説明

可変容量形ポンプ装置

【課題】ポンプ吐出量を増大させる際の応答遅れを抑制した可変容量形ポンプ装置を提供する。
【解決手段】舵角速度および車速に応じてソレノイドユニットを駆動制御することにより、カムリングのロータに対する偏心量を増減させ、ロータ一回転あたりの吐出流量である固有吐出量を変化させる可変容量形ポンプ装置において、舵角速度および車速が上記固有吐出量を減少させるように変化したときに、上記ソレノイドユニットへ供給する電流の減少を遅らせることにより、上記カムリングが上記固有吐出量を減少させる方向へ移動する際の慣性力を低減し、その慣性力によって上記固有吐出量を増大させる方向へのカムリングの移動が阻害されることを防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車両に搭載された油圧パワーステアリング装置の油圧源として用いられる可変容量形ポンプ装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の油圧パワーステアリング装置に適用される従来の可変容量形ポンプ装置として、例えば特許文献1に記載されたものが知られている。
【0003】
この特許文献1に記載の可変容量形ポンプ装置は、駆動源によって回転駆動されるロータと、そのロータに外挿されたカムリングとがポンプボディ内に収容されており、上記カムリングをロータに対する偏心量が増減する方向へ移動させることにより、ロータ一回転あたりの吐出流量である固有吐出量が変化するようになっている。そして、この可変容量形ポンプ装置は、上記カムリングのロータに対する偏心量を制御するための電磁弁を有しており、この電磁弁を車両の運転状態に応じて駆動制御することでポンプ吐出量を任意に変化させることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−218430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の可変容量形ポンプ装置では、上記カムリングのロータに対する相対変位によって上記固有吐出量を変化させるようになっているため、上記カムリングの移動方向を反転させようとしたときに、その動作が上記カムリングの慣性力によって遅れることがある。特に、上記カムリングの移動方向を上記固有吐出量が減少する方向から増大する方向へ切り替えるときにその動作が遅れると、例えば油圧パワーステアリング装置などの負荷側に供給する作動油量が不足することになり、好ましくない。
【0006】
本発明は上述した課題に鑑みてなされたものであり、特に、ポンプ吐出量を増大させる際の応答遅れを抑制した可変容量形ポンプ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、上記カムリングのロータに対する偏心量を制御するための電磁アクチュエータと、車両の運転状態を検出する検出手段の出力に基づいて電磁アクチュエータを駆動するための駆動信号を出力する制御手段と、を備えていて、上記制御手段は、上記検出手段の出力が上記固有吐出量を減少させるように変化したときのカムリングの応答性が、上記検出手段の出力が上記固有吐出量を増加させるように変化したときのカムリングの応答性よりも低くなるように電磁アクチュエータを駆動制御するようになっているとともに、上記固有吐出量が減少する方向へカムリングが移動している状態で上記固有吐出量を増加させるように上記検出手段の出力が変化したときに、カムリング停止状態で上記固有吐出量を増加させるように上記検出手段の出力が変化したときよりも、上記メータリングオリフィスの流路断面積を大きくするようになっていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ポンプ吐出量を増大させる際の応答遅れが抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1の実施の形態を示し、可変容量形ポンプの縦断面図。
【図2】図1のA−A断面図。
【図3】図1のB−B断面図。
【図4】電磁弁が非通電状態にあるときのメータリングオリフィスの状態を示す図2の部分拡大図。
【図5】電磁弁に励磁電流を通電させたときのメータリングオリフィスの状態を示す図2の部分拡大図。
【図6】図4におけるソレノイドユニットを駆動制御するための電子コントローラを示す図。
【図7】図6におけるMPUの詳細を示すブロック図。
【図8】図7におけるMPUの動作の一例を示すタイムチャート。
【図9】図6における目標ポンプ吐出量算出部の目標ポンプ吐出量マップ。
【図10】図6における基本供給電流算出部の基本供給電流マップ。
【図11】図6におけるピークホールド処理部のホールド時間マップ。
【図12】図6におけるピークホールド処理部の電流漸減率マップ。
【図13】図6におけるピークホールド処理部の処理内容を示すフローチャート。
【図14】第1の実施の形態の変形例を示す図。
【図15】本発明の第2の実施の形態として、MPUの詳細を示すブロック図。
【図16】図15における目標供給電流算出部の目標供給電流マップ。
【図17】図15におけるMPUの動作の一例を示すタイムチャート
【図18】図15におけるPIゲイン制御部の処理内容を示すフローチャート。
【図19】本発明の第3の実施の形態として、MPUの詳細を示すブロック図。
【図20】図19における基本ポンプ吐出量算出部の基本ポンプ吐出量マップ。
【図21】図19における遅れ補償部の吐出量補正値マップ。
【図22】図19におけるMPUの動作の一例を示すタイムチャート。
【図23】図19における遅れ補償部の処理内容を示すフローチャート。
【図24】第3の実施の形態の変形例を示す図。
【図25】第3の実施の形態の別の変形例として、MPUの詳細を示すブロック図。
【図26】図25における遅れ補償部の吐出量補正値マップ。
【図27】図25における遅れ補償部の処理内容を示すフローチャート。
【図28】本発明の参考例としてベーンポンプを示す図。
【図29】図28における逆止弁の開弁状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1〜3は、本発明のより具体的な実施の形態として、車両に搭載された流体圧機器たる油圧パワーステアリング装置へ作動油を供給するための可変容量形のベーンポンプを示す図であって、図1はベーンポンプの縦断面図、図2は図1のA−A断面図、図3は図1のB−B断面図である。
【0011】
図1〜3に示すように、このベーンポンプのうちアルミ合金材からなるポンプボディ1は、一端が開口する筒状部3とその筒状部3の他端に設けられた端壁部4によって構成されるフロントボディ2と、筒状部3の開口を閉塞するリヤカバー5と、に分割形成されている。これらフロントボディ2およびリアカバー5は四本のボルト71によって互いに締結されている。そして、後述するポンプ吐出領域側となるポンプボディ1の図1中下端側に設けられ、端壁部4の外側面及びリヤカバー5の外側面にボルト72をもって固定されたブラケット6により、図示外の車体に取り付けられるようになっている。なお、ブラケット6は、縦断面略H形状に形成されており、フロントボディ2に固定される前面プレート6aとリヤカバー5に固定される背面プレート6bとの間に、ポンプボディ1を挟持状態で支持するようになっている。
【0012】
また、このベーンポンプは、端壁部4とリヤカバー5の内周部に配設された第1、第2軸受70a,70bによって回転自在に支持され、且つ一端側が端壁部4を挿通して外部へ突出するように設けられた駆動軸7と、その駆動軸7の一端部に相対回転不能に取り付けられて図示外のエンジンの駆動力を駆動軸7に伝達するプーリ8と、筒状部3の内周側に収容され、駆動軸7に回転駆動されてポンプ作用を行うポンプ要素10と、そのポンプ要素10から吐出される吐出流量(ポンプ吐出量)を制御する制御弁40と、その制御弁40を構成する弁体41の移動を制御する電磁弁50と、を備えている。
【0013】
フロントボディ2は、端壁部4の略中心位置にプーリ8側へ向かって突設された筒状基部4aを有しており、この筒状基部4aの内周側に、駆動軸7の外径よりも大きな内径に設定され、且つ第1軸受70aを収容保持する軸受収容部4bが形成されている。さらに、軸受収容部4bの外端部には、円環状のシール部材76を収容保持する段差拡径状のシール保持部4cが形成されている。
【0014】
リヤカバー5の略中心位置には、フロントボディ2側へ向けて突出して筒状部3の開口端部に嵌合する嵌合凸部5aが突設されており、この嵌合凸部5aのほぼ中心位置に、第2軸受70bを収容する凹状の軸受収容部5bが形成されている。
【0015】
プーリ8は、駆動軸7に圧入固定されたほぼ円環状のボス部材9に対して複数のボルト73をもって締結固定されており、これによってプーリ8が駆動軸7に対して相対回転不能になっている。
【0016】
ポンプ要素10は、駆動軸7によって回転駆動されるロータ13と、そのロータ13に外挿され、当該ロータ13に対する偏心量が増減する方向へ揺動することで後述する固有吐出量を増減させるカムリング12と、筒状部3の内周面に嵌着されたアダプタリング11と、端壁部4の内側面とアダプタリング11の端面によって挟持された略円盤状のプレッシャプレート14と、から主として構成されている。
【0017】
アダプタリング11は、その内周面下部に形成された円弧状溝内に、カムリング12の位置を保持する位置保持ピン15が配設されているとともに、同内周面において上記円弧状溝の図2中左側、つまり後述する第1流体圧室P1側に隣接して設けられた矩形状溝内には、カムリング12の揺動支点を構成する板部材16が保持されている。なお、位置保持ピン15は、カムリング12の揺動支点としての役割を果たすものではなく、そのカムリング12の位置を保持しつつ、アダプタリング11に対するカムリング12の回り止めとしての機能するものである。
【0018】
また、アダプタリング11の内周面には、当該アダプタリング11の径方向で板部材16とほぼ対向した位置に、横断面略矩形状のシール部材17が設けられ、このシール部材17と板部材16とにより、カムリング12の揺動方向両側に第1流体圧室P1と第2流体圧室P2がそれぞれ隔成されている。そして、カムリング12は、板部材16の上面の所定位置を揺動中心Qとして、第1流体圧室P1の容積を減少させつつロータ13に対する偏心量を増大させる方向、および第2流体圧室P2の容積を減少させつつロータ13に対する偏心量を減少させる方向へ揺動自在になっている。
【0019】
ロータ13は、リヤカバー5の嵌合凸部5aの端面とプレッシャプレート14の一端面とによってそれぞれの間に僅かな軸方向隙間を介してほぼ挟持状態に保持されており、駆動軸7の回転に伴って図2中の反時計方向に回転するようになっている。このロータ13の外周部には、径方向に沿って切欠形成された複数のスロット13aが円周方向へ等ピッチで放射状に設けられており、これら各スロット13a内に、略矩形板状のベーン18がそれぞれカムリング12の径方向で出没自在に設けられている。また、各スロット13aの奥部側には、横断面略円形状の背圧室13bが当該各スロット13aと連続一体に設けられている。
【0020】
そして、カムリング12とロータ13との間に形成される空間内には、隣接する二枚のベーン18,18によって隔成されたポンプ室20が周方向で複数形成されており、ロータ13を駆動軸7によって回転駆動すると、各ポンプ室20がその容積を増減させながらそれぞれ周回移動してポンプ作動が行われることとなる。さらに、カムリング12の揺動をもって当該カムリング12のロータ13に対する偏心量を増減させることにより、ロータ13一回転当たりの吐出流量である固有吐出量が増減するようになっている。
【0021】
第2流体圧室P2には、ボルト状のスプリングリテーナに一端が弾持されたスプリング19が配設されており、そのスプリング19がカムリング16を第1流体圧室P1側、すなわち上記固有吐出量が増大する方向へ常時付勢している。
【0022】
また、リヤカバー5のうち嵌合凸部5aの端面には、ロータ13の回転に伴い各ポンプ室20の容積が漸次拡大する吸入領域に該当する部分に、周方向に沿ったほぼ円弧状の第1吸入ポート21が切欠形成されている。この第1吸入ポート21は、リヤカバー5内に形成された吸入通路22に対し、第1吸入孔23を介して連通している。
【0023】
吸入通路22はリヤカバー5の外部に開口していて、この開口端部に若干拡径状に形成された吸入口22aに、図示外のリザーバタンクが接続されることになる。これにより、作動油を貯留する図示外のリザーバタンクから吸入通路22を通じて導かれた作動油が、第1吸入孔23を介して各ポンプ室20内に供給されるようになっている。
【0024】
また、吸入通路22は還流通路24を介して軸受収容部5bの奥部側と連通している。この還流通路24は、リヤカバー5とロータ13との対向面間の軸方向隙間から漏出して軸受収容部5b内に流入した作動油を吸入通路22へ還流するためのものであり、これによって上記軸方向隙間から漏出した作動油を再び第1吸入ポート21へ導入するようになっている。
【0025】
一方、プレッシャプレート14のうち第1吸入ポート21と対向する位置には、その第1吸入ポート22とほぼ同形状の第2吸入ポート26が切欠形成されている。この第2吸入ポート26のほぼ中央部には、フロントボディ2内に形成された還流通路27に開口する第2吸入孔28が貫通形成され、これら還流通路27および第2吸入孔28を介して第2吸入ポート26とシール収容部4cが連通するようになっている。さらに、シール収容部4cには、シール部材35が収容された状態で還流通路27に開口し、その還流通路27および第2吸入孔28と共に一連の油通路を構成するほぼ円形の切欠溝29が切欠形成されている。かかる油通路により、シール部材76の余剰油をポンプ吸入作用に基づいて吸入側の各ポンプ室20へ導入し、その余剰油が外部へ漏出することを防止している。
【0026】
他方、プレッシャプレート14のうちロータ13との対向端面には、ロータ13の回転に伴い各ポンプ室20の容積が漸次縮小していく吐出領域に該当する部分に、円周方向に沿って略円弧状に切欠形成された第1吐出ポート31が形成されている。この第1吐出ポート31は複数の吐出孔32を介して吐出通路33と連通しており、ロータ13の回転に基づくポンプ作用によって加圧されて吐出孔32から吐出された作動油が吐出通路33を通じて外部へと導かれるようになっている。
【0027】
また、リアボディ5のうち嵌合凸部5aの端面には、第1吐出ポート31と対向する位置に、その第1吐出ポート31とほぼ同形状の第2吐出ポート34が切欠形成されている。
【0028】
このように、第1、第2吸入ポート22,26および第1、第2吐出ポート31,34をロータ13に対して軸方向でほぼ対称に設けることによって、各ポンプ室20の軸方向両側の圧力バランスが保たれている。
【0029】
吐出通路33は、吐出孔32に開口するほぼ円弧溝状の圧力室35と、端壁部4の上端面から圧力室35の第1流体圧室P1側端部へ穿設され、圧力室35内の作動油の一部を制御弁40のうち後述する高圧室44へ導く第1接続通路61と、端壁部4の上端面から圧力室35の第2流体圧室P2側端部へ第1接続通路61と略平行に穿設された第2接続通路62と、端壁部4の外側面に開口し、第2接続通路62内の作動油を外部へと導く吐出口65と、から構成され、第2接続通路62と吐出口65の接続部分に電磁弁50が配設されている。なお、第1接続通路61の開口部はプラグによって閉塞されている。
【0030】
制御弁40は、フロントボディ2のうち筒状部3の吸入領域側に駆動軸7と直交する方向に沿って穿設された弁孔3aと、その弁孔3a内に摺動自在に収容された弁体41と、その弁体41を図2中の左側、すなわち弁孔3aの開口端に螺着されたプラグ42側へ付勢するバルブスプリング43と、有している。
【0031】
また、プラグ42と弁体41の間に形成された高圧室44が第1接続通路61を介して圧力室35に連通している一方、弁孔3aの奥部側に形成された中圧室45が第2接続通路62および後述するメータリングオリフィス60を介して圧力室35に連通している。つまり、高圧室44にメータリングオリフィス60上流側の圧力が導入される一方、中圧室45にメータリングオリフィス60下流側の圧力が導入され、それら中圧室45と高圧室44の圧力差によって弁体41が動作するようになっている。なお、中圧室45にはバルブスプリング43が収容されている。
【0032】
そして、中圧室45と高圧室44との圧力差が小さく、弁体41がプラグ42側に位置する状態では、弁体41の軸方向中間部の外周側に画成された低圧室46と第1流体圧室P1とが、フロントボディ2の筒状部に形成された連通油路47aおよびアダプタリング11に形成された連通油路47bを介して接続される。この低圧室46は、吸入通路22から分岐して形成された低圧通路48に接続されており、この低圧通路48を介して第1流体圧室P1に吸入通路22からポンプ吸入圧が導入されることになる。なお、第2流体圧室P2は、当該第2流体圧室P2に開口形成されたほぼ円弧状の吸入圧導入ポート36と連通路37とを介して吸入通路22と連通していて、当該第2流体圧室P2に常時ポンプ吸入圧が導入されるようになっている。つまり、この状態では、スプリング19の付勢力によってカムリング12が上記固有吐出量が最大となる位置にあって、ポンプ吐出量が比較的多くなる。
【0033】
これに対し、高圧室44と中圧室45の差圧が大きくなり、弁体41がバルブスプリング43の付勢力に抗して反プラグ42側へ摺動した場合には、第1流体圧室P1と低圧室46との連通が遮断され、当該第1流体圧室P1が高圧室44と連通することになる。したがって、この状態では、第1流体圧室P1へポンプ吐出圧が導入されることで、カムリング12がスプリング19の付勢力に抗して第2流体圧室P2の容積を狭めるように揺動し、当該カムリング12とロータ13との偏心量が減少する。つまり、上記固有吐出量の減少によってポンプ吐出量が比較的少なくなる。このように、第1流体圧室P1内には、低圧室46の油圧と高圧室44の油圧とが選択的に供給されるようになっている。つまり、メータリングオリフィス60の上、下流側の圧力差に応じた弁体41の動作により、第1流体圧室P1の圧力が制御され、ポンプ吐出量が変化することになる。
【0034】
なお、制御弁40のうち弁体41の内部にはリリーフバルブ49が構成されており、中圧室45の圧力が所定以上に達したとき、つまりパワーステアリング装置側(負荷側)の圧力が所定以上に達したときにこれが開放し、作動油の一部が低圧通路48を介して吸入通路22へと還流するようになっている。
【0035】
また、第1接続通路61と高圧室44との接続部分には、縮径状に形成された第1オリフィス63が設けられており、この第1オリフィス63が、高圧室44内に導入される作動油の油圧の脈動による影響を低減すると共に、弁体41の油振を防止するダンピングとしても機能するようになっている。
【0036】
図4は非通電状態の電磁弁50を示す図2の部分拡大図であって、図5は励磁電流を通電させたときの電磁弁50を示す図2の部分拡大図である。
【0037】
電磁弁50は、図4,5に示すように、吸入口22aが設けられている側、つまり上記吸入領域側であって、プーリ8と制御弁40との間となる位置に、第2接続通路62の延出方向に沿って配置されており、フロントボディ2の端壁部4をバルブボディとして構成されている。
【0038】
この電磁弁50は、端壁部4の上方へ開口するように第2接続通路62上に形成された弁孔4d内に収容され、且つ軸方向に沿って進退移動可能な弁体51と、弁孔4d内に収容された円環状のスペーサ77に着座し、弁体51を弁孔4dの開口端側へ付勢するリターンスプリング52と、弁孔4dを閉塞するように当該弁孔4dの軸方向に沿って配設されていて、通電に伴い後述するロッド56を進出させることにより、リターンスプリング52の付勢力に抗して弁孔4d内における弁体51の保持位置を変更させる電磁アクチュエータとしてのソレノイドユニット50aと、から主として構成されている。
【0039】
弁孔4dは、弁体51の外径とほぼ同径の内径に設定され、その弁体51の一端側を摺動自在に保持する小径部4eと、弁孔4dの開口端部に形成され、その開口端側から所定範囲にわたって形成された雌ねじ部を有する大径部4fと、その大径部4fと小径部4eとの間に形成された中径部4gと、を有しており、開口端側へ向かって段差拡径状に形成されている。
【0040】
また、弁孔4d内には、弁体51の外径とほぼ同径の内径に設定されてその弁体51の他端部を摺動自在に保持する保持部材59が、中径部4gと大径部4fとに跨って設けられている。この保持部材59は、一端側に大径部4fの内径とほぼ同径の外径に設定された拡径部59aを有し、大径部4fと中径部4gとの境界部分に形成された段差部と、大径部4fの雄ねじ部に螺合した第1コア53と、の間に拡径部59aが挟持状態に保持されている。
【0041】
中径部4gと小径部4fとの境界部分に形成された段差部と、保持部材59の先端面との間には環状通路64が形成されている。この環状通路64は、吐出口65と連通しているとともに、制御弁40側に向かって直線状に形成された連通路66を介して制御弁40の中圧室45とも連通している。なお、連通路66は、弁孔4dの中径部4gから制御弁40の弁孔3aを貫通するようにして形成されており、その開口端がリヤカバー5によって閉塞されている。そして、連通路66と環状通路64との接続部分には第2オリフィス68が設けられている。
【0042】
弁体51は、その内部に室67を有する略有底円筒状に形成されており、その開口端を第2接続通路62側に向けた姿勢で配置されている。弁体51の開口端部には、リターンスプリング52の外径よりも僅かに大きな内径を有する段差拡径状の拡径部51aが形成されていて、この拡径部51aの内端面とスペーサ77との間にリターンスプリング52が配置されている。
【0043】
また、弁体51のうち軸方向の所定位置には、環状通路64と室67とを連通させる四つの小径孔51bが周方向90°間隔でそれぞれ径方向へ貫通形成されている。これら各小径孔51bは、弁孔4d内における弁体51の保持位置によらず環状通路64に常時開口するようになっており、室67から環状通路64内に導かれる作動油(ポンプ吐出圧)の圧力降下を図る固定オリフィス60aとして機能することになる。
【0044】
一方、この弁体51のうち各小径孔51bよりも底部側の位置には、環状通路64と室67とを連通し得る四つの大径孔51cがそれぞれ各小径孔51bと同位相となる周方向位置に径方向へ貫通形成されている。これら各大径孔51cは、弁孔4d内における弁体51の保持位置が図4に示すような最上端位置にあるときに保持部材59の開口端部によってちょうど閉塞され、弁体51の図中下方への移動に伴って環状通路64に対する開口面積が漸次拡大するようになっている。つまり、弁孔4d内における弁体51の保持位置に応じて環状通路64に対する大径孔51cの開口面積が変化するようになっていて、開口面積の変化に基づく流路断面積の変化によって室67から環状通路64内に導かれるポンプ吐出圧の圧力降下を図る可変オリフィス60bが構成されている。
【0045】
このように、室67と環状通路64との間には、固定オリフィス60aと可変オリフィス60bとが互いに並列の関係で設けられている。そして、これら固定オリフィス60aおよび可変オリフィス60bによって吐出通路33の途中に構成されたメータリングオリフィス60の流路断面積が、ソレノイドユニット50aによって可変制御されることになる。
【0046】
ソレノイドユニット50aは、弁孔4dの開口端部に螺着され、その軸心に沿って貫通形成された貫通孔53aを有する第1コア53と、その第1コア53の反弁孔4d側に所定の軸方向隙間を隔てて対向配置され、第1コア53との対向端面から軸心に沿って収容穴54aが穿設された第2コア54と、収容穴54a内に進退移動可能に収容された円筒状の可動子であるアーマチュア55と、そのアーマチュア55に貫装されて当該アーマチュア55と一体的に進退移動可能なロッド56と、両コア53,54の外周面に跨って嵌着されてそれら両コア53,54の端部同士を連結する円筒状の連結部材57と、その連結部材57を含む両コア53,54に外挿されたコイルユニット58と、を備えている。
【0047】
第1コア53は、磁性材料によってほぼ円筒状に形成されており、端壁部4の上端面とコイルユニット58の他端部との間に挟持されたフランジ部53bと、弁孔4dの開口端に螺合する雄ねじ部と、を有している。そして、このフランジ部53bと雄ねじ部の間には、シール部材が嵌着されたシール溝が切欠形成ており、このシール部材によって弁孔4dの開口部をシールするようになっている。なお、第1コア53のうち貫通孔53aの反第2コア54側端部には、ロッド56の一端部を支持する支持部材56aが収容されている。
【0048】
また、第1コア53のうち貫通孔53aの第2コア54側の開口部には、第2コア54の収容穴54aの内径とほぼ同じ内径に設定され、アーマチュア55が進出した際に当該アーマチュア55の一端部が嵌合する凹部53cが形成されている。さらに、第1コア53の第2コア54側端部外周には、連結部材57が外嵌する縮径状の嵌合溝53dが形成されている。
【0049】
第2コア54は磁性材料によって略有底円筒状に形成されている。その第2コア54のうち収容穴54aの内端部には縮径状の凹部54bが穿設されており、その凹部54b内にロッド56の他端部を支持する支持部材56bが収容されている。また、第2コア54のうち反第1コア53側にはフランジ部54cが形成されていて、そのフランジ部54cの外周縁に後述するヨーク58cの一端部がカシメ固定されている。さらに、第2コア54のうち第1コア53側端部外周には、連結部材57が外嵌する段差縮径状の嵌合溝54dが形成されている。
【0050】
アーマチュア55は磁性材料によって形成されており、第2コア54の収容穴54a内に僅かな径方向隙間をもって収容されている。そして、このアーマチュア55は、コイルユニット58の励磁作用に基づいて発生する吸引力によって第1コア53側へ進出することになる。
【0051】
ロッド56は、アーマチュア55が図中上側の後退位置に位置している状態で、その先端面が第1コア53の下端面と同一の平面を構成するような長さに設定されていて、アーマチュア55の進出移動に伴って第1コア53の下端面から突出して弁体51を下方へ押し出すようになっている。
【0052】
連結部材57は、非磁性材料によって薄肉円筒状に形成され、第1コア53および第2コア54の両嵌合溝53d,54dにそれぞれ外挿した状態で溶接によって固定されている。
【0053】
コイルユニット58は、両端部にフランジ部を有するほぼ円筒状に形成され、両コア53,54に跨って外挿されたボビン58aと、そのボビン58aの外周面に捲回されたコイル58bと、そのコイル58bと共にボビン58aの外周側を包囲するほぼ円筒状のヨーク58cと、から主として構成されている。なお、コイル58bには後述する電子コントローラから引き出されたハーネス58eが接続されており、そのハーネス58eは第2コア54のフランジ部54cに貫装されたグロメット58dを挿通している。
【0054】
そして、ソレノイドユニット50aのコイル58bに励磁電流が通電されていない状態では、アーマチュア55に第1コア53側への吸引力が作用せず、リターンスプリング52の付勢力によって弁体51が第1コア53の下端面に当接した状態で保持されるため、各大径孔51cが前記保持部材59によって閉塞されたまま、各小径孔51bのみが前記環状通路64に開口し、室67が各小径孔51bのみを介して環状通路64と連通することになる。つまり、メータリングオリフィス60の流路断面積が最小になり、メータリングオリフィス60の上、下流側の圧力差が比較的大きくなる。そして、これに伴う制御弁40の動作によってカムリング12がロータ13に対する偏心量を減少させる方向へ揺動することで、上記固有吐出量が減少してポンプ吐出量が比較的少なくなる。
【0055】
一方で、前記コイル58bに励磁電流が通電された場合には、図5中の矢印で示すように第2コア54側から第1コア53側へ向かう磁界が発生し、アーマチュア55を第1コア53側に引きつける吸引力が生じることになるから、アーマチュア55がロッド56とともに第1コア53側へ移動し、上記吸引力に基づくロッド56の押圧力によって弁体51がリターンスプリング52の付勢力に抗して図中下方へ移動する。これにより、室67が各小径孔51bと各大径孔51cの両孔を介して環状通路64と連通することになる。つまり、メータリングオリフィス60の流路断面積が増大することになる。なお、メータリングオリフィス60の流路断面積は、コイル58bに供給される電流の増大に伴って連続的に増大するようになっている。
【0056】
つまり、コイル58bに供給される電流が増大するのに伴い、メータリングオリフィス60の上、下流側における差圧が漸次減少するから、これに伴う制御弁40の動作によってカムリング12がロータ13に対する偏心量を増大させる方向へ揺動し、上記固有吐出量が減少してポンプ吐出量が比較的多くなる。このように、ソレノイドユニット50aを駆動制御することでカムリング12のロータ13に対する偏心量を制御し、任意のポンプ吐出量を得ることが可能になっている。
【0057】
図6は、ソレノイドユニット50aを駆動制御するための電子コントローラを模式的に示す図である。
【0058】
ソレノイドユニット50aを制御するための制御手段であるMPU(Micro Processor Unit)81には、車両の運転状態を検出する検出手段である操舵センサ82からの舵角速度信号および同じく検出手段であるブレーキ制御装置83からの車速信号がCANインターフェイス84を介して与えられ、その両センサ82,83の出力に基づいてMPU81がソレノイドユニット50aを駆動するための駆動信号であるPWM駆動制御信号を出力するようになっている。なお、上記舵角速度信号は運転者によって回転操作されるステアリングホイールの角速度を示しており、上記車速信号は車両の走行速度を示している。
【0059】
MPU81への電源供給は、電圧を出力するバッテリ85からヒューズ86、イグニッションスイッチ87、ダイオード88、レギュレータ89を介して行われる。なお、レギュレータ89は、通常12V程度のバッテリ電圧をMPU81の動作電圧である5Vに降圧するものである。
【0060】
MPU81からのPWM駆動制御信号は、スイッチング手段であるFET(Field Effect Transistor)90に与えられる。FET90は、バッテリ85からヒューズ86、イグニッションスイッチ87、ダイオード91を介して供給される電流をPWM駆動制御信号に基づいてスイッチングし、ソレノイドユニット50aのコイル58bに励磁電流を供給することになる。
【0061】
ソレノイドユニット50aのコイル58bは、その一端がFET90に接続されている一方、その他端が電流検出用の抵抗92を介してグラウンドに接続されている。そして、コイル58bに流れる電流に対応して抵抗92の両端に発生する電圧が、増幅器(AMP)93を介してMPU81へ実供給電流信号として与えられる。なお、コイル58bには、当該コイル58bと並列に設けられたフリーホイールダイオード94が接続されている。
【0062】
図7はMPU81の詳細を示すブロック図である。また、図8はMPU81の動作の一例を示すタイムチャートであって、図8の(a)は舵角速度の変化を示すタイムチャート、図8の(b)は目標ポンプ吐出量の変化を示すタイムチャート、図8の(c)は後述する目標供給電流の変化を示すタイムチャートである。なお、図8では車速が一定の状態で舵角速度を変化させたときのMPU81の動作を示している。さらに、図9は後述する目標ポンプ吐出量を求めるための目標ポンプ吐出量マップであって、図10は後述する基本供給電流を求めるための基本供給電流マップである。
【0063】
より詳細には、図7に示すように、MPU81は、上記舵角速度信号および車速信号に基づいて目標ポンプ吐出量を算出する目標ポンプ吐出量算出部95と、その目標ポンプ吐出量算出部95が算出した目標ポンプ吐出量に基づいて基本供給電流を算出する基本供給電流算出部96と、その基本供給電流算出部96の算出した基本供給電流に基づいて目標供給電流を算出するピークホールド処理部97と、そのピークホールド処理部97の算出した目標供給電流とソレノイドユニット50aのコイル58bに流れる実供給電流との差に基づいてPI制御によってPWMデューティを決定し、FET90へPWM駆動制御信号を出力するPWM駆動制御部98と、を備えている。
【0064】
目標ポンプ吐出量算出部95は、上記舵角速度信号および車速信号に基づき、図9に示す目標ポンプ吐出量マップから目標ポンプ吐出量を求める。より具体的には、舵角速度が速くなるにしたがって目標ポンプ吐出量を増加させるようになっていて、例えば車速が一定の状態で図8の(a)に示すように舵角速度が変化すると、図8の(b)に示すように目標ポンプ吐出量が変化することになる。また、目標ポンプ吐出量算出部95は、車速が速くなるにしたがって目標ポンプ吐出量を減少させることにより、例えば車庫入れのような低速走行時には運転者が軽快に操舵を行える一方、高速走行時には運転者が安定感のあるしっかりとした操舵感を得られるようにしている。
【0065】
基本供給電流算出部96は、目標ポンプ吐出量算出部95の算出した目標ポンプ吐出量に基づき、目標供給電流算出の基礎となる基本供給電流を、図10に示す基本供給電流マップから求める。より具体的には、目標ポンプ吐出量が増加するにしたがって基本供給電流を増加させるようになっていて、例えば図8の(b)に示すように目標ポンプ吐出量が変化すると、図8の(c)に仮想線で示すように基本供給電流が変化することになる。
【0066】
ピークホールド処理部97は、図8の(c)に示すように、基本供給電流が増加しているときにはその基本供給電流を目標供給電流とする一方、基本供給電流が減少したときには、その基本供給電流が減少し始める直前のピーク値を目標供給電流とし、その目標供給電流の値を所定の遅延時間たるホールド時間Tだけ保持するようになっており、基本供給電流が減少し始めてからホールド時間Tが経過した後に、目標供給電流を所定の電流漸減率で漸減させるようになっている。これにより、基本供給電流の減少時にその基本供給電流よりも目標供給電流が大きくなるから、その状態から基本供給電流が増加した場合には、基本供給電流が変化していない状態、すなわち基本供給電流と目標供給電流が等しい状態から基本供給電流が増加した場合と比較して目標供給電流が大きくなる。換言すれば、上記固有吐出量が減少する方向へカムリング12が移動している状態で基本供給電流が増加した場合に、カムリング12停止状態で基本供給電流が増加した場合よりもメータリングオリフィス60の流路断面積が大きくなるようにソレノイドユニット50aが駆動制御されることになる。
【0067】
つまり、カムリング12を上記固有吐出量が増大する方向に移動させるべくソレノイドユニット50aを駆動制御したときに、カムリング12自体の慣性力によって当該カムリング12の動作が遅れると、油圧パワーステアリング装置に供給する作動油量が不足することになるから、これを防止すべく、基本供給電流が減少したときに、ホールド時間Tだけ遅らせて目標供給電流を減少させることにより、上記固有吐出量を減少させる方向へのカムリング12の移動を遅らせるようにしている。換言すれば、ピークホールド処理部97は、基本供給電流が減少し始めてからホールド時間Tが経過するまでの間、上記固有吐出量を減少させるようにソレノイドユニット50aを駆動制御することを禁止する応答遅れ手段として機能することになる。これにより、基本供給電流の減少に応答してカムリング12が上記固有吐出量を減少させる方向へ移動する際の応答性が、基本供給電流の増大に応答してカムリング12が上記固有吐出量を増大させる方向へ移動する際の応答性よりも低くなる。
【0068】
図11は、ホールド時間Tを算出するためのホールド時間マップであって、図12はホールド時間T経過後に目標供給電流を漸減させる際の電流漸減率を示す電流漸減率マップである。
【0069】
また、ピークホールド処理部97は、図11,12に示すホールド時間マップおよび電流漸減率マップからホールド時間Tおよび電流漸減率をそれぞれ車速に基づいて求めるようになっている。具体的には、車速が速くなるにしたがってホールド時間を短く、且つ電流漸減率を増加させることで、車両の高速走行時に、目標供給電流の減少に応答してカムリングが移動する際の応答性を低速走行時と比較して高くするようになっている。なお、電流漸減率とは、目標供給電流の単位時間あたりにおける減少量である。
【0070】
図13はピークホールド処理部98における目標供給電流の算出手順を示すフローチャートである。
【0071】
さらに具体的には図13に示すように、ピークホールド処理部98は、まずイニシャライズを行った後(ステップS1)、基本供給電流ITGT(n)を読込み(ステップS2)、基本供給電流ITGT(n)≧目標供給電流の前回値ICMD(nー1)の条件を満たすか否かを判断する(ステップS3)。そして、その条件を満たす場合には基本供給電流ITGT(n)を目標供給電流ICMD(n)に代入する(ステップS4)。つまり、基本供給電流が目標供給電流の前回値以上である場合に、その基本供給電流を目標供給電流とするようになっている。
【0072】
一方、ステップS3で条件を満たさない場合には、ホールドカウント値TPEAK<ホールド設定値THOLDの条件を満たすか否かを判断し(ステップS6)、その条件を満たす場合には、目標供給電流の前回値ICMD(nー1)を目標供給電流ICMD(n)に代入し(ステップS7)、ホールドカウント値TPEAKをインクリメントする(ステップS8)。つまり、基本供給電流が目標供給電流の前回値未満であって、且つその状態になってからホールド時間Tが経過していない場合には、基本供給電流が減少し始める直前のピーク値を目標供給電流としてホールドするとともに、ホールド時間Tを計測する計時手段としてホールドカウント値TPEAKをインクリメントするようになっている。なお、ホールド設定値THOLDは、図11に示すホールド時間マップによって求められたホールド時間Tに基づいて決定されるしきい値である。
【0073】
また、ステップS6で条件を満たさない場合、すなわちホールドカウント値TPEAKがホールド設定値THOLDに達した場合には、目標供給電流の前回値ICMD(nー1)と基本供給電流ITGT(n)との差△Iを算出し(ステップS9)、△I≧△ITHの条件を満たすか否かを判断する(ステップS10)。ここで、△ITHは図12に示す電流漸減率マップから求められた電流漸減率に基づいて決定される目標供給電流の減少量である。
【0074】
そして、ステップS10で条件を満たす場合には、目標供給電流の前回値ICMD(nー1)から減少量△ITHを減じて目標供給電流ICMD(n)を算出する一方(ステップS11)、ステップS10で条件を満たさない場合には、基本供給電流ITGT(n)を目標供給電流ICMD(n)に代入する(ステップS12)。つまり、基本供給電流が目標供給電流の前回値未満になってからホールド時間Tが経過している場合に、目標供給電流値ICMD(n)を基本供給電流ITGT(n)までの範囲で上記電流漸減率をもって漸減するようになっている。
【0075】
なお、基本供給電流が目標供給電流の前回値以上に増加した場合、すなわちステップS3の条件を満たしたときには、ホールドカウント値TPEAKをクリアしてその値をゼロに戻すようになっている(ステップS5)。
【0076】
したがって、本実施の形態では、基本供給電流が減少したとき、すなわち上記固有吐出量を減少させようとしたときに、ピークホールド処理部97が、基本供給電流のピーク値を目標供給電流としてホールド時間Tだけ保持することにより、上記固有吐出量を減少させる方向へのカムリング12の移動がホールド時間Tだけ遅れることになる。これにより、基本供給電流が減少し始めてからホールド時間Tが経過するまでの間に、基本供給電流が再び増加して目標供給電流を超えた場合には、カムリング12は上記固有吐出量を減少させる方向へ移動することなく、上記固有吐出量を増加させる方向へ速やかに移動することになる。
【0077】
一方、基本供給電流が減少し始めてからホールド時間Tが経過した場合には、目標供給電流が減少してカムリング12が上記固有吐出量を減少させる方向へ移動することになるが、このときに目標供給電流を所定の電流漸減率で漸減させることで、カムリング12の上記固有吐出量を減少させる方向へ向かう加速度が抑制されて当該カムリング12の慣性力が小さくなるから、カムリング12が上記固有吐出量を減少させる方向へ移動している最中に上記固有吐出量を増大させる必要が生じた場合に、カムリング12を上記固有吐出量が増大する方向へ迅速に移動させることができる。換言すれば、上記固有吐出量が減少する方向にカムリング12が移動する際における当該カムリング12の加速度が、上記固有吐出量が増大する方向にカムリング12が移動する際における当該カムリング12の加速度よりも小さくなる。
【0078】
これにより、上記固有吐出量を減少させている最中にその固有吐出量を増大させる必要が生じた場合であっても、上記固有吐出量を増大させる方向へカムリング12が速やかに移動することになる。
【0079】
したがって、本実施の形態によれば、基本供給電流の減少に応答してカムリング12が上記固有吐出量を減少させる方向へ移動する際の応答性が、基本供給電流の増大に応答してカムリング12が上記固有吐出量を増大させる方向へ移動する際の応答性よりも低くなり、ポンプ吐出量を増大させる際に、カムリング12自体の慣性力によって当該カムリング12の移動が阻害されることが抑制され、上記固有吐出量を増大させる方向へカムリング12が速やかに移動できるようになるから、油圧パワーステアリング装置が車両の走行状態に応じて適切な操舵アシスト力を発生できるようになり、操舵フィーリングが向上する。
【0080】
その上、上記固有吐出量が減少する方向へカムリング12が移動している状態で基本供給電流が増加したときに、カムリング停止状態で基本供給電流が増加したときよりも、上記メータリングオリフィスの流路断面積が大きくなるから、カムリング12の移動方向を上記固有吐出量が減少する方向から増大する方向へ切り替える場合に、その動作をより迅速に行えるようになる。
【0081】
また、本実施の形態によれば、電磁弁50を制御弁40に連通路66を介して接続し、この電磁弁50をもってメータリングオリフィス60の流路断面積を可変制御することにより、その制御弁40のうち高圧室44と中圧室45との間の差圧を変化させて制御弁40を間接的に制御するようにしたため、かかる間接制御に利用する電磁弁50(電磁ユニット50a)は大きな駆動力を必要とせず、該電磁弁50(電磁ユニット50a)の作動応答性を高めることができる。
【0082】
さらに、電磁弁50によって流路断面積が可変制御される可変オリフィス60aと、その可変オリフィス60aと並列に設けられた固定オリフィス60bと、によってメータリングオリフィス60を構成し、万が一電磁弁50が失陥して可変オリフィス60aが閉塞された状態になっても、固定オリフィス60bによって最低限のポンプ吐出量を確保できるようにしているから、安全性が向上するメリットがある。
【0083】
また、本実施の形態によれば、目標ポンプ吐出量算出部95が車速に基づいて目標ポンプ吐出量を算出するようになっていることから、車速に応じた適切な量の作動油を油圧パワーステアリング装置へ供給できる。特に、車速の低下に伴って目標ポンプ吐出量を増大させるようになっているから、例えば車庫入れのような低速走行時には軽快に操舵できる一方、高速走行時にには安定感のあるしっかりとした操舵感を得られるようになり、操舵フィーリングが向上するメリットがある。
【0084】
なお、本実施の形態では、電磁弁50と制御弁40を連通路66を介して接続し、この電磁弁50をもってメータリングオリフィス60の流路断面積を可変制御することにより、制御弁40を間接的に制御するようになっているが、図14に示す変形例のように、ソレノイドユニット90によって制御弁40の弁体41を押圧するように構成することも可能である。
【0085】
この図14に示す変形例では、制御弁40の弁体41を開閉動作方向に押圧するソレノイドユニット99が設けられている。また、第2接続通路62の途中には、メータリングオリフィスとして機能する固定オリフィス100が形成されている。なお、他の部分は上述した第1の実施の形態と同様である。
【0086】
詳細には、制御弁40の中圧室45側にねじ孔が形成されており、このねじ孔にねじ込まれたアダプタ101を介してソレノイドユニット99がそのロッド102を弁体41側に向けた状態で取り付けられている。一方、弁体41には、当該弁体41の中圧室45側に突出し、アダプタ101の内周面をもって摺動自在に保持されたロッド部材103が組み付けられており、そのロッド部材103とソレノイドユニット99側のロッド102の先端部同士が互いに対向している。
【0087】
そして、ソレノイドユニット99への通電をもって当該ソレノイドユニット99のロッド102を進出させ、そのロッド102によって弁体41側のロッド部材103を高圧室44側へ押圧することにより、制御弁40の弁体41をプラグ42側へ移動させることになる。つまり、ソレノイドユニット99への通電をもって弁体41が高圧室44側へ移動することで、カムリング12が上記固有吐出量を増加させる方向へ揺動することになる。
【0088】
したがって、この変形例においても、上述した第1の実施の形態と略同様の効果が得られる。
【0089】
図15は本発明の第2の実施の形態を示す図であって、ソレノイドユニット50aを駆動制御するための制御手段であるMPU104の詳細を示すブロック図である。また、図16は後述する目標供給電流を算出するための目標供給電流マップである。さらに、図17は図15に示すMPU104の動作の一例を示すタイムチャートであって、図17の(a)は舵角速度の変化を示すタイムチャート、図17の(b)は目標ポンプ吐出量の変化を示すタイムチャート、図17の(c)はソレノイドユニット50aに流れる実供給電流の変化を示すタイムチャートである。なお、図17では車速が一定の状態で舵角速度を変化させたときのMPU104の動作を示している。
【0090】
図15に示す第2の実施の形態のMPU104は、上述した第1の実施の形態におけるピークホールド処理部97に代え、PWM駆動制御部98におけるPIゲイン(比例項ゲイン、積分項ゲイン)を設定するPIゲイン制御部105を設けたものであって、他の部分は上述した第1の実施の形態と同様である。なお、目標供給電流算出部106は、第1の実施の形態における基本供給電流算出部96に相当するものであって、目標ポンプ吐出量算出部95の算出した目標ポンプ吐出量に基づいて図16に示す目標供給電流マップから目標供給電流を求めるようになっている。
【0091】
PIゲイン制御部105は、目標供給電流の変化に基づいてPWM駆動制御部98におけるPIゲインを決定することにより、PWM駆動制御部105における時定数を調整する時定数調整手段として機能する。詳細には、図17の(c)に示すように、目標供給電流が増加しているときには、PWM駆動制御部98における時定数が比較的小さい第1設定値τfastになるようにPIゲインを設定する一方、基本供給電流が減少し始めたときに、PWM駆動制御部98における時定数が第1設定値τfastよりも大きい第2設定値τslowになるようにPIゲインを設定する。さらに、PWM駆動制御部98における時定数が第2設定値τslowとなるようにPIゲインを設定してから所定の設定時間が経過した後に、実供給電流が目標供給電流よりも大きい場合には、PWM駆動制御部98における時定数が第2設定値τslowよりも小さく且つ第1設定値τfastよりも大きい第3設定値τmidになるようにPIゲインを設定する。換言すれば、PIゲイン制御部は、目標供給電流が減少したときに、目標供給電流が増大したときよりもPWM駆動制御部98における時定数を大きくするようになっている。これにより、目標供給電流の減少時にその目標供給電流よりも実供給電流が大きくなるから、その状態から目標供給電流が増加した場合には、目標供給電流が変化していない状態、すなわち目標供給電流と実供給電流が等しい状態から目標供給電流が増加した場合と比較して実供給電流が大きくなる。換言すれば、上記固有吐出量が減少する方向へカムリング12が移動している状態で目標供給電流が増加した場合に、カムリング12停止状態で目標供給電流が増加した場合よりもメータリングオリフィス60の流路断面積が大きくなるようにソレノイドユニット50aが駆動制御されることになる。
【0092】
図18は、図15に示すPIゲイン制御部105におけるPIゲインの設定方法を示すフローチャートである。
【0093】
より詳細には、PIゲイン制御部105は、図18に示すように、まずイニシャライズを行った後(ステップS11)、ソレノイドユニット50aに流れる実供給電流IRealおよび目標供給電流算出部106の算出した目標供給電流ICMDを読み込み(ステップS12,S13)、目標供給電流ICMD≧実供給電流IRealの条件を満たすか否かを判断する(ステップS14)。そして、その条件を満たす場合、すなわち実供給電流を増大させる場合には、PWM駆動制御部98の時定数が第1設定値τfastになるようにPIゲインを設定するとともに(ステップS15)、後述するカウント値TSLOWをクリアしてゼロに戻す(ステップS16)。
【0094】
一方、ステップS14で条件を満たさない場合には、カウント値TSLOW<しきい値TSLOW_THの条件を満たすか否かをさらに判断する(ステップS17)。ここで、TSLOWはPWM駆動制御部98における時定数を第2設定値τslowに設定してからの時間を計時するためのカウント値であって、TSLOW_THは上記設定時間に基づいて決定されるしきい値である。
【0095】
そして、ステップS17で条件を満たす場合には、PWM駆動制御部98の時定数が第2設定値τslowとなるようにPIゲインを設定するとともに(ステップS18)、カウント値TSLOWをインクリメントし、ステップS12に戻る。一方、ステップS17で条件を満たさない場合、すなわちPWM駆動制御部98における時定数が第2設定値τslowになるようにPIゲインを設定してから所定の設定時間が経過している場合には、PWM駆動制御部98の時定数が第3設定値τmidとなるようにPIゲインを設定する(ステップS20)。
【0096】
したがって、本実施の形態では、目標供給電流の減少に応答して上記固有吐出量を減少させる方向へカムリング12が移動する際の応答性が、目標供給電流の増加に応答して上記固有吐出量を増大させる方向へカムリング12が移動する際の応答性よりも低くなるようにソレノイドユニット50aが駆動制御されることになるから、上述した第1の実施の形態と略同様の効果が得られる。
【0097】
図19は、本発明の第3の実施の形態を示す図であって、MPU107の詳細を示すブロック図である。また、図20は後述する基本ポンプ吐出量を算出するための基本ポンプ吐出量マップであって、図21は後述する吐出量補正値を算出するための吐出量補正値マップである。さらに、図22はMPU107の動作の一例を示すタイムチャートであって図22の(a)は舵角速度の変化を示すタイムチャート、図22の(b)は基本ポンプ吐出量の変化を示すタイムチャート、図22の(c)は基本ポンプ吐出量の微分値の変化を示すタイムチャート、図22の(d)は吐出量補正値の変化を示すタイムチャート、図22の(e)は目標ポンプ吐出量の変化を示すタイムチャートである。なお、図22では車速が一定の状態で舵角速度を変化させたときのMPU107の動作を示している。
【0098】
図19に示す第3の実施の形態のMPU107は、上述した第2の実施の形態におけるPIゲイン制御部105に代え、吐出量補正値を算出する遅れ補償部108を設けたものである。なお、基本ポンプ吐出量算出部109は、上述した第2の実施の形態における目標ポンプ吐出量算出部95に相当するものであって、舵角速度および車速に基づいて図20に示す基本ポンプ吐出量マップから基本ポンプ吐出量を求めるようになっている。また、他の部分は上述した第2の実施の形態と同様である。
【0099】
遅れ補償部108は、目標ポンプ吐出量の変化、すなわち目標ポンプ吐出量の微分値に基づいて図21に示す吐出量補正値マップから吐出量補正値を求める。詳細には、図22の(c),(d)に示すように、目標ポンプ吐出量の微分値が負の値から正の値に変化したとき、すなわち上記固有吐出量が減少する方向へカムリング12が移動している状態で基本ポンプ吐出量が増加したときに、吐出量補正値マップから吐出量補正値を求めてその吐出量補正値を目標供給電流算出部106へ出力するとともに、その吐出量補正値を時間の経過に伴って漸減させるようになっている。換言すれば、遅れ補償部108は、目標ポンプ吐出量の変化に基づいてカムリング12の移動方向を判断するようになっていて、そのカムリング12の移動方向が上記固有吐出量を減少させる方向から上記固有吐出量を増大させる方向へ切り替わったときに、吐出量補正値を吐出量補正値マップから求めるようになっている。
【0100】
そして、目標供給電流算出部106は、基本ポンプ吐出量算出部109が算出した基本ポンプ吐出量に吐出量補正値を加算して図22の(e)に示す目標ポンプ吐出量を算出した上で、その目標ポンプ吐出量に基づいて目標供給電流マップから目標供給電流を求めることになる。
【0101】
これにより、上記固有吐出量が減少する方向へカムリング12が移動している状態で基本ポンプ吐出量が増加したときに、カムリング12停止状態で基本ポンプ吐出量が増加したときよりも、目標ポンプ吐出量が多くなってメータリングオリフィス60の流路断面積が大きくなる。
【0102】
図23は、図19に示す遅れ補償部108における吐出量補正値の算出方法を示すフローチャートである。
【0103】
より詳細には、遅れ補償部108は、図23に示すように、まずイニシャライズを行った後(ステップS21)、基本ポンプ吐出量QCMD(n)を読み込み(ステップS22)、その基本ポンプ吐出量の微分値Q’(n)を算出する(ステップS23)。その上で、Q’(n)≧0の条件を満たすか否かを判断するとともに(ステップS24)、基本ポンプ吐出量の微分値の前回値Q’(n-1)<0の条件を満たすか否かをさらに判断する(ステップS25)。
【0104】
その結果、ステップS24,S25の条件をいずれも満たしている場合、つまり微分値Q’(n)が負の値から正の値または0に変化した場合には、吐出量補正値QADDを吐出量補正値マップから求め(ステップS26)、ステップS22に戻る。
【0105】
他方、ステップS24,S25の条件のうち少なくとも一方を満たしていない場合には、QADD≠0の条件を満たしているか否かを判断する(ステップS27)。そして、その条件を満たしている場合には、吐出量補正値QADDの漸減処理として当該吐出量補正値をデクリメントし(ステップS28)、ステップS22に戻る。つまり、ステップS26で設定した吐出量補正値QADDを0までの範囲で漸減させるようになっている。なお、ステップS27で条件を満たしていない場合、すなわち吐出量補正値QADD=0の場合にはステップS22に戻ることになる。
【0106】
したがって、本実施の形態では、基本ポンプ吐出量の増大に応答して上記固有吐出量を増大させる方向へカムリング12が移動する際の応答性が、基本ポンプ吐出量の減少に応答して上記固有吐出量を減少させる方向へカムリング12が移動する際の応答性よりも高くなるようにソレノイドユニット50aが駆動制御されることになるから、上述した第1の実施の形態と略同様の効果が得られる。
【0107】
なお、本実施の形態では、目標供給電流算出部106が、遅れ補償部108の算出した吐出量補正値を基本ポンプ吐出量に加算して目標ポンプ吐出量を算出するようになっているが、遅れ補償部が図24に示す吐出量補正ゲインマップから吐出量補正ゲインを求めるようにしてもよい。
【0108】
この場合には、目標供給電流算出部106が、遅れ補償部の算出した吐出量補正ゲインを基本ポンプ吐出量に乗じて目標ポンプ吐出量を算出し、その目標ポンプ吐出量に基づいて目標供給電流を算出することになり、この場合にも上述した第3の実施の形態と略同様な効果が得られる。
【0109】
図25〜27は上述した第3の実施の形態の変形例を示す図であって、図25はMPU110の詳細を示すブロック図、図26は吐出量補正値を求めるための吐出量補正値マップ、図27は後述する遅れ補償部111における吐出量補正値の算出方法を示すフローチャートである。
【0110】
この図25に示す変形例では、遅れ補償部111に実供給電流信号が与えられるようになっていて、当該遅れ補償部111が実供給電流の微分値に基づいて図26に示す吐出量補正値マップから吐出量補正値を求めるようになっている点で上述した第3の実施の形態と異なっている。なお、他の部分は上述した第3の実施の形態と同様である。
【0111】
より具体的には、遅れ補償部111は、図27に示すように、まずイニシャライズを行った後(ステップS31)、実供給電流Ireal(n)を読み込み(ステップS32)、その実供給電流の微分値I’real(n)を算出する(ステップS33)。その上で、実供給電流の微分値I’real(n)≧0の条件を満たすか否かを判断するとともに(ステップS34)、実供給電流の微分値の前回値I’real(n-1)<0の条件を満たすか否かをさらに判断する(ステップS35)。
【0112】
その結果、ステップS34,S35の条件をいずれも満たしている場合、つまり微分値I’real(n)が負の値から正の値または0に変化した場合には、吐出量補正値QADDを吐出量補正値マップから求め(ステップS36)、ステップS32に戻る。換言すれば、遅れ補償部111は実供給電流の変化に基づいてカムリング12の移動方向を判断していて、そのカムリング12の移動方向が上記固有吐出量を減少させる方向から上記固有吐出量が増大する方向へ切り替わったときに、吐出量補正値QADDを吐出量補正値マップから求めるようになっている。
【0113】
他方、ステップS34,S35の条件のうち少なくとも一方を満たしていない場合には、QADD≠0の条件を満たしているか否かを判断する(ステップS37)。そして、その条件を満たしている場合には、吐出量補正値QADDの漸減処理として当該吐出量補正値をデクリメントし(ステップS38)、ステップS22に戻る。つまり、ステップS36で設定した吐出量補正値QADDを0までの範囲で漸減させるようになっている。なお、ステップS37で条件を満たしていない場合、すなわち吐出量補正値QADD=0である場合にはステップS22に戻る。
【0114】
したがって、この変形例においても、基本ポンプ吐出量の増大に応答して上記固有吐出量を増大させる方向へカムリング12が移動する際の応答性が、基本ポンプ吐出量の減少に応答して上記固有吐出量を減少させる方向へカムリング12が移動する際の応答性よりも高くなるようにソレノイドユニット50aが駆動制御されることになるから、上述した第1の実施の形態と略同様の効果が得られる。
【0115】
なお、上述した第1〜3の実施の形態では、上記固有吐出量を減少させる方向へ移動させる際のカムリング12の応答性を、上記固有吐出量を増大させる方向へ移動させる際のカムリング12の応答性よりも低くすることにより、上記固有吐出量を減少させる方向におけるカムリング12自体の慣性力が上記固有吐出量を増大させる方向へのカムリング12の移動を阻害しないようにしているが、これに加えて上記固有吐出量を増大させる方向へカムリング12が移動するときのオーバーシュートをも抑制することが、操舵フィーリングを向上させる上でより好ましい。
【0116】
より具体的には、上記固有吐出量を増大させる方向へカムリング12を移動させるとき、そのカムリング12が目標位置に到達する直前に、メータリングオリフィス60の流路断面積が減少するようにソレノイドユニット50aを駆動制御し、そのカムリング12の上記固有吐出量を増大させる方向におけるオーバーシュートを防止するとよい。つまり、この場合には、上記固有吐出量を増大させる方向へカムリング12が移動するときに、そのカムリング12の移動速度が目標位置の直前で低下するから、カムリング12のオーバーシュートが抑制されることになる。
【0117】
また、上記固有吐出量を増大させる方向へカムリング12を移動させるときに、そのカムリング12が目標位置に近接するに従って当該カムリング12の移動速度を漸次遅くするようにソレノイドユニット50aを駆動制御し、そのカムリング12のオーバーシュートを抑制するようにしてもよい。
【0118】
さらに、上述した第1〜3の実施の形態では、ソレノイドユニット50aの駆動制御により、ポンプ吐出量を増大させる際の応答遅れが抑制するようにしているが、図28,29に示す参考例のように、ベーンポンプの機械的な構造をもって上述した第1〜3の実施の形態と略同様の効果を得ることも可能である。なお、図28は後述する逆止弁112が閉弁状態のベーンポンプを示していて、図29は逆止弁112が開弁状態のベーンポンプを示している。
【0119】
図28,29に示す参考例は、第1流体圧室P1と連通油路47aとを連通油路47bを介さずに連通可能なバイパス油路113を設けたものであって、他の部分は上述した第1の実施の形態と同様である。
【0120】
バイパス油路113は、アダプタリング11に穿設された油孔113aと、フロントボディ2の筒状部3に形成され、油孔113aと連通油路47aとを接続する平面視略半円状の油溝113bと、油孔113a側から油溝113b側への作動油の流れを許容する逆止弁112と、を有している。
【0121】
逆止弁112は、油孔113aと連続するようにフロントボディ2の筒状部3に形成された弁孔112aと、その弁孔112aに収容された略球状の弁体112bと、その弁体112bをアダプタリング11側へ付勢するバルブスプリング112cと、弁孔112aのうち反アダプタリング11側の開口を閉塞しつつ、バルブスプリング112cの反弁体112b側端部を受けるプラグ112dと、を有しており、フロントボディ2の筒状部3をバルブボディとして構成されている。
【0122】
そして、この逆止弁112は、制御弁40側から第1流体圧室P1へ作動油が流入するときには、バルブスプリング112cの付勢力をもって弁体112bをアダプタリング11に押しつけ、その弁体112bによって油孔113aの開口を閉塞することでバイパス油路113における作動油の流れを遮断する一方、第1流体圧室P1から制御弁40側へ作動油が流出するときに開弁し、油孔113a側から油溝113b側へ向かう作動油の流れを許容するようになっている。
【0123】
したがって、この参考例では、ロータ13に対する偏心量が増大する方向、つまり第1流体圧室P1の容積を減少させる方向にカムリング12が揺動する場合には、図29に示すように、第1流体圧室P1から制御弁40側へ作動油が流れて逆止弁112が開弁するから、第1流体圧室P1内の作動油が連通油路47bのほかバイパス油路113を通じて迅速に流出することになり、カムリング12が比較的迅速に移動可能となる。一方、ロータ13に対する偏心量が減少する方向、つまり第1流体圧室P1の容積を増大させる方向にカムリング12が揺動する場合には、図28に示すように、制御弁40側から第1流体圧室P1へ作動油が流れて逆止弁112が閉弁し、連通油路47bのみから第1流体圧室P1へ作動油が流入することになるから、第1流体圧室P1への作動油の供給に時間がかかり、カムリング12の移動が比較的遅くなる。つまり、上記固有吐出量が減少する方向へカムリング12を移動させるときの当該カムリング12の応答性が、上記固有吐出量が増加する方向へカムリング12を移動させるときの当該カムリング12の応答性よりも低くなる。
【0124】
したがって、この参考例によれば、上記固有吐出量を減少させる方向にカムリング12が移動するときの加速度が抑制され、そのカムリング12の慣性力が小さくなるから、当該カムリング12の移動方向を上記固有吐出量を減少させる方向から上記固有吐出量を増大させる方向へ切り替えるときに、その動作を迅速に行えるようになる。
【符号の説明】
【0125】
1…ポンプボディ
7…駆動軸
12…カムリング
13…ロータ
33…吐出通路
40…制御弁
41…弁体
50a…ソレノイドユニット(電磁アクチュエータ)
60…メータリングオリフィス
60a…固定オリフィス
60b…可変オリフィス
81…MPU(制御手段)
82…舵角センサ(検出手段)
83…ブレーキ制御装置
97…ピークホールド処理部(応答遅れ手段)
99…ソレノイドユニット(電磁アクチュエータ)
100…固定オリフィス(メータリングオリフィス)
104…MPU(制御手段)
105…PIゲイン制御部(時定数調整手段)
107…MPU(制御手段)
110…MPU(制御手段)
P1…第1流体圧室
P2…第2流体圧室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された流体圧機器に作動流体を供給する可変容量形ポンプ装置において、
ポンプボディに回転自在に支持された駆動軸と、
上記ポンプボディ内に収容され、上記駆動軸によって回転駆動されるロータと、
上記ポンプボディ内で上記ロータに外挿され、そのロータに対する偏心量が増減する方向へ移動することでロータ一回転当たりの吐出流量である固有吐出量を変化させるカムリングと、
上記カムリングのロータに対する偏心量を制御するための電磁アクチュエータと、
車両の運転状態を検出する検出手段の出力に基づいて電磁アクチュエータを駆動するための駆動信号を出力する制御手段と、
を備えていて、
上記制御手段は、
上記検出手段の出力が上記固有吐出量を減少させるように変化したときのカムリングの応答性が、上記検出手段の出力が上記固有吐出量を増加させるように変化したときのカムリングの応答性よりも低くなるように電磁アクチュエータを駆動制御するようになっているとともに、
上記固有吐出量が減少する方向へカムリングが移動している状態で上記固有吐出量を増加させるように上記検出手段の出力が変化したときに、カムリング停止状態で上記固有吐出量を増加させるように上記検出手段の出力が変化したときよりも、上記メータリングオリフィスの流路断面積を大きくするようになっていることを特徴とする可変容量形ポンプ装置。
【請求項2】
上記ポンプボディの内部に形成され、上記ロータの回転に基づくポンプ作用によって加圧された圧力流体を上記ポンプボディの外部へ導く吐出通路と、
その吐出通路の途中に設けられたメータリングオリフィスと、
上記カムリングの外周側に形成され、上記カムリングのロータに対する偏心量の増大に伴って容積が減少する第1流体圧室と
上記カムリングの外周側に形成され、上記カムリングのロータに対する偏心量の減少に伴って容積が減少する第2流体圧室と
上記吐出通路のうちメータリングオリフィスの上、下流側の圧力差に応じて動作する弁体を有し、その弁体の動作をもって上記両流体圧室のうち少なくとも一方の圧力を制御する制御弁と、
をさらに有していることを特徴とする請求項1に記載の可変容量形ポンプ装置。
【請求項3】
上記制御手段は、上記メータリングオリフィスの流路断面積を電磁アクチュエータによって可変制御するようになっていることを特徴とする請求項2に記載の可変容量形ポンプ装置。
【請求項4】
上記メータリングオリフィスの流路断面積の増大に伴って上記固有吐出量が増大するようになっていることを特徴とする請求項3に記載の可変容量形ポンプ装置。
【請求項5】
上記メータリングオリフィスは、その流路断面積を電磁アクチュエータによって可変制御される可変オリフィスと、その可変オリフィスと並列に設けられた固定オリフィスと、から構成されていることを特徴とする請求項3に記載の可変容量形ポンプ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【公開番号】特開2012−255453(P2012−255453A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−221770(P2012−221770)
【出願日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【分割の表示】特願2008−208304(P2008−208304)の分割
【原出願日】平成20年8月13日(2008.8.13)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】