説明

可変磁束ドライブシステム

【課題】磁石磁束を可変に制御できる可変磁束モータを適用し、自己の可変磁束モータを適用する製品・装置がトルク及び回転数の異なる複数の運転モードを有する場合でも、損失を抑えた高効率のシステムを実現しうる可変磁束モータドライブシステムを提供する。
【解決手段】低保持力の永久磁石である可変磁石を有する可変磁束モータ1と、可変磁束モータ1を駆動するインバータ4と、可変磁石の磁束を制御するための磁化電流を供給する磁化部であるインバータ4と、複数の運転モードから1つの運転モードを選択する運転モード管理部20と、運転モード管理部20により選択された運転モードに基づき可変磁石の目標とする磁束値を演算して磁束値に対応した磁束指令を生成する磁束指令演算部31とを備え、インバータ4は、磁束指令演算部31により生成された磁束指令に応じた磁化電流を供給して可変磁石の磁束を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変磁石を有する可変磁束モータとこの可変磁束モータを駆動するインバータを備えた可変磁束ドライブシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の誘導電動機(IMモータ)に代わり、効率に優れ、小型化や低騒音化も期待できる永久磁石同期電動機(PMモータ)が普及し始めている。例えば、鉄道車両や電気自動車向けの駆動モータとしてPMモータが利用されるようになってきている。
【0003】
IMモータは、磁束自体をステータからの励磁電流によって作り出すため、励磁電流を流すことによる損失が発生する技術的な問題点がある。
【0004】
他方、PMモータは、ロータに永久磁石を備え、その磁束を利用してトルクを出力するモータであるので、このようなIMモータの抱える問題はない。しかしながら、PMモータは、その永久磁石のために回転数に応じた誘起電圧(逆起電圧)が発生する。鉄道車両や自動車など、回転範囲が広い応用分野では、最高回転数において生じる誘起電圧によって、PMモータを駆動制御するインバータが(過電圧によって)破壊しないことが条件となる。この条件を満たすためには、インバータの耐圧を十分に高いものとするか、あるいは逆に、モータに備える永久磁石の磁束を制限する必要がある。前者は、電源側への影響もあり、後者を選択することが多い。その場合の磁束量を、IMモータの磁束量(IMモータの場合には励磁電流によって作りだすギャップ磁束量)と比較すると、1:3程度になるケースもある。この場合、同一のトルクを発生させるためには、磁束量の小さいPMモータでは、大きな(トルク)電流を流す必要がある。したがって、低速域において、同一トルクを出力する電流をIMモータとPMモータとで比較した場合に、PMモータは、より大きな電流を流す必要がある。
【0005】
このため、IMモータと比べて、PMモータを駆動するインバータの電流容量は増加する。さらに、一般に低速ではインバータ内のスイッチング素子のスイッチング周波数が高く、発生する損失は電流値に依存して増大することから、PMモータでは低速で大きな損失と発熱が生じることになる。
【0006】
電車などは走行風によって冷却を期待することもあり、低速時に大きな損失が生じることになれば、冷却能力を向上させる必要性からインバータ装置が大型化してしまう。また逆に、誘起電圧が高い場合、弱め界磁制御を行うことになるが、そのときは、励磁電流を重畳することで効率が低下してしまう。
【0007】
このようにPMモータは、磁石を内在するが故のメリットとデメリットがある。モータとしてはそのメリットの分が大きく、損失低減や小型化につながる面もあるが、一方では電車や電気自動車など可変速制御の場合には、従来のIMモータに比べて効率の悪い動作点も存在する。また、インバータにとっては電流容量が増大し、損失も増大することから、装置サイズが大きくなる。システムの効率自体は、モータ側が支配的であるため、PMモータの適用によって総合効率は改善するが、一方ではインバータのサイズが増加することがシステムのデメリットとなり、好ましくない。
【0008】
特許文献1には、低出力運転、高出力運転の何れにおいても電動機及びインバータを高効率で運転し、システム効率を高める電気自動車駆動用交流電動機が記載されている。この電気自動車駆動用交流電動機は、界磁磁極に埋め込んだ永久磁石による磁束と、必要に応じて励磁コイルによる磁束とにより界磁磁束を作り、電動機出力に応じて、界磁磁束発生源を永久磁石のみと永久磁石及び励磁コイル双方とに切り替えるとともに、回転変圧器を介して励磁電流を供給する。
【0009】
したがって、この電気自動車駆動用交流電動機は、電動機出力に応じて、例えば低出力時は永久磁石のみの運転にすることができるため、運転効率が向上する。また、電動機の低速域での電動機電圧を高くすることができるため、電流を低減でき、電動機巻線の銅損やインバータの発生損失を小さくしてシステム効率を向上させることができる。特に、低・中速域で運転されることの多い電気自動車にとってこの効果は大きく、電流利用効率の向上、一充電走行距離の延長が可能である。
【0010】
さらに、この電気自動車駆動用交流電動機は、永久磁石を減磁させないため、インバータ制御が簡単になるとともに、異常過電圧が発生せず、機器の保護を図ることができる。また、回転変圧器は高周波動作させることにより小形化が可能であり、電動機ないしシステム全体の小形軽量化を図ることができる。
【特許文献1】特開平5−304752号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、どのような装置・製品でも、通常、トルク及び回転数の異なる複数の運転モードを有する。このように異なる条件下においては、一定の永久磁石磁束を用いた従来のPMモータは、その全ての条件に対して最適な状態を維持するのは困難であり、システムの効率低下や騒音等の問題を生じる。
【0012】
これに対し、インバータによる電流によって磁石磁束を可変にすることが可能な可変磁束ドライブシステムがある。このシステムは、永久磁石の磁束量を変化させることができるため、従来の磁石固定のPMモータドライブシステムに比べて効率の向上が期待できる。また、磁石が不要な際は磁束量を小さくすることで誘起電圧を極力抑制することも可能である。
【0013】
本発明は可変磁束ドライブシステムを利用して上述した従来技術の問題点を解決するもので、磁石磁束を可変に制御できる可変磁束モータを適用し、自己の可変磁束モータを適用する製品・装置がトルク及び回転数の異なる複数の運転モードを有する場合でも、損失を抑えた高効率のシステムを実現しうる可変磁束モータドライブシステムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明に係る可変磁束モータドライブシステムは、低保持力の永久磁石である可変磁石を有する永久磁石電動機と、前記永久磁石電動機を駆動するインバータと、前記可変磁石の磁束を制御するための磁化電流を供給する磁化部と、複数の運転モードから1つの運転モードを選択する運転モード管理部と、前記運転モード管理部により選択された運転モードに基づき前記可変磁石の目標とする磁束値を演算して前記磁束値に対応した磁束指令を生成する磁束指令演算部とを備え、前記磁化部は、前記磁束指令演算部により生成された磁束指令に応じた磁化電流を供給して前記可変磁石の磁束を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、トルクや回転数の異なる複数の運転モードを有する装置に当該可変磁束モータドライブシステムを適用した場合においても、各運転モードに最適な磁束値を選択してシステムの高効率化や騒音抑制を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の可変磁束モータドライブシステムの実施の形態を、図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0017】
図1は、本発明の実施例1の可変磁束モータドライブシステムの構成を示すブロック図である。図1を説明する前に、永久磁石同期電動機としての可変磁束モータについて説明する。
【0018】
可変磁束モータ1のイメージを図2に示す。ステータ側は従来のモータと同様と考えてよい。ロータ51側には永久磁石として、磁性体の磁束密度が固定の固定磁石FMGと、磁性体の磁束密度が可変の可変磁石VMGとがある。従来のPMモータは、前者の固定磁石FMGのみであるのに対して、本可変磁束モータ1の特徴は、可変磁石VMGが備わっていることにある。
【0019】
ここで固定磁石や可変磁石について、説明を加える。永久磁石とは、外部から電流などを流さない状態において磁化した状態を維持するものであって、いかなる条件においてもその磁束密度が厳密に変化しないというわけではない。従来のPMモータであっても、インバータなどにより過大な電流を流すことで減磁したり、あるいは逆に着磁したりする。よって、永久磁石とは、その磁束量が一定不変なものではなく、通常の定格運転中に近い状態ではインバータ等から供給される電流によって磁束密度が概ね変化しないもののことを指す。一方、前述の磁束密度が可変である永久磁石、つまり、可変磁石とは、上記のような運転条件においてもインバータ等で流し得る電流によって磁束密度が変化するものを指す。
【0020】
このような可変磁石は、磁性体の材質や構造に依存して、ある程度の範囲で設計が可能である。例えば、最近のPMモータは、残留磁束密度Brの高いネオジム(NdFeB)磁石を用いることが多い。この磁石の場合、残留磁束密度Brが1.2T程度と高いため、大きなトルクを小さい装置サイズにて出力可能であり、モータの高出力小型化が求められるハイブリッド車HEVや電車には好適である。従来のPMモータの場合、通常の電流によって減磁しないことが要件であるが、このネオジム磁石(NdFeB)は約1000kA/mの非常に高い保持力Hcを有しているので、PMモータ用に最適な磁性体である。PMモータ用には、残留磁束密度が大きく、保磁力の大きい磁石が選定されるためである。
【0021】
ここで、残留磁束密度が高く、保持力Hcの小さいアルニコAlNiCo(Hc=60〜120kA/m)やFeCrCo磁石(Hc=約60kA/m)といった磁性体を可変磁石とする。通常の電流量(インバータによって従来のPMモータを駆動する際に流す程度の電流量という意味)によって、ネオジム磁石の磁束密度(磁束量)はほぼ一定であり、アルニコAlNiCo磁石などの可変磁石の磁束密度(磁束量)は可変となる。厳密に言えば、ネオジム磁石は可逆領域で利用しているため、微小な範囲で磁束密度が変動するが、インバータ電流がなくなれば当初の値に戻る。他方、可変磁石は不可逆領域まで利用するため、インバータ電流がなくなっても当初の値にならない。
【0022】
図2は、可変磁束モータ1を、簡単なイメージとしてモデル化したものである。同図において、可変磁石VMGであるアルニコ磁石の磁束量も、D軸方向の量が変動するだけで、Q軸方向はほぼ0である。
【0023】
図3は、可変磁束モータ1の具体的な構成例を示している。回転子(ロータ)51は、回転子鉄心52中に、ネオジム磁石(NdFeB)などの高保磁力の永久磁石54とアルニコ磁石(AlNiCo)などの低保磁力の永久磁石53とを組み合わせて配置した構成である。可変磁石VMGである低保磁力永久磁石53は、回転子鉄心52の磁極部55の両側に、それぞれ隣接する磁極部55との境界域に径方向に配置してある。固定磁石FMGである高保磁力磁石54は、回転子鉄心52の磁極部55において径に直交する方向に配置してある。この構造により、可変磁石VMGである低保磁力永久磁石53はQ軸方向とその磁化方向が直交するため、Q軸電流の影響を受けず、D軸電流によって磁化される。
【0024】
図4は、固定磁石と可変磁石のBH特性(磁束密度−磁化特性)を例示している。また、図5は、図4の第2象限のみを定量的に正しい関係にて示したものである。ネオジム磁石とアルニコ磁石の場合、それらの残留磁束密度Br1,Br2には有意差はないが、保磁力Hc1,Hc2については、ネオジム磁石(NdFeB)のHc2に対し、アルニコ磁石(AlNiCo)のHc1は1/15〜1/8、FeCrCo磁石のHc1は1/15になる。
【0025】
従来のPMモータドライブシステムにおいて、インバータの出力電流による磁化領域は、ネオジム磁石(NdFeB)の保磁力より十分に小さく、その磁化特性の可逆範囲で利用されている。しかしながら、可変磁石は、保磁力が上述のように小さいため、インバータの出力電流の範囲において、不可逆領域(電流を0にしても、電流印加前の磁束密度Bに戻らない)での利用が可能で、磁束密度(磁束量)を可変にすることができる。
【0026】
可変磁束モータ1の動特性の等価簡易モデルを、(1)式に示す。同モデルは、D軸を磁石磁束方向、Q軸をD軸に直行する方向として与えたDQ軸回転座標系上のモデルである。
【数1】

【0027】
ここに、R1:巻線抵抗、Ld:D軸インダクタンス、Lq:Q軸インダクタンス、Φfix:固定磁石の磁束量、Φvar:可変磁石の磁束量、ω1:インバータ周波数である。
【0028】
図1に示す可変磁束モータドライブシステムは、可変磁束モータ1、電流検出器2a,2b、直流電源3、直流電力を交流電力に変換するインバータ4、座標変換部5、PWM回路6、座標変換部7、擬似微分器8、電圧指令演算部10、電流基準演算部11、回転数指令演算部12、回転数制御器14、回転角度センサ18、運転モード管理部20、磁化モード管理部22、磁束指令演算部31、及び磁化電流指令演算部33で構成されている。
【0029】
ここで、この可変磁束モータドライブシステムは、主回路と制御回路とに分けることができる。直流電源3、インバータ4、可変磁束モータ1、モータ電流を検出するための電流検出器2a,2b、及び可変磁束モータ1の回転角度を検出するための回転角度センサ18は、主回路を構成するものとする。また、座標変換部5、PWM回路6、座標変換部7、擬似微分器8、電圧指令演算部10、電流基準演算部11、回転数指令演算部12、回転数制御器14、運転モード管理部20、磁化モード管理部22、磁束指令演算部31、及び磁化電流指令演算部33は、制御回路を構成するものとする。
【0030】
可変磁束モータ1は、本発明の永久磁石電動機に対応し、低保持力の永久磁石である可変磁石(例えばアルニコ磁石)を有する。
【0031】
インバータ4は、可変磁束モータ1を駆動する。すなわち、インバータ4は、直流電源3からの直流電力を交流電力に変換し、可変磁束モータ1に供給する。可変磁束モータ1に供給される電流Iu,Iwは、電流検出器2a,2bにより検出され、座標変換部7に入力され、この座標変換部7でD軸電流Id、Q軸電流Iqに変換され、電圧指令演算部10に入力される。また、インバータ4は、本発明の磁化部にも対応し、可変磁束モータ1の有する可変磁石の磁束を制御するための磁化電流を供給する。
【0032】
直流電源3は、インバータ4に直流電力を供給する二次電池でもよい。本発明を電気自動車等に適用する場合には、直流電源3は、二次電池であると考えられる。
【0033】
また、可変磁束モータ1のロータ回転角度は、回転角度センサ18により検出され、擬似微分器8に出力される。
【0034】
次に、制御回路について説明する。ここでの入力は、運転指令Run*である。この運転指令Run*は、可変磁束モータ1に対する運転要求であり、適切な手段により出力される。
【0035】
運転モード管理部20は、運転指令Run*と回転子回転周波数ωRに基づき、複数の運転モードから1つの運転モードを選択する。ここで、擬似微分器8は、回転角度センサ18により検出された角度を微分して得た回転子回転周波数ωRを回転数制御器14、電圧指令演算部10、及び運転モード管理部20に出力する。運転モード管理部20は、擬似微分器8により出力された回転子回転周波数ωRに基づき、インバータ4の出力周波数を認識することができる。さらに、運転モード管理部20は、選択した運転モードを回転数指令演算部12及び磁束指令演算部31に出力するとともに、ゲート指令GstをPWM回路6に出力する。また、運転モード管理部20は、運転モードを変更する際等において磁化を必要とする場合には、「磁化要求」フラグを立てて磁化モード管理部22に出力する。
【0036】
回転数指令演算部12は、運転モード管理部20により選択された運転モードに基づき、可変磁束モータ1の目標とする回転数を演算し、演算結果に対応した回転数指令を回転数制御器14に出力する。
【0037】
回転数制御器14は、回転数指令演算部12により出力された回転数指令と、擬似微分器8により出力された回転子回転周波数ωRとに基づき、可変磁束モータ1が所望のトルクになるように生成されたトルク指令Tm*を出力する。
【0038】
磁束指令演算部31は、運転モード管理部20により選択された運転モードに基づき可変磁石の目標とする磁束値を演算して、磁束値に対応した磁束指令Φ*を生成する。磁化部であるインバータ4は、磁束指令演算部31により生成された磁束指令に応じた磁化電流を供給して可変磁石の磁束を制御する。
【0039】
具体的には、運転モード管理部20は、現在の可変磁束又は総磁束(固定磁石磁束+可変磁石磁束)に対して、必要とする磁束の変化に対応した運転モードを選択する。一般的には、以下のような磁束の変化を必要とする。ただし、1例であり、これに限らない。
【0040】
まず、可変磁束モータ1の回転数が増加した場合には、運転モード管理部20は、可変磁石磁束を下げるための運転モードを選択する。可変磁束モータ1は、回転数が高いほど、逆起電圧が大きくなる。したがって、磁束指令演算部31は、運転モードに基づき、磁束を下げる旨の磁束指令Φ*を出力し、逆起電圧を下げる。
【0041】
次に、トルクの増加を必要とする運転モードが選択された場合には、可変磁石磁束を下げる。可変磁束モータ1は、トルクが高いほど、高いモータ端子電圧を有するので、磁束指令演算部31は、運転モードに基づき、磁束を下げる旨の磁束指令Φ*を出力し、端子電圧を下げる。
【0042】
なお、磁束指令演算部31は、運転モード管理部20により選択された運転モードに応じて、当該可変磁束モータドライブシステムの効率改善情報、安全性改善情報、及び騒音改善情報の少なくとも1つに基づき、可変磁石の目標とする磁束値を演算して、磁束値に対応した磁束指令を生成することもできる。この場合には、磁束指令演算部31は、予め当該可変磁束モータドライブシステムの効率改善情報、安全性改善情報、及び騒音改善情報の少なくとも1つを有しており、選択された運転モードに対する最適な磁束値を演算する際に利用する。
【0043】
電流基準演算部11は、回転数制御器14により出力されたトルク指令Tm*と磁束指令演算部31により出力された磁束指令Φ*とに基づき、D軸電流基準IdRとQ軸電流基準IqRとを演算する。ここで、トルクの一般式は、次式であり、Id,Iqを解くことにより決定される。
【0044】
トルク=φ×Iq+(Ld−Lq)×Id×Iq…(2)
ここで、φは、総磁束(=固定磁石磁束+可変磁石磁束)を示す。また、Ldは、D軸インダクタンスであり、Lqは、Q軸インダクタンスである。したがって、(2)式は、磁束量やトルクの関数となる。実際には、Ld、Lqの非線形性があるため、電流基準演算部11は、トルクと磁束に応じたテーブルデータを有することによりId、Iqを求める。その際、電流基準演算部11は、最小な電流値(√(Id+Iq))にて、所定トルクが得られるような関係を選ぶ。
【0045】
磁化電流指令演算部33は、回転数制御器14により出力されたトルク指令Tm*と磁束指令演算部31により出力された磁束指令Φ*とに基づき、必要な磁化電流を計算し、磁化電流指令IdM,IqMを生成する。一般に、磁化電流は、可変磁石のそれに至るまでの過去の磁化の履歴に依存するものである。そこで、磁化電流指令演算部33は、例えば過去の磁化の履歴と要求する磁束とに対する磁化電流をテーブル情報として有することにより、必要な磁化電流を算出することができる。磁化電流指令演算部33は、今回の磁束指令Φ*と可変磁石の磁化特性とに基づき、磁化電流目標値IdM*を算出して磁化モード管理部22に出力する。磁化電流を流すためには、高速かつ精度よく流すことが必要であるため、PI制御に代わりヒステリシスコンパレータなどで実現してもよい。
【0046】
電圧指令演算部10は、電流基準演算部11により演算されたD軸電流基準IdRとQ軸電流基準IqRとに基づき、当該基準にD軸電流Id及びQ軸電流Iqが一致するように電流が流れるように、DQ軸電圧指令Vd*、Vq*を演算して生成する。その際、電圧指令演算部10は、電流偏差にPI制御を施し、DQ軸電圧指令を求める。
【0047】
ここで、磁化する際には、磁化部であるインバータ4は、可変磁束モータ1に過大な磁化電流を短時間で精度良く流すことが必要である。上述した電圧指令演算部10によるPI制御は、応答性が十分でなく、可変磁束モータ1に過大な磁化電流を短時間で精度良く流すことが困難となることも考えられる。そこで、電圧指令演算部10は、例えば、磁化電流指令演算部33により算出された磁化電流に基づき、それぞれのD軸電流Id、Q軸電流Iqが一致するように、例えば、ヒステリシスコンパレータ方式等の瞬時比較制御方式を利用して、DQ軸電圧指令を算出することもできる。
【0048】
なお、磁化モード管理部22により磁化モードのフラグが立っている場合には、電圧指令演算部10は、磁化電流指令演算部33により生成されたD軸磁化電流指令IdMとQ軸磁化電流指令IqMとに基づき、当該指令にD軸電流Id及びQ軸電流Iqが一致するように電流が流れるように、DQ軸電圧指令Vd*、Vq*を演算して生成する。
【0049】
座標変換部5は、電圧指令演算部10により出力されたD軸電圧指令Vd*、Q軸電圧指令Vq*を三相の電圧指令Vu*、Vv*、Vw*に座標変換し、PWM回路6に出力する。PWM回路6は、運転モード管理部20により出力されたゲート指令Gst、及び入力された三相の電圧指令Vu*、Vv*、Vw*に基づき、インバータ4のスイッチング素子をオンオフ制御する。
【0050】
磁化モード管理部22は、運転モードに基づき可変磁石を磁化する際に、適切なタイミングで磁化電流の制御が行えるように各種フラグを出力する。磁化モード管理部22の詳細な動作は、後述する。
【0051】
次に、上述のように構成された本実施の形態の作用を説明する。まずは、磁化を必要としない場合について説明する。ここでの入力は、運転指令Run*である。運転モード管理部20は、入力された運転指令Run*に基づき、複数の運転モードから1つの運転モードを選択する。
【0052】
回転数指令演算部12は、運転モード管理部20により選択された運転モードに基づき、可変磁束モータ1の目標とする回転数を演算し、演算結果に対応した回転数指令を回転数制御器14に出力する。
【0053】
回転数制御器14は、回転数指令演算部12により出力された回転数指令と、擬似微分器8により出力された回転子回転周波数ωRとに基づき、可変磁束モータ1が所望のトルクになるように生成されたトルク指令Tm*を出力する。
【0054】
磁束指令演算部31は、運転モード管理部20により選択された運転モードに基づき、可変磁石の目標とする磁束値を演算して、磁束値に対応した磁束指令Φ*を生成する。
【0055】
電流基準演算部11は、回転数制御器14により出力されたトルク指令Tm*と磁束指令演算部31により出力された磁束指令Φ*とに基づき、D軸電流基準IdRとQ軸電流基準IqRとを演算する。
【0056】
電圧指令演算部10は、電流基準演算部11により演算されたD軸電流基準IdRとQ軸電流基準IqRとに基づき、当該基準にD軸電流Id及びQ軸電流Iqが一致するように電流が流れるように、DQ軸電圧指令Vd*、Vq*を演算して生成する。
【0057】
ここで、磁化を必要としないため、磁化モード管理部22による「磁化モード」フラグはL(ロー)である。したがって、電圧指令演算部10は、磁化電流指令演算部33による磁化電流指令ではなく、電流基準演算部11により出力されたDQ軸電流基準に基づき、DQ軸電圧指令Vd*、Vq*を演算して生成する。
【0058】
座標変換部5は、電圧指令演算部10により出力されたD軸電圧指令Vd*、Q軸電圧指令Vq*を三相の電圧指令Vu*、Vv*、Vw*に座標変換し、PWM回路6に出力する。PWM回路6は、運転モード管理部20により出力されたゲート指令Gst、及び入力された三相の電圧指令Vu*、Vv*、Vw*に基づき、インバータ4のスイッチング素子をオンオフ制御する。
【0059】
次に、磁化を必要とする場合について説明する。図6は、磁化を行う際の可変磁束モータドライブシステムの各部の状態を示すタイムチャート図である。時刻tまでは、上述した磁化を必要としない場合の動作と同じである。
【0060】
時刻tにおいて、運転モード管理部20は、運転モードが変化した等の事情により磁化が必要であると判断し、「磁化要求」フラグを立てる。すなわち、運転モード管理部20は、H(ハイ)状態の磁化要求フラグとして磁化モード管理部22に出力する。その際、運転モード管理部20は、H(ハイ)状態の「磁化要求」フラグを出力するのは一瞬でよく、その後は、「磁化要求」フラグをL(ロー)状態に戻して出力する。
【0061】
磁化モード管理部22は、磁化要求フラグが入力されると、「磁化モード」フラグを立てるとともに、電圧指令演算部10にH(ハイ)状態の磁化モードフラグを出力する。なお、この磁化モードフラグは、磁化の完了する時刻tまでH(ハイ)の状態を維持する。
【0062】
回転数指令演算部12と回転数制御器14とは、磁化を必要としない場合と同様の動作を行うので、重複した説明を省略する。
【0063】
また、磁化モード管理部22は、磁化要求フラグが入力されると、「磁化電流UP」フラグを立てるとともに、磁化電流指令演算部33にH(ハイ)状態の磁化電流UPフラグを出力する。
【0064】
磁束指令演算部31は、運転モード管理部20により選択された運転モードに基づき、可変磁石の目標とする磁束値を演算して、磁束値に対応した磁束指令Φ*を生成する。ここで、磁化を必要とする運転モードが選択されているため、磁束指令演算部31は、時刻tにおいて磁束指令Φ*の値を増加させる。
【0065】
磁化電流指令演算部33は、回転数制御器14により出力されたトルク指令Tm*と磁束指令演算部31により出力された磁束指令Φ*とに基づき、必要な磁化電流を計算し、磁化電流指令IdM,IqMを生成する。また、磁化電流指令演算部33は、今回の磁束指令Φ*と可変磁石の磁化特性とに基づき、磁化電流目標値IdM*を算出して磁化モード管理部22に出力する。
【0066】
ここで、磁化電流指令演算部33は、H(ハイ)状態の磁化電流UPフラグが入力されているため、時刻tから時刻tまでの間において、磁化電流すなわちD軸の磁化電流指令IdMを、その時刻におけるD軸電流Idの値から磁化電流目標値IdM*に向けて漸増させる。なお、磁石磁束Φは、時刻t−t間において、D軸電流増加に基づく磁化により増加する。
【0067】
なお、磁化中(「磁化モード」フラグが立っている間)は、磁化電流(D軸電流)を短時間で通常値以上に流すため、トルク変動が生じる。このトルク変動を低減するため、D軸電流に応じてQ軸電流を変化させる必要がある。リラクタンストルクが生じるモータでのトルク式は、上述したように(2)式で表される。磁束量Φは、その時点におけるD軸電流と予め把握している磁化特性から推定される。したがって、磁化電流指令演算部33は、推定ΦとD軸電流指令とモータ定数であるD軸インダクタンスLd及びQ軸インダクタンスLqから、トルク変動が無くトルク指令Tm*に一致するような磁化電流指令IqMを演算する。
【0068】
例えば、時刻tから時刻tまでの間のように、負突極機で増磁する際には、磁化電流指令演算部33は、Q軸電流を増加させるように磁化電流指令IqMを演算して生成する。
【0069】
磁化モード管理部22により磁化モードのフラグが立っているので、電圧指令演算部10は、磁化電流指令演算部33により生成されたD軸磁化電流指令IdMとQ軸磁化電流指令IqMとに基づき、当該指令にD軸電流Id及びQ軸電流Iqが一致するように電流が流れるように、DQ軸電圧指令Vd*、Vq*を演算して生成する。
【0070】
なお、電流基準演算部11は、時刻tにおいて、回転数制御器14により出力されたトルク指令Tm*と磁束指令演算部31により出力された磁束指令Φ*とに基づき、D軸電流基準IdRとQ軸電流基準IqRとを演算する。D軸電流IdとQ軸電流Iqとは、磁化が完了した際に(時刻t)、それぞれD軸電流基準IdRとQ軸電流基準IqRとに一致するように制御される。
【0071】
次に、磁化モード管理部22は、座標変換部7により出力されたD軸電流Idと磁化電流指令演算部33により出力された磁化電流目標値IdM*とを監視し、D軸電流Idが磁化電流目標値IdM*に達すると(時刻t)、「磁化電流UP」フラグをL(ロー)に落とすとともに、「磁化電流印加完了」フラグをH(ハイ)状態にする。
【0072】
ここで、磁化電流指令演算部33は、H(ハイ)状態の磁化電流印加完了フラグが入力されているため、磁化電流すなわちD軸の磁化電流指令IdMを、その時刻(t)におけるD軸電流Idの値から通常運転時の目標であるD軸電流基準IdRに向けて漸減させる。また、この間にも、過渡トルクが生じないように、Q軸電流を適正に流す。
【0073】
次に、磁化モード管理部22は、座標変換部7により出力されたD軸電流Idと電流基準演算部11により出力されたD軸電流基準IdRとを監視し、D軸電流IdがD軸電流基準IdRに達すると(時刻t)、「磁化モード」フラグをL(ロー)に落とすとともに、「磁化完了」フラグをH(ハイ)状態にする。
【0074】
本実施例の可変磁束モータドライブシステムは、以上の動作をもって磁化が完了し、時刻t以降は通常制御になる。通常制御においては、上述した磁化を必要としない場合と同様であり、電圧指令演算部10は、電流基準演算部11により演算されたD軸電流基準IdRとQ軸電流基準IqRとに基づき、当該基準にD軸電流Id及びQ軸電流Iqが一致するように電流が流れるように、DQ軸電圧指令Vd*、Vq*を演算して生成する。
【0075】
なお、本実施例における可変磁束モータドライブシステムは、時刻t以降において磁石磁束Φが増加したため、時刻t以前に比して時刻t以降はD軸電流を増加させQ軸電流を減少させてトルクを一定に維持する。
【0076】
その他の作用は、上述した磁化を必要としない場合と同様であり、重複した説明を省略する。
【0077】
上述のとおり、本発明の実施例1の形態に係る可変磁束モータドライブシステムによれば、トルクや回転数の異なる複数の運転モードを有する装置に当該可変磁束モータドライブシステムを適用した場合においても、運転モード管理部20が状況に応じて運転モードを選択するとともに、磁束指令演算部31が選択された運転モードに基づいて可変磁石の目標とする磁束値を演算するので、各運転モードに最適な磁束値が選択され、システムの高効率化や騒音抑制を図ることができる。
【0078】
特に、磁束指令演算部31は、当該可変磁束モータドライブシステムの効率改善情報、安全性改善情報、及び騒音改善情報のいずれかを有しており、運転モード管理部20により選択された運転モードに応じて、上記情報に基づき、可変磁石の目標とする磁束値を演算する。すなわち、本実施例における可変磁束モータドライブシステムは、運転モードに応じて最適な磁束値を決定することができる。ここで、「最適」とは、様々な指標があるが、例えばシステムの効率であり、あるいは、一方のモードでは効率を優先して、他方のモードでは騒音抑制を優先するような場合がある。したがって、本システムは、適用する機器に適した「最適性」を向上することができる。
【実施例2】
【0079】
図7は、本発明の実施例2の可変磁束モータドライブシステムの構成を示すブロック図である。実施例1の構成と異なる点は、荷重算出部15が設けられている点である。また、本実施例における可変磁束モータドライブシステムは、エレベータに適用されている。
【0080】
荷重算出部15は、エレベータのかご内の積載荷重(乗車荷重)を算出し、磁束指令演算部31aに出力する。
【0081】
運転モード管理部20aは、エレベータを加速させる場合の運転モード(加速モード)と、エレベータを減速させる場合の運転モード(減速モード)と、エレベータを定速運転させる場合の運転モード(定速モード)と、エレベータを停止させる場合の運転モード(停止モード)とを有する。
【0082】
すなわち、本実施例において、運転モード管理部20aが有する複数の運転モードの少なくとも1つは、可変磁束モータ1のトルク及び回転数の少なくとも一方に基づく運転モードであるといえる。また、停止モードを有するため、運転モード管理部20aが有する複数の運転モードの少なくとも1つは、インバータ4の動作状態又は停止状態に基づく運転モードであるといえる。
【0083】
磁束指令演算部31aは、運転モードのみならず、さらにエレベータのかご内の積載荷重に応じて可変磁石の目標とする磁束値を演算して、磁束値に対応した磁束指令を生成する。
【0084】
回転数指令演算部12aは、運転モード管理部20aにより選択された運転モードに基づき、可変磁束モータ1の目標とする回転数を演算し、演算結果に対応した回転数指令を回転数制御器14、運転モード管理部20a、及び磁束指令演算部31aに出力する。
その他の構成は、実施例1と同様であり、重複した説明を省略する。
【0085】
次に、上述のように構成された本実施の形態の作用を説明する。図8は、本実施例の可変磁束モータドライブシステムを適用したエレベータにおける制御の状態を示すタイムチャート図である。
【0086】
最初に、停止しているエレベータを他の階に移すため、運転指令Run*が運転モード管理部20aに入力される。運転モード管理部20aは、入力された運転指令Run*に基づき、複数の運転モードから「加速モード」を選択する。また、運転モード管理部20aは、H(ハイ)状態のゲート指令GstをPWM回路6に出力し、インバータ4の動作を開始させる。
【0087】
回転数指令演算部12aは、運転モード管理部20aにより選択された加速モードに基づき、可変磁束モータ1の目標とする回転数を演算し、演算結果に対応した回転数指令を回転数制御器14、運転モード管理部20a、及び磁束指令演算部31aに出力する。
【0088】
回転数制御器14は、回転数指令演算部12aにより出力された回転数指令と、擬似微分器8により出力された回転子回転周波数ωRとに基づき、可変磁束モータ1が所望のトルクになるように生成されたトルク指令Tm*を出力する。図8に示すように、加速域において、可変磁束モータ1は、所定のトルクで目標とする回転数に向けて徐々に回転数を上げるように制御される。
【0089】
磁束指令演算部31aは、運転モード管理部20aにより選択された運転モードと回転数指令演算部12aにより出力された回転数指令と荷重算出部15により算出された乗車荷重とに基づき、可変磁石の目標とする磁束値を演算して、磁束値に対応した磁束指令Φ*を生成する。
【0090】
具体的には、磁束指令演算部31aは、入力される乗車荷重を必要トルクの決定に用いる。必要トルクが大きい場合には、磁束指令演算部31aは、必要トルクに応じた大きな磁束値を磁束指令として出力する必要があるからである。なお、必要トルクの決定に際し、磁束指令演算部31aは、乗車荷重に基づき、運動系の質量及び運動系に作用する外力を算出する。一般的にエレベータは、カウンターウェイトによって所定の乗車荷重で力が不要となるように設計されており、乗車荷重が増減すると、外力が必要となる。したがって、磁束指令演算部31aは、乗車荷重に基づき、運動系の質量及び運動系に作用する外力を算出して必要トルクを決定するとともに、運転モードと必要トルク(さらに必要に応じて回転数指令)に基づき、最適な磁束指令を出力する。
【0091】
ここで、「最適」とは、様々な場合が考えられるが、例えば運転による損失を最小化してモータ・インバータを含めた最高効率となるような磁束量である場合や、音が静かな磁束量である場合等である。
【0092】
磁束指令演算部31aは、運転モードと乗車荷重に基づいて磁束指令を決定する方法として、関数を用いてもよいし、テーブルを参照してもよい。なお、磁束指令演算部31aは、目標階によっては、後述する「定速モード」の回転数が異なる場合もあるため、運転モード、乗車荷重、及び回転数を入力として磁束指令を求めてもよい。また、上述したように、乗車荷重とはトルクを決定する一要素であるため、磁束指令演算部31aは、運転モード、必要トルク、及び回転数を入力として磁束指令を求めてもよい。
【0093】
なお、磁束指令演算部31aは、基本的に運転モードが変更されない限り、可変磁石の磁束値を一定に保つように制御する。したがって、磁束指令演算部31aは、運転モードのモードチェンジ時にのみ磁化(可変磁石の磁束値の変更)を行い、運転モードの変更が完了した後は、その直前のモードチェンジ時に設定された磁束値を保つように磁束指令Φ*を出力する。以降の実施例においても同様である。
【0094】
加速モードにおけるその他の作用は、実施例1の磁化を必要としない場合と同様であり、重複した説明を省略する。
【0095】
運転モード管理部20aは、回転数指令演算部12aにより出力された回転数指令と擬似微分器8により出力された回転子回転周波数ωRとを監視しており、所定の回転数に達した際(時刻t)に、定速モードを選択して出力する。
【0096】
時刻tにおいて、運転モード管理部20aは、磁化が必要であると判断し、「磁化要求」フラグを立てる。すなわち、運転モード管理部20aは、H(ハイ)状態の磁化要求フラグとして磁化モード管理部22に出力する。
【0097】
時刻tの磁化時におけるその他の作用は、実施例1の磁化を必要とする場合と同様であり、重複した説明を省略する。ただし、時刻tにおいては、運転モードが「加速モード」から「定速モード」に変更されるため、大きなトルク値を必要とせず低トルク値でよい。特に、エレベータのかごとカウンターウェイトが釣り合う状態である場合には、定速モードにおけるトルク値は略0となる。また低トルクでよいため、当該可変磁束モータドライブシステムは、磁石磁束量に自由度があり、磁束値を低減して鉄損を減らすことができる。
【0098】
したがって、本実施例の時刻tにおける磁化時には、磁化電流は減少方向に制御されるので、磁化モード管理部22は、磁化要求フラグが入力されると、「磁化電流UP」フラグではなく、「磁化電流DOWN」フラグを立てる。磁化電流指令演算部33は、H(ハイ)状態の磁化電流DOWNフラグが入力されているため、磁化電流すなわちD軸の磁化電流指令IdMを、その時刻(t)におけるD軸電流Idの値から磁化電流目標値IdM*に向けて漸減させる。
【0099】
本実施例において、可変磁束モータドライブシステムは、時刻tにおいて瞬間的に磁化が終了し磁石磁束を減少させているが、実際には実施例1の磁化が必要な場合と同様の動作を経ている。
【0100】
時刻t−tに間において、運転モード管理部20aは、定速モードを選択して出力する。したがって、回転数指令演算部12aは、加速モードにおいて目標とした可変磁束モータ1の回転数を維持するために、対応する回転数指令を回転数制御器14、運転モード管理部20a、及び磁束指令演算部31aに出力する。
【0101】
回転数制御器14は、回転数指令演算部12aにより出力された回転数指令と、擬似微分器8により出力された回転子回転周波数ωRとに基づき、可変磁束モータ1が所定の低トルク値(あるいは略0)を維持するように生成されたトルク指令Tm*を出力する。図8に示すように、定速域において、可変磁束モータ1は、所定の低トルク及び所定の回転数を維持するように制御される。
【0102】
磁束指令演算部31aは、運転モード管理部20aにより選択された運転モード(定速モード)と回転数指令演算部12aにより出力された回転数指令と荷重算出部15により算出された乗車荷重とに基づき、可変磁石の目標とする磁束値を演算して、磁束値に対応した磁束指令Φ*を生成する。
【0103】
具体的には、磁束指令演算部31aは、時刻tの磁化時において低減させた磁束値を保つように磁束指令Φ*を生成する。
【0104】
運転モード管理部20aは、エレベータのかごが予め決められた所定距離を移動するか、あるいは定速モードにおいて所定時間が経過した際(時刻t)に、減速モードを選択して出力する。
【0105】
時刻tにおいて、運転モード管理部20aは、磁化が必要であると判断し、「磁化要求」フラグを立てる。すなわち、運転モード管理部20aは、H(ハイ)状態の磁化要求フラグとして磁化モード管理部22に出力する。
【0106】
時刻tの磁化時におけるその他の作用は、時刻tの磁化時と同様であり、重複した説明を省略する。ただし、時刻tにおいては、運転モードが「定速モード」から「減速モード」に変更されるため、減速させるために所定のトルク値を必要とする。なお、減速させるために必要なトルクは、加速時におけるトルクと力の方向が逆であるが、図8におけるトルクは、絶対値を示しているため加速時と減速時でいずれも正の値を示す。
【0107】
また、加速モードにおける加速度と減速モードにおける減速度が等しい場合には、両モードにおけるトルクの絶対値は等しいものとなる。ただし、本実施例においては、図8に示すように、トルクの絶対値は加速域の方が減速域よりも大きい。例えば、エレベータのかごの乗車荷重がカウンターウェイトよりも重い場合にエレベータを上昇させると、可変磁束モータ1のトルク値は、図8に示すような値となる。
【0108】
減速させるために所定のトルク値を必要とするため、当該可変磁束モータドライブシステムは、時刻tの磁化時において、磁束値を増加させる。
【0109】
時刻t以後において、運転モード管理部20aは、減速モードを選択して出力する。したがって、回転数指令演算部12aは、可変磁束モータ1の目標とする回転数を0とし、回転数指令を回転数制御器14、運転モード管理部20a、及び磁束指令演算部31aに出力する。
【0110】
回転数制御器14は、回転数指令演算部12aにより出力された回転数0を目標とする回転数指令と、擬似微分器8により出力された回転子回転周波数ωRとに基づき、可変磁束モータ1が減速に必要なトルク値を維持するように生成されたトルク指令Tm*を出力する。図8に示すように、減速域において、可変磁束モータ1は、所定のトルクを維持して回転数を徐々に減少させるように制御される。
【0111】
磁束指令演算部31aは、運転モード管理部20aにより選択された運転モード(減速モード)と回転数指令演算部12aにより出力された回転数指令と荷重算出部15により算出された乗車荷重とに基づき、可変磁石の目標とする磁束値を演算して、磁束値に対応した磁束指令Φ*を生成する。
【0112】
その後、運転モード管理部20aは、擬似微分器8により出力された回転子回転周波数ωRに基づき回転数が0になると、停止モードを選択して出力する。可変磁束モータドライブシステムの各部は、停止に必要な処理を行った後、停止する。
【0113】
その他の作用は、実施例1と同様であり、重複した説明を省略する。
【0114】
上述のとおり、本発明の実施例2の形態に係る可変磁束モータドライブシステムによれば、実施例1の効果に加え、エレベータの有する「加速モード」、「減速モード」、「定速モード」、「停止モード」の4つのモードに対して、可変磁石の磁束値を適切な値に制御することができる。運転モード管理部20aが可変磁束モータ1のトルクや回転数、あるいはインバータ4の動作状態や停止状態に基づく運転モードを有するので、磁束指令演算部31aは、各運転モードに最適な磁束値を決定してシステムの効率化を図ることができる。
【0115】
具体的には、定速モードや停止モードの際のようにトルクを必要としない場合においては、磁束指令演算部31aは、可変磁石の磁束値を抑えて鉄損を減少させることができる。また、加速モードや減速モードにおいても、磁束指令演算部31aは、エレベータのかご内の乗車荷重に基づく必要トルクを考慮に入れ、磁束値に自由度がある場合には適切な磁束値に設定するので、損失を抑えてシステムの効率化を図ることができる。
【実施例3】
【0116】
図9は、本発明の実施例3の可変磁束モータドライブシステムの構成を示すブロック図である。実施例2の構成と異なる点は、荷重算出部15の代わりに洗濯量算出部16が設けられている点である。また、本実施例における可変磁束モータドライブシステムは、洗濯機に適用されている。
【0117】
洗濯量算出部16は、洗濯機内の洗濯量(重量)を算出し、磁束指令演算部31bに出力する。
【0118】
運転モード管理部20bは、洗濯機により洗濯物を洗う場合の運転モード(洗いモード)と、洗濯機によりすすぎを行う場合の運転モード(すすぎモード)と、洗濯機により脱水を行う場合の運転モード(脱水モード)と、洗濯機により乾燥を行う場合の運転モード(乾燥モード)とを有する。
【0119】
磁束指令演算部31bは、運転モードのみならず、さらに洗濯機内に収容されている洗濯物の量(重量)に応じて可変磁石の目標とする磁束値を演算して、磁束値に対応した磁束指令を生成する。
【0120】
回転数指令演算部12bは、運転モード管理部20bにより選択された運転モードに基づき、可変磁束モータ1の目標とする回転数を演算し、演算結果に対応した回転数指令を回転数制御器14、運転モード管理部20b、及び磁束指令演算部31bに出力する。
【0121】
その他の構成は、実施例2と同様であり、重複した説明を省略する。
【0122】
次に、上述のように構成された本実施の形態の作用を説明する。図10は、本実施例の可変磁束モータドライブシステムを適用した洗濯機における制御の状態を示すタイムチャート図である。
【0123】
最初に、洗濯機内に収容されている洗濯物を洗うため、運転指令Run*が運転モード管理部20bに入力される。運転モード管理部20bは、入力された運転指令Run*に基づき、複数の運転モードから「洗いモード」を選択する。また、運転モード管理部20bは、H(ハイ)状態のゲート指令GstをPWM回路6に出力し、インバータ4の動作を開始させる。
【0124】
回転数指令演算部12bは、運転モード管理部20bにより選択された洗いモードに基づき、可変磁束モータ1の目標とする回転数を演算し、演算結果に対応した回転数指令を回転数制御器14、運転モード管理部20b、及び磁束指令演算部31bに出力する。
【0125】
回転数制御器14は、回転数指令演算部12bにより出力された回転数指令と、擬似微分器8により出力された回転子回転周波数ωRとに基づき、可変磁束モータ1が所望のトルクになるように生成されたトルク指令Tm*を出力する。
【0126】
磁束指令演算部31bは、運転モード管理部20bにより選択された運転モードと回転数指令演算部12bにより出力された回転数指令と洗濯量算出部16により算出された洗濯量とに基づき、可変磁石の目標とする磁束値を演算して、磁束値に対応した磁束指令Φ*を生成する。
【0127】
具体的には、磁束指令演算部31bは、入力される洗濯量を必要トルクの決定に用い、運転モード及び洗濯量(必要であればさらに回転数)に基づき最適な磁束値を決定する。
【0128】
ここで、「最適」とは、様々な場合が考えられるが、例えば運転による損失を最小化してモータ・インバータを含めた最高効率となるような磁束量である場合や、音が静かな磁束量である場合等である。
【0129】
また、実施例2と同様に、洗濯量とはトルクを決定する一要素であるため、磁束指令演算部31bは、運転モード、必要トルク、及び回転数を入力として磁束指令を求めてもよい。磁束指令を求める際に、磁束指令演算部31bは、運転モードと洗濯量(又は必要トルク)と回転数とに基づいて磁束指令を決定する方法として、関数を用いてもよいし、テーブルを参照してもよい。
【0130】
洗いモードにおけるその他の作用は、実施例2の場合(例えば定速モード)と同様であり、重複した説明を省略する。
【0131】
運転モード管理部20bは、予め決められた所定時間を経過した際(時刻t)に、すすぎモードを選択して出力する。なお、時刻tから時刻tまでの間において、洗いモードからすすぎモードへのモードチェンジが行われる。運転モード管理部20bは、モードチェンジを行うための「チェンジモード」を運転モードの1つとして有していてもよい。
【0132】
時刻t−t間において、運転モード管理部20bは、磁化が必要であると判断し、「磁化要求」フラグを立てる。すなわち、運転モード管理部20bは、H(ハイ)状態の磁化要求フラグとして磁化モード管理部22に出力する。
【0133】
また、回転数指令演算部12bは、磁化部であるインバータ4により可変磁石の磁束が変更される際に可変磁束モータ1の目標とする回転数を現在の回転数未満の値に設定するか又は停止させる。また、回転数制御器14は、磁化部であるインバータ4により可変磁石の磁束が変更される際に可変磁束モータ1の目標とするトルクを現在のトルク未満の値か又は零近傍に設定するためのトルク指令Tm*を生成し出力する。すなわち、モードチェンジ中は、回転数やトルクが減少方向に制御され、その間に当該可変磁束モータドライブシステムは、磁化(可変磁石の磁束値の増加あるいは減少)を行う。
【0134】
モードチェンジ中の磁化時におけるその他の作用は、実施例1,2の磁化時と同様であり、重複した説明を省略する。
【0135】
その後、運転モード管理部20bは、予め計画された時間等を考慮して、順次運転モードを「すすぎモード」、「脱水モード」、「乾燥モード」に移行する。また、運転モードを変更する際のモードチェンジ中には、当該可変磁束モータドライブシステムは、上述した洗いモードからすすぎモードへのモードチェンジ時と同様に、回転数やトルクを落とし、その間に磁化を行う。
【0136】
図10に示すように、各運転モードは、それぞれ自己のモードにおける洗濯物に対する作用に応じて、異なる回転数やトルクを有する。したがって、磁束指令演算部31bは、モードチェンジ中の磁化時において、運転モード管理部20bにより選択された運転モードと回転数指令演算部12bにより出力された回転数指令と洗濯量算出部16により算出された洗濯量とに基づき、次の運転モードに最適な磁束値を演算して、磁束値に対応した磁束指令Φ*を生成する。
【0137】
その他の作用は、実施例2と同様であり、重複した説明を省略する。
【0138】
上述のとおり、本発明の実施例3の形態に係る可変磁束モータドライブシステムによれば、実施例1及び実施例2の効果に加え、洗濯機の有する「洗いモード」、「すすぎモード」、「脱水モード」、「乾燥モード」の4つのモードに対して、可変磁石の磁束値を適切な値に制御することができる。
【0139】
また、磁化時には、過大な磁化電流を流すため、磁化部であるインバータ4は、定常電圧よりも大きな電圧を必要とする。したがって、回転数が高い場合には、出力電圧に余裕が無いため、インバータ4は、磁化を行うための磁化電流を流すことが困難である。そこで、本実施例の可変磁束モータドライブシステムは、モードチェンジの際に回転数を下げて電圧余裕がある状態にした後に磁化を行うので、インバータ4の耐圧を上げることやインバータ4に入力する電圧を上げる必要もなく、低コストで実現できる。
【0140】
さらに、トルクが0(あるいは零近傍)のときに磁化を行うので、トルクショックを小さくすることができる。本実施例においては、当該可変磁束モータドライブシステムは、モードチェンジの間にトルク0となる回転数0の状態にするので、磁化する際のトルクショックを抑制することができる。
【0141】
また、トルクショックを抑えることにより、装置や部品にかかるストレスを軽減して寿命や信頼性が向上するとともに、騒音を抑えることもできる。
【実施例4】
【0142】
図11は、本発明の実施例4の可変磁束モータドライブシステムの構成を示すブロック図である。実施例3の構成と異なる点は、洗濯量算出部16の代わりに温度測定部17が設けられている点である。また、本実施例における可変磁束モータドライブシステムは、空調機に適用されている。
【0143】
温度測定部17は、外気温度を測定し、磁束指令演算部31cに出力する。
【0144】
運転モード管理部20cは、空調機が急速冷暖房を行う場合の加速運転の運転モード(加速モード)と、空調機が目標温度に達した後に行う定常運転の運転モード(定常モード)と、運転モードの変更を行う場合の運転モード(モードチェンジモード)とを有する。また、運転モード管理部20cは、空調機の停止時にインバータ4や可変磁束モータ1を停止するための停止モードを有してもよい。
【0145】
磁束指令演算部31cは、運転モードのみならず、さらに温度測定部17により測定された外気温度に応じて可変磁石の目標とする磁束値を演算して、磁束値に対応した磁束指令を生成する。
【0146】
回転数指令演算部12cは、運転モード管理部20cにより選択された運転モードに基づき、可変磁束モータ1の目標とする回転数を演算し、演算結果に対応した回転数指令を回転数制御器14、運転モード管理部20c、及び磁束指令演算部31cに出力する。
その他の構成は、実施例3と同様であり、重複した説明を省略する。
【0147】
次に、上述のように構成された本実施の形態の作用を説明する。図12は、本実施例の可変磁束モータドライブシステムを適用した空調機における制御の状態を示すタイムチャート図である。
【0148】
最初に、空調機により設定された温度に調節するため、運転指令Run*が運転モード管理部20cに入力される。運転モード管理部20cは、入力された運転指令Run*に基づき、複数の運転モードから「加速モード」を選択する。また、運転モード管理部20cは、H(ハイ)状態のゲート指令GstをPWM回路6に出力し、インバータ4の動作を開始させる。
【0149】
回転数指令演算部12cは、運転モード管理部20cにより選択された加速モードに基づき、可変磁束モータ1の目標とする回転数を演算し、演算結果に対応した回転数指令を回転数制御器14、運転モード管理部20c、及び磁束指令演算部31cに出力する。
【0150】
回転数制御器14は、回転数指令演算部12cにより出力された回転数指令と、擬似微分器8により出力された回転子回転周波数ωRとに基づき、可変磁束モータ1が所望のトルクになるように生成されたトルク指令Tm*を出力する。
【0151】
磁束指令演算部31cは、運転モード管理部20cにより選択された運転モードと回転数指令演算部12cにより出力された回転数指令と温度測定部17により算出された外気温度とに基づき、可変磁石の目標とする磁束値を演算して、磁束値に対応した磁束指令Φ*を生成する。
【0152】
具体的には、磁束指令演算部31cは、入力される外気温度と加速モードが有する設定温度情報とを必要トルクの決定に用い、運転モード及び外気温度(必要であればさらに回転数)に基づき最適な磁束値を決定する。例えば、運転モード管理部20cにより出力された運転モード(加速モード)が有する設定温度と外気温度の差が大きい場合には、高トルクや高回転数が必要となり、磁束指令演算部31cは、状況に応じて効率が最大化するように磁束値を設定する必要がある。
【0153】
また、実施例3と同様に、外気温度とはトルクを決定する一要素であるため、磁束指令演算部31cは、運転モード、必要トルク、及び回転数を入力として磁束指令を求めてもよい。
【0154】
加速モードにおけるその他の作用は、実施例3の場合(例えば洗いモード)と同様であり、重複した説明を省略する。
【0155】
運転モード管理部20cは、運転指令Run*により設定された目標温度と実温度(例えば温度測定部17による外気温度)を比較し、実温度が目標温度に達した場合(時刻t)には、複数の運転モードから「モードチェンジモード」を選択して出力し、その後「定常モード」を選択して出力する(時刻t)。
【0156】
回転数指令演算部12cは、磁化部であるインバータ4により可変磁石の磁束が変更される際に可変磁束モータ1の目標とする回転数を現在の回転数未満の値に設定するか又は停止させる。また、回転数制御器14は、磁化部であるインバータ4により可変磁石の磁束が変更される際に可変磁束モータ1の目標とするトルクを現在のトルク未満の値か又は零近傍に設定するためのトルク指令Tm*を生成し出力する。すなわち、モードチェンジモード(時刻tから時刻tまで)の間は、回転数やトルクが減少方向に制御され、その間に当該可変磁束モータドライブシステムは、磁化(可変磁石の磁束値の増加あるいは減少)を行う(時刻t)。
【0157】
ここで、図13は、本実施例の可変磁束モータドライブシステムを適用した空調機における制御の状態を示すタイムチャート図の別例である。図12の場合と異なるのは、モードチェンジモード(時刻tから時刻tまで)の間において、可変磁束モータ1の回転数およびトルクが0である点である。空調機においては、図13に示すようにモードチェンジ時に回転を一瞬止める方式は、局所的な冷暖房性能劣化を招くが、むしろ大局的に効く“効率”が向上するので、有効な方式である。磁化に要する時間は、せいぜい1秒以内であり、実用上の問題は生じない。
【0158】
なお、時刻t−t間において、運転モード管理部20cは、磁化が必要であると判断し、「磁化要求」フラグを立てる。すなわち、運転モード管理部20cは、H(ハイ)状態の磁化要求フラグとして磁化モード管理部22に出力する。
【0159】
モードチェンジ中の磁化時(時刻t)におけるその他の作用は、実施例1乃至3の磁化時と同様であり、重複した説明を省略する。
【0160】
定常モードが選択されている間は、空調機は、設定温度に気温を保つための運転を行う。したがって、通常は軽負荷であり、回転数指令演算部12cは、可変磁束モータ1の回転数を所定の値(加速モードよりも低い値)に保つ。
【0161】
その後、運転モード管理部20cは、外気温度の変化や外部入力による設定温度の変更等に基づき、運転モードを「加速モード」と「定常モード」との間で変更する。また、運転モードを変更する際には「モードチェンジモード」が選択され、当該可変磁束モータドライブシステムは、回転数やトルクを落とし、その間に磁化を行う。
【0162】
磁束指令演算部31cは、モードチェンジ中の磁化時において、運転モード管理部20cにより次に選択される運転モード(現在のモードチェンジモードの次に選択される予定の運転モード)と回転数指令演算部12cにより出力された回転数指令と温度測定部17により算出された外気温度とに基づき、次の運転モードに最適な磁束値を演算して、磁束値に対応した磁束指令Φ*を生成する。
【0163】
その他の作用は、実施例3と同様であり、重複した説明を省略する。
【0164】
上述のとおり、本発明の実施例4の形態に係る可変磁束モータドライブシステムによれば、実施例1乃至実施例3の効果に加え、空調機の有する「加速モード」及び「定常モード」の運転モードに対して、可変磁石の磁束値を適切な値に「モードチェンジモード」時に制御することができる。
【0165】
また、磁化時には、過大な磁化電流を流すため、磁化部であるインバータ4は、定常電圧よりも大きな電圧を必要とする。したがって、回転数が高い場合には、出力電圧に余裕が無いため、インバータ4は、磁化を行うための磁化電流を流すことが困難である。そこで、本実施例の可変磁束モータドライブシステムは、モードチェンジの際に回転数を下げて、磁石磁束による誘起電圧を下げて、電圧余裕がある状態にした後に磁化を行うので、インバータ4の耐圧を上げることやインバータ4に入力する電圧を上げる必要もなく、低コストで実現できる。
【0166】
さらに、トルクが0(あるいは零近傍)のときに磁化を行うので、トルクショックを小さくすることができる。磁化によるトルクショックは、トルク電流が零である方が低減できる。(2)式より、Iqが零でない場合には、リラクタンストルクは、Idを増減したときに大きく変動する。これがトルクショックとなるからである。
【0167】
本実施例においては、当該可変磁束モータドライブシステムは、モードチェンジの間にトルク0となる回転数0の状態にするので、磁化する際のトルクショックを抑制することができる。
【0168】
また、トルクショックを抑えることにより、装置や部品にかかるストレスを軽減して寿命や信頼性が向上するとともに、騒音を抑えることもできる。
【実施例5】
【0169】
図14は、本発明の実施例5の可変磁束モータドライブシステムの構成を示すブロック図である。実施例4の構成と異なる点は、温度測定部17の代わりに応荷重算出部19が設けられている点と、さらにトルク指令演算部23及び切替器25が設けられている点である。また、本実施例における可変磁束モータドライブシステムは、電車に適用されている。
【0170】
応荷重算出部19は、電車の車両に対する応荷重(乗車人員の荷重)を算出し、磁束指令演算部31d及びトルク指令演算部23に出力する。
【0171】
トルク指令演算部23は、運転モード管理部20dにより選択された運転モードに基づき可変磁束モータ1の目標とするトルクを演算する。また、トルク指令演算部23は、磁化部であるインバータ4により可変磁石の磁束が変更される際に可変磁束モータ1の目標とするトルクを現在のトルク未満の値か又は零近傍に設定するものでもよい。
【0172】
また、切替器25は、運転モード管理部20dにより選択され出力された運転モードに応じて、トルク指令演算部23又は回転数制御器14のいずれかにより出力されたトルク指令Tm*を選択して、電流基準演算部11及び磁化電流指令演算部33に出力する。
【0173】
運転モード管理部20dは、鉄道車両(電車)を加速させる場合の運転モード(加速モード)と、鉄道車両を減速させる場合の運転モード(減速モード)と、鉄道車両を定速運転させる場合の運転モード(定速モード)と、鉄道車両を惰性走行させる場合の運転モード(惰行モード)と、鉄道車両を停止させる場合の運転モード(停止モード)とを有する。
【0174】
磁束指令演算部31dは、運転モードのみならず、応荷重算出部19により算出された応荷重(鉄道車両内の積載荷重)に応じて可変磁石の目標とする磁束値を演算して、磁束値に対応した磁束指令を生成する。
【0175】
擬似微分器8は、回転角度センサ18により検出された角度を微分して得た回転子回転周波数ωRを回転数制御器14、トルク指令演算部23、磁束指令演算部31d、電圧指令演算部10、及び運転モード管理部20dに出力する。
【0176】
その他の構成は、実施例4と同様であり、重複した説明を省略する。
【0177】
次に、上述のように構成された本実施の形態の作用を説明する。図15は、本実施例の可変磁束モータドライブシステムを適用した電車における制御の状態を示すタイムチャート図である。
【0178】
最初に、時刻tにおいて鉄道車両を加速させるため、運転士の操作に基づくノッチ(運転指令)が運転モード管理部20dに入力される。時刻tにおいて実施例1と同様の磁化が瞬間的に行われた後、運転モード管理部20dは、入力されたノッチに基づき、複数の運転モードから「加速モード」を選択する。
【0179】
なお、本実施例においても今までの実施例と同様に、運転モードのモードチェンジ時において磁化が行われるが、磁束指令演算部31dは、様々な要素に基づき最適な磁束値を演算する。例えば、最大トルクが必要な場合には、磁束指令演算部31dは、最大磁石磁束に対応する磁束指令を出力するほか無いが、小中トルクでよい場合には磁石磁束量に自由度があり、最適な磁束値に制御できる。
【0180】
一般に、磁石磁束を大きくすれば、Q軸電流Iqが小さくなり鉄損が増加する。逆に、磁石磁束を小さくすれば、Q軸電流Iqが増加し、鉄損が減る。さらに、音について言えば、可変磁石の磁束を大きくすると、磁歪音(騒音)が大きくなる。
【0181】
したがって、磁束指令演算部31dは、上述したような情報をもとに、予め当該可変磁束モータドライブシステムの効率改善情報、安全性改善情報、及び騒音改善情報の少なくとも1つを有しており、選択された運転モードに対する最適な磁束値を演算する際に利用する。
【0182】
また、運転モード管理部20dは、H(ハイ)状態のゲート指令GstをPWM回路6に出力し、インバータ4の動作を開始させる。さらに、切替器25は、「加速モード」が選択されたことにより、トルク指令演算部23により出力されたトルク指令Tm*を選択して電流基準演算部11及び磁化電流指令演算部33に出力する。
【0183】
運転モード管理部20dに入力されるノッチには、カ行ノッチとブレーキノッチとが存在する。運転モード管理部20dは、カ行ノッチに応じて「加速モード」を選択し、ブレーキノッチに応じて「減速モード」を選択する。車種によるが、ノッチの段数として、カ行4段、ブレーキ7段等がある。
【0184】
ノッチは、回転数と応荷重に依存したトルクパターンを規定するものである。ただし、ノッチは、トルク指令というよりは加速度指令に相当するものである。
【0185】
トルク指令演算部23は、運転モード管理部20dにより選択された加速モードに基づき、可変磁束モータ1の目標とするトルクを演算し、演算結果に対応したトルク指令Tm*を切替器25に出力する。具体的には、トルク指令演算部23は、ノッチ・回転数・応荷重に応じて、トルク指令Tm*を生成する。すなわち、トルク指令演算部23は、ノッチに相当する加速度が得られるように、応荷重によってトルク指令Tm*を増減させる。
【0186】
図15に示すように、加速域において、可変磁束モータ1は、所定のトルクで徐々に回転数を上げるように制御される。
【0187】
磁束指令演算部31dは、運転モード管理部20dにより選択された運転モードと擬似微分器8により出力された回転子回転周波数ωRと応荷重算出部19により算出された応荷重とに基づき、可変磁石の目標とする磁束値を演算して、磁束値に対応した磁束指令Φ*を生成する。
【0188】
加速モードにおけるその他の作用は、例えば実施例2の加速モードと同様であり、重複した説明を省略する。
【0189】
運転モード管理部20dは、定速指令が入力されると(時刻t)、複数の運転モードから「定速モード」を選択して出力する。
【0190】
定速モードにおいては、可変磁束モータ1は大きなトルクを必要としないが、回転数を維持する必要がある。そのため、トルク指令演算部23の代わりに回転数制御器14がトルク指令Tm*を出力する。すなわち、定速モードにおいては、回転数指令演算部12dと回転数制御器14が有効になる。
【0191】
したがって、切替器25は、「定速モード」が選択されたことにより、回転数制御器14により出力されたトルク指令Tm*を選択して電流基準演算部11及び磁化電流指令演算部33に出力する。
【0192】
また、磁束指令演算部31dは、時刻tにおいて瞬間的に最適な磁束値を演算して、磁束値に対応した磁束指令Φ*を生成することで磁化を行う。
【0193】
回転数指令演算部12dは、運転モード管理部20dにより選択された定速モードに基づき、可変磁束モータ1の目標とする回転数を演算し、演算結果に対応した回転数指令を回転数制御器14に出力する。
【0194】
回転数制御器14は、回転数指令演算部12dにより出力された回転数指令と、擬似微分器8により出力された回転子回転周波数ωRとに基づき、可変磁束モータ1が目標回転数(速度)に一致するように生成されたトルク指令Tm*を切替器25に出力する。
【0195】
磁束指令演算部31dは、運転モード管理部20dにより選択された定速モードと応荷重算出部19により算出された応荷重と(必要であれば回転数と)に基づき可変磁石の目標とする磁束値を演算して、磁束値に対応した磁束指令Φ*を生成する。
【0196】
定速モードにおけるその他の作用は、他の実施例と同様であり、重複した説明を省略する。
【0197】
運転モード管理部20dは、ノッチ及び定速指令のいずれもがオフ(入力されない)の場合、複数の運転モードから「惰行モード」を選択して出力する(時刻t)。この惰行モードは、電車の速度がある状態で、可変磁束モータ1の零トルク状態をつくり、惰性で走行するモードである。
【0198】
惰行モードにおいて、インバータ4を停止し且つ可変磁石が磁束を有する場合には、モータ端子に誘起電圧が発生する。ここで、当該可変磁束モータドライブシステムが惰行モードの場合でも、他のモータの駆動や勾配によって、車両の速度は、維持・増加する可能性がある。このような場合にインバータ4が停止していると、磁束値の制御を行うことができず、モータ端子間の誘起電圧は大きくなる。この誘起電圧の線間ピーク値がインバータ4直流電圧値以上になると、可変磁束モータ1に対してブレーキ力が生じて好ましくない。
【0199】
さらに、増大した誘起電圧は、インバータ4に耐圧以上の過電圧を印加して破壊する可能性もある。
【0200】
したがって、磁束指令演算部31dは、時刻tにおいて瞬間的に小さな磁束量(あるいは零)に制御する旨の磁束指令Φ*を生成することで磁化を行う。本実施例において、時刻tから時刻tまでの惰行中は、例えばインバータ4を停止させることにより磁石磁束の値が零に保たれているので、上述した誘起電圧に起因する問題点を解決することができる。
【0201】
なお、惰行モードにおいてインバータ4を停止させる場合は、トルクが零で回転数の制御もされていないため、回転数制御器14あるいはトルク指令演算部23によるトルク指令Tm*の出力は不要である。
【0202】
また、惰行モードにおいてインバータ4動作継続させる場合には、トルク指令演算部23は、トルクを零に制御するためのトルク指令Tm*を出力する。
【0203】
惰行モードにおけるその他の作用は、他の実施例と同様であり、重複した説明を省略する。
【0204】
時刻tにおいて鉄道車両を減速させるため、運転士の操作に基づくブレーキノッチ(運転指令)が運転モード管理部20dに入力される。時刻tにおいて減速時に最適な磁束値への磁化が瞬間的に行われた後、運転モード管理部20dは、入力されたノッチに基づき、複数の運転モードから「減速モード」を選択する。
【0205】
切替器25は、「減速モード」が選択されたことにより、トルク指令演算部23により出力されたトルク指令Tm*を選択して電流基準演算部11及び磁化電流指令演算部33に出力する。
【0206】
トルク指令演算部23は、運転モード管理部20dにより選択された減速モードに基づき、可変磁束モータ1の目標とするトルクを演算し、演算結果に対応したトルク指令Tm*を切替器25に出力する。具体的には、トルク指令演算部23は、ノッチ・回転数・応荷重に応じて、トルク指令Tm*を生成する。すなわち、トルク指令演算部23は、ノッチに相当する減速度が得られるように、応荷重によってトルク指令Tm*を増減させる。
【0207】
図15に示すように、加速域において、可変磁束モータ1は、所定のトルクで徐々に回転数を下げるように制御される。
【0208】
減速モードにおけるその他の作用は、例えば実施例2の減速モードと同様であり、重複した説明を省略する。
【0209】
その後、回転数が零になる時刻tにおいて、磁束指令演算部31dにより磁石磁束が零又は十分小さな値に磁化された後、運転モード管理部20dは、複数の運転モードから「停止モード」を選択する。可変磁束モータドライブシステムの各部は、停止に必要な処理を行った後、停止する。
【0210】
停止中にインバータ4が故障して起動できない場合、他のドライブ装置が健在であれば、電車は加速し得る。このとき、可変磁束モータ1の可変磁石が磁束値を有すると、誘起電圧が発生する。したがって、上述した惰行モードの場合と同様に、ブレーキ力やインバータ4破壊といった問題が生じる可能性があり、さらにインバータ4が仮に短絡している場合には、短絡電流が流れ続け、モータ・インバータが焼損する。停止モードにモードチェンジする際(時刻t)に磁石磁束値を下げるのは、上述した問題を回避して安全性を確保するためである。
【0211】
なお、再び加速させる際には、磁束指令演算部31dは、加速モードになる直前に再度磁化して磁束を立ち上げる旨の磁束指令Φ*を出力する。
【0212】
その他の作用は、実施例1乃至4と同様であり、重複した説明を省略する。
【0213】
図16は、本実施例の可変磁束モータドライブシステムを適用した電車における制御の状態を示すタイムチャート図の別例である。図15の場合と異なるのは、惰行モード(時刻tから時刻tまで)の間において、磁石磁束値が零とならずに前後の定速モード及び減速モードを通じて一定である点と、停止モード時(時刻t以降)においても磁石磁束を零とせずに小さな値を維持する点である。
【0214】
この場合には、時刻t及び時刻tは磁化を行うタイミングであるが、実際には、磁化を行う必要が無い。磁束指令演算部31dは、定速モードにモードチェンジする際(時刻t)に、磁石磁束を低い値に磁化すればよい。
【0215】
図16は、回転数センサレス制御を適用した可変磁束モータドライブシステムを想定した図となる。通常の可変磁束モータ1は、発生トルクを精度良く制御するために、電動機端に回転角度センサ18のような速度センサを備えているが、センサとインターフェース回路のコスト、電動機取り付けスペース、部品点数削減による信頼性、及び配線艤装工数等の観点から回転数センサレス制御が行われる場合がある。
【0216】
回転数センサレス制御は、回転数に比例した誘起電圧に基づき回転数及び回転角度を推定する。したがって、再起動の際にも、回転数センサレス制御を適用した可変磁束モータドライブシステムは、誘起電圧に基づき初期位相を決定する。しかしながら、図15に示すように惰行モードあるいは停止モードにおいて磁石磁束を零にしてしまうと、可変磁束モータ1は、誘起電圧を発生せず再起動する際の安全面からも好ましくない。
【0217】
そこで、回転数センサレス制御を適用した可変磁束モータドライブシステムは、図16に示すように惰行モードあるいは停止モードにおいても、磁石磁束を零とせず小さな磁束値を保つことにより安全性に資する。
【0218】
また、上述したように、惰行モードでインバータ4を停止しない場合も考えられる。特に、回転数センサレス制御を適用した可変磁束モータドライブシステムは、惰行中にもインバータ4を停止しない場合がある。したがって、当該可変磁束モータドライブシステムは、誘起電圧の情報から磁石磁束方向を推測するので、惰行中も零磁束とせずに小さな磁束値を保つ。
【0219】
上述のとおり、本発明の実施例5の形態に係る可変磁束モータドライブシステムによれば、実施例1乃至実施例4の効果に加え、電車(鉄道車両)の有する「加速モード」、「定速モード」、「惰行モード」、「減速モード」、及び「停止モード」の各運転モードに対して、可変磁石の磁束値を適切な値に運転モード変更時に制御することができる。
【0220】
また、トルクを不要とする惰行モードや停止モードにおいて磁束値を零あるいは小さな値とするため、誘起電圧に起因するブレーキ力の発生やインバータ4に対する過電圧印加を防止することができるとともに、鉄損を低減し、安全面及び効率面の両方に効果がある。
【実施例6】
【0221】
図17は、本発明の実施例6の可変磁束モータドライブシステムの構成を示すブロック図である。実施例5の構成と異なる点は、応荷重算出部19が無い点と、トルク指令演算部23と運転モード管理部20eとの間にノッチ換算部27が設けられている点である。また、本実施例における可変磁束モータドライブシステムは、電気自動車又はハイブリッド自動車に適用されている。
【0222】
トルク指令演算部23は、電気自動車又はハイブリッド自動車に対するアクセル踏込量又はブレーキ踏込量に基づき可変磁束モータ1の目標とするトルクを演算する。
【0223】
ノッチ換算部27は、トルク指令演算部23により出力されたトルク指令Tm*に基づき、トルクを段階的にレベル分けして、対応するノッチに換算するとともに、運転モード管理部20eにノッチを出力する。本実施例にいうノッチとは、実施例5で説明した電車のノッチのように、離散化した状態量を指す。
【0224】
本実施例においては、アクセルを踏み込む際において、100%トルクから75%トルクまでをP4、75%トルクから50%トルクまでをP3、50%トルクから25%トルクまでをP2、25%トルクから0%トルクまでをP1の4段階のカ行ノッチとする。
【0225】
また、ブレーキを踏み込む際において、0%トルクから−25%トルクまでをB1、−25%トルクから−50%トルクまでをB2、−50%トルクから−75%トルクまでをB3、−75%トルクから−100%トルクまでをB4の4段階のブレーキノッチとする。
【0226】
また、切替器25は、運転モード管理部20eにより選択され出力された運転モードに応じて、トルク指令演算部23又は回転数制御器14のいずれかにより出力されたトルク指令Tm*を選択して、電流基準演算部11及び磁化電流指令演算部33に出力する。
【0227】
運転モード管理部20eは、電気自動車又はハイブリッド自動車を加速させる場合の運転モード(加速モード)と、電気自動車又はハイブリッド自動車を減速させる場合の運転モード(減速モード)と、電気自動車又はハイブリッド自動車を定速運転させる場合の運転モード(定速モード)と、電気自動車又はハイブリッド自動車を停止させる場合の運転モード(停止モード)とを有する。
【0228】
さらに、運転モード管理部20eは、電気自動車又はハイブリッド自動車を惰性走行させる場合の運転モード(惰行モード)を有してもよい。また、運転モード管理部20eは、加速モードの中にも各ノッチに対応した「P4モード」、「P3モード」、「P2モード」、「P1モード」を有し、減速モードの中にも各ノッチに対応した「B1モード」、「B2モード」、「B3モード」、「B4モード」を有する。
【0229】
運転モード管理部20eは、トルク指令演算部23により演算されたトルクに応じた運転モードを選択する。
【0230】
その他の構成は、実施例5と同様であり、重複した説明を省略する。
【0231】
次に、上述のように構成された本実施の形態の作用を説明する。図18は、本実施例の可変磁束モータドライブシステムを適用した電気自動車又はハイブリッド自動車における制御の状態を示すタイムチャート図である。
【0232】
最初に、運転者は電気自動車又はハイブリッド自動車を加速させるため、アクセルを踏み込む。ここで、運転者の踏込量が80%トルクに対応するものであるとすると、トルク指令演算部23は、対応するトルク指令Tm*を切替器25及びノッチ換算部27に出力する。
【0233】
ノッチ換算部27は、トルク指令Tm*に基づき、80%トルクに対応するノッチP4を運転モード管理部20eに出力する。
【0234】
運転モード管理部20eは、入力されたノッチP4に基づき、複数の運転モードから「P4モード」を選択する。
【0235】
また、運転モード管理部20eは、H(ハイ)状態のゲート指令GstをPWM回路6に出力し、インバータ4の動作を開始させる。さらに、切替器25は、「P4モード」が選択されたことにより、トルク指令演算部23により出力されたトルク指令Tm*を選択して電流基準演算部11及び磁化電流指令演算部33に出力する。
【0236】
図18に示すように、P4域において、可変磁束モータ1は、所定のトルクで徐々に回転数を上げるように制御される。
【0237】
さらに時刻tにおいて、運転者の踏込量が60%トルクに対応するものであるとすると、トルク指令演算部23は、対応するトルク指令Tm*を切替器25及びノッチ換算部27に出力する。
【0238】
ノッチ換算部27は、トルク指令Tm*に基づき、60%トルクに対応するノッチP3を運転モード管理部20eに出力する。
【0239】
運転モード管理部20eは、入力されたノッチP3に基づき、複数の運転モードから「P3モード」を選択する。
【0240】
なお、本実施例においても今までの実施例と同様に、磁束指令演算部31eは、運転モードのモードチェンジ時において磁化を行う。基本的に本実施例の可変磁束モータドライブシステムは、実施例5における電車の場合と同様の制御がなされる。
【0241】
図18に示すように、P3域においては、可変磁束モータ1は、P4域のトルクより低い所定のトルクで徐々に回転数を上げるように制御される。
【0242】
磁束指令演算部31eは、運転モード管理部20eにより選択された運転モードと擬似微分器8により出力された回転子回転周波数ωRとに基づき、可変磁石の目標とする磁束値を演算して、磁束値に対応した磁束指令Φ*を生成する。
【0243】
加速モードにおけるその他の作用は、実施例5の加速モードと同様であり、重複した説明を省略する。
【0244】
運転モード管理部20eは、定速指令が入力されると(時刻t)、複数の運転モードから「定速モード」を選択して出力する。なお、運転モード管理部20eは、回転数とノッチとに基づき、自己の判断で「定速モード」を選択するとしてもよい。
【0245】
定速モードにおいては、可変磁束モータ1は大きなトルクを必要としないが、回転数を維持する必要がある。そのため、トルク指令演算部23の代わりに回転数制御器14がトルク指令Tm*を出力する。すなわち、定速モードにおいては、回転数指令演算部12eと回転数制御器14が有効になる。
【0246】
したがって、切替器25は、「定速モード」が選択されたことにより、回転数制御器14により出力されたトルク指令Tm*を選択して電流基準演算部11及び磁化電流指令演算部33に出力する。
【0247】
なお、回転数制御器14による回転数制御が行われるのは、定速モードの場合のみならず、自動運転の場合も考えられる。
【0248】
定速モードにおけるその他の作用は、実施例5と同様であり、重複した説明を省略する。
【0249】
運転モード管理部20eは、ノッチ及び定速指令のいずれもがオフ(入力されない)の場合、複数の運転モードから「惰行モード」を選択して出力する(時刻t)。なお、自動車を運転する際にアクセルもブレーキも踏んでいない状態は想定し難いが、例えばハイブリッド自動車に当該可変磁束モータドライブシステムを適用し、且つ自動車の制御がエンジンによる制御に任されている場合に、当該可変磁束モータドライブシステムは惰行モードを選択すると考えられる。
【0250】
惰行モードにおけるその他の作用は、実施例5と同様であり、重複した説明を省略する。
【0251】
時刻tにおいて運転者は、電気自動車又はハイブリッド自動車を減速させるため、ブレーキを踏み込む。ここで、運転者の踏込量が−70%トルクに対応するものであるとすると、トルク指令演算部23は、対応するトルク指令Tm*を切替器25及びノッチ換算部27に出力する
ノッチ換算部27は、トルク指令Tm*に基づき、−70%トルクに対応するノッチB3を運転モード管理部20eに出力する。
【0252】
運転モード管理部20eは、入力されたノッチB3に基づき、複数の運転モードから「B3モード」を選択する。
【0253】
また、時刻tにおいて減速時に最適な磁束値への磁化が瞬間的に行われる。切替器25は、「減速モード」が選択されたことにより、トルク指令演算部23により出力されたトルク指令Tm*を選択して電流基準演算部11及び磁化電流指令演算部33に出力する。
【0254】
図18に示すように、B3域において、可変磁束モータ1は、所定のトルクで徐々に回転数を下げるように制御される。
【0255】
B3モード及びB4モードにおけるその他の作用は、実施例5の減速モードと同様であり、重複した説明を省略する。
【0256】
上述のとおり、本発明の実施例6の形態に係る可変磁束モータドライブシステムによれば、実施例1乃至実施例5の効果に加え、電気自動車又はハイブリッド自動車の有する「加速モード」、「定速モード」、「惰行モード」、「減速モード」の各運転モードに対して、可変磁石の磁束値を適切な値に運転モード変更時に制御することができる。
【0257】
また、アクセルやブレーキの踏込量に対応したトルクを段階的にノッチに換算するので、踏込量に応じた運転モードが選択され、当該可変磁束モータドライブシステムは、可変磁石の磁束値を運転モードに基づいて踏込量に応じた最適な磁束値に磁化することができる。
【0258】
また、本発明による可変磁束モータドライブシステムは、クリーナに対しても適用可能である。その場合には、運転モード管理部は、例えばクリーナへの指令である「強モード」と「弱モード」を有するものが考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0259】
本発明に係る可変磁束モータドライブシステムは、洗濯機、エレベータ、鉄道車両や電気自動車等の駆動モータを使用する可変磁束モータドライブシステムに利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0260】
【図1】本発明の実施例1の形態の可変磁束モータドライブシステムの構成を示すブロック図である。
【図2】可変磁束モータの簡易モデル図である。
【図3】本発明の実施例1の形態の可変磁束モータドライブシステムで使用される可変磁束モータの断面図である。
【図4】本発明の実施例1の形態の可変磁束モータドライブシステムで使用される可変磁束モータのBH特性図である。
【図5】種々の材料の永久磁石のBH特性図である。
【図6】本発明の実施例1の形態の可変磁束モータドライブシステムにおいて磁化を行う際の各部の状態を示すタイムチャート図である。
【図7】本発明の実施例2の形態の可変磁束モータドライブシステムの構成を示すブロック図である。
【図8】本発明の実施例2の形態の可変磁束モータドライブシステムを適用したエレベータにおける制御の状態を示すタイムチャート図である。
【図9】本発明の実施例3の形態の可変磁束モータドライブシステムの構成を示すブロック図である。
【図10】本発明の実施例3の形態の可変磁束モータドライブシステムを適用した洗濯機における制御の状態を示すタイムチャート図である。
【図11】本発明の実施例4の形態の可変磁束モータドライブシステムの構成を示すブロック図である。
【図12】本発明の実施例4の形態の可変磁束モータドライブシステムを適用した空調機における制御の状態を示すタイムチャート図である。
【図13】本発明の実施例4の形態の可変磁束モータドライブシステムを適用した空調機における制御の状態を示すタイムチャート図の別例である。
【図14】本発明の実施例5の形態の可変磁束モータドライブシステムの構成を示すブロック図である。
【図15】本発明の実施例5の形態の可変磁束モータドライブシステムを適用した電車における制御の状態を示すタイムチャート図である。
【図16】本発明の実施例5の形態の可変磁束モータドライブシステムを適用した電車における制御の状態を示すタイムチャート図の別例である。
【図17】本発明の実施例6の形態の可変磁束モータドライブシステムの構成を示すブロック図である。
【図18】本発明の実施例6の形態の可変磁束モータドライブシステムを適用した電気自動車又はハイブリッド自動車における制御の状態を示すタイムチャート図である。
【符号の説明】
【0261】
1 可変磁束モータ
2a,2b 電流検出器
3 直流電源
4 インバータ
5 座標変換部
6 PWM回路
7 座標変換部
8 擬似微分器
10 電圧指令演算部
11 電流基準演算部
12,12a,12b,12c,12d,12e 回転数指令演算部
14 回転数制御器
15 荷重算出部
16 洗濯量算出部
17 温度測定部
18 回転角度センサ
19 応荷重算出部
20,20a,20b,20c,20d,20e 運転モード管理部
22 磁化モード管理部
23 トルク指令演算部
25 切替器
27 ノッチ換算部
31,31a,31b,31c,31d,31e 磁束指令演算部
33 磁化電流指令演算部
51 回転子
52 回転子鉄心
53 低保磁力永久磁石
54 高保磁力永久磁石
55 鉄心の磁極部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低保持力の永久磁石である可変磁石を有する永久磁石電動機と、
前記永久磁石電動機を駆動するインバータと、
前記可変磁石の磁束を制御するための磁化電流を供給する磁化部と、
複数の運転モードから1つの運転モードを選択する運転モード管理部と、
前記運転モード管理部により選択された運転モードに基づき前記可変磁石の目標とする磁束値を演算して前記磁束値に対応した磁束指令を生成する磁束指令演算部とを備え、
前記磁化部は、前記磁束指令演算部により生成された磁束指令に応じた磁化電流を供給して前記可変磁石の磁束を制御することを特徴とする可変磁束モータドライブシステム。
【請求項2】
前記運転モード管理部が有する複数の運転モードの少なくとも1つは、前記永久磁石電動機のトルク及び回転数の少なくとも一方に基づく運転モードであることを特徴とする請求項1記載の可変磁束モータドライブシステム。
【請求項3】
前記運転モード管理部が有する複数の運転モードの少なくとも1つは、前記インバータの動作状態又は停止状態に基づく運転モードであることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の可変磁束モータドライブシステム。
【請求項4】
前記磁束指令演算部は、前記運転モード管理部により選択された運転モードに応じて、当該可変磁束モータドライブシステムの効率改善情報、安全性改善情報、及び騒音改善情報の少なくとも1つに基づき、前記可変磁石の目標とする磁束値を演算して前記磁束値に対応した磁束指令を生成することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の可変磁束モータドライブシステム。
【請求項5】
前記運転モード管理部により選択された運転モードに基づき前記永久磁石電動機の目標とする回転数を演算するとともに、前記磁化部により前記可変磁石の磁束が変更される際に前記永久磁石電動機の目標とする回転数を現在の回転数未満の値に設定するか又は停止させる回転数指令演算部を備えることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の可変磁束モータドライブシステム。
【請求項6】
前記運転モード管理部により選択された運転モードに基づき前記永久磁石電動機の目標とするトルクを演算するとともに、前記磁化部により前記可変磁石の磁束が変更される際に前記永久磁石電動機の目標とするトルクを現在のトルク未満の値か又は零近傍に設定するトルク指令演算部を備えることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の可変磁束モータドライブシステム。
【請求項7】
前記運転モード管理部は、エレベータを加速させる場合の運転モードと、前記エレベータを減速させる場合の運転モードと、前記エレベータを定速運転させる場合の運転モードと、前記エレベータを停止させる場合の運転モードとを有することを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載の可変磁束モータドライブシステム。
【請求項8】
前記磁束指令演算部は、さらに前記エレベータのかご内の積載荷重に応じて前記可変磁石の目標とする磁束値を演算して前記磁束値に対応した磁束指令を生成することを特徴とする請求項7記載の可変磁束モータドライブシステム。
【請求項9】
前記運転モード管理部は、洗濯機により洗濯物を洗う場合の運転モードと、前記洗濯機によりすすぎを行う場合の運転モードと、前記洗濯機により脱水を行う場合の運転モードと、前記洗濯機により乾燥を行う場合の運転モードとを有することを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載の可変磁束モータドライブシステム。
【請求項10】
前記磁束指令演算部は、さらに前記洗濯機内に収容されている洗濯物の量に応じて前記可変磁石の目標とする磁束値を演算して前記磁束値に対応した磁束指令を生成することを特徴とする請求項9記載の可変磁束モータドライブシステム。
【請求項11】
前記運転モード管理部は、空調機が急速冷暖房を行う場合の加速運転の運転モードと、前記空調機が目標温度に達した後に行う定常運転の運転モードとを有することを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載の可変磁束モータドライブシステム。
【請求項12】
前記磁束指令演算部は、さらに外気温度に応じて前記可変磁石の目標とする磁束値を演算して前記磁束値に対応した磁束指令を生成することを特徴とする請求項11記載の可変磁束モータドライブシステム。
【請求項13】
前記運転モード管理部は、鉄道車両を加速させる場合の運転モードと、前記鉄道車両を減速させる場合の運転モードと、前記鉄道車両を定速運転させる場合の運転モードと、前記鉄道車両を惰性走行させる場合の運転モードと、前記鉄道車両を停止させる場合の運転モードとを有することを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載の可変磁束モータドライブシステム。
【請求項14】
前記磁束指令演算部は、さらに前記鉄道車両内の積載荷重に応じて前記可変磁石の目標とする磁束値を演算して前記磁束値に対応した磁束指令を生成することを特徴とする請求項13記載の可変磁束モータドライブシステム。
【請求項15】
前記運転モード管理部は、電気自動車又はハイブリッド自動車を加速させる場合の運転モードと、前記電気自動車又は前記ハイブリッド自動車を減速させる場合の運転モードと、前記電気自動車又は前記ハイブリッド自動車を定速運転させる場合の運転モードと、前記電気自動車又は前記ハイブリッド自動車を停止させる場合の運転モードとを有することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の可変磁束モータドライブシステム。
【請求項16】
前記電気自動車又は前記ハイブリッド自動車に対するアクセル踏込量又はブレーキ踏込量に基づき前記永久磁石電動機の目標とするトルクを演算するトルク指令演算部を備え、
前記運転モード管理部は、前記トルク指令演算部により演算されたトルクに応じた運転モードを選択することを特徴とする請求項15記載の可変磁束モータドライブシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2009−153296(P2009−153296A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−328804(P2007−328804)
【出願日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】