説明

可動軸駆動装置およびロボット装置

【課題】複数の可動軸を少ない動力で駆動するとともに、動力から遮断したり外力が加わった場合にも関節の自由かつ自然な動きを担保する。
【解決手段】本発明の可動軸駆動装置は、1本の主軸上に配設された1以上の可動軸ユニットと、前記主軸を回転駆動する動力手段とを具え、前記可動軸ユニットがそれぞれ、駆動対象部位へ動力を伝達する巻き取りドラムまたはクランクと、前記主軸と前記巻き取りドラムまたはクランクとを伝達トルクを調整可能に接続あるいは断続するクラッチと、一端が前記巻き取りドラムまたはクランクに固定され他端が装置フレームに固定されたコイルバネとを具える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は可動軸駆動装置およびロボット装置に関し、特に、ロボットの関節など複数の可動軸を少ないモータで同時に駆動制御する駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ロボットなど複数の可動軸を有する装置では、各可動軸に個別に電気式モータまたは油圧・空圧装置が設けられ、可動軸ごとに駆動制御を行っていた。しかしながら、ロボットに必要な出力を確保するには十分大きなモータと減速比の大きな減速装置を関節ごとに設ける必要があり、装置全体の重量が大きくなってしまうという問題があった。また、ロボット制御では常にすべての関節を動かすわけではないため、駆動していないモータが単なる負荷重量物となり動作効率を悪化させていた。各関節に油空圧装置を用いる場合であっても、油や空気の漏れを防ぐために装置の各部において頑強な構造が必要であり、これを確保すると装置重量が増して動作効率が悪くなるという問題があった。
【0003】
このような問題を解消すべく、単一のモータで複数の関節部にまたがるワイヤを駆動し、各関節部においてクラッチで選択的にワイヤに対しロック状態またはロック解除状態とすることにより、単一のモータで複数の関節部を選択的に駆動制御できるようにしたロボットアームが提案されている(たとえば、特許文献1、2)。これにより装置の軽量化・低コスト化を図るとともに、エネルギ効率を向上させることが可能となる。
【0004】
【特許文献1】特開平9−239686号公報
【特許文献2】特開平11−28689号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
関節駆動に電気モータを用いるロボットの場合、モータの出力軸にはロボット駆動に必要なトルクを確保すべく減速機が設けられるが、このためモータの動力を遮断すると関節に大きな抵抗が働き外部から容易には動かすことができなくなる。一方、ロボット産業において、特に人間型ロボットでは人間の自然な動作に近づける努力が行われているが、上記の構成では動力を遮断した場合にその姿勢で固まってしまい、外部からの力で動かすことができず、人間型ロボットに求められる脱力した動作を再現することができない。また、油空圧装置を用いて関節駆動するロボットの場合でも、シリンダへの油空圧の流入を遮断するとその位置が保持され、所謂力を抜いた動作というものを再現することができない。
【0006】
上記特許文献のロボットアームは、各関節部を選択的に駆動ワイヤに対してロックあるいはロック解除する構成であり、関節部とワイヤのロックが解除されると当該関節部が自由回転して所謂脱力した状態となる。しかしながら、これはあたかも糸の切れた操り人形のような状態であり、動力から切り離した関節がふらふらして人間の自然な関節動作とはかけ離れた印象となる。また、上記特許文献1に記載のロボットアームは、外部から力を受けて可動軸が動作した場合にワイヤが弛んでしまい、次に駆動する際の支障となる場合がある。また、これら特許文献記載のロボットアームは動力伝達ユニットの増設が容易でないという問題もある。
【0007】
本発明はこのような点に鑑みなされたものであり、複数の可動軸を少ない動力で駆動することにより装置の軽量化と駆動効率を向上するとともに、動力から遮断した場合や外力が加わった場合にも関節の自由かつ自然な動きを実現する多軸駆動装置及びこれを用いるロボット装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成すべく、本発明は可動軸を駆動する可動軸駆動装置に関し、この装置は、
1本の主軸上に配設された1以上の可動軸ユニットと、前記主軸を回転駆動する動力手段とを具え、前記可動軸ユニットがそれぞれ、
駆動対象部位へ動力を伝達する巻き取りドラムまたはクランクと、前記主軸と前記巻き取りドラムまたはクランクとを伝達トルクを調整可能に接続あるいは断続するクラッチと、常に前記巻き取りドラムまたはクランクを巻き取るあるいは引っ張る方向に付勢する手段とを具えることを主要な特徴とする。
【0009】
また本発明は上記の可動軸駆動装置を用いたロボット装置に関し、このロボット装置は、1本の主軸上に配設された1以上の可動軸ユニットと、前記主軸を回転駆動する動力手段と、前記可動軸ユニットにより駆動される1以上の関節部とを具えるロボット装置であって、前記可動軸ユニットがそれぞれ、
前記関節部を駆動する巻き取りドラムまたはクランクと、前記主軸と前記巻き取りドラムまたはクランクとを伝達トルクを調整可能に接続あるいは断続するクラッチと、常に前記巻き取りドラムまたはクランクを巻き取るあるいは引っ張る方向に付勢する手段とを具えることを特徴とする。
【0010】
ある実施例では、前記関節部が1軸の関節部であるとともに、前記可動軸ユニットが少なくとも2つ配設されており、前記関節部を相反する方向に牽引駆動する駆動ワイヤまたはベルトがそれぞれ別の可動軸ユニットに連結されている。
【0011】
別の実施例では、前記関節部が自在継ぎ手を用いているとともに、前記可動軸ユニットが少なくとも3つ配設されており、この少なくとも3つの可動軸ユニットから延びるワイヤまたはベルトが前記関節部に接続され、当該関節部を少なくとも3方向から牽引駆動するよう構成されている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の可動軸駆動装置は、回転駆動される主軸からクラッチで2以上の可動軸ユニットに選択的に動力を伝達することができ、単一の動力で複数の可動軸ユニットを駆動する構成として、重量を軽減するとともに駆動効率を向上させることができる。また、巻き取りドラムまたはクランクに、常に巻き取るあるいは引っ張る方向に軽くテンションをかけることにより、関節が動力から切り離されている場合にもふらふらすることがなく、且つ可動軸が外力により他動的に動作した場合にも駆動ワイヤやベルトが弛んでしまうことがない。これにより、ロボット関節の自然な動きを得ることができる。また、必要に応じて主軸を継ぎ足す等して、可動軸ユニットを容易に増設することができる。さらに、上記特許文献記載のロボットアームはそれぞれ駆動軸が異なるため平面上に配列する必要があるが、本発明の装置は主軸上に可動軸ユニットを連設する構成であるため空間を有効活用することが可能となる。
【0013】
また、1軸のロボット関節を相反する方向に牽引駆動する駆動ワイヤまたはベルトをそれぞれ別の可動軸ユニットに連結することにより、2つの可動軸ユニットを用いて駆動ワイヤ/ベルトを拮抗させて、1軸のロボット関節を駆動することができる。また、少なくとも3つの可動軸ユニットを用いることにより、各可動軸ユニットからの駆動ワイヤ/ベルトを拮抗させてユニバーサルジョイント等の2軸のロボット関節を駆動制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明を実施するための最良の実施形態について図面を参照しながら以下に詳細に説明する。
【実施例1】
【0015】
図1は、本発明にかかる可動軸駆動装置の第1実施例の構成を示す図であり、図1(a)が正面図、図1(b)が右側面、図1(c)が平面図である。図1(a)に示すように、この装置は大別すると動力手段10と、駆動対象部位であるロボット関節に動力を伝達する可動軸ユニット20とを具えている。本図では説明のために可動軸ユニット20を1つのみ設けたものを示しているが、実施例によっては動力手段10の出力軸(主軸13)上に複数の可動軸ユニット20が連設される。また、以下の説明ではロボット装置の関節を駆動する装置として説明するが、本発明の可動軸駆動装置は、可動軸を用いる様々な他の装置に適用することができる。
【0016】
動力手段10は、電気モータ11と、減速装置12とを具えている。電気モータ11と減速装置12は、適用されるロボット装置の重量や関節の数、駆動対象となるアームの重量など実施環境に応じて適切な大きさ/減速比のものが使用される。主軸13は、減速装置12の出力軸である。この動力手段10は適用されるロボット装置の動作時には常に駆動され、主軸13が回転しているものとする。
【0017】
可動軸ユニット20は主軸上に配設されており、電気式クラッチ14と、巻き取りドラム15と、コイルバネ16とを具えている。クラッチ14はドラム15と連結しており、制御部(図示せず)からの制御信号に応じて、回転する主軸13の動力をトルク調整可能に巻き取りドラム15に伝達する。巻き取りドラム15には駆動ワイヤ17が巻かれており、この駆動ワイヤ17がこの装置の駆動対象となるロボットの関節部に延びている。駆動ワイヤ17の材料は特に限定するものではないが、金属、樹脂、ゴムなどを用途や特性に応じて好適に使用することができる。また、他の実施例では、駆動ワイヤ17はベルトであってもよい。
【0018】
コイルバネ16は一方の端部がドラム15の回転軸に連結され、他方の端部が装置のベースフレーム18に固定されている。このコイルバネ16は、自然長の状態すなわち張力ゼロのときに巻き取りドラム15がワイヤ17を巻ききる角度に取り付けられる。ただし、コイルバネ16はワイヤ17に軽いテンションをかける程度の弱い張力のものであって、最大でもそれ自体ではロボット関節の角度に大きな影響を及ぼさないものが選択される。したがって、ワイヤ17には常にドラム15に巻き取られる方向に軽いテンションが加わった状態となる。
【0019】
この可動軸駆動装置の動作を以下に説明する。装置の動作時に電気モータ11は常に駆動され回転している。電気モータ11の出力は減速装置2により減速され、予め設定されたトルクを主軸13に伝達する。主軸13はクラッチ14の入力軸に接続している。クラッチ14に入力電圧をかけるとクラッチが作動し、入力電圧に応じた出力トルクがクラッチ14の出力軸14aに現れ、これにより巻き取りドラム15が回転し、駆動ワイヤ17が巻き取られる。駆動ワイヤ17はロボット装置の関節部に連結されており(図示せず)、これにより関節部が駆動される。
【0020】
例えば可動軸ユニット20を制御して人間型ロボットのアームを上に振り上げた状態でクラッチ14を解放すると、アーム(図示せず)の重量により関節が元に戻ろうとし、これに伴い巻き取りドラム15が巻き戻される。このときにもコイルバネ16により巻き取りドラム15にテンションがかかっているため、所謂糸の切れた操り人形のような動作ではなく、ゆっくりとした人間の自然な動作に近い動作を得ることができる。
【0021】
また、クラッチ14が作動しておらず可動軸ユニット20が動力から切り離されている場合にも、コイルバネ16の張力により駆動対象となる関節には軽いテンションがかかっているため、関節がふらふらすることがない。また、クラッチ14が作動していないときに外部から巻き取りドラム15を巻き取る方向に力が加わっても、コイルバネ16によりワイヤ5が弛むことなくドラム15に巻き取られ、その後の動作に支障が生じることがない。
【実施例2】
【0022】
図2は、本発明にかかる可動軸駆動装置の第2実施例の構成を示す図である。本実施例の可動軸ユニット21では、図1に示す可動軸ユニット20の巻き取りドラム15の代わりに、クランク22が設けられている。このように可動軸駆動装置を構成して、駆動対象部位を駆動制御することもできる。クランク22以外の構成要素は図1に示す要素と同一であり、同じ動作をするものである。
【実施例3】
【0023】
図3は、本発明にかかるロボット装置の関節構造を説明するための部分イメージ図である。本図に示すように、本発明のロボット装置は少なくとも駆動対象となる1軸の関節部30と、この関節部30を駆動する可動軸駆動装置40とを具えている。関節部30は単一の回動軸31を有し、アーム32がこの回動軸31を中心に回動する。一方、可動軸駆動装置40は、単一の動力手段41と、2つの可動軸ユニット42a、42bとを具えている。これらの動力手段41と可動軸ユニット42はそれぞれ、図1に示す動力手段10と可動軸ユニット20と同じ構成であるが、本図ではユニットとして若干簡略して示している。2つの可動軸ユニット42a、42bは主軸43上に連設されており、それぞれ別個に制御される。
【0024】
このロボット装置では、1軸の回動軸に巻回されたワイヤ44の両端部がそれぞれ別の可動軸42a、42bに連結されており、これらの間でワイヤ44が拮抗するよう駆動制御される。より具体的には、図示しないセンサによりアーム32の角度を検出して、目標とする角度となるよう各ユニット42a、42bの切り替えや効き具合(トルク伝達力)を高速にフィードバック制御することによりアームの動作制御が行われる。なお、本図では説明のために最小限の構成要素のみを示しているが、他にもロボット装置として必要な構成要素を備えるものとする。
【実施例4】
【0025】
図4は、図3に示すロボット装置の別の実施例を示す部分イメージ図である。このロボット装置は、ユニバーサルジョイントのような2軸の関節部50と、この関節部50を駆動する可動軸駆動装置60とを具えている。関節部50は直交する回動軸50a、50bを有し、アーム51を上下左右どの方向にも向けることができる。一方、可動軸駆動装置60は、単一の動力部61と、3つの可動軸ユニット62a〜62cとを具えている。各可動軸ユニット62からのワイヤがアーム51の外周を3等分した箇所に連結され、互いに拮抗するよう駆動制御される。なお、これらのワイヤは連設された可動軸ユニット62a〜62cから直接延在するのではなく、適切な位置に設けられたプーリを介して3方向からアーム51を引っ張る構成としてもよい。
【0026】
以上に本発明の幾つかの実施例について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施例に限定されるものではなく、当業者であれば他の様々な実施例として本発明を実現することができる。例えば上述したように各実施例において駆動ワイヤ17、44は動力を伝達するベルトであってよい。また、図4に示す2軸の実施例において、4以上の可動軸ユニット62を設けて、4以上の方向からアーム51を引っ張る構成としてもよい。また、図4に示す関節部50は2軸に限らずボールジョイントであってもよい。
【0027】
また、動力手段は回転力を発生させるものであれば電気モータ以外にも様々なタイプのものを使用することができ、例えば回転エンジン等を用いることができる。また、上記実施例ではいずれもコイルバネを用いて巻き取りドラムやクランクに常時テンションをかけるようにしているが、この作用を得られる限りにおいて、板バネやゴムのような弾性体など他の付勢手段を用いてもよい。
【0028】
上記の構成により本発明では1の動力で複数の可動軸を駆動制御することができ、これにより複数の関節を1の電気モータで駆動することが可能となる。しかしながら、本発明のロボット装置は必ずしも単一のモータで駆動する構成に限る趣旨ではなく、2以上のモータを具える構成であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明にかかる可動軸駆動装置およびロボット装置は、機械製造業やロボット産業で好適に利用することができる。さらに、本発明は所謂ロボットと称される製品に限定されることなく、例えば人間や動物の動きに似せた動作を行う玩具等の産業分野にも広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明にかかる可動軸駆動装置の第1実施例の構成を示す図である。
【図2】本発明にかかる可動軸駆動装置の第2実施例の構成を示す図である。
【図3】本発明の可動軸駆動装置を用いたロボット装置の関節部を示す部分イメージ図である。
【図4】図3に示すロボット装置の関節部の別の実施例の構成を示す部分イメージ図である。
【符号の説明】
【0031】
10、41、61 動力手段
11 電気式モータ
12 減速装置
13、43 主軸
14 クラッチ
15 巻き取りドラム
16 コイルバネ
17、44 駆動ワイヤ
18 ベースフレーム
20、21、42、62 可動軸ユニット
22 クランク
30、50 関節部
40、60 可動軸駆動装置
32、51 アーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動軸を駆動する可動軸駆動装置において、
1本の主軸上に配設された1以上の可動軸ユニットと、前記主軸を回転駆動する動力手段とを具え、前記可動軸ユニットがそれぞれ、
駆動対象部位へ動力を伝達する巻き取りドラムまたはクランクと、前記主軸と前記巻き取りドラムまたはクランクとを伝達トルクを調整可能に接続あるいは断続するクラッチと、常に前記巻き取りドラムまたはクランクを巻き取るあるいは引っ張る方向に付勢する手段とを具えることを特徴とする可動軸駆動装置。
【請求項2】
1本の主軸上に配設された1以上の可動軸ユニットと、前記主軸を回転駆動する動力手段と、前記可動軸ユニットにより駆動される1以上の関節部とを具えるロボット装置であって、前記可動軸ユニットがそれぞれ、
前記関節部を駆動する巻き取りドラムまたはクランクと、前記主軸と前記巻き取りドラムまたはクランクとを伝達トルクを調整可能に接続あるいは断続するクラッチと、常に前記巻き取りドラムまたはクランクを巻き取るあるいは引っ張る方向に付勢する手段とを具えることを特徴とするロボット装置。
【請求項3】
請求項2に記載のロボット装置において、前記関節部が1軸の関節部であるとともに、前記可動軸ユニットが少なくとも2つ配設されており、前記関節部を相反する方向に牽引駆動する2本の駆動ワイヤまたはベルトがそれぞれ別の可動軸ユニットに連結されていることを特徴とするロボット装置。
【請求項4】
請求項2に記載のロボット装置において、前記関節部が自在継ぎ手を用いているとともに、前記可動軸ユニットが少なくとも3つ配設されており、この少なくとも3つの可動軸ユニットから延びるワイヤまたはベルトが前記関節部に接続され、当該関節部を少なくとも3方向から牽引駆動することを特徴とするロボット装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−319954(P2007−319954A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−150662(P2006−150662)
【出願日】平成18年5月30日(2006.5.30)
【出願人】(506184635)株式会社MerryB (1)
【Fターム(参考)】