説明

可食性インキ組成物

【課題】本発明は、組成物全体の構成を大きく変えることなく、流動性のコントロールが容易であり、それにより、印刷時のムラやハジキを防止できる可食性インキ組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】カルボキシル基を有する可食性インキバインダー用ポリエステル化合物(A)15〜30重量%と、可食性着色材(B)5〜20重量%と、可食性溶剤(C)30〜65重量%とを含んでなる可食性インキ組成物であって、
さらに、塩基性化合物(D)を含み、かつ、
前記塩基性化合物(D)が、前記ポリエステル化合物(A)のカルボキシル基全体に対して、50〜150モル%含まれてなることを特徴とする可食性インキ組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可食性インキ組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷インキは、印刷条件や被印刷体に応じた流動性を持つようにコントロールされることが理想である。しかし、可食性あるいは食用のインキに於いては素材が限られてしまうため、このようなコントロールをすることが容易ではなかった。
【0003】
例えば特許文献1には、グリセリン脂肪酸エステル、天然多糖類、乳化剤、食用色素、食用乾性油、水からなる可食性インキが開示されている。ここでは、天然多糖類や食用乾性油がバインダーの役割を果たす。
【0004】
特許文献2には、食用色素及び可食性安定剤を含有するインクジェット用可食性インキが開示されており、実施例には樹脂としてアラビアガムを用いる方法が示されている。
【0005】
何れの場合も、たまたまその印刷条件に合致することができたが、流動性のコントロールには、限界があり、流動性のコントロールできるインキ組成物が要求されていた。
【0006】
また、可食性インキに塩基性化合物が用いられた例はこれまでに無かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−320528公報
【特許文献2】特開平9−302294公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、組成物全体の構成を大きく変えることなく、流動性のコントロールが容易であり、それにより、印刷時のムラやハジキを防止できる可食性インキ組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、化学構造と粘弾性特性との関係は、鋭意検討した結果見出された。
すなわち、本発明は、カルボキシル基を有する可食性インキバインダー用ポリエステル化合物(A)15〜30重量%と、可食性着色材(B)5〜20重量%と、可食性溶剤(C)30〜65重量%とを含んでなる可食性インキ組成物であって、
さらに、塩基性化合物(D)を含み、かつ、
前記塩基性化合物(D)が、前記ポリエステル化合物(A)のカルボキシル基全体に対して、50〜150モル%含まれてなることを特徴とする可食性インキ組成物に関する。
【0010】
また、本発明は、塩基性化合物(D)が、アンモニア、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、及び、クエン酸一カリウムからなる群より選ばれた1種類、または2種類以上であることを特徴とする上記可食性インキ組成物に関する。
【0011】
また、本発明は、ポリエステル化合物(A)が、ヒドロキシ脂肪酸(ただし、テルペン酸を除く)とテルペン酸との共重合体であることを特徴とする上記可食性インキ組成物に関する。
【0012】
また、本発明は、テルペン酸が、シェロール酸、ジャラール酸、エピシェロール酸、ラクショリック酸、エピラクショリック酸、ラクシシェロック酸、エピラクシシェロック酸、及びラクシジャラール酸からなる群より選ばれた1種類、または2種類以上を含む混合物であり、かつ、
ヒドロキシ酸が、アレウリチン酸及び/又はアレウリチン酸を含むことを特徴とする上記可食性インキ組成物に関する。
【0013】
また、本発明は、可食性溶剤(C)が、水、エタノール、グリセリン、及び、プロピレングリコールからなる群より選択される1種類、または2種類以上の混合物であることを特徴とする上記可食性インキ組成物に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、印刷時のムラやハジキを防止出来る可食性インキ組成物を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、カルボキシル基を有する可食性インキバインダー用ポリエステル化合物(A)と、可食性着色材(B)と、可食性溶剤(C)と、塩基性化合物(D)とからなる可食性インキ組成物に関する。
【0016】
カルボキシル基を有する可食性インキバインダー用ポリエステル化合物(A)は、官能基としてはエステル結合の他、エステル結合に利用されなかった遊離のカルボン酸を有していれば、その化学構造に制限は無い。好ましくは、ヒドロキシ脂肪酸の重合体である。より好ましくは、ヒドロキシ脂肪酸の一部がテルペン酸であり、これは、ヒドロキシ脂肪酸(ただし、テルペン酸を除く)とテルペン酸との共重合体ということができる。通常、カルボキシル基を有する可食性インキバインダー用ポリエステル化合物(A)は、上記官能基の他、1級水酸基、2級水酸基が存在すると考えられる。
また、本ポリエステル化合物(A)は、可食性である、即ちヒトが食しても健康上何ら支障が無い必要がある。このような共重合体の例として、セラックが挙げられる。
【0017】
テルペン酸はテルペンの一種である。テルペンは炭素原子を5個有するイソプレンを構成単位とする炭化水素であり、カルボン酸等酸性基を有するテルペンがテルペン酸である。テルペン酸には環構造を有する環式と、環構造を含まない非環式があるが、本発明のポリエステル化合物(A)を構成するテルペン酸としては、環構造を有する物が好ましい。何故なら、環構造を有する場合、環を形成する炭素原子の運動は制限され、これが樹脂、引いてはインキに程好い弾性を付与する事となるからである。
また、共重合体となるために、1級水酸基または2級水酸基を有するテルペン酸が好ましい。
【0018】
テルペン酸の例としては、シェロール酸、ジャラール酸、エピシェロール酸、ラクショリック酸、エピラクショリック酸、ラクシシェロック酸、エピラクシシェロック酸,ラクシジャラール酸が挙げられる。テルペン酸は、1種のみを含んでいても良いし、2種以上含んでいても良い。
【0019】
本発明のポリエステル化合物(A)を構成するヒドロキシ脂肪酸(ただし、テルペン酸を除く)は、樹脂、引いてはインキに流動性を付与し、塗膜形成時に塗膜平滑性を付与するものと考えられる。
【0020】
ヒドロキシ脂肪酸の例としては、アレウリチン酸及び/又は6R−ヒドロキシテトラデカン酸が挙げられる。ヒドロキシ酸は、1種のみを含んでいても良いし、2種以上含んでいても良い。
【0021】
可食性着色材(B)としては、合成着色料及び/又は天然着色料が用いられる。合成着色料の例として、有機合成着色料としてはアゾ系染料の黄色5号、赤色505号等、キサンテン系染料の赤色213号、赤色230号等、キノリン系染料の黄色204号等、トリフェニルメテン系染料の青色1号等、アンスラキノン系染料の緑色201号等、インジゴ系染料等があり、その他に有機性着色料(タール色素)のリソールルビンBCA、レーキレッドCBA、リソールレッド、リソールレッドCA、リソールレッドBA、リソールレッドSR、テトラクロルテトラブロムフルオレセイン、ブリリアントレーキレッドR、ディープマルーン、トルイジンレッド、テトラブロムフルオレセイン、スダンIII、ヘリンドンピンクCN、パーマトンレッド、ジブロムフルオレセイン、パーマネントオレンジ、ベンチジンオレンジG、ジヨードフルオレセイン、キノリンエローSS、ベンチジンエローG、キニザリングリーンSS、インジゴ、カルバンスレンブルー、アリズリンパープルSS、ブリリアントファストスカーレット、パーマネントレッドF5R、薬用スカーレット、オイルレッドXO、ハンサオレンジ、オレンジSS、ハンサエロー、エローAB、エローOB、スダンブルーB、フタロシアニンブルーなどが挙げられる。天然着色料としては、パプリカ色素、カロチン色素、ニンジンカロチン色素、シタン色素(サンダルウッド色素)、グアイアズレン、赤キャベツ色素,赤米色素,アナトー色素,イカスミ色素,ウコン色素,エンジュ色素,オキアミ色素,柿色素,カラメル色素、コーン色素,タマネギ色素,タマリンド色素,スピルリナ色素,紅花黄色素、紅花赤色素、クチナシ黄色素、クチナシ青色素、クチナシ赤色素、ソバ全草色素,チェリー色素,海苔色素,ハイビスカス色素,ブドウ果汁色素,マリーゴールド色素,紫イモ色素,紫ヤマイモ色素,ラック色素,ルチン、蝶豆青色素、カルミン酸、ラッカイン酸、ブラジリン、クロシン、カロチン、コチニールなどがあげられる。安全性の面で、天然着色料が好ましく、色素としての耐光性及び耐候性の高いイカスミ色素がより好ましい。
【0022】
可食性溶剤(C)は、水、エタノール、グリセリン、プロピレングリコールから成る群より選択される1種類、または2種類以上の混合物であることが好ましい。水、エタノールは本発明で用いられるポリエステル化合物(A)の良溶媒となり、グリセリン、プロピレングリコールは乾燥性の調整に有効である。
【0023】
このような、ポリエステル化合物(A)を可食性インキのバインダーとして使用する際は、弾性付与剤として塩基性化合物(D)を配合しなければならず、この所作により、印刷適正を向上出来るように弾性をコントロールすることが出来る。塩基性化合物(D)の添加量は、前記ポリエステル化合物(A)の全部のカルボキシル基を100モルとしたときに、50〜150モルであることが好ましく、より好ましくは、75〜125モルであることがより好ましい。
【0024】
塩基性化合物(D)が、XOHと表現できる場合は、これがポリエステル化合物(A)のカルボン酸及び1級水酸基がイオン化され、それぞれカルボキシラート(−COOX)、アルコキシラート(−CH2OX)となると考えられる。この時、カルボキシラート上、アルコキシラート上の酸素原子の電子密度が向上し、他の水素原子と水素結合を形成し、この水素結合が分子間架橋となる。これにより、ポリエステル分子の運動が制限されて剛直化し、弾性が付与されると考えられる。
【0025】
塩基性化合物は可食性でなければならない。このような塩基性化合物の例としては、アンモニア、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、クエン酸一カリウムなどの無機塩類が好ましい。炭酸アンモニウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウムを用いる際は、加熱するなどして炭酸を除くことが好ましい。
【0026】
本発明のインキ組成物は、公知の印刷方法で印刷できる。平版、凸版、凹版、孔版印刷のほか、インキジェット印刷、デジタルプリンティング(電子トナー印刷、湿式現像印刷)などにも適用できる。
【実施例】
【0027】
表1「組成」に示す配合でインキを調整した。但し、実施例1、比較例1においては、全成分を配合後、組成物に対して60重量%のφ0.3mmジルコニアビーズを加えて、浅田鉄鋼株式会社製ペイントシェイカーで4時間攪拌してインキを得た。また、アンモニアはアンモニア水として添加し、加えた水の総量が表中の値となるようにした。
【0028】
イカ墨色素として日本葉緑素社製「アイカブラック」を、クチナシ青色素として、日農食品販売株式会社製「ニチノーカラーブルーL」を、ベニバナ黄色素として、東洋インキ製造株式会社製「リオフレッシュエロー SG−800」を用いた。
また、デカグリセリン・モノカプリレート及びテトラグリセリン・モノオレエートとしてはそれぞれSYグリスターMCA−750、MO−3S(何れも阪本薬品工業株式会社製)を用いた。
【0029】
中和率は、塩基性化合物(アンモニア、炭酸アンモニウム、または炭酸ナトリウム)のポリエステル化合物(A)のカルボキシル基全体に対するモル比率(%)であり、
JIS K 2501に定められた方法により測定される樹脂の酸価から、下記式にて算出した。
[塩基性化合物配合率×塩基価数/塩基の式量)/[樹脂配合率×樹脂酸価/(1000×56.11)]×100
【0030】
【表1】

【0031】
得られたインキをそれぞれ、公知の方法で印刷し、表2に示す基準で5段階で評価した。被印刷体及び印刷方法は以下の通りである。
(1)ゼラチンカプセル、グラビア・オフセット印刷
(2)煎餅、PAD印刷
(3)チョコレート、スクリーン印刷
【0032】
【表2】

【0033】
以上の結果より、カルボキシル基を有する樹脂の中和率をコントロールすることに より、印刷適性を著しく向上させることが可能である事が明らかである。

【0034】
既に述べられたもの以外に、本発明の新規かつ有利な特徴から外れることなく、上記の実施形態に様々な修正や変更を加えてもよいことに注意すべきである。従って、そのような全ての修正や変更は、添付の請求の範囲に含まれることが意図されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基を有する可食性インキバインダー用ポリエステル化合物(A)15〜30重量%と、可食性着色材(B)5〜20重量%と、可食性溶剤(C)30〜65重量%とを含んでなる可食性インキ組成物であって、
さらに、塩基性化合物(D)を含み、かつ、
前記塩基性化合物(D)が、前記ポリエステル化合物(A)のカルボキシル基全体に対して、50〜150モル%含まれてなることを特徴とする可食性インキ組成物。
【請求項2】
塩基性化合物(D)が、アンモニア、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、及び、クエン酸一カリウムからなる群より選ばれた1種類、または2種類以上であることを特徴とする請求項1記載の可食性インキ組成物。
【請求項3】
ポリエステル化合物(A)が、ヒドロキシ脂肪酸(ただし、テルペン酸を除く)とテルペン酸との共重合体であることを特徴とする請求項1又は2記載の可食性インキ組成物。
【請求項4】
テルペン酸が、シェロール酸、ジャラール酸、エピシェロール酸、ラクショリック酸、エピラクショリック酸、ラクシシェロック酸、エピラクシシェロック酸、及びラクシジャラール酸からなる群より選ばれた1種類、または2種類以上を含む混合物であり、かつ、
ヒドロキシ酸が、アレウリチン酸及び/又はアレウリチン酸を含むことを特徴とする請求項1〜3何れかに記載の可食性インキ組成物。
【請求項5】
可食性溶剤(C)が、水、エタノール、グリセリン、及び、プロピレングリコールからなる群より選択される1種類、または2種類以上の混合物であることを特徴とする請求項1〜4何れかに記載の可食性インキ組成物。

【公開番号】特開2010−248356(P2010−248356A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−98576(P2009−98576)
【出願日】平成21年4月15日(2009.4.15)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】