説明

可動バックル装置及びシートベルト装置

【課題】シートベルトの装着が容易でありかつ適切な着用状態が得られる可動バックル装置等を提供する。
【解決手段】シート2の座面部側方に設けられ、ショルダーベルト10及びラップベルト20を有するシートベルトに設けられるタング30が着脱可能に装着される差込部を有するバックル部110と、バックル部を、通常使用時に用いられる着用位置と、タングが装着される際に用いられる装着位置との間で移動させるバックル駆動機構120,140,150,160,191と、バックル駆動機構を制御する制御装置200とを備える可動バックル装置100を、バックル部は装着位置から着用位置への移動時に、車両後方側へ後退するとともに差込部が車両前方側から上方側へ車幅方向にほぼ沿った軸回りに回動する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートベルトのタングが着脱可能に取り付けられるバックル部をアクチュエータによって駆動可能な可動バックル装置、及び、このようなバックル装置を含むシートベルト装置に関し、特に、シートベルトの装着が容易でありかつ適切な着用状態が得られるものに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車等の車両に設けられる3点式のシートベルトは、乗員の腰部を拘束するラップベルトと肩部を拘束するショルダーベルトとの間に設けられるタングが着脱可能に装着されるバックル部を備えている。
また、このようなバックル部をアクチュエータによって移動可能とした可動バックル装置が各種提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、シートベルト非装着時には搭乗者の邪魔にならず、装着時には装着操作性を向上するため、上端にバックルを備えた揺動アームの下端側を支点として電動モータにより揺動させるとともに、緊急時にバックルを引き込んで拘束力を高めるプリテンショナを有するバックル装置が記載されている。
また、特許文献2には、シートベルトの着脱を容易にする目的で、リンク機構を用いてバックルを昇降させるものが記載されている。
また、特許文献3には、バックルをモータによって昇降させ、係止位置、装着位置のほか、乗員をより強固に固定する拘束位置、車内の美観を保つ格納位置に順次移動させることが記載されている。
また、特許文献4には、上体を捻ることなくシートベルトを装着でき、操作性及び快適性を改善する目的で、バックル及びベルトアンカをシートの側面に沿って移動可能としたものが記載されている。
また、特許文献5には、バックルをアクチュエータによって駆動されるリンク機構によって支持し、バックルをシート座面より高い装着位置と、装着位置より下方の通常使用位置と、さらに下方の拘束位置との間で移動させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−118776号公報
【特許文献2】特開平7−267046号公報
【特許文献3】特開2006−137232号公報
【特許文献4】特開2009−096233号公報
【特許文献5】特開2006−298257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
シートベルトは、ラップベルトが乗員の腰骨にかかっている必要があるが、これが上方にずれて腹部にかかり、適正に装着されないこともある。
この点、上述した各従来技術においては、シートベルトの着脱を容易にしたり、不使用時の車内の美観を向上することはできるが、このような着用状態の適切化については配慮されていない。すなわち、単にバックルを回動させ、あるいは、単に昇降させただけでは、装着位置から着用位置への移行時に、ラップベルトが乗員の体型によっては腹部にかかってしまう場合があり得る。
ラップベルトが腹部にかかっている場合、乗員がラップベルトをくぐってしまういわゆるサブマリン現象が生じる可能性がある。
本発明の課題は、シートベルトの装着が容易でありかつ適切な着用状態が得られる可動バックル装置及びシートベルト装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した課題を解決するため、本発明の可動バックル装置は、シートに着座する乗員の肩部及び胸部を拘束するショルダーベルト及び腰部を拘束するラップベルトを有するシートベルトに設けられるタングが着脱可能に装着される差込部を有するバックル部と、前記バックル部を、通常使用時に用いられる着用位置と、前記タングが装着される際に用いられる装着位置との間で移動させるバックル駆動機構と、前記バックル駆動機構を制御する制御装置とを備える可動バックル装置であって、前記バックル部は、前記装着位置から前記着用位置への移動時に、車両後方側へ後退するとともに前記差込部が車両前方側から上方側へ車幅方向にほぼ沿った軸回りに回動することを特徴とする。
これによれば、シートベルトの装着時に、バックル部が車両後方側へ後退しつつ差込部が車両前方側から上方側へ車幅方向にほぼ沿った軸回りに回動することによって、ラップベルトを乗員の腹部の下側に回りこませ、腹部にかかることを防止して腰部に着装させることができ、容易に適切な着用状態を得て乗員拘束性能を確保することができる。
また、バックル部が車両前方に繰り出された状態でタングをバックル部に差し込むことができることから、シートベルトの装着が容易である。
【0007】
本発明において、前記バックル部は、前記着用位置から前記装着位置への移動時に上昇する構成とすることができる。
これによれば、装着位置におけるタングの差し込みをより容易にして操作性を向上することができる。
【0008】
本発明において、前記バックル駆動機構は、アクチュエータによって直進方向に往復駆動されかつ前記バックル部が揺動可能に取り付けられる直進部材、及び、前記バックル部に設けられたカムフォロワを案内して前記バックル部を揺動させるカム部を有する構成とすることができる。
これによれば、バックル部の繰り出し及び引き込みと、バックル部の回動とを単一のアクチュエータによって行うことができ、装置の構成を簡素化することができる。
【0009】
本発明において、前記バックル駆動機構は、前記バックル部を前記装着位置から移動させて前記シートベルトを牽引し、牽引力が所定値以上となった後に前記バックルを所定量だけ逆方向に駆動した位置を前記着用位置とする構成とすることができる。
これによれば、乗員の体格に応じて窮屈さを感じない適切な位置に着用位置を設定することができ、快適性を向上できる。
【0010】
本発明において、車両の衝突又は衝突の前兆を検出する衝突検出装置を備え、前記バックル駆動機構は、前記衝突検出装置の検出結果に応じて前記シートベルトを牽引する方向に前記バックル部を駆動する構成とすることができる。
これによれば、衝突時に乗員の拘束を強化するプリテンショナ機能を可動バックル装置に付加して、シートベルト装置全体の構成を簡素化することができる。
【0011】
本発明において、前記バックル駆動機構は、前記バックル部の前記シートベルトを弛緩させる方向への移動を、前記バックル部を駆動するアクチュエータの非駆動時には規制し、前記アクチュエータの駆動時には許容するロック機構を備える構成とすることができる。
これによれば、衝突時にシートベルトに負荷される張力によってバックル部が繰り出されてしまうことがなく、良好な拘束性能を得ることができる。
また、アクチュエータとロック機構とを連動させることによって、制御を簡素化することができる。
【0012】
また、本発明の他の可動バックル装置は、シートに着座する乗員の肩部及び胸部を拘束するショルダーベルト及び腰部を拘束するラップベルトを有するシートベルトに設けられるタングが着脱可能に装着される差込部を有するバックル部と、前記バックル部を、通常使用時に用いられる着用位置と、前記タングが装着される際に用いられる装着位置との間で移動させるバックル駆動機構と、前記バックル駆動機構を制御する制御装置とを備える可動バックル装置であって、前記バックル駆動機構は、前記バックル部を前記装着位置から移動させて前記シートベルトを牽引し、牽引力が所定値以上となった後に前記バックルを所定量だけ逆方向に駆動した位置を前記着用位置とすることを特徴とする。
【0013】
また、本発明のシートベルト装置は、上記いずれかの可動バックル装置と、前記シートベルトと、前記シートベルトに設けられ前記可動バックル装置の前記バックル部に装着されるタングと、前記シートベルトの不使用部分を巻き取るリトラクタと、前記シートベルトの前記リトラクタ側と反対側の端部が固定される第1のアンカと、前記リトラクタと前記タングとの間に設けられ前記シートベルトを折り返す第2のアンカとを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明によれば、シートベルトの装着が容易でありかつ適切な着用状態が得られる可動バックル装置及びシートベルト装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明を適用した可動バックル装置及びシートベルト装置の実施形態における車両シート部の模式的外観斜視図である。
【図2】図1の可動バックル装置のトップカバーを取り外した状態を示す外観斜視図(ただし、トップカバーのカム部形状のみ図示)である。
【図3】図1の可動バックル装置の分解斜視図である。
【図4】図1の可動バックル装置のロック機構を示す図(図2のIV−IV部矢視図)である。
【図5】図1の可動バックル装置の動作を示す図である。
【図6】図1の可動バックル装置に設けられるバックル制御装置の構成を示す模式的ブロック図である。
【図7】図6のバックル制御装置における装着位置から着用位置への移行時の制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を適用した可動バックル装置及びこれを含むシートベルト装置の実施形態について説明する。
実施形態のシートベルト装置は、例えば、乗用車等の自動車の前席用3点式シートベルトとして構成されている。
図1に示すシートベルト装置1は、シート2に着座した乗員P(図5を参照)を拘束するものである。
シートベルト装置1は、ショルダーベルト10、ラップベルト20、タング30、可動バックル装置100等を備えて構成されている。
【0017】
ショルダーベルト10は、通常の着用時において乗員の左右一方の肩部から、他方の腰部まで斜行して配置された部分である。ショルダーベルト10の上端部は、ピラー3に取り付けられたアンカ4で下方に折り返され、ピラー3の下部に設けられたリトラクタ5によって不使用時には巻き取られる。
アンカ4は、ショルダーベルト10が自在に通過可能なスルーアンカとなっている。
【0018】
ラップベルト20は、通常の着用時において車幅方向に配置されて乗員の腰部を拘束する部分である。ラップベルト20の車幅方向内側(ピラー3から遠い側)の端部は、タング30においてショルダーベルト10の下端部と連続している。ラップベルト20の他方の端部は、ピラー3の下端部に設けられたアンカ6に接続されている。
【0019】
タング30は、ショルダーベルト10とラップベルト20との連続箇所に設けられた部材である。タング30は、ショルダーベルト10とラップベルト20との連続箇所が通過可能なスルーアンカとして構成されるとともに、可動バックル装置100のバックル部110に着脱可能に取り付けられる金具であるタングプレート31を備えている。
【0020】
可動バックル装置100は、タング30のタングプレート31が着脱可能に取り付けられる部分であって、ブラケットを介してシート2のアンカ6とは反対側の側部、又は、車両のフロアに車幅方向に沿った軸回りに所定の角度範囲内で回動可能に取り付けられている。
図2及び図3に示すように、可動バックル装置100は、バックル部110、ブラケット120、ベースプレート130、スライドベース140、スライドボルト150、モータ160、ドリブンギヤ170、ロック機構180、カバー190等を備えて構成されている。
【0021】
バックル部110は、タング30のタングプレート31が差し込まれ、ロックされる金具を備えている。また、バックル部110は、タングプレート31を解放する図示しない解放操作部を備えている。
バックル部110は、乗員がシートベルトを装着する際に用いられる装着位置(上昇位置)と、乗員がシートベルトを着用して通常走行等を行う際に用いられる着用位置(下降位置)との間で、アクチュエータであるモータ160によって移動可能な可動バックルとなっている。
【0022】
ブラケット120は、バックル部110をベースプレート130に連結する平板状の部材である。
ブラケット120は、バックル部110の差込口とは反対側の端部から帯状に伸びている。
ブラケット120のベースプレート130側の端部121は、車幅方向にほぼ沿った回転軸回りに、スライドベース140に対して回動可能に取り付けられている。
また、ブラケット120には、カバー190に形成されるカム溝Cに挿入されて案内される突起状のカムフォロワ122が形成されている。
【0023】
ベースプレート130は、可動バックル装置100の基部となり、各構成部品が取り付けられる平板状の部材である。
ベースプレート130は、例えば車両のシートレール側面部やフロア部などに取り付けられ、車幅方向にほぼ沿った回転軸回りに所定の角度範囲内で回動可能となっている。
【0024】
スライドベース140は、ベースプレート130に対して、バックル部110を繰出し(上昇させ)又は引き込む(下降させる)方向に、直線的に相対移動に取り付けられている。
また、スライドベース140には、上述したように、バックル部110を支持するブラケット120が回動可能に取り付けられている。
【0025】
スライドボルト150は、スライドベース140の移動方向に沿って配置されたスクリュである。スライドボルト150は、ベースプレート130に、両端部に設けられた軸受Bを介して回転可能に支持されている。スライドボルト150は、スライドベース140に形成されたナット部とネジ結合され、軸回りに回転することによってスライドベース140を軸方向に駆動可能となっている。
【0026】
モータ160は、後述する減速ギヤ列を介してスライドボルト150を回転駆動することによって、バックル部110を装着位置と着用位置との間で移動させるアクチュエータである。
モータ160は、ベースプレート130のバックル部110とは反対側の端部に、例えばモールド成形品の樹脂部材である座部161を介して固定されている。モータ160の回転軸方向は、スライドボルト150と平行に配置されている。
モータ160は、外周面に沿って周方向に延在するバンド状の締結部品162によって座部161に締結されている。
この座部161には、モータ160を制御する電気回路が実装された制御基板163が取り付けられている。
また、モータ160からバックル部110側へ突き出した出力軸には、ドライブピニオン164が固定されている。
【0027】
ドリブンギヤ170は、スライドボルト150のモータ160側の端部に取り付けられ、モータ160のドライブピニオン164と噛合し、駆動されるものである。
ドリブンギヤ170は、ドライブピニオン164と協働して減速ギヤ列を構成する。
【0028】
ロック機構180は、モータ160の通電時にはスライドボルト150の両方向への回転を許容するとともに、モータ160の非通電時には、バックル部110が引き込まれる(下降する)方向への回転を許容しかつバックル部110が繰出される(上昇する)方向への回転を禁止するものである。
図4に示すように、ロック機構180は、ギヤ181、ストッパギヤ182、バネ183、ソレノイド184等を備えて構成されている。
ギヤ181は、ドリブンギヤ170と同心かつドリブンギヤ170に対して軸方向に隣り合うようスライドボルト150に取り付けられている。ギヤ181は、ドリブンギヤ170に対してピッチ円径、刃先円径ともに大きく形成され、ドリブンギヤ170のスライドベース140側に隣接して配置されている。
ギヤ181は、ドリブンギヤ170とともに、スナップリングSによってスライドボルト150に固定されている。
ストッパギヤ182は、ギヤ181の外周縁部に形成された歯と噛合する爪部182aを有するとともに、この爪部がギヤ181に当接、離間する方向に、回転軸182b回りに揺動可能となっている。
ここで、ギヤ181の歯先形状は、歯の両側の面の傾斜を異ならせることによって、ストッパギヤ182との噛合時においても、バックル部110を引き込む方向には爪部182aが待避することによって回転可能ないわゆるラチェット機構を構成している。
【0029】
バネ183は、ストッパギヤ182の回転軸182bよりも爪部側182a側の部分をギヤ181側に押圧する圧縮コイルバネである。
ソレノイド184は、ストッパギヤ182の回転軸182bよりも爪部182aから遠い側の部分を、通電時にプランジャによって押圧するアクチュエータである。
ソレノイド184の励磁コイルは、モータ160への電力供給配線に割り込ませるよう構成されている。その結果、ソレノイド184のプランジャは、モータ160への通電時に繰出してストッパギヤ182をギヤ181から開放し、非通電時に引き込まれてストッパギヤ182をバネ183の付勢力でギヤ181に噛合させるようになっている。
上述した構成により、バックル部110の上昇はモータ160及びソレノイド184への通電時にしか行われないが、バックル部110の下降は、例えば乗員Pが手で押し込むことによっても可能となっている。
【0030】
カバー190は、バックル部110及びブラケット120の外部に露出する部分以外を収容する可動バックル装置100の筐体である。カバー190は、例えば樹脂系材料のインジェクション成形によって形成され、ベースプレート130に対して外側(シート2から遠い側)に設けられるトップカバー191、及び、内側(シート2側)に設けられるボトムカバー192からなる2つ割り構成となっている。
トップカバー191には、上述したように、ブラケット120のカムフォロワ122が案内されるカム溝Cが形成されている。
図2に示すように、カム溝Cは、スライドボルト150の軸方向にほぼ沿って伸びるが、その中間部分には、車両前方側が凸となるように張出した湾曲形状が設けられている。
【0031】
図5は、実施形態におけるバックル部110の装着位置から着用位置への移行状態を示す模式的側面図である。
図5(a)は、乗員Pがシートベルトを装着する装着位置を示し、図5(c)は、乗員Pがシートベルトを着用して通常走行などを行う着用位置を示している。
また、図5(b)は、装着位置と着用位置との間の移行中の状態を示している。
図5(a)の状態から、図5(b)、図5(c)の状態へ移行する際、モータ160はスライドボルト150を一方向に回転駆動する。これによってブラケット120の端部121が取り付けられたスライドベース140は、スライドボルト150の回転軸線に沿って、車両後方側に移動しつつ斜めに直線的に下降する。
このとき、カム溝Cを上述した湾曲形状としたことによって、ブラケット120及びバックル部110は、移行途中においてスライドベース140に対して上端部(差込口)が車両前方側を向くように回動し、その後さらに駆動が続くことによって、再び上端部がもとの方向を向くように逆方向に回動する。
このようなバックル部110の移動軌跡は、ラップベルト20が乗員Pの腹部の下側に回りこみ、腰骨部にかかって正規の着用状態が得られることを考慮して設定されている。
【0032】
次に、上述した可動バックル装置100のモータ160を制御するバックル制御装置について説明する。
図6に示すように、バックル制御装置200は、バックル制御ユニット210を備えている。
バックル制御ユニット210は、図示しないリレーに制御信号を与えることによって、モータ160の通電、非通電及び通電時の極性を切替えるものである。
バックル制御ユニット210は、例えば、CPU等の情報処理装置、RAMやROM等の記憶装置、入出力インターフェイス及びこれらを接続するバス等を備えて構成されている。
また、バックル制御ユニット210は、モータ160に通電される電流値を検出する電流センサ211、及び、バックル部110へのタング30の装着有無を検出するバックルスイッチ212が接続されている。
【0033】
さらに、バックル制御ユニット210には、エンジン制御ユニット221、トランスミッション制御ユニット222、エアバッグ制御ユニット223、着座センサ224、ドアスイッチ225等が接続されている。
エンジン制御ユニット221は、車両の図示しないエンジン及びその補機類を統括的に制御するものであって、バックル制御ユニット210に車速及びエンジンのオンオフ状態に関する情報を提供する。
トランスミッション制御ユニット222は、車両の図示しない自動変速機を制御するものであって、バックル制御ユニット210に現在のシフトポジション(P、R、N、D等)に関する情報を提供する。
エアバッグ制御ユニット223は、車両の図示しないエアバッグの展開等を制御するものであって、車両の衝突を検出する衝撃センサ及び衝突の前兆を検出するプリクラッシュ検出装置等を備えている。エアバッグ制御ユニット223は、バックル制御ユニット210に車両の衝突又はその前兆に関する情報を提供する。バックル制御ユニット210は、車両の衝突又はその前兆に応じて、モータ160を駆動してシートベルトを牽引し、乗員Pの拘束力を強化するプリテンショナ機能を備えている。
着座センサ224は、例えばシート2の座面に組み込まれた感圧スイッチを有し、バックル制御ユニット210にシート2に乗員Pが着座しているか否かに関する情報を提供する。
ドアスイッチ225は、車両の図示しないドア開口に設けられ、バックル制御ユニット210にドア開閉に関する情報を提供する。
【0034】
以下、実施形態のシートベルト装置における可動バックル装置の制御の具体例について説明する。
実施形態においては、以下の状態のときにバックル部110を着用位置から装着位置へ移行(上昇)させている。
(A)シートベルトを脱着したとき(バックルスイッチがオンからオフに移行したとき)
(B)イグニッションスイッチをオフにしたとき
(C)シフトレバーをP位置又はR位置にしたとき
【0035】
また、以下の状態のときにバックル部110を装着位置から着用位置へ移行(下降)させている。
(a)シートベルトを装着したとき(バックルスイッチがオフからオンに移行したとき)
(b)イグニッションスイッチをオンにしかつバックルスイッチがオンのとき
(c)シフトレバーがP又はR位置以外でかつバックルスイッチがオンのとき
【0036】
まず、車両の未使用状態から、乗員が乗車して発進する際の可動バックル装置100のバックル部110の位置を表1に示す。
【表1】


表1に示すように、車両の使用開始時においては、ドアオープン、乗車、ドアクローズ、エンジン始動迄は、バックル部110は装着位置(上昇状態)にあり、その後、乗員Pがタング30をバックル部110に差し込んでシートベルトを装着すると、着用位置(下降状態)に移行する。そして、車両発進時にはバックル部110は着用位置に保持される。
【0037】
次に、車両を停車させてから、乗員が降車する際の可動バックル装置100のバックル部110の位置を表2に示す。
【表2】


表2に示すように、車両の停車時にはバックル部110は着用位置にあるが、その後、シフトレバーのP位置へのシフト、シートベルトの取り外し、エンジン停止、ドアオープン、乗員Pの降車などが検出された場合には、バックル部110は装着位置まで上昇して保持される。
【0038】
表3は、降車時の可動バックル装置100のバックル部110位置の他の例を示す。表3に示すように、停車後の手順がエンジン停止、シートベルト脱着、シフトレバーのP位置へのシフト、ドアオープン、降車となるように変更されても、エンジン停止以降はバックル部110は装着位置に保持される。
【表3】

【0039】
最後に、表4は、車両の停車後、バックで駐車を行ってから降車するまでの可動バックル装置100のバックル部110位置を示す。
【表4】


表4に示すように、停車時にはバックル部110は着用位置にあり、その後シフトレバーがR位置にシフトされるとバックル部110は装着位置まで上昇する。さらにその後切り返しのためにシフトレバーがD位置へシフトされると、バックル部110は再び着用位置まで下降し、その後切り返しのためR位置にシフトされるとバックル部110は装着位置まで上昇する。
その後、シフトレバーのP位置へのシフト、シートベルト脱着、エンジン停止、ドアオープン、乗員Pの降車などが行われている間は、バックル部110は装着位置に保持される。
【0040】
また、実施形態においては、乗員Pの快適性を向上するため、体型に応じた適切な位置に着用位置を設定する機能を備えている。これについて以下説明する。
図7は、図6の制御装置においてバックル部110を装着位置から着用位置へ下降させる際の制御を示すフローチャートである。以下、ステップ毎に説明する。
<ステップS01:バックル下降条件成立有無判断>
バックル制御ユニット210は、上述したバックル部110の装着位置から着用位置への移行条件が充足したか否かを判定する。
そして、以降条件が充足した場合はステップS02に進み、充足しない場合は一連の処理を終了(リターン)する。
【0041】
<ステップS02:モータ駆動開始>
バックル制御ユニット210は、バックル部110が下降する方向にモータ160の駆動を開始させる。
その後、ステップS03に進む。
【0042】
<ステップS03:モータ駆動電流値検出>
バックル制御ユニット210は、電流センサ211を用いて、モータ160の駆動電流値を検出する。
その後、ステップS04に進む。
【0043】
<ステップS04:駆動電流値判断>
バックル制御ユニット210は、モータ160の駆動電流値を予め設定された閾値と比較し、駆動電流値が閾値以上である場合には、シートベルトが所定値以上の張力で牽引されているものとみなしてステップS05に進む。
一方、駆動電流値が閾値未満である場合には、シートベルトの張力が所定値以下であるものとみなして、さらに牽引するためステップS03に戻って以降の処理を繰り返す。
【0044】
<ステップS05:モータ所定量逆転後停止>
バックル制御ユニット210は、モータ160を所定の回転量だけ逆転させてシートベルトを拘束性能上問題がない程度まで弛め、その後モータ160を停止する。このときのバックル部110の位置が当該乗員Pにおける着用位置となる。
その後、一連の処理を終了する。
【0045】
以上説明した実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)シートベルトの装着時に、バックル部110が車両後方側へ後退しつつ差込部が車両前方側から上方側へ車幅方向にほぼ沿った軸回りに回動することによって、ラップベルト20が乗員Pの腹部にかかることを防止して、腰部に正しく着装させることができ、容易に適切な着用状態を得て乗員拘束性能を確保することができる。
また、バックル部110が着用位置に対して車両前方かつ上方の装着位置まで繰り出された状態でタング30をバックル部110に差し込むことができることから、シートベルトの装着が容易である。
(2)単一のモータ160によってバックル部110の昇降動作及び回動動作を行うようにしたことによって、装置の構成を簡素化することができる。
(3)バックル部110の装着位置から着用位置への移行時に、モータ160の駆動電流値が閾値に達した後、所定量だけモータ160を逆転させることによって、乗員の体格に応じて窮屈さを感じない適切な位置に着用位置を設定することができ、快適性を向上できる。
(4)衝突又はその前兆に応じてモータ160を駆動し、バックル部110を引き込むことによって、衝突時に乗員の拘束を強化するプリテンショナ機能を可動バックル装置に付加して、別個のプリテンショナを簡素化あるいは省略し、シートベルト装置全体の構成を簡素化することができる。
(5)バックル部110のシートベルトを弛緩させる方向への移動を、モータ160の非駆動時には規制し、モータ160の駆動時には許容するロック機構180を備える構成とすることによって、衝突時にシートベルトに負荷される張力によってバックル部110が繰り出されてしまうことがなく、良好な拘束性能を得ることができる。
また、モータ160への通電とロック機構180の解除とを連動させることによって、制御を簡素化することができる。
(6)可動バックル装置100の制御を、一般的な車両に設けられる各種ECU、センサ等の出力に基づいて行うことによって、既存のセンサ等のみでシステムを制御することができ、車両の構成を複雑化することがない。
【0046】
なお、本発明の技術的範囲は、上述した各実施形態によって限定されるものではなく、適宜変更することが可能である。このような変更の一例として例えば以下のようなものがあり、これらも本発明の技術的範囲内である。
(1)バックル部を装着位置と着用位置との間で移動させる駆動機構の構成は、上述した実施形態のものに限らず、適宜変更することができる。また、バックル部の移動軌跡も実施形態のものには限定されない。例えば、実施形態においては、着用位置から装着位置への上昇時に一旦バックル部が前方を向くよう回動し、その後逆方向に回動するが、バックル部が前方へ回動した状態のまま装着位置に到達するようにしてもよい。
(2)バックル部の装着位置と着用位置との間の移行条件は、上述した実施形態のものは一例であり、適宜変更することができる。また、制御に使用するセンサの種類も実施形態のものには限定されず、他のセンサ類を用いたり、一部のセンサを省いて簡素化してもよい。また、プリテンショナとして作動させる場合も、エアバッグ制御ユニットからの情報に限らず、例えば車両の急制動時、急旋回時等にシートベルトを牽引するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0047】
1 シートベルト装置 2 シート
3 ピラー 4 アンカ
5 リトラクタ 6 アンカ
10 ショルダーベルト 20 ラップベルト
30 タング 31 タングプレート
100 可動バックル装置 110 バックル部
120 ブラケット 121 端部
122 カムフォロワ 130 ベースプレート
140 スライドベース 150 スライドボルト
B 軸受 S スナップリング
160 モータ 161 座部
162 締結部品 163 制御基板
164 ドライブピニオン 170 ドリブンギヤ
180 ロック機構 181 ギヤ
182 ストッパギヤ 182a 爪部
182b 回転軸 183 バネ
184 ソレノイド 190 カバー
191 トップカバー 192 ボトムカバー
C カム溝
200 バックル制御装置 210 バックル制御ユニット
211 電流センサ 212 バックルスイッチ
221 エンジン制御ユニット 222 トランスミッション制御ユニット
223 エアバッグ制御ユニット 224 着座センサ
225 ドアスイッチ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートに着座する乗員の肩部及び胸部を拘束するショルダーベルト及び腰部を拘束するラップベルトを有するシートベルトに設けられるタングが着脱可能に装着される差込部を有するバックル部と、
前記バックル部を、通常使用時に用いられる着用位置と、前記タングが装着される際に用いられる装着位置との間で移動させるバックル駆動機構と、
前記バックル駆動機構を制御する制御装置と
を備える可動バックル装置であって、
前記バックル部は、前記装着位置から前記着用位置への移動時に、車両後方側へ後退するとともに前記差込部が車両前方側から上方側へ車幅方向にほぼ沿った軸回りに回動すること
を特徴とする可動バックル装置。
【請求項2】
前記バックル部は、前記着用位置から前記装着位置への移動時に上昇すること
を特徴とする請求項1に記載の可動バックル装置。
【請求項3】
前記バックル駆動機構は、アクチュエータによって直進方向に往復駆動されかつ前記バックル部が揺動可能に取り付けられる直進部材、及び、前記バックル部に設けられたカムフォロワを案内して前記バックル部を揺動させるカム部を有すること
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の可動バックル装置。
【請求項4】
前記バックル駆動機構は、前記バックル部を前記装着位置から移動させて前記シートベルトを牽引し、牽引力が所定値以上となった後に前記バックルを所定量だけ逆方向に駆動した位置を前記着用位置とすること
を特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の可動バックル装置。
【請求項5】
車両の衝突又は衝突の前兆を検出する衝突検出装置を備え、
前記バックル駆動機構は、前記衝突検出装置の検出結果に応じて前記シートベルトを牽引する方向に前記バックル部を駆動すること
を特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の可動バックル装置。
【請求項6】
前記バックル駆動機構は、前記バックル部の前記シートベルトを弛緩させる方向への移動を、前記バックル部を駆動するアクチュエータの非駆動時には規制し、前記アクチュエータの駆動時には許容するロック機構を備えること
を特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の可動バックル装置。
【請求項7】
シートに着座する乗員の肩部及び胸部を拘束するショルダーベルト及び腰部を拘束するラップベルトを有するシートベルトに設けられるタングが着脱可能に装着される差込部を有するバックル部と、
前記バックル部を、通常使用時に用いられる着用位置と、前記タングが装着される際に用いられる装着位置との間で移動させるバックル駆動機構と、
前記バックル駆動機構を制御する制御装置と
を備える可動バックル装置であって、
前記バックル駆動機構は、前記バックル部を前記装着位置から移動させて前記シートベルトを牽引し、牽引力が所定値以上となった後に前記バックルを所定量だけ逆方向に駆動した位置を前記着用位置とすること
を特徴とする可動バックル装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の可動バックル装置と、
前記シートベルトと、
前記シートベルトに設けられ前記可動バックル装置の前記バックル部に装着されるタングと、
前記シートベルトの不使用部分を巻き取るリトラクタと、
前記シートベルトの前記リトラクタ側と反対側の端部が固定される第1のアンカと、
前記リトラクタと前記タングとの間に設けられ前記シートベルトを折り返す第2のアンカと
を備えるシートベルト装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−245895(P2011−245895A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−118236(P2010−118236)
【出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【出願人】(306009581)タカタ株式会社 (812)
【Fターム(参考)】