説明

合わせガラス

【課題】可視光透過性を確保しつつ、日射エネルギーの吸収を抑制し、室内への電磁波の再放射を低減することができる、合わせガラスを提供する。
【解決手段】電磁波入射側から、第1のガラス板、第1の中間膜、第1の断熱層、第2の断熱層、第2の中間膜、第2のガラス板の順に積層されてなり、前記第1の断熱層は、屈折率が互いに異なる複数の誘電体膜からなる積層体であり、前記第2の断熱層は、誘電体膜と金属膜とを交互に積層してなる積層体である、合わせガラスである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両や建造物の窓材として好適な合わせガラスに関し、特に断熱性に優れた合わせガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
合わせガラスは、一対のガラス板の間に樹脂などの中間膜を介在させて接着させることにより一体化された構造を有し、耐貫通性および飛散防止性に優れる。このため、自動車、鉄道車両、航空機、船舶、建築物等の窓ガラスとして広く使用されている。
【0003】
これらの窓ガラスには高度な透明性が必要とされており、特に、自動車用フロントガラスにおいては、視認性を確保する上で可視光線透過率が70%以上の合わせガラスであることが要求される。
【0004】
一方、近年、冷房負荷の軽減あるいは室内の温度上昇の抑制を図る目的で、ガラスに熱線遮断機能を付与し、窓ガラスの遮熱性を高めることも提案されている。
【0005】
熱線遮断機能を付与する方法としては、例えば、中間膜に金属酸化物を分散させる方法や、熱線反射膜として屈折率が異なる2種類のポリマー薄膜を多層積層した光学干渉多層膜を使用する方法などが知られている。
【0006】
しかし、中間膜に金属酸化物を分散させて十分な熱線遮断性を発揮させるには、十分な量の金属酸化物が必要であり、この場合、良好な可視光線透過率を得ることが難しいという問題がある。また、熱線反射膜を使用する場合には、十分な熱線遮断性を得るために反射膜を厚くする必要があるが、膜厚の増加に伴い可視光線の透過率も急激に低下するという問題がある。すなわち、熱線遮断性と可視光透過性とはトレードオフの関係にあり、これらの両立は困難である。
【0007】
かような問題を解決すべく、特許文献1には、熱線反射フィルムと車内側ガラス板(第2のガラス板)との間に熱線遮蔽機能を有する膜を設けた断熱合わせガラスが開示されている。当該文献では、熱線反射フィルムとして屈折率が異なる2種類のポリマー薄膜を多数積層した光学干渉多層膜が使用され、熱線遮蔽機能を有する膜として、ホウ素化物および/またはITO微粒子からなる熱線遮蔽性微粒子を分散させた中間膜または塗布膜が使用される。これにより、照射された日射エネルギーを熱線反射フィルムによってできるだけ車外側へ反射させ、かつ、熱線遮蔽機能を有する膜によって日射光のエネルギーを遮蔽して、車内側に放射されるエネルギーを抑えることが可能となる。したがって、熱線遮蔽機能と70%以上の可視光線透過率を両立しうる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−26547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1の断熱合わせガラスにおいて、熱線反射フィルムと第2のガラス板との間に設けられた熱線遮蔽機能を有する膜は熱線として波長域1000nm以上の電磁波を吸収する。当該熱線遮蔽機能膜が吸収した電磁波は熱に変換されるため、時間の経過とともに中間膜の温度上昇をもたらし、中間膜が熱源となって赤外線領域の電磁波を熱線として再放射してしまう。したがって、特許文献1の断熱合わせガラスを長時間使用した場合には、当該熱線遮蔽機能膜としての中間膜からの電磁波放射によって室内の温度が上昇してしまうという問題がある。
【0010】
そこで本発明は、可視光透過性を確保しつつ、日射エネルギーの吸収を抑制し、室内への電磁波の再放射を低減することができる、合わせガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた。その結果、電磁波の反射波長領域の異なる少なくとも2層の断熱層(第1の断熱層および第2の断熱層)を設けることにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の合わせガラスは電磁波入射側から、第1のガラス板、第1の中間膜、第1の断熱層、第2の断熱層、第2の中間膜、第2のガラス板の順に積層されてなる。そして、前記第1の断熱層は、屈折率が互いに異なる複数の誘電体膜を積層してなる積層体であり、前記第2の断熱層は、誘電体膜と金属膜とを交互に積層してなる積層体である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の合わせガラスによれば、高度な透過性と断熱性との両立が図られる。特に、第1の断熱層による多層膜干渉と、第2の断熱層による金属プラズモン反射とによって、可視光透過性を確保しつつ、優れた熱線遮断性を発揮することが可能となる。特に、第2の断熱層は熱へと変換されやすい赤外線(特に、波長1000nm以上の赤外線)の反射特性に優れる。したがって、第1の断熱層よりも室内側に第2の断熱層を配置することにより第2の断熱層の背後にある中間層(第2の中間膜)への熱の入射量を低減でき、これにより当該中間膜の電磁波吸収による熱線の再放射を防止することができる。よって、長時間の熱線放射後であっても室内温度上昇が抑制されうる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態である合わせガラスの平面図である。
【図2】図1に示す実施形態の合わせガラス1を平面II−IIで切断した際の断面図である。
【図3A】本発明の一実施形態に使用される第1の断熱層の反射スペクトルを示す図面である。
【図3B】本発明の一実施形態に使用される第1の断熱層の透過スペクトルを示す図面である。
【図4】本発明の一実施形態に使用される第2の断熱層の反射スペクトルであって、交互積層体の積層数と反射特性との関係を示す図面である。
【図5A】本発明の一実施形態に使用される第2の断熱層の反射スペクトルを示す図面である。
【図5B】本発明の一実施形態に使用される第2の断熱層の透過スペクトルを示す図面である。
【図6】実施例1で作製した合わせガラスの透過スペクトルを示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付した図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施形態のみには制限されない。図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0016】
本発明の一形態によれば、第1のガラス板、第1の中間膜、第1の断熱層、第2の断熱層、第2の中間膜、第2のガラス板の順に積層されてなる合わせガラスが提供される。そして、前記第1の断熱層は、屈折率が互いに異なる複数の誘電体膜を積層してなる積層体であり、前記第2の断熱層は、誘電体膜と金属膜とを交互に積層してなる積層体である点を特徴とする。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態である合わせガラスの平面図である。本実施形態の合わせガラス1は、自動車のフロントウィンドウガラスであり、自動車の形状に合わせて形成され、フロントウィンドウの形状に合わせて湾曲した形状を有する。ただし、合わせガラス1の形状は適用される部位によって様々であり、多様な形状を有しうる。
【0018】
一般に自動車のウィンドウシールドなどに用いられる合わせガラスはかような曲面形状のものが多い。このような曲面形状を有する合わせガラスについては、予め任意の曲率に曲げたガラスの間に中間膜と断熱層とを挟んで成形することにより製造される。一方、建築用窓材などに用いられるものは曲げ加工されていない平板形状を有していてもよい。
【0019】
図2は、図1に示す実施形態の合わせガラス1を平面II−IIで切断した際の断面図を示す。図2に示すように、本実施形態の合わせガラス1は、第1のガラス板11、第1の中間膜12、断熱層15、第2の中間膜16、および第2のガラス板17が順に積層されてなる。本実施形態の合わせガラス1では、通常、太陽光線などの電磁波が入射する自動車の車外側に第1のガラス板11が、室内側に第2のガラス板17が配される。
【0020】
そして、断熱層15は第1の断熱層13および第2の断熱層14から構成されており、第1のガラス板11側に第1の断熱層13が、第2のガラス板17側に第2の断熱層14が配置されている。
【0021】
第1の断熱層13は屈折率が互いに異なる複数の誘電体膜(131,132)を積層してなる。図2に示す形態において、断熱層13は屈折率の異なる2種類の誘電体膜(131,132)を交互に積層させてなるが、断熱層13はかような形態に制限されるわけではなく、屈折率の異なる3種類以上の誘電体膜を使用してもよい。
【0022】
図2に示す断熱層13において、2種類の誘電体膜(131,132)は合わせガラス1の膜厚方向に積層されているが、かような形態に制限されず、例えば、合わせガラス1の膜厚方向と垂直な方向に積層されてもよい。
【0023】
図2に示す断熱層13は他の部材(ガラス板(11,17)、中間膜(12.16))と同様のサイズ(面内方向)となっているが、かような形態に制限されず、例えば、ガラス板(11,17)および中間膜(12.16)よりも一回り小さく形成してもよい。かような形態においては、断熱層の端部に中間膜の材質が充填されうる。
【0024】
第2の断熱層14は誘電体膜141と金属膜142とを交互に積層されてなる。
【0025】
本実施形態において、第1の断熱層13および第2の断熱層14は一体化され、断熱層15が形成されている。かような一体化構造を有する断熱層15は、例えば、共押出法により第1の断熱層13をフィルムとして製造し、この第1の断熱層13を基材として第2の断熱層14を表面に塗工することにより作製することができ、中間膜の枚数を最小化できるため好ましい。ただし、本発明はかような形態に制限されず、第1の断熱層13と第2の断熱層14との間に第3の中間膜が介在していてもよい。かような形態は、第1の断熱層13と第2の断熱層14とを別々に透明基材フィルムに施工し、第3の中間膜を用いて合わせガラス化することにより作製することができる。中間膜と断熱層(交互積層体)とは1枚ずつ積層させてもよいが、製造効率を高める面で、予め断熱層を中間膜で挟んだプリプレグ状態で用いることもできる。
【0026】
合わせガラス1の用途は上記自動車のフロントウィンドウガラスに限定されるわけではなく、自動車のサイドウィンドウガラスやリアウィンドウガラス、さらには、自動車以外の鉄道車両、航空機、船舶、建築物等の窓ガラスにも好適に使用できる。
【0027】
以下、本実施形態の合わせガラスを構成する部材について、詳細に説明する。
【0028】
(断熱層)
断熱層は室外からの熱線(特に、赤外線)を遮断する熱線遮断層として機能する。赤外光は熱的作用が大きく、物質に吸収されると熱として放出され温度上昇をもたらすことから熱線とも呼ばれる。本発明では、断熱層がこれらの光線を遮断して、断熱層よりも室内側に配置された中間膜(第2の中間膜)および室内側への熱線の侵入が効果的に防止され、その結果、長時間の熱線放射後であっても室内温度上昇が抑制されうる。
【0029】
(第1の断熱層)
第1の断熱層13は屈折率が互いに異なる複数の誘電体膜からなる積層体である。かような構成を有する第1の断熱層は波長域750nm〜1200nmの赤外光の反射率が高い。波長域750nm〜1200nmの赤外線は物質に照射された場合に分子や原子、電子の振動エネルギーに変換されやすく、その運動エネルギーが熱に変換されるため、温度を上昇させる原因となる。したがって、赤外線の反射特性に優れる第1の断熱層を設けることにより、合わせガラスに断熱効果を付与することができる。
【0030】
第1の断熱層は後述する第2の断熱層と太陽光などの電磁波の入射側に配置される第1のガラス板との間に位置する。後述する第2の断熱層は1000nm以上の赤外光の反射特性に特に優れるが、800nm〜1000nmの波長領域の電磁波を透過しやすい。したがって、第2の断熱層よりも電磁波入射側に第1の断熱層を配置することにより、第2の断熱層、さらには第2の中間膜への800nm〜1000nmの赤外光の入射量を顕著に低減できる。これにより、第2の中間膜の温度上昇が防止され、その結果、室内への電磁波再放射、すなわち、室内の温度上昇を抑制することが可能となる。
【0031】
かような観点から、本発明の一実施形態において、第1の断熱層は波長域750nm〜1200nmの電磁波(近赤外光線)を少なくとも半値幅100nm以上の領域で反射する。第1の断熱層がかような反射特性を有することで、後述する第2の断熱層の反射特性との相乗効果によって合わせガラスとして優れた反射効果(断熱効果)を発現できる。ここで「半値幅」とは反射スペクトルにおける反射ピークの根元(ベースライン)から頂点(ピークトップ)までの値(ピーク高さ)の半値になる部分を結んだ半値全幅(full width at half maximum;FWHM)である。また、「半値幅100nm以上の領域」とは反射ピークの半値幅が100nm以上である波長範囲を指す。すなわち、反射スペクトルの波長域750nm〜1200nmの範囲内に、半値幅が100nm以上である反射ピークを有することを意味する。当該反射ピークは、ピークトップが波長域750nm〜1200nmの範囲内に存在する必要があるが、ピークの根元が波長域750nm〜1200nmの範囲外であってもよい。以下、反射ピークの半値幅に相当する波長域を「反射領域」ともいう。すなわち、本実施形態は、第1の断熱層の反射スペクトルが、波長域750nm〜1200nmにおいて100nm以上の反射領域を有する、ともいえる。
【0032】
図3Aは本発明の一実施形態に使用される第1の断熱層の反射スペクトルを示す図面であり、実施例1〜3で作製した第1の断熱層の反射スペクトルに相当する。図3Aに示す第1の断熱層の反射スペクトルは、波長域750nm〜1200nmにおいて100nm以上の反射領域を有する。
【0033】
より好ましくは、第1の断熱層は、反射スペクトルの750nm〜1200nmにおける、半値幅が100nm以上である反射ピークの反射強度が70%以上であり、特に80%以上である。これにより、近赤外線の透過を著しく減少でき、一層の断熱効果を発現することが可能となる。ここで、反射ピークの反射強度は、反射領域(半値幅領域)における平均反射率を意味し、反射スペクトルの反射領域における積分値から算出することができる。
【0034】
第1の断熱層13を構成する誘電体膜(131,132)の材質は、透明な誘電体材料であれば特に限定されない。具体的には、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化アンチモンスズ(ATO)などの無機誘電体材料やポリメチル(メタ)アクリレートやポリノルボルネンアクリレートなどのアクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートなどのポリエステル樹脂などの熱可塑性樹脂などが挙げられる。なお、誘電体材料は完全な絶縁体に限定されるわけではなく、ITOやATOなどのように若干の赤外線吸収性を有するものであってもよい。
【0035】
中でも、積層フィルムの形成が容易で、コスト面で有利な、ポリメチル(メタ)アクリレートやポリノルボルネンアクリレートなどのアクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートなどのポリエステル樹脂などの熱可塑性樹脂であることが好ましい。第1の断熱層を構成する各誘電体膜は単一の材料で構成されていても、異なる種類の材料を組み合わせた構成とされてもどちらでもよい。ただし、第1の断熱層13を構成する複数の誘電体膜が共に熱可塑性樹脂からなることが好ましい。
【0036】
第1の断熱層を構成する誘電体膜の屈折率の差が大きく、かつ、積層数が多いほど、高反射率で連続的に電磁波を反射することができる。かような観点から、隣接する誘電体膜の屈折率差は0.05〜1であるのが好ましい。一般に、上記の熱可塑性樹脂を作製する場合、誘電体膜の屈折率差は0.1〜0.2程度である。また、積層数は、数百〜数千層、好ましくは200〜400層とすればよい。かような場合には、所望の反射率と反射領域を得ることが可能となる。
【0037】
第1の断熱層を構成する誘電体膜の膜厚はターゲットとする反射領域に応じて、ブラッグ反射の式に従って決定することができる。ブラッグ反射の式を各層について順次解いていくことで任意の波長を反射する積層膜を設計できる。
【0038】
【数1】

【0039】
ブラッグ反射の式に従って求めた誘電体膜(131,132)の各層の厚みは、積層方向に向かって増加または減少するが、厚みが厚い方を第1のガラス板側に配置してもよいし、厚みが小さい方を第1のガラス板側に配置してもよい。誘電体膜の厚みを増加させるにつれ、反射される波長範囲が長波長側にシフトしつつ反射波長の幅が増大する。
【0040】
各層の厚みの合計が第1の断熱層13の膜厚となる。ただし、所望の膜厚とするために、電磁波干渉を起こさない厚み調整層を加えることも可能である。厚み調整層は、通常、誘電体膜から形成される。
【0041】
第1の断熱層13の厚みは電磁波の反射性能を保持するために少なくとも10μm以上であることが好ましい。また、著しく厚いフィルムは合わせガラスが曲面である場合に、ガラス端部にシワがよりやすくなるので好ましくなく、かような観点から200μm以下であることが好ましい。さらに、断熱層フィルムのハンドリングの面から20〜100μm程度が良い。
【0042】
第1の断熱層13を作製する方法は特に限定されない。誘電体として、無機誘電体材料を使用する場合には、例えば、スパッタリングや蒸着、前駆体を塗布することによるゾルゲル法などを使用し、各誘電体膜を順に積層させればよい。一方、誘電体として熱可塑性樹脂を使用する場合には、例えば、共押出法を使用することで、容易に数百層以上の積層フィルムを作ることが可能である。
【0043】
(第2の断熱層)
第2の断熱層14は誘電体膜141と金属膜142とを交互に積層してなる交互積層体である。かような交互積層体は金属膜のプラズモン共鳴によって、熱線(特に赤外線)を回折、反射することで、可視光線透過性を確保しつつ、優れた熱線遮断機能を果たす。
【0044】
誘電体膜と金属膜とから構成される交互積層体は、波長域1000nm以上の電磁波(赤外光)の反射特性に優れる。波長域1000nm以上の電磁波(赤外光)は特に熱に変換されやすく、物質の温度上昇の原因となる。
【0045】
第1の断熱層13よりも室内側に第2の断熱層14を配置することにより、第1の断熱層13の反射特性の弱い波長域である1200nm付近以上の波長域の赤外光の反射特性が補強され、優れた熱線反射性を発揮することが可能となる。
【0046】
具体的には、波長域1000nm〜2500nmの電磁波を50%以上反射することが好ましい。これにより、第2の中間膜の温度上昇および室内への電磁波の侵入を防止し、室内の温度上昇を抑制することができる。さらには、波長域1200nm〜2500nmの電磁波を70%以上反射することが好ましい。波長域1200nm以上の電磁波は発熱への影響が強いため、この領域の電磁波を70%以上反射させることでさらに高い断熱効果を得ることができる。ここで、「波長域Xnm〜Ynmの電磁波をZ%以上反射する」とは、Xnm〜Ynmの波長範囲における平均反射率がZ%以上であることを意味し、反射スペクトルのXnm〜Ynmにおける積分値から算出することができる。
【0047】
一方、金属はプラズマ振動数より小さい振動数すなわち長波長側の電磁波を全反射し、可視光線や近赤外線を反射して金属光沢を有するため、通常の金属膜を含む合わせガラスでは、熱線反射性が高いものの可視光線透過性が小さい。特に、自動車用ウィンドウシールド用の合わせガラスなどに要求される高い可視光線透過率を満足させることは困難である。
【0048】
しかし、金属膜が誘電体膜で挟持されてなる交互積層体では、誘電体膜と金属層との界面で金属のバンドギャップのエネルギーが変化する。このため、金属膜と誘電体膜との界面に発生するプラズマ振動が抑制され、可視光線反射率が低下する、すなわち、可視光線透過率が向上する。この際、積層される金属膜や誘電体膜の積層数、厚さ、屈折率を制御することにより、可視光線反射性および熱線反射性を制御することができる。
【0049】
図4は、本発明の一実施形態に使用される第2の断熱層の反射スペクトルであって、交互積層体の誘電体膜と金属膜との総積層数と反射特性との関係を示す図面である。具体的には、基板(クリアガラス)上に、蒸着により、ITO(厚さ:30nm)、Ag(厚さ:6nm)、ITO(厚さ:60nm)の3層;ITO(厚さ:30nm)、Ag(厚さ:6nm)、ITO(厚さ:60nm)、Ag(厚さ:6nm)、ITO(厚さ:30nm)の5層;ITO(厚さ:30nm)、Ag(厚さ:6nm)、ITO(厚さ:60nm)、Ag(厚さ:6nm)、ITO(厚さ:60nm)、Ag(厚さ:6nm)、ITO(厚さ:30nm)の7層をそれぞれ形成した。そして、これらの3〜7層の交互積層体の反射スペクトルを実施例1と同様の方法で測定し、結果を図4に示した。
【0050】
図4に示されるように、誘電体膜と金属膜との交互積層体では、短波長側(400nm付近)に金属のバンドギャップに由来する反射スペクトルの立ち上がりがみられる。一方、長波長側(600〜700nm付近)には金属のプラズマ振動に由来する反射スペクトルの立ち上がりがみられる。一般に、交互積層体を構成する金属膜の積層数を増やすにつれて、反射スペクトルの形状が矩形に近づくため、可視光線反射率が小さくなり、可視光線透過性を向上させることができる。
【0051】
交互積層体は可視光線透過性(透明性)や断熱性を確保するために、誘電体膜が交互に金属膜を挟持する形態、すなわち、誘電体膜の積層数を金属膜の積層数+1とすることが好ましい。かような場合にはn層の金属膜がn+1層の誘電体膜によって交互に挟持され、積層体の総積層数は2n+1層となる。
【0052】
したがって、交互積層体における誘電体膜および金属膜の総積層数は、3層以上であればよいが、十分な熱線(特に、赤外光)反射性を確保するうえで総積層数が5層以上であることが好ましい。交互積層体における誘電体膜および金属膜の総積層数の上限は特に制限されないが、製造コストや製造工数の面から7層以下であることがより好ましい。
【0053】
金属膜および誘電体膜の膜厚は、反射を抑制したい光の波長域、誘電体の屈折率、誘電体膜と金属膜との界面での位相変化に応じて、金属膜の表面で光が干渉により打ち消されるように算出すればよい。
【0054】
金属膜の厚みの合計は、可視光線透過性(透明性)に影響するため、各層の厚みの合計が50nm以下であることが好ましく、30nm以下になることがより好ましい。さらに好ましくは20nm以下であり、この場合、誘電体膜に可視光線の吸収がなければ、非常に高い透明性を確保できる。金属膜の厚みの合計の下限値は特に制限されないが、製膜性の面から3nm以上であることが好ましい。
【0055】
各金属膜の厚さは特に制限されず、金属膜の厚みの合計が上記範囲となるように調整すればよい。したがって、金属膜が1層である場合には50nm以下であればよい。プラズモン現象は金属の表面層で電子がプラズマ振動することにより光の反射が生じる物理現象であり、この誘電体−金属交互積層により表面の電荷密度と電荷移動速度を低下させプラズマ振動を抑制している。しかし、50nmを超える場合には、金属のバルクでプラズマ振動が発生し、可視光線透過率が顕著に低下するおそれがある。より好ましくは、透明性を確保しつつ、熱へと変換されやすい電磁波(特に、波長1000nm以上の赤外線)を効果的に反射して熱線遮断性に優れる点で各金属膜の厚さは30nm以下である。各金属膜の厚さの下限は特に制限されないが、3nm以上であることが好ましく、均一な製膜が容易で、赤外線の反射に基づく熱線遮断性に優れる点で6nm以上であることがより好ましい。
【0056】
誘電体膜の膜厚は可視光領域(特に、550nm付近)で光が反射しないように設計するため、下記式を用いた誘電体−金属層の多層膜干渉で設計すればよい。
【0057】
【数2】

【0058】
交互積層体を構成する誘電体膜141の材質は、透明な誘電体材料であれば特に限定されないが、屈折率が1.4〜3.0であるものが好ましい。屈折率が高いほど、干渉反射によって可視光透過性がより一層向上しうるためである。具体的には、第1の断熱層13を構成する誘電体膜において例示した無機誘電体材料や熱可塑性樹脂などの誘電体材料を使用することができる。
【0059】
中でも、金属膜と誘電体膜とを蒸着やスパッタリングなどのドライプロセスで連続的に交互積層できる点で、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、酸化インジウムスズ(ITO)、および酸化アンチモンスズ(ATO)からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。より好ましくは、屈折率が1.8以上である、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化アンチモンスズ(ATO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO、ZAO)のような無機酸化物である。これらの無機酸化物は上記の膜厚設計において干渉により可視光透過性を特に向上させることができる。特に好ましくは、高屈折率である、酸化インジウムスズ(屈折率2.2〜3.0)、酸化チタン(2.3〜2.4)である。交互積層体を構成する各誘電体膜は単一の材料で構成されていても、異なる種類の材料を組み合わせた構成とされてもどちらでもよい。
【0060】
なお、自動車用ウィンドウシールド用の合わせガラスにおいては、保安基準で決められているTvis(可視光透過率)が70%以上であることが重要である。一方、断熱性についてはTts(日射熱取得率)という指標で示されており、省エネ面から低いほうが好ましい。具体的には、Tts(日射熱取得率)が50%以下であることが好ましく、45%以下であることがより好ましい。特に、Tvis≧70%、Tts≦45%の場合に、省エネ効果が著しく向上する。
【0061】
交互積層体を構成する金属膜142の材料(金属)としては、赤外域に共鳴を持つ金属であればよく、具体的には、銀(Ag)、アルミニウム(Al)、金(Au)、銅(Cu)、もしくはニッケル(Ni)の単体、またはこれらの合金が挙げられる。合金としては特に制限されず、従来公知のものを使用することができる。好ましくは、可視光領域のスペクトルが均一で着色が無い、AgもしくはAlの単体、またはこれらの合金であり、より好ましくは、耐食性の高いAgの合金(銀合金)である。銀合金としては、銀(Ag)に、アルミニウム(Al)、金(Au)、銅(Cu)、パラジウム(Pd)、ネオジウム(Nd)、ビスマス(Bi)などの金属を1種類以上添加したものがある。交互積層体を構成する各金属膜には単一の金属材料を使用しても、異なる種類の金属材料を組み合わせて使用してもよいが、反射特性の制御が容易となるように、単一種類の金属材料を使用することが好ましい。
【0062】
(第1のガラス板および第2のガラス板)
第1のガラス板11および第2のガラス板17としては特に限定されず、用途に要求される光透過性能や断熱性能によって選択すればよく、無機ガラスであっても有機ガラスであってもよい。
【0063】
無機ガラス板としては特に限定されるものではなく、フロート板ガラス、磨き板ガラス、型板ガラス、網入り板ガラス、線入り板ガラス、熱線吸収板ガラス、着色板ガラスなどの各種無機ガラスなどが挙げられる。有機ガラスとしては、ポリカーボネート類、ポリスチレン類、ポリメチルメタクリレート類等の樹脂からなるガラス板などが挙げられる。これらの有機ガラス板は、上記樹脂からなるシート形状のものを複数積層してなる積層体であってもよい。色についても、透明ガラス板に限らず車両等に用いられる汎用の緑色、茶色、青色等の様々な色のガラス板を用いることができる。第1のガラス板11および第2のガラス板17は同一の種類のガラス板であっても異なる種類のガラス板であってもよい。
【0064】
ただし、室外側に配される第1のガラス板11は可視光や赤外線を吸収しにくいものであることが望ましい。好ましくは、電磁波吸収が5%未満かつ可視光透過率が85%以上であるものであり、具体的には750nm以上の電磁波吸収が5%未満かつ380nm〜780nmの透過率が85%以上のガラスが好ましい。室外側に可視光や赤外線のような熱線を吸収するガラスを使用すると、吸収した熱の再放射により室内の温度が上昇するおそれがある。具体的には、クリアガラスなどを用いるのが好ましい。
【0065】
一方、室内側に配される第2のガラス板17は特に限定されず、可視光や赤外線を吸収するものであってもよい。第2のガラス板17の車外側には断熱層15(特に、第1の断熱層13)が配され、これにより赤外線が遮断されるため、第2のガラス板17の赤外線吸収量を低減でき、再放射の影響が小さいためである。具体的には、クリアガラスの他、グリーンガラスなどを用いることが好ましい。中でも、紫外線吸収性能を有する点でグリーンガラスやUVカットタイプのグリーンガラスを使用するのが好ましい。
【0066】
ガラス板の厚みについては特に制限はなく、用途に応じて適宜設定すればよい。通常は、ガラス板は、1.5〜2.5mmの厚みであり、例えば、輸送車両のフロントガラス(ウインドウシールド)の用途では、一般的には、2.0〜2.3mmの厚みのガラス板を用いるのが好ましい。
【0067】
なお、図2に示す実施形態の合わせガラス1は2枚のガラス板(第1のガラス板11および第2のガラス板17)を含むが、本発明では、3枚以上のガラス板を含んでいてもよい。3枚以上のガラス板を含む場合にも、図2と同様に、各ガラス板の間に中間膜を介在させることにより、積層体を接着一体化し、合わせガラスとすればよい。
【0068】
(中間膜)
中間膜(12,16)は、2枚以上のガラス板の間に介在し、これらを接着し一体化する機能を有する。中間膜により合わせガラスを構成する積層体が強力に接着されるため、合わせガラスに優れた耐貫通性能・耐衝撃性能・飛散防止効果を付与することができる。
【0069】
中間膜としては合わせガラスの中間膜として汎用的に使用される樹脂膜であれば特に制限されず、可視光領域や赤外光領域にOH基以外の官能基に起因する吸収が無いものがよい。具体的には、中間膜は、通常、ポリビニルブチラール系樹脂(PVB系樹脂)またはエチレン−酢酸ビニル共重合体系樹脂(EVA系樹脂)から形成され、紫外線吸収剤、抗酸化剤、帯電防止剤、熱安定剤、滑剤、充填剤、着色、接着調整剤等を適宜添加配合してもよい。これらの樹脂は単独で用いられても良いし、2種類以上が併用されてもよい。
【0070】
中間膜は公知の方法を用いて製造したものでもよいが、市販品を利用してもよい。市販品としては、例えば、積水化学工業社製や三菱樹脂社製の可塑化PVB、デュポン社製や武田薬品工業社製のEVA樹脂、東ソー社製の変性EVA樹脂等がある。
【0071】
中間膜は上記樹脂膜の単層で構成されてもよいし、2層以上を積層された状態で用いられてもよい。また、第1の中間膜12と第2の中間膜16とは同一種類の樹脂から構成されていてもよいし、異なる種類の樹脂から構成されていてもよい。
【0072】
中間膜は、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化アンチモンスズ(ATO)などの熱線吸収能を有する透明導電酸化物材料の微粒子を含んでいてもよいが、これらの微粒子を含まない方が好ましい。これらの微粒子は一度熱を吸収した後、再放射により室内側に熱を放射し、結果として室内の温度の経時的上昇を招くためである。かかる観点から、これらの微粒子を分散させる場合には、室内側に配置される第2の中間膜に適用することが好ましい。第2の中間膜では、断熱層によって熱線の大部分は遮断されるため、微粒子による再放射の影響を最小限に抑えることができるとともに、冬場の暖房効率を高めることができる。
【0073】
本発明の合わせガラスを作製する方法としては特に制限されず、一般的な合わせガラスの製造方法を用いればよい。具体的には、本実施形態の合わせガラスは、ガラス板(11,17)の間に、第1の中間膜、第1の断熱層、第2の断熱層、第2の中間膜を積層して予備接着した後に、予備接着後に残った気泡を高温高圧で圧着することにより取り除く工程により製造することができる。
【0074】
上述した断熱層(断熱フィルム)をガラス、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂などの透明な基材の表面に貼着し、断熱のグレージング材として使用することも可能である。しかし、かような場合には、断熱フィルム表面が傷付きやすく、断熱フィルムの表面をハードコート層で被覆した場合であっても長期的な耐久性を満足するのは困難である。特に、これを自動車のフロントガラスなどに使用する場合には、ワイパー等の利用によって、断熱フィルムの剥離や傷付きが顕著となる。この他、また、基材表面に貼着する場合には、各ガラスに応じてフィルムの貼着が必要なのでバッチ式で製造する必要がある、ガラス表面の金属膜に水分が侵入してサビやすい等の問題がある。本発明の合わせガラスは、連続的な製造が可能でありコスト面で有利な他、ワイパー等が利用されるフロントウィンドウに利用する場合であっても剥離やサビが防止され優れた耐久性を有する。
【実施例】
【0075】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0076】
[実施例1]
1.断熱フィルムの作製
(1)第1の断熱層(仕様A)の作製
屈折率が1.57であるポリエチレンナフタレート−アクリル複合樹脂(樹脂1)および屈折率が1.70であるポリエチレンナフタレート(樹脂2)を共押出法により押し出し、マルチプライヤーにて交互に積層させ、フィルムに成形した。この際、樹脂1と樹脂2との総積層数は200層とし、樹脂1の層および樹脂2の層のそれぞれの膜厚を積層数の増加とともに110nmから180nmまで変化させた。得られたフィルム(第1の断熱層)の膜厚は30μmであった。
【0077】
(2)第2の断熱層(仕様A)の作製
上記フィルムの上に、蒸着により、ITO(厚さ:30nm)、Ag(厚さ:6nm)、ITO(厚さ:60nm)、Ag(厚さ:6nm)、ITO(厚さ:30nm)の5層からなる誘電体−金属交互積層体(厚さ:132nm)を形成した。
【0078】
2.合わせガラスの作製
上記で作製した断熱フィルムを使用し、第1のガラス板としてクリアガラス(厚さ:2mm)、第1の中間膜および第2の中間膜として市販のポリビニルブチラール樹脂(厚さ:381μm(15ミル))、第2のガラスとしてグリーンガラス(厚さ:2mm)を使用し、これらを一体化させることにより合わせガラスを作製した。
【0079】
[実施例2]
1.断熱フィルムの作製
実施例1と同様の手法により、第1の断熱層(仕様A)および第2の断熱層(仕様A)からなる断熱フィルムを作製した。
【0080】
2.合わせガラスの作製
第2のガラス板としてグリーンガラスに代えてクリアガラス(厚さ:2mm)を使用したこと以外は、実施例1と同様の手法により合わせガラスを作製した。
【0081】
[実施例3]
1.断熱フィルムの作製
(1)第1の断熱層(仕様A)の作製
実施例1と同様の手法により、フィルム(第1の断熱層:仕様A)を作製した。
【0082】
(2)第2の断熱層(仕様B)の作製
上記フィルムの上に、蒸着により、ITO(厚さ:30nm)、Ag(厚さ:8nm)、ITO(厚さ:30nm)、Ag(厚さ:8nm)、ITO(厚さ:30nm)の5層からなる誘電体−金属交互積層体(厚さ:106nm)を形成した。
【0083】
2.合わせガラスの作製
上記で作製した断熱フィルムを使用し、かつ、第2のガラス板としてグリーンガラスに代えてUVカットグリーンガラス(厚さ:2mm)を使用したこと以外は、実施例1と同様の手法により合わせガラスを作製した。
【0084】
[実施例4]
1.断熱フィルムの作製
(1)第1の断熱層(仕様B)の作製
屈折率が1.60であるポリエチレンテレフタレート−ポリエチレンナフタレート複合樹脂(樹脂1)および屈折率が1.70であるポリエチレンナフタレート(樹脂2)を共押出法により押し出し、マルチプライヤーにて交互に積層させ、フィルムに成形した。この際、樹脂1と樹脂2との総積層数は300層とし、樹脂1の層および樹脂2の層のそれぞれの膜厚を積層数の増加とともに120nmから180nmまで変化させた。得られたフィルム(第1の断熱層)の膜厚は50μmであった。
【0085】
(2)第2の断熱層(仕様A)の作製
上記で作製したフィルムを使用したこと以外は、実施例1と同様の手法により、第2の断熱層を形成し、断熱フィルムを作製した。
【0086】
2.合わせガラスの作製
上記で作製した断熱フィルム使用したこと以外は、実施例1と同様の手法により合わせガラスを作製した。
【0087】
[実施例5]
1.断熱フィルムの作製
実施例4と同様の手法により、第1の断熱層(仕様B)および第2の断熱層(仕様A)からなる断熱フィルムを作製した。
【0088】
2.合わせガラスの作製
上記で作製した断熱フィルム使用したこと以外は、実施例3と同様の手法により合わせガラスを作製した。
【0089】
[実施例6]
1.断熱フィルムの作製
(1)第1の断熱層(仕様B)の作製
実施例4と同様の手法により、フィルム(第1の断熱層)を作製した。
【0090】
(2)第2の断熱層(仕様B)の作製
上記で作製したフィルムを使用したこと以外は、実施例3と同様の手法により、第2の断熱層を形成し、断熱フィルムを作製した。
【0091】
2.合わせガラスの作製
上記で作製した断熱フィルムを使用したこと以外は、実施例3と同様の手法により合わせガラスを作製した。
【0092】
[実施例7]
1.断熱フィルムの作製
(1)第1の断熱層(仕様C)の作製
屈折率が1.60であるポリエチレンテレフタレート−ポリエチレンナフタレート複合樹脂(樹脂1)および屈折率が1.70であるポリエチレンナフタレート(樹脂2)を共押出法により押し出し、マルチプライヤーにて交互に積層させ、フィルムに成形した。この際、樹脂1と樹脂2との総積層数は300層とし、樹脂1の層および樹脂2の層のそれぞれの膜厚を積層数の増加とともに120nmから150nmまで変化させた。得られたフィルム(第1の断熱層)の膜厚は50μmであった。
【0093】
(2)第2の断熱層(仕様A)の作製
上記で作製したフィルムを使用したこと以外は、実施例1と同様の手法により、第2の断熱層を形成し、断熱フィルムを作製した。
【0094】
2.合わせガラスの作製
上記で作製した断熱フィルム使用したこと以外は、実施例3と同様の手法により合わせガラスを作製した。
【0095】
[実施例8]
1.断熱フィルム(仕様C)の作製
(1)第1の断熱層の作製
実施例7と同様の手法により、フィルム(第1の断熱層)を作製した。
【0096】
(2)第2の断熱層(仕様B)の作製
上記で作製したフィルムを使用したこと以外は、実施例3と同様の手法により、第2の断熱層を形成し、断熱フィルムを作製した。
【0097】
2.合わせガラスの作製
上記で作製した断熱フィルムを使用したこと以外は、実施例3と同様の手法により合わせガラスを作製した。
【0098】
[比較例1]
第1のガラス板および第2ガラス板としてグリーンガラス(厚さ:2mm)を使用し、これらのガラス板の間にITO微粒子をポリビニルブチラール樹脂に分散させた中間膜(S−LEC、積水化学工業社製、厚さ:792μm(30ミル))を介在させて一体化し、合わせガラスを作製した。
【0099】
[比較例2]
1.断熱フィルム(第1の断熱層のみ:仕様A)の作製
実施例1と同様の手法により、フィルム(第1の断熱層)を作製した。
【0100】
2.合わせガラスの作製
このフィルム(第1の断熱層のみ)の上に誘電体−金属交互積層体を形成することなく、当該第1の断熱層をそのまま断熱フィルムとして使用したこと以外は、実施例3と同様の手法により合わせガラスを作製した。
【0101】
[比較例3]
断熱フィルム(第2の断熱層のみ:仕様A)の作製および合わせガラスの作製
第1の中間膜および第2中間膜として市販のポリビニルブチラール樹脂(厚さ:381μm(15ミル))を準備した。第1の断熱層の代わりにPETフィルム(厚さ:50μm)を用い、蒸着により、ITO(厚さ:30nm)、Ag(厚さ:6nm)、ITO(厚さ:60nm)、Ag(厚さ:6nm)、ITO(厚さ:30nm)の5層からなる誘電体−金属交互積層体(厚さ:132nm)を形成し、第1の中間膜に積層した。続いて、この上に、第2の中間膜を積層させた。得られた積層フィルムを第1のガラス板としてのクリアガラス(厚さ:2mm)および第2のガラス板としてのUVカットグリーンガラス(厚さ:2mm)の間に介在させて一体化させることにより合わせガラスを作製した。
【0102】
[評価]
1.断熱層の評価
(1)第1の断熱層
実施例および比較例で作製した第1の断熱層(仕様A〜C)について、第2の断熱層の蒸着を行う前に、JISR 3106−1985に準拠し、300〜2500nmの透過スペクトルおよび反射スペクトルを測定した。この透過及び反射スペクトルの測定はU−4000(日立製作所製)を用いて、300〜380nmについては5nmごとに、380〜780nmについては10nmごとに、780〜800nmについては20nmごとに、800〜2500nmについては50nmごとに、0°の透過率と5°の反射率を計測した。
【0103】
結果を表1および図3Aおよび図3Bに示す。図3Aは実施例1〜3で作製した第1の断熱層の反射スペクトルを示す図面であり、図3Bは実施例1〜3で作製した第1の断熱層の透過スペクトルを示す図面である。表1において示される第1の断熱層の反射強度は、反射ピークの半値幅に相当する波長範囲(反射領域)における平均反射率である。
【0104】
(2)第2の断熱層
実施例および比較例で使用した第2の断熱層と同じ構成のものを別途基材(クリアガラス)上に蒸着することにより作製された交互積層体自体の反射スペクトルおよび透過スペクトルを測定した。スペクトルの測定は上記第1の断熱層におけるスペクトル測定と同様にして行った。
【0105】
結果を表1および図5Aおよび図5Bに示す。なお、表1において示される第2の断熱層の反射強度は、波長域1000nm〜2500nmにおける平均反射率である。
【0106】
2.合わせガラスの評価
実施例および比較例で得られた合わせガラスについて、上記第1の断熱層におけるスペクトル測定と同様にして300〜2500nmの透過スペクトルおよび反射スペクトルを測定し、可視光線透過率(Tvis)、日射透過率(Tts)を算出した。なお、電磁波(太陽光)は、第1のガラス板側から入射させた。
【0107】
結果を表2および図6に示す。図6は、実施例1で作製した合わせガラスの透過スペクトルである。
【0108】
[考察]
表1並びに図3Aおよび図3Bから、実施例において、屈折率が異なる2つの誘電体膜(樹脂1、樹脂2)からなる積層体は、波長域750nm〜1200nmの電磁波(近赤外光線)を少なくとも半値幅100nm以上の領域で反射することが確認された。すなわち、実施例で使用した仕様A〜Cの第1の断熱層は、反射スペクトルの波長域750nm〜1200nmの範囲内に、半値幅がそれぞれ450nm、400nm、250nmである反射ピークを有することがわかる。そして、これらの第1の断熱層においては、反射ピークの半値幅に相当する波長範囲(反射領域)における反射強度がいずれも80%以上であった。
【0109】
さらに、表1並びに図5Aおよび図5Bから、誘電体膜と金属膜とを交互に積層してなる第2の断熱層は、1000nm〜2500nmの電磁波を70%以上反射することが確認された。
【0110】
そして、図6に示されるように、実施例1で得られた合わせガラスでは、可視光線透過性を十分に確保しつつ、赤外光線透過が効果的に抑制される。すなわち、可視光線透過に影響が大きい領域(図6中のA;波長域400nm〜700nm)において十分な透過率が確保される。そして、日射熱取得率に影響する領域(図6中のC;波長域400nm〜2300nm)、特に、日射熱取得率への影響が特に大きい領域(図6中のB;波長域750nm〜1200nm)における透過率が小さく抑えられている。さらに、表2から、第1の断熱層を第1のガラス板側に配置し、第2の断熱層を第2のガラス板側に配置した実施例1〜8の合わせガラスは、Tvis(可視光透過率)70%以上およびTts(日射熱取得率)50%以下を達成できることがわかる。
【0111】
すなわち、実施例1〜8の合わせガラスは、可視光線透過性に優れ、かつ、第1の断熱層と第2の断熱層との相乗的な熱線反射効果によって室内側への熱線の侵入を効果的に防止できることが確認された。これに対して、第1の断熱層および/または第2の断熱層を有さない比較例1〜3の合わせガラスは、可視光線透過性は確保されるものの、日射透過率(Tts)が高く、熱線の遮断が不十分であることが確認された。
【0112】
【表1】

【0113】
【表2】

【符号の説明】
【0114】
1 合わせガラス、
11 第1のガラス板、
12 第1の中間膜、
13 第1の断熱層、
14 第2の断熱層、
15 断熱層、
16 第2の中間膜、
17 第2のガラス板、
131、132、141 誘電体膜、
142 金属膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のガラス板、第1の中間膜、第1の断熱層、第2の断熱層、第2の中間膜、第2のガラス板の順に積層されてなり、
前記第1の断熱層は、屈折率が互いに異なる複数の誘電体膜を積層してなる積層体であり、
前記第2の断熱層は、誘電体膜と金属膜とを交互に積層してなる積層体である、合わせガラス。
【請求項2】
前記第2の断熱層における誘電体膜および金属膜の総積層数が3〜7層である、請求項1に記載の合わせガラス。
【請求項3】
前記第2の断熱層は、波長域1000nm〜2500nmの電磁波を50%以上反射する、請求項1または2に記載の合わせガラス。
【請求項4】
前記第1の断熱層は、波長域750nm〜1200nmの電磁波を少なくとも半値幅100nm以上の領域で反射する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の合わせガラス。
【請求項5】
前記第2の断熱層を構成する誘電体膜は、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、酸化インジウムスズ(ITO)、および酸化アンチモンスズ(ATO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO、ZAO)からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の合わせガラス。
【請求項6】
前記第1の断熱層を構成する複数の誘電体膜が共に熱可塑性樹脂からなる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の合わせガラス。
【請求項7】
前記金属膜がAgもしくはAlの単体または合金からなる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の合わせガラス。

【図1】
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【図2】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−254915(P2012−254915A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−81887(P2012−81887)
【出願日】平成24年3月30日(2012.3.30)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】