説明

可変容量型ベーンポンプ

【課題】ポンプ室を囲むリングの弾性変形による押しのけ容積の変更が可能であり、かつ、当該弾性変形にかかわらず安定した性能を確保することが可能な可変容量型ベーンポンプを提供する。
【解決手段】ベーンポンプは、ベーン14を保持して回転するロータ12と、その周囲に設けられる内側リング16と、これを外側から支持する外側保持部材18と、容量操作装置22とを備える。内側リング16は、ロータ12との間にポンプ室を画定する内周面16aを有し、この内周面16aは、内側リング16が無変形の状態で押しのけ容積が最大となる偏平な形状を有する。容量操作装置22は、内側リング16を変形させてその偏平度合いを下げることにより、押しのけ容積を減少させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプ室を囲むリングの弾性変形により押しのけ容積の調節が可能な可変容量型ベーンポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、前記のような弾性変形式の可変容量型ベーンポンプとして、特許文献1に記載されるものが知られている。その概要を図6に示す。
【0003】
このベーンポンプは、複数枚のベーン1を保持するロータ2と、各ベーン1の先端と摺接可能な内周面を有する内側リング3と、この内側リング3の左右両側に配置される一対のプレッシャプレート4と、これらのプレッシャプレート4が互いに接離する方向にスライド可能となるように当該プレート4を保持する固定ハウジング5と、前記両プレッシャプレート4を互いに逆向きに(すなわち互いに接離する向きに)スライドさせる駆動装置6とを備える。
【0004】
前記各ベーン1は、これに隣接するベーン1との間にポンプ室を形成する。前記固定ハウジング5には、所定の位置(図では左上位置及び右下位置)にあるポンプ室に対して側方から開口する一対の吸入ポート7と、これらの吸入ポート7からロータ回転周方向に外れた位置(図では右上位置及び左下位置)にあるポンプ室に対して側方から開口する一対の吐出ポート8とが形成される。
【0005】
前記内側リング3の内周面は、当該内側リング3が無変形の状態でほぼ円形をなす。従ってこの状態での押しのけ容積はほぼ0である。この状態から前記両プレッシャプレート4が互いに近づく方向に駆動されて前記内側リング3を左右から内向きに押圧することにより、当該内側リング3は図の上下方向に縦長となる向きに弾性変形する。そして、この変形度合いが大きいほど、すなわち、前記内側リング3の内周面の偏平度合いが増すほど、押しのけ容積すなわちポンプ吐出容量が増大する。
【0006】
具体的に、前記内側リング3が変形した状態で前記ロータ2が図の時計回り方向に回転駆動されることにより、前記各ポンプ室が前記吸入ポート7から次の吐出ポート8まで移動するとともに、当該ポンプ室の容積は前記吸入ポート7と通ずる領域で急激に増大し、その後、吐出ポート8に至る領域で急激に減少する。従って、前記吸入ポート7に導入される流体は前記ポンプ室の容積の増大によって当該ポンプ室内に吸引され、その後、当該ポンプ室の容積減少により吐出ポート8から高圧でポンプ外部に吐出される。その押しのけ容積は、前記各ポンプ室の容積変化が大きいほど増大し、当該容積変化は前記内側リング3の変形度合い(偏平度合い)に支配される。
【特許文献1】特開平4−31680号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記のベーンポンプでは、プレッシャプレート4の押圧に伴う内側リング3の変形(上下方向への膨出)を許容するために、当該プレッシャプレート4の上下端部の内周面と前記内側リング3の外周面との間に予め適当な隙間9が与えられる。この隙間9が存在する領域では、内側リング3がプレッシャプレート4に支持されていないので、当該内側リング3の形状が不安定となり、このことがポンプの吐出性能に悪影響を与えるおそれがある。特に、前記隙間9が存在する領域は、ポンプ室が吸入ポート7から吐出ポート8に移行する領域であり、この領域での内側リング3の内周面の形状がポンプ性能に与える影響は大きい。しかも、この領域での内周面形状を内側リング3の弾性変形によって精度良く再現することは難しい。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑み、ポンプ室を囲む内側リングの弾性変形による押しのけ容積の変更が可能であり、かつ、当該弾性変形にかかわらず前記内側リングの形状を安定に保つことにより高いポンプ性能を維持することが可能な可変容量型ベーンポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための手段として、本発明に係る可変容量型ベーンポンプは、円筒状の外周面を有し、当該外周面の中心軸回りに回転駆動されるロータと、このロータの回転周方向に互いに間隔をおいて配設され、当該ロータの外周面からその回転径方向外向きに突出しかつ当該回転径方向に相対変位可能となるように当該ロータに保持される複数枚のベーンと、前記各ベーンの先端部と摺接する内周面を有し、この内周面と前記ロータの外周面との間に前記各ベーンによって区画される複数のポンプ室を画定するとともに、前記内周面が前記ロータの回転径方向の内側に変位するように弾性変形が可能な内側リングと、前記内側リングを前記ロータの回転径方向の外側から保持する外側保持部材と、前記各ポンプ室を前記ロータの回転軸方向の両側から囲み、かつ、特定の位置にあるポンプ室に対して側方から開口する吸入ポートと当該吸入ポートから前記ロータの回転方向下流側に離れた位置におけるポンプ室に対して側方から開口する吐出ポートとを有するサイドハウジングと、前記内側リングを弾性変形させてその内周面を変位させることにより押しのけ容積を変化させる容量操作手段とを備え、前記内側リングの内周面は、当該内側リングの内径が前記ロータの回転周方向に沿って変化しかつ当該内側リングが無変形の状態で前記押しのけ容積が最大となるように前記吸入ポートの終端近傍で最大径を有する形状を有し、前記外側保持部材は、前記内側リングの一部であって前記吸入ポートの終端から前記吐出ポートの始端に至るまでの領域を含む部分の外側面に接触し、かつ、前記ロータの回転径方向に変位可能な外側可動部材と、前記内側リングのうち前記外側可動部材に接触する部分以外の部分の外側面に接触するように固定される外側固定部材とで構成され、前記容量操作手段は、前記外側可動部材を前記ロータの回転径方向の内向きに変位させて当該外側可動部材と接触する内側リングの部分を径方向内向きに弾性変位させることにより、当該内側リングの内周面の偏平度合い及び前記押しのけ容積を減少させるものである。
【0010】
この可変容量型ベーンポンプでは、前記内側リングの弾性変形にかかわらず、当該内側リングが外側保持部材によって安定した状態で支持されるため、当該内側リングの形状が安定し、このことが高いポンプ性能の確保を可能にする。具体的に、前記内側リングは、図6に示される従来の可変容量型ベーンポンプの内側リング3と異なり、無変形の状態で最大の押しのけ容積を実現するような内周面の形状を有し、この状態から外側可動部材による押圧を受けることにより弾性変形して前記内周面がロータ回転径方向内向きに変位することにより前記押しのけ容積を減少させるものであるので、当該内側リングのうち特にポンプ特性に影響を与える部分すなわち吸入ポートから吐出ポートに至るまでの領域の部分は常に前記外側可動部材によって外側から拘束された状態にあり、このことが当該内側リングの内周面の形状を安定させる。従って、当該内周面の形状の設定も容易になる。
【0011】
例えば、前記内側リングの内周面の形状を、前記吸入ポートの終端近傍で当該内側リングの内径が最大となり、かつ、前記吐出ポートの始端に至るまで当該内径が緩やかに減少する形状に設計することが可能であり、このような形状は、キャビテーションの発生防止に大きく寄与する。すなわち、ベーンポンプでは吸入行程から吐出行程に至るまでの間に流体の吸入がベーンの運動に追いつかないとキャビテーションが発生するおそれがあるが、前記のような内側リングの内周面の形状は、ポンプ室の容積が最大となってから当該容積を漸減させることにより流体の流入量不足を補うことを可能にし、これによりキャビテーションを有効に抑止することを可能にする。そして、本発明に係る可変容量型ベーンポンプでは、前記のような形状を高精度で得ることが可能になる。
【0012】
さらに、前記外側固定部材の少なくとも内周部が、前記内側リングの弾性変形にかかわらず当該内側リングの外周面との接触を維持するように弾性変形することが可能な弾性体により構成されれば、この外側固定部材の配設領域においても内側リングの形状をその弾性変形にかかわらずより安定させることが可能になる。
【0013】
また、本発明に係る可変容量型ベーンポンプは、ポンプ室を囲むカムリングを揺動させてその偏心量を変えることにより押しのけ容積を変化させるタイプのベーンポンプと異なり、複数の吸入ポート及び複数の吐出ポートを有することが可能である。例えば、前記サイドハウジングが、前記吸入ポートとして、前記ロータの回転中心軸を挟んで互いに対向する位置にそれぞれ第1吸入ポート及び第2吸入ポートを有するとともに、前記吐出ポートとして、前記第1吸入ポート及び前記第2吸入ポートの下流側の位置にそれぞれ第1吐出ポート及び第2吐出ポートを有し、前記外側保持部材が、前記外側可動部材として、前記内側リングの一部であって前記第1吸入ポートから前記第1吐出ポートに至るまでの領域を含む部分の外側面に接触する第1可動部材と、前記内側リングの一部であって前記第2吸入ポートから前記第2吐出ポートに至るまでの領域を含む部分の外側面に接触する第2可動部材とを有すればよい。このように吸入ポート及び吐出ポートが分割されたベーンポンプは、単一の吸入ポート及び単一の吐出ポートしか有しないポンプに比べ、その寸法や重量、駆動トルクを低減させることが可能である。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明に係る可変容量型ベーンポンプでは、ポンプ室を画定するための内側リングとして無変形状態で押しのけ容積が最大となる形状のものが用いられ、当該内側リングと接触する外側可動部材がロータ回転径方向内側に変位して当該内側リングを弾性変形させることにより前記押しのけ容積を減少させるので、当該弾性変形にかかわらず当該内側リングの内周面形状を安定させることができ、これにより高いポンプ性能を維持することかできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の好ましい実施の形態を図1〜図5を参照しながら説明する。
【0016】
図1〜図4は、本発明の実施の形態に係る可変容量型ベーンポンプを示すものである。このベーンポンプは、図略のモータに連結されて自軸回りに回転駆動される駆動軸10と、この駆動軸10に固定されるロータ12と、このロータ12に保持される複数枚のベーン14と、前記ロータ12及びベーン14を囲む内側リング16と、この内側リング16を外側から保持する外側保持部材18と、サイドハウジング20と、容量操作装置22とを備える。
【0017】
前記駆動軸10は、前記ロータ12の中心部分を貫通し、その貫通状態でこの駆動軸10に前記ロータ12が固定されている。このロータ12は、前記駆動軸10と同軸の円筒状の外周面12aを有し、当該駆動軸10と一体にその中心軸回りに回転駆動される。
【0018】
前記各ベーン14は、薄肉の板材により構成され、前記ロータ12の回転周方向に互いに間隔をおいて配設されるとともに、当該ロータ12の外周面12aからその回転径方向外向きに突出しかつ当該回転径方向に相対変位可能となるように当該ロータ12に取付けられ、このロータ12とともに回転する。
【0019】
前記内側リング16は、前記各ベーン14の先端部と摺接する内周面16aを有し、この内周面16aと前記ロータ12の外周面12aとの間に、前記各ベーン14によって区画される複数のポンプ室を画定する。この実施の形態に係る内側リング16は、無端状の薄肉の板材により構成され、その内周面16aが前記ロータ12の回転径方向の内側に変位するように弾性変形が可能となる程度まで、その肉厚が小さく設定されている。
【0020】
前記サイドハウジング20は、図4に示すように、前記各ポンプ室を前記ロータ12の回転軸方向(駆動軸10の長手方向;図4では上下方向)の両側から囲むようにして、当該ロータ12、ベーン14、及び各リング16,18を格納するものであり、この実施の形態では、ポンプボディ24と、サイドプレート25と、ポンプカバー26とで構成される。
【0021】
前記ポンプボディ24は、側壁24aと、この側壁24の外周部から側方に延びる周壁24bとを有し、これら側壁24a及び周壁24bが側方に開口する凹部を囲む。そして、この凹部の奥側に前記サイドプレート25が嵌め込まれ、その外側に前記ロータ12および両リング16,18がはめ込まれ、その外側にポンプカバー26が装着される。従って、前記各ポンプ室は前記サイドプレート25の内側面と前記ポンプカバー26の内側面とによって前記ロータ12の回転軸方向の両外側から囲まれている。また、サイドハウジング20は、これを前記駆動軸10が貫通する状態で当該駆動軸10を回転可能に支持する。
【0022】
前記ポンプボディ24には、ポンプ外部から流体(この実施の形態では油)を吸入するための図略の流体吸入口と、ポンプ外部へ流体を吐出するための流体吐出口28とが設けられる一方、ポンプカバー26には、第1吸入ポート31及び第2吸入ポート32と、第1吐出ポート33及び第2吐出ポート34とが形成される。前記両吸入ポート31,32は図略の通路を介して前記流体吸入口に接続され、前記両吐出ポート33,34は図略の通路を介して前記流体吐出口28に接続されている。
【0023】
前記各ポート31〜34は、所定位置にあるポンプ室に対して側方から開口する位置にそれぞれ形成されている。具体的に、前記第1吸入ポート31は、特定の位置(図1では駆動軸10の左上の位置)にあるポンプ室に対して側方から開口し、前記第2吸入ポート32は、前記駆動軸10を挟んで前記第1吸入ポート31と反対側の位置(すなわち当該第1吸入ポート31から前記ロータ12の回転周方向に180°離間する位置)におけるポンプ室に対して側方から開口する。また、前記第1吐出ポート33は前記第1吸入ポート31から前記ロータ12の回転方向(図1では時計回り方向)の下流側に約90°離れた位置でポンプ室に側方から開口し、同様に前記第2吐出ポート34は前記第2吸入ポート32から前記回転方向の下流側に約90°はなれた位置でポンプ室に側方から開口する。
【0024】
前記内側リング16の内周面16aは、当該内側リング16の内径が前記ロータ12の回転周方向に沿って変化する形状であって、当該内側リング16が無変形の状態でポンプの押しのけ容積が最大となるように前記吸入ポート31,32の終端31a,32a(図3)の終端近傍で最大径を有する形状を有する。すなわち、この実施の形態では、ほぼ上下方向に長軸を有してほぼ左右方向に偏平な形状を有する。
【0025】
さらに詳しくは、前記内周面16aは図5に示すようなカムプロフィールを有する。このカムプロフィールは、図1の左端位置及び右端位置をそれぞれ始点とし、その進行方向への回転角度θ(0°≦θ≦180°)とその回転角度位置での半径との関係を示したものである。図示のように、当該内周面16aの半径は、θ=0°の位置である前記始点からロータ回転方向に向かうに従って急激に増大し、θ≒60°の位置(各吸入ポート31,32の終端31a,32aの近傍位置)でピークを迎え、その後、θ≒120°の位置(各吐出ポート33,34の始端33a,34aの近傍位置)まで漸減し、当該位置から急激に減少する特性を有する。
【0026】
前記外側保持部材18は、前記内側リング16の周囲に配設されるもので、前記ロータ12の回転径方向に変位可能な外側可動部材と、前記ポンプボディ24の周壁24bにより拘束されて固定される外側固定部材とからなる。この実施の形態において、前記外側可動部材は、前記内側リング16の上下にそれぞれ配される第1可動部材35及び第2可動部材36により構成され、前記外側固定部材は、前記内側リング16の左右にそれぞれ配される第1固定部材37及び第2固定部材38により構成される。
【0027】
図3に示すように、前記第1可動部材35は、前記内側リング16の上部であって前記第1吸入ポート31の終端31aから前記第1吐出ポート33の始端33aに至るまでの領域を含む部分の外側面に接触する形状の内側面35aを有し、前記第2可動部材36は、前記内側リング16の下部であって前記第2吸入ポート32の終端32aから前記第2吐出ポート34の始端34aに至るまでの領域を含む部分の外側面に接触する形状の内側面36aを有する。
【0028】
これらの可動部材35,36は、後に詳述するように、前記容量操作装置22によりロータ回転径方向の内側にスライド駆動され、これにより、前記内側リング16の上側部分及び下側部分をそれぞれロータ回転径方向の外側から押圧して同方向の内側に弾性変位させる。
【0029】
前記第1固定部材37は、図1〜図3に示される内側リング16の左側部分(第1吸入ポート31及び第2吐出ポート34側の部分)であって、前記両外側可動部材35,36と接触する部分以外の部分の外周面と接触する位置に固定される。具体的に、この第1固定部材37は、内周面に図4に示すような溝を有する固定部材本体37aと、この固定部材本体37aの溝に嵌め込まれて当該固定部材本体37aから内向きに突出する弾性体37bとからなる。この弾性体37bは、当該第1固定部材37の内周部を構成するとともに、前記内側リング16の左側部分の外周面と略合致する形状の内周面を有し、かつ、前記内側リング16の弾性変形にかかわらず当該内側リング16の外周面と当該弾性体37bの内周面との接触を維持するように弾性変形する。
【0030】
前記第2固定部材38は、図1〜図3に示される内側リング16の右側部分(第2吸入ポート32及び第1吐出ポート33側の部分)であって、前記両外側可動部材35,36と接触する部分以外の部分の外周面と接触する位置に固定される。この第2固定部材38も、前記第1固定部材37と同様、内周面に図4に示すような溝を有する固定部材本体38aと、この固定部材本体38aの溝に嵌め込まれて当該固定部材本体38aから内向きに突出する弾性体38bとからなる。この弾性体38bは、当該第2固定部材38の内周部を構成するとともに、前記内側リング16の右側部分の外周面と略合致する形状の内周面を有し、かつ、前記内側リング16の弾性変形にかかわらず当該内側リング16の外周面と当該弾性体38bの内周面との接触を維持するように弾性変形する。
【0031】
前記容量操作装置22は、前記内側リング16の弾性変形を利用してポンプ吐出容量を調節すべく、前記両可動部材35,36をロータ回転径方向(この実施の形態では上下方向)にスライド操作するものである。この実施の形態に係る容量操作装置22は、前記流体吐出口28からの流体吐出圧(油圧)を駆動源として利用するものであって、前記第1可動部材35を操作するための第1油圧シリンダ40Aと、前記第2可動部材36を操作するための第2油圧シリンダ40Bと、これらの油圧シリンダ40A,40Bを前記油圧を利用して同時に作動させるための油圧回路50と、コントローラ60とを備える。
【0032】
前記両油圧シリンダ40A,40Bは、いずれも、前記ポンプボディ24内に組み込まれ、前記各可動部材35,36の両外側(上下両側)にそれぞれ配設されるピストン42A,42Bと、各ピストン42A,42Bからロータ回転径方向内向きに延びて前記各可動部材35,36にそれぞれ連結されるロッド44A,44Bとを備える。一方、前記ポンプボディ24には、前記各ピストン44を収容するシリンダ室46A,46Bと、前記各ロッド44A,44Bが挿通されるロッド挿通孔48A,48Bとが形成される。
【0033】
前記油圧回路50は、前記流体吐出口28に形成された分岐ポート29と、この分岐ポート29と前記各ピストン室46A,46Bとを接続する油路52(図1では便宜上ピストン室46Aに至る部分のみ図示)と、この油路52の途中に設けられる絞り54と、当該油路52の途中であって前記絞り54と前記各ピストン室46A,46Bのヘッド側室(すなわちロッド44A,44Bと反対側の室)との間に設けられる電磁比例減圧弁56とを含む。電磁比例減圧弁56は、ソレノイド58を有し、このソレノイド58は、当該ソレノイド58に入力される電気信号に比例した二次圧(すなわち各ピストン室46A,46Bのヘッド側室に与えられる油圧)を発生させるように当該電磁比例減圧弁56の開度を変化させる。
【0034】
この油圧回路50は、ポンプ外部に構築されてもよいが、例えばポンプボディ24内に組み込まれることも可能である。その場合、前記油路52や絞り54、電磁比例減圧弁56の弁室は全てポンプボディ24に形成されればよく、当該電磁比例減圧弁56のソレノイド58は例えば図1の破線58′に示される位置に取付けられればよい。
【0035】
前記コントローラ60は、マイクロコンピュータ等からなり、ポンプ吐出容量を指定するための指令信号の入力を受ける。そして、その指定されたポンプ吐出容量を得るための電気信号を前記電磁比例減圧弁56のソレノイド58に入力する。
【0036】
次に、この可変容量型ベーンポンプの作用を説明する。
【0037】
このベーンポンプにおいて、前記駆動軸10が図1の時計回り方向に回転駆動されることにより、当該駆動軸10と一体にロータ12が回転し、このロータ12に保持される各ベーン14は、当該ベーン14が受ける遠心力により当該ベーン14の先端部と内側リング16の内周面16aとの接触を維持しながら(すなわち当該内周面16aと摺接しながら)前記ロータ12の回転方向に移動する。これにより、互いに隣接するベーン14同士の間に形成されるポンプ室も当該回転方向に移動する。
【0038】
このとき、内側リング16の内周面16aは図5に示すようなカムプロフィールを有するため、各吸入ポート31,32に導入される流体(油)は各ポンプ室内に吸入され、昇圧されてから吐出ポート33,34にそれぞれ排出される。具体的に、前記各ポンプ室は、このポンプ室内に前記各吸入ポート31,32が開口する領域で膨張し、この膨張により当該吸入ポート31,32から流体を吸入する。当該吸入ポート31,32の終端31a,32aを過ぎたポンプ室はロータ回転方向の移動に伴って僅かずつ収縮し、その後、吐出ポート33,34の始端33a,34aに至ってから急激に収縮する。これにより、当該ポンプ室内の流体が吐出ポート33,34から流体吐出口28を通じてポンプ外部に吐出される。
【0039】
一方、前記コントローラ60は、このコントローラ60に入力される指令信号に対応した電気信号を電磁比例減圧弁56のソレノイド58に向けて出力する。この電気信号を受けたソレノイド58は、当該電磁比例減圧弁56の開度を当該電気信号に比例した開度にすることにより、当該指令信号により指定されたポンプ吐出容量が得られるように両油圧シリンダ40A,40B及び外側可動部材35,36を作動させる。
【0040】
例えば、前記指令信号により指定されるポンプ吐出容量が最大容量である場合、コントローラ60は前記電気信号を最小(0を含む)にし、これにより電磁比例減圧弁56を閉弁させる。この電磁比例減圧弁56の閉弁は、各ピストン室46A,46Bのヘッド側圧、換言すれば当該ピストン室46A,46B内に格納されるピストン42A,42Bの背圧を最小にする。これにより、当該ピストン42A,42B、ロッド44A,44B、及び各外側可動部材35,36は内側リング16及び弾性体37b,38bの弾性復帰力によりロータ回転径方向の外向きにストローク限界まで押し出され、当該内側リング16は無変形またはそれに近い状態となる。この状態は、内側リング16の変形度合いが最も小さく、その偏平度合い(短軸の長さに対する長軸の長さの比)が最も大きい状態であるため、ポンプの押しのけ容積及び吐出容量は最大となる。
【0041】
これに対し、前記指令信号により指定されるポンプ吐出容量が最大容量よりも小さい場合、コントローラ60はその差分に対応して前記電気信号を増大させる。この電気信号は、電磁比例減圧弁56の開度を増大させてその分だけ各ピストン室46A,46Bのヘッド側圧を高めるように、ソレノイド58を作動させる。このヘッド側圧は、当該ピストン室46A,46B内に格納されるピストン42A,42B、ロッド44A,44B、及び各外側可動部材35,36をロータ径方向内側にスライドさせ、内側リング16の上下部分(各吸入ポート31,32から各吐出ポート33,34に至る部分)を当該径方向内向きに弾性変位させる。これにより、内側リング16の偏平度合いが下がり、その分だけポンプの押しのけ容積及び吐出容量が低減する。
【0042】
以上示したベーンポンプでは、前記内側リング16の弾性変形にかかわらず、当該内側リング16が常に外側保持部材18(可動部材35,36及び固定部材37,38)によって外側から安定した状態で支持されるため、当該内側リング16の内周面16aの形状が安定し、このことが高いポンプ性能の確保を可能にする。
【0043】
例えば、前記図6に示される従来の可変容量型ベーンポンプは、プレッシャプレート4による左右方向からの内側リング3の押圧によって当該内側リング3の上下方向への膨出量を増やすことにより押しのけ容積を増大させるものであるので、特にポンプ性能に影響を与え易い内側リング3の上下部分の形状が不安定となりやすい。従って安定したポンプ性能を得ることは難しい。
【0044】
これに対し、図1〜図5に示されるベーンポンプでは、内側リング16が無変形の状態で最大の押しのけ容積を実現するような内周面の形状を予め有しており、この状態から外側可動部材35,36による押圧を受けることにより弾性変形して内周面がロータ回転径方向内向きに変位することにより前記押しのけ容積を減少させるものであるので、当該内側リング16のうち特にポンプ特性に影響を与える部分すなわち吸入ポートから吐出ポートに至るまでの領域の部分(図1では上下部分)は常に前記外側可動部材35,36の内側面35a,36aによって外側から拘束された状態にあり、このことが当該内側リング16の内周面16aの形状を安定させる。
【0045】
このことは、さらに、当該内周面16の形状を容易にかつ高精度で設定することを可能にするため、ポンプ特性の向上にも寄与することができる。例えば、前記図5に示されるように、前記内側リング16の内周面16aの形状(カムプロフィール)が、前記各吸入ポート31,32の終端31a,32a近傍で当該内側リング16の内径が最大となり、かつ、前記各吐出ポート33,34の始端に33a,34aに至るまで当該内径が緩やかに減少する形状に設計されることは、キャビテーションの発生防止に大きく寄与する。このキャビテーションは、吸入行程から吐出行程に至るまでの間に流体の吸入がベーン14の運動に追いつかないことに起因して発生し得るものであるが、図5に示すようなカムプロフィールは、ポンプ室の容積が最大となってからの当該容積の漸減により流体の流入量不足を補うことを可能にし、これにより前記キャビテーションを有効に抑止することを可能にする。
【0046】
一方、この実施の形態に係るベーンポンプでは、前記各固定部材37,38の内周部(全体でもよい)が弾性体37b,38bで構成され、これらの弾性体37b,38bの内周面が前記内側リング16の弾性変形にかかわらず当該内側リング16の外周面との接触を維持するように当該弾性体37b,38bが弾性変形するため、これら固定部材37,38の配設領域においても内側リング16の形状を安定させることができる。
【0047】
なお、本発明に係る可変容量型ベーンポンプは以上説明した実施の形態に係るものに限定されない。例えば次のような態様が採用されてもよい。
【0048】
1)サイドハウジングは、単一の吸入ポート及び単一の吐出ポートのみを有するものでもよい。その場合も、内側リングのうち当該吸入ポートの終端から当該吐出ポートの始端に至るまでの領域を含む部分に接触するように外側可動部材が配設され、それ以外の部分に接触するように外側固定部材が配設されればよい。ただし、前記のように吸入ポートが第1吸入ポート31及び第2吸入ポート32に分割され、吐出ポートが第1吐出ポート33及び第2吐出ポート34に分割されることは、ポンプの寸法や重量、駆動トルクの低減を可能にする。
【0049】
2)内側リングの偏平方向は限定されない。例えば、長軸がほぼ左右方向に延び、短軸がほぼ上下方向に延びるような姿勢で内側リングが設置されてもよい。この場合は外側可動部材が例えば内側リングの左右両側に配設されればよい。
【0050】
3)外側可動部材を動かすための容量操作手段は図1に示されるような油圧(吐出流体圧)を利用するものに限られない。例えば、モータにより駆動される送りねじの推力やソレノイド装置の駆動力を利用するものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施の形態に係る可変容量型ベーンポンプにおいて最大吐出容量が指定された状態を示す断面正面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る可変容量型ベーンポンプにおいて最大吐出容量よりも低い容量が指定された状態を示す断面正面図である。
【図3】前記可変容量型ベーンポンプの要部を拡大した断面正面図である。
【図4】図1のIV−IV線断面図である。
【図5】前記可変容量型ベーンポンプの内側リングの内周面形状について設定されたカムプロフィールである。
【図6】従来の可変容量型ベーンポンプを示す断面正面図である。
【符号の説明】
【0052】
10 駆動軸
12 ロータ
12a ロータの外周面
14 ベーン
16 内側リング
16a 内側リングの内周面
18 外側保持部材
20 サイドハウジング
22 容量操作装置
31 第1吸入ポート
31a 第1吸入ポートの終端
32 第2吸入ポート
32a 第2吸入ポートの終端
33 第1吐出ポート
33a 第1吐出ポートの始端
34 第2吐出ポート
34a 第2吐出ポートの始端
35 第1可動部材
35a 第1可動部材の内側面
36 第2可動部材
36a 第2可動部材の内側面
37 第1固定部材
37b 第1固定部材の弾性体
38 第2固定部材
38b 第2固定部材の弾性体
40A,40B 油圧シリンダ
50 油圧回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可変容量型ベーンポンプであって、
円筒状の外周面を有し、当該外周面の中心軸回りに回転駆動されるロータと、
このロータの回転周方向に互いに間隔をおいて配設され、当該ロータの外周面からその回転径方向外向きに突出しかつ当該回転径方向に相対変位可能となるように当該ロータに保持される複数枚のベーンと、
前記各ベーンの先端部と摺接する内周面を有し、この内周面と前記ロータの外周面との間に前記各ベーンによって区画される複数のポンプ室を画定するとともに、前記内周面が前記ロータの回転径方向の内側に変位するように弾性変形が可能な内側リングと、
前記内側リングを前記ロータの回転径方向の外側から保持する外側保持部材と、
前記各ポンプ室を前記ロータの回転軸方向の両側から囲み、かつ、特定の位置にあるポンプ室に対して側方から開口する吸入ポートと当該吸入ポートから前記ロータの回転方向下流側に離れた位置におけるポンプ室に対して側方から開口する吐出ポートとを有するサイドハウジングと、
前記内側リングを弾性変形させてその内周面を変位させることにより押しのけ容積を変化させる容量操作手段とを備え、
前記内側リングの内周面は、当該内側リングの内径が前記ロータの回転周方向に沿って変化しかつ当該内側リングが無変形の状態で前記押しのけ容積が最大となるように前記吸入ポートの終端近傍で最大径を有する形状を有し、
前記外側保持部材は、前記内側リングの一部であって前記吸入ポートの終端から前記吐出ポートの始端に至るまでの領域を含む部分の外側面に接触し、かつ、前記ロータの回転径方向に変位可能な外側可動部材と、前記内側リングのうちの前記外側可動部材に接触する部分以外の部分の外側面に接触するように固定される外側固定部材とで構成され、
前記容量操作手段は、前記外側可動部材を前記ロータの回転径方向の内向きに変位させて当該外側可動部材と接触する内側リングの部分を径方向内向きに弾性変位させることにより、当該内側リングの内周面の偏平度合い及び前記押しのけ容積を減少させるものであることを特徴とする可変容量型ベーンポンプ。
【請求項2】
請求項1記載の可変容量型ベーンポンプにおいて、
前記内側リングの内周面の形状は、前記吸入ポートの終端近傍で当該内側リングの内径が最大となり、かつ、前記吐出ポートの始端に至るまで当該内径が緩やかに減少する形状であることを特徴とする可変容量型ベーンポンプ。
【請求項3】
請求項1または2記載の可変容量型ベーンポンプにおいて、
前記外側固定部材の少なくとも内周部は、前記内側リングの弾性変形にかかわらず当該内側リングの外周面との接触を維持するように弾性変形することが可能な弾性体により構成されることを特徴とする可変容量型ベーンポンプ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の可変容量型ベーンポンプにおいて、
前記サイドハウジングは、前記吸入ポートとして、前記ロータの回転中心軸を挟んで互いに対向する位置にそれぞれ第1吸入ポート及び第2吸入ポートを有するとともに、前記吐出ポートとして、前記第1吸入ポート及び前記第2吸入ポートの下流側の位置にそれぞれ第1吐出ポート及び第2吐出ポートを有し、
前記外側保持部材は、前記外側可動部材として、前記内側リングの一部であって前記第1吸入ポートの終端から前記第1吐出ポートの始端に至るまでの領域を含む部分の外側面に接触する第1可動部材と、前記内側リングの一部であって前記第2吸入ポートの終端から前記第2吐出ポートの始端に至るまでの領域を含む部分の外側面に接触する第2可動部材とを有することを特徴とする可変容量型ベーンポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−77871(P2010−77871A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−246236(P2008−246236)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(391003668)トーヨーエイテック株式会社 (145)
【Fターム(参考)】