説明

可塑化装置の制御方法

【課題】ベント孔を備えずに加熱筒内のガスや水分を排気することができる可塑化装置の制御方法の提供。
【解決手段】原料Mの入口側から前方へ第1フィードゾーンFZ1、第1コンプレッションゾーンCZ1、第1メータリングゾーンMZ1をフライト高さが順次低くなるよう形成し、第1メータリングゾーンMZ1の前方にデコンプレッションゾーンDZをフライト高さが第1メータリングゾーンMZ1より高くなるように形成し、デコンプレッションゾーンDZから前方へ第2フィードゾーンFZ2、第2コンプレッションゾーンCZ2、第2メータリングゾーンMZ2をフライト高さが順次低くなるように形成するスクリュ3を用いた可塑化装置15の制御方法であって、原料供給装置13は、第1フィードゾーンFZ1、第1コンプレッションゾーンCZ1及び第1メータリングゾーンMZ1を原料M又は溶融原料Mmで充満しないように原料Mの供給量を制限して制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱筒内のガスや水分を排気する可塑化装置における制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
成形機の加熱筒内で原料を可塑化・溶融して溶融原料となす工程中に発生するガスや水分は、溶融原料を成形した成形品にシルバーストリークやもや等の不良現象を惹起させる。そのため、従来から様々な対策を講じて加熱筒内からガスや水分を除去してきた。例えば、特許文献1に示すように、スクリュの二段の圧縮部の間に設けた減圧部から発生したガスや水分を、加熱筒の中間部に穿孔して設けたベント孔から脱気するものがある。しかしながら、このベント式射出装置では、ベント孔から溶融材料が膨出したりベント孔近傍の劣化した溶融材料が加熱筒内に混入するといった問題がある。そのため、特許文献1に開示されるように、ベントアップした溶融樹脂を加熱筒内に押し込むためのコアやシリンダ等の附加装置を必要とするのである。
【0003】
【特許文献1】特開昭59−29137号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記した問題を解決すべくなされたものであって、ベント孔を備えずに加熱筒内のガスや水分を効果的に排気することができる可塑化装置の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、原料の入口側である後方から前方へ順に第1フィードゾーン、第1コンプレッションゾーン、第1メータリングゾーンをフライト高さが順次低くなるように形成し、前記第1メータリングゾーンの前方に隣接するデコンプレッションゾーンはフライト高さが前記第1メータリングゾーンのフライト高さよりも高くなるように形成し、さらに、前記デコンプレッションゾーンから前方へ順に第2フィードゾーン、第2コンプレッションゾーン、第2メータリングゾーンをフライト高さが順次低くなるように形成し外周径が加熱筒の内孔の内径より僅か小さいフライトを備えたスクリュを、ベント孔を有しない前記加熱筒に回転自在に嵌挿して、前記原料を可塑化する可塑化装置の制御方法であって、前記加熱筒に前記原料を供給する原料供給装置は、前記第1フィードゾーン、第1コンプレッションゾーン及び第1メータリングゾーンに前記原料又は溶融原料が充満しないように前記原料の供給量を制限して制御する可塑化装置の制御方法に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の可塑化装置の制御方法によれば、ベント孔を備えずに加熱筒内のガスや水分を効果的に排気することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
図面に基づいて、本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は、本発明を実施する可塑化装置の縦断面図である。
【0008】
スクリュ3は、射出成形機や押出機等の成形機の可塑化装置15に設けられる加熱筒4の内孔10に回転自在に嵌挿されている。加熱筒4は、肉厚円筒であり、後方である一方の端部は可塑化装置15のハウジング(図示せず)に固着され、前方である他方の端面にはシリンダヘッド1が固着されている。シリンダヘッド1には、図示しないノズル等が固着されている。加熱筒4の後方の端部側面には上方へ開口する原料入口7が穿孔されている。原料入口7には、原料供給装置13が気密に接続されている。原料供給装置13は、二段に構成し交互に開閉するシャッタ11,11や凹部を有する回転弁(図示せず。)等で気密を保持しつつ供給された所定量の原料Mを、フィードスクリュ12でその搬送量を制限・制御して原料入口7へ供給するものである。加熱筒4の内孔10に嵌挿されたスクリュ3の原料入口7端部に対応する部分より後方の部分は、スクリュ基部8となっている。スクリュ基部8は、内孔10の内径より僅か小さい直径を有する円柱状であって、加熱筒4の後方端面に設けられた図示しないパッキングに摺接して、加熱筒4後端部を気密としている。また、スクリュ3の前方では原料Mが溶融した溶融原料Mmでフライトピッチ間の溝が充填されているので、加熱筒4後部の内部は気密となる。したがって、原料入口7上方の原料供給装置13に設けられた真空ポンプ14は、加熱筒4内を減圧し溶融原料Mmから発生するガスや水分を効果的に吸引することができる。なお、押出機においては、逆流防止弁2を備えることはない。
【0009】
スクリュ3は、後部のスクリュ基部8から、逆流防止弁2を固着する前端面まで、軸方向の位置に応じて直径が変化する丸棒の外周に、フライト6が同一ピッチで螺旋状に突出して巻着され、全てのフライトの外周径が同一で内孔10の内径より僅か小さくなるような形態に形成されたものである。そして、前記丸棒の直径の軸方向の位置に応じた変化に基づいて、フライト6は、原料の入口側である後方から前方へ順に第1フィードゾーンFZ1、第1コンプレッションゾーンCZ1、第1メータリングゾーンMZ1をそれらのフライト高さが順次低くなるように形成し、第1メータリングゾーンMZ1の前方に隣接してデコンプレッションゾーンDZをそのフライト高さが第1メータリングゾーンMZ1のフライト高さよりも高くなるように形成し、さらに、デコンプレッションゾーンDZから前方へ順に第2フィードゾーンFZ2、第2コンプレッションゾーンCZ2、第2メータリングゾーンMZ2をそれらのフライト高さが順次低くなるように形成する。
【0010】
次に、スクリュ3による可塑化について説明する。原料供給装置13から原料入口7を経由して加熱筒4の内孔10に制御されて供給された原料Mは、フライト高さが比較的高くピッチ溝容積の比較的大きくて一定な第1フィードゾーンFZ1で加熱筒4やスクリュ3から熱量を受けつつ前方へ搬送される。第1フィードゾーンFZ1の中間部から原料Mは溶融され始める。原料Mが溶融された溶融原料Mmは、未溶融の原料Mとともにフライト6の前方側の側面(フライト6のピッチ溝で見ると後方側の側面)に偏在するように、原料供給装置13はフィードスクリュ12の回転速度を調整して原料Mを供給制御する。すなわち、フライト6の後方側の側面には、通常の成形における可塑化時には、原料M及び溶融原料Mmが殆んど存在せずガスや水分が容易に流通可能となっている。しかしながら、原料Mの種類や色を変換するためにスクリュ3を洗浄するときには、原料Mを原料供給装置13で供給量を制限せず原料入口7が充満されるように供給制御して、フライト6のピッチ溝が原料M及び溶融原料Mmで略充満されるようにする必要がある。
【0011】
第1フィードゾーンFZ1の前方側に隣接する第1コンプレッションゾーンCZ1は、フライト高さが第1フィードゾーンFZ1のものから前方へテーパー状に低くなるように形成されている。第1コンプレッションゾーンCZ1では、原料M及び溶融原料Mmは、ピッチ溝の容積が減少していくことから圧縮され、溶融が促進される。そして、原料M及び溶融原料Mmは、溶融原料Mmの割合が多くなりフライト6の前方側の全側面に付着して混錬されつつ搬送される。また、この過程で放出したガスや水分は、第1コンプレッションゾーンCZ1と第1フィードゾーンFZ1のフライト溝内に連通する空隙を流動して後方へ排出される。第1コンプレッションゾーンCZ1の前方側に隣接する第1メータリングゾーンMZ1は、フライト高さが第1コンプレッションゾーンCZ1の最前端のものから前方へ一定に形成されている。第1メータリングゾーンMZ1では、原料Mは全て溶融され溶融原料Mmのみとなる。
【0012】
第1メータリングゾーンMZ1の前方側に隣接するデコンプレッションゾーンDZは、フライト高さが第1メータリングゾーンMZ1のものから前方へ一ピッチ程度の短距離でテーパー状に高くなるように形成されている。デコンプレッションゾーンDZでは、ピッチ溝の容積が急激に拡大されていることにより、圧縮されていた溶融原料Mmが減圧され、溶融原料Mmに包含されていたガスや水分が効果的に放出される。デコンプレッションゾーンDZで放出されたガスや水分は、第1メータリングゾーンMZ1、第1コンプレッションゾーンCZ1及び第1フィードゾーンFZ1の空隙を流通してスクリュ3の後部へ流通する。スクリュ3後部の原料入口7付近に到達したガスや水分は、適宜設けた隙間から大気中へ排出するか又は、気密に形成した原料入口7付近の空間から真空ポンプ14で強制的に大気中へ排気される。
【0013】
デコンプレッションゾーンDZの前方に隣接する第2フィードゾーンFZ2は、フライト高さがデコンプレッションゾーンDZの最前端のものから前方へ一定に形成されている。第2フィードゾーンFZ2の前方側に隣接する第2コンプレッションゾーンCZ2は、フライト高さが第2フィードゾーンFZ2のものから前方へテーパー状に低くなるように形成されている。第2コンプレッションゾーンCZ2では、溶融原料Mmは、ピッチ溝の容積が減少していくことから圧縮され、再度溶融が促進・実施される。第2コンプレッションゾーンCZ2の前方側に隣接する第2メータリングゾーンMZ2は、フライト高さが第2コンプレッションゾーンCZ2の最前端のものから前方へ一定に形成されている。第2メータリングゾーンMZ2は、ガスや水分が包含されない良質な溶融原料Mmをスクリュ3の前方へ押出す。射出成形機においては、加熱筒4の前部に溶融原料Mmを所定量貯留し、スクリュ背圧に抗して後退したスクリュ3を射出前進させることにより、図示しない金型へ射出・充填する。
【0014】
【表1】

【0015】
表1は、このようにして射出成形した成形品の水分率を、比較のため従来のスクリュを備えた射出成形機により成形した成形品の水分率とともに示すものである。この成形における成形原料はABS樹脂材(クララスチックGA−501)であり、初期水分率は3000ppm程度である。また、成形品は200×250mmMaxであり、そのスプル部分を水分率測定に供した。表におけるL/Dは、スクリュの長さをその直径で除したものでありスクリュの有効長を示す指標である。L/D20のスクリュとはごく一般の汎用スクリュである。L/D28の従来のスクリュとは、フィードゾーン、コンプレッションゾーン及びメータリングゾーンのみを有するスクリュである。本発明のスクリュは、フィードゾーン、コンプレッションゾーン及びメータリングゾーンを二段に備えるとともにデコンプレッションゾーンを有するので、必然的に大きなL/Dとなったのである。
【0016】
表1より明らかなように、原料供給量の制限が大きい程、また、スクリュ背圧が低い程、スクリュのピッチ溝内の原料や溶融原料の密度が低くなり空隙が多くなるので、水分の排出が促進される。また、真空吸引して加熱筒内を減圧したときには、極めて顕著な水分率低下が見られる。特に、L/Dを大きくしたときに真空吸引すると効果的である。これは、加熱筒内での溶融原料の滞留時間が増加したことによるものと考えられる。このように、スクリュ3を用いた本発明の制御方法では水分やガスの排出に有効と考えられる全ての要件が満たされている。すなわち、原料Mを完全に溶融した状態にした後それを減圧し、比較的長く滞留させ、放出されたガスや水分を確保された流路から強制的に吸引して排出するのである。このように、本発明の可塑化装置においては、加熱筒にベント孔を有しないので、溶融原料のベントアップ等の深刻な問題を惹起することなく、極めて効果的に加熱筒内のガスや水分を排出させることができる。
【0017】
この発明は以上説明した実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を付加して実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明を実施するスクリュが加熱筒に嵌挿された状態を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0019】
1 シリンダヘッド
2 逆流防止弁
3 スクリュ
4 加熱筒
6 フライト
7 原料入口
8 スクリュ基部
10 内孔
11 シャッタ
12 フィードスクリュ
13 原料供給装置
14 真空ポンプ
15 可塑化装置
M 原料
Mm 溶融原料
FZ1 第1フィードゾーン
FZ2 第2フィードゾーン
CZ1 第1コンプレッションゾーン
CZ2 第2コンプレッションゾーン
MZ1 第1メータリングゾーン
MZ2 第2メータリングゾーン
DZ デコンプレッションゾーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料の入口側である後方から前方へ順に第1フィードゾーン、第1コンプレッションゾーン、第1メータリングゾーンをフライト高さが順次低くなるように形成し、前記第1メータリングゾーンの前方に隣接するデコンプレッションゾーンはフライト高さが前記第1メータリングゾーンのフライト高さよりも高くなるように形成し、さらに、前記デコンプレッションゾーンから前方へ順に第2フィードゾーン、第2コンプレッションゾーン、第2メータリングゾーンをフライト高さが順次低くなるように形成し外周径が加熱筒の内孔の内径より僅か小さいフライトを備えたスクリュを、ベント孔を有しない前記加熱筒に回転自在に嵌挿して、前記原料を可塑化する可塑化装置の制御方法であって、
前記加熱筒に前記原料を供給する原料供給装置は、前記第1フィードゾーン、第1コンプレッションゾーン及び第1メータリングゾーンに前記原料又は溶融原料が充満しないように前記原料の供給量を制限して制御することを特徴とする可塑化装置の制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載の制御を前記加熱筒内が減圧された雰囲気で実施する可塑化装置の制御方法。
【請求項3】
請求項1又は2における前記スクリュを洗浄するときには、前記原料の供給量が制限されないように前記原料供給装置を制御する可塑化装置の制御方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−241339(P2009−241339A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−89332(P2008−89332)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000155159)株式会社名機製作所 (255)
【Fターム(参考)】