説明

口腔用組成物

【課題】口腔バイオフィルムに対して優れた抗菌効果を発揮し、かつ良好な製剤安定性を有する口腔用組成物を提供する。
【解決手段】(A)トタロールと、(B)ポリオキシエチレンアルキルエーテルとを併用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔バイオフィルムに対して優れた殺菌効果を有し、製剤安定性が良好な口腔用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
デンタルプラークは口腔バイオフィルムと捉えられ(非特許文献1)、う蝕や歯周病などの口腔疾患の主要因子であるため、そのリスク低減に口腔バイオフィルムの殺菌及び除去が重要であるとされている。しかし、口腔バイオフィルム中の細菌は、口腔内の浮遊性細菌と比較してその性状に大きな違いがあり、種々の殺菌剤に対して抵抗性を有しており、効果的に殺菌することは難しい。
【0003】
一方、従来から殺菌剤として用いられている物質の多くは化学合成品であるが、近年は安心して使える天然物への消費者の志向が高まっており、例えば茶から抽出されたカテキンなど多くの天然物由来の抗菌成分が提案されている。更に、マキ科植物等に含まれるトタロールがグラム陽性細菌に対して優れた抗菌活性を示し、皮膚外用剤や口腔用組成物に配合されることが提案されている(特許文献1、非特許文献2参照)。
【0004】
しかしながら、トタロールは、疎水性が高く、特に水溶性製剤への溶解性が低く、可溶化できずに製剤中の均一性が保てなくなるという問題があり、更に、その溶解性の低さは製剤製造上においても局所的にトタロールが沈殿、固着してしまうなどの問題となっていた。また、製剤にトタロールを可溶化できても、口腔バイオフィルムに対して十分な殺菌効果を発揮できなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平01−311019号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Costerton,J.W.,Stewart,P.S. and Greenberg,E.P.:Bacterial biofilms:a common cause of persistent infections.Science 284:1318−1322,1999.
【非特許文献2】Isao Kubo,Hisae Muroi,and Masaki Himejima:Antibacterial Activity of Totarol and Its Potentiation.Journal of Natural Products,Oct.1992,p.1436−1440
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、口腔バイオフィルムに対して優れた抗菌効果を発揮し、かつ良好な製剤安定性を有する口腔用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するため、天然物由来の抗菌成分であるトタロールに着目し、その抗菌効果及び口腔用組成物への応用に関して鋭意検討を重ねた結果、(A)トタロールと、(B)ポリオキシエチレンアルキルエーテルとを併用することにより、口腔バイオフィルムに対して高い抗菌効果を発揮し、かつ製剤、特に水溶性製剤への良好な溶解性が確保でき、優れた製剤安定性が得られることを見出した。
【0009】
トタロールが虫歯等の歯周疾患の原因菌などに対して優れた抗菌活性を示し、口腔用組成物に配合されることは特許文献1に記載されているが、これは口腔内の浮遊性細菌に対して抗菌効果を発揮するものであり、また、トタロールにポリオキシエチレンアルキルエーテルといったエーテル型の非イオン性界面活性剤を組み合わせることも示されておらず、上記した課題を示すこともない。このような特許文献1からトタロールに特定の非イオン性界面活性剤を併用することによる口腔バイオフィルム抗菌効果及び製剤安定性の改善は予測できない。本発明によれば、トタロールと上記特定のエーテル型の非イオン性界面活性剤とを組み合わせることにより、両成分が相乗的に作用して、高い抗菌効果が発揮され、口腔内の浮遊性細菌だけでなく、口腔バイオフィルム、特にう蝕バイオフィルム中の細菌を効果的に殺菌できる上、トタロールの水溶性製剤への溶解性を満足に確保でき、沈殿や固着によりオリ及びニゴリが生じることのない均一な製剤を得ることができ、それ故、上記課題を解決して口腔用組成物に応用できる。このような本発明の作用効果は、後述の実施例からも明らかなように、トタロールに他の界面活性剤、例えば非イオン性界面活性剤であってもエステル型のものを併用しても達成できない格別なものである。
【0010】
従って、本発明は下記の口腔用組成物を提供する。
請求項1:
(A)トタロールと、(B)ポリオキシエチレンアルキルエーテルとを併用してなることを特徴とする口腔用組成物。
請求項2:
ポリオキシエチレンアルキルエーテルが、アルキル鎖の炭素数が12〜18で、エチレンオキサイドの平均付加モル数が5〜20のポリオキシエチレンアルキルエーテルである請求項1記載の口腔用組成物。
請求項3:
ポリオキシエチレンアルキルエーテルが、アルキル鎖の炭素数が12〜14でエチレンオキサイドの平均付加モル数が5〜20のポリオキシエチレンアルキルエーテル、アルキル鎖の炭素数が16〜18でエチレンオキサイドの平均付加モル数が10〜20のポリオキシエチレンアルキルエーテルから選ばれる1種以上である請求項2記載の口腔用組成物。
請求項4:
(A)トタロールを0.001〜1質量%、(B)ポリオキシエチレンアルキルエーテルを0.01〜2質量%含有する請求項1、2又は3記載の口腔用組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明の口腔用組成物は、口腔内のバイオフィルム、特にう蝕バイオフィルムに対して優れた抗菌効果を発揮し、かつ良好な溶解性でオリやニゴリがなく製剤安定性に優れ、う蝕などの口腔疾患の予防に有効である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明につき更に詳細に説明すると、本発明では、(A)トタロールと、(B)ポリオキシエチレンアルキルエーテルとを併用する。
【0013】
(A)トタロールは、テルペン系化合物(ジテルペンアルコール)で、下記構造式で示される4b,5,6,7,8,8a,9,10−オクタヒドロ−1−イソプロピル−4b,8,8−トリメチル−(4bs−トランス)−2−フェナンスレノールである。
【0014】
【化1】

【0015】
トタロールは、植物由来の天然物質で、マキ科の植物であるトタラの樹等に含まれている天然物であり、この植物の抽出物などから得られる天然物を用いても、あるいはかかる植物の抽出物をそのまま用いてもよいが、合成品を用いてもよく、市販品を用いることもできる。なお、上記抽出物は公知の抽出方法にて抽出すればよく、抽出溶媒としては、通常の極性溶媒又は非極性溶媒でよく、具体的にはメタノール、エタノール、n−ブタノール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、酢酸エチル、ベンゼン、n−ヘキサンなどを用いることができる。また、二酸化炭素等を用いた超臨界点抽出法を用いることもできる。最終的に得られた抽出液は、溶媒を溜去して製剤に配合することができる。
【0016】
トタロールの市販品は、例えばEssentially New Zealand社製のトタロールなどとして入手できる。また、トタロールは合成することも可能であり、合成品は例えばシグマ アルドリッチ社製のトタロール(4bS−trans−8,8−Trimethyl−4b,5,6,7,8,8a,9,10−octahydro−1−isopropyl−phenantren−2−ol)などとして入手できる。
【0017】
(A)トタロールの配合量は、組成物全体の0.001〜1%(質量%、以下同様)、特に0.005〜0.5%が好ましい。配合量が0.001%未満では十分な抗菌効果が得られない場合があり、1%を超えると溶解性に劣り、満足な製剤安定性が得られない場合がある。なお、植物抽出物を用いる場合は、トタロールの配合量が上記範囲内となるように配合することができる。
【0018】
(B)成分のポリオキシエチレンアルキルエーテルは、高級アルコールのアルコール性水酸基に酸化エチレンが付加したエーテル型の非イオン性界面活性剤であり、特に限定されないが、アルキル鎖の炭素数が12〜18で、エチレンオキサイドの平均付加モル数が5〜20のものが好適である。
アルキル鎖の炭素数が12未満のものは、一般には市販されておらず、18を超えると溶解性に劣り、製剤安定性に劣る場合がある。
エチレンオキサイドの平均付加モル数が5未満では溶解性に劣り、製剤安定性に影響が生じ、20を超えると口腔バイオフィルム抗菌効果が満足に得られない場合がある。
【0019】
ポリオキシエチレンアルキルエーテルとしては、とりわけアルキル鎖の炭素数が12〜14で、エチレンオキサイドの平均付加モル数が5〜20のポリオキシエチレンアルキルエーテル、及び/又はアルキル鎖の炭素数が16〜18で、エチレンオキサイドの平均付加モル数が10〜20のポリオキシエチレンアルキルエーテルが好ましく、これらから選ばれる1種を単独で又は2種以上を併用して用いることができる。なお、アルキル鎖の炭素数が16〜18であるポリオキシエチレンアルキルエーテルでエチレンオキサイドの平均付加モル数が10未満のものでは、満足な溶解性が得られず製剤安定性が十分確保できない場合がある。
【0020】
ポリオキシエチレンアルキルエーテルとして具体的には、ポリオキシエチレン(10)セチルエーテル、ポリオキシエチレン(17)セチルエーテル、ポリオキシエチレン(20)セチルエーテル、ポリオキシエチレン(11)ステアリルエーテル、ポリオキシエチレン(10)ラウリルエーテル、ポリオキシエチレン(8)ステアリルエーテル等が挙げられる。
【0021】
ポリオキシエチレンアルキルエーテルは、市販品を用いることができ、例えば日光ケミカルズ社製のポリオキシエチレンアルキルエーテル、日本エマルジョン社製のポリオキシエチレンアルキルエーテルなどを用いることができる。
【0022】
(B)ポリオキシエチレンアルキルエーテルの配合量は、組成物全体の0.01〜2%、特に0.1〜1%が好ましく、0.01%未満では、溶解性に劣り製剤安定性に影響を与え、2%を超えると抗菌効果が十分に得られない場合がある。
更に、(B)成分/(A)成分の配合比率(質量比)は特に制限されないが、(B)ポリオキシエチレンアルキルエーテルの配合量が、(A)トタロールの純分換算での配合量1に対して0.1〜100であることが、有効な効果を得るのに好適である。配合量が少なすぎるとトタロールを十分に溶解できず、良好な製剤安定性が得られない場合があり、多すぎると満足な抗菌効果が得られない場合がある。
【0023】
本発明において溶解性とは、組成物を常温で静置し転置したときに沈殿するオリやニゴリを目視で確認できるか否かを指標とする。なお、トタロールは疎水性で、その溶解性は常温で水に対して0.001%濃度の低濃度でも不溶であるが、本発明によればトタロール濃度が1%でも溶解性が確保できる。
【0024】
本発明の口腔用組成物は、常法により製造することができ、固体、固形物、液体、液状、ゲル体、ペースト状、ガム状等の形状に調製され、練歯磨、液体歯磨、液状歯磨等の歯磨剤、洗口剤、口中清涼剤、歯間ケア剤、舌ケア剤等として調製できる。
口腔用組成物には、更にその目的、剤型等に応じた公知成分を配合でき、適宜な他の任意成分を配合できる。例えば歯磨剤の場合は、各種研磨剤、界面活性剤、粘結剤、粘稠剤、甘味料、香料、着色剤、防腐剤、その他の有効成分などを、本発明の効果を妨げない範囲で通常量で用いることができる。洗口剤の場合は、湿潤剤、界面活性剤、溶剤、緩衝剤、防腐剤、香料、甘味料、着色剤、有効成分などを配合できる。
【0025】
例えば、研磨剤としては、第2リン酸カルシウム・2水和物及び無水物、第1リン酸カルシウム、第3リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、ピロリン酸カルシウム、水酸化アルミニウム、アルミナ、無水ケイ酸、ケイ酸アルミニウム、不溶性メタリン酸ナトリウム、第3リン酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、硫酸カルシウム、ポリメタクリル酸メチル、ベントナイト、ケイ酸ジルコニウム等を配合し得る(配合量通常、歯磨剤の場合には5〜55%)。
【0026】
界面活性剤としては、陰イオン界面活性剤、両性イオン界面活性剤、上記(B)成分のポリオキシエチレンアルキルエーテル以外のエーテル型、エステル型などの非イオン界面活性剤を配合し得る。
陰イオン界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウムなどのアルキル硫酸ナトリウム、水素添加ココナッツ脂肪酸モノグリセリドモノ硫酸ナトリウム、ラウリルスルホ酢酸ナトリウム、N−パルミトイルグルタミン酸ナトリウムなどのN−アシルグルタミン酸塩、N−メチル−N−アシルタウリンナトリウム、N−メチル−N−アシルアラニンナトリウム、α−オレフィンスルホン酸ナトリウム等が用いられる。
【0027】
両性イオン界面活性剤としては、N−ミリスチルジアミノエチルグリシンなどのN−アルキルジアミノエチルグリシン、N−アルキル−N−カルボキシメチルアンモニウムベタイン、2−アルキル−1−ヒドロキシエチルイミダゾリンベタインナトリウムなどが用いられる。
【0028】
非イオン界面活性剤としては、ショ糖脂肪酸エステル、マルトース脂肪酸エステル、ラクトース脂肪酸エステルなどの糖脂肪酸エステル、マルチトール脂肪酸エステル、ラクチトール脂肪酸エステルなどの糖アルコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートなどのポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ラウリン酸モノ又はジエタノールアミド、ミリスチン酸モノ又はジエタノールアミドなどの脂肪酸ジエタノールアミド、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセライド、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン脂肪酸エステル等が用いられる。
【0029】
上記界面活性剤の配合量は0.1〜1%が好ましく、(B)成分以外の界面活性剤は配合しなくてもよく、(B)成分の非イオン界面活性剤を含めた界面活性剤の総配合量は0.01〜4%が好ましい。
【0030】
粘結剤としては、カラギーナン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルヒドロキシエチルセルロースナトリウムなどのセルロース誘導体、アルギン酸塩、アルギン酸プロピレングリコールエステル、キサンタンガム、トラガカントガム、カラヤガム、アラビヤガムなどのガム類、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルピロリドンなどの合成粘結剤、シリカゲル、アルミニウムシリカゲル、ビーガム、ラポナイトなどの無機粘結剤等が配合され得る(配合量通常0.1〜5%)。
【0031】
粘稠剤(湿潤剤)としては、ソルビット、グリセリン、キシリトール、マルチトール、ラクチトール等の糖アルコールなどを配合し得る(配合量通常5〜35%)。
【0032】
また、溶剤としてアルコールを配合でき、アルコールとしては、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、プロパノール等の低級アルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ヘキシレングリコール、ブチレングリコール、ペンタンジオール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール200〜20,000、ポリプロピレングリコール300〜4,000等の多価アルコールなどが挙げられる。アルコール及び多価アルコールの合計配合量は、純分換算で通常0.1〜20%である。
【0033】
香料として、ペパーミント油、スペアミント油、アニス油、ユーカリ油、ウィンターグリーン油、カシア油、クローブ油、タイム油、セージ油、レモン油、オレンジ油、ハッカ油、カルダモン油、コリアンダー油、マンダリン油、ライム油、ラベンダー油、ローズマリー油、ローレル油、カモミル油、キャラウェイ油、マジョラム油、ベイ油、レモングラス油、オリガナム油、パインニードル油、ネロリ油、ローズ油、ジャスミン油、パラクレス油、ナツメグ油、イリスコンクリート、アブソリュートペパーミント、アブソリュートローズ、オレンジフラワー等の天然香料、及び、これら天然香料の加工処理(前溜部カット、後溜部カット、分留、液液抽出、エッセンス化、粉末香料化等)した香料や、メントール、カルボン、アネトール、シネオール、サリチル酸メチル、シンナミックアルデヒド、オイゲノール、3−l−メントキシプロパン−1,2−ジオール、チモール、リナロール、リナリールアセテート、リモネン、メントン、メンチルアセテート、N−置換−パラメンタン−3−カルボキサミド、ピネン、オクチルアルデヒド、シトラール、プレゴン、カルビールアセテート、アニスアルデヒド、エチルアセテート、エチルブチレート、アリルシクロヘキサンプロピオネート、メチルアンスラニレート、エチルメチルフェニルグリシデート、バニリン、ウンデカラクトン、ヘキサナール、イソアミルアルコール、ヘキセノール、ジメチルサルファイド、シクロテン、フルフラール、トリメチルピラジン、エチルラクテート、エチルチオアセテート等の単品香料、更に、ストロベリーフレーバー、アップルフレーバー、バナナフレーバー、ブルーベリーフレーバー、メロンフレーバー、ピーチフレーバー、マスカットフレーバー、ワインフレーバー、チェリーフレーバー、スカッシュフレーバー、コーヒーフレーバー、ブランデーフレーバー、ヨーグルトフレーバー、パイナップルフレーバー、グレープフレーバー、マンゴーフレーバー、バターフレーバー、ミルクフレーバー、フルーツミックスフレーバー、トロピカルフルーツフレーバー等の調合香料等、口腔用組成物に用いられる公知の香料素材を使用することができ、実施例の香料に限定されない。
また、配合量も特に限定されないが、上記の香料素材は、製剤組成中に0.000001〜1%使用するのが好ましい。また、上記香料素材を併用した賦香用香料としては、製剤組成中に0.1〜2.0%使用するのが好ましい。
【0034】
甘味料としては、サッカリンナトリウム、ステビオサイド、ステビアエキス、パラメトキシシンナミックアルデヒド、ネオヘスペリジルジヒドロカルコン、ペリラルチン等が挙げられる。着色剤としては、青色1号、黄色4号、二酸化チタン等が挙げられる。
防腐剤としては、パラオキシ安息香酸エステル、安息香酸ナトリウム等の安息香酸又はその塩などが挙げられる。
【0035】
有効成分としては、(A)成分のトタロールに加えて、その他の有効成分、例えばデカリニウムクロライド、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウムなどの陽イオン性殺菌剤、イソプロピルメチルフェノール、トリクロサン、ヒノキチオール等のフェノール性化合物、デキストラナーゼ、ムタナーゼ、リゾチーム、アミラーゼ、プロテアーゼ、溶菌酵素、リテックエンザイム、スーパーオキサイドなどの酵素、モノフルオロリン酸ナトリウム、モノフルオロリン酸カリウムなどのアルカリ金属モノフルオロホスフェート、フッ化ナトリウム、フッ化第1錫などのフッ化物、トラネキサム酸、イプシロンアミノカプロン酸、アルミニウムクロルヒドロキシルアラントイン、ジヒドロコレスタノール、グリチルリチン酸類、グリチルレチン酸、ビサボロール、グリセロホスフェート、クロロフィル、塩化ナトリウム、水溶性無機リン酸化合物等を配合し得る。上記有効成分の配合量は、本発明の効果を妨げない範囲で有効量とすることができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例及び比較例、処方例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。なお、以下の例において配合量はいずれも質量%である。
【0037】
〔実施例、比較例〕
表1に示す組成の試験組成物を下記方法で調製し、下記に示す方法で口腔バイオフィルム抗菌効果、溶解性を評価した。結果を表1に示す。
【0038】
1.う蝕バイオフィルム抗菌効果の評価方法
ライオン株式会社オーラルケア研究所において継代保存(凍結保存)してあったアクチノマイセス ナイスランディー(Actinomyces naeslundii)T14V株、フゾバクテリウム ニュークレアタム(Fusobacterium nucleatum)ATCC10953株、ポルフィロモーナス ジンジバリス(Porphyromonas gigngivalis)W50株、ストレプトコッカス ミュータンス(Streptococcus mutans)ATCC25175株の各菌液40μLをそれぞれ、121℃で15分間オートクレーブした5mg/Lヘミン(シグマ アルドリッチ社製)及び1mg/L ビタミンK(和光純薬工業社製)を含むトッドへーウィットブロース(Becton and Dickinson社製)(THBHM*1)4mLに添加し、37℃で一晩嫌気培養(80vol%窒素、10vol%二酸化炭素、10vol%水素)した。培養後、各菌液(4種)から300μLを採取し、それぞれ30mLのTHBHMに添加し、更に一晩培養した。再培養後、各菌液を遠心分離(10,000rpm、10min)し、上清を廃棄した。各沈渣(細菌)に対して121℃で15分間オートクレーブしたベイサルメディウムムチン培地(BMM*2)を添加し再懸濁した後、予めBMM1,000mLを入れた培養槽(直径140mm×高さ200mm)に、上記各菌数がそれぞれ1×107個/mLになるように接種し攪拌子(直径10mm×長さ51mm)を用いて攪拌(約100rpmで回転)しながら、37℃、嫌気条件下(95vol%窒素、5vol%二酸化炭素)で一晩培養した。その後、BMMを100mL/hの速度で供給すると共に、同速度で培養液を排出した。上記培養槽から排出された培養液は、液量が300mLに保たれる別の培養槽(直径90mm×高さ190mm)に連続的に供給した。
【0039】
この培養槽内の回転盤(約80rpmで回転)には、付着担体であるハイドロキシアパタイトディスク(直径7mm×高さ3.5mm)を装着し、その表面にバイオフィルムを形成させた。
上記方法による培養は14日間行い、後半の7日間は次に示す処置を行った。即ち、1日3回、バイオフィルムが付着したハイドロキシアパタイトディスクを培養槽から取り出し、それぞれを各シャーレ(直径25mm×高さ14mm)に移し、試験組成物5g(実施例及び比較例)で30秒間浸漬した。その後、生理食塩水5gで3回洗浄後、再び培養槽内に戻した。同操作は総計7回実施した。
【0040】
培養終了時には、試験組成物のう蝕バイオフィルム抗菌効果を評価するため、バイオフィルムを4mLのTHBHMを添加した試験管(直径13mm×高さ100mm)に移した。直ちに超音波破砕(200μAの出力で10秒間)、段階希釈(10倍希釈を6段階)を行い、常法で作製した血液寒天平板培地に各菌液を塗沫した。上記平板培地は、肉眼でコロニーが確認できるまで嫌気培養(80vol%窒素、10vol%二酸化炭素、10vol%水素)した。各平板培地のコロニー数をカウント後、生菌数を算出した。また、対照として試験組成物の代わりに精製水を用いて同様の処置をし、バイオフィルム中の生菌数を算出した。精製水で処置したものの生菌数を100%としたときの各試験組成物で処置したものの生菌数の割合を測定し、以下の基準で評価した。
【0041】
評価基準:
◎:残存生菌数1%未満
○:残存生菌数1%以上〜10%未満
△:残存生菌数10%以上〜50%未満
×:残存生菌数50%以上
【0042】
*1 THBHMの組成:1リットル中の質量で表す。
トッドへーウィットブロース(Becton and Dickinson社製):
30g/L
ヘミン(シグマ アルドリッチ社製): 5mg/L
ビタミンK(和光純薬工業社製): 1mg/L
精製水: 残
(全量が1Lになるようにメスアップした)
*2 BMMの組成:1リットル中の質量で表す。
プロテオースペプトン(Becton and Dickinson社製):
2g/L
トリプトン(Becton and Dickinson社製): 1g/L
ムチン(シグマ アルドリッチ社製): 2.5g/L
ヘミン(シグマ アルドリッチ社製): 1mg/L
ビタミンK(和光純薬工業社製): 0.2mg/L
KCl(和光純薬工業社製): 0.5g/L
システイン(和光純薬工業社製): 0.1g/L
精製水: 残
(全量が1Lになるようにメスアップした)
【0043】
血液寒天平板培地の組成:1リットル中の質量で表す。
トッドへーウィットブロース(Becton and Dickinson社製):
30g/L
寒天(Becton and Dickinson社製): 15g/L
ヘミン(シグマ アルドリッチ社製): 5mg/L
ビタミンK(和光純薬工業社製): 1mg/L
精製水: 残
(全量が1Lになるようにメスアップした)
羊脱繊維素血液: 50mL添加
(上記組成1Lを121℃で15分間オートクレーブした後、48℃に冷却後、添加)
【0044】
2.溶解性の評価方法
試験組成物を製造後、直ちに満注量80mLのPET容器に80mL充填し常温で静置し、その後PET容器を緩やかに転置した際のオリ、ニゴリを、精製水を充填したPET容器(対照品)と比較して下記基準に則り目視判定した。オリとニゴリの評価のうち、評価が異なる場合はより悪いほうの評価をもって溶解性の評価結果とした。
【0045】
オリの評価基準
◎:沈降するオリが全くない。
○:沈降するオリが僅かに認められるが問題ない。
△:沈降するオリが明らかに認められる。
×:沈降するオリが大量に認められる。
ニゴリの評価基準
◎:ニゴリが全くない。
○:僅かにニゴリが認められるが、問題ない。
△:対照品と比較して明らかにニゴリが認められる。
×:PET容器の向こう側を透かし見ることができないほど、濁っている。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
なお、上記各例で使用した成分の詳細は下記の通りである。
*1:トタロール Essentially NewZealand社製
*2:ポリオキシエチレン(10)セチルエーテル BC−10(日光ケミカルズ社製)
*3:ポリオキシエチレン(17)セチルエーテル EMALEX 117(日本エマル
ジョン社製)
*4:ポリオキシエチレン(20)セチルエーテル EMALEX 120(日本エマル
ジョン社製)
*5:ポリオキシエチレン(11)ステアリルエーテル EMALEX 611(日本エ
マルジョン社製)
*6:ポリオキシエチレン(10)ラウリルエーテル EMALEX 710(日本エマ
ルジョン社製)
*7:ポリオキシエチレン(40)硬化ヒマシ油(日光ケミカルズ社製)
*8:ポリオキシエチレン(20)ソルビタンラウレート(東邦化学工業社製)
【0049】
次に、下記組成の口腔用組成物を常法により調製し、上記と同様にう蝕バイオフィルムを評価したところ、いずれも優れた抗菌効果及び溶解性(製剤安定性)を有していた。
【0050】
〔処方例1〕液状歯磨
トタロール(Essentially New Zealand社製) 0.05
ポリオキシエチレン(10)セチルエーテル(日光ケミカルズ社製) 0.5
無水ケイ酸 18.0
キサンタンガム 0.2
ポリアクリル酸ナトリウム 0.1
70%ソルビット液 35.0
グリセリン 17.0
プロピレングリコール 5.0
塩化セチルピリジニウム 0.05
香料A 0.8
精製水 残
計 100.0%
【0051】
〔処方例2〕練歯磨
トタロール(Essentially New Zealand社製) 0.05
ポリオキシエチレン(8)ステアリルエーテル(日本エマルジョン社製) 0.5
第2リン酸カルシウム 47.0
無水ケイ酸 2.5
70%ソルビット液 24.0
プロピレングリコール 3.0
カルボキシメチルセルロースナトリウム 1.0
アルギン酸ナトリウム 0.2
サッカリンナトリウム 1.0
香料A 1.0
精製水 残
計 100.0%
【0052】
〔処方例3〕洗口剤
トタロール(Essentially New Zealand社製) 0.05
ポリオキシエチレン(17)セチルエーテル(日本エマルジョン社製) 0.5
エタノール 10.0
グリセリン 20.0
サッカリンナトリウム 0.3
香料B 0.5
塩化セチルピリジニウム 0.01
精製水 残
計 100.0%
【0053】
なお、組成物中の香料A、Bは下記の香料組成を用いた。
【表3】

【0054】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)トタロールと、(B)ポリオキシエチレンアルキルエーテルとを併用してなることを特徴とする口腔用組成物。
【請求項2】
ポリオキシエチレンアルキルエーテルが、アルキル鎖の炭素数が12〜18で、エチレンオキサイドの平均付加モル数が5〜20のポリオキシエチレンアルキルエーテルである請求項1記載の口腔用組成物。
【請求項3】
ポリオキシエチレンアルキルエーテルが、アルキル鎖の炭素数が12〜14でエチレンオキサイドの平均付加モル数が5〜20のポリオキシエチレンアルキルエーテル、アルキル鎖の炭素数が16〜18でエチレンオキサイドの平均付加モル数が10〜20のポリオキシエチレンアルキルエーテルから選ばれる1種以上である請求項2記載の口腔用組成物。
【請求項4】
(A)トタロールを0.001〜1質量%、(B)ポリオキシエチレンアルキルエーテルを0.01〜2質量%含有する請求項1、2又は3記載の口腔用組成物。

【公開番号】特開2011−105635(P2011−105635A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−261469(P2009−261469)
【出願日】平成21年11月17日(2009.11.17)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】