説明

可変回折素子およびそれを用いた光ヘッド装置

【課題】周囲温度の変動の影響を抑制することのできる可変回折素子を提供する。
【解決手段】透明基板121、122と、透明基板121、122の少なくとも一方の対向面上にピッチPで周期的に形成された所定方向に延伸する凸部13と、透明基板121、122間に挟持された液晶層14とを備え、液晶層14は、電圧印加によって所定の偏光方向の直線偏光の入射光に対する屈折率が、第1の屈折率n1から第2の屈折率n2(ただしn1<n2)まで変化するものであり、凸部13は、第1の屈折率n1または第2の屈折率n2と等しい屈折率nsを有する透明材料からなり、その高さdが、{(0.5+m)・λ/Δn}(ただし、Δn=|n2−n1|、mは零を含む自然数、λは入射光の波長)であって、凸部13の幅wとピッチPとの比であるデューティ比D=w/Pが0.05〜0.35または0.65〜0.95である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変回折素子およびそれを用いた光ヘッド装置に係り、特に、周囲温度の変化よる0次回折効率の変動を抑制した可変回折素子およびそれを用いた光ヘッド装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ光により情報を書き込み・読み出すことの可能な光記録媒体が実用化されている。DVD−Rなどの光記録媒体に対して情報の書き込みおよび/または読み出しをおこなう光ヘッド装置においては、光源から出射され光記録媒体の情報記録面上に集光照射される照射光量を、情報の書き込み時には大きく、読み出し時には小さくする必要がある。
【0003】
従来、情報記録面への照射光量を変化させるためには、光源である半導体レーザへの注入電流を変化させて光源の出射光量を変化させていた。しかしながら半導体レーザは、低光量とするために注入電流を小さくすると、ノイズが増加したり出射光量が不安定になったりする問題がある。特に、波長405nm帯の青色レーザ光源においては、低光量時の出射光量の安定化が課題であった。
【0004】
上記課題を解決するために、液晶素子と偏光ビームスプリッタとを組み込んだ光ヘッド装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。液晶素子に入射したレーザ光は、液晶素子の液晶層への印加電圧により偏光状態が変化されて出射され、偏光ビームスプリッタに入射し、所望の偏光方向の光のみが取り出されて、光記録媒体へ導かれる。ここで、偏光ビームスプリッタにより取り出される所望の偏光方向の光の強度は、液晶素子への印加電圧に応じて変化する。即ち、光源からの出射光量を一定の高光量に保ちながら、光記録媒体への照射光量を、書き込み時には減衰させずに、読み出し時には減衰させることができるため、低ノイズで安定した高品質な照射光が実現される。
【0005】
また、回折格子を切り替え可能とした可変回折素子の発明も提案されている(例えば、特許文献2参照)。この可変回折素子は、対向面にストライプ状の透明電極が形成された2枚の透明基板と、透明基板間に充填され封入された液晶を備えている。図7(a)および(b)は、対向する透明電極の電極パターンを示す平面図であって、それぞれの透明基板のストライプ状の透明電極は、互いにピッチが異なるとともに、対向配置されたときにストライプ方向が所定角度をなすように形成されている。この可変回折素子は、ストライプ状の透明電極に印加する電圧を切り替えることにより回折効率を変化させて、0次回折光量、即ち透過率を変化させることができる。
【特許文献1】特開2002−260269号公報
【特許文献2】特開2006−99947号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の光ヘッド装置には、液晶素子と偏光ビームスプリッタとを組み合わせて光減衰器としているため、素子の配置や小型化に制約があるという課題があった。
また、特許文献2に記載の可変回折素子には、液晶の常光屈折率および異常光屈折率の温度変化が大きいため、周囲温度が変動したときの透過率変化が大きいという課題があった。
【0007】
本発明は、上記の従来の課題を解決するためになされたものであって、小型化が可能かつ配置の自由度が高く、周囲温度の変化による0次回折効率の変動を抑制した可変回折素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の可変回折素子は、対向面に透明電極が形成された第1の透明基板および第2の透明基板と、前記第1の透明基板および前記第2の透明基板の少なくとも一方の前記対向面上にピッチPで周期的に形成された所定方向に延伸する凸部と、前記第1の透明基板および前記第2の透明基板の間に挟持された液晶層とを備える可変回折素子であって、前記液晶層は、外部電源から前記透明電極に電圧を印加して液晶分子の配向状態を制御することによって、所定の偏光方向の直線偏光の入射光に対する屈折率が、第1の屈折率n1から第2の屈折率n2(ただしn1<n2)まで変化するものであり、前記凸部は、前記第1の屈折率n1または前記第2の屈折率n2と等しい屈折率nsを有する透明材料からなり、前記凸部の高さdは、{(0.5+m)・λ/Δn}(ただし、Δn=|n2−n1|で、mは零を含む自然数、λは入射光の波長)であって、前記凸部の幅wとピッチPとの比であるデューティ比D=w/Pが0.05〜0.35または0.65〜0.95であることを特徴とする構成を有している。
この構成により、周囲温度の変化による0次回折効率の変動を抑制することができることとなる。
【0009】
本発明の可変回折素子は、前記凸部の屈折率nsがn1と等しく、前記デューティ比D=w/Pが0.05〜0.3または0.75〜0.95である構成、もしくは、前記凸部の屈折率nsがn2と等しく、前記デューティ比D=w/Pが0.05〜0.25または0.7〜0.95である構成を有している。
この構成により、所定の偏光方向の直線偏光の入射光に対して20〜80%の範囲で任意の値の0次回折光強度を得ることができることとなる。
【0010】
本発明の光ヘッド装置は、波長λの直線偏光である光源光を出射する光源と、前記光源から出射された前記光源光を光記録媒体の情報記録面に集光する対物レンズと、前記情報記録面により反射された戻り光を検出する光検出器とを含む光ヘッド装置であって、前記光源と前記対物レンズの間の光路上に請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の可変回折素子が配置されることを特徴とする構成を有している。
この構成により、周囲温度の変化による光学特性の変動を抑制し、安定した書き込みおよび読み出しをおこなうことができることとなる。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、凸部の高さdとデューティ比Dとを適切な値とすることにより、小型化が可能かつ配置の自由度が高く、周囲温度の変化による0次回折効率の変動を抑制することができるという効果を有する可変回折素子を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係る可変回折素子について、図1の断面図を参照しつつ説明する。
可変回折素子1は、対向面に透明電極111および112が形成された第1の透明基板121および第2の透明基板122(以下、単に透明基板とも記す)と、第1の透明基板121および第2の透明基板122の少なくとも一方の対向面上にピッチPで周期的に形成された所定方向に延伸する凸部13と、第1の透明基板121および第2の透明基板122の間に挟持された液晶層14とを備える。第1の透明基板121と第2の透明基板122は、グラスファイバースペーサを混入したシール15により所定の間隔を有して対向しており、外周をシールされている。
【0013】
そして、液晶層14は、外部電源から透明電極111、112に電圧を印加して液晶分子141の配向状態を制御することによって、所定の偏光方向の直線偏光の入射光に対する屈折率が、第1の屈折率n1から第2の屈折率n2(ただしn1<n2)まで変化するものである。
【0014】
また、凸部13は、第1の屈折率n1または第2の屈折率n2と等しい屈折率nsを有する透明材料からなり、凸部13の高さdは、{(0.5+m)・λ/Δn}(ただし、Δn=|n2−n1|で、mは零を含む自然数、λは入射光の波長)であって、凸部13の幅wとピッチPとの比であるデューティ比D=w/Pが0.05〜0.35または0.65〜0.95である。
【0015】
第1の透明基板121および第2の透明基板122としては、耐久性の観点からガラス基板を使用することが望ましいが、ポリカーボネート系、PET、アクリル系等の樹脂基板を使用してもよい。
【0016】
透明電極111、112は、ITO、ZnO、SnO2等の透明導電膜からなり、必要により外周部のトリミングや取り出し電極形成をおこなって形成される。透明電極111、112は、透明絶縁膜(図示せず)で覆うことが望ましい。
【0017】
周期的に形成された所定方向に延伸する凸部13は、透明材料からなる層を透明電極111に積層し、フォトリソグラフィおよびエッチングによりパターニングして形成される。さらに、凸部13と液晶層14との接触面をポリイミド等からなる配向膜(図示せず)で覆って、液晶分子141が水平配向したときに、所定の方向に揃うようにすることが望ましい。
【0018】
なお、図1では透明電極111上に所定方向に延伸する周期的な凸部13を形成した構成が示されているが、第1の透明基板121上にまず所定方向に延伸する周期的な凸部13を形成し、その上に透明電極111を形成する構成としてもよい。また、所定方向に延伸する周期的な凸部13が第1の透明基板121上にのみ形成された構成に限定されず、対向配置された第2の透明基板122の対向面上にも形成された構成とすることもできる。
【0019】
液晶層14に用いる液晶材料としては、ネマチック液晶、スメクチック液晶等を使用することが可能であり、誘電異方性は正であっても負であってもよい。液晶層14の液晶分子141の配向状態は、透明電極111、112への印加電圧により、透明基板に平行な面(以下、基板平行面と記す)内で配向処理方向に揃った水平配向状態から垂直に揃った垂直配向状態まで変化する。それにより、配向処理方向と平行な偏光方向の直線偏光に対して液晶層14が示す屈折率は、液晶分子141が水平配向している時の異常光屈折率neから、垂直配向している時の常光屈折率noまで変化する。
【0020】
凸部13を形成する透明材料としては、その屈折率nsが液晶層14の常光屈折率noまたは異常光屈折率neと等しい透明材料を用いる。no<neの場合、液晶層14の常光屈折率noを第1の屈折率n1として、液晶層14の異常光屈折率neを第2の屈折率n2とする。
【0021】
透明材料としては、ガラス、SiO2、SiOxy、Ta25等の無機材料、これらの混合物、または有機物を、その屈折率を調整して用いることが好ましい。また、透明材料として、高分子液晶やLiNbO3などの複屈折材料を用いることもできる。その場合、複屈折材料からなる透明材料は、所定の偏光方向の直線偏光に対して示す屈折率が液晶分子141の常光屈折率noまたは異常光屈折率neと等しくなるように選ぶ必要がある。
【0022】
透明基板と液晶層14との接触面には、配向処理を施すことが好ましい。配向処理は、光配向、イオンビーム照射、SiO等の斜め蒸着、ラビング等によりおこなうことができる。所定方向に延伸する周期的な凸部13が形成された透明基板に対しては、特に凸部13のピッチPが小さい場合には、イオンビーム照射や光配向により配向処理をおこなうことが好ましく、ポリイミド膜やポーラスなSiO2膜、SiO2などの無機材料からなる微粒子膜、SiOxy膜などの配向膜に対してイオンビームにより配向処理をおこなった配向膜を用いることができる。配向方向は、基板平行面内のいずれの方向としてもよいが、周期的に形成された凸部13が延伸する方向と平行とすると良好な配向状態を得易いので好ましい。
【0023】
以下では、誘電異方性が正(電圧非印加時に液晶層14の液晶分子141が基板平行面に対して水平配向する)であり、かつ異常光屈折率neが常光屈折率noより大(no<ne)である液晶を用いるとともに、周期的な凸部13を、液晶の常光屈折率noと等しい屈折率nsを有する等方性透明材料を用いて形成した場合について述べる。ここで、凸部13が延伸する方向をY軸方向とし、基板平行面の法線方向をZ軸方向とするXYZ座標系を考える。
【0024】
液晶層14の液晶分子141は、電圧非印加時に配向処理方向であるY軸方向に平行に揃い、十分な大きさの電圧を印加した時に基板平行面に垂直なZ軸方向に揃う(以下、このときの電圧を垂直配向電圧と記す)。したがって、液晶層14は、Y軸と平行な偏光方向の直線偏光に対して、電圧非印加時に異常光屈折率neを、垂直配向電圧印加時に常光屈折率noを示す。周期的に形成された凸部13を通過する光と、液晶層14の一部をなし、凸部13と凸部13との間に形成される凹部(以下、凸部13と凹部とをまとめて回折格子と記す)を透過する光とに生じる光路差φ[nm]は、(1)式のように凸部13の高さd[nm]と、凸部13と凹部との屈折率差Δnとの積で定義される。
φ=Δn・d (1)
【0025】
ここで凸部13の屈折率nsは液晶層14の常光屈折率noと等しくされているので、可変回折素子1の周期的な凸部13の高さd[nm]を(2)式:
φ=|ne−no|・d
=(0.5+m)・λ (2)
を満足するように決めると、電圧非印加時に、配向処理方向と平行な偏光方向をもつ波長λ[nm]の直線偏光の入射光に対して1次回折効率が最大となり、0次回折効率ηを最小とすることができる(以下、0次回折効率ηの最小値を最小値η0と記す)。ただし、mは0以上の整数である。m=0(零)とすると凸部13の加工が容易になり好ましいが、これに限定されない。
そのときの0次回折効率ηは(3)式で表される。
η=(cos(φ/2))2 (3)
【0026】
一方、垂直配向電圧印加時は、凸部13と液晶層14は屈折率差を持たないので、可変回折素子1は回折を生じず入射光は実質的に100%直進透過される(以下単に「透過率が100%である」と記す)。また、配向処理方向と直交する方向、即ちX軸と平行な偏光方向の直線偏光に対しては、液晶層14は電圧の印加にかかわらず常光屈折率noを示して、凸部13と屈折率差を持たないので、可変回折素子1は常に回折を生じず透過率が100%である。
【0027】
凸部13の高さdを波長λ=405nmに対して(2)式を満たすように決めた可変回折素子1において、凸部13の幅wとピッチPとの比である格子のデューティ比D=w/Pを0.5としたときの、0次回折効率ηの光路差φ依存性のグラフを図2に示す。ここで、液晶の常光屈折率no、異常光屈折率neはそれぞれ1.528、1.708で、凸部13の屈折率nsを液晶の常光屈折率noと等しい1.528とした。
【0028】
グラフからわかるように、配向処理方向と平行な偏光方向をもつ波長405nmの直線偏光に対する0次回折効率ηは、液晶分子141が垂直配向して光路差φが零のときに100%となり、光路差φの増加とともに減少して、(2)式が成り立つとき、即ち光路差φが202.5nmのときに最小値η0を示す。これより、凸部13の高さdを調整、または印加電圧の大きさを調整して液晶層14が示す屈折率を変化させる範囲を設定することにより、凸部13と凹部の液晶層14との光路差φの上限値を調整すれば、波長λの入射光に対する0次回折効率ηを、100%(光路差φが零のとき)から下限値(光路差φが上限値のとき)までの範囲の任意の値に制御できることがわかる。例えば、図2の回折格子の0次回折効率ηを40%に制御する場合には、光路差φが0.12μmとなるように凸部13の高さdまたは印加電圧の範囲を制御すればよい。
【0029】
ところが、可変回折素子1の温度が変動すると、凸部13の屈折率、高さdおよび幅wの変化は無視することができるが、液晶層14の屈折率は無視できない変化を示すので、光路差φの上限値の変化を生じて、0次回折効率の下限値が変動する。そのため、素子温度によらず所望の0次回折効率を安定して得るには、0次回折光強度をモニターして印加電圧を制御する等の付加手段が必要であった。
【0030】
本願発明者は、かかる課題に対して、回折格子の凸部13の高さdを(2)式が成り立つように決めるとともに、格子のデューティ比D=w/Pを調整することにより、温度による変動を抑制して所望の0次回折効率を安定して得られることを見出して、本願発明に至った。
【0031】
図3に、凸部13の高さdを波長λ=405nmに対して(2)式を満たすように決めた可変回折素子1について、デューティ比D=w/Pを0.1から0.9まで0.1刻みで変えたときの、光路差φに対する0次回折効率ηの挙動をプロットしたグラフを示す。ここで、液晶の常光屈折率no、異常光屈折率neを図2の場合と同様とし、周期的な凸部13のピッチPを10μmとした。また、周期的な凸部13のピッチPを4μmとした以外は図3の場合と同様の構成を有する可変回折素子1の0次回折効率ηの挙動をプロットしたグラフを、図4に示す。図3および図4において、デューティ比D=w/Pが0.1、0.2、0.3、0.7、0.8、0.9のプロットは本願発明の構成に対応し、0.4、0.5、0.6のプロットは参考例である。
【0032】
周期的な凸部13のピッチPが10μmでデューティ比D=0.8の可変回折素子1に対して、液晶層14への印加電圧を零とすると、0次回折効率ηを32%に制御することができる。即ち、この可変回折素子1に対して、液晶層14への印加電圧を、零と垂直配向電圧とに切り替えて制御すると、0次回折効率ηを32%と100%とに切り替えることができる。このとき、0次回折効率ηの最小値η0の近傍では、図3、図4からわかるように光路差φの変化に対する0次回折効率ηの変動が小さいので、温度変動により光路差φが変化しても、特段の付加手段を用いることなく0次回折効率ηの変動を小さく抑制することができる。
【0033】
本発明の可変回折素子1では、デューティ比Dを0.05〜0.35または0.65〜0.95としているが、より好ましくは、凸部13の屈折率nsが第1の屈折率n1と等しい場合は0.30以下または0.70以上であって、凸部13の屈折率nsが第2の屈折率n2と等しい場合は0.30以下または0.70以上である。デューティ比Dをこの範囲から選択すると、可変回折素子1の0次回折効率ηを20〜80%の範囲の任意の値とすることができる。それにより、入射光を実質的に減衰させずに透過させる透過率が100%の状態と、透過率が20%〜80%の範囲の任意の値となる状態とを安定に制御可能な可変回折素子が得られる。このような可変回折素子は、例えば、読み出しと書き込みとを切り替えておこなう光ヘッド装置に好ましく用いることができる。
【0034】
凸部13のピッチPは、小さいほど回折角が大きくなって光ヘッド装置に用いた場合に回折光が光記録媒体に集光しないようにすることができるので、15μm以下が好ましく、より好ましくは10μm以下である。不要な回折光の影響を避けるためには、ピッチPを5μm以下とすることが特に好ましい。ただし、凸部13の高さd、凸部13の幅wや凹部の幅の寸法が光の波長の1/3〜10倍の範囲内であると、0次回折効率ηが最小となる光路差φが(2)式で求められる値からずれ、それに伴って最小値η0が(3)式で求められる値からずれる場合があり、その場合は所望の光路差φと0次回折効率ηが得られるように高さdや幅wを調整することが好ましい。
【0035】
以上の説明では、液晶層14の液晶として誘電異方性が正であり、かつ異常光屈折率neが常光屈折率noより大(no<ne)である液晶を用いて、凸部13の屈折率nsを常光屈折率noと等しくした場合について述べたが、誘電異方性が負の液晶を用いたり、凸部13の屈折率nsを異常光屈折率neと等しくしたりする構成を用いることもできる。
【0036】
次に、本発明に係る可変回折素子1を搭載した光ヘッド装置の実施形態を説明する。なお、以下の説明では可変回折素子1に封入される液晶の誘電異方性は正であり、かつ異常光屈折率neが常光屈折率noより大であるものとする。また、液晶分子141の配向方向は、光源が出射する直線偏光の偏光方向と平行であるものとする。
【0037】
図5は、本発明に係る可変回折素子1を備え、波長λ=405nmの直線偏光を用いて光ディスクへの情報の書き込みおよび光ディスクからの情報の読み出しをおこなう光ヘッド装置2の構成の一例を示すブロック図である。
光ヘッド装置2は、波長405nmで偏光方向がY軸方向の直線偏光を出射する光源21と、光源21から出射された光源光を透過させ、光源光と直交する偏光方向(X軸方向)の直線偏光を反射するビームスプリッタ22と、可変回折素子1と、可変回折素子1から出射された光源光を平行光線化するコリメータレンズ23と、コリメータレンズ23から出射された光源光を円偏光に変換する1/4波長板24と、円偏光に変換された光源光を光ディスク20の情報記録面に集光する対物レンズ25と、情報記録面により反射されて対物レンズ25、1/4波長板24、コリメータレンズ23および可変回折素子1を経てビームスプリッタ22に入射し、ビームスプリッタ22により光路を偏向された戻り光を受光して電気信号に変換する光検出器26とを含む。
【0038】
まず光ディスク20に情報を書き込む場合について説明する。光源21から出射された光源光は、ビームスプリッタ22を直進透過して可変回折素子1に入射する。このとき、可変回折素子1の液晶層14には垂直配向電圧が印加されていて、凸部13と凹部とが屈折率差を有さず回折を生じないようにされているので、入射した光源光は、実質的に減衰されることなくコリメータレンズ23へ出射される。
【0039】
コリメータレンズ23に入射した光源光は、平行光線化されて1/4波長板24へ出射される。1/4波長板24に入射した光源光は、円偏光に変換されて、対物レンズ25により光ディスク20の情報記録面に集光、照射されて、光ディスク20に情報が書き込まれる。
【0040】
光ディスク20から情報を読み出す場合には可変回折素子1の液晶層14に電圧を印加しない状態とし、凸部13と凹部が屈折率差を有し、可変回折素子1に入射した光源光の一部が回折されるようにする。これにより、可変回折素子1に入射した光源光は、0次回折光のみが光ディスク20へ出射されるので、読み出しに必要な小さい光量の照射光を低ノイズで安定に実現することができる。
【0041】
また、光ディスク20に情報を書き込む場合も、情報を読み出す場合も、光ディスク20の情報記録面により反射された逆周りの円偏光である戻り光は、1/4波長板24により偏光方向がX軸方向の直線偏光に変換されるので、可変回折素子1によって減衰されることなく光検出器26へ導かれて、高い光利用効率で記録された情報を読み出すことができる。
【0042】
図5の構成では、可変回折素子1をビームスプリッタ22とコリメータレンズ23の間に配置した例を示したが、光源21と対物レンズ25の間であればどこに配置してもよい。また、凸部13の延伸方向は特に制約は無いが、回折光が迷光となって情報記録面に集光したり光検出器26に入射したりしてノイズを発生させないように、凸部13のピッチPと合わせて設定することが好ましい。
【0043】
上記に説明した実施形態以外にも、例えば情報記録面が2層の光ディスクと1層の光ディスクなど、照射光量が異なる光ディスクに適用する光ピックアップ装置において有効に用いることができる。
【実施例】
【0044】
本発明に係る可変回折素子の具体的な製造方法について図1を用いて説明する。
(1)2枚の石英ガラス基板からなる第1の透明基板121および第2の透明基板122のうち、第1の透明基板121の面上にスパッタリング法により、ITOからなる透明電極111、112を形成する。
(2)第1の透明基板121上の透明電極111上に、波長405nmの光に対する屈折率が1.52になるように組成比を調整した、厚さ1.5μmの透明材料であるSiOxy膜を生成する。
【0045】
(3)フォトリソグラフィおよびエッチングによりSiOxy膜を微細加工して、ピッチP=4μm、凸部13の幅w=0.8μm、即ちデューティ比Dが0.2で、凸部13の高さd=1.5μmとなるように回折格子を形成する。なお凸部13の高さdは、光の波長405nmに対して(2)式から求められる凸部13の高さdである1.125μmから調整をおこなった。
(4)2枚の透明基板の透明電極面側に配向膜であるポリイミド膜(図示せず)を成膜する。
(5)回折格子が形成された第1の透明基板121上のポリイミド膜に対して、イオンビーム法により配向処理をおこなう。また、回折格子が形成されていない第2の透明基板122上のポリイミド膜に対して、ラビング処理により配向処理をおこなう。配向処理方向は、回折格子の格子方向と平行な方向とする。
【0046】
(6)一方の透明基板の外周部に直径6.5μmのグラスファイバースペーサを混入したシール15を形成し、2枚の透明基板を透明電極111、112が形成された面を対向させて接着し、基板面間隔が6.5μmの空セルとする。
(7)シール15に設けた注入孔から常光屈折率no=1.52、異常光屈折率ne=1.70、誘電異方性=7の液晶を真空注入し、注入口(図示せず)をアクリル系接着剤で封止して、図1に概略構成図を示した本実施例の可変回折素子1が完成する。
【0047】
本実施例の可変回折素子1の波長λ=405nmの光に対する光学特性を、室温(26℃)で測定した。透明電極111、112間に電圧を印加しない状態では、回折格子の格子が延伸する方向と平行方向に振動する直線偏光に対する0次回折効率ηは65%、直交する方向に振動する直線偏光に対する0次回折効率ηは93%であった。透明電極111、112間に40Vrmsの電圧を印加した状態では、回折格子が延伸する方向と平行に振動する直線偏光に対する0次回折効率ηは89%、直交する方向に振動する直線偏光に対する0次回折効率ηは93%であった。
【0048】
次に、上記の可変回折素子1の電圧を印加しない状態、即ち光路差φ=|ne−no|・dとなる状態での平行方向の0次回折効率ηの温度に対する変化状況を調べた。その結果を図6のグラフ中に黒丸で示す。なお、横軸は素子の温度を、縦軸は0次回折効率ηを表す。このグラフから判るように、素子の温度が26℃から86℃まで変化したときの、0次回折効率ηの変動は約5%であった。
【0049】
比較のために、ピッチPを4μm、凸部の幅wを2μm、即ちデューティ比を0.5とし、凸部13の高さdを(2)式から求められる値の約62%、即ちd=0.7μmとした以外は上記の回折格子と同様とした回折格子を作製して、0次回折効率ηの温度特性を調べた。その測定結果を図6に白丸で示す。このグラフから判るように、素子温度が26℃から86℃まで変動すると、0次回折効率ηは約20%変動した。
【0050】
以上説明したように、(2)式に基づいて凸部13の高さdを決めるとともに凸部13のデューティ比Dを調節することにより、可変回折素子1の光学特性の周囲温度の変化による変動を抑制することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
以上のように、本発明に係る可変回折素子は、小型化が可能かつ配置の自由度が高く、周囲温度の変化による0次回折効率の変動を抑制することができるという効果を有し、光ディスクに対して記録・再生をおこなう光ヘッド装置に用いる可変減衰器として有効である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明に係る可変回折素子の断面図
【図2】デューティ比D=50%の可変回折素子の0次回折効率ηの光路差φ依存性を示すグラフ
【図3】0次回折効率ηの光路差φおよびデューティ比Dに対する依存性を示すグラフ(ピッチP=10μm)
【図4】0次回折効率ηの光路差φおよびデューティ比Dに対する依存性を示すグラフ(ピッチP=4μm)
【図5】本発明に係る可変回折素子を備える光ヘッド装置の構成を示すブロック図
【図6】0次回折効率ηの温度依存性を示すグラフ
【図7】従来の可変回折素子の透明電極の電極パターンを示す平面図
【符号の説明】
【0053】
1 可変回折素子
2 光ヘッド装置
13 凸部
14 液晶層
21 光源
24 波長板
25 対物レンズ
26 光検出器
111、112 透明電極
121 第1の透明基板
122 第2の透明基板
141 液晶分子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向面に透明電極が形成された第1の透明基板および第2の透明基板と、
前記第1の透明基板および前記第2の透明基板の少なくとも一方の前記対向面上にピッチPで周期的に形成された所定方向に延伸する凸部と、
前記第1の透明基板および前記第2の透明基板の間に挟持された液晶層とを備える可変回折素子であって、
前記液晶層は、外部電源から前記透明電極に電圧を印加して液晶分子の配向状態を制御することによって、所定の偏光方向の直線偏光の入射光に対する屈折率が、第1の屈折率n1から第2の屈折率n2(ただしn1<n2)まで変化するものであり、
前記凸部は、前記第1の屈折率n1または前記第2の屈折率n2と等しい屈折率nsを有する透明材料からなり、
前記凸部の高さdは、{(0.5+m)・λ/Δn}(ただし、Δn=|n2−n1|で、mは零を含む自然数、λは入射光の波長)であって、前記凸部の幅wとピッチPとの比であるデューティ比D=w/Pが0.05〜0.35または0.65〜0.95であることを特徴とする可変回折素子。
【請求項2】
前記凸部の屈折率nsがn1と等しく、前記デューティ比D=w/Pが0.05〜0.3または0.75〜0.95である請求項1に記載の可変回折素子。
【請求項3】
前記凸部の屈折率nsがn2と等しく、前記デューティ比D=w/Pが0.05〜0.25または0.7〜0.95である請求項1に記載の可変回折素子。
【請求項4】
波長λの直線偏光である光源光を出射する光源と、
前記光源から出射された前記光源光を光記録媒体の情報記録面に集光する対物レンズと、
前記情報記録面により反射された戻り光を検出する光検出器とを含む光ヘッド装置であって、
前記光源と前記対物レンズの間の光路上に請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の可変回折素子が配置されることを特徴とする光ヘッド装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−234762(P2008−234762A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−72435(P2007−72435)
【出願日】平成19年3月20日(2007.3.20)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】