説明

可逆回転型バルブレスポンプ

【課題】 構造が簡単で、流体を定量移送することができ、且つ、流体の移送方向を容易に変更させることの可能な可逆回転型バルブレスポンプを提供する。
【解決手段】 シリンダ3と、シリンダ3内に嵌挿されて、シリンダ3のシリンダヘッド32との間で流体が流入される容積可変チャンバ5を区画するピストン7と、チャンバ5の周回りに互いに離間配置された二つの流体出入口50,52と、シリンダ3の後端側に配置されてピストン7を正転又は逆転させる駆動源9と、駆動源9に連結されてピストン7の回転及び往復動を許容するようにピストン7を保持するクランク機構11と、シリンダ3内に配置されて、ピストン7の往復動を促進させる協働機構15a,15bとを備え、ピストン7の先端面をシリンダの中心軸Lに対して傾斜した傾斜面7cとして構成することにより、ピストン7が回転しつつ往復動した時に、ピストン7の回転方向に応じて流体出入口50,52の一方を開閉成させると共に流体出入口50,52の他方を閉開成させるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、人工透析、バイオテクノロジー或いは燃料電池等の分野において用いられ、流体の定量吸引及び定量排出を可能とするピストン式ポンプの改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ピストン式流体ポンプとしては、流体が流入するシリンダのチャンバ内に吸引口と排出口とを設け、吸引口にシリンダの後退動によって吸引口を開成させるよう駆動する負圧リリーフ弁を設けると共に、排出口にシリンダの前進動によって排出口を開成させるよう駆動する正圧リリーフ弁を設けたものが知られている。
【0003】
このようなピストン式流体ポンプは、シリンダのチャンバ内の内圧をピストンの往復動によって負圧或いは正圧に変化させることにより負圧リリーフ弁或いは正圧リリーフ弁を開閉成させて流体を吸引及び排出させるものであるため、流体を定量に吸引及び排出させることができる。
【0004】
然しながら、このピストン式流体ポンプでは、チャンバ内の内圧の変化によって駆動する弁を設けるものであるため、構造が複雑となるばかりでなく、チャンバ内の内圧変化による弁の多数回に亘る駆動により弁が故障してしまうという虞があった。
【0005】
そこで、従来、弁を有しない、いわゆるバルブレスポンプが提案されている。バルブレスポンプとしては、例えば、下掲した特許文献1に記載のものを挙げることができる。
【0006】
このバルブレスポンプは、流体吸入ポートと流体排出ポートとを有するシリンダと、そのシリンダ内に嵌挿されて、外周面に切欠き部を有するピストンとを有している。ピストンは、回転及び往復動可能に回転ブロックを介してモータに連結されている。ピストンが回転されつつ往復動すると、ピストンの切欠き部が各ポートに対して偏向され、定量の流体が、吸入ポートを介して流入室内に流入し、また、排出ポートを介して排出されるよう構成されている。
【0007】
ところで、近年、バイオテクノロジー,医療,製薬及び燃料電池等の分野において、流体移送方向を切り換え可能なポンプの必要性が高まってきている。特にバイオテクノロジーや製薬の分野においては、数ミクロンの径を有するマイクロ回路を複数集合又は分岐させ、複数種の液体を流量制御させながら、複数のマイクロ回路へ移送して、マイクロ回路中で混合させた後に、液体を供給源方向へ逆移送することの可能な小型ポンプの必要性が高まっている。
【0008】
然しながら、特許文献1に記載のポンプを含めた従来のポンプでは、上述の如き社会的要請に応えることができない。
【0009】
特許文献1に開示されたバルブレスポンプでは、流体排出ポートと流体吸入ポートとが特定されていて、ピストンの上死点位置と下死点位置とがシリンダの180°反対側になるように構成されていると共に、流体排出ポートと流体吸入ポートとが、夫々、ピストンの上死点位置に相当する位置とピストンの下死点位置に相当する位置に設けられている。そのため、吸引ポートと排出ポートとを逆転させることができず、流体の移送方向を変更させることができなかった。
【特許文献1】特開平11−132140
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述の如き社会的要請に鑑みて、簡単な構造で、流体を定量移送することができ、且つ、流体の移送方向を容易に変更させることの可能な可逆回転型バルブレスポンプを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、シリンダと、シリンダ内に嵌挿されて、シリンダのシリンダヘッドとの間で流体が流入される容積可変チャンバを区画するピストンと、チャンバの周回りに互いに離間配置された二つの流体出入口と、シリンダの後端側に配置されて前記ピストンを正回転又は逆回転させる駆動源と、駆動源に連結されてピストンの回転及び往復動を許容するようにピストンを保持するクランク機構と、シリンダ内に配置されて、ピストンの往復動を促進させる協働機構とを有する可逆回転型バルブレスポンプにおいて、ピストンの先端面を、シリンダの中心軸に対して傾斜した傾斜面として構成することにより、ピストンが回転しつつ往復動した時に、ピストンの回転方向に応じて流体出入口の一方を開閉成させると共に流体出入口の他方を閉開成させることができるように構成したことを特徴とする。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の構成に加えて、ピストンが上死点に達した時に、ピストンの傾斜面が全面でシリンダヘッドの頂部内面と対接することができるように、シリンダヘッドの頂部内面が、シリンダの中心軸に対して傾斜した傾斜面として構成されていることを特徴とする。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の構成に加えて、協働機構が、シリンダの内周面とピストンの外周面との何れか一方にシリンダの中心軸に対して傾斜するよう形成された環状カム溝と、シリンダの内周面とピストンの外周面との何れか他方に設けられて、環状カム溝内にスライド自在に嵌合されたカム突起とを有することを特徴とする。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3の何れかに記載の構成に加えて、ピストンが、その後端部外周の対向した部位に夫々ピストンの長手方向へ沿って直線状に延びた直線状溝を有し、クランク機構が、駆動源に連結された基部と、その基部より互いに並行に前方へ延在した一対の挟持片とを有し、それら挟持片間にピストンの後端部を配置して、ピストンの中心軸に対して交差する方向より一対の挟持片に夫々スタイラスを貫通させて、直線状溝内にスライド自在に係合させたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載の発明に依れば、シリンダヘッドとピストンとの間に区画される容積可変チャンバに二つの流体出入口を設けると共に、ピストンの先端面をシリンダの中心軸に対して傾斜した傾斜面として構成することにより、ピストンが回転しつつ往復動した時に、ピストンの回転方向に応じて二つの流体出入口の一方を開閉成させると共に二つの流体出入口の他方を閉開成させることができるようにしたので、流体の移送方向を簡単に変更することができるばかりでなく、負圧リリーフバルブ及び正圧リリーフバルブを必要としない簡単な構造に構成することができ、その分ポンプの小型化を図ることができる。
【0016】
請求項2に記載の発明に依れば、ピストンが上死点に達した時に、ピストンの傾斜面が全面でシリンダヘッドの頂部内面と対接することができるように、シリンダヘッドの頂部内面が、シリンダの中心軸に対して傾斜した傾斜面として構成されているので、ピストンが上死点に達した時に、チャンバ内に流体を残留させることなくチャンバより排出させることができる。
【0017】
請求項3に記載の発明に依れば、協働機構を、シリンダの内周面とピストンの外周面との何れか一方にシリンダの中心軸に対して傾斜するよう形成した環状カム溝と、シリンダの内周面とピストンの外周面との何れか他方に設けられて、環状カム溝内にスライド自在に嵌合されたカム突起とにより構成したので、極めて簡単な構造で、ピストンを円滑に往復動させることができる。
【0018】
請求項4に記載の発明に依れば、ピストンの後端部外周の対向した部位に夫々ピストンの長手方向へ沿って直線状に延びた直線状溝を形成し、クランク機構を、駆動源に連結された基部と、その基部より互いに並行に前方へ延在した一対の挟持片とにより構成し、それら挟持片間にピストンの後端部を配置して、ピストンの中心軸に対して交差する方向より一対の挟持片に夫々スタイラスを貫通させて、直線状溝内にスライド自在に係合させたので、極めて簡単な構成で、ピストンの回転及び往復動を許容するようにピストンを保持することの可能なクランク機構が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の最良の形態に係る可逆回転型バルブレスポンプについて、添付図面を参照して説明する。
【0020】
本発明に係る可逆回転型バルブレスポンプ1は、図1乃至図6に示したように、シリンダ3と、シリンダ3内に嵌挿されて、シリンダ3の先端部内面との間で容積可変チャンバ5を区画するピストン7と、シリンダ3の後端側に配置された可逆モータ9とを有している。可逆モータ9とピストン7とは、クランク機構11を介して互いに連結されている。
【0021】
シリンダ3は、円筒状のハウジング部30とハウジング部30の前端部に取り外し自在に連結されたシリンダヘッド32とにより構成されている。シリンダヘッド32は、円筒状ハウジング部30の外径と略同一の外径を有する円筒状部32aと、その円筒状部32aより後方へ突出した連結部32bとにより構成されている。シリンダヘッド32の連結部32bは、ハウジング部30の内径より僅かに小さい外径を有している。シリンダヘッド32の連結部32bをハウジング部30の前端部内に嵌挿させて、ハウジング部30の側周部を貫通したネジ34を締め付けることにより、ハウジング部30とシリンダヘッド32とが一体に連結されてシリンダ3が構成されている。このように、シリンダ3を、互いに別体のものとして形成したハウジング部30とシリンダヘッド32とを取り外し自在に連結させて一体のシリンダ3として構成すれば、シリンダヘッド32をハウジング30より取り外して、シリンダヘッド32及びハウジング30並びにピストン7を簡単に洗浄することができるようになる。尚、ハウジング部30とシリンダヘッド32とを一体のものとして成形してもよい。
【0022】
シリンダヘッド32の先端部は閉塞されていて、シリンダヘッド32とシリンダ3内に嵌挿されたピストン7の先端部とにより、流体が吸入されるチャンバ5が区画形成されている。図2に示したように、このチャンバ5の周回りには、周回り方向で所定角を持って互いに離間配置された二つの流体出入口50,52が設けられている。これら流体出入口50,52内には、所定の流体移送管が連結されるようになっているジョイント50a,52aが夫々螺挿されている。図示実施形態においては、二つの流体出入口50,52は、チャンバ5の周回りで互いに略90°の間隔を置いて設けられている。
【0023】
図1及び図5に示したように、シリンダヘッド32の頂部の内側面は、シリンダの中心軸Lに対して所定角度を持って傾斜した内部傾斜面32cを構成している。
【0024】
ピストン7は、可逆モータ9によって回転可能で、その回転に伴って往復動可能にクランク機構11によって保持されている。より詳述すると、図4に示したように、クランク機構11は、可逆モータ9の回転軸9aに連結された基部11aと、その基部11aより互いに並行に前方へ延在した一対の挟持片11b,11bとを有している。これに関連して、図4及び図6に示したように、ピストン7の後端部外周の互いに対向した部位には、ピストン7の長手方向に沿って直線状に延びた直線溝7a,7aが形成されている。ピストン7の後端部をクランク機構11の一対の挟持片11b,11b間に遊挿させて、ピストン7の中心軸に対して交差する方向より挟持片11b,11bを貫通したスタイラス14,14をピストン7の直線溝7a,7a内に相対移動可能に係合させることにより、ピストン7は、可逆モータ9によって回転させられると共に、スタイラス14,14にガイドされつつ往復動可能にクランク機構11によって保持されている。
【0025】
本発明に係る可逆回転型バルブレスポンプ1は、ピストン7の往復動を促進させるための協働機構を更に有している。この協働機構は、ピストン7の長手方向の略中央部位の外周面にシリンダの中心軸Lに対して傾斜した環状カム溝15aと、シリンダヘッド32の連結部32bより内方へ突出して環状カム溝15a内に遊嵌されたカム突起15bとを有している。シリンダヘッド32に設けられたカム突起15bをピストン7に形成された環状カム溝15aに遊嵌させることによるカム突起15bと環状カム溝15aとの係合により、ピストン7はカム突起15bに案内されつつ円滑に往復動することができる。環状カム溝15aが、シリンダの中心軸Lに対して傾斜して形成され且つ連続した環状溝となっているため、可逆モータ9によるピストン7の回転動をピストン7の往復動へ変換させることができる。ピストン7のその往復動の過程で、傾斜した環状カム溝15aの最後部がカム突起15bと係合した時に、前進動から後退動へと切り換えられる。
【0026】
尚、図示実施形態においては、協働機構の環状カム溝15aをピストン7に設け、協働機構のカム突起15bをシリンダ3に設けたが、それと逆にカム突起をピストン7の外周面に設け、環状カム溝をシリンダ3の内周面に設けるようにしてもよい。
【0027】
ピストン7の外周面には、更に環状溝が設けられていて、その環状溝内には、流体の漏れを防止するために、オーリング等の環状パッキング17が嵌着されている。また、図1及び図5に示したように、ピストン7の先端面は、シリンダの中心軸Lに対して所定の角度を持って傾斜した傾斜面7cを構成している。このようにピストン7の先端面が傾斜面7cを構成していることから、ピストン7が回転しつつ往復動した時に、チャンバ5に設けられた一対の流体出入口50,52の一方が開成される反面、流体出入口50,52の他方がピストン7の周面で閉成されるようになる。シリンダの中心軸Lに対するピストン7の傾斜面7cの傾斜角度は、チャンバ5の周回りに所定角度を持って離間配置された一対の流体出入口50,52との位置関係で適宜選択することができるが、60°〜90°未満の範囲であるのが好ましく、60°程度に形成するのが最も好ましい。
【0028】
尚、シリンダヘッド32の内部傾斜面32cは、ピストン7が上死点に位置した時に、ピストン7の傾斜面7cがシリンダヘッド32の内部傾斜面32cと全面で対接するような角度を持って傾斜している。このように構成した場合には、チャンバ5内に流体を残留させることなく、流体出入口50,52の開成された一方を介して流体を排出させることができるようになる。
【0029】
上述した如く構成した本発明に係る可逆回転型バルブレスポンプ1においては、ピストン7の先端面が所定角度を持ってシリンダの中心軸Lに対して傾斜した傾斜面7cを構成しているので、ピストン7が回転しつつ往復動することにより、チャンバ5に形成された一対の流体出入口50,52が交互に択一的に開閉成される。より詳述すると、ピストン7の180°回転過程において、流体出入口50,52の一方が開成され、他方がピストン7の周面によって閉成される。更に、ピストン7が360°まで回転する過程において、流体出入口50,52の一方がピストン7の周面により閉成され、他方が開成される。このようにして、ピストン7の一回転の過程において、流体出入口50,52が交互に開成及び閉成される。これにより、チャンバ5内への定量の流体の吸入と排出とが、ピストン7の一回転の過程で交互に実施される。また、ピストン7を逆回転させることにより、流体出入口50,52の内の流体吸入側として利用した流体出入口を流体排出口とし、流体出入口50,52の内の流体排出側として利用した流体出入口を流体吸入口として利用することができ、それにより流体の移送方向を切り換えることができるようになる。
【0030】
ここで、図7〜図10を参照しながら、本発明に係る可逆回転型バルブレスポンプの動作について更に詳しく説明する。尚、ピストン7の回転状態を明瞭に把握することができるようにするべく、ピストン7の傾斜面7cの頂点を図7〜図10中にドットで表示した。
【0031】
図7(a)は、ピストン7の傾斜面7cが全面でシリンダヘッド32の頂部の内部傾斜面32cと対接している状態、即ち、ピストン7が上死点に位置している状態を示した図である。図7(b)は、図7(a)に示した状態にあるポンプのD−D線端面図である。図7(a)及び(b)に示した状態では、流体出入口50,52は、ピストン7の周面によって閉成されている。この状態で、ピストン7が後退動する方向(図7(b)中に矢印で示した反時計方向)へ可逆モータ9によって回転されると、ピストン7が90°回転するまでの過程では、図7(c)〜(e)に示したように、流体出入口50,52の内の一方50が開成されると共に、チャンバ5が徐々に形成されて、そのチャンバ5内で発生する負圧によって流体が流体出入口の開成された一方50を介してチャンバ5内に流入するようになる。
【0032】
図8(a)は、ピストン7が90°回転して後退動し、ピストン7の傾斜面7cとシリンダヘッド32との間に略半分の容積を有するチャンバ5が形成された状態を示した図である。図8(b)は、図8(a)に示した状態にあるポンプのE−E線端面図である。ピストン7が180°回転するまでの過程においては、図8(c)〜(e)に示したようにチャンバ5の容積が更に増大しつつ流体が流体出入口50,52の内の開成された一方50を介してチャンバ5内に更に流入するようになる。
【0033】
図9(a)は、ピストン7が180°回転した状態、即ち、ピストン7が下死点に達した状態を示した図である。図9(b)は、図9(a)に示した状態にあるポンプのF−F線端面図である。この状態においては、ピストン7の傾斜面7cとシリンダヘッド32との間のチャンバ容積が最大限に増大して、チャンバ内への流体の吸引動作が完了する。ピストン7が180°回転した際に、図9(b)に示したように、流体出入口50,52の双方が開成されるが、流体出入口50,52の双方のこの開成は瞬時になされ、しかも、その瞬間ではチャンバ5内の負圧が外圧より大きいため、チャンバ5内に流入した流体が流体出入口50,52より流出することがない。ピストン7が270°回転する過程において、ピストン7は上死点方向へ移動し、図9(c)〜(e)に示したように、今まで開成されていた流体出入口50が閉成されると共に、チャンバ5の容積が徐々に減少して、そのチャンバ5内で発生する正圧によって流体が他方の流体出入口52を介してチャンバ5外へ排出されるようになる。
【0034】
図10(a)は、ピストン7が270°回転して、チャンバの容積が略半分に減少した状態を示した図である。図10(b)は、図10(a)に示した状態にあるポンプのG−G線端面図である。ピストン7が360°回転するまでの過程においては、図10(c)〜(e)に示したようにチャンバ5の容積が更に減少しつつ流体が流体出入口52を介してチャンバ5外へ更に排出されるようになる。そして、ピストン7が360°回転した時に、ピストン7の傾斜面7cが全面でシリンダヘッド32の内部傾斜面32cと対接し、チャンバの容積が完全になくなる。その結果、チャンバ5内の流体が流体出入口52を介してチャンバ5外へ全て排出されて、図7(a)及び(b)に示された状態へ復帰する。こうして、ピストン7の360°の一回転で、流体の吸入と排出とが行われる。
【0035】
尚、図7(a)及び(b)に示された状態で、ピストン7が上述した方向と逆方向、即ち、時計方向へ180°回転すると、ピストン7が反時計方向へ回転した上述の場合とは異なって、流体出入口50,52の内の他方52が先ず開成されると共に、ピストン7を反時計方向へ回転させた場合に流体吸入口として利用された流体出入口52が閉成されたままとなる。流体出入口52の開成によって、流体出入口52を介して流体がチャンバ5内に流入するようになる。その後、ピストン7が180°から360°まで回転する過程において、流体出入口50が開成されると共に流体出入口52が閉成されて、チャンバ5内に流入された流体が流体出入口50を介してチャンバ5外へ排出されるようになる。
【0036】
このようにして、ピストン7の回転方向を適宜変更させることにより、流体を流体出入口50,52の双方から定量吸入或いは定量排出させて、流体の移送方向を変更させることができる。
【0037】
尚、上述した如く、チャンバ5の周回りに形成した二つの流体出入口50と52との間隔をチャンバ5の周回りで略90°に設定したが、流体出入口50と52との間隔を略90°より大きくすると、ピストン7が上死点及び下死点に達した時の流体出入口50,52の開成時間が長くなって、ポンプとして機能しなくなる。また、略90°より小さくすると、流体の吸入及び排出が完了しない時点で、流体出入口50,52が開成してしまうこととなるため、同様にポンプとして機能しなくなる。更に、ピストン7の傾斜面7cの傾斜角について、上述した如く、シリンダ3の中心軸Lに対して略60°〜90°未満の範囲としたが、この傾斜角を60°未満にすると、流体の吸入及び排出が完了しない時点で、流体出入口50,52が開成してしまうこととなるため、同様にポンプとして機能しなくなる。
【0038】
このように、流体出入口50と52との離間角度及びピストン7の傾斜面7cの傾斜角を、上述した所定角にすることにより、ピストン7が上死点及び下死点に達するまでは流体出入口50,52が開成することなく、しかも、ピストン7が上死点及び下死点に達した時の流体出入口50,52の開成が瞬時に行われるようになる。尚、上述した如く、ピストン7の傾斜面7cの傾斜角は、シリンダ3の中心軸に対して60°程度にするのが最も好ましいが、ピストン7の傾斜面7cの傾斜角を60°程度にすると、チャンバ5の容積を最大限に確保することができ、流体の大量移送を可能にすることができる。
【0039】
本明細書中で用いた用語及び表現は、本発明を説明するために便宜上用いたに過ぎないものであって、本発明の内容を何ら制限するものではない。そのような用語及び表現を用いたからと言って、そのことに、本発明の上述した実施形態と均等なもの或いはその一部を排除する意図はない。権利が請求されている発明の範囲内で種々変更を加えることができることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施形態に係る可逆回転型バルブレスポンプの正面図である。
【図2】図1に示した可逆回転型バルブレスポンプの左側面図である。
【図3】図1に示した可逆回転型バルブレスポンプの平面図である。
【図4】図1のA−A線縦断面図である。
【図5】図3のB−B線縦断面図である。
【図6】図4のC−C線端面図である。
【図7】(a)は図1に示した流体ポンプのピストンが上死点位置にある状態を示した縦断面図で、(b)は図7(a)のD−D線端面図で、(b)〜(e)は、ピストンが90°回転するまでの過程を説明するための端面図である。
【図8】(a)は図7に示したピストンが90°回転した状態を示した縦断面図で、(b)は図8(a)のE−E線端面図で、(b)〜(e)は、ピストンが180°回転するまでの過程を説明するための端面図である。
【図9】(a)は図7に示したピストンが180°回転した状態を示した縦断面図で、(b)は図9(a)のF−F線端面図で、(b)〜(e)は、ピストンが270°回転するまでの過程を説明するための端面図である。
【図10】(a)は図7に示したピストンが270°回転した状態を示した縦断面図で、(b)は図9(a)のG−G線端面図で、(b)〜(e)は、ピストンが360°回転するまでの過程を説明するための端面図である。
【符号の説明】
【0041】
1 可逆回転型バルブレスポンプ
3 シリンダ
5 容積可変チャンバ
7 ピストン
7c ピストンの傾斜面
9 可逆モータ
11 クランク機構
L シリンダの中心軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダと、
前記シリンダ内に嵌挿されて、前記シリンダのシリンダヘッドとの間で流体が流入される容積可変チャンバを区画するピストンと、
前記チャンバの周回りに互いに離間配置された二つの流体出入口と、
前記シリンダの後端側に配置されて前記ピストンを正回転又は逆回転させる駆動源と、
前記駆動源に連結されて前記ピストンの回転及び往復動を許容するように前記ピストンを保持するクランク機構と、
前記シリンダ内に配置されて、前記ピストンの往復動を促進させる協働機構とを有し、
前記ピストンの先端面を、前記シリンダの中心軸に対して傾斜した傾斜面として構成することにより、前記ピストンが回転しつつ往復動した時に、前記ピストンの回転方向に応じて前記二つの流体出入口の一方を開閉成させると共に前記二つの流体出入口の他方を閉開成させることができるようにしたことを特徴とする可逆回転型バルブレスポンプ。
【請求項2】
前記ピストンが上死点に達した時に、前記ピストンの前記傾斜面が全面で前記シリンダヘッドの頂部内面と対接することができるように、前記シリンダヘッドの前記頂部内面が、前記シリンダの前記中心軸に対して傾斜した傾斜面として構成されていることを特徴とする、請求項1に記載の可逆回転型バルブレスポンプ。
【請求項3】
前記協働機構が、前記シリンダの内周面と前記ピストンの外周面との何れか一方に前記シリンダの前記中心軸に対して傾斜するよう形成された環状カム溝と、前記シリンダの内周面と前記ピストンの外周面との何れか他方に設けられて、前記環状カム溝内にスライド自在に嵌合されたカム突起とを有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の可逆回転型バルブレスポンプ。
【請求項4】
前記ピストンが、その後端部外周の対向した部位に夫々前記ピストンの長手方向へ沿って直線状に延びた直線状溝を有し、前記クランク機構が、前記駆動源に連結された基部と、その基部より互いに並行に前方へ延在した一対の挟持片とを有し、それら挟持片間に前記ピストンの前記後端部を配置して、前記ピストンの中心軸に対して交差する方向より前記一対の挟持片に夫々スタイラスを貫通させて、前記直線状溝内に相対移動可能に係合させたことを特徴とする、請求項1〜3の何れかに記載の可逆回転型バルブレスポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−63850(P2006−63850A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−245826(P2004−245826)
【出願日】平成16年8月25日(2004.8.25)
【出願人】(000240477)並木精密宝石株式会社 (210)
【Fターム(参考)】