発明の実施形態による受信装置の構成ブロックを示す。
識別器147は、Y−00伝送プロトコルを使用した送信装置より送信された多値信号である受信信号を受信して、二値のディジタル信号へ変換する。即ち、受信信号と閾値生成部146で生成された閾値信号との差分を比較し、HighもしくはLowで示す二値信号へと変換する。この識別器147は、伝送レートにて動作するコンパレータや差動識別器を用いて実現できる。
【0017】
CDR(クロックデータリカバリー)502は、識別器147からの識別信号に同期した再生クロックを生成する機能を有する。CDR502は通信用に市販されているデバイスを用いて実現できる。
【0018】
ロジック処理部503は、識別信号の論理処理を行う論理回路部分であり、伝送信号の受信や、Y−00の暗号通信にて付加的に行われる論理的なランダマイゼーションを解除する機能を有する。共有鍵141は、Y−00暗号通信で使用される共有鍵を格納する記憶部であり、一般的なメモリに共有鍵のビット列を格納しておくことにより、或いはハードウェア的に固有の共有鍵を設定しておくことにより実現できる。
Running鍵生成部142は、共有鍵141の共有鍵を基に暗号実行鍵を生成する機能を有する。Running鍵生成部142は、擬似乱数生成器など固有長のビット列から複雑性を持つ長いビット列を生成する。この鍵生成部142をハードウェアで構成する場合には、LFSR(リニアシフトフィードバックレジスタ)等を用いて実現できる。
【0019】
閾値生成部146は、識別器147で多値信号を識別するための閾値信号を生成する機能を有し、例えば、受信信号のレートに対応するDAコンバータを用いて実現可能である。Y−00暗号通信では、送信側と受信側で同じRunning鍵生成部、共有鍵を持つことで、暗号化された信号に対応する閾値信号を生成することが可能である。
【0020】
PLL回路51は、位相比較器512、フィルタ513、電圧制御クロック発信器(VCXO)514を備え、CDR502の再生クロックと閾値生成部146の出力クロックの位相の変化を検出して、その位相ずれを補正するように、PLLの出力クロックの位相を制御する。即ち、位相比較器512は、入力される基準クロック(再生クロック)と、PLL出力クロックからフィードバックされるクロック(監視クロック)の位相比較して位相ずれを検出し、基準クロックと監視クロックの位相が一致するように、フィルタ513を通してVCXO514の出力クロックの位相を制御する。
【0021】
PLL出力クロックは、閾値生成部146に入力され、その内部のクロック処理系を通って、識別器147への閾値信号と同期した監視クロックをPLL回路51へ戻す。このPLL回路51の制御により、CDR502により再生された再生クロックと、閾値生成部146で生成される閾値信号は位相が一致するように制御され、その結果として受信信号と閾値信号の位相が一致する。
【0022】
この構成により、受信装置で生成される閾値信号の位相を、受信信号に正確に一致させることができる。その結果、図4の閾値信号302´の位相ずれが防止でき、識別信号303´のハッチング部が除かれた信号を得ることが出来る。そのため、受信信号の復号時(識別時)の識別誤りを回避することができ、識別位相マージンの劣化を防ぐことが可能となる。
【符号の説明】
【0023】
10:送信装置 101:共有鍵 102:Running鍵生成部 103:多値光信号生成部 12:通信路
14:受信装置 145:O/E変換部 141:共有鍵 142:Running鍵生成部 146:閾値生成部 147:識別器
501:識別器 502:CDR(クロックデータリカバリー) 503:ロジック処理部 51:PLL回路 512:位相比較器 513:フィルタ 514:電圧制御クロック発振器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Yuen量子暗号通信による多値信号を受信する受信装置であって、
送信側と同一のRunning鍵を用いて閾値信号を可変制御する閾値生成部と、該閾値生成部によって生成された閾値信号を用いて、多値信号から成る受信信号を識別する識別部と、受信装置内部で生成される再生クロックと該閾値生成部から出力される監視クロックの位相のずれを補正するように、出力クロックの位相を制御する位相制御部を有し、
該閾値生成部は、該位相制御部からの出力クロックを基に、該再生クロックと該閾値信号の位相を一致するように制御することを特徴とする受信装置。
【請求項2】
前記位相制御部は、該再生クロックと該位相制御部から出力されてフィードバックされた出力クロックの位相を比較して位相ずれを検出する位相比較器と、該位相比較器の比較結果に従って、該再生クロックと監視クロックの位相が一致するように、該出力クロックの位相を制御する電圧制御クロック発信器を有するPLL回路で構成されることを特徴とする請求項1に記載の受信装置。
【請求項3】
前記識別器からの識別信号に同期したクロックを生成するCDRを有し、該CDRで生成される該クロックを、前記再生クロックとして使用することを特徴とする請求項1又は2に記載の受信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−188073(P2011−188073A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−48948(P2010−48948)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【出願人】(000233295)日立情報通信エンジニアリング株式会社 (195)
【Fターム(参考)】