説明

口腔用組成物

【課題】粘稠で口腔内に塗布する際の使用性を向上させた口腔用組成物を提供。
【解決手段】高濃度の還元水飴と少なくとも1種以上のアルジオールを含有する組成物に特定比量のポリアクリル酸ナトリウムを配合させることにより、指や塗布具に取り易く、十分な量の組成物を指などに保持でき、かつ組成物を口腔内へ容易に塗布することができると共に、さらに、シクリト−ルを配合した場合、高い湿潤効果を得ることが可能となる優れた口腔用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔内に塗布する目的の粘稠な口腔用組成物に関する。さらに詳しくは、高濃度の糖アルコールと特定比量のポリアクリル酸ナトリウムを配合した口腔内に塗布しやすい粘稠な口腔用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢化社会が進むに従い、自らの手で口腔内ケアを行うことに支障を生じている人が増えている。そこで、そのような消費者に対する口腔内の衛生環境の向上目的や、口腔内、特に口腔粘膜に対する諸症状を緩和させる目的で使用の簡便性を追及したジェルやペーストなどの粘稠な口腔用組成物が開発されている。これらの粘稠な口腔用組成物は、通常、組成物を指やスポンジ等の塗布用具に取り、ケアしたい部分に塗布することにより使用されている。特に自らの手で使用できない消費者に関しては、介護者が塗布することになるため、さらに「塗布のし易さ」などの使用性が高いことが要求される。たとえば、指や用具へ取り易いか、保形性があり、必要な量の組成物を指等に保持することができるか、口の狭い開口部から挿入して唾液等で濡れている口腔内に塗布する作業が容易であるか若しくは炎症や乾燥で敏感になっている部分に刺激無く塗布できるかなどの点において満足できる高い使用性が要望されている。しかし、口腔内に塗布する組成物に対しては、塗布後の組成物の性状を工夫することにより効果の向上を行なう提案(特許文献1)はあるが、塗布する際の使用性を向上させるための提案は全くなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−187331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、口腔内に塗布しやすい粘稠な口腔用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記問題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、驚くべきことに還元水飴と少なくとも1種以上のアルジオールを含有する組成物に特定比量のポリアクリル酸ナトリウムを配合させることにより、指や塗布具に取り易く、十分な量の組成物を指などに保持でき、かつ組成物を口腔内へ容易に塗布することができる口腔用組成物を見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、下記の態様を含むものである。
項1.糖アルコールとポリアクリル酸ナトリウムを含有する口腔用組成物において、
i. 糖アルコールとして少なくとも還元水飴(A)およびアルジトールを配合し、かつ糖アルコールの合計の配合量が50質量%以上であり、
ii. ポリアクリル酸ナトリウム(B)の配合量が0.8〜2.5質量%であり、
iii. かつ(B)/(A)が0.09〜0.25である
ことを特徴とする口腔用組成物。
項2.少なくともグリセリンを含む2種以上のアルジトールを配合することを特徴とする項1に記載の口腔用組成物。
項3.還元水飴(A)とアルジトール(C)の配合量比(A)/(C)が、0.14〜0.25であることを特徴とする項1または2の何れかに記載の口腔用組成物。
項4.さらに糖アルコールとして、少なくとも1種以上のシクリトールを含むことを特徴とする項1〜3の何れかに記載の口腔用組成物。
項5.さらに、キサンタンガム(D)を0.5質量%以下含有し、かつ(D)/(B)が0.5以下であることを特徴とする項1〜4の何れかに記載の口腔用組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明の口腔用組成物は、50質量%以上の糖アルコールを配合した組成物に特定量のポリアクリル酸ナトリウムを配合することにより、使用時に指や塗布具に必要量を保持し易く、口腔内の塗布部分に必要量の組成物を塗布しやすい口腔用組成物が得られる。さらに、シクリト−ルを配合した場合、高い湿潤効果を得ることが可能となり好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】各組成物の降伏値と残留粘度を示した図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について、さらに詳細に説明する。
【0010】
本発明でいう糖アルコールとは、還元水飴、アルジトールおよびシクリトールを意味する。本発明において糖アルコールは、単独で又は2種以上を適宜組み合わせて使用することができ、その合計配合量は特に規定するものではないが、組成物全体に対して50質量%以上であり、60質量%以上の場合より効果が顕著となる。また、還元水飴は、組成物全体に対して5質量%以上であることが好ましく、5〜25質量%であることがより好ましく、10〜20質量%が最も好ましい。
本発明でいう還元水飴とは、澱粉や麦芽などを糖化して得られる水飴を還元したものを意味し、還元澱粉糖化物、水添澱粉分解物などとも呼ばれる。還元水飴の配合量は特に規定されるものではないが、一般的に組成物全体に対して5〜20質量%配合される。また、糖化度や糖化原料の異なる還元水飴などを適宜組合わせて使用することもできる。
本発明においてアルジトールとは、アルドースを還元することによりアルドースのアルデヒド基をヒドロキシメチル基に変換した糖アルコールを意味し、具体的には、グリセリン、エリスリトール、トレイトール、リビトール、アラビニトール、キシリトール、アリトール、ソルビトール、マンニトール、イジトール、ガラクチトール、タリトールなどが挙げられる。このうち、グリセリン、エリスリトール、ソルビトール、キシリトール、マンニトールが好ましく、グリセリン、エリスリトール、ソルビトールが最も好ましい。アルジトールは、単独で又は2種以上を適宜組み合わせて使用することができ、その合計配合量は特に規定するものではないが、組成物全体に対して40質量%以上であり、50質量%以上の場合より効果が顕著となる。また、還元水飴(A)とアルジオール(C)の配合量比(A)/(C)は0.14〜0.25が好ましい。0.25を超えると、組成物の口腔内での組成物の付着性や伸びが悪くなり、口腔内への塗布性の点で好ましくない。0.14に満たない場合、組成物が硬くなり指などに取りにくくなるため好ましくない。
本発明においてシクリトールとは、シクロアルカン類のうち3個以上の環内原子に各1個のヒドロキシ基が結合しているポリオールを意味し、具体的にはイノシトールやクエルシトールなどが挙げられる。シクリトールを配合すると高い湿潤効果を得られ、特にイノシトールを配合すると顕著となる。シクリトールは、単独で又は2種以上を適宜組み合わせて使用することができ、その合計配合量は特に規定するものではないが、組成物全体に対して0.1〜5質量%である。
【0011】
本発明に用いるポリアクリル酸ナトリウムは、組成物全体に対して0.8〜2.5質量%配合し、かつ還元水飴の配合量に対して0.09〜0.25倍量を配合する。0.09倍量より少ないと十分な効果が得られない可能性があり、0.25倍量より多いと、組成物が硬くなり過ぎる場合があるため、好ましくない。
【0012】
本発明に用いるキサンタンガムは、組成物全体に対して0.5質量%以下配合することができ、かつポリアクリル酸ナトリウムの配合量に対して0.5倍量以下配合することができ、0.05〜0.5倍量配合することが好ましい。キサンタンガムを配合すると、口腔内での塗布性が向上するため、好ましい。
【0013】
本発明の口腔用組成物には、上記の成分以外にも他の成分を配合することができる。例えば、ノニオン性界面活性剤、糖アルコール以外の多価アルコール、甘味剤、増粘剤、香味剤、薬効剤、防腐剤、pH調整剤、着色剤等を、本発明の効果を損なわない範囲で適宜配合することができる。
【0014】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ショ糖脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド類、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセライド、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルなどが挙げられる。これらのノニオン性界面活性剤は、単独で又は2種以上を適宜組み合わせて配合できる。
【0015】
糖アルコール以外の多価アルコールとしては、例えばプロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどが挙げられる。これらの甘味剤は、単独で又は2種以上を適宜組み合わせて配合することができ、組成物全量に対して通常0.1〜10重量%配合することができる。
【0016】
甘味剤としては、例えば、サッカリン、サッカリンナトリウム、アセスルファームカリウム、ステビアエキス、ステビオサイド、ネオヘスペリジルジヒドロカルコン、グリチルリチン、ペリラルチン、タウマチン、アスパラチルフェニルアラニルメチルエステル、パラチノース、パラチニット、マルチトール、メトキシシンナミックアルデヒド、キシリットなどを配合することができる。これらの甘味剤は、単独で又は2種以上を適宜組み合わせて配合することができ、組成物全量に対して通常0.01〜1重量%配合することができる。
【0017】
増粘剤としては、例えば、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースおよびその塩等のセルロース誘導体、カラゲナン、アルカリ金属アルギネート、トラガカントガム、カラヤガム、アラビアガム、ジェランガム等のガム類、ポリビニルアルコール等の合成増粘剤、無水ケイ酸、リン酸カルシウム、炭酸カルシウムなどの無機増粘剤などを配合することができる。これらは、単独または2種以上を適宜組み合わせて配合することができ、組成物全量に対して0.01〜10重量%配合することができる。
【0018】
香味剤としては、メントール、カルボン酸、アネトール、オイゲノール、サリチル酸メチル、リモネン、n−デシルアルコール、シトロネール、α−テルピネオール、メチルアセタート、シトロネニルアセタート、メチルオイゲノール、シネオール、リナロール、エチルリナロール、チモール、スペアミント油、ペパーミント油、レモン油、オレンジ油、セージ油、ローズマリー油、珪皮油、シソ油、冬緑油、丁子油、ユーカリ油、ピメント油などの香料が挙げられる。これらの香味剤は、単独または2種以上を組み合わせて配合することができ、組成物全量に対して0.01〜5重量%、好ましくは0.05〜1重量%程度の割合で配合することができる。
【0019】
薬効剤としては、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウムなどのカチオン系殺菌剤;デキストラナーゼ、アミラーゼ、プロテアーゼ、ムタナーゼ、リゾチーム、溶菌酵素(リテックエンザイム)などの酵素;トラネキサム酸やイプシロンアミノカプロン酸、アルミニウムクロルヒドロキシルアラントイン、ジヒドロコレステロール、グリチルリチン塩類、グリチルレチン酸などの坑炎症剤;チアミン類、リボフラビン類、ピリドキシン類、ビタミンB12類、葉酸、ナイアシン、ビオチン、パントテン酸、ビタミンC、ビタミンA、ビタミンD類、ビタミンE類、ビタミンKなどのビタミン類;その他、グリセロフォスフェート、クロロフィル、塩化ナトリウム、カロペプタイドドデシルジアミノエチルグリシン、トリクロサン、イソプロピルメチルフェノールなどが挙げられ、これらを単独または2種以上を組み合わせて配合することができる。
【0020】
本発明の口腔用組成物は、ジェル剤、軟膏状製剤、パスタ剤などの通常の剤形にすることができる。なかでも、ジェル剤、軟膏状製剤が好ましく、ジェル剤がもっとも好ましい。
【0021】
以下、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。なお、各例中の配合量は、特に規定がない限り質量%を示す。
【実施例】
【0022】
使用感の評価
専門パネル3名を用い、「指への取り易さ、保持し易さ」及び「塗布のし易さ」を評価した。実施例1〜9および比較例1〜7については、常法に従い各処方を調製した後、チューブ(チューブ径20mm、長さ約12cm、吐出口径7mm)に充填したものを評価に供した。市販品A〜Dについては内容物を前記チューブに再充填し評価に供した。評価は手の甲に内容物を約2cm取り、指で手の甲に出した内容物を適量とりながら、各自の口腔内粘膜に伸ばすことで行なった。評価項目は、「指への取り易さ、保持し易さ」と「塗布のし易さ」とし、「指への取り易さ、保持しやすさ」は、主に手の甲から指で薬剤をとる時の取り易さ及び指に組成物を取ってから塗布するまでの間における組成物の指への保持性を評価し、「塗布のし易さ」は、主に口腔粘膜に伸ばす時の延ばし易さ及び口腔粘膜への付着のし易さを評価した。評価結果は各々の評価項目ごとに3段階(良い;3点、悪い;1点)で評価し点数付けした後に各々の平均値を算出し、下記の基準に従って評価した。
<指へのとり易さ、保持し易さ>
○:評価平均値が2.3以上
×:評価平均値が2.3未満
<塗布のし易さ>
○:評価平均値が2.3以上
×:評価平均値が2.3未満
<総合評価>
○:全ての評価が○である
×:上記以外
【0023】
残留粘度、降伏値の測定
粘度測定にはE型粘度計を用いた。測定条件はスピンドルNo.CP52、測定温度25℃、回転数と測定時間は、降伏値を求める場合、0.1rpm・5分、0.3rpm・5分、0.5rpm・2分、0.7rpm・2分、1rpm・1分、残留粘度を求める場合、10rpm・1分、20rpm・1分、50rpm・1分、100rpm・1分、200rpm・1分の各5点の粘度を測定した。得られた測定値はCASSON式によるデータ解析を行い、残留粘度及び降伏値を求めた。
CASSON式
√S = a√D + b
上式において、Sは「せん断応力」、Dは「せん断速度」、aとbは定数を表す。

残留粘度はaの二乗で、降伏値はbの二乗で求められる。
上記で得られた結果を表1、表2、表3
および図1に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
【表3】

【0027】
表1〜3及び図1に示したとおり、50質量%以上の糖アルコールと特定比量のアクリル酸ナトリウムを配合することで、指に取り易くかつ塗布しやすい組成物を得ることができることがわかった。なお、降伏値が50〜1000mPa.sでかつ残留粘度が4〜15mPa・sの物性を有する組成物が好ましいことが図1からわかった。
【0028】
処方例1
常法に従って、ジェル剤を調製した。
成分 配合量
グリセリン 25
ソルビット 20
水添澱粉分解物 15
イノシトール 5
1、3−ブチレングリコール 2
ポリアクリル酸ナトリウム 1.5
キサンタンガム 0.1
安息香酸メチル 0.2
精製水 残部
合計 100.0
【0029】
処方例2
常法に従って、ジェル剤を調製した。
成分 配合量
グリセリン 25
エリスリトール 15
還元澱粉糖化物 20
マンニトール 10
ポリアクリル酸ナトリウム 2
ヒドロキシエチルセルロース 2
クエルシトール 1
安息香酸ナトリウム 0.5
ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン 0.5
プルラン 0.2
香料 0.2
精製水 残部
合計 100.0
【0030】
処方例3
常法に従って、ジェル剤を調製した。
成分 配合量
キシリトール 25
グリセリン 15
マンニトール 10
水添澱粉分解物 5
プロピレングリコール 5
イノシトール 3
ポリアクリル酸ナトリウム 0.9
アルギン酸ナトリウム 0.1
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(E.O.60) 0.05
安息香酸ブチル 0.01
精製水 残部
合計 100.0
【0031】
処方例4
常法に従って、軟膏剤を調製した。
成分 配合量
ソルビット 20
還元澱粉糖化物 25
グリセリン 7
プロピレングリコール 3
ポリアクリル酸ナトリウム 1
安息香酸メチル 1
クエルシトール 0.1
カルボキシメチルセルロース 0.5
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(E.O.60) 0.5
香料 0.1
精製水 残部
合計 100.0
【0032】
処方例4
常法に従って、パスタ剤を調製した。
成分 配合量
グリセリン 20
ソルビット 20
モノステアリン酸グリセリル 20
水添澱粉分解物 10
ヒドロキシエチルセルロース 5
クエルシトール 0.5
ポリアクリル酸ナトリウム 2.5
精製水 残部
合計 100.0

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖アルコールとポリアクリル酸ナトリウムを含有する口腔用組成物において、
i. 糖アルコールとして少なくとも還元水飴(A)およびアルジトールを含有し、かつ糖アルコールの合計の配合量が50質量%以上であり、
ii. ポリアクリル酸ナトリウム(B)の配合量が0.8〜2.5質量%であり、
iii. かつ(B)/(A)が0.09〜0.25である
ことを特徴とする口腔用組成物。
【請求項2】
少なくともグリセリンを含む2種以上のアルジトールを含むことを特徴とする請求項1に記載の口腔用組成物。
【請求項3】
還元水飴(A)とアルジトール(C)の配合量比(A)/(C)が、0.14〜0.25であることを特徴とする請求項1または2の何れかに記載の口腔用組成物。
【請求項4】
さらに糖アルコールとして、少なくとも1種以上のシクリトールを含むことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の口腔用組成物。
【請求項5】
さらに、キサンタンガム(D)を0.5質量%以下含有し、かつ(D)/(B)が0.5以下であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の口腔用組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2011−63532(P2011−63532A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−214431(P2009−214431)
【出願日】平成21年9月16日(2009.9.16)
【出願人】(000106324)サンスター株式会社 (200)
【Fターム(参考)】