説明

受動型光伝送システムおよびこれに用いる高強度伝送用光ファイバ

【課題】より長距離伝送が可能な受動型光伝送システムおよびこれに用いる高強度伝送用光ファイバを実現すること。
【解決手段】送信機1と受動型光合分配素子3との間の高強度伝送用光ファイバ2として、直径Dが125±1μmで屈折率が均一なクラッド部内に4個のコア部が間隔Λで正方格子状に配列された断面構造を有し、各コア部が第1コア領域、第2コア領域および第3コア領域とで形成される並列伝送型の高強度伝送用光ファイバ、もしくは直径Dが125±1μmで屈折率が均一なクラッド部内に直径が2aで前記クラッド部に対する比屈折率差がΔのコア部がコア間距離Λで六方最密状に配列された断面構造を有するコア拡大型の高強度伝送用光ファイバを用いた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は単一モード光通信システム、および当該光通信システムに用いる単一モード光ファイバに関する。
【背景技術】
【0002】
データ通信の急速な普及に伴い、FTTH(Fiber To The Home)が進展している。現在のFTTHでは、波長1310nm帯にゼロ分散波長を有する汎用単一モード光ファイバ(SMF)と、受動型光合分配素子とを用いたPON(Passive Optical Network)システムが汎用的に用いられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、PONシステムにおける光伝送距離は、汎用SMFに入力可能な光強度と、受動型光合分配素子における分割数とにより著しく制限されるといった課題があった。
【0004】
また、汎用SMFの入力光強度は実効断面積の拡大により増加させることが可能であるが、実効断面積を拡大しつつ、PONシステムで必要となる波長1260nm以下の遮断波長特性を実現することは困難であるといった課題があった。
【0005】
本発明は以上のような背景に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、より長距離伝送が可能な受動型光伝送システムおよびこれに用いる高強度伝送用光ファイバを実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の受動型光伝送システムでは、従来の汎用SMFよりも高強度の光信号を伝搬可能な高強度伝送用光ファイバと、受動型光合分配素子とを用いることにより、課題を解決する手段としている。より具体的には、従来の汎用SMFと同等以上の実効断面積を有する並列伝送型の高強度伝送用光ファイバ、もしくは拡大コア型の高強度伝送用光ファイバを用いることにより、課題を解決する手段としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明の受動型光伝送システムによれば、高強度伝送用光ファイバと、受動型光合分配素子とを適用したことにより、従来の汎用SMFを用いたPONシステムにおける伝送距離を4km以上延長できるといった効果を奏する。
【0008】
また、本発明の受動型光伝送システムによれば、従来の汎用SMFと同等の1260nm以下の遮断波長を実現することとしたため、従来のPONシステムと同様の波長帯を利用した光伝送システムが構築できるといった効果を奏する。
【0009】
また、本発明の受動型光伝送システムによれば、従来の汎用SMFと同等の125μm±1μmのクラッド外径を有する高強度伝送用光ファイバを用いることとしたため、従来の受動型光合分配素子との良好な接続性を実現できるといった効果も奏する。
【0010】
また、本発明の並列伝送型の高強度伝送用光ファイバを用いた受動型光伝送システムによれば、従来の汎用SMFと同等以上の実効断面積特性を有する4個のコアを並列して用いることとしたため、受動型光合分配素子への供給光強度を6dB以上向上できるといった効果も奏する。
【0011】
また更に、本発明の拡大コア型の高強度伝送用光ファイバを用いた受動型光伝送システムによれば、従来の汎用SMFの約1.7倍以上の実効断面積を実現することとしたため、受動型光合分配素子への供給光強度を2.3dB以上向上できるといった効果も奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の受動型光伝送システムの構成を示す概念図である。
【図2】本発明の受動型光伝送システムに用いる、並列伝送型の高強度伝送用光ファイバの断面構造および屈折率分布を示す概念図である。
【図3】並列伝送型の高強度伝送用光ファイバにおいて、コア半径aと比屈折率差Δの構造条件を示す図面である。
【図4】並列伝送型の高強度伝送用光ファイバにおいて、半径方向の比率Ra1と最大モードフィールド径との関係を表す図面である。
【図5】並列伝送型の高強度伝送用光ファイバにおいて、半径方向の比率Ra2と最大モードフィールド径との関係を表す図面である。
【図6】並列伝送型の高強度伝送用光ファイバにおいて、屈折率方向の比率RΔと最大モードフィールド径との関係を表す図面である。
【図7】本発明の受動型光伝送システムに用いる、拡大コア型の高強度伝送用光ファイバの断面構造を示す概念図である。
【図8】拡大コア型の高強度伝送用光ファイバにおいて、セグメント数が7個の場合の構造条件を示す概念図である。
【図9】拡大コア型の高強度伝送用光ファイバにおいて、セグメント数が19個の場合の構造条件を示す概念図である。
【図10】並列伝送型の高強度伝送用光ファイバにおいて、曲げ損失特性の改善を可能とする断面構造を示す概念図である。
【図11】拡大コア型の高強度伝送用光ファイバにおいて、曲げ損失特性の改善を可能とする断面構造を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下では、本発明の受動型光伝送システムおよびこれに用いる高強度伝送用光ファイバの実施の形態について図面を用いて説明する。
【0014】
図1は、本発明の受動型光伝送システムの構成を示す概念図である。本発明の受動型光伝送システムは、波長1260〜1625nm帯の信号光を生成して出力する送信機(Tx)1と、送信機1から出力された信号光を伝搬する、従来の汎用SMFよりも高強度の信号光を伝搬可能な高強度伝送用光ファイバ2と、高強度伝送用光ファイバ2を伝搬してきた信号光をn個に分配する受動型光合分配素子3と、分配後の信号光をそれぞれ伝送するn本の光ファイバ4と、各光ファイバ4を介して伝送された信号光をそれぞれ受光・復調するn個の受信機(Rx)5とにより構成される。
【0015】
尚、前記分配数nは任意の数量に設定することが可能である。また、受動型光合分配素子3は、受信機5側から入力されるn個の信号光を1つに合波して送信機1側へ出力する機能も具備するものとする。また、受動型光合分波素子3と受信機5との間の光ファイバ4には通常の汎用SMFを用いることが可能である。
【0016】
<実施例1>
実施例1では、前記高強度伝送用光ファイバ2が、並列伝送型の光ファイバにより構成される場合について図面を用いて説明する。
【0017】
図2は、本発明の受動型光伝送システムに用いる、並列伝送型の高強度伝送用光ファイバの断面構造および屈折率分布を示す概念図である。本発明の並列伝送型の高強度伝送用光ファイバ10は、直径(外径)Dが125±1μmで屈折率が均一なクラッド部11内に、4個のコア部12が中心間距離Λで正方格子状に配列された断面構造を有する。
【0018】
また、各コア部12は、クラッド部11に対する比屈折率差がΔで半径がa1の第1コア領域と、屈折率がクラッド部11と同一で前記第1コア領域を含む半径がa2の第2コア領域と、クラッド部11に対する比屈折率差がΔ1で前記第1コア領域および第2コア領域を含む半径がaの第3コア領域とで形成される。
【0019】
ここで、半径方向の前記パラメータの比率Ra1およびRa2、比屈折率差方向の前記パラメータの比率RΔを、
Ra1≡a1/a (1)
Ra2≡a2/a (2)
RΔ≡Δ1/Δ (3)
と定義する。
【0020】
この際、前記125±1μmとなるクラッド外径を実現し、かつ各コアの伝送損失を良好とするためには、各コアの中心からクラッド外周までの最小距離を概ね40μm程度に設定する必要が生じる。このため、前記コア間距離Λは概ね30μm以下に設定することが必要となる。
【0021】
図3は、本発明の受動型光伝送システムに用いる、並列伝送型の高強度伝送用光ファイバにおいて、所望の伝送特性を実現するコア半径a(Core radius)と比屈折率差Δ(Relative index difference)の構造条件を示す図面である。図中の破線で囲まれた領域にて、1260nm以下の遮断波長を実現し、かつ波長1550nmでコア間距離Λが30μmの時における隣接コア間のクロストークを−30dB以下に低減できる。また、図中の3本の実線は波長1310nmにおけるモードフィールド径(2W)を7μm、8μm、もしくは9μmとする構造条件を示す。ここで、非特許文献1によれば、従来の汎用SMFにおける波長1310nmでのモードフィールド径は8μm以上として推奨されている。
【0022】
従って、図3より、前記コア半径aを5.3〜9.9μmの範囲、前記比屈折率差Δを0.30〜0.47%の範囲とすることにより、従来の汎用SMFと同等のモードフィールド径特性および遮断波長特性を実現し、かつコア間距離Λが30μmにおける隣接コア間のクロストークを−30dB以下に低減することが可能となる。
【0023】
図4は、本発明の受動型光伝送システムに用いる、並列伝送型の高強度伝送用光ファイバにおいて、図3の構造条件を満たす時の、半径方向の比率Ra1と最大モードフィールド径との関係を表す図面である。図4より、前記Ra1を0.36〜0.86の範囲とすることにより、従来の汎用SMFと同等となる8μm以上のモードフィールド径を実現できることが分かる。
【0024】
図5は、本発明の受動型光伝送システムに用いる、並列伝送型の高強度伝送用光ファイバにおいて、図3の構造条件を満たす時の、半径方向の比率Ra2と最大モードフィールド径との関係を表す図面である。図5より、前記Ra2を0.51以上とすることにより、従来の汎用SMFと同等となる8μm以上のモードフィールド径を実現できることが分かる。ここで、Ra2を0.9以上とすると第3コア領域の低屈折率領域を形成することが困難となる。そのため、Ra2は0.51〜0.90の範囲に設定されることが好ましく、同様にRa2が0.90に設定される場合を考え、Ra1は0.80以下に設定されることが好ましい。
【0025】
図6は、本発明の受動型光伝送システムに用いる、並列伝送型の高強度伝送用光ファイバにおいて、図3の構造条件を満たす時の、屈折率方向の比率RΔと最大モードフィールド径との関係を表す図面である。図6から、前記RΔを−0.33以下とすることにより、従来の汎用SMFと同等となる8μm以上のモードフィールド径を実現できることが分かる。ここで、RΔの過度な低下は伝送損失の増加を招く。このため、RΔは−0.33〜−1.00の範囲に設定されることが好ましい。
【0026】
従って、図2に示した断面構造および屈折率分布を有する、本発明の並列伝送型の高強度伝送用光ファイバにおいて、前記コア半径aを5.3〜9.9μmの範囲、前記比屈折率差Δを0.30〜0.47%の範囲とし、かつ前記Ra1を0.36〜0.80の範囲、前記Ra2を0.51〜0.90の範囲、前記RΔを−0.33〜−1.00の範囲にそれぞれ設定することにより、従来の汎用SMFと同等の遮断波長特性と、モードフィールド径特性とを維持し、かつクロストークによる伝送特性劣化を生じることなく同一の信号光を4個のコアで並列に伝送することが可能となる。
【0027】
これにより、本発明の並列伝送型の高強度伝送用光ファイバでは、従来の汎用SMFの4倍(6dB)以上の高強度信号光を伝搬することが可能となる。一般的な単一モード光ファイバの波長1260〜1625nmにおける伝送損失は概ね0.5dB/km以下であり、本発明の並列伝送型の高強度伝送用光ファイバを用いることにより、伝送距離を約12km以上延長することが可能となる。
【0028】
<実施例2>
実施例2では、前記高強度伝送用光ファイバ2が、拡大コア型の光ファイバにより構成される場合について図面を用いて説明する。
【0029】
図7は、本発明の受動型光伝送システムに用いる、拡大コア型の高強度伝送用光ファイバの断面構造を示す概念図である。本発明の拡大コア型の高強度伝送用光ファイバ20は、直径Dが125±1μmで屈折率が均一なクラッド部21内に、直径が2aでクラッド21部に対する比屈折率差がΔのステップ型のコア部22がコア間距離Λで六方最密状に配列された断面構造を有する。なお、図7では一例としてコア部22のセグメント数Nが19である場合を示す。
【0030】
図8は、本発明の受動型光伝送システムに用いる、拡大コア型の高強度伝送用光ファイバにおいて、セグメント数Nが7の場合の構造条件を、規格化コア間距離Λ/2aと規格化周波数Vの関数として示す図面である。ここで、規格化周波数Vは、前記コア直径2a、比屈折率差Δ、およびコア部22の屈折率n1を用いて、
V≡(2π/λ)a・n1(2Δ)1/2 (4)
と定義される。
【0031】
図中の実線は遮断波長が1260nmとなる構造条件を示し、実線より左側の条件で1260nm以下の遮断波長を実現することが可能となる。また、図中の破線、一点鎖線および2点鎖線は閉じ込め損失を示し、それぞれ前記コア部22の直径2aが2μm、3μmおよび4μmの場合の計算結果を示す。破線、一点鎖線および2点鎖線より下(右)側の領域において閉じ込め損失を0.01dB/km以下に低減することが可能となる。
【0032】
従って、図8に示した実線および破線または一点鎖線または2点鎖線で囲まれる領域において規格化コア間距離Λ/2aと規格化周波数Vとを設定することにより、1260nm以下の遮断波長特性と、0.01dB/km以下の閉じ込め損失特性とを同時に実現することが可能となる。尚、規格化コア間距離Λ/2aが1となる場合には、隣接するコア部同士が接して製造の困難性が増大する。このため、規格化コア間距離Λ/2aは1.2以上程度に設定されることが好ましい。
【0033】
ここで、配列されるコア部22の断面積が最も小さくなる場合、即ち、コア直径2aが2μmで、規格化周波数Vが0.55で、規格化コア間距離Λ/2aが1.2である場合に着目すると、波長1310nmにおける実効断面積は約120μm2となる。従って、本発明の図7に示した拡大コア型の高強度伝送用光ファイバにおいて、セグメント数Nが7個の場合、コア直径2aを2〜4μmの範囲、規格化周波数Vを0.55〜0.84の範囲、規格化コア間距離Λ/2aを1.2〜4.0の範囲に設定することにより、波長1260nm以上における単一モード伝送特性と100μm2以上の実効断面積特性とを実現することが可能となる。
【0034】
図9は、本発明の受動型光伝送システムに用いる、拡大コア型の高強度伝送用光ファイバにおいて、セグメント数Nが19の場合の構造条件を、規格化コア間距離Λ/2aと規格化周波数Vの関数として示す図面である。
【0035】
図中の実線は遮断波長が1260nmとなる構造条件を示し、実線より左側の条件で1260nm以下の遮断波長を実現することが可能となる。また、図中の破線、一点鎖線および2点鎖線は閉じ込め損失を示し、それぞれ前記コア部22の直径2aが1.5μm、2.0μmおよび2.5μmの場合の計算結果を示す。破線、一点鎖線および2点鎖線より下(右)側の領域において閉じ込め損失を0.01dB/km以下に低減することが可能となる。
【0036】
従って、図9に示した実線および破線または一点鎖線または2点鎖線で囲まれる領域において規格化コア間距離Λ/2aと規格化周波数Vとを設定することにより、1260nm以下の遮断波長特性と、0.01dB/km以下の閉じ込め損失特性とを同時に実現することが可能となる。尚、規格化コア間距離Λ/2aが1となる場合には、隣接するコア部同士が接して製造の困難性が増大する。このため、規格化コア間距離Λ/2aは1.2以上程度に設定されることが好ましい。
【0037】
ここで、配列されるコア部22の断面積が最も小さくなる場合、即ち、コア直径2aが1.5μmで、規格化周波数Vが0.40で、規格化コア間距離Λ/2aが1.2である場合に着目すると、波長1310nmにおける実効断面積は約120μm2となる。従って、本発明の図7に示した拡大コア型の高強度伝送用光ファイバにおいて、セグメント数Nが19個の場合、コア直径2aを1.5〜2.5μmの範囲、規格化周波数Vを0.39〜0.53の範囲、規格化コア間距離Λ/2aを1.2〜2.1の範囲に設定することにより、波長1260nm以上における単一モード伝送特性と100μm2以上の実効断面積特性とを実現することが可能となる。
【0038】
ここで非特許文献2によれば、単一モード光ファイバに入力可能な光強度は、当該単一モード光ファイバの実効断面積に比例して増加することが知られている。
【0039】
また、汎用的なSMFの波長1310nmにおける実効断面積は約60μm2である。従って、本発明のコア拡大型の高強度伝送用光ファイバによれば、実効断面積を通常のSMFの1.6倍以上に拡大(2dB以上向上)できる。一般的な単一モード光ファイバの波長1260〜1625nmにおける伝送損失は概ね0.5dB/km以下であるので、本発明のコア拡大型の高強度伝送用光ファイバによれば伝送距離を4km以上延長することが可能となる。
【0040】
<実施例3>
実施例3では、実施例1で説明した並列伝送型の高強度伝送用光ファイバに関し、その伝送特性を劣化させることなく、曲げ損失特性を改善する技術について説明する。
【0041】
図10に、並列伝送型の高強度伝送用光ファイバにおいて、曲げ損失特性を改善する断面構造の概念図を示す。実施例3における並列伝送型の高強度伝送用光ファイバは、図10(a)に示すように各コア部12の中心からの最小距離がxμmとなる円周に外接するように配置された、クラッド部11よりも低い屈折率を有し厚みがzμmである環状の低屈折率領域13を有する、もしくは図10(b)に示すように各コア部12の中心からの最小距離がxμmとなる円周に外接するように等間隔に配置された、直径がzμmで少なくとも10個以上の空孔部14を有する。
【0042】
これにより、各コア部12の電界分布を低屈折率領域13、もしくは空孔部14より内側のクラッド領域に閉じ込めることが可能となり、曲げ付与に伴う伝送損失の増加を低減することが可能となる。
【0043】
ここで、上記xは、小さすぎると各コア部12の伝送特性を劣化させ、大きすぎると十分な閉じ込め効果を得ることが困難となる。このため、xはモードフィールド径の1.0倍〜1.5倍に、即ち8〜12μmに設定されることが好ましい。
【0044】
また、環状の低屈折領域13を設定する場合、当該領域のクラッド部11に対する比屈折率差は概ね−0.2%以下とすれば十分な閉じ込め効果を得ることが可能となる。また更に、低屈折率領域13の厚みzもしくは空孔部14の直径zは、概ね波長と同等のオーダー以上、即ち1μm以上であれば良い。但し、zμmが大きすぎる場合には高次モードに対する閉じ込め効果も増大するため、zは概ね5μm程度以下であることが好ましい。
【0045】
<実施例4>
実施例4では、実施例2で説明した拡大コア型の高強度伝送用光ファイバに関し、その伝送特性を劣化させることなく、曲げ損失特性を改善する技術について説明する。
【0046】
図11に、拡大コア型の高強度伝送用光ファイバにおいて、曲げ損失特性を改善する断面構造の概念図を示す。実施例4における拡大コア型の高強度伝送用光ファイバは、図11(a)に示すようにクラッド部21の中心からの距離がxμmとなる円周に外接するように配置された、クラッド部21よりも低い屈折率を有し厚みがzμmである環状の低屈折率領域23を有する、もしくは図11(b)に示すようにクラッド部21の中心からの最小距離がxμmとなる円周に外接するように等間隔に配置された、直径がzμmで少なくとも10個以上の空孔部24を有する。
【0047】
これにより、伝搬する光の電界分布を低屈折率領域23、もしくは空孔部24より内側のクラッド領域に閉じ込めることが可能となり、曲げ付与に伴う伝送損失の増加を低減することが可能となる。
【0048】
ここで、上記xは、小さすぎると伝搬光の伝送特性を劣化させ、大きすぎると十分な閉じ込め効果を得ることが困難となる。このため、xはモードフィールド径の1.0倍〜1.5倍に設定されることが好ましい。ここで、実効断面積Aはモードフィールド半径Wと、A=πW2との関係で記述できる。従って、実効断面積が100μm2以上となる本発明のコア拡大型の高強度伝送用光ファイバでは、前記Wが5.6μm以上であり、前記xは概ね11〜17μmに設定されることが好ましい。
【0049】
また、環状の低屈折領域23を設定する場合、当該領域のクラッド部21に対する比屈折率差は概ね−0.2%以下とすれば十分な閉じ込め効果を得ることが可能となる。また更に、低屈折率領域23の厚みzもしくは空孔部24の直径zは、概ね波長と同等のオーダー以上、即ち1μm以上であれば良い。但し、zが大きすぎる場合には高次モードに対する閉じ込め効果も増大するため、zは概ね5μm程度以下であることが好ましい。
【0050】
以上に説明したように、本発明の受動型光伝送システムによれば、高強度伝送用光ファイバと、受動型光合分配素とを適用したことにより、従来の汎用SMFを用いたPONシステムにおける伝送距離を4km以上延長することを可能とする。
【符号の説明】
【0051】
1:送信機、2:高強度伝送用光ファイバ、3:受動型光合分配素子、4:光ファイバ、5:受信機、10:並列伝送型の高強度伝送用光ファイバ、11:クラッド部、12:コア部、13:低屈折率領域、14:空孔部、20:拡大コア型の高強度伝送用光ファイバ、21:クラッド部、22:コア部、23:低屈折率領域、24:空孔部。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0052】
【非特許文献1】"Characteristics of a single-mode optical fibre and cable", ITU-T Recommendation G.652 (2009).
【非特許文献2】"Threshold power of the SBS in single-mode optical fibers with uniform and nonuniform Brillouin frequency shift", K. Shiraki, in Proc. OFC'94, WF2, (1994).

【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長1260〜1625nm帯の信号光を生成して出力する送信機と、
前記送信機から出力された信号光を伝搬する高強度伝送用光ファイバと、
前記高強度伝送用光ファイバを伝搬してきた信号光をn個に分配する受動型光合分配素子と、
前記分配後の信号光をそれぞれ伝送するn本の光ファイバと、
前記各光ファイバを介して伝送された信号光をそれぞれ受光・復調するn個の受信機とにより構成され、
前記高強度伝送用光ファイバは、直径Dが125±1μmで屈折率が均一なクラッド部内に4個のコア部が間隔Λで正方格子状に配列された断面構造を有し、
前記各コア部が、前記クラッド部に対する比屈折率差がΔで半径がa1の第1コア領域と、屈折率が前記クラッド部と同一で前記第1コア領域を含む半径がa2の第2コア領域と、前記クラッド部に対する比屈折率差がΔ1で前記第1コア領域および第2コア領域を含む半径がaの第3コア領域とで形成される並列伝送型の高強度伝送用光ファイバにより構成される
ことを特徴とする受動型光伝送システム。
【請求項2】
請求項1に記載の受動型光伝送システムに用いる並列伝送型の高強度伝送用光ファイバであって、
前記コア半径aを5.3〜9.9μmの範囲、前記比屈折率差Δを0.30〜0.47%の範囲、前記コア半径aに対する第1コア領域の半径a1の比Ra1を0.36〜0.80の範囲、前記コア半径aに対する第2コア領域までの半径a2の比Ra2を0.51〜0.90の範囲、前記比屈折率差Δに対するΔ1の比RΔを−0.33〜−1.00の範囲にそれぞれ設定した
ことを特徴とする並列伝送型の高強度伝送用光ファイバ。
【請求項3】
請求項2に記載の並列伝送型の高強度伝送用光ファイバにおいて、
前記コア部の中心からの最小距離がxμmとなる円周に外接するように配置された、クラッド部よりも低い屈折率を有し厚みがzμmである環状の低屈折領域を有し、もしくは前記コア部の中心からの最小距離がxμmとなる円周に外接するように等間隔に配置された、直径がzμmで少なくとも10個以上の空孔部を有し、
前記最小距離xをモードフィールド径の1.0倍〜1.5倍の範囲、前記低屈折率領域のクラッド部に対する比屈折率差を−0.2%以下、前記低屈折率領域の厚みzもしくは前記空孔部の直径zを1〜5μmにそれぞれ設定した
ことを特徴とする並列伝送型の高強度伝送用光ファイバ。
【請求項4】
波長1260〜1625nm帯の信号光を生成して出力する送信機と、
前記送信機から出力された信号光を伝搬する高強度伝送用光ファイバと、
前記高強度伝送用光ファイバを伝搬してきた信号光をn個に分配する受動型光合分配素子と、
前記分配後の信号光をそれぞれ伝送するn本の光ファイバと、
前記各光ファイバを介して伝送された信号光をそれぞれ受光・復調するn個の受信機とにより構成され、
前記高強度伝送用光ファイバは、直径Dが125±1μmで屈折率が均一なクラッド部内に直径が2aで前記クラッド部に対する比屈折率差がΔのコア部がコア間距離Λで六方最密状に配列された断面構造を有するコア拡大型の高強度伝送用光ファイバにより構成される
ことを特徴とする受動型光伝送システム。
【請求項5】
請求項4に記載の受動型光伝送システムに用いるコア拡大型の高強度伝送用光ファイバであって、
前記コア部の数を7とし、前記コア部の直径2aを2〜4μmの範囲、前記コア部の規格化周波数Vを0.55〜0.84の範囲、規格化コア間距離Λ/2aを1.2〜4.0の範囲にそれぞれ設定した
ことを特徴とするコア拡大型の高強度伝送用光ファイバ。
【請求項6】
請求項4に記載の受動型光伝送システムに用いるコア拡大型の高強度伝送用光ファイバであって、
前記コア部の数を19とし、前記コア部の直径2aを1.5〜2.5μmの範囲、前記コア部の規格化周波数Vを0.39〜0.53の範囲、規格化コア間距離Λ/2aを1.2〜2.1の範囲にそれぞれ設定した
ことを特徴とするコア拡大型の高強度伝送用光ファイバ。
【請求項7】
請求項5または6に記載のコア拡大型の高強度伝送用光ファイバにおいて、
前記クラッド部の中心からの距離がxμmとなる円周に外接するように配置された、クラッド部よりも低い屈折率を有し厚みがzμmである環状の低屈折領域を有し、もしくは前記クラッド部の中心からの最小距離がxμmとなる円周に外接するように等間隔に配置された、直径がzμmで少なくとも10個以上の空孔部を有し、
前記最小距離xを11〜17μmの範囲、前記低屈折率領域のクラッド部に対する比屈折率差を−0.2%以下、前記低屈折率領域の厚みzもしくは空孔部の直径zを1〜5μmにそれぞれ設定した
ことを特徴とするコア拡大型の高強度伝送用光ファイバ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−97172(P2013−97172A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240023(P2011−240023)
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】