説明

可動対象の位置測定方法およびX線撮像装置

【課題】血管内で移動する対象の位置を高い信頼性で測定して、血管に関連付ける。
【解決手段】可動対象24の移動前又は移動後に、造影剤を第1の濃度で含んでいる血管26を含む生体の部位に関する第1のX線画像データセットR1が取得され、可動対象の移動前又は移動後に、血管26が造影剤を全く含んでいない状態で前記部位に関するデータを含む第2のX線画像データセットR2が取得され、可動対象の移動中に、血管26が造影剤を全く含んでいない状態で前記部位に関するデータを含む第3のX線画像データセットR3aが取得され、第2のX線画像データセットおよび第3のX線画像データセットからなる差画像データセットSaが算出され、可動対象に割当て可能であるデータが識別され、差画像データセットのデータに第1のX線画像データセットのデータが割当てられ、第1のX線画像データセットと、可動対象24に割当て可能なデータとに基づいて、血管26内での可動対象24の位置が測定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線を生体組織よりも強く吸収する可動対象が生体の血管内で移動する過程においてその可動対象の位置を測定する方法に関する。本発明は、X線管とX線検出器と画像処理ユニットとを有するX線撮像装置にも関する。
【背景技術】
【0002】
患者の冠状血管を検査するためにX線を使用することが知られている。この場合通常では、投与された造影剤が血管を介して冠状血管内に到達し、冠状血管はX線画像中に明瞭に現れる。このようにして冠状血管の幾何学的形状もしくは形態学に関する情報を検出することができる。しかし冠状血管内壁の生理学に関する情報は得られない。
【0003】
血管内壁をさらに詳細に検査するために、超音波ヘッドを有し血管中に導入されるカテーテルを用いるIVUS(血管内超音波法)と呼ばれる方法を実施することが知られている。この方法は、血管内壁の高い空間分解能を有する超音波断層画像を提供する。しかしそのようにして撮影された超音波画像を、冠状血管内のカテーテルの特定位置に割り当てることは困難である。
【0004】
これに関連して、カテーテルを血管内の出発位置に配置した際にX線画像を撮影することが知られている。カテーテルにより超音波画像を撮影する間にX線画像から提供される血管形状と、血管を通してカテーテルを引く既知の速度とにより、特定時点において血管内での超音波ヘッドのその都度の位置を推定することができる。
【0005】
この代わりに、血管を通してカテーテルを引いている間に、造影剤投与なしに連続的にX線透視をする、つまりX線画像シリーズを撮影してもよい。この場合に、X線画像内での超音波ヘッドのその都度の位置は、セグメンテーション法により識別することができる。しかしこの方法はカテーテルの明確な識別が常に可能であるとは限らないという欠点を持つ。例えば、患者体内の他の物体がIVUSカテーテルと似たようなコントラストを有し、それゆえに明確な識別を困難にすることがある。この例が移植組織(例えば心臓ペースメーカの構成部品)、手術縫合部(例えば、バイパス手術に基づくもの)又は血管内の石灰沈着である。
【0006】
造影剤を用いた血管造影によるX線画像は、カテーテル移動中のX線画像シリーズとは異なる時点で撮影されるため、患者の運動がその後における画像調整に不都合な影響を及ぼし、両画像データセットの相関を困難にすることがある。しばしばこのような運動は、この運動が特に呼吸又は心拍動によって引き起こされる運動である場合には回避できない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、血管内で移動する対象の位置をさらに高い信頼性をもって測定し、血管の幾何学的な形状に関連付けることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題は、本発明によれば、X線を生体組織よりも強く吸収する可動対象が生体の血管内で移動する過程においてその可動対象の位置を測定する方法であって、
a)可動対象の移動前又は移動後に、造影剤を第1の濃度で含んでいる血管を少なくとも部分的に含む生体の少なくとも1つの部位に関する第1のX線画像データセットが取得されるステップと、
b)可動対象の移動前又は移動後に、血管が造影剤を前記第1の濃度よりも低い濃度で含んでいるか又は全く含んでいない状態で、前記部位に関するデータを含む第2のX線画像データセットが取得されるステップと、
c)可動対象の移動中に、血管が造影剤を前記低い濃度で含んでいるか又は全く含んでいない状態で、前記部位に関するデータを含む少なくとも1つの第3のX線画像データセット(が取得されるステップと、
d)第2のX線画像データセットおよび第3のX線画像データセットの互いに空間的に割り当て可能なデータ値が互いに引算されて、第2のX線画像データセットおよび第3のX線画像データセットからなる差画像データセットが算出されるステップと、
e)差画像データセットに関してセグメンテーション法を実行して、可動対象に割り当て可能であるデータが識別されるステップと、
f)予め与え得る(つまり予め設定し得る)幾何学的な割当規則を求めることによって、差画像データセットのデータに第1のX線画像データセットのデータが割り当てられるステップと、
g)第1のX線画像データセットと、識別されて可動対象に割り当て可能なデータとに基づいて、血管内での可動対象の位置が測定されるステップと、
を有する可動対象の位置測定方法によって解決される(請求項1)。
可動対象の位置測定方法に関する本発明の実施態様は、次の通りである。
・ステップc)が時間的にステップa),b)の後に続き、ステップc)において時間的に相次いで複数の第3のX線画像データセットが取得され、複数の第3のX線画像データセットのそれぞれについてステップd)〜g)に従って可動対象の位置が測定される(請求項2)。
・第3のX線画像データセットの1つを少なくとも取得中に、血管の内部空間に関する1つの他の画像データセットが、血管内にある可動対象により取得される(請求項3)。
・他の画像データセットが、血管内での位置を測定された可動対象の位置に割り当てられる(請求項4)。
・可動対象がカテーテルを含み、かつ他の画像データセットが血管内超音波法により取得される(請求項5)。
・血管がほぼ周期的に運動し、その周期的な運動の同じ位相位置で第1のX線画像データセットおよび第2のX線画像データセット、および/又は第1のX線画像データセットおよび第3のX線画像データセット、および/又は第2のX線画像データセットおよび第3のX線画像データセットが取得される(請求項6)。
・周期的な運動が測定ユニット、好ましくは心電図検出装置により検出され、第1のX線画像データセットおよび/又は第2のX線画像データセットおよび/又は第3X線画像データセットの取得時点が前記測定ユニットから供給されるデータに基づいて決定される(請求項7)。
・血管が第1および第2の周期的な運動の重なりに応じて運動し、第1の周期的な運動が測定ユニットにより検出され、第2の周期的な運動が、時間的に相次いで複数の第1のX線画像データセットおよび/又は第2のX線画像データセットおよび/又は第3のX線画像データセットを取得することによって検出され、ステップd)におけるデータ値の空間的な割り当て、および/又はステップf)において予め与え得る幾何学的な割当規則を求めることは、検出された第1および第2の空間的な運動に依存して行なわれる(請求項8)。
・ステップf)において割当規則を求めることは、第1のX線画像データセットと、第2のX線画像データセットおよび/又は第3のX線画像データセットおよび/又は差画像データセットとのレジストレーションにより行なわれる(請求項9)。
・ステップf)において割当規則を求めることは、第1のX線画像データセットに割り当てられている座標系と、第2のX線画像データセットおよび/又は第3のX線画像データセットおよび/又は差画像データセットに割り当てられている座標系との間の座標変換により行なわれる(請求項10)。
前述の課題は、本発明によれば、本発明による方法を実施するために、X線管とX線検出器と画像処理ユニットとを有するX線撮像装置において、インターフェースを備え、このインターフェースを介して画像処理ユニットが、信号交換に関して、血管の内部空間に関する画像データセットを取得するためのカテーテルに接続可能であるX線撮像装置によっても解決される(請求項11)。
【0009】
本発明による方法は、X線を生体組織よりも強く吸収する可動対象が生体の血管内で移動する過程においてその可動対象の位置を測定するために使用される。この方法は次の本発明によるステップ、即ち、
a)可動対象の移動前又は移動後に、造影剤を第1の濃度で含んでいる血管を少なくとも部分的に含む生体の少なくとも1つの部位に関する第1のX線画像データセットが取得されるステップと、
b)可動対象の移動前又は移動後に、血管が造影剤を前記第1の濃度よりも低い濃度で含んでいるか又は全く含んでいない状態で、前記部位に関するデータを含む第2のX線画像データセットが取得されるステップと、
c)可動対象の移動中に、血管が造影剤を前記低い濃度で含んでいるか又は全く含んでいない状態で、前記部位に関するデータを含む少なくとも1つの第3のX線画像データセットが取得されるステップと、
d)第2のX線画像データセットおよび第3のX線画像データセットからなる差画像データセットが算出され、その際に第2のX線画像データセットおよび第3のX線画像データセットの互いに空間的に割り当て可能なデータ値が互いに引算されるステップと、
e)差画像データセットに関してセグメンテーション法を実行して、可動対象に割り当て可能であるデータが識別されるステップと、
f)予め与え得る(つまり予め設定し得る)幾何学的な割当規則を求めることによって、差画像データセットのデータに第1のX線画像データセットのデータが割り当てられるステップと、
g)第1のX線画像データセットと、識別されて可動対象に割り当て可能なデータとに基づいて、血管内での可動対象の位置が測定されるステップと、
を有する。
【0010】
特に、可動対象がセグメンテーション法により識別される前に差画像データセットが取得されることによって、間違って可動対象として識別され得る物体に関するデータがもはや差画像データセット中に存在しないことが保証される。これは、特に時間的に静止状態にある外来物体に対して当てはまる。それらの外来物体と比べて、可動対象は血管内での移動中に差画像データセット内に明瞭に現れ、自動セグメンテーション法で非常に簡単に識別することができる。このようにして可動対象の信頼性の高い位置測定が可能である。
【0011】
ステップf)に従って、造影剤により取得された第1のX線画像データセットのデータが、幾何学的な割当規則により一義的に、位置測定された可動対象に幾何学的に関連付けられるので、複数の相補的なデータセットを組み合わせることにより1つの有意義な合成データセットを作成することができる。特に、ステップa)において取得された第1のX線画像データセットにより血管の幾何学的な形状を明確に決定することができる。ステップb)〜e)において極めて高い信頼性をもって識別された可動対象は、この幾何学的な形状に関連付けられるので、ステップg)において非常に正確な位置測定が可能である。
【0012】
ステップa)においてのみ、血管の可視化を改善するために血管は第1のX線画像データセットの取得時点には既に造影剤を含んでいるが、第2および第3のX線画像データセットの取得はこのような造影剤なしに実施されるので、患者の生理学的な負担を格別に少なくすることができる。この方法の実施中に患者が全体として受けるX線量も非常に少ない。
【0013】
ステップa)およびb)は、可動対象がまだ前記部位内にいない状態で実施されると好ましい。しかし、その代わりに、可動対象が既に前記部位内において出発位置に配置され、第2のX線画像データセットの取得中には移動されないようにしてもよい。ステップb)は造影剤の存在なしに実施されると好ましい。ステップc)はステップb)と同じ造影剤濃度で実施されると好ましい。
【0014】
特に好ましくは、ステップc)が時間的にステップa),b)の後に続き、ステップc)において時間的に相次いで複数の第3のX線画像データセットが取得され、その後複数の第3のX線画像データセットのそれぞれについてステップd)〜g)に従ってさらに可動対象の位置測定が行なわれる。ステップa),b)において取得された第1および第2のX線画像データセットは、特に基準画像データセットを構成するのに対して、ステップc)において取得された複数のX線画像データセットは、特にそれらの基準画像データセットを用いてさらに処理される本来の測定データセットを形成する。第1および第2のX線画像データセットによって特に静止X線画像が提供され、これに対して第3のX線画像がストロボスコープシリーズで間欠的に又は連続的に透視にて取得される。このようにして、血管内での可動対象の移動を非常に良好に追跡することができる。何故ならば、可動対象のどの位置にもそれぞれの第3のX線画像データセットが割り当てられているからである。ステップa),b),c)が時間的にこの順序で相次いで行なわれるのが格別に好ましい。しかし、ステップb)をステップa)の前に実施してもよい。
【0015】
第3のX線画像データセットの1つを少なくとも取得中に、血管の内部空間に関する1つの他の画像データセットが、血管内にある可動対象により取得されるとよい。第3のX線画像データセットのそれぞれには、特に複数の他の画像データセットのうちの1つを一義的に割り当てることができる。複数の第3のX線画像データセットおよび複数の他の画像データセットは、特に時間的に相互関係をもって存在するので、格別に有意義な複合測定データセットが生成される。特に、他の画像データセットは、X線を利用しない方法により取得された画像データセットである。その際に格別に有意義な相補的な測定データセットを使用することができる。
【0016】
他の画像データセットは、血管内の位置測定された可動対象の位置に割り当てられる。この実施形態は、特に、他の画像データセット自体のみの考察では血管内での可動対象の位置を全く又は不十分にしか推定できない場合に有利である。この場合に本発明による方法ではこの不足する位置情報が特にX線画像データセットによって提供される。
【0017】
特に好ましいのは、可動対象がカテーテルを含み、かつ他の画像データセットが血管内超音波法により取得されることである。その際に、血管内超音波法は、特にX線画像データセットからは求めることができない血管内壁の状態に関するデータを提供することができる。他方ではこれらの超音波データを特定の血管位置に一義的に割り当てることができる。このようにして血管内壁の生理学的な状態を血管の特定の部分に割り当てることができる。格別に正確な医学的診断が可能である。
【0018】
血管がほぼ周期的に運動する場合には、その周期的な運動の同じ位相位置で、第1のX線画像データセットおよび第2のX線画像データセット、および/又は第1のX線画像データセットおよび第3のX線画像データセット、および/又は第2のX線画像データセットおよび第3のX線画像データセットが取得されると好ましい。このようにして、第1、第2および/又は第3のX線画像データセットにおいて検出される生理学的対象の部位が同一であること、つまり一致する座標系を有することが保証される。同一でない幾何学的位置に割り当てられ得る異なるX線画像データセットからのデータを処理することによって生じる誤りが回避される。
【0019】
好ましくは、周期的な運動が測定ユニットにより検出され、第1のX線画像データセットおよび/又は第2のX線画像データセットおよび/又は第3のX線画像データセットを取得するための時点が前記測定ユニットから供給されるデータに基づいて決定される。その周期的な運動は例えば心臓の律動的なポンプ運動によって引き起こされる。その周期的な運動は心電図により検出することができ、この場合に測定ユニットとして、ECG(心電図)装置が設けられる。ECG信号は、特にX線画像データセットの取得のためのタイミングパルス発生器として使用され、それにより取得中の画像輪郭のぼやけが回避される。
【0020】
心臓のポンプ運動に起因する血管の不可避の運動のほかに、患者の呼吸に起因する運動も不可避である。従って血管が第1および第2の周期的な運動の重なりに応じて動く場合、好ましくは第1の周期的な運動が前記測定ユニットによって検出され、第2の周期的な運動が時間的に相次いで複数の第1および/又は第2および/又は第3のX線画像データセットを取得することによって検出される。その際にステップd)においてデータ値の空間的な割り当てが、好ましくは、検出された第1および第2の空間的運動に依存して行なわれる。これは、代替として又は追加として、ステップf)における予め与え得る幾何学的な割当規則を求めるためにも用いることができる。特に、このようにして第1の周期的な運動を第2の周期的な運動から分離して、個別的に画像処理の際に利用することができる。それにより、血管の運動に起因するX線画像データセット中の望ましくない測定誤りを回避することができる。
【0021】
好ましくは、ステップf)において、割当規則を求めることは、第1のX線画像データセットと第2のX線画像データセットおよび/又は第3のX線画像データセットおよび/又は差画像データセットとをレジストレーションすることによって行なわれる。代替又は追加として、ステップf)において、割当規則を求めることは、第1のX線画像データセットに割り当てられている座標系と、第2のX線画像データセットおよび/又は第3のX線画像データセットおよび/又は差画像データセットに割り当てられている座標系との間の座標変換により行なわれるとよい。後者の代替は特に個々のX線画像データセットに関連付けされた座標系が全部既知であるならば十分である。しかし、これらの座標系が全部既知でない場合には、画像レジストレーション法によるのと同じ求めが行なわれるとよい。このようにして、同一の幾何学的位置に割り当てられたデータのみが実際に互いに処理されることが保証される。従って、位置測定は格別に高い精度で行なうことができる。
【0022】
本発明によるX線撮像装置はX線管とX線検出器と画像処理ユニットとを含む。更に、本発明によるX線撮像装置はインターフェースを含み、このインターフェースを介して画像処理ユニットが、信号交換に関して、画像データセットを取得するためのカテーテルに接続可能である。この場合に画像データセットは血管の内部空間に関係する。結局、画像処理ユニットは本発明による方法を実施すべく構成されている。特に、個別に撮影が行なわれる2つの自立した装置、即ちX線装置と血管内超音波装置とが設けられ、これらの装置が、そのインターフェースおよび特別構成の画像処理ユニットと組み合わされて、本発明によるX線撮像装置を成している。それぞれの部分システムの個別画像データを組み合わせることによって相乗効果が得られ、格別に有意義な複合画像データセットが提供される。
【0023】
本発明による方法に関して述べた好ましい実施形態およびそれらの利点は、本発明によるX線撮像装置に対しても相応に当てはまる。
【0024】
以下において実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は本発明によるX線撮像装置の一実施例による患者の心臓検査の概略図を示す。
【図2】図2は本発明による方法での画像処理ステップの概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1および図2において同じ要素もしくは機能的に同じ要素には同じ符号が付されている。本発明の実施例が概略的に示されている図面を参照して本発明を更に説明する。
【0027】
図1はX線管12とX線検出器14とを有するX線撮像装置10を示す。X線管12はX線検出器14に向かってX線を送出し、このようにして検出領域E内の2次元画像が取得される。これらの2次元画像はコンピュータ16に供給される。X線は、本実施例では、検出領域E内に横たわっている患者30の心臓28の冠状血管26の検査に使われる。X線画像34において、造影剤を導入されている冠状血管26の輪郭および幾何学的形状は良好に可視化することができる。図示のモノプレンX線撮像装置の代わりにバイプレーン装置を使用してもよい。
【0028】
X線システムに追加して血管内超音波用のIVUS装置20も設けられており、このIVUS装置20はカテーテル22を含み、そのカテーテル22により超音波ヘッド24が冠状血管26の中に導入され、冠状血管26内で移動される。超音波ヘッド24は超音波送出器ならびに超音波検出器を含み、これらにより、冠状血管26の血管内壁を描出する画像データが取得される。これらの画像データはインターフェース18を介してコンピュータ16にさらなる処理のために導かれ、その結果これらの画像データは超音波画像36としてX線画像34と一緒にスクリーン32上に表示可能となる。
【0029】
X線撮像装置10により、ストロボスコープのように複数のX線画像を順次に相次いで撮影して重ね合わせることにより、詳細度およびコントラストに富んだ合成X線画像34を生成することもできる。これらの複数のX線画像は、検出領域E内の冠状血管26が同一の幾何学的位置にある時点で取得されなければならない。これを保証するために、心臓28の心拍動を検出するECG(心電図)装置42が設けられている。このようにしてX線画像を常に同一の心時相で撮影することによって、X線画像34の作成時に冠状血管26の動きをできる限り取り除くことが保証される。
【0030】
図2は、画像処理方法において超音波ヘッド24をどのよう位置測定してX線画像34に関連付けるかを概略的に示している。第1ステップにおいては、冠状血管26が造影剤を含んでいる状態で、上述の如くX線撮像装置10により一連のX線画像がECG同期下で撮影される。これらの個々のX線画像の重ね合わせは、造影剤に基づいて冠状血管26の幾何学的形状および延びが明瞭に現れるX線画像データセットR1を提供する。この場合に超音波ヘッド24は既に患者30の身体内に導入されているが、しかしまだ検出領域E内にはない。
【0031】
第2ステップでは、造影剤の投与を終了された冠状血管26では、この冠状血管26を通る連続的な血流のために造影剤はもはや冠状血管26中に存在していない。再びX線撮像装置10により一連のX線画像がECG同期下で撮影され、これらのX線画像は重ね合わされて1つのX線画像データセットR2を形成する。造影剤がないために、X線画像データセットR2中には冠状血管26の輪郭が殆ど現われず、このことが図2には破線によって示されている。これに対して患者30の心臓ペースメーカの部品38ならびに手術縫合部40がX線画像データセットR2中に明瞭に現れる。しかし代替として、このX線画像データセットR2の取得時に超音波ヘッド24が既に検出領域E内に存在してもよい(ただし、静止状態もしくは不動状態である)。X線画像データセットR2の取得は少なくとも1つの呼吸周期もしくは心拍動周期の時間にわたっている。
【0032】
第3ステップでは超音波ヘッド24が冠状血管26内の出発位置に配置される。超音波ヘッド24がカテーテル22を介して引き戻しによって冠状血管26内の出発位置から移動される間、X線撮像装置10により(再び造影剤なしに)透視が行なわれ、つまり一連のX線画像データセットR3a〜R3dが取得される。これらのX線画像データセットR3a,R4b,R3c,R3dのそれぞれにおいて超音波ヘッド24は冠状血管26内の異なる位置を取る。心臓ペースメーカの部品38もしくは縫合部40は、静止もしくは位置固定の状態にあり、従ってX線画像データセットR3a〜R3dにおいてそれぞれ同じ幾何学的位置に現われる。
【0033】
コンピュータ16内で進行するセグメンテーションアルゴリズムにおいて部品38もしくは縫合部40が誤って超音波ヘッド24として識別されることを回避するために、今や第4ステップでは(コンピュータ16内に記憶された)X線画像データセットR2をX線画像データセットR3a〜R3dのそれぞれから引算することによって、付属の差画像データセットSa,Sb,Sc,Sdが生じる。概略的に図2に示されているように、これらの差画像データセットSa〜Sdにおいて部品38もしくは縫合部40に属するデータが消去され、今や超音波ヘッド24しか現われない。ここで行なわれるセグメンテーション法では超音波ヘッド24を明確に識別して、それの位置を座標x’,y’にて測定することができる。
【0034】
(図2に丸印で囲まれたマイナス符号によって表された)引算を行なう前に、低域通過フィルタ(例えば、ガウスフィルタ)によりX線画像データセットR2,R3a〜R3dをフィルタ処理し、それによってノイズによる不都合な影響を最小化するとよい。信頼性のある引算を保証するために、X線画像データセットR2,R3a〜R3dが同一の心時相で取得され、このことがECG装置42によって保証されている。セグメンテーション法では、一般に超音波ヘッド24に割り当てられる局所的な強度最大値も検出することができる。これのために閾値基準が定められるとよい。
【0035】
この実施例では、座標x,yを有するX線画像データセットR1の座標系と、座標x’,y’を有する差画像データセットSa〜Sdの座標系との間の関係が既知である。従って、冠状血管26内の超音波ヘッド24の位置は一義的に測定することができる。このようにして、冠状血管26内の超音波ヘッド24が見える画像Xa〜Xdを提供することができる。この追加の画像処理ステップがプラス符号によって表されている。これらの画像Xa〜Xdを、今やX線画像34の代わりにスクリーン32上に表示することができる。付加的に、今や冠状血管26内の超音波ヘッド24のその都度の位置に従って、この位置に属する冠状血管内壁表示を、スクリーン32の右側において超音波画像36内に示すことができる。この表示様式は非常に直観的であり、治療担当医にとって容易に理解できるものである。
【0036】
従来においては、ECG装置42により心臓のポンプ作用に起因する運動だけが利用された。しかし付加的に呼吸に起因した冠状血管の運動を利用することもできる。このために例えば毎秒15個の画像および画像当たりの比較的少ないX線量を有する第2のX線画像データセットR2が取得される。この画像シリーズには呼吸運動および心臓運動の重なり合いによって起きる運動がくっきり現われる。心拍動運動はECG装置42によって取得されるデータにより算出することができる。その結果、呼吸運動が推定可能である。画像シリーズの個別画像の自動比較によって、呼吸運動を再現する運動を有する画像中心(COM=Center of Mass、質量中心)を求めることができる。
【0037】
X線画像データセットR3a〜R3dも同じ条件下で取得されるので、X線画像データセットR2とX線画像データセットR3a〜R3dとの間の相互相関を決定することにより、その都度差画像データセットを求めるための基礎をなす画像データセット対を選び出すことができる。このようにして差画像データセットSa〜Sdにおいては呼吸運動が消去されている。
【0038】
更に、差画像データセットSa〜Sdにおける画像ノイズを最小化するために、X線画像データセットR2,R3a〜R3dにおける静止状態の画像情報および場合によっては余剰の画像情報を利用してもよい。この場合に、例えば2009年3月出版の刊行物“Britisch Journal of Radiology”(第82巻)の第235〜242頁に掲載のYiannis Kyriakouほか共著の論文“non-gated dual-energy radiography”の段落“Motion-free merging”に記載されているような従来技術から公知の画像処理方法を適用することができる。
【符号の説明】
【0039】
10 X線撮像装置
12 X線管
14 X線検出器
16 コンピュータ
18 インターフェース
20 IVUS装置
22 カテーテル
24 超音波ヘッド
26 冠状血管
28 心臓
30 患者
32 スクリーン
34 X線画像
36 超音波画像
38 心臓ペースメーカ
40 縫合部
42 ECG(心電図)装置
E 検出領域
R1 X線画像データセット
R2 X線画像データセット
R3a〜R3d X線画像データセット
Sa〜Sd 差画像データセット
Xa〜Xd 画像
x,y 座標
x’,y’ 座標

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線を生体組織よりも強く吸収する可動対象(24)が生体(28,30)の血管(26)内で移動する過程においてその可動対象(24)の位置を測定する方法であって、
a)可動対象(24)の移動前又は移動後に、造影剤を第1の濃度で含んでいる血管(26)を少なくとも部分的に含む生体(28,30)の少なくとも1つの部位に関する第1のX線画像データセット(R1)が取得されるステップと、
b)可動対象(24)の移動前又は移動後に、血管(26)が造影剤を前記第1の濃度よりも低い濃度で含んでいるか又は全く含んでいない状態で、前記部位に関するデータを含む第2のX線画像データセット(R2)が取得されるステップと、
c)可動対象(24)の移動中に、血管(26)が造影剤を前記低い濃度で含んでいるか又は全く含んでいない状態で、前記部位に関するデータを含む少なくとも1つの第3のX線画像データセット(R3a,R3b,R3c,R3d)が取得されるステップと、
d)第2のX線画像データセット(R2)および第3のX線画像データセット(R3a,R3b,R3c,R3d)の互いに空間的に割り当て可能なデータ値が互いに引算されて、第2のX線画像データセット(R2)および第3のX線画像データセット(R3a,R3b,R3c,R3d)からなる差画像データセット(Sa,Sb,Sc,Sd)が算出されるステップと、
e)差画像データセット(Sa,Sb,Sc,Sd)に関してセグメンテーション法を実行して、可動対象(24)に割り当て可能であるデータが識別されるステップと、
f)予め与え得る幾何学的な割当規則を求めることによって、差画像データセット(Sa,Sb,Sc,Sd)のデータに第1のX線画像データセット(R1)のデータが割り当てられるステップと、
g)第1のX線画像データセット(R1)と、識別されて可動対象(24)に割り当て可能なデータとに基づいて、血管(26)内での可動対象(24)の位置が測定されるステップと、
を有する可動対象の位置測定方法。
【請求項2】
ステップc)が時間的にステップa),b)の後に続き、ステップc)において時間的に相次いで複数の第3のX線画像データセット(R3a,R3b,R3c,R3d)が取得され、複数の第3のX線画像データセット(R3a,R3b,R3c,R3d)のそれぞれについてステップd)〜g)に従って可動対象(24)の位置が測定されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
第3のX線画像データセット(R3a,R3b,R3c,R3d)の1つを少なくとも取得中に、血管(26)の内部空間に関する1つの他の画像データセット(36)が、血管(26)内にある可動対象(24)により取得されることを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
他の画像データセット(36)が、血管(26)内での位置を測定された可動対象(24)の位置に割り当てられることを特徴とする請求項3記載の方法。
【請求項5】
可動対象(24)がカテーテル(24)を含み、かつ他の画像データセット(36)が血管内超音波法により取得されることを特徴とする請求項3又は4記載の方法。
【請求項6】
血管(26)がほぼ周期的に運動し、その周期的な運動の同じ位相位置で第1のX線画像データセット(R1)および第2のX線画像データセット(R2)、および/又は第1のX線画像データセット(R1)および第3のX線画像データセット(R3a,R3b,R3c,R3d)、および/又は第2のX線画像データセット(R2)および第3のX線画像データセット(R3a,R3b,R3c,R3d)が取得されることを特徴とする請求項1から5の1つに記載の方法。
【請求項7】
周期的な運動が測定ユニット(42)、好ましくは心電図検出装置(42)により検出され、第1のX線画像データセット(R1)および/又は第2のX線画像データセット(R2)および/又は第3X線画像データセット(R3a,R3b,R3c,R3d)の取得時点が前記測定ユニット(42)から供給されるデータに基づいて決定されることを特徴とする請求項6記載の方法。
【請求項8】
血管(26)が第1および第2の周期的な運動の重なりに応じて運動し、第1の周期的な運動が測定ユニット(42)により検出され、第2の周期的な運動が、時間的に相次いで複数の第1のX線画像データセット(R1)および/又は第2のX線画像データセット(R2)および/又は第3のX線画像データセット(R3a,R3b,R3c,R3d)を取得することによって検出され、ステップd)におけるデータ値の空間的な割り当て、および/又はステップf)において予め与え得る幾何学的な割当規則を求めることは、検出された第1および第2の空間的な運動に依存して行なわれることを特徴とする請求項6又は7記載の方法。
【請求項9】
ステップf)において割当規則を求めることは、第1のX線画像データセット(R1)と、第2のX線画像データセット(R2)および/又は第3のX線画像データセット(R3a,R3b,R3c,R3d)および/又は差画像データセット(Sa,Sb,Sc,Sd)とのレジストレーションにより行なわれることを特徴とする請求項1から8の1つに記載の方法。
【請求項10】
ステップf)において割当規則を求めることは、第1のX線画像データセット(R1)に割り当てられている座標系(x,y)と、第2のX線画像データセット(R2)および/又は第3のX線画像データセット(R3a,R3b,R3c,R3d)および/又は差画像データセット(Sa,Sb,Sc,Sd)に割り当てられている座標系(x’,y’)との間の座標変換により行なわれることを特徴とする請求項1から9の1つに記載の方法。
【請求項11】
請求項1から10の1つに記載の方法を実施するために、X線管(12)とX線検出器(14)と画像処理ユニット(16)とを有するX線撮像装置(10)において、インターフェース(18)を備え、このインターフェース(18)を介して画像処理ユニット(16)が、信号交換に関して、血管(26)の内部空間に関する画像データセットを取得するためのカテーテル(20,22)に接続可能であることを特徴とするX線撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−583(P2013−583A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−129813(P2012−129813)
【出願日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【出願人】(390039413)シーメンス アクチエンゲゼルシヤフト (2,104)
【氏名又は名称原語表記】Siemens Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Wittelsbacherplatz 2, D−80333 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】