説明

可変圧縮比内燃機関

【課題】 シリンダブロックとクランクケースとがシリンダの中心軸に沿って相対移動することで、圧縮比を変更可能に構成された、可変圧縮比内燃機関を、より安価に実現し、あるいはより安定的に動作させるようにする。
【解決手段】 内燃機関(1)は、カムシャフト(51)と、このカムシャフト(51)を収容するブロック側支持部(52)及びクランクケース側支持部(54,55)と、を備えている。この内燃機関(1)は、カムシャフト(51)の回転駆動に応じて、シリンダブロック(2)とクランクケース(4)とがシリンダ(21)の中心軸(CCA)に沿って相対移動することで、圧縮比を変更可能に構成されている。この内燃機関(1)においては、シリンダブロック(2)とは別体のブロック側支持部(52)が、シリンダブロック(2)に装着され得るようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダブロックとクランクケースとがシリンダの中心軸に沿って相対移動することで、圧縮比を変更可能に構成された、可変圧縮比内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の内燃機関として、例えば、特開2003−206771号公報、特開2006−316770号公報、特開2007−56837号公報、特開2007−64153号公報、等に開示されたものが知られている。かかる内燃機関においては、前記クランクケース(ロアケースとも称される)と前記シリンダブロックとが相対移動可能に連結されている。この連結部分には、圧縮比を変更するための可変圧縮比機構が設けられている。
【0003】
この可変圧縮比機構は、前記クランクケースに対して前記シリンダブロックをスライドさせるためのスライド機構から構成されている。このスライド機構は、前記シリンダブロックと前記クランクケースとの間に設けられている。具体的には、このスライド機構は、カム軸と、カム収納孔と、軸受収納孔と、から構成されている。
【0004】
前記カム収納孔は、前記シリンダブロックの両側下部に形成された隆起部に設けられている。前記軸受収納孔は、前記クランクケースの上部から外側(上側)に突出するように設けられた立壁部に設けられている。
【0005】
前記カム軸は、軸部と、この軸部に対して固定されているカム部と、前記軸部に対して回転可能に取り付けられた可動軸受部と、から構成されている。前記カム部は、前記シリンダブロック側に形成された前記カム収納孔に収納されている。また、前記可動軸受部は、前記クランクケース側に形成された前記軸受収納孔に収納されている。
【0006】
かかる構成を有する内燃機関においては、運転状態に応じて前記カム軸が回転駆動されることで、前記シリンダブロックが前記クランクケースに対して、前記シリンダの中心軸に沿って相対的にスライドする。これにより、圧縮比が変更される。例えば、ノッキングの抑制等のために圧縮比が低く設定されたり、燃費向上のために圧縮比が高く設定されたりする。
【特許文献1】特開2003−206771号公報
【特許文献2】特開2006−316770号公報
【特許文献3】特開2007−56837号公報
【特許文献4】特開2007−64153号公報
【発明の開示】
【0007】
この種の内燃機関を、市場に提供され得るように、より安価に実現し、あるいは、より安定的に動作させるようにするためには、前記可変圧縮比機構の周辺の機械的構成(例えば、前記可変圧縮比機構の組み立てを含む前記シリンダブロックと前記クランクケースとの組み付け作業のしやすさを考慮した機械的構成、前記可変圧縮比機構の周辺の剛性、前記可変圧縮比機構の作動の円滑性、等)について、より改善の余地がある。本発明は、このような課題に対処するためになされたものである。
【0008】
本発明の可変圧縮比内燃機関は、シリンダブロックと、クランクケースと、可変圧縮比機構と、を備えている。
【0009】
前記シリンダブロックには、シリンダが形成されている。このシリンダには、ピストンが往復移動可能に収容されている。前記クランクケースは、クランクシャフトを回転可能に支持する部材である。このクランクシャフトは、前記ピストンの往復移動に基づいて回転駆動されるようになっている。
【0010】
前記可変圧縮比機構は、前記シリンダブロックと前記クランクケースとを相対的に移動(スライド)させることで、圧縮比を変更可能に構成されている。この可変圧縮比機構は、カムシャフトと、ブロック側支持部と、クランクケース側支持部と、を備えている。
【0011】
前記カムシャフトは、円柱状のジャーナル部と、前記ジャーナル部から突出するように設けられたカム部と、を備えている。
【0012】
前記ブロック側支持部は、前記シリンダブロックとは別体に形成された部材である。このブロック側支持部は、前記シリンダブロックに装着され得るように構成されている。また、このブロック側支持部は、前記カム部及び前記ジャーナル部のうちの一方を収容し得るように構成されている。
【0013】
前記クランクケース側支持部は、前記クランクケース側に設けられている。このクランクケース側支持部は、他方(前記カム部及び前記ジャーナル部のうちの前記一方とは異なる方)を収容し得るように構成されている。
【0014】
この可変圧縮比機構は、前記カムシャフトの回転駆動に応じて、前記シリンダブロックと前記クランクケースとが前記シリンダの中心軸(以下、「シリンダ中心軸」と称する。)に沿って相対移動することで、圧縮比を変更可能に構成されている。
【0015】
かかる構成による圧縮比変更動作は以下の通りである。前記ジャーナル部は前記ブロック側支持部及び前記クランクケース側支持部のうちの前記一方に支持されていて、前記カム部は前記他方に支持されている。よって、運転状態に応じて前記カムシャフトが回転駆動されると、前記ジャーナル部と前記カム部との相対的な位置関係が変化する。すなわち、前記カム部の前記ジャーナル部からの突出状態が変化する。すると、前記ブロック側支持部と前記クランクケース側支持部との相対的な位置関係が変化する。これに伴い、前記シリンダブロックと前記クランクケースとが、前記シリンダ中心軸に沿って相対移動する。これにより、圧縮比が変更される。
【0016】
ここで、かかる構成を備えた本発明の可変圧縮比内燃機関においては、上述のように、前記シリンダブロック側にて前記カムシャフトを支持する前記ブロック側支持部が、前記シリンダブロックとは別体に形成されている。
【0017】
よって、例えば、前記シリンダブロックと前記ブロック側支持部とを異なる材料で形成することが、極めて容易となる。これにより、前記シリンダブロックに要求される特性(剛性や重量等)と、前記ブロック側支持部に要求される特性(摩擦特性や摩耗特性等)とが、良好に両立され得る。
【0018】
あるいは、前記シリンダブロックと前記クランクケースとの組み付けの際に前記ブロック側支持部が邪魔にならない等、前記シリンダブロックと前記クランクケースとの組み付け作業のしやすさが向上し得る。
【0019】
・前記可変圧縮比内燃機関は、前記シリンダブロックよりも前記ブロック側支持部の方が、熱膨張係数が前記カムシャフトに近くなるように構成されていてもよい。
【0020】
かかる構成によれば、前記カムシャフトと前記ブロック側支持部との熱膨張(あるいは収縮)量の差による両者のクリアランスの変動が、可及的に抑制され得る。これにより、高温時の振動発生が可及的に抑制され得る。
【0021】
・前記可変圧縮比内燃機関は、以下のように構成されていてもよい:前記シリンダブロックが、軽金属を主成分とする材料から構成されている。また、前記カムシャフト、及び前記ブロック側支持部の少なくとも前記カムシャフトと対向する部分が、鉄を主成分とする材料から構成されている。
【0022】
具体的には、前記シリンダブロックは、例えば、アルミニウム合金やマグネシウム合金等によって形成され得る。また、前記カムシャフトは、例えば、機械構造用炭素鋼や鋳鉄等によって形成され得る。前記ブロック側支持部の、少なくとも前記カムシャフトと対向する部分は、例えば、軸受鋼等によって形成され得る。
【0023】
かかる構成によれば、前記シリンダブロックの軽量化が図られるとともに、前記ブロック側支持部の耐摩耗性が良好となる。また、前記カムシャフトと前記ブロック側支持部(の少なくとも前記部分)とで熱膨張係数が近くなるので、温度変化に伴うクリアランスの変動が可及的に抑制され得る。
【0024】
・前記可変圧縮比内燃機関は、以下のように構成されていてもよい:前記クランクケースは、筒状のフレームを備えている。このフレームの内部には、シリンダブロック収容部が形成されている。前記シリンダブロック収容部は、前記シリンダブロックを収容し得るように前記シリンダ中心軸方向に沿って設けられた空間である。このシリンダブロック収容部は、前記シリンダブロックの下端部から上部までを覆うように設けられ得る。また、前記フレームには、開口部が設けられている。この開口部は、前記ブロック側支持部が貫通し得るように形成されている。また、この開口部は、その内部で前記ブロック側支持部が往復移動し得るように形成されている。
【0025】
かかる構成を有する本発明の可変圧縮比内燃機関は、以下のように組み立てられ得る。まず、前記クランクケースの内部の前記シリンダブロック収容部に、前記シリンダブロックが収容される。このとき、前記シリンダブロック収容部の内壁面と、前記シリンダブロックの外壁面との間には、所定のクリアランスが設けられる。このクリアランスは、前記クランクケースと前記シリンダブロックとの相対移動がスムーズに行われつつ、両者の間にガタつきが生じない程度(具体的には、触れるか触れないか程度)に設けられる。続いて、前記開口部を介して、前記ブロック側支持部が前記シリンダブロックに装着される。このとき、前記カムシャフトと前記ブロック側支持部とが予め組み付けられ得る。
【0026】
かかる構成によれば、「閉じた」筒状の前記フレームが前記クランクケースに設けられているので、当該クランクケースの良好な剛性が実現される。また、前記シリンダブロックと前記クランクケースとの組み付け作業のしやすさが、より向上し得る。
【0027】
・前記可変圧縮比内燃機関は、以下のように構成されていてもよい:前記クランクケース側支持部は、フレーム側支持部と、カバー部と、を備えている。前記フレーム側支持部は、前記開口部に隣接する位置にて、前記フレームに設けられている。前記カバー部は、前記カムシャフトを挟んで前記フレーム側支持部と対向するように設けられている。このカバー部は、前記フレーム側支持部に装着されることで、前記カムシャフトを支持し得るように構成されている。
【0028】
かかる構成を有する本発明の可変圧縮比内燃機関は、以下のように組み立てられ得る。まず、前記クランクケースの内部(前記シリンダブロック収容部)に、前記シリンダブロックが収容される。一方、前記カムシャフトと前記ブロック側支持部とが、予め組み付けられる。次に、前記カムシャフトのうちの前記ブロック側支持部に収容されていない部分が前記フレーム側支持部と対向する状態で、前記ブロック側支持部が前記開口部を介して前記シリンダブロックに装着される。これにより、前記カムシャフトと前記ブロック側支持部とのアッセンブリが、前記シリンダブロックに装着される。続いて、前記カバー部が前記フレーム側支持部に装着される。
【0029】
かかる構成によれば、前記シリンダブロックと前記クランクケースとの組み付け作業のしやすさが、いっそう向上し得る。また、前記カバー部の装着により、前記クランクケースの剛性が、より向上し得る。
【0030】
・前記可変圧縮比内燃機関は、以下のように構成されていてもよい:複数の前記フレーム側支持部が、前記シリンダブロックの長手方向に沿って配列されている。この長手方向は、前記シリンダ中心軸と直交する方向である。また、複数の前記フレーム側支持部に対応する前記カバー部が、一体に形成されている。
【0031】
かかる構成によれば、前記シリンダブロックと前記クランクケースとの組み付け作業のしやすさが、よりいっそう向上し得る。また、前記長手方向に沿った長手方向を有する一体の前記カバー部が前記クランクケースに装着されることで、前記クランクケースの剛性が、よりいっそう向上し得る。
【0032】
・前記可変圧縮比内燃機関は、以下のように構成されていてもよい:前記ジャーナル部は、前記カムシャフトの回転中心軸と同軸に設けられている。この回転中心軸は、前記シリンダ中心軸と直交する方向である。また、前記カム部は、略円筒形状の円形カムから構成されている。この円形カムは、前記回転中心軸から偏心して設けられていて、前記ジャーナル部に対して相対的に回転し得るようになっている。前記ブロック側支持部は、前記円形カムの周面と摺動しつつ、当該円形カムを回動可能に支持するように構成されている。
【0033】
かかる構成においては、前記カムシャフトの回転駆動の際に、前記ジャーナル部が、前記回転中心軸の回りを回転する。一方、前記カム部としての前記円形カムは、前記ブロック側支持部と摺動しつつ、前記回転中心軸とは異なる軸を中心として当該ブロック側支持部内にて回転する。そして、この円形カムは、前記ジャーナル部に対して相対的に回転する。これにより、前記ジャーナル部と前記円形カムとの相対的な位置関係が変化する。
【0034】
かかる構成によれば、前記クランクケースと前記シリンダブロックとの相対移動による圧縮比の変更が、スムーズに行われ得る。
【0035】
・前記ブロック側支持部又は前記クランクケース側支持部(前記フレーム側支持部及び前記カバー部)における、前記カムシャフトと対向する部分には、摩耗又は摩擦低減のためのコーティングが施されていてもよい。
【0036】
かかる構成によれば、前記カムシャフトの回転駆動が、円滑に行われ得る。また、前記カムシャフトの回転駆動に伴う前記ブロック側支持部あるいは前記クランクケース側支持部の摩耗が、効果的に抑制され得る。
【0037】
・前記ブロック側支持部又は前記クランクケース側支持部(前記フレーム側支持部及び前記カバー部)における、前記カムシャフトと対向する部分には、他の部分よりも耐摩耗性の高いライナーが装着されていてもよい。
【0038】
かかる構成によれば、前記カムシャフトの回転駆動に伴う前記ブロック側支持部あるいは前記クランクケース側支持部の摩耗が、効果的に抑制され得る。
【0039】
・前記カムシャフトの表面には、摩耗又は摩擦低減のためのコーティングが施されていてもよい。
【0040】
かかる構成によれば、前記カムシャフトの回転駆動が、円滑に行われ得る。また、前記カムシャフトの、回転駆動に伴う摩耗が、効果的に抑制され得る。
【0041】
・前記シリンダブロック及び前記クランクケースのうちの少なくとも一方における、他方と対向する表面には、摩耗又は摩擦低減のためのコーティングが施されていてもよい。すなわち、前記コーティングは、前記シリンダブロックにおける前記クランクケースと対向する表面と、前記クランクケースにおける前記シリンダブロックと対向する表面と、のうちの、一方又は双方に施され得る。
【0042】
かかる構成によれば、前記クランクケースと前記シリンダブロックとの相対移動による圧縮比の変更が、スムーズに行われ得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以下、本発明の実施形態(本願の出願時点において出願人が最良と考えている実施形態)について、図面を参照しつつ説明する。
【0044】
なお、以下の実施形態に関する記載は、法令で要求されている明細書の記載要件(記述要件・実施可能要件)を満たすために、本発明の具体化の単なる一例を、可能な範囲で具体的に記述しているものにすぎない。よって、後述するように、本発明が、以下に説明する実施形態の具体的構成に何ら限定されるものではないことは、全く当然である。本実施形態に対して施され得る各種の変更(modification)は、当該実施形態の説明中に挿入されると、首尾一貫した実施形態の説明の理解が妨げられるので、末尾にまとめて記載されている。
【0045】
<実施形態の可変圧縮比内燃機関の概略構成>
図1及び図2は、本実施形態のエンジン1の概略構成を示す側断面図である。図3は、図1及び図2に示されているエンジン1の分解斜視図である。なお、図1は、図3におけるI−I断面図に相当する。また、図2は、図3におけるII−II断面図に相当する。以下、図1ないし図3を参照しつつ、エンジン1の概略構成について説明する。
【0046】
図1を参照すると、エンジン1は、シリンダブロック2と、シリンダヘッド3と、クランクケース4と、可変圧縮比機構5と、を備えている。このエンジン1は、可変圧縮比機構5によってシリンダブロック2をクランクケース4に対して相対的にシリンダ中心軸CCAに沿って移動(スライド)させることで、圧縮比を変更可能に構成されている。
【0047】
本実施形態においては、シリンダブロック2は、アルミニウム合金からなり、略直方体状に形成されている。シリンダブロック2の内部には、シリンダ21が形成されている。シリンダ21は、略円柱形状の貫通孔である。このシリンダ21の内部には、ピストン22が、シリンダ中心軸CCAに沿って往復移動可能に収容されている。
【0048】
図3を参照すると、本実施形態においては、4つのシリンダ21が、気筒配列方向ADに沿って一列に設けられている。すなわち、シリンダブロック2は、気筒配列方向ADと平行な長手方向を有するように形成されている。
【0049】
図1を参照すると、シリンダブロック2の上端部(ピストン22の上死点側の端部)には、シリンダヘッド3が接合されている。シリンダヘッド3は、シリンダブロック2と相対移動しないように、シリンダブロック2の上端部にボルト等によって固定されている。
【0050】
クランクケース4は、筒状のフレーム41を備えている。本実施形態においては、クランクケース4(フレーム41)は、アルミニウム合金によって一体に形成されている。
【0051】
フレーム41は、気筒配列方向ADと平行な長手方向を有するように形成されている。このフレーム41は、シリンダブロック2の外表面を所定のクリアランスを隔てて囲むような形状に形成されている。このクリアランスは、シリンダブロック2とクランクケース4との相対移動がスムーズに行われつつ、両者の間にガタつきが生じない程度(触れるか触れないか程度:例えば0.数ミリ程度)に設定されている。
【0052】
具体的には、フレーム41の内部には、シリンダブロック2を収容し得る空間であるシリンダブロック収容部41aが形成されている。シリンダブロック収容部41aは、シリンダ中心軸CCAに沿って設けられている。また、シリンダブロック収容部41aは、シリンダブロック2を図中上方から挿入し得るように、図中上方に向けて開口するように設けられている。シリンダブロック収容部41aの内壁面は、シリンダブロック2を収容した状態で、当該シリンダブロック2の外壁面と上述の所定のクリアランスが設けられるように形成されている。
【0053】
本実施形態においては、フレーム41(シリンダブロック収容部41a)は、シリンダブロック2の下端部から上部までを覆うように形成されている。なお、シリンダブロック2の上端部は、シリンダヘッド3との接合のため、フレーム41よりも上方に突出するように設けられている。
【0054】
クランクケース4の下端部には、クランクシャフト42が、軸受を介して、回転可能に支持されている。クランクシャフト42は、気筒配列方向ADと平行に配置されている。このクランクシャフト42は、ピストン(図1参照)のシリンダ中心軸CCAに沿った往復移動に基づいて回転駆動されるようになっている。
【0055】
<実施形態の可変圧縮比機構の詳細な構成>
以下、図1ないし図3、及び必要に応じて他の図面をも参照しつつ、本実施形態の可変圧縮比機構5の詳細な構成について説明する。
【0056】
図1ないし図3を参照すると、本実施形態においては、一対の可変圧縮比機構5が、フレーム41の気筒配列方向ADに沿った両側壁及びその近傍に設けられている。また、一方の可変圧縮比機構5と、他方の可変圧縮比機構5とは、すべてのシリンダ21におけるシリンダ中心軸CCAが通る平面に関してほぼ対称に配置及び構成されている。
【0057】
<<カムシャフト>>
可変圧縮比機構5は、カムシャフト51の回転駆動によって、シリンダブロック2とクランクケース4とをシリンダ中心軸CCAに沿って相対的に移動(スライド)させ得るように構成されている。カムシャフト51は、機械構造用炭素鋼(S45C等)からなり、ジャーナル部51aと、円形カム部51bと、偏心軸部51cと、ウォームホイール51dと、から構成されている。
【0058】
図4は、図1ないし図3に示されているカムシャフト51を、その一部を分解して示す斜視図である。以下、図1ないし図4を参照すると、ジャーナル部51aは、円柱状の部材であって、カムシャフト51の回転中心軸(これは気筒配列方向ADと平行、すなわちシリンダ中心軸CCAと直交し、図4にて一点鎖線で示されている。)と同軸に設けられている。
【0059】
ジャーナル部51aの表面51a1は、円柱面状に形成されている。本実施形態においては、この表面51a1には、摩擦及び摩耗を低減するためのコーティングが施されている。具体的には、本実施形態においては、表面51a1には、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)のコーティングが施されている。
【0060】
円形カム部51bは、前記回転中心軸から偏心して設けられている。この円形カム部51bは、ジャーナル部51aよりも径が太い円柱状の部材であって、気筒数に応じて設けられている。すなわち、1つのカムシャフト51に対して、気筒数と同数(本実施形態では4つ)の円形カム部51bが設けられている。各円形カム部51bは、シリンダ中心軸CCAに対応する位置に配置されている。そして、隣り合う円形カム部51bの間、及びカムシャフト51の両端部に、ジャーナル部51aが設けられている。
【0061】
円形カム部51bの表面51b1は、円柱面状に形成されている。本実施形態においては、この表面51b1にも、ジャーナル部51aの表面51a1と同様に、摩擦及び摩耗を低減するためのコーティングが施されている。
【0062】
偏心軸部51cは、気筒配列方向ADに沿った長手方向を有する丸棒状の部材であって、その略中央にはウォームホイール51dが設けられている。ウォームホイール51dは、偏心軸部51cと一体に形成されている。このウォームホイール51dは、その中心軸が前記回転中心軸と同軸となるように設けられている。このウォームホイール51dは、モータMの回転駆動軸(これは前記回転中心軸及びシリンダ中心軸CCAと直交する)に装着された円柱形状のギヤであるウォームWと噛み合うことにより、回転駆動されるようになっている。
【0063】
偏心軸部51cは、ジャーナル部51aの中心軸及び円形カム部51bの中心軸から偏心した位置にて、これらを挿通するように設けられている。すなわち、偏心軸部51cは、図1及び図4に示されているように、ジャーナル部51aの一端(図中下端)と円形カム部51bの一端(図中下端)とが一致した状態で、当該一端寄りの位置(下部)にてジャーナル部51a及び円形カム部51bを挿通するように設けられている。
【0064】
本実施形態においては、ジャーナル部51aは、偏心軸部51cの回りを回転しないように、偏心軸部51cに固定されている。すなわち、ジャーナル部51aは、ウォームホイール51dの回転に伴って、前記回転中心軸を中心として、ウォームホイール51dと一体的に回転駆動され得るようになっている。
【0065】
一方、円形カム部51bは、偏心軸部51cの回りを自由に回転し得るようになっている。すなわち、円形カム部51bは、ジャーナル部51aに対して相対的に回転し得るようになっている。
【0066】
<<ブロック側支持部>>
再び図1ないし図3を参照すると、円形カム部51bは、ブロック側支持部52によって回転可能に支持されている。すなわち、ブロック側支持部52は、円形カム部51bの周面と摺動しつつ、当該円形カム部51bを回動可能に支持するように構成されている。
【0067】
本実施形態においては、ブロック側支持部52は、ブロック状の部材であって、軸受鋼によって一体(シームレス)に形成されている。すなわち、本実施形態においては、シリンダブロック2を構成するアルミニウム合金よりも、カムシャフトを構成する炭素鋼に熱膨張係数が近くなるように、ブロック側支持部52が構成されている。
【0068】
ブロック側支持部52には、軸受孔52aが形成されている。この軸受孔52aは、円形カム部51bの外径に対応する(円形カム部51bの周面と摺動し得るような)内径を有する貫通孔である。
【0069】
図5は、図3に示されているシリンダブロック2及びブロック側支持部52を取り出して示す斜視図である。図6は、図5に示されているシリンダブロック2とブロック側支持部52との分解斜視図である。図3ないし図6を参照すると、ブロック側支持部52は、シリンダブロック2とは別体に形成されていて、ボルトを用いてシリンダブロック2に装着され得るように構成されている。また、ブロック側支持部52は、シリンダ中心軸CCAに対応する位置に設けられている。
【0070】
再び図1ないし図3を参照すると、フレーム41には、ブロック側支持部52と同数の複数の開口部53が設けられている。開口部53は、貫通孔であって、ブロック側支持部52が貫通し得るように設けられている。この開口部53は、ブロック側支持部52がシリンダ中心軸CCAに沿って往復移動し得るように、ブロック側支持部52の高さ寸法(シリンダ中心軸CCAに沿った方向の寸法)よりも大きい高さ寸法に形成されている。
【0071】
<<クランクケース側支持部>>
フレーム41には、複数のフレーム側支持部54が形成されている。各フレーム側支持部54は、開口部53に隣接するように設けられている。すなわち、複数のフレーム側支持部54が、各開口部53の両側に設けられ、且つ気筒配列方向ADに沿って配列されている。
【0072】
フレーム側支持部54には、ジャーナル支持凹部54aが設けられている。このジャーナル支持凹部54aは、半円柱形状の凹部であって、ジャーナル部51aの外径に対応する内径を有するように形成されている。
【0073】
図7A及び図7Bは、図2に示されているフレーム側支持部54の周辺を拡大した側断面図である。図7A及び図7Bを参照すると、ジャーナル支持凹部54aの、ジャーナル部51aと対向する部分には、ライナー54bが設けられている。このライナー54bは、フレーム側支持部54における他の部分(アルミニウム合金)よりも耐摩耗性に優れた軸受鋼からなり、半円筒形状に形成されている。
【0074】
図2を参照すると、フレーム41には、カバー部55が装着されている。カバー部55は、アルミニウム合金からなり、カムシャフト51(ジャーナル部51a)を挟んでフレーム側支持部54と対向するように設けられている。このカバー部55は、フレーム側支持部54に装着されることで、フレーム側支持部54とともにカムシャフト51(ジャーナル部51a)を回転可能に支持するように構成されている。
【0075】
図3を参照すると、複数のフレーム側支持部54(1つの可変圧縮比機構5におけるすべてのフレーム側支持部54)に対応するカバー部55が、気筒配列方向ADに沿った長手方向を有するように、一体(シームレス)に形成されている。このカバー部55には、ジャーナル支持凹部55aと、軸受収容部55bと、ギヤ収容部55cと、が形成されている。
【0076】
ジャーナル支持凹部55aは、フレーム側支持部54のジャーナル支持凹部54aと対向する位置に設けられている。このジャーナル支持凹部55aは、ジャーナル支持凹部54aと対称な形状の、半円柱形状の凹部であって、ジャーナル部51aの外径に対応する内径を有するように形成されている。すなわち、カバー部55は、側断面視にて、シリンダ中心軸CCAに沿った略アーチ状に構成されている。
【0077】
軸受収容部55bは、ブロック側支持部52と対向する位置に設けられた凹部である。この軸受収容部55bは、開口部53からフレーム41の外側に突出したブロック側支持部52を、シリンダ中心軸CCAに沿って往復移動可能に収容し得るように形成されている。
【0078】
ギヤ収容部55cは、ウォームホイール51dと対向する位置に設けられた凹部である。このギヤ収容部55cは、フレーム41の外側に突出したウォームホイール51dを収容し得るように形成されている。
【0079】
図7A及び図7Bを参照すると、ジャーナル支持凹部55aの、ジャーナル部51aと対向する部分には、ライナー55dが設けられている。このライナー55dは、カバー部55における他の部分(アルミニウム合金)よりも耐摩耗性に優れた軸受鋼からなり、半円筒形状に形成されている。
【0080】
図7Bに示されているように、カバー部55がボルト56によってフレーム側支持部54に固定されて、ライナー55dがライナー54bと接合されることで、これらの接合体の内側に、ジャーナル部51aを回転可能に支持する軸受孔が形成されるようになっている。すなわち、フレーム側支持部54とカバー部55とによって、ジャーナル部51aを収容する本発明のクランクケース側支持部が構成されている。
【0081】
<実施形態の可変圧縮比機構の動作説明>
図8ないし図10は、図1に示されているエンジン1における圧縮比変化の様子を示す図である。以下、これらの図を参照しつつ、可変圧縮比機構5による圧縮比変更動作について、簡単に説明する。
【0082】
カムシャフト51の回転駆動の際に、ジャーナル部51aは、ライナー54b及び55dの内面と摺動しながら、カムシャフト51の前記回転中心軸を中心として、フレーム側支持部54とカバー部55との間に形成された前記軸受孔の内側で回転する。このとき、偏心軸部51cが、カムシャフト51の前記回転中心軸の周りを回転する。すなわち、偏心軸部51cは、ジャーナル部51aと一体的に回転する。
【0083】
一方、円形カム部51bは、軸受孔52aの内面と摺動しながら、前記回転中心軸とは異なる軸を中心として、ブロック側支持部52の内側で回転する。また、円形カム部51bは、偏心軸部51cに対して相対的に回転する。すなわち、円形カム部51bは、偏心軸部51cの中心軸を中心として、ジャーナル部51aに対して相対的に回転する。これにより、円形カム部51bのジャーナル部51aに対する相対的な位置が変化する。
【0084】
このとき、円形カム部51bは、ブロック側支持部52によって、エンジン幅方向(前記長手方向及びシリンダ中心軸CCAと直交する方向:図8ないし図10における左右方向)についての移動が拘束されている。また、ジャーナル部51aの位置は不変である。よって、カムシャフト51が回転駆動されると、図8ないし図10に示されているように、偏心軸部51cの前記回転中心軸周りの回転による上下動に伴って、円形カム部51bが上下動する。
【0085】
エンジン1の圧縮比が最高である状態においては、図8に示されているように、偏心軸部51cが最も下方に位置している。この場合、円形カム部51bも、最も下方に位置することとなる。
【0086】
図8に示されている状態から、図中矢印で示されているようにカムシャフト51が回転駆動される(図中右側のカムシャフト51が時計回りに回転駆動され且つ図中左側のカムシャフト51が反時計回りに回転駆動される)。これにより、偏心軸部51cが、図8に示されている位置から上昇するとともに、円形カム部51bが上昇する。
【0087】
よって、図9に示されているように、カムシャフト51の回転による円形カム部51bの上昇に伴って、ブロック側支持部52が上昇する。これにより、シリンダブロック2がクランクケース4に対して相対的に上昇する。このシリンダブロック2の上昇によってシリンダヘッド3がクランクケース4から離隔すると、ピストン22の上死点位置とシリンダヘッド3の下端面との距離が伸びる。すなわち、エンジン1の圧縮比が低下する。
【0088】
図9に示されているように、偏心軸部51cの位置が最上方と最下方との中間であると、圧縮比も最高値と最低値との中間となる。図10に示されているように、偏心軸部51cの位置が最も上方に達すると、圧縮比が最低となる。
【0089】
エンジン1の圧縮比が最低である図10に示されている状態から、圧縮比が高くされる場合、カムシャフト51がさらに上述と同方向に回転駆動されるか、あるいはカムシャフト51が上述と逆方向に回転駆動される。
【0090】
<実施形態の構成による効果>
以下、本実施形態の構成による効果について、各図面を参照しつつ説明する。
【0091】
・本実施形態のエンジン1においては、シリンダブロック2側にてジャーナル部51aを収容することでカムシャフト51を支持するブロック側支持部52が、シリンダブロック2とは別体に形成されている。また、筒状のフレーム41には、ブロック側支持部52に対応するように、開口部53が設けられている。さらに、クランクケース4側にてカムシャフト51を支持するクランクケース側支持部が、フレーム側支持部54とカバー部55とから構成されている。そして、フレーム側支持部54にカバー部55が装着されることで、カムシャフト51がクランクケース4によって支持されるようになっている。
【0092】
かかる構成のエンジン1の組み立ては、以下のようにして行われ得る。
【0093】
最初に、シリンダブロック収容部41a内にシリンダブロック2が挿入されることで、シリンダブロック2がクランクケース4内に収容される。このとき、シリンダブロック2には未だブロック側支持部52が装着されていないので、シリンダブロック2のクランクケース4内への収容は、比較的スムーズに行われる。
【0094】
一方、1本のカムシャフト51の円形カム部51bに対応する位置に、4つのブロック側支持部52が組み付けられる。すなわち、カムシャフト51とブロック側支持部52とのアッセンブリが形成される。このアッセンブリが2組用意される。
【0095】
次に、各ブロック側支持部52が、各開口部53内に挿入され、シリンダブロック2に当接される。その後、各ブロック側支持部52が、シリンダブロック2に、ボルトによって固定される。このとき、ジャーナル部51aは、フレーム側支持部54におけるジャーナル支持凹部54aと対向する。
【0096】
続いて、カムシャフト51とブロック側支持部52とのアッセンブリを覆うように、カバー部55がフレーム側支持部54に装着される。これにより、ジャーナル部51aが、フレーム側支持部54とカバー部55とによって回転可能に支持される。
【0097】
このようにして、カムシャフト51とブロック側支持部52とのアッセンブリが、シリンダブロック2及びクランクケース4に対して、極めて簡易な工程で装着される。したがって、本実施形態によれば、シリンダブロック2とクランクケース4との組み付け作業のしやすさが向上する。
【0098】
・本実施形態においては、ブロック側支持部52が、軸受鋼によって一体(シームレス)に形成されている。したがって、円形カム部51bの回転及び移動、あるいは燃焼の際に、応力を受けても、円形カム部51bを安定的に保持することができる。すなわち、円形カム部51bの軸受部分の剛性が向上する。
【0099】
・本実施形態においては、シリンダブロック2が軽金属を主成分とする材料から構成され、カムシャフト51及びブロック側支持部52が鉄を主成分とする材料から構成されている。
【0100】
かかる構成によれば、エンジン1が良好に軽量化されるとともに、カムシャフト51の回転駆動に伴うブロック側支持部52の摩耗が可及的に抑制され得る。
【0101】
また、かかる構成によれば、シリンダブロック2よりもブロック側支持部52の方が、熱膨張係数がカムシャフト51に近くなる。
【0102】
よって、カムシャフト51とブロック側支持部52との熱膨張(あるいは収縮)量の差による、ジャーナル部51aと軸受孔52aとのクリアランスの変動が、可及的に抑制され得る。これにより、高温時の振動発生が、可及的に抑制され得る。また、温度変化に伴うジャーナル部51aと軸受孔52aとの摺動状態の変動が抑制される。これにより、圧縮比変更動作が、円滑かつ確実に行われ得る。
【0103】
・本実施形態においては、クランクケース4が、平面視にて「閉じた」筒状のフレーム41を備えている。また、このフレーム41に対して、上下方向に沿ったアーチ状のカバー部55が装着される。これにより、クランクケース4の剛性が向上する。
【0104】
・本実施形態においては、複数のフレーム側支持部54が、シリンダブロック2の長手方向に沿って配列されている。また、複数のフレーム側支持部54に対応するカバー部55が、一体(シームレス)に形成されている。
【0105】
かかる構成によれば、シリンダブロック2とクランクケース4との組み付け作業のしやすさが、よりいっそう向上し得る。また、シリンダブロック2及びクランクケース4の長手方向に沿った長手方向を有する一体のカバー部55がクランクケース4に装着されることで、クランクケース4の剛性が、よりいっそう向上する。
【0106】
・本実施形態においては、ジャーナル部51aがカムシャフト51の前記回転中心軸と同軸に設けられている。また、円形カム部51bが、前記回転中心軸から偏心して設けられ、且つジャーナル部51aに対して相対的に回転し得るようになっている。さらに、ブロック側支持部52は、円形カム部51bの周面と摺動しつつ、当該円形カム部51bを回動可能に支持している。
【0107】
かかる構成によれば、シリンダブロック2とクランクケース4との相対移動による圧縮比の変更が、スムーズに行われ得る。
【0108】
・本実施形態においては、クランクケース4及びカバー部55の本体部分が軽金属を主成分とする材料から構成され、軸受部分に鉄系のライナー54b及び55dが設けられている。
【0109】
かかる構成によれば、エンジン1が良好に軽量化されるとともに、カムシャフト51の回転駆動に伴うクランクケース4の摩耗が可及的に抑制され得る。
【0110】
・本実施形態においては、カムシャフト51の表面(ジャーナル部51aの表面51a1及び円形カム部51bの表面51b1)には、摩耗及び摩擦低減のためのコーティングが施されている。
【0111】
かかる構成によれば、カムシャフト51の回転駆動が、円滑に行われ得る。また、カムシャフト51の、回転駆動に伴う摩耗が、効果的に抑制され得る。これにより、(特に潤滑油量が不足しがちな始動時やエンジン停止時等における)圧縮比変更動作が、より円滑かつ確実に行われ得る。
【0112】
<変形例の例示列挙>
なお、上述の実施形態は、上述した通り、出願人が本願の出願時点において最良であると考えた本発明の具体的構成例を単に例示したものにすぎないのであって、本発明はもとより上述の実施形態によって何ら限定されるべきものではない。よって、上述の実施形態に示された具体的構成に対して、本発明の本質的部分を変更しない範囲内において、種々の変形が施され得ることは、当然である。
【0113】
以下、変形例について幾つか例示する。ここで、以下の変形例の説明において、上述の実施形態における各構成要素と同様の構成・機能を有する構成要素については、当該変形例においても同一の名称及び同一の符号が付されているものとする。そして、当該構成要素の説明については、上述の実施形態における説明が、矛盾しない範囲で適宜援用され得るものとする。
【0114】
もっとも、変形例とて、下記のものに限定されるものではないことは、いうまでもない。本発明を、上述の実施形態や下記変形例の記載に基づいて限定解釈することは、(特に先願主義の下で出願を急ぐ)出願人の利益を不当に害する反面、模倣者を不当に利するものであって、許されない。
【0115】
また、上述の実施形態の構成、及び下記の各変形例に記載された構成は、技術的に矛盾しない範囲において、適宜複合して適用され得ることも、いうまでもない。
【0116】
(1)本発明は、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、メタノールエンジン、バイオエタノールエンジン、その他の任意のタイプの内燃機関に適用可能である。気筒数や気筒配列方式(直列、V型、水平対向)も、特に限定はない。
【0117】
(2)ジャーナル部51a、円形カム部51b、ブロック側支持部52、及びフレーム側支持部54の構成や、それぞれの対応関係は、上述の実施形態の場合から変更され得る。
【0118】
すなわち、例えば、上述の実施形態の場合とは逆に、ジャーナル部51aがブロック側支持部52に収容され、円形カム部51bがフレーム側支持部54に収容されるように、可変圧縮比機構5が構成され得る。あるいは、上述の実施形態の場合とは逆に、ジャーナル部51aが偏心軸部51cに対して相対的に回転可能である一方、円形カム部51bが偏心軸部51cに固定されていてもよい。
【0119】
(3)上述の実施形態のように、ブロック側支持部52の全体が同一の材料から構成されていることは、本発明の必須要件ではない。
【0120】
よって、例えば、ブロック側支持部52における、カムシャフト51と対向する部分が鉄系の材料から構成されていれば、他の部分の材料は特に限定されない。具体例としては、ブロック側支持部52における、カムシャフト51と対向する部分は、上述の実施形態におけるクランクケース側支持部と同様に、耐摩耗性を有する材料(例えば軸受鋼)からなるライナーが設けられていてもよい。この場合、ブロック側支持部52の、ライナー以外の部分は、クランクケース4あるいはシリンダブロック2と、同一あるいは同種の材料から構成され得る。
【0121】
(4)クランクケース側支持部(上述の実施形態においてはフレーム側支持部54及びカバー部55)におけるライナーの構成や材料は、上述の実施形態のものに限定されない。
【0122】
また、フレーム側支持部54やカバー部55と同様に、ブロック側支持部52にも、ライナーが装着されていてもよい。
【0123】
さらに、ライナーに代えて、鉄シリサイド(Fe−Si系材料:Fe3Si,FeSi,FeSi2,等)を主成分とするコーティング等の、鉄系のコーティングが用いられてもよい。この場合、コーティング層との親和性等を考慮して、クランクケース4やカバー部55は、鋳鉄から構成されていてもよい。
【0124】
なお、ライナーが用いられる場合であっても、ライナーと熱膨張率を近づけるために、クランクケース4やカバー部55が鋳鉄等の鉄系の材料から構成され得る。
【0125】
(5)カバー部55は、複数のフレーム側支持部54に対応した数に分割されていてもよい。このとき、カバー部55に、軸受収容部55bやギヤ収容部55cが設けられないことがあり得る。
【0126】
(6)ジャーナル部51aの表面51a1におけるコーティングと、円形カム部51bの表面51b1におけるコーティングとの、少なくとも一方は、省略され得る。具体的には、例えば、より摺動条件の厳しい方(上述の実施形態においては、摺動のみならず上下左右方向に比較的大きな圧力がかかる、円形カム部51b)のみに、コーティングが施されていてもよい。
【0127】
(7)カムシャフト51に施されているコーティングは、カムシャフト51とともに、又はカムシャフト51に代えて、当該カムシャフト51を回転可能に支持する部材(ブロック側支持部52、及び/又は、本発明のクランクケース側支持部を構成するフレーム側支持部54とカバー部55)に設けられていてもよい。すなわち、当該部材における、カムシャフト51と対向する部分に、上述のようなコーティングが施されていてもよい。
【0128】
(8)シリンダブロック2とクランクケース4(フレーム41)とが対向する部分における、シリンダブロック2及びクランクケース4のうちの少なくともいずれか一方の表面に、上述のようなコーティングが施されていてもよい。
【0129】
例えば、図11に示されているように、シリンダブロック2におけるフレーム41(図3参照)に収容される外周面の全体にわたって、コーティング201が設けられていてもよい。
【0130】
あるいは、図12に示されているように、前記外周面の上端部であって、フレーム41(図3参照)の内壁面と摺動し得る部分のみに、コーティング201が設けられていてもよい。
【0131】
あるいは、図13に示されているように、前記上端部であって、燃焼圧によって荷重を受け得る部分のみに、コーティング201が設けられていてもよい。
【0132】
かかる構成によれば、シリンダブロック2とクランクケース4との相対移動による圧縮比の変更が、スムーズに行われ得る。
【0133】
(9)カムシャフト51等に施されるコーティングは、摩擦又は摩耗のいずれかを低減する意図で設けられたものであれば、スムーズな作動あるいは摩耗低減という、所定の効果を奏し得る。
【0134】
かかる観点からすれば、コーティングに用いられる材料は、DLCに限定されない。例えば、酸化クロムを主成分とするセラミック被膜、二硫化モリブデン、硬質炭化クロムめっき、等の固体潤滑膜が、良好に用いられ得る。
【0135】
(10)その他、特段に言及されていない変形例についても、本発明の本質的部分を変更しない範囲内において、本発明の技術的範囲に含まれることは当然である。例えば、材料の変更は、適宜行われ得る。また、一体(ワンピース)であったものは別体(ツーピース)にされ得るし、その逆もあり得る。
【0136】
また、本発明の課題を解決するための手段を構成する各要素における、作用・機能的に表現されている要素は、上述の実施形態や変形例にて開示されている具体的構造の他、当該作用・機能を実現可能ないかなる構造をも含む。
【図面の簡単な説明】
【0137】
【図1】本発明の一実施形態であるエンジンの概略構成を示す側断面図(図3におけるI−I断面図)である。
【図2】本発明の一実施形態であるエンジンの概略構成を示す側断面図(図3におけるII−II断面図)である。
【図3】図1及び図2に示されているエンジンの分解斜視図である。
【図4】図1ないし図3に示されているカムシャフトを、その一部を分解して示す斜視図である。
【図5】図3に示されているシリンダブロック及びブロック側支持部を取り出して示す斜視図である。
【図6】図5に示されているシリンダブロックとブロック側支持部との分解斜視図である。
【図7A】図2に示されているフレーム側支持部の周辺を拡大した側断面図である。
【図7B】図2に示されているフレーム側支持部の周辺を拡大した側断面図である。
【図8】図1に示されているエンジンにおける圧縮比変化の様子を示す図である。
【図9】図1に示されているエンジンにおける圧縮比変化の様子を示す図である。
【図10】図1に示されているエンジンにおける圧縮比変化の様子を示す図である。
【図11】図3に示されているシリンダブロックの一変形例を示す斜視図である。
【図12】図3に示されているシリンダブロックの他の変形例を示す斜視図である。
【図13】図3に示されているシリンダブロックのさらに他の変形例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0138】
1…エンジン 2…シリンダブロック 21…シリンダ
22…ピストン 3…シリンダヘッド
4…クランクケース 41…フレーム 41a…シリンダブロック収容部
5…可変圧縮比機構 51…カムシャフト 51a…ジャーナル部
51a1…表面 51b…円形カム部 51b1…表面
51c…偏心軸部 51d…ウォームホイール 52…ブロック側支持部
52a…軸受孔 53…開口部 54…フレーム側支持部
54b…ライナー 55…カバー部 55b…軸受収容部
55c…ギヤ収容部 55d…ライナー 56…ボルト
201…コーティング AD…気筒配列方向 CCA…シリンダ中心軸
M…モータ W…ウォーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンを往復移動可能に収容するシリンダが形成された、シリンダブロックと、
前記ピストンの往復移動に基づいて回転駆動されるクランクシャフトを回転可能に支持する、クランクケースと、
円柱状のジャーナル部と、前記ジャーナル部から突出するように設けられたカム部と、を備えたカムシャフトと、
前記カム部及び前記ジャーナル部のうちの一方を収容し得るように構成され、且つ前記シリンダブロックに装着され得るように構成された、前記シリンダブロックとは別体のブロック側支持部と、
他方を収容し得るように構成され、前記クランクケース側に設けられた、クランクケース側支持部と、
を備えていて、
前記カムシャフトの回転駆動に応じて、前記シリンダブロックと前記クランクケースとが前記シリンダの中心軸に沿って相対移動することで、圧縮比を変更可能に構成されたことを特徴とする、可変圧縮比内燃機関。
【請求項2】
請求項1に記載の、可変圧縮比内燃機関であって、
前記シリンダブロックよりも前記ブロック側支持部の方が、熱膨張係数が前記カムシャフトに近くなるように構成されていることを特徴とする、可変圧縮比内燃機関。
【請求項3】
請求項2に記載の、可変圧縮比内燃機関であって、
前記シリンダブロックが、軽金属を主成分とする材料から構成され、
前記カムシャフト、及び前記ブロック側支持部の少なくとも前記カムシャフトと対向する部分が、鉄を主成分とする材料から構成されていることを特徴とする、可変圧縮比内燃機関。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のうちのいずれか1項に記載の、可変圧縮比内燃機関であって、
前記クランクケースは、
前記シリンダブロックを収容し得るように前記中心軸方向に沿って設けられた空間であるシリンダブロック収容部が内部に形成された、筒状のフレームを備えていて、
前記フレームには、前記ブロック側支持部が内部で往復移動し得るように貫通する開口部が設けられていることを特徴とする、可変圧縮比内燃機関。
【請求項5】
請求項4に記載の、可変圧縮比内燃機関であって、
前記クランクケース側支持部は、
前記開口部に隣接する位置にて、前記フレームに設けられた、フレーム側支持部と、
前記カムシャフトを挟んで前記フレーム側支持部と対向するように設けられていて、当該フレーム側支持部に装着されることで前記カムシャフトを支持し得るように構成された、カバー部と、
を備えたことを特徴とする、可変圧縮比内燃機関。
【請求項6】
請求項5に記載の、可変圧縮比内燃機関であって、
複数の前記フレーム側支持部が、前記中心軸と直交する、前記シリンダブロックの長手方向に沿って配列され、
複数の前記フレーム側支持部に対応する前記カバー部が、一体に形成されていることを特徴とする、可変圧縮比内燃機関。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のうちのいずれか1項に記載の、可変圧縮比内燃機関であって、
前記ジャーナル部は、前記中心軸と直交する前記カムシャフトの回転中心軸と同軸に設けられ、
前記カム部は、前記回転中心軸から偏心して設けられていて前記ジャーナル部に対して相対的に回転し得る、円形カムから構成され、
前記ブロック側支持部は、前記円形カムの周面と摺動しつつ当該円形カムを回動可能に支持するように構成されていることを特徴とする、可変圧縮比内燃機関。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のうちのいずれか1項に記載の、可変圧縮比内燃機関であって、
前記クランクケース側支持部又は前記ブロック側支持部における、前記カムシャフトと対向する部分には、摩耗又は摩擦低減のためのコーティングが施されていることを特徴とする、可変圧縮比内燃機関。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のうちのいずれか1項に記載の、可変圧縮比内燃機関であって、
前記クランクケース側支持部又は前記ブロック側支持部における、前記カムシャフトと対向する部分には、他の部分よりも耐摩耗性の高いライナーが装着されていることを特徴とする、可変圧縮比内燃機関。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のうちのいずれか1項に記載の、可変圧縮比内燃機関であって、
前記カムシャフトの表面には、摩耗又は摩擦低減のためのコーティングが施されていることを特徴とする、可変圧縮比内燃機関。
【請求項11】
請求項1ないし請求項10のうちのいずれか1項に記載の、可変圧縮比内燃機関であって、
前記シリンダブロック及び前記クランクケースのうちの少なくとも一方における、他方と対向する表面には、摩耗又は摩擦低減のためのコーティングが施されていることを特徴とする、可変圧縮比内燃機関。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7A】
image rotate

【図7B】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2009−24658(P2009−24658A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−190478(P2007−190478)
【出願日】平成19年7月23日(2007.7.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】