説明

可動椅子

【課題】通常の観客が他の椅子と同様に利用でき、車椅子との間での移乗時は椅子の利用者が容易に移乗でき、そして車椅子から移乗した当該椅子の利用者の着座中もその利用者を椅子本体で安全に保持できる可動椅子をもたらすことにある。
【課題手段】少なくとも座5cおよび背5bを有する椅子本体5と、床3に固定されて、前記椅子本体5を隣の椅子2から離隔した移乗位置と隣の椅子に隣接した使用位置との間で移動可能に支持する椅子本体移動支持部6と、その椅子本体移動支持部6に設けられて、椅子本体5を隣の椅子2と同じ方向へ向く前向きとその前向きから回動した移乗用向きとの間で所定鉛直軸線AX周りに回動可能に支持する椅子本体回動支持部7と、を具えてなる可動椅子1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、劇場などで用いられる椅子に関し、特には車椅子との間での移乗が容易な可動椅子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
劇場や競技場などでは通常、椅子を多数横並びに固定した列が前後に多数設けてあり、それらの椅子の列の間を左右に延びる通路はさほど広くとられてない。このため、それらの椅子と車椅子との間での移乗のためにそれらの椅子の前側から車椅子を寄せることは実際上極めて困難である。
【0003】
そこで従来は、特に、場内の最前部や最後部などに椅子を設けず車椅子がそのまま入れる車椅子用スペースを設け、車椅子の利用者がその車椅子用スペースで車椅子に座ったまま観覧できるようにしていた(例えば移動観覧席の最前部に設けられた車椅子用スペースについては非特許文献1参照)。
【非特許文献1】株式会社コトブキが2001年6月1日に発行したカタログ「ロールバックシステムプロダクツ(Rollback System Products)」No.171中、第39頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の車椅子用スペースを設ける方法では、車椅子の利用者は車椅子に座ったままでの観覧を強いられるため、座り心地が必ずしも快適とはいえず、しかも着座中不安定になり易いという問題がある。また、車椅子の利用者がいない場合に、その車椅子用スペースには通常の椅子がないため、そのままでは通常の観客が利用できず、そのスペースにパイプ椅子などの仮設の椅子を配置しても、他の通常の椅子程には快適に観覧できないという問題もある。
【0005】
それゆえ本発明は、車椅子との間で容易に移乗し得るとともに、車椅子から移乗した利用者が着座中他の通常の椅子と同様の快適な座り心地で、しかも安定して観覧でき、また車椅子の利用者がいない場合も、通常の観客が他の通常の椅子と同様に快適に利用できる可動椅子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を有利に解決するためになされたものであり、本発明の可動椅子は、少なくとも座および背を有する椅子本体と、床に固定されて、前記椅子本体を隣の椅子から離隔した移乗位置と隣の椅子に隣接した使用位置との間で移動可能に支持する椅子本体移動支持手段と、前記椅子本体移動支持手段に設けられて、前記椅子本体を隣の椅子と同じ方向へ向く前向きとその前向きから回動した移乗用向きとの間で所定鉛直軸線周りに回動可能に支持する椅子本体回動支持手段と、を具えてなるものである。
【発明の効果】
【0007】
かかる可動椅子にあっては、椅子の利用者が車椅子から移乗する際は、椅子本体移動支持手段が移動可能に支持する椅子本体を人手でまたは自動的に、隣の椅子から離隔した移乗位置に移動させて、回動時の隣の椅子との干渉を回避し、次いで椅子本体回動支持手段が回動可能に支持する椅子本体を人手でまたは自動的に、前向きから移乗用向きまで所定鉛直軸線周りに回動させて車椅子に向ける。そして車椅子から椅子本体に利用者が移乗したら、上記とは逆の手順で、椅子本体を隣の椅子と同じ方向へ向く前向きまで回動させ、次いでその椅子本体を隣の椅子に隣接した使用位置に移動させる。また、椅子の利用者が椅子本体から車椅子へ移乗する際は、上記と同様にして、椅子本体を移乗位置に移動させるとともに回動させて車椅子に向け、椅子本体から車椅子に利用者が移乗したら、椅子本体を隣の椅子と同じ方向へ向く前向きまで回動させ、次いでその椅子本体を隣の椅子に隣接した使用位置に移動させる。
【0008】
従って、本発明の可動椅子によれば、車椅子との間での移乗時は椅子本体を車椅子に向けられるので、椅子の利用者が容易に移乗することができ、そして車椅子から移乗した利用者の着座中は、床に固定された椅子本体移動支持手段およびそこに設けられた椅子本体回動支持手段が椅子本体を強固に支持するので、少なくとも座および背を有する椅子本体で椅子の利用者に着座中他の通常の椅子と同様の快適な座り心地を提供し、しかもその椅子本体を安定させて、椅子の利用者に障害がある場合などでもその利用者を椅子本体で安全に保持することができ、また車椅子の利用者がいない通常時は、椅子本体が隣の椅子に隣接した使用位置に位置しているので、通常の観客が他の通常の椅子と同様に快適に利用することができる。
【0009】
なお、本発明の可動椅子においては、前記椅子本体移動支持手段は、前記椅子本体を前記移乗位置と前記使用位置との間で自動的に水平移動および垂直移動させるものでも良い。このようにすれば、床が傾斜していたり階段状になっていたりして、椅子の後方の床が椅子の前方の床より高くなっている場合でも、その後方の床上から寄せた車椅子と椅子本体との高さを合わせ得て、椅子の利用者がその車椅子と椅子本体との間で容易に移乗することができる。
【0010】
また、本発明の可動椅子においては、前記椅子本体移動支持手段は、前記椅子本体を前記移乗位置と前記使用位置との間で水平移動させつつ垂直移動させる平行リンク機構を有していても良い。このようにすれば、簡易な構成で容易に、椅子本体を移乗位置と使用位置との間で自動的に水平移動および垂直移動させることができる。
【0011】
さらに本発明の可動椅子においては、前記椅子本体移動支持手段は、複数本横並びに配置されて前記平行リンク機構を同時に駆動する油圧シリンダを有していても良い。このようにすれば、平行リンク機構を駆動する油圧シリンダを、一本ずつについては細くし得るとともに、油圧シリンダに油圧を供給する電動ポンプなどの油圧源と分けて配置できるので、動力源となる油圧シリンダおよび油圧源を椅子本体の下の少ないスペースに容易に収納することができる。
【0012】
さらに本発明の可動椅子においては、前記椅子本体回動支持手段は、前記椅子本体の回動位置を前記前向きと前記移乗用向きとに対し選択的に、解除可能にロックする回動位置ロック手段を有していても良い。このようにすれば、車椅子との間での移乗時は椅子本体を車椅子に向けてロックできるので、移乗をより容易にすることができ、また着座時は椅子本体を隣の椅子と同じ前方に向けてロックできるので、椅子本体をより安定させることができる。
【0013】
さらに本発明の可動椅子においては、前記椅子本体は、その椅子本体を前記使用位置で前向きに位置する状態で前記隣の椅子に分離可能に連結する連結部材を具えていても良い。このようにすれば、椅子本体が使用位置で前向きに位置する際に、椅子本体を隣の椅子に連結できるので、椅子本体をより安定させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を実施例によって、図面に基づき詳細に説明する。ここに、図1は、本発明の可動椅子の一実施例を椅子本体が使用位置で前向きとなった状態で隣の椅子とともに示す正面図、図2は、上記実施例の可動椅子を椅子本体が使用位置で前向きとなった状態で隣の椅子とともに示す平面図、図3は、上記実施例の可動椅子を椅子本体が使用位置で前向きとなった状態で示す側面図、図4は、上記実施例の可動椅子を椅子本体が移乗位置で前向きとなった状態で隣の椅子とともに示す正面図、図5は、上記実施例の可動椅子を椅子本体が移乗位置で前向きとなった状態で隣の椅子とともに示す平面図、図6は、上記実施例の可動椅子を椅子本体が移乗位置で前向きとなった状態で隣の椅子とともに示す側面図、図7は、上記実施例の可動椅子を椅子本体が移乗位置で第1の移乗用向き(斜め後ろ向き)となった状態で隣の椅子とともに示す平面図、そして図8は、上記実施例の可動椅子を椅子本体が移乗位置で第2の移乗用向き(真後ろ向き)となった状態で隣の椅子とともに示す平面図である。
【0015】
また、図9は、上記実施例の可動椅子の椅子本体移動支持部を椅子本体を省略して示す平面図、図10は、上記実施例の可動椅子の椅子本体回動支持部を椅子本体および椅子本体移動支持部を省略して示す断面図、図11(a),(b),(c)および(d)は、上記実施例の可動椅子の椅子本体回動支持部を示す、図10中のA−A線、B−B線、C−C線およびD−D線にそれぞれ沿う断面図、図12は、上記実施例の可動椅子の回動位置ロック手部を椅子本体および椅子本体移動支持部を省略して示す平面図、そして図13は、上記実施例の可動椅子を椅子本体が移乗位置で第1または第2の移乗用向きとなった状態で示す側面図であり、図中、符号1は上記実施例の可動椅子、2は連結椅子型の隣の椅子、3はその可動椅子1が設けられた床、4はその可動椅子1の後ろの床をそれぞれ示す。
【0016】
この実施例の可動椅子1は、例えば劇場内に観覧席として設置し得る座起立型のもので、図1〜図3に示すように、椅子本体5と、床3のピット3a内に埋設固定されてその椅子本体5を支持するとともに後述の如く自動的に移動させる、椅子本体移動支持手段としての椅子本体移動支持部6と、その椅子本体移動支持部6に設けられて、椅子本体5を隣の椅子2と同じ方向へ向く前向き(図2参照)とその前向きから回動した第1および第2の移乗用向き(図7,8参照)との間で所定鉛直軸線周りに回動可能に支持する、椅子本体回動支持手段としての椅子本体回動支持部7と、その椅子本体回動支持部7に設けられて、椅子本体5の回動位置を上記前向きの位置と上記第1および第2の移乗用向きの位置とに解除可能に選択的にロックする、回動位置ロック手段としての回動位置ロック部8とを具えている。
【0017】
ここで、椅子本体5は、各々鋼製の支持板を内蔵した左右の側板5aと、それらの側板5aに両側部を固定支持された背5bと、それらの側板5aに後部を椅子の横方向へ延在する水平軸線周りに回動可能に支持されるとともに図示しないスプリングで起立方向へ常時回動附勢された座5cと、それらの側板5aの上端部にそれぞれ固定された肘5dとを有していて、それら側板5aと背5bと座5cと肘5dとは、座起立型の連結椅子である隣の椅子2(図では一脚のみ示す)と実質的に同一のデザインとされており、左右の側板5aの下端部は、椅子本体回動支持部7の回動支持板7aに固定支持されている。
【0018】
なお、隣の連結椅子2の、図1では左側(椅子本体5に近い側)の側部には、図4に示すように、側板の代わりにそれと実質的に同じ支持機能を奏する鋼板2aが設けられ、その一方、椅子本体5の、図1では右側(隣の椅子2に近い側)の側板5aには、連結部材としてのフック5eが設けられており、椅子本体5が図1〜図3に示す使用位置にあるときは、その側板5aは、鋼板2aと隣接し、フック5eが鋼板2aの上端部と掛合することで鋼板2aと分離可能に連結されて隣の連結椅子2と共用の側板となる。
【0019】
また、椅子本体移動支持部6は、図1,図4および図9に示すように、床3のピット3aの底面に水平に固定された固定基板6aと、その固定基板6aの上方に水平に配置された移動基板6bと、各々下端部を固定基板6aに枢支されるとともに上端部を移動基板6bのブラケット6cに枢支されて互いに平行な二つの四節平行リンク機構を構成する四本のリンク部材6dと、二つの四節平行リンク機構の各々の二本のリンク部材6dを連結する二本の略S字状の連結部材6eと、それらの連結部材6e同士を連結するロッド6fと、二つの四節平行リンク機構の図9では左側の二本のリンク部材6d同士を一体に結合する結合部材6gと、リンク部材6dの揺動により結合部材6gに当接してリンク部材6dの揺動を一定限度に規制する弾性部材6hと、ブラケット6cに当接してその下降を一定限度に規制する高さ調節可能なストッパボルト6iとを有している。
【0020】
これにより、移動基板6bは、上記二つの四節平行リンク機構の四本のリンク部材6dの、固定基板6aおよび移動基板6bに対する揺動によって、図1に示す床3の床面と一致するようにストッパボルト6iによって規定される下降位置と、その下降位置の斜め上方の、弾性部材6hによって規定される図4に示す上昇位置との間で斜め上下方向へ、水平移動しつつ昇降移動することができ、かかる移動基板6bの移動によって椅子本体5は、図1〜図3に示す使用位置と、図4〜図6に示す移乗位置との間で、水平移動しつつ昇降移動することができる。
【0021】
椅子本体移動支持部6はさらに、各々シリンダロッド先端部をロッド6fにコ字状の連結部材6jを介して揺動可能に連結されるとともにシリンダ後端部を固定基板6aに枢支されて互いに横並びに位置する四本の油圧シリンダ6kと、それらの油圧シリンダ6kに対する作動油の同時圧送と同時排出とを行なう油タンク付き双方向型電動ポンプ6lと、油圧シリンダ6kと電動ポンプ6lとの間の油圧回路に介装されて停電時や電動ポンプ6lの故障時などに油圧シリンダ6k内の作動油をリザーバタンク6m内に逃がして上記使用位置への椅子本体5の自重での降下を生じさせる非常用ドレンボルト6nとを有しており、電動ポンプ6lには、リミットスイッチ6oと、キーを差し込んで捻るとオンになって電源回路が接続されるキースイッチ6pと、昇降操作スイッチを持つリモートコントローラ6qとからの制御用コード6rおよび、商用電源を供給される電源コード6sが接続されている。
【0022】
そしてリミットスイッチ6oは、椅子本体5が前向きの回動位置にあると、上記回動支持板7aの下面に突設されたブラケット6tで作動レバーを押されてオンになって、椅子本体5がその前向きの回動位置にあることを検出し、椅子本体5を図5に示す前向きの回動位置から同図で時計方向に回動させると、ブラケット6tから離れてオフになるように配置されている。これにより、キースイッチ6pをオンにしてリモートコントローラ6qの昇降操作スイッチを操作すると、椅子本体5が前向きに位置している場合のみリミットスイッチ6oがオンになって電動ポンプ6lが作動し、椅子本体5は上記使用位置と上記移乗位置との間で自動的に、水平移動しつつ昇降移動する。従って、リミットスイッチ6oは、椅子本体5が前向き以外の向きに回動している場合には椅子本体5の水平移動および昇降移動を阻止するのでセイフティーロックとして機能し、椅子本体5を後述する第1または第2の移乗用向に回動させて椅子の利用者が車椅子と椅子本体5との間で移乗を行なっている間に椅子本体5が予期せず水平移動および昇降移動するのを防止することができる。
【0023】
椅子本体回動支持部7は、図10および図11に示すように、上記回動支持板7aと、下端部に設けられた角フランジ7bをここでは図示しない移動基板6b上に固定された外スリーブ7cと、上端部に螺着された円盤状部7dを外スリーブ7c内に螺着されてボルトで固定されるとともに中間部を外スリーブ7c内にボルトで固定されて移動基板6bの孔内に挿通された底付きの内スリーブ7eと、その内スリーブ7eの底に設けられたスラスト支持ボール7fと、内スリーブ7eの上部および下部に半径方向内方へ向けて周方向に等間隔に三本ずつ設けられたボール入り止めネジ7gと、円盤状部7dの中心孔から内スリーブ7e内に挿通された支持軸7hとを有している。
【0024】
この支持軸7hは、内スリーブ7eの上部および下部の上記ボール入り止めネジ7gの先端部のボールで水平方向に関して位置決めされ、かつスラスト支持ボール7fで鉛直方向に関して位置決めされて鉛直軸線AX周りに回動可能に支持されるとともに、上端部に回動支持板7aを補強リブ7iを介して溶接固定され、これにより椅子本体5は、椅子本体回動支持部7を介して鉛直軸線AX周りに回動可能に椅子本体移動支持部6の回動支持板7aに支持されている。なお、支持軸7hは、その外周面に設けられた溝7jと掛合するボルト7kによって内スリーブ7eに対し抜け止めされている。
【0025】
回動位置ロック部8は、図1,図4および図10に示すように、椅子本体回動支持部7の円盤状部7d上に固定された固定板8aを有し、この固定板8aの外周縁には、図12に示すように、各々切り欠き状をなす第1の掛合部8bと第2の掛合部8cと第3の掛合部8dとが形成されている。また回動位置ロック部8は、回動支持板7aの下面の、椅子本体5の着座者から見て例えば右下の一箇所に設けられた回転ロックピン8e(図6では省略する)を有しており、この回転ロックピン8eは、鉛直軸線AXを中心とした半径方向へ固定板8aに対し進退移動可能に回動支持板7aに支持されるとともに、鉛直軸線AXと反対の側へ向く端部にノブ8fを持ち、図示しないスプリングで固定板8aへ向けて常時附勢されている。なお、図12は、回転ロックピン8eが第1の掛合部8bと掛合した状態の回動支持板7aを実線で示すとともに、回転ロックピン8eが第2,第3の掛合部8c,8dとそれぞれ掛合した状態の回動支持板7aを仮想線で示している。
【0026】
これにより、図5に示すように、回転ロックピン8eを第1の掛合部8bと掛合させた状態では、椅子本体5が前向きの回動位置にロックされ、回転ロックピン8eを手で引いてその掛合を外した後に椅子本体5を図5で時計方向に回動させて斜め後方へ向け、回転ロックピン8eを手放して第2の掛合部8cと掛合させると、図7に示すように、椅子本体5が斜め後ろ向きの回動位置である第1の移乗用向きにロックされ、さらに再度回転ロックピン8eを手で引いてその掛合を外した後に椅子本体5を図5で時計方向に回動させて後方へ向け、回転ロックピン8eを手放して第3の掛合部8dと掛合させると、図8に示すように、椅子本体5が真後ろ向きの回動位置である第2の移乗用向きにロックされ、その回動位置から再度回転ロックピン8eを手で引いてその掛合を外した後に椅子本体5を図5で反時計方向に回動させて前方へ向け、回転ロックピン8eを手放して第1の掛合部8bと掛合させると、椅子本体5が前向きの回動位置にロックされる。
【0027】
この実施例の可動椅子1はさらに、図1〜図3に示すように、移動基板6bと外スリーブ7cの大部分とリミットスイッチ6oの本体とを覆うようにその移動基板6bに固定されて上記キースイッチ6pとリモートコントローラ6q用のコネクタ6uとを図1では左側の側面に取付けられた蓋状のカバー9と、そのカバー9の側面のキースイッチ6pとコネクタ6uとの下にヒンジで一端部を揺動可能に支持されるとともに他端部を床3の床面と同一高さの後述する床パネル15に摺動可能に支持されて床3のピット3aの開口部を覆う塞ぎパネル10と、そのカバー9の、図1では右側の側面に一端部を結合されるとともに、ピット3a内に枢支されたローラ11に他端部側を巻き取られた塞ぎ布地12とを具えている。
【0028】
これにより、図4に示すように移動基板6bの移動に伴ってカバー9が斜め上方へ移動すると、塞ぎ布地12がローラ11から繰り出されて床3のピット3aの開口部を覆い、その際にローラ11の回転でそれと一体のプーリに巻き取られたワイヤ13でスプリング14が弾性的に引き伸ばされ、その一方、図1に示すように移動基板6bの移動に伴ってカバー9が斜め下方へ移動すると、スプリング14の弾性力でワイヤ13が引かれてプーリひいてはローラ11を上記と逆に回転させて塞ぎ布地12をローラ11に巻き取らせ、塞ぎ布地12でピット3aの開口部を覆った状態を維持する。なお、ピット3aの開口部のうち、カバー9と塞ぎパネル10と塞ぎ布地12とで覆われない部分は、取り外し可能な床パネル15で覆われており、これにより、椅子本体5および隣の椅子2の前の床3上での、通常の観客の安全な歩行移動が可能となっている。
【0029】
かかる実施例の可動椅子1にあっては、椅子の利用者が車椅子から移乗する際は、椅子本体移動支持部6が移動可能に支持する椅子本体5を、図4〜図6に示すように、リモートコントローラ6qでの操作に従いその椅子本体移動支持部6が、油圧シリンダ6kの作動による移動基板6bの斜め上方への移動によって自動的に隣の椅子2から離隔した移乗位置に移動させて、椅子本体5の回動時の隣の椅子2との干渉を回避し、次いで椅子本体回動支持部7が回動可能に支持する椅子本体5を人手で、回転ロックピン8eを引いたまま前向きから図7に示す第1の移乗用向きまたは図8に示す第2の移乗用向きまで鉛直軸線AX周りに回動させて、図13に示すように車椅子Wに向け、回転ロックピン8eを手放してその向きでロックする。そして車椅子Wから椅子本体5に利用者Uが移乗したら、上記とは逆の手順で、回転ロックピン8eを引いたまま人手で椅子本体5を隣の椅子2と同じ方向へ向く前向きまで回動させ、回転ロックピン8eを手放してその向きでロックする。次いでリモートコントローラ6qでの操作に従い椅子本体移動支持部6が、油圧シリンダ6kの作動による移動基板6bの斜め下方への移動によって自動的にその椅子本体5を隣の椅子2に隣接した図1〜図3に示す使用位置に移動させる。また、椅子の利用者Uが椅子本体5から車椅子Wへ移乗する際は、上記と同様にして、椅子本体5を移乗位置に移動させるとともに回動させて車椅子Wに向け、椅子本体5から車椅子Wに利用者Uが移乗したら、椅子本体5を隣の椅子2と同じ方向へ向く前向きまで回動させ、次いでその椅子本体5を隣の椅子2に隣接した使用位置に移動させる。
【0030】
従って、この実施例の可動椅子1によれば、車椅子Wとの間での移乗時は椅子本体5を車椅子Wに向けられるので、椅子1の利用者Uが容易に移乗することができ、そして車椅子Wから移乗した利用者Uの着座中は、床3に固定された椅子本体移動支持部6およびそこに設けられた椅子本体回動支持部7が椅子本体5を強固に支持するので、座5cと背5bと肘5dとを有する椅子本体5で椅子1の利用者Uに着座中他の通常の椅子と同様の快適な座り心地を提供し、しかもその椅子本体5を安定させて、椅子1の利用者Uに障害がある場合などでもその利用者Uを椅子本体5で安全に保持することができ、また車椅子Wの利用者がいない通常時は、椅子本体5が隣の椅子2に隣接した使用位置に位置しているので、通常の観客が他の通常の椅子と同様に快適に利用することができる。
【0031】
しかもこの実施例の可動椅子1によれば、椅子本体移動支持部6が四節平行リンク機構を油圧シリンダ6kで揺動させることで、椅子本体5を移乗位置と使用位置との間で自動的に水平移動および垂直移動させるので、床が傾斜していたり階段状になっていたりして、椅子の後方の床4が椅子の前方の床3より高くなっている場合でも、図13に示すように、その後方の床4上から寄せた車椅子Wと椅子本体5との高さを合わせ得て、椅子の利用者Uがその車椅子Wと椅子本体5との間で容易に移乗することができる。
【0032】
また、この実施例の可動椅子1によれば、椅子本体移動支持部6が、椅子本体5を移乗位置と使用位置との間で水平移動させつつ垂直移動させる四節平行リンク機構を有しているので、簡易な構成で容易に、椅子本体5を移乗位置と使用位置との間で自動的に水平移動および垂直移動させることができる。
【0033】
さらにこの実施例の可動椅子1によれば、椅子本体移動支持部6が、複数本横並びに配置されて四節平行リンク機構を同時に駆動する四本の油圧シリンダ6kを有していることから、平行リンク機構を駆動する油圧シリンダ6kを、一本ずつについては細くし得るとともに、油圧シリンダ6kに油圧を供給する電動ポンプ6lと分けて配置できるので、動力源となる油圧シリンダ6kおよび電動ポンプ6lを椅子本体5の下の少ないスペースに容易に収納することができる。
【0034】
さらにこの実施例の可動椅子1によれば、椅子本体回動支持部7が、椅子本体5の回動位置を前向きと第1および第2の移乗用向きとに解除可能に選択的にロックする回動位置ロック部8を有していることから、車椅子Wとの間での移乗時は椅子本体5を車椅子Wに向けてロックできるので、移乗をより容易にすることができ、また着座時は椅子本体5を隣の椅子2と同じ前方に向けてロックできるので、椅子本体5をより安定させることができる。
【0035】
さらにこの実施例の可動椅子1によれば、椅子本体5が、その椅子本体5を使用位置で前向きに位置する状態で隣の連結椅子2に分離可能に連結するフック5eを具えているので、椅子本体5が使用位置で前向きに位置する際に、椅子本体5をより安定させることができる。
【0036】
以上、図示例に基づき説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものでなく特許請求の範囲の記載範囲内で適宜変更することができ、例えば、椅子本体回動支持部7も減速機付きモータにより椅子本体を自動的に回動させるものでも良く、回動位置ロック部8もソレノイドなどによって電動でロックおよび解除を行なっても良い。また逆に、椅子本体移動支持部6が椅子本体5の移動をレールなどで案内し、椅子本体5を人手で移動させるようにしても良く、その場合の椅子本体5の移動は、例えば後ろ側の床4も前側の床3と同じ高さの場合は水平移動のみとし、椅子本体5を使用位置と移乗位置とに対し選択的に、解除可能に床にロックする、回動位置ロック部8のロックピン8bと同様の構成を具えていても良い。そして椅子本体5は、例えばバケットシートのような、肘5dのない椅子形状のものでも良い。
【産業上の利用可能性】
【0037】
かくして本発明の可動椅子によれば、車椅子との間での移乗時は椅子本体を車椅子に向けられるので、椅子の利用者が容易に移乗することができ、そして車椅子から移乗した利用者の着座中は、床に固定された椅子本体移動支持手段およびそこに設けられた椅子本体回動支持手段が椅子本体を強固に支持するので、少なくとも座および背を有する椅子本体で椅子の利用者に着座中他の通常の椅子と同様の快適な座り心地を提供し、しかもその椅子本体を安定させて、椅子の利用者に障害がある場合などでもその利用者を椅子本体で安全に保持することができ、また車椅子の利用者がいない通常時は、椅子本体が隣の椅子に隣接した使用位置に位置しているので、通常の観客が他の通常の椅子と同様に快適に利用することができる。なお、本発明の可動椅子は、車椅子は利用しないが体が多少不自由な人が着座および離座する際にそれを補助するためなどにも用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の可動椅子の一実施例を椅子本体が使用位置で前向きとなった状態で隣の椅子とともに示す正面図である。
【図2】上記実施例の可動椅子を椅子本体が使用位置で前向きとなった状態で隣の椅子とともに示す平面図である。
【図3】上記実施例の可動椅子を椅子本体が使用位置で前向きとなった状態で示す側面図である。
【図4】上記実施例の可動椅子を椅子本体が移乗位置で前向きとなった状態で隣の椅子とともに示す正面図である。
【図5】上記実施例の可動椅子を椅子本体が移乗位置で前向きとなった状態で隣の椅子とともに示す平面図である。
【図6】上記実施例の可動椅子を椅子本体が移乗位置で前向きとなった状態で隣の椅子とともに示す側面図である。
【図7】上記実施例の可動椅子を椅子本体が移乗位置で第1の移乗用向き(斜め後ろ向き)となった状態で隣の椅子とともに示す平面図である。
【図8】上記実施例の可動椅子を椅子本体が移乗位置で第2の移乗用向き(真後ろ向き)となった状態で隣の椅子とともに示す平面図である。
【図9】上記実施例の可動椅子の椅子本体移動支持部を椅子本体を省略して示す平面図である。
【図10】上記実施例の可動椅子の椅子本体回動支持部を椅子本体および椅子本体移動支持部を省略して示す断面図である。
【図11】(a),(b),(c)および(d)は、上記実施例の可動椅子の椅子本体回動支持部を示す、図10中のA−A線、B−B線、C−C線およびD−D線にそれぞれ沿う断面図である。
【図12】上記実施例の可動椅子の回動位置ロック手部を椅子本体および椅子本体移動支持部を省略して示す平面図である。
【図13】上記実施例の可動椅子を椅子本体が移乗位置で第1または第2の移乗用向きとなった状態で示す側面図である。
【符号の説明】
【0039】
1 可動椅子
2 隣の椅子
2a 鋼板
3,4 床
3a ピット
5 椅子本体
5a 側板
5b 背
5c 座
5d 肘
5e 連結部材(フック)
6 椅子本体移動支持手段(椅子本体移動支持部)
6a 固定基板
6b 移動基板
6c,6t ブラケット
6d リンク部材
6e,6j 連結部材
6f ロッド
6g 結合部材
6h 弾性部材
6i ストッパボルト
6k 油圧シリンダ
6l 電動ポンプ
6m リザーバタンク
6n 非常用ドレンボルト
6o リミットスイッチ
6p キースイッチ
6q リモートコントローラ
6r 制御用コード
6s 電源コード
6u コネクタ
7 椅子本体回動支持手段(椅子本体回動支持部)
7a 回動支持板
7b 角フランジ
7c 外スリーブ
7d 円盤状部
7e 内スリーブ
7f スラスト支持ボール
7g ボール入り止めネジ
7h 支持軸
7i 補強リブ
7j 溝
7k ボルト
8 回動位置ロック手段(回動位置ロック部)
8a 固定板
8b 第1の掛合部
8c 第2の掛合部
8d 第3の掛合部
8e 回転ロックピン
8f ノブ
9 カバー
10 塞ぎパネル
11 ローラ
12 塞ぎ布地
13 ワイヤ
14 スプリング
15 床パネル
AX 鉛直軸線
U 利用者
W 車椅子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも座および背を有する椅子本体と、
床に固定されて、前記椅子本体を隣の椅子から離隔した移乗位置と隣の椅子に隣接した使用位置との間で移動可能に支持する椅子本体移動支持手段と、
前記椅子本体移動支持手段に設けられて、前記椅子本体を隣の椅子と同じ方向へ向く前向きとその前向きから回動した移乗用向きとの間で所定鉛直軸線周りに回動可能に支持する椅子本体回動支持手段と、
を具えてなる可動椅子。
【請求項2】
前記椅子本体移動支持手段は、前記椅子本体を前記移乗位置と前記使用位置との間で自動的に水平移動および垂直移動させることを特徴とする、請求項1記載の可動椅子。
【請求項3】
前記椅子本体移動支持手段は、前記椅子本体を前記移乗位置と前記使用位置との間で水平移動させつつ垂直移動させる平行リンク機構を有することを特徴とする、請求項2記載の可動椅子。
【請求項4】
前記椅子本体移動支持手段は、複数本横並びに配置されて前記平行リンク機構を同時に駆動する油圧シリンダを有することを特徴とする、請求項3記載の可動椅子。
【請求項5】
前記椅子本体回動支持手段は、前記椅子本体の回動位置を前記前向きと前記移乗用向きとに対し選択的に、解除可能にロックする回動位置ロック手段を有することを特徴とする、請求項1から4までの何れか記載の可動椅子。
【請求項6】
前記椅子本体は、その椅子本体を前記使用位置で前向きに位置する状態で前記隣の椅子に分離可能に連結する連結部材を具えることを特徴とする、請求項1から5までの何れか記載の可動椅子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−50371(P2009−50371A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−218366(P2007−218366)
【出願日】平成19年8月24日(2007.8.24)
【出願人】(391004919)株式会社コトブキ (27)
【出願人】(000001904)サントリー株式会社 (319)
【出願人】(594012070)株式会社安井建築設計事務所 (2)
【Fターム(参考)】