説明

可変圧縮比エンジン用ブーツシール

【課題】高いシール性をもち、耐熱性及び耐酸性に優れた可変圧縮比エンジン用ブーツシールを提供する。
【解決手段】ブーツシール3は、シリンダブロック1とクランクケース2との相対位置を変化させて燃焼室の容積を変化させる可変圧縮比エンジンに取り付けられると共にシリンダブロック1とクランクケース2との間を覆い一端がシリンダブロック1に固定され他端がクランクケース2に固定される。ブーツシール3は、内面側に配設されフッ素系ゴムからなる内側層30aと内側層30aよりも外側に配設された外側層30bとからなるブーツ本体30と、蛇腹筒状のブーツ本体30の少なくとも径方向内側に窪む谷部31aに設けられた補強体35とを備えている。ブーツ本体30は、周方向に展開された状態で成形した後に周方向の巻き始め端部と巻き終わり端部とを接合することで弾性変形可能な蛇腹筒状をなしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変圧縮比エンジン用ブーツシールに関する。
【背景技術】
【0002】
車両の走行状態に応じて混合気の圧縮比を変化させる可変圧縮比エンジンが知られている。可変圧縮比エンジンによると、低負荷時に圧縮比を高くすることでトルクを引き出すことができ、高負荷時に圧縮比を低くすることでノッキングを抑制することができる。
【0003】
エンジンの圧縮比を変化させる技術として、シリンダブロックとクランクケースとの少なくとも一方を移動させて両者の相対位置を変化させることで、ピストンの上下動に伴うシリンダ内の燃焼室の最大容積と最小容積の比率、即ち圧縮比を変化させている。
【0004】
ここで、エンジン内のピストンとシリンダの隙間から燃焼室の混合気が漏出しクランクケース等に漏れ出す場合がある。漏出した混合気は、一般にブローバイガスと呼ばれ、未燃焼の燃料を含んでいる。ブローバイガスは、クランクケース内のクランクルームを通じて吸気管に還流される。
【0005】
しかし、上記のようにシリンダブロックとクランクケースとの相対位置が変化すると、シリンダブロックとクランクケースとの間からブローバイガスやエンジンオイルなどがエンジン外部に流出し飛散して、エンジン周りを汚染したり、エンジン周りの金属部品を腐食させたりするなどの問題が生じる。
【0006】
そこで、従来、図8、図9に示すように、シリンダブロック91の外周面の全周にわたり凹型溝90を形成し、凹型溝90に環状のシール材92を介装し、シール材92をクランクケース93の内周面に摺動可能に密接させることが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−303385号公報
【特許文献2】特開2000−274529号公報
【特許文献3】特開2007―78154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来の可変圧縮比エンジン用ブーツシールでは、シール材92の外周面が、クランクケース93の内周面に摺接して、シール材92の外周面の上下の空間を遮断しているにすぎない。このため、シリンダブロック91とクランクケース93との間の気密性を確保するためには、シール材92の形状及び特性に高度な精度が要求される。また、シリンダブロック91とクランクケース93との摺接部の気密性を向上させる程、シリンダブロック91とクランクケース93との摺動抵抗が増し、摺動性が低下するという問題があった。そのため、低い精度のシール材であっても、高い気密性を確保したいという要望があった。
【0009】
今後、シリンダブロックとクランクケースとの相対移動量が増加することも考えられる。
【0010】
一方、精密測定装置の振動吸収部材や等速継手用ブーツとして使用されるゴム製の蛇腹形状の伸縮部材(特許文献2、3)がある。本願発明者は、この蛇腹形状の伸縮部材を利用して、シリンダブロックとクランクケースとの間の隙間を被覆することを考えている。
【0011】
しかし、伸縮部材に用いられている一般のゴム製の伸縮部材は、酸性及び高温に弱い材質である。燃焼室から漏出するブローバイガスは、酸性で高温である。このため、ゴム製の伸縮部材をそのまま圧縮比エンジン用シールブーツとして用いた場合には、ゴムの劣化が生じてしまう。そこで、耐熱性の高いフッ素系ゴムを用いることも考えられる。しかし、エンジンのブーツシールは比較的大きく、価格の高いフッ素系ゴムの材料費が高くなってしまう。このため、上記特許文献2,3に使用されている伸縮部材をそのまま、可変圧縮比エンジンのブーツシール部材として使用することはできない。
【0012】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、高いシール性をもち、耐熱性及び耐酸性に優れた可変圧縮比エンジン用ブーツシールを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1)本発明の可変圧縮比エンジン用ブーツシールは、シリンダブロックとクランクケースとの相対位置を変化させて燃焼室の容積を変化させる可変圧縮比エンジンに取り付けられると共に前記シリンダブロックと前記クランクケースとの間を覆い一端が前記シリンダブロックに固定され他端が前記クランクケースに固定される可変圧縮比エンジン用ブーツシールであって、
内面側に配設されフッ素系ゴムからなる内側層と前記内側層よりも外側に配設された外側層とからなるブーツ本体とを有し、周方向に展開された状態で成形した後に周方向の端部同士を接合することで弾性変形可能な蛇腹筒状を呈しているブーツ本体と、
前記蛇腹筒状の前記ブーツ本体の少なくとも径方向内側に窪む谷部に設けられた補強体と、を備えていることを特徴とする。
【0014】
上記ブーツシールは、上述した可変圧縮比エンジンに取り付けられるシール部材であり、蛇腹筒状を呈している。このため、本発明のブーツシールは、シリンダブロックとクランクケースとの相対移動に追従して変形し、シリンダブロックとクランクケースとの間を気密にシールすることができる。
【0015】
ブーツ本体の内面側は、フッ素系ゴムからなる内側層で形成されている。フッ素系ゴムは、耐熱性、耐油性、耐薬品性に優れる材料である。このため、ブーツシールの内側面が、ブローバイガスに晒されても、ブーツシールの劣化を抑制することができる。
【0016】
また、ブーツ本体の外側層は、フッ素系ゴム以外の材質を用いることができるため、ブーツシール全体でのフッ素系ゴムの使用量を少なくすることができ、ブーツシールのコストを低く維持することができる。
【0017】
また、蛇腹筒状のブーツ本体の少なくとも径方向内側に窪む谷部には、補強体が設けられている。このため、蛇腹部の谷部の剛性が高くなり、谷部が径方向外側に反転することが抑えられる。
【0018】
また、ブーツシールは、周方向に展開した状態で成形された後に、周方向の端部同士を重ね合わせて蛇腹筒状を形成している。このため、成形が容易となり、安価にシールブーツを作製することができる。
【0019】
(2)前記補強体は、前記ブーツ本体の周方向全体にわたって環状に延びる環状補強体であることが好ましい。この場合には、ブーツ本体が径方向外側に拡径しようとしたときに、環状補強体によって周方向の長さが延びることが抑えられ、確実にブーツシールの反転を抑えることができる。
【0020】
(3)前記補強体は、補強繊維で形成された不織布又は織編物からなる補強繊維体からなり、前記補強繊維体は、前記内側層と前記外側層との間に配置されていることが好ましい。補強繊維体により、ブーツ本体の変形強度を高めつつ、周方向で若干の伸縮が可能である。このため、ブーツシールの伸縮を妨げることなく、ブーツシールの反転を効果的に抑制することができる。
【0021】
(4)前記補強繊維体は、網目構造をもつ織編物であることが好ましい。網目構造の網目で内側層と外側層とが接合することができ、接合強度が高くなる。また、網目に内側層と外側層とが入り込むので、補強繊維体を配設した部分の変形が抑えられる。
【0022】
(5)前記補強繊維体の織糸方向は、前記ブーツシールの周方向に対して傾斜しており、且つ織糸の各交点は接合されていることが好ましい。周方向に対して傾斜する方向に網目が配列されるため、ブーツ本体の周方向に若干の伸縮を許しながら、ブーツシールの反転を効果的に抑えることができる。
【0023】
(6)前記補強繊維体は、織り構造を有する織布であることが好ましい。この場合には、ブーツ本体の周方向に若干の伸縮を許しながら、ブーツシールの反転を効果的に抑えることができる。
【0024】
(7)前記補強繊維体は、少なくとも前記ブーツ本体の前記谷部から前記シリンダブロックに固定されている部分までにわたって配置されていることが好ましい。ブーツ本体の谷部とシリンダブロックに固定されている部分とは、ブーツシール伸縮時に応力が集中する部分であり、この部分に補強繊維体を配設することで亀裂や破れを抑制することができる。このような織布としては、例えば、ラッセル織りなどがある。
【0025】
(8)前記補強繊維体は、前記ブーツシールの周方向で接合された接合部で肉厚方向に重なり合っていることが好ましい。接合部での接合強度を高めることができる。
【0026】
(9)前記環状補強体は、前記ブーツ本体よりも高い引張強度をもつ線材であり、前記線材は、前記蛇腹部の前記谷部に埋設されていることが好ましい。線材により谷部が拡径することが抑えられ、ブーツ本体の径方向外側への反転を抑えることができる。
【0027】
(10)前記線材の表面には、延び方向に所定間隔で凹凸が形成されていることが好ましい。線材表面の凹凸により、内側層と外側層が引っかかり、線材に対して内側層と外側層とのズレを防止でき、ブーツシールの周方向の拡径を抑えることができる。
【0028】
(11)前記線材には、延び方向に所定間隔でケバ又はループが形成されていることが好ましい。線材のケバ又はループにより、内側層と外側層が引っかかり、線材に対して内側層と外側層とのズレを防止でき、ブーツシールの周方向の拡径を抑えることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の可変圧縮比エンジンのブーツシールは、内側層がフッ素系ゴムで形成されているため、高いシール性をもち、耐熱性及び耐酸性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る、可変圧縮比エンジンに取り付けたブーツシールの断面図である。
【図2】第1の実施形態に係る、可変圧縮比エンジンに取り付けたブーツシールの斜視図である。
【図3】第1の実施形態に係る、ブーツシールに埋設されたネットの配置説明図である。
【図4】第1の実施形態に係る、ブーツシールの製造方法を示す説明図である。
【図5】第1の実施形態に係る、シート体を内型に設置した状態の成形用の金型の平面図である。
【図6】第2の実施形態に係る、ブーツシールの断面図である。
【図7】変形例に係る、可変圧縮比エンジンに取り付けたブーツシールの断面図である。
【図8】従来例に係る、シリンダブロック及びクランクケースの斜視説明図である。
【図9】従来例に係る可変圧縮比エンジンのシール構造の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態について図面を用いて説明する。本実施形態に係る可変圧縮比エンジン用ブーツシールは、図1に示すように、シリンダブロック1とクランクケース2との相対位置を上下方向に変化させて圧縮比を変化させる可変圧縮比エンジンに設けられ、シリンダブロック1とクランクケース2との間の間隙10を覆うブーツシール3である。
【0032】
シリンダブロック1は、略矩形状を呈しており、略箱形状のクランクケース2の中に配置されている。シリンダブロック1は、クランクケース2に対して上下方向に移動可能とされている。シリンダブロック1の外周面1cは、隙間10を介して、クランクケース2の内周面2cと対向している。この隙間10には、燃焼室から漏出したブローバイガスが流通している。
【0033】
図2に示すように、シリンダブロック1には、複数の円筒部1aが直列に配設されている。円筒部1aは、シリンダを構成しており、ピストンが上下方向に移動可能に配置されている。円筒部1aの上部には、ピストンの頂面と後述のシリンダヘッド11の下面との間に燃焼室が形成されている。空気と燃料との混合気の圧縮、爆発、排出、吸気の燃焼サイクルが繰り返されることにより、燃焼室の容積の増減が繰り返される。ピストン上死点時と下死点時の燃焼室の容積の比率は、圧縮比といわれる。
【0034】
クランクケース2は、略箱形状を呈しており、その内部のクランクルーム(図略)には、シリンダブロック1の下部が上下動可能に挿入されている。クランクケース2の上部は、シリンダブロック1を囲むように四角枠形状を呈している。クランクケース2のクランクルームには、円筒部1aの配設位置と対応する位置にピストンが配設されている。シリンダブロック1は、図略のカム軸などの移動手段によりクランクケース2に対して上下方向に移動される。この移動量の幅は、例えば、15〜20mm程度である。シリンダブロック1がクランクケース2に対して上下方向に移動されると、これに伴い、シリンダブロック1の円筒部1aとピストンとシリンダヘッド11の下面との間に形成された燃焼室の圧縮比も変動される。燃焼室の圧縮比を増減させることで、エンジンにより生じる駆動トルクが調整される。
【0035】
図1に示すように、シリンダブロック1の上部には、メタル製のシリンダヘッドガスケット5を介設させて、シリンダヘッド11が配置されている。
【0036】
シリンダヘッドガスケット5は、シリンダブロック1とシリンダヘッド11とで挟持されることで、シリンダブロック1とシリンダヘッド11との間をシールしている。シリンダヘッドガスケット5は、シリンダブロック1の平坦な上面と略同一寸法の矩形板状を呈している。シリンダヘッドガスケット5は、厚さ0.2〜0.3mmの外側メタルプレート51と、厚さ0.6〜0.8mmの中間メタルプレート52と、厚さ0.2〜0.3mmの内側メタルプレート53を、順に積層してかしめにより一体化されてなる。外側メタルプレート51、中間メタルプレート52及び内側メタルプレート53は、いずれもSUS(ステンレス)材料からなる。
【0037】
図2に示すように、シリンダヘッドガスケット5は、シリンダブロック1の円筒部1aの数に対応する数のピストン用開口5aと、エンジンの冷却系統、潤滑系統等のシリンダ周辺部材に対応する数の周辺部材用開口5bとが形成されている。
【0038】
図1に示すように、外側メタルプレート51及び内側メタルプレート53の外周縁部、各ピストン用開口5aの周縁部、及び各周辺部材用開口5bの周囲縁部には、それぞれ、リング状をなすシール凸部5cがプレス加工により形成されている。外側メタルプレート51に形成されたシール凸部5cは下方に突出し、内側メタルプレート53に形成されたシール凸部5cは上方に突出している。外側メタルプレート51に形成されたシール凸部5cと内側メタルプレート53に形成されたシール凸部5cとで、中間メタルプレート52を挟持することで、各シール凸部5cが上下方向に弾性変形して、シリンダブロック1とシリンダヘッド11との間が確実にシールされる。
【0039】
ブーツシール3は、ブーツ本体30と、補強体35とを備えている。ブーツ本体30は、弾性変形可能な蛇腹筒状の変形部31と、ブーツシール3をシリンダブロック1に固定する部位であるシリンダ取付部32と、ブーツシール3をクランクケース2に固定する部位であるクランクケース取付部33とを有する。
【0040】
変形部31は、径方向内側に窪む谷部31aを1つもつ蛇腹形状をなしている。変形部31の軸方向の一端(上端)には、シリンダ取付部32が一体化されており、変形部31の軸方向の他端(下端)には、クランクケース取付部33が一体化されている。
【0041】
シリンダ取付部32は、埋設部32aと、埋設部32aに一部分が埋設されるメタルリング34とを有する。メタルリング34は、厚さ0.6〜0.8mmのSUS(ステンレス)製のメタルプレートを用いており、矩形リング形状を呈している。メタルリング34の上面とシリンダヘッドガスケット5の上面とは略面一となっており、メタルリング34の外側周縁部は、下方に90°屈曲させた矩形筒状を呈している。メタルリング34の内周側には、上下方向に貫通した複数個のアンカー孔34cが全周にわたって形成されている。
【0042】
アンカー孔34cの内部に埋設部32aの一部分が入り込むようにインサート成形されることにより、埋設部32aとメタルリング34とが強固に一体化されている。メタルリング34の内周側の下面には、矩形リング板状のシール部32dが埋設部32aと一体に形成されている。シール部32dの下面には、矩形リング形状をなし下方に突出するシールリブ32eが形成されている。
【0043】
シリンダ取付部32のシール部32dをシリンダブロック1の段部1d上に載せた後、メタルリング34及びシール部32dをシリンダブロック1の段部1dとシリンダヘッド11の下面11aとで挟持することにより、シリンダ取付部32がシリンダブロック1に固定される。シールリブ32eが段部1dに圧接することによって、シリンダ取付部32が、シリンダブロック1にシール性高く取り付けられる。
【0044】
クランクケース取付部33は、矩形リング形状をなしており、クランクケース取付部33の下面には、下方に突出する矩形リング形状の係止部33aが下面の全周にわたって形成されている。
【0045】
クランクケース取付部33をクランクケース2に固定する際には、クランクケース取付部33の係止部33aを、クランクケース2の上面2aに形成されている係止溝2bに挿入する。クランクケース取付部33は、矩形リング形状のリテーナ28とクランクケース2によって挟持され、クランクケース2にシール性高く取り付けられている。リテーナ28は、クランクケース2の上面2aにボルト29を締結することで固定されている。
【0046】
ブーツ本体30は、内面側に配設された内側層30aと、内側層30aよりも外側に配設された外側層30bとからなる。内側層30aは、フッ素系ゴムからなり、外側層30bは、エチレンアクリルゴム(AEM)からなる。フッ素系ゴムとしては、例えば、フッ化ビニリデン系ゴム(FKM)、テトラフルオロエチレン-プロピレン系ゴム(FEPM)、テトラフルオロエチレン-パープルオロビニルエーテル系ゴム(FFKM)等のフッ素ゴムや、その共重合体の中から選択して用いることができる。これらの中でも、フッ化ビニリデン系ゴム(FKM)がよい。本実施形態においては、内側層30aとして、フッ素系ゴムの中のFKMを用いる。
【0047】
外側層30bは、変形部31と、その上下に一体に配設されているシリンダ取付部32及びクランクケース取付部33とを形成している。内側層30aは、外側層30bの内周面全体を被覆していて、ブーツ本体30の内周面全体を構成している。
【0048】
図3に示すように、補強体35は、ラッセル織で編成されたネット35aを用いていている。ラッセル織は、織り構造を有する織布であるとともに格子状の網目構造を有する。糸は、ポリアミド(ナイロン66など)、芳香族アミド、ポリフェニレンサルファイド(PPS)などの強化樹脂繊維、カーボン繊維、ガラス繊維、セラミック繊維などの無機繊維で作製されたフィラメントを用いている。ネット35aの網目35bの開口大きさは、縦横とも2mmであり、織糸35cの太さは 470dtex(420デニール)mmである。また、織布のシワ防止のため、エポキシ樹脂を含浸してもよい。
【0049】
補強体35は、ブーツ本体30の周方向全体に環状に埋設されている環状補強体であり、内側層30aと外側層30bとの間に配置されている。補強体35は、変形部31の上端から下端までの間に渡って配設されている。補強体35の上端は、シリンダ取付部32のメタルリング34の下部と一部重なり合っている。補強体35の織糸方向は、本実施形態においては、ブーツシール3の周方向Aに対して45°の角度αで傾斜している。この角度αは、15〜75°、更には、25〜65°の範囲であることが好ましい。ネット35aが周方向に適度に伸縮して、ブーツシールの上下方向の伸縮を許しつつ、谷部31aの反転を抑制することができる。なお、ブーツシール3の周方向Aは、変形部31の谷部31aの延び方向と平行である。
【0050】
本実施形態のブーツシール3の製造方法を説明する。図4(a)に示すように、FKM材料を混練軟化させた後、熱ロールを用いて、未加硫のFKMカレンダーシート37aを成形する。また、AEM材料を混練し軟化させた後、熱ロールを用いて、未加硫のAEMカレンダーシート37bを成形する。FKMカレンダーシート37aとAEMカレンダーシート37bとの間に、ネット35aを配置し、これらを熱ロールで圧着して、シート体37を得る。
【0051】
次に、内型71、外型72、上型73、及び下型74とからなる金型7を準備する(図4(d)、図5)。内型71、外型72,上型73、及び下型74は、それぞれブーツシールの内面形状、外面形状、上面形状、下面形状に対応する形状の型面71a、72a、73a、74aをもつ。外型72は、ブーツシールの周方向に複数に分割されていて、閉型したときにブーツシールの外面形状に対応する型面72aを形成する。
【0052】
図4(b)、図5に示すように、型開きした内型71の型面71aに、シート体37を巻きつけて、巻き始め端部37cと巻き終わり端部37dとを重ね合わせる。巻き始め端部37cと巻き終わり端部37dとは、型面71aの直線状に延びる部分で重なり合わせる。次に、メタルリング34をシート体37の上方に配置する。
【0053】
図4(d)に示すように、内型71に対して、各外型72を近接させ、また上型73及び下型74を近接させて、型締めする。内型71、外型72、上型73、及び下型74の型面71a、72a、73a、74aにより囲まれて形成されたキャビティ70には、シート体37とメタルリング34とが配置されていて、その周囲には隙間が残る。
【0054】
図4(e)に示すように、キャビティ70内の隙間に、AEM材料を射出成形する。AEM材料の射出ゲート部Gaは、上型73と内型71との合わせ部に位置させる。
【0055】
加熱した金型7の中に一定時間AEMゴムを保持することにより、金型7のキャビティ70内のゴム材料を加硫させる。以上によりブーツシール3が得られる。
【0056】
本実施形態のブーツシール3は、蛇腹筒状の変形部31をもつ。このため、ブーツシール3は、シリンダブロック1とクランクケース2との相対移動に追従して変形し、シリンダブロック1とクランクケース2との間を気密にシールすることができる。
【0057】
ブーツシール3のブーツ本体30の内面側は、フッ素系ゴムからなる内側層30aで形成されている。フッ素系ゴムは、耐酸性及び耐熱性に優れる材料である。このため、ブーツシール3の内側面が、酸性で高温のブローバイガスに晒されても、ブーツシール3の劣化を抑制することができる。
【0058】
また、ブーツ本体30の外側層30bは、フッ素系ゴム以外の材質を用いているため、ブーツシール3全体でのフッ素系ゴムの使用量を少なくすることができ、ブーツシール3のコストを低く維持することができる。
【0059】
また、蛇腹筒状のブーツ本体30の少なくとも径方向内側に窪む谷部31aには、補強体35が設けられている。このため、変形部31の谷部31aの剛性が高くなり、谷部が径方向外側に反転することが抑えられる。
【0060】
また、ブーツシール3は、周方向に展開した状態で成形された後に、周方向の巻き始め端部37cと巻き終わり端部37dとを重ね合わせて蛇腹筒状を形成している。このため、成形が容易となり、安価にシールブーツ3を作製することができる。
【0061】
補強体35は、網目構造をもつネット35aで構成されている。このため、ブーツ本体30の変形強度を高めつつ、周方向で若干の伸縮が可能である。このため、ブーツシール3の伸縮を妨げることなく、ブーツシール3の反転を効果的に抑制することができる。
【0062】
また、網目構造の網目で内側層30aと外側層30bとが接合することができ、接合強度が高くなる。また、網目に内側層30aと外側層30bとが入り込むので、補強繊維体35を配設した部分の変形が抑えられる。
【0063】
また、ネット35aの織糸方向は、ブーツシール3の周方向に対して傾斜している。このため、ブーツ本体30の周方向に若干の伸縮を許しながら、ブーツ本体30の反転を効果的に抑えることができる。
【0064】
補強体35は、ブーツ本体30の上端部から下端部の全体に配置されている。このため、ブーツシール伸縮時に応力が集中するブーツ本体30の谷部31aやシリンダブロック1に固定されている上部分が補強され、これらの部分に亀裂や破れを抑制することができる。
【0065】
(第2の実施形態)
第2の実施形態は、図6に示すように、補強体35として、ネット35aに代えて環状線材35bを用いている点が、第1の実施形態と相違する。本実施形態において、環状線材35bは、SUS、Cuなどの金属製のワイヤーや、芳香族ポリアミド、PPS(ポリフェニレンサルファイド)などで融点が加硫温度よりも高い強化樹脂で形成された糸を用いる。ワイヤー及び糸のいずれも、糸延び方向に所定間隔で凹凸が形成されているとよい。補強体35が糸である場合には、糸延び方向に所定間隔にケバ又はループを形成するのもよい。具体的には、ノットヤーン、ネップヤーン、フレーキヤーン、スラブヤーン、ループヤーン、リングヤーン、タムタムヤーン、ノップ糸、モールヤーン、壁糸などの意匠撚糸を用いるとよい。この場合には、ワイヤーや糸の表面に凹凸が形成され、この凹凸により、ブーツ本体30の内側層30aと外側層30bが引っかかり、内側層30aと外側層30bが補強体35に対してずれることを防止でき、ブーツシール3の周方向の拡径を抑えることができる。
【0066】
環状線材35bは、ブーツ本体30の変形部31の谷部31aの内側層30aの中に埋設されている。
【0067】
環状線材35bは、FKMカレンダーシート37aとAEMカレンダーシート37bとからなるシート体37を内型71の型面71aに巻き付ける時に型面71aの谷部31aを成形する部分の外周側に設置し、射出されたAEM材料でシート体37とともにインサート成形される(図4,図5参照)。また、シート体37を押し出す際に、環状線材35bを同時に押し出して、シート体37にインサートしておくこともできる。
【0068】
第2の実施形態においては、シリンダ取付部32の内側層30aが、フッ素系ゴムから構成されており、外側層30bがAEMから構成されている。シリンダ取付部32の内側層30aをフッ素系ゴムで構成するには、例えば、フッ素系ゴムからなる置きゴム30cを予め成形しておき、この置きゴム30cをシート体37とともに内側の型面に配置した状態で、AEM材料を射出するとよい。
【0069】
また、第2の実施形態においても、第1の実施形態と同様に、シリンダ取付部32をAEMのみから構成してもよい。
【0070】
(変形例)
第2の実施形態の環状線材35bは、第1の実施形態のネット35aと組み合わせてもよい。
【0071】
第1〜第2の実施形態においては、ブーツ本体30の変形部31が1つの谷部31aを有していたが、図7に示すように、2つの谷部31aを有していても良い。即ち、ブーツシール30の変形部31は、径方向内側に窪む谷部31aと、径方向外側に突出する山部31bと、径方向内側に窪む谷部31aとを有していても良い。2つの谷部31aがある場合には、ブーツシール3の伸縮時の径方向の変形量を少なく抑えつつ、上下方向の伸縮量を大きくすることができる。図7には、補強体35としてネット35aを用いた例を示したが、図7においてネット35aに代えて又はネット35aとともに、環状線材35b又は反転防止リブ35cを用いても良い。
【0072】
第1〜第3の実施形態においては、外側層30bにはAEMゴムを用いたが、これに限定されず、ACM(アクリルゴム)、シリコンなどのゴムや、熱可塑性エラストマーを用いても良い。
【0073】
第1の実施形態においては、補強体35としてネット35aをブーツシール3の上端から下端までの全体にわたって配置したが、変形部31の谷部31a近傍にのみ配置してもよい。また、ネット35aは、応力が集中しやすい変形部31の谷部31aとシリンダ取付部32の2カ所に分断されて配置されてもよい。
【0074】
また、第1の実施形態におけるネット35aに代えて、平テープなどの繊維集合体やバンド状の織編物を、ブーツ本体30の変形部31の谷部31aの近傍に埋設してもよい。この場合には、谷部31aに集中しやすい応力を面方向に分散させることができ、谷部31aへの応力集中を緩和させることができる。
【符号の説明】
【0075】
1:シリンダブロック、2:クランクケース、3:ブーツシール、4:隙間、5:シリンダヘッドガスケット、7:金型、11:シリンダヘッド、30:ブーツ本体、30a;内側層、30b:外側層、31:変形部、31a:谷部、32:シリンダ取付部、33:クランクケース取付部、34:メタルリング、35:補強体、35a:ネット、35b:環状線材、37:シート体、37c:巻き始め端部、37d:巻き終わり端部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダブロックとクランクケースとの相対位置を変化させて燃焼室の容積を変化させる可変圧縮比エンジンに取り付けられると共に前記シリンダブロックと前記クランクケースとの間を覆い一端が前記シリンダブロックに固定され他端が前記クランクケースに固定される可変圧縮比エンジン用ブーツシールであって、
内面側に配設されフッ素系ゴムからなる内側層と前記内側層よりも外側に配設された外側層とからなるブーツ本体とを有し、周方向に展開された状態で成形した後に周方向の端部同士を接合することで弾性変形可能な蛇腹筒状を呈しているブーツ本体と、
前記蛇腹筒状の前記ブーツ本体の少なくとも径方向内側に窪む谷部に設けられた補強体と、を備えていることを特徴とする可変圧縮比エンジン用ブーツシール。
【請求項2】
前記補強体は、前記ブーツ本体の周方向全体にわたって環状に延びる環状補強体である請求項1記載の可変圧縮比エンジン用ブーツシール。
【請求項3】
前記補強体は、補強繊維で形成された不織布又は織編物からなる補強繊維体からなり、前記補強繊維体は、前記内側層と前記外側層との間に配置されている請求項2記載の可変圧縮比エンジン用ブーツシール。
【請求項4】
前記補強繊維体は、網目構造をもつ織編物である請求項3記載の可変圧縮比エンジン用ブーツシール。
【請求項5】
前記補強繊維体の織糸方向は、前記ブーツシールの周方向に対して傾斜しており、且つ織糸の各交点は接合されている請求項3又は4に記載の可変圧縮比エンジン用ブーツシール。
【請求項6】
前記補強繊維体は、織り構造を有する織布である請求項1〜5のいずれか1項に記載の可変圧縮比エンジン用ブーツシール。
【請求項7】
前記補強繊維体は、少なくとも前記ブーツ本体の前記谷部から前記シリンダブロックに固定されている部分までにわたって配置されている請求項3〜6のいずれか1項に記載の可変圧縮比エンジン用ブーツシール。
【請求項8】
前記補強繊維体は、前記ブーツシールの周方向で接合された接合部で肉厚方向に重なり合っている請求項3〜7のいずれか1項に記載の可変圧縮比エンジン用ブーツシール。
【請求項9】
前記環状補強体は、前記ブーツ本体よりも高い引張強度をもつ線材であり、前記線材は、前記蛇腹部の前記谷部に埋設されている請求項2記載の可変圧縮比エンジン用ブーツシール。
【請求項10】
前記線材の表面には、延び方向に所定間隔で凹凸が形成されている請求項9記載の可変圧縮比エンジン用ブーツシール。
【請求項11】
前記線材には、延び方向に所定間隔でケバ又はループが形成されている請求項10記載の可変圧縮比エンジン用ブーツシール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−202371(P2012−202371A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−70002(P2011−70002)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】