説明

可燃性物質センサー、及びそれを備えた燃料電池

【課題】 少ないスペースで設置可能である可燃性物質センサー、及びそれを備えた燃料電池を提供する。
【解決手段】 本発明の可燃性物質センサーは、可燃性物質を検知した場合に外部に報知を行なう可燃性物質センサーであり、前記可燃性物質の化学反応に基づいて、臭気物質を放出する臭気物質放出部材を有することを特徴とする可燃性物質センサーである。
また、本発明の燃料電池は、前記可燃性物質センサーを備えた燃料電池である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可燃性物質センサーに関するものである。特に、燃料タンクや燃料流路から燃料漏れが発生した際に、臭いによって周囲にいる人に燃料漏れを認識させることができる可燃性物質センサーに関するものである。
【0002】
また、本発明は前記可燃性物質センサーを用いることによって、燃料の漏洩報知を従来のものより迅速かつ確実に行なうことを可能とした燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0003】
温暖化等の環境問題や、原油価格の高騰などを背景に石油代替エネルギーに関する研究開発が盛んに行われている。例えば、風力発電、地熱発電、太陽光発電、燃料電池等が挙げられる。その中でも燃料電池は、天候に左右されず、小型化が可能であることから、自動車業界や携帯機器業界で種々の改良が進められている。とりわけ水素を燃料とする燃料電池は、他のメタノールを燃料とする燃料電池に比べ出力が高い。また、水素は人体には無害であるというメリットがある。
【0004】
しかし、水素は無色無臭の気体であるために、燃料電池外部へ漏れていても、認識することが難しい。従って、水素漏れが発生した場合、迅速かつ確実に報知を行なうシステムが求められている。
【0005】
従来、燃料漏れが発生した時、周囲にいる人にそれを認識させる手段として、燃料ガス中に予め臭気物質を添加しておく方法が考えられている。これは都市ガス等に広く利用されている手段である。しかしながら、この方法を燃料電池に用いる場合、臭気物質が添加された燃料ガスをそのまま使用すると電解質膜や触媒に悪影響を及ぼし、出力を低下させてしまう。そのため、従来においては、燃料が電解質膜や触媒に到る前に臭気物質を取り除く必要があった。例えば特許文献1のように、臭気物質を含む水素が燃料電池の発電部に到る直前に脱臭部を設けて臭気物質を除去する方法が提案されている。また特許文献2では発電部で水素を脱臭する方法、特許文献3では燃料タンクに臭気物質除去カートリッジを設けておいて脱臭する方法が提案されている。
【0006】
一方、燃料ガスに臭気物質を添加しないで、燃料漏れを検知する方法として、燃料供給経路を構成する配管と他の部材との接続箇所をそれぞれ囲むように密閉容器と設置し、密閉容器内の圧力上昇が検知されたときに、付臭剤を混入したガスを外部に放出する方法が特許文献4に提案されている。
【特許文献1】特開2002−29701号公報
【特許文献2】特開2004−134273号公報
【特許文献3】特開2004−308893号公報
【特許文献4】特開2004−229357号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来例のうち、あらかじめ臭気物質を燃料に添加しておく可燃性物質検知方法では、付臭、脱臭のための設備が必要となるので、装置が大型化してしまう。そのため、携帯機器等に使用するための小型燃料電池には使用できないという課題があった。更に、脱臭した後の部分で漏洩を起こした場合は、漏洩の報知が行なえないという課題があった。また特許文献4のように密閉容器を使用する方法は、外気の取入れが必要な燃料電池の発電部等には使用できないという問題を有している。
【0008】
本発明は上記課題に鑑み、燃料電池において外気を取り入れる必要のある個所など設置場所を幅広く選択可能であり、省スペースで実現可能な可燃性物質センサーの提供を目的とするものである。特に可燃性物質との反応によって臭気物質を放出させ、その臭気によって燃料タンクまたは燃料流路からの可燃性物質の漏洩を検出し報知可能とする可燃性物質センサーを提供することを目的とするものである。
【0009】
また、本発明は燃料漏れが発生した時に臭気物質を放出することにより、従来のものより迅速かつ確実に報知を行なう燃料電池を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するため、つぎのように構成した可燃性物質センサーを提供するものである。
【0011】
本発明の可燃性物質センサーは、可燃性物質を検知した場合に外部に報知を行なう可燃性物質センサーであり、前記可燃性物質の化学反応に基づいて、臭気物質を放出する臭気物質放出部材を有することを特徴とする可燃性物質センサーである。
【0012】
また、本発明は、上記課題を解決するため、次のように構成した燃料電池を提供するものである。
【0013】
本発明の燃料電池は、燃料が供給される燃料極と、酸化剤が供給される酸化剤極と、前記燃料極と前記酸化剤極との間に設けられたイオン伝導体とを有するセル部と、燃料流路と、酸化剤流路とを備える燃料電池であって、可燃性物質の化学反応に基づいて、臭気物質を放出する臭気物質放出部材を有する可燃性物質センサーを備えたことを特徴とする燃料電池である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、少ないスペースに設置可能な可燃性物質センサーを提供することができる。また、電力源の必要ない簡単な構成であるため、設置場所や設置形態を幅広く選択できる可燃性物質センサーを提供することができる。
【0015】
本発明の可燃性物質センサーを燃料電池に搭載することで、燃料タンクまたは燃料流路からの燃料漏れが発生したときに従来のものより迅速かつ確実に漏洩を報知する燃料電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明に係る可燃性物質センサーは、可燃性物質が該可燃性物質センサーに接触したときに可燃性物質の化学反応に基づいて臭気物質を放出する臭気物質放出部材を有する可燃性物質センサーである。
【0017】
本発明の実施の形態について説明する。
【0018】
図1に、本実施の形態における可燃性物質センサーの構成の概略図を示す。
【0019】
図1のように、本発明の可燃性物質センサーの少なくとも表面の一部は臭気物質放出部材として、可燃性物質が接触すると化学反応を生じる反応部11を持つ。反応部11は可燃性物質と接したときに反応によって臭気物質を生成する材料のみで構成されていてもよく、該材料を保持するバインダーとの混合物で構成されていてもよい。支持基材21は、反応部11の形状を保つための基材で、必要に応じて設けられるものである。
【0020】
また図2のように、臭気物質放出手段としては、可燃性物質が接触すると化学反応を起こさせる反応部12と、かつ反応部12の周辺に設けられ、その反応で発生する熱や生成物との作用によって臭気物質を放出する作用部31を持つような構造にすることもできる。作用部31の少なくとも一部は、作用が起こる前は臭気を発しないが、反応部11において生じた化学反応によって発生した熱や生成物との作用により臭気物質を発生する材料で構成されている。
【0021】
ここでの作用は、気化、融解、化学反応、溶解、分解、結合、重合、物理的作用等が挙げられる。
【0022】
本発明に用いられる可燃性物質としては、水素ガス、天然ガス等の炭化水素ガス、メタノール、エタノールやエーテル等の炭化水素液体が挙げられる。
【0023】
反応部11に用いることができる材料であって、可燃性物質と直接化学反応することにより、臭気物質を生成する材料としては、硫黄、硫化鉄、硫黄化合物、ヨウ素、塩化鉄、ハロゲン化合物、ジアシルパーオキサイド類、ジアルキルパーオキサイド類、パーオキシケタール類、アルキルパーエステル類、ケトン類、ジスルフィド類が好適に用いられ得る。これら以外にも空気中の窒素を可燃物質と反応して臭気物質を発生する材料として、反応部11に含有もしくは流通させることにより用いることが出来る。
【0024】
この場合に用いられる臭気物質としては、アンモニア、硫化水素、臭化水素、ヨウ化水素、塩化水素、メタノール、エタノール、プロパノール、フェノール、アルコール類、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、安息香酸、カルボン酸類、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、アルデヒド類、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、チオフェノール、チオール類が挙げられる。
【0025】
反応部12に用いることができる材料であって、可燃性物質と反応して熱を発生する材料としては、金属酸化物、ナフタレン、芳香族化合物、遷移金属、遷移金属合金、希土類金属、希土類金属合金、バナジウム、マグネシウム、マグネシウム合金、パラジウム、カルシウム、カルシウム合金、水素吸蔵合金が好適に用いられ得る。これら以外にも空気中の酸素や窒素を可燃物質と反応して熱を発生する材料として反応部12に含有もしくは流通させることにより用いることが出来る。
【0026】
この場合に用いられる臭気物質としては、ラウリン酸、脂肪酸類、乳酸、リンゴ酸、サリチル酸、安息香酸、フタル酸、芳香族カルボン酸類、酒石酸、酢酸エチル、エステル類、セチルアルコール、アルコール類、ナフタレン、スカトール、インドール、カプリン酸、パラジクロロベンゼン、クレゾール、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトアミドが挙げられる。
【0027】
反応部12に用いることができる材料であって、可燃性物質と反応して水を発生する材料としては、酸化銅、酸化銀、酸化白金、金属酸化物、シリコン酸化物、その他の酸化物が好適に用いられ得る。これら以外にも空気中の酸素を可燃物質と反応して水を発生する材料として反応部12に含有もしくは流通させることにより用いることが出来る。この水は臭気物質を放出するための中間生成物として働く。
【0028】
前記可燃性物質が化学反応した時に発生する水と作用することにより、臭気物質を放出する材料としては、アセトアミド、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトアミド、アセトアニリド、ベンズアミド、酸アミド類、チオエステル類、酢酸エチル、酪酸メチル、ギ酸エチル、エステル類、炭化カルシウム、炭化アルミニウム、塩化鉄、臭化鉄、ヨウ化鉄、ハロゲン化金属類、硫化鉄、硫黄化合物、アセタール類、ケタール類、が好適に用いられ得る。
【0029】
この場合に用いられる臭気物質としては、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、アニリン、アミン類、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、安息香酸、カルボン酸類、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、チオフェノール、チオール類、メタノール、エタノール、プロパノール、フェノール、アルコール類、アセチレン、メタン、臭化水素、ヨウ化水素、塩化水素、硫化水素、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、アルデヒド類、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ケトン類が挙げられる。
【0030】
また別の構成として、図3のようなマイクロカプセル41の中に臭気物質51を包含させても良い。この構成では、マイクロカプセル41が可燃性物質の化学反応によって破れ、内部の臭気物質51が外に放出される。この破れとは、機械的な亀裂や、物理的もしくは化学的な作用による溶解、融解などを含む。
【0031】
臭気物質51としては、微量でもその臭いを認識できる物質であることが好ましい。例えば、t−ブチルメルカプタン、ジメチルサルファイド、テトラヒドロチオフェンが挙げられる。
【0032】
マイクロカプセル41は可燃性物質と直接に化学反応するものとしてその化学反応によってマイクロカプセル41が破れる構造にしても良い。この場合のマイクロカプセル41の材料としては、フェノール樹脂、フェノール・ホルムアルデヒド樹脂、ポリプロピレン、メラミン樹脂、ポリスチレン、セルロースが挙げられる。
【0033】
またマイクロカプセル41に隣接して設置してある反応部13が可燃性物質と化学反応し、その反応時に発生する熱や生成物との作用よってマイクロカプセル41が破れる構造にしても良い。この場合のマイクロカプセル41の材料としては、メラミン樹脂、ゼラチン、ウレタン樹脂、ポリアミド、尿素樹脂、ポリウレア樹脂が挙げられる。
【0034】
マイクロカプセル41を破る有効な手段として、マイクロカプセル表面の一部に化学反応を促進する触媒を塗り触媒部を設けて反応部13とし、触媒部での触媒燃焼を利用する方法がある。この方法ではマイクロカプセルを触媒燃焼による熱や水等の生成物で破れる材料で作製する。そうすることで、可燃性物質が触媒部において触媒燃焼を起こした時には、発生した熱や水等の生成物の作用によってマイクロカプセル41を破ることができる。そして包含されている臭気物質51が外部に放出される。触媒部に塗布する触媒の種類としては、白金やパラジウム等が挙げられるが本発明はこれらに限られるものではない。
【0035】
本発明の可燃性物質センサーは燃料電池に設置することができる。
【0036】
ここで、燃料電池の構成について説明する。ここでは、固体高分子形燃料電池を例に用いるが、本発明はこれに限られるものではなく、他の形式の燃料電池においても好適に用いられ得る。図4は燃料電池の模式的断面図であり、図5は燃料電池システムの一例を示す構成図である。
【0037】
燃料である可燃性物質は燃料タンク63に貯えられており、燃料流路64を通って燃料極613に供給される。燃料極は拡散層672と触媒層692を有している。
【0038】
燃料は水素、炭化水素などの可燃性ガス、メタノール、エタノール、エーテルなどの可燃性液体を使用する。その中で、発電効率の高い水素、メタノール、エタノールが好ましく、燃料電池の出力を最も高めることのできる水素がより好ましい。
【0039】
酸化剤極611には、酸化剤が供給される。酸化剤極611は拡散層671と触媒層691を有している。
【0040】
酸化剤には、空気や酸素などが用いられる。特に空気を酸化剤として用いる場合には、通気孔62から供給する構造とするのが好ましい。また、酸化剤として空気を供給する方法以外に、酸化剤を保持したタンクから供給しても良い。
【0041】
以下の説明において、燃料として水素を、酸化剤として空気を使用した場合について説明するが、本発明の内容は水素、空気に限定されるものではない。
【0042】
燃料及び酸化剤はそれぞれ拡散層671、672を透過し、燃料は燃料極613に配置された触媒で、酸化剤は酸化剤極611に配置された触媒でそれぞれ反応する。水素は燃料極における反応により水素イオンと電子に分解し、水素イオンはイオン伝導体である高分子電解質膜612を通過して酸化剤極に到達し、電子は電極へ導かれ、外部に電力として取り出された後、やはり酸化剤極に到達する。酸化剤極では触媒上にて、到達した水素イオンと電子が酸素と結合し、水を生成する。
【0043】
これらの反応において、通常、燃料と酸化剤は混ざることなく、それぞれの電極の触媒上で反応を行なう。
【0044】
正常運転時の燃料電池は、室温環境下では40〜80℃程度の温度になる。一方、燃料と酸化剤が混ざって望まない触媒燃焼を引き起こす場合の温度は、両者の混合比にもよるが、100℃を超える。従って、図3のようなマイクロカプセル41に臭気物質51を包含する構成の場合、マイクロカプセル41は、40〜80℃では融解など変化を起こさず、かつ100℃以上の高温下で融解し包含した臭気物質51を放出するような材料を選択して構成すればより好ましい。
【0045】
本発明の可燃性物質センサー90の設置位置としては、燃料極613の内部、燃料ガス流路64の内部、接続部68の内部、燃料タンク63の内部以外であればどこでもよいが、燃料漏れが発生した時に早急に認識するために燃料漏れが発生しやいと考えられる位置に設置するのが好ましい。例えば、高分子電解質膜612の酸化剤極611側周辺部や、発電部と燃料タンクとの接続部68の外側等が考えられる。図4には、接続部68の外側に可燃性物質センサー90を設置した例を示している。
【0046】
高分子電解質膜612周辺部に設置する場合は、酸化剤流路66や酸化剤極611に設置するのが好ましい。酸化剤極611が触媒層や拡散層671を有している場合には、どちらか一方に設置してもよいし、両方に設置しても良い。酸化剤極611の触媒層に設置する場合には、燃料電池の触媒層が本発明の可燃性物質センサーの触媒部を兼ねていても良いし、触媒層とは別に触媒部を設けても良い。
【0047】
以上のようにして放出された臭気物質は、酸化剤流路を通じて燃料電池の外部に拡散し、該燃料電池もしくは該燃料電池を装着している装置が稼動していないときであっても、その使用者等に漏洩異常の発生を迅速かつ確実に報知することができる。
【0048】
以上の本発明の実施の形態によれば、簡単な構成で可燃性物質を検知することができ、迅速かつ確実に周囲にその存在を認識させることができる。
【0049】
なお、以上の説明では、反応部周辺から臭気物質が放出される構成例について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0050】
つまり、反応部11と臭気物質51が離れた場所に設置してあっても良い。例えば、酸化剤ガス流路66にある反応部で発生した熱や生成物を検知して、燃料電池61の外に設置した臭気物質51を放出するといった構成とすることもできる。このような構成にすることで、搭載する機器側の形状に適応するように柔軟に対応することができる。
【実施例】
【0051】
以下に、本発明の実施例について説明する。
【0052】
(実施例1)
実施例1においては、本発明の可燃性物質センサーを酸化剤流路に設置した燃料電池装置について説明する。
【0053】
まず、可燃性物質センサーとして、臭気物質としてのt−ブチルメルカプタンを内包したメラミン樹脂製マイクロカプセルを、以下の方法で作製した。マイクロカプセル直径は約5μmである。そして、その表面に微量の白金黒(粒径10〜30nm)を塗布した。
【0054】
スチレン−無水マレイン酸共重合体(モンサント社製)を少量の水酸化ナトリウムと共に溶解して調製したpH4.5の5重量%水溶液300重量部中に、t−ブチルメルカプタン(キシダ化学社製)200重量部を加え、ウルトラホモジナイザーを用いて攪拌し、乳化した。
【0055】
一方、メラミン20重量部及び37重量%ホルマリン45重量部を水35重量部に加え、さらに20重量%水酸化ナトリウム水溶液でpH9.5に調整し、85℃で15分間加熱して、メラミン−ホルムアルデヒド初期縮合物の水溶液を調製した。
【0056】
次に、このメラミン−ホルムアルデヒド初期縮合物の水溶液を、前記の乳化物に加え、75℃で2時間かきまぜてt−ブチルメルカプタンを内包したメラミン樹脂壁膜を有するマイクロカプセル分散液を得た。
【0057】
このようにして得られたt−ブチルメルカプタンを内包したメラミン樹脂壁膜を有するマイクロカプセル分散液をスプレードライヤーにて、入口温度120℃、ノズル圧1kg/cm2、サンプル送量5g/分の条件で噴霧乾燥を行い、t−ブチルメルカプタン内包のマイクロカプセル粉末を得た。
【0058】
作製したマイクロカプセルの直径は約5μmである。そして、その表面に微量の白金黒(粒径10〜30nm)を塗布した。
【0059】
次に、発泡ニッケルを適当な大きさに切り出し、その孔内壁の表面に臭気物質を包含したマイクロカプセルと適量の接着剤とを混合して塗布した。そして、その発泡ニッケルを大気の取り込み口である通気孔として用いた燃料電池を作製した。
【0060】
このようにして作製した燃料電池は、電解質膜が破れて燃料である水素が酸化剤流路に漏れ出した場合に、通気孔に塗布したマイクロカプセル表面で触媒燃焼が起こる。そしてマイクロカプセル表面温度は100℃以上になるため、マイクロカプセルが熱によって破れ、内部のt−ブチルメルカプタンが放出される。そしてその臭いによって、ユーザーや周囲にいる人物即ち外部に水素漏れを報知し、彼らに認識させることができる。
【0061】
(実施例2)
次に本発明の可燃性物質センサーを燃料電池の酸化剤極の触媒層に設けた場合について説明する。
【0062】
燃料電池の触媒層は図6に示すように高分子電解質膜612上に触媒71が配置された構造をしている。触媒層は燃料あるいは酸化剤の拡散性を得るため、多孔質体または微粒子体からなり、また、ガス拡散電極と電気的に接続されている。さらに、イオンパスを有効に形成するため、触媒層に電解質72を混在させる場合がある。さらに、触媒71の利用効率を向上させるため、触媒71を微粒子化してカーボンなどの担体粒子73に担持させる場合がある。
【0063】
本実施例では、図6に示すように実施例1に記載のt−ブチルメルカプタンを包含し、メラミン樹脂から成るマイクロカプセル41と白金から成る触媒微粒子とを混ぜて触媒層を形成した。電解質膜612が破損して燃料が漏れると、触媒71の作用により触媒燃焼が起こる。これにより触媒層の温度が上昇し、その熱によりマイクロカプセル41が破れてt−ブチルメルカプタンが放出される。その臭いによりユーザーあるいは周囲にいる人物に、水素漏れを認識させることができる。本実施例で使用するマイクロカプセルは、事前に表面に触媒微粒子を塗布したものを用いてもよいし、表面に触媒を塗っていないものを用いてもよい。
【0064】
(実施例3)
続いて、本発明の可燃性物質センサーを燃料電池の拡散層に設けた場合について説明する。
【0065】
燃料電池は、図7に示すように触媒層69の外側に拡散層67を有する。拡散層67は次の構成を有している。まず触媒層69に接して、拡散電極層があり、カーボン多孔質体が良く用いられる。カーボン多孔質体は、カーボンペーパーやカーボンクロスの触媒層側表面に、カーボン微粒子とPTFE等の疎水性樹脂を混合したMPL層(micro porous layer層)を設ける場合もある。また、さらに外側に拡散性を持たせた拡散集電層や電気的に絶縁するための拡散性を持たせた拡散絶縁層を備える場合もある。拡散集電層には、金属の発泡体など、金属やカーボンを加工したものが使用され、拡散絶縁層にはプラスティック材料が用いられる。
【0066】
本実施例では、図8に示すように上記のMPL層を形成する際、カーボン微粒子、PTFEとともに、実施例1に記載のマイクロカプセルと同じマイクロカプセル41を同時に混合し、カーボンペーパーに塗布した。そして、このマイクロカプセル含有MPL層を持つカーボン多孔質体をMPL層と触媒層が接する状態で燃料電池の拡散電極層として用いた。本実施例においても、電解質膜が破損して燃料が漏れると、燃料電池触媒で触媒燃焼が起こる。これにより触媒層の温度が上昇し、その熱によりマイクロカプセル41が破れてt−ブチルメルカプタンが放出される。また、マイクロカプセル表面に触媒微粒子を塗布しておけば、マイクロカプセル表面で触媒燃焼が起こるため、より確実にマイクロカプセル41を破ることができる。
【0067】
(実施例4)
本実施例では、図4に示すように、本発明の可燃性物質センサーを燃料電池の燃料流路と燃料タンクとの接続部に設けた場合について説明する。
【0068】
燃料電池の燃料流路64と燃料タンク63の接続部には、接続バルブの他に燃料極に供給される燃料の圧力を一定にするための圧力調整バルブを設ける場合がある。本実施例では、接続バルブや圧力調整バルブの外壁に塗布する塗料や防錆剤等のコーティング剤に実施例1に記載のマイクロカプセルを混ぜてコーティングを施した。そうすることで、接続部で水素漏れが発生した時には、マイクロカプセル表面で触媒燃焼が起こり、その熱によってマイクロカプセルが破れるため、臭気物質が外部に放出される。
【0069】
(実施例5)
本実施例では、図9に示すように臭気物質放出部材として粉末状のアセトアミドと触媒微粒子とを混ぜて形成した触媒層を採用した。
【0070】
高分子電解質膜612が破損して燃料が漏れると、燃料電池の触媒71で触媒燃焼が起こる。これにより触媒層の温度が上昇し、同時に水が生成される。その熱と水によりアセトアミドが加水分解されて、アンモニアと酢酸が放出される。その臭いによりユーザーあるいは周囲にいる人物は、水素漏れを認識することができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の実施形態における可燃性物質センサーの構成例を示す概略図である。
【図2】本発明の実施の形態における可燃物質センサーの構成例として、作用部を持つ可燃性物質センサーの一例である。
【図3】本発明の実施の形態におけるマイクロカプセルの構成例を示す概略図である。
【図4】燃料電池の一例を示す概略図である。
【図5】燃料電池システムの一例を示す概略図である。
【図6】本発明の実施の形態における可燃性物質センサーを具備した燃料電池の触媒層を示す断面図である。
【図7】燃料電池の拡散層を示す断面図である。
【図8】本発明の実施の形態における可燃性物質センサーを具備した燃料電池の拡散層を示す断面図である。
【図9】本発明の実施の形態における可燃性物質センサーを具備した燃料電池の触媒層を示す断面図である。
【符号の説明】
【0072】
11 反応部
21 支持基材
31 作用部
41 マイクロカプセル
51 臭気物質
61 燃料電池
611 酸化剤極
612 高分子電解質膜
613 燃料極
62 通気孔
63 燃料タンク
64 燃料流路
65 電極
66 酸化剤流路
67 拡散層
671 拡散層(酸化剤極)
672 拡散層(燃料極)
68 接続部
69 触媒層
71 触媒
72 電解質
73 担体
81 MPL層
811 カーボン微粒子
812 PTFE樹脂
90 可燃性物質センサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可燃性物質を検知した場合に外部に報知を行なう可燃性物質センサーであり、
前記可燃性物質の化学反応に基づいて、臭気物質を放出する臭気物質放出部材を有することを特徴とする可燃性物質センサー。
【請求項2】
前記臭気物質は前記可燃性物質の化学反応により生成される生成物であることを特徴とする請求項1に記載の可燃性物質センサー。
【請求項3】
前記臭気物質は前記可燃性物質の化学反応により発生した熱により気化する物質であることを特徴とする請求項1に記載の可燃性物質センサー。
【請求項4】
前記臭気物質は前記可燃性物質の化学反応により生成された中間生成物が更に化学反応することにより生成される生成物であることを特徴とする請求項1に記載の可燃性物質センサー。
【請求項5】
前記臭気物質はマイクロカプセルの中に包含されていることを特徴とする請求項1に記載の可燃性物質センサー。
【請求項6】
前記マイクロカプセルは前記可燃性物質と直接に化学反応する材料でできていることを特徴とする請求項5に記載の可燃性物質センサー。
【請求項7】
前記マイクロカプセルは前記可燃性物質の化学反応により発生した熱及び/又は中間生成物によって破れることを特徴とする請求項5に記載の可燃性物質センサー。
【請求項8】
前記可燃性物質の化学反応を促進する触媒部を有することを特徴とする請求項1に記載の可燃性物質センサー。
【請求項9】
前記可燃性物質の化学反応を促進する触媒部が前記マイクロカプセルの表面に備えられていることを特徴とする請求項5に記載の可燃性物質センサー。
【請求項10】
前記触媒部が白金を含むことを特徴とする請求項8または請求項9に記載の可燃性物質センサー。
【請求項11】
前記中間生成物が水であることを特徴とする請求項4または請求項7に記載の可燃性物質センサー。
【請求項12】
前記可燃性物質は水素、メタノールまたはエタノールから選択される少なくとも一つの物質を含むことを特徴とする請求項1に記載の可燃性物質センサー。
【請求項13】
燃料が供給される燃料極と、酸化剤が供給される酸化剤極と、前記燃料極と前記酸化剤極との間に設けられたイオン伝導体と、燃料流路と、酸化剤流路とを備える燃料電池であって、請求項1記載の可燃性物質センサーを備えたことを特徴とする燃料電池。
【請求項14】
前記酸化剤極が触媒層を有しており、前記触媒層に前記可燃性物質センサーが備えられていることを特徴とする請求項13に記載の燃料電池。
【請求項15】
可燃性物質センサーを燃料タンクと燃料流路の接続部に備えたことを特徴とする請求項13に記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−134228(P2008−134228A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−266605(P2007−266605)
【出願日】平成19年10月12日(2007.10.12)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】