説明

可逆セルの運転切り替え方法

【課題】固体高分子形の水電解装置と燃料電池とを一体化させた可逆セルにおいて,運転モードの切り替えを短時間でかつ容易に行う。
【解決手段】固体高分子形の水電解装置と燃料電池とを一体化させた可逆セル1において、水電解装置運転から燃料電池運転への運転モードの切り替えにあたって,水電解装置運転の終了後、燃料電池運転を行う前に、可逆セル1内部の反応ガス流路に気体を供給して、流路内に残留した電解水をセル内部から排出し、その後、燃料電池運転時に酸化剤極となる側の反応ガスの流路14にのみ、空気を供給し、セル内部基材を乾燥させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形の水電解装置と燃料電池のセルを一体化した可逆セルにおいて、水電解運転から燃料電池運転への運転を切り替える、切り替え方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
同形状の固体高分子電解質型セルとして構成することができる水電解セルと燃料電池セルとを一体化した固体高分子形の可逆セルは、一般的には、固体電解質材料の膜(高分子膜)を両側から電極触媒層によって挟持して構成される発電ユニット(MEA:Membrane Electrode Assembly)と、その外側に接合した酸化剤極集電体及び燃料極集電体と、これら酸化剤極集電体及び燃料極集電体の各外側に配置したセパレータとによって主要部が構成されている。通常、セパレータは波板形状を有し、セパレータと酸化剤極集電体、及びセパレータと燃料極集電体とによって形成される各独立空間が、酸化剤(酸素ガス)、燃料(水素ガス)の反応ガスの流路を構成する。MEAと酸化剤極集電体及び燃料極集電体は、セル内部基材を構成している。
【0003】
このような構造の可逆セルは、水電解と燃料電池の機能を一体化させた機器であるため、運転モードの切替操作が生じる。この切替には、水電解運転→燃料電池運転と、燃料電池運転→水電解運転の2通りがある。このうち水電解運転→燃料電池運転への切替においては、水電解運転でセル内部基材が完全に濡れた状態となっているため、その状態で燃料電池運転を開始しようとして反応ガスを供給しても、基材の濡れにより反応場までのガス供給が妨げられ、結果として燃料電池運転が不可能となる。可逆セルの運転切替を自在に行うためには、水電解運転→燃料電池運転への運転切替において、水電解運転後の基材の濡れを適切に制御し、反応ガスが反応場までスムーズに供給できる状態をいち早く確保する必要がある。
【0004】
この点に関し、たとえば従来提案されている技術としては、水電解運転により完全に濡れたセル内部基材を乾燥させるために、不活性ガスを使用しているものがある(特許文献1)。これは、酸化剤極側及び燃料極側の両極の反応ガス流路に不活性ガスを供給して、セル内部基材が持つ撥水性を回復させる目的でセル内部基材を一度完全に乾燥させるというものである。セル内部の乾燥状態は、プロトン伝導性を有する高分子膜の抵抗上昇値により判断するようにしている。そしてそのように不活性ガスを供給して乾燥させた後、加湿した反応ガスを供給して、過度に乾燥した高分子膜を適度な湿潤状態にした後に、負荷を印加(燃料電池運転を開始)するようにしている。
【0005】
またその他に、単セル(最小単位の電解・発電ユニット)を積層したスタックにおいて、各セル間の乾燥状態が偏る原因であるセル内部残留水を、一定量以上の不活性ガスを供給することで吹き飛ばし、もってセル内部基材を均一に乾燥する技術も提案されている(特許文献2)。
【0006】
【特許文献1】特開2006−127807号公報
【特許文献2】特開2007−115588号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の技術は、安全かつ確実な切替は可能であるが、別途不活性ガス設備が必要となる。セルの積層枚数が増加すれば、それに比例した量の不活性ガスが必要となるため、可逆セルの高出力化に伴い不活性ガス供給設備も大型化し、イニシャルコスト及びランニングコストも増加するという点も否めなかった。さらに、セル内部基材が持つ撥水性を回復させる目的で、高分子膜を一旦規定の値まで乾燥させ、その後反応加湿ガスで高分子膜を湿潤化させているため、制御の点で改善の余地があった。また特許文献2に記載の技術においても、やはり不活性ガス設備が必要であり、またチャネルに残留した残留電解水を排出する際の排水能力は重力とガス圧に依存している。またいずれも大量の不活性ガス(たとえば窒素ガス)を必要とする。
【0008】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、不活性ガス及びその供給設備を必要とせずに、水電解運転から燃料電池運転への運転切り替えを短時間にかつ簡潔に行うことを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明は、固体高分子形の水電解装置と燃料電池とを一体化して、水電解装置運転と燃料電池運転との運転モードの切り替え可能な可逆セルを、水電解装置運転から燃料電池運転へと運転モードを切り替える方法において、水電解装置運転の終了後、燃料電池運転を行う前に、可逆セル内部の反応ガス流路に気体を供給して、流路内に残留した電解水をセル内部から排出し、その後、燃料電池運転時に酸化剤極となる側の反応ガス流路にのみ空気を供給し、セル内部基材を乾燥させることを特徴としている。
【0010】
発明者らの知見によれば、酸化剤極となる側の反応ガス流路にのみ空気を供給した場合、酸化剤極側の水分は酸化剤極集電体から当該空気に伝達され、当該空気によって系外に排出される。一方燃料極側の水分については、まず燃料極集電体からMEA及び酸化剤側集電体を伝達して、最終的に当該空気に伝達され、当該空気によって系外に排出される。したがって、従来のように窒素ガスなどの不活性ガスを酸化剤極側及び燃料極側の両極の反応ガス流路に供給しなくとも、セル内部基材を好適に乾燥させることができる。本発明に用いる前記空気としては、もちろん大気中の空気をそのまま用いることができるほか、通常の空調機で減湿処理を行なったものを用いてもよい。好ましくは露点温度が20℃以下のものがよい。
【0011】
ここで、乾燥ガスとなる空気の中における集電体の濡れ状態は、空気の流れ方向、すなわち供給方向で変化する。したがって一方向のみから空気を供給して乾燥を行うと、上流は乾燥しているにもかかわらず下流はまだ乾燥していないという状態が発生するおそれがある。こうなると、下流側を乾燥させるために引き続き空気を供給する必要がある。しかしそのように上流側が乾燥しているにもかかわらず、引き続き空気を供給してしまうと、上流側のMEA、特に高分子膜が過度に乾燥して、膜がダメージを受けるおそれがある。
【0012】
かかる場合に対処するため、空気を供給し、セル内部基材を乾燥させるにあたっては、乾燥途中で反応ガス流路に供給する空気の供給方向を逆転するようにしてもよい。これによって、最も乾燥させたい部分での水分伝達量が最大となるばかりでなく、空気の流れ方向で当該空気の水分量が増加していくため、逆転後は下流側(逆転前の上流側)において、MEAを適度に加湿してこれを保護することができ、結果としてセル内部基材全面を均一に乾燥させることができる。
【0013】
供給された空気に伝達されるセル内部基材からの水蒸気移動量を予め計算によって求め、その結果に基づいてセル内部基材の残留水分量が所定の値に達するまで前記空気の供給を行なうようにしてもよい。
【0014】
この場合、既述したように、本発明においては、空気とセル内部基材間の水分濃度差による水分(物質)伝達により行われ、水分の伝達経路は酸化剤極側は酸化剤極集電体から空気であり、燃料極側はまず燃料極集電体からMEAと酸化剤側集電体を伝達して、最終的に空気に伝達されて系外に排出される。そのため、水蒸気移動量を予め計算によって求める場合、厳密には両極集電体と膜の基材積層方向の拡散係数を求め、Fickの法則により、基材の厚み方向の濡れ状態を部材毎に算出し、さらに酸化剤極集電体表面と空気ドライガス間の物質伝達率を求めることで両極集電体の濡れ状況を算出する必要がある。しかしながら、両極集電体とMEAの積層方向の厚みは、僅か1mm以下と非常に薄いため、実用的な観点からすると基材内部積層方向の濡れ状態を算出する必要は無く、燃料極集電体から酸化剤極集電体を1つの基材とみなすことができる。このように1つの基材とみなした集電体と空気間で物質伝達計算を行うことで、空気流れ方向の水分移動量を算出することができ、それに基づいてセル内部基材の残留水分量が所定の値(乾燥度)に達するまでの時間等を求めることができるから、前記空気の供給時間の制御が容易である。
【0015】
そのようにセル内部基材の残留水分量が所定の値に達する時点より前まで前記空気の供給を行ない、その後は空気の供給はそのままで、燃料極側の反応ガス流路に低加湿または無加湿燃料ガスを供給して、定格よりも低い低負荷燃料電池運転を行なうようにしてもよい。すなわち乾燥途中から、定格よりも低い低負荷(低電流密度)の燃料電池運転を行なうようにしもよい。そしてその後徐々に電流密度を上げて定格運転に近づけるようにしてもよい。これによって、初期の運転時には低負荷運転であるものの、次第に通常の定格運転を実施することができ、発電を伴わない乾燥運転の時間を短縮して、結果的に全体として効率のよい燃料電池運転を実施することができる。ここで低加湿、無加湿燃料ガスとは、露点温度がたとえば30℃以下のものをいう。
【0016】
供給された空気に伝達されるセル内部基材からの水蒸気移動量を予め計算によって求めた結果に基づいてセル内部基材の残留水分量が所定の値に達するまで前記空気の供給を行なうことに代えて、可逆セルの開回路電圧を測定し、その測定結果が所定値に達するまで前記空気の供給を行なうようにしてもよい。開回路電圧とは、負荷をかけていない状態の電圧である。可逆セル中の高分子膜は、湿潤状態のときは開回路電圧が高いが、乾燥するにつれて開回路電圧は低下する特性があるので、それを利用して所定の値になった時点で、乾燥したこととみなして、運転を切り替えるようにしてもよい。
【0017】
可逆セルから排出される水分を多く含んだ空気を減湿し、湿度が低下した空気を、酸化剤極となる側の反応ガス流路に供給する空気として再び用いるようにすれば、切り替え用に供する空気を、別途確保する必要が無く、またこれを貯蔵したり、あるいは循環させる機構を付加することで、必要な空気、酸素を節約することができる。
【0018】
可逆セルにおける集電体に親水処理を行なって基材の表面張力を低下させることで、集電体自体の保水能力を低下させ水の自重による残留水の排水効果を高めることができる。このように自重による自然排水の効果割合を高めることで、また集電体間の物質(水分)伝達による乾燥の際の排出する水分量を飛躍的に減少させることができ、切替所要時間の短縮やブロアの送風動力等の切替所要動力の低減につながる。
【0019】
一方、可逆セル中の反応ガス流路を形成するセパレータの表面に対して、親水処理を行うことで、切り替え初期の流路の残留水を排出するためのパージが不要となる。
【0020】
またセル内部基材における集電体の空隙率や開口率を高めることで、集電体内部鉛直方向の排水流路を確保することで排水効果をさらに高めることができ、また集電体を介しての物質伝達効率を向上させて、乾燥時間を短縮することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、固体高分子形の水電解装置と燃料電池とを一体化させた可逆セルにおいて、不活性ガス及びその供給設備を必要とせずに、水電解運転から燃料電池運転への運転切り替えを短時間にかつ簡潔に行うことが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下本発明の好ましい実施の形態について説明する。図1は、可逆セル1の内部を模式的に示しており、図2は、この可逆セル1の水平断面を示している。この可逆セル1は、図2に示したように、最も外側に各々給・集電板2、3が配置されている。給・集電板2、3間の中心には、電極触媒層によって構成される2枚の電極部4a、4b間に、固体電解質材料によって構成されるイオン交換膜4cが配置されて、複合化した発電ユニットであるMEA4が構成されている。各電極部4a、4bの外側には、例えば多孔質の材料からなる集電体5、6が配置されている。本実施の形態においては、これらMEA4と集電体5、6とでセル内部基材が構成されている。電極部4aは、水電解運転時にはカソードとなり、電極部4bは、水電解運転時にはアノードとなる。
【0023】
集電体5と給・集電板2との間には空間Sが形成され、集電体6と給・集電板3との間には空間Sが形成されている。各空間S、S内には、各々断面が波型のセパレータ7が各々配置されている。そしてこの可逆セル1は水冷方式による冷却方法を採用しており、空間Sに配置されたセパレータ7によって、空間Sには、冷却水流路11と流路12が交互に形成されている。一方、空間Sに配置されたセパレータ7によって、空間Sにも、冷却水流路13と流路14が交互に形成されている。冷却水は、冷却水流路11とヒートポンプ介装の恒温水槽(図示せず)や冷却塔(図示せず)を循環し、可逆セル1の入り口で例えば60℃を維持するように運転される。
【0024】
再び図1に戻ってさらに説明すると、流路12の両端部には、流通口12a、12bが形成され、流路14の両端部には、流通口14a、14bが形成されている。
【0025】
次にこのような構成を有する可逆セル1のガス系統、排出系統等について説明する。図3に示したように、流通口12aには,流路31が接続され,流通口14aには,流路41が接続され,流通口14bには,流路51が接続され,流通口12bには,流路61が各々接続されている。各流路31、41、51、61、並びに後述のバイパス流路45、47はたとえばステンレス鋼の配管によって構成される。
【0026】
流路31には、水電解運転時の純水貯蔵タンクとなるタンク32を介して、流路33、34が接続されている。流路33、34には、各々弁33a、34aが設けられている。
【0027】
流路41には、水電解運転時の純水貯蔵タンクとなるタンク42を介して、流路43、44が接続されている。流路43、44には、各々弁43a、44aが設けられている。また流路41と流路43との間には、タンク42をバイパスするバイパス流路45が接続され、バイパス流路45には弁45aが設けられている。流路43の端部には、水電解運転から燃料電池運転への運転切替時に、パージガスでありまた酸化剤としても作用する空気を供給するブロア46が設けられている。
【0028】
流路51には、弁51aが設けられており、また流路51とタンク42との間には流路52が接続され、流路52には、ポンプ53及び弁52aが設けられている。ポンプ53は、水電解運転時にタンク42に貯蔵してある純水を可逆セル1に供給するものである。また流路41と流路51との間には、流路52とは別のバイパス流路47が接続され、バイパス流路47には弁47aが設けられている。
【0029】
流路61には、弁61aが設けられており、また流路61とタンク32との間には流路62が接続され、流路62には、ポンプ63及び弁62aが設けられている。ポンプ63は、水電解運転時にタンク32に貯蔵してある純水を可逆セル1に供給するものである。なお水電解運転時において、流路12内には、純水を供給する必要がないので、ポンプ63、弁62aは本来的には、設置しなくてもよいものであるが、万が一の場合の膜の乾燥防止、並びに発生水素を水で押し流すために、本実施の形態ではこれらポンプ63、弁62aが設けられている。特に万が一の場合の膜の乾燥防止についていえば、水電解運転時においては、燃料極側の水が十分ではない場合には、局所的に膜が乾燥して破損するおそれがある。かかる点に鑑み、水電解運転時においてもこれらポンプ63、弁62aを用いて燃料極側にも適宜水を供給しておくことで、そのような事態を未然に防止することができる。
【0030】
なお、本図では水素の供給源は明示していないが、水電解運転によって得られた水素を、高圧タンクや水素吸蔵合金に貯蔵したものや、化石燃料を改質したもの等の供給源を別途設置することができる。
【0031】
前記した各弁33a、34a、43a、44a、45a、47a、51a、52a、61a、62aは、いずれも制御装置71によって制御される。またこの制御装置71は、後述の規定時間の演算を実行する演算部(図示せず)を備え、さらに水電解運転時に可逆セル1に水の電気分解をするための電流を供給したり、燃料電池運転時に需要側に電力を供給する電源設備72をも制御する。
【0032】
次にこのような主たる構成を有する可逆セル1の運転方法について説明する。
(燃料電池運転時)
弁33a、43a、51a、61aは開放され、弁34a、44a、45a、47a、52a、62aは、閉鎖される。そして流路33へ燃料(水素ガス)を導入し、タンク32において加湿を行った後に流路31、流通口12aを通じて可逆セル1に導入する。また流路43へ酸化剤(酸素ガスまたは空気)を導入し、タンク42において加湿を行った後に流通口14aを通じて可逆セル1に導入する。これによって可逆セル1のセル内部基材では、発電反応が起こり、電極部4aから電源設備72を通じて電極部4bへと電子が流れ、電流が発生する。なお発電反応においては外部の負荷に応じた量のガスが消費され、余剰の燃料(水素ガス)は、流通口12b、流路61を介して排出され、余剰の酸化剤(酸素ガスまたは空気)は、流通口14b、流路51を介して排出される。図1における太矢印は、その場合の反応ガスの流れを示している。
【0033】
(水電解運転時)
弁33a、43a、51a、45a、47a、61aは閉鎖され、弁34a、44a、52a、62aは開放される。そしてタンク32に貯蔵した純水がポンプ63で吸込まれ、流路61、流通口12bを通じて可逆セル1内部に導入され、タンク42に貯蔵した純水がポンプ53で吸込まれ、流路51、流通口14bを通じて可逆セル1内部に導入される。一方、電源設備72からは、集電体5、6に与える電流が供給され(電子は集電体6→電源設備72→集電体5に流れる)、図1に示した流路14内の水は、電気分解され、供給された電流に応じた量の酸素と水素が発生する。
【0034】
そしてかかる水電解運転において発生した水素は、流通口12aを介して流路31からタンク32へと流れ、タンク32において気液分離処理を行なった後、流路34を通じて外部へと排出される。一方水電解運転において発生した酸素は、流通口14aを介して流路41からタンク42へと流れ、タンク42において気液分離処理を行なった後、流路44を通じて外部へと排出される。なおこれら気液分離処理を行なった後の、純水素、純酸素は、別途設ける燃料貯蔵設備、酸化剤貯蔵設備(いずれも図示せず)に貯蔵しておくことで、次の燃料電池運転時の燃料、酸化剤として各々用いることができる。
【0035】
そのような水電解装置運転から燃料電池運転に切り替える際には、図4に示したようなフローで切り替え運転が行なわれる。
【0036】
すなわち、水電解装置運転が終了すると(ステップP1)、まず弁33a、43a、51a、61aのみが開放され、他の弁は全て閉鎖される(ステップP2)。そして電源設備72の回路を遮断した状態で、可逆セル1に残留した水を排出するために、燃料(水素ガス)を流路31から流通口12aを通じて可逆セル1内に導入し、酸化剤または空気を流路41から流通口14aを通じて可逆セル1内に導入する(ステップP3)。すなわちこれらのガスによる圧力差で流路内の水を系外に押し出すことに排出する。この時間は、数秒程度であり、またその際の流量は、例えば特開2007−115588号公報に開示された方法を採用して決定してもよい。前記した排出が完了した後は、電源設備72の回路の遮断を解除する。
【0037】
次に弁33a、43aを閉鎖し、弁45aを開放し、ブロア46を起動して可逆セル1の内部基材の乾燥を、酸化剤極側のみから行う(ステップP4)。乾燥時間は、セル内部基材からパージガスに伝達した水分量が、あらかじめ求めておいた所定の値(=セル内部基材が燃料電池運転可能となる乾燥状態に達するまでの水分量)となる時間を制御装置71の演算部にて算出する。制御装置71の演算部(図示せず)では、あらかじめ求めておいたセル内部基材とブロア46によって供給される空気間の物質伝達率とそのときの乾燥条件から、セル内部の物質移動計算を行い、乾燥所要時間(規定の時間)を算出する(ステップP5)。
【0038】
そして前記乾燥所要時間の間乾燥したら(ステップP6)、弁45aを閉鎖し、弁33a、43aを開放することで、可逆セル1に反応ガス(燃料、酸化剤)を供給し(ステップP7)、燃料電池運転を開始する(ステップP8)。なお、燃料電池運転から水電解装置運転への切替時は、特開2006−127807号公報にも開示されているように、特段の制御は不要である。
【0039】
次に前記したステップP5における乾燥時間の算出について詳述する。まず集電体5、6と流路12、14をガス流れ方向にメッシュ分割し、各メッシュでの水蒸気移動量(=局所水蒸気移動量)mH2O(dif)[mol/s]を算出する。このときの濡れ面(集電体5、6の表面部)と空気(ドライガス)間の物質伝達率:hDH2O[m/s]は、流れの各種状態を考慮して実験的に求める。
【0040】
次に前記各メッシュの乾燥状態については、局所水蒸気移動量mH2O(dif)を乾燥時間で積分して、各時間における水蒸気移動総量を求める。その値を、切替初期に集電体5、6が保有する残留水量:mH2ORI[mol]から差引くことでその時点での残留水量を求める。ここでmH2ORIは集電体5、6が保有可能な最大の値とし、この値はあらかじめ実験的に測定可能である。
【0041】
また可逆セル1の乾燥状態については、局所水蒸気移動量mH2O(dif)を空気の流れ方向で積分して、全水蒸気移動量MH2O(dif)[mol/s]を求める。その値を乾燥時間で積分して、集電体5、6が保有する全残留水量:MH2ORI[mol]から差引くことでその時点での残留水量を求める。なお、各値の算出には下記に示した式(1)〜(5)を用いた。ここでcSH2O[mol/m]は集電体5、6表面の水蒸気濃度、cCH2O[mol/m]は流路12、14の水蒸気濃度とする。
【0042】
【数1】

【0043】
以上の計算により、MH2ORが0となる時間(=規定の時間)まで酸化剤極側(流路14)への空気の供給を行えば、集電体5、6内部の残留水は完全に排水され、反応ガス(燃料、酸化剤)の流路から反応場までの拡散ルート、すなわち集電体5、6を横切ってMEA4側に向かうルートが確保され、燃料電池運転が可能となる。なお、この方法は、あらかじめ濡れ面(集電体5、6表面)と、供給する空気間の物質伝達率、及び集電体5、6が保有可能な最大の値を求めておくことにより、可逆セル1の内部基材の形状や基材仕様が変化した場合にも適用可能である。
【0044】
以上の例では、ブロア46によって供給する空気の供給方向が、図1に即していえば、流通口14aから流通口14bへと向かう方向であったが、一方向のみから空気を供給して乾燥を行うと、上流側(流通口14aに近い側)は乾燥しているにもかかわらず下流側(流通口14bに近い側)はまだ乾燥していないという状態が発生するおそれがある。そしてそのまま空気の供給を行なうと、上流側のMEA、特に高分子膜であるイオン交換膜4cが過度に乾燥して、ダメージを受けるおそれがある。
【0045】
かかる事態を未然に防止するために、たとえば弁47a、44aを開放して、その他の弁は閉鎖して、ブロア46によって供給する空気を、流通口14bの側から可逆セル1内の流路14に供給して、空気の供給方向を逆転させるようにしてもよい。それによって、最も乾燥させたい部分での水分伝達量が最大となるばかりでなく、空気の流れ方向で当該空気の水分量が増加していくため、逆転後は下流側(流通口14aに近い側)において、MEA4を適度に加湿してこれを保護することができ、その結果、セル内部基材全面を均一に乾燥させることができる。
【0046】
また前記した図4に示したフローでは、制御装置71の演算部で算出した規定の時間の間空気を供給するようにしていたが、当該規定の時間の途中で燃料極側の反応ガス流路となる流路12には低加湿または無加湿燃料ガスを供給して、定格よりも低い低負荷燃料電池運転を行なうようにしてもよい。これによって、初期の際には低負荷運転であるものの、次第に通常の定格運転を実施することができ、発電を伴わない乾燥運転の時間を短縮して、結果的に全体として効率のよい燃料電池運転を実施することができる。
【0047】
また前記した例では、供給された空気に伝達されるセル内部基材からの水蒸気移動量を予め計算によって求め、その結果に基づいてセル内部基材の残留水分量が所定の値に達するまでの乾燥時間を算出していたが、可逆セル1の開回路電圧を測定し、その測定結果が所定値に達するまで前記空気の供給を行なうようにしてもよい。開回路電圧の測定は、触媒の劣化を判断する際に使用されている公知のものを用いることができる。
【0048】
ところで、水電解装置運転から燃料電池運転に切り替えるための上記したような空気の供給によるセル内部基材の乾燥時間、すなわち切替所要時間は、集電体5、6が保有している水を系外に排出するまでの時間に依存する。したがって、このような切替時間をより短縮するためには、以下の方法が効果的である。
【0049】
まず集電体5、6の厚みを薄くすることで集電体5、6が保有できる水量を低減させ、排出する絶対量を減らす。MEA4や集電体5、6の膜厚を薄くすることで燃料極側から酸化剤極側への水の拡散速度を速めることができる。図5に同一電極面積の可逆セルにおいて、集電体5、6の厚みを変えたときの乾燥所要時間の違いを示す。
【0050】
また流路12、14の断面積を小さくしてガスの流速を早めたり、流路12、14のリブ部(セパレータ7が集電体5、6を押さえつける部分)を最小化して、空気と直接接触する濡れ部分の面積(集電体表面積)を増やすことで、空気に伝達する水分量を最大化する。図5に同一電極面積の可逆セルにおいて、空気と集電体5、6との接触面積を変えたときの乾燥所要時間の違いを示す。
【0051】
また集電体5、6に対して、超親水加工して基材の表面張力を低下させることで、集電体5、6自体の保水能力を低下させ水の自重による残留水の排水効果を高める。このとき、集電体5、6に例えばチタンやカーボンの繊維からなる緻密多孔質体を用いる場合には、集電体5、6自体の空隙率を高めるなどの方法により集電体内部鉛直方向の排水流路を確保することで、排水効果をさらに高めることができる。好ましくは、集電体5、6の空隙率が、75%以上であることがよい。またチタン板に微細穴加工による微小な貫通孔を形成したものを集電体5、6の材質に使用する場合には、開口率は50%以上がよい。このように自重による自然排水の効果割合を高めることで、物質伝達で排出する水分量を飛躍的に減少することができる。その結果、切替所要時間の大幅な短縮、ブロア46の送風動力等の切替所要動力の低減につながる。
【0052】
さらに、流路12、14を形成するセパレータ表面も超親水加工することで、切替初期の流路部の残留水を排出するためのパージが不要となり、さらに切替所要時間の短縮化を図ることができる。なお、自重による排水効果を最大限に活用するためには、排水ルートである流路12、14は鉛直下向きで一方向のパラレルフローとし、供給する空気の供給方向も鉛直した向きに流すことが最良である。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、固体高分子形の水電解装置と燃料電池のセルを一体化した可逆セルにおいて、水電解運転から燃料電池運転への運転を切り替える際に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】実施の形態で用いた可逆セルの縦断面構成を模式的に示した説明図である。
【図2】図1の可逆セルの水平断面構成を模式的に示した説明図である。
【図3】図1の可逆セルの系統を模式的に示した説明図である。
【図4】実施の形態の切替運転のフローチャートである。
【図5】従来よりも集電体の厚みを薄くし、接触面積を多くした場合の、乾燥所要時間を示すグラフである。
【符号の説明】
【0055】
1 可逆セル
2、3 給・集電板
4 MEA
4a、4b 電極部
4c イオン交換膜
5、6 集電体
7 セパレータ
11,13 冷却水流路
12,14 流路(可逆セル内)
12a,12b,14a,14b 流通口
31、41、51、61 流路(可逆セル外)
32、42 タンク
33a、34a、43a、44a、45a、47a、51a、52a、61a、62a 弁
53、63 ポンプ
71 制御装置
72 電源設備

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子形の水電解装置と燃料電池とを一体化して、水電解装置運転と燃料電池運転との運転モードの切り替え可能な可逆セルを、水電解装置運転から燃料電池運転へと運転モードを切り替える方法において、
水電解装置運転の終了後、燃料電池運転を行う前に、可逆セル内部の反応ガス流路に気体を供給して、流路内に残留した電解水をセル内部から排出し、
その後、燃料電池運転時に酸化剤極となる側の反応ガス流路にのみ空気を供給し、セル内部基材を乾燥させることを特徴とする、可逆セルの運転切り替え方法。
【請求項2】
空気を供給し、セル内部基材を乾燥させるにあたっては、乾燥途中で反応ガス流路に供給する空気の供給方向を逆転することを特徴とする、請求項1に記載の可逆セルの運転切り替え方法。
【請求項3】
供給された空気に伝達されるセル内部基材からの水蒸気移動量を予め計算によって求め、その結果に基づいてセル内部基材の残留水分量が所定の値に達するまで前記空気の供給を行なうことを特徴とする、請求項1または2に記載の可逆セルの運転切り替え方法。
【請求項4】
供給された空気に伝達されるセル内部基材からの水蒸気移動量を予め計算によって求め、その結果に基づいてセル内部基材の残留水分量が所定の値に達する時点より前の段階で、燃料極側の反応ガス流路には燃料ガスを供給して、定格よりも低い低負荷燃料電池運転を行なう事を特徴とする、請求項1または2に記載の可逆セルの運転切り替え方法。
【請求項5】
可逆セルの開回路電圧を測定し、その結果が所定値に達するまで前記空気の供給を行なうことを特徴とする、請求項1または2に記載の可逆セルの運転切り替え方法。
【請求項6】
酸化剤極となる側の反応ガス流路に供給した空気を、可逆セルから排出された後、減湿して、酸化剤極となる側の反応ガス流路に供給する空気として用いることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の可逆セルの運転切り替え方法。
【請求項7】
可逆セル中の集電体には親水処理が行なわれていることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の可逆セルの運転切り替え方法。
【請求項8】
可逆セル中の反応ガス流路を形成するセパレータの表面は、親水処理が行なわれていることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の可逆セルの運転切り替え方法。
【請求項9】
セル内部基材における集電体が多孔質体によって構成され、その空隙率が、75%以上であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の可逆セルの運転切り替え方法。
【請求項10】
セル内部基材における集電体が多孔板によって構成され、その開口率が、50%以上であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の可逆セルの運転切り替え方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−153218(P2010−153218A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−330471(P2008−330471)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成19・20年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構エネルギー使用合理化技術戦略的開発委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000169499)高砂熱学工業株式会社 (287)
【出願人】(000101374)アタカ大機株式会社 (55)
【Fターム(参考)】