説明

合成ゼオライト触媒の製造方法、並びに該方法で製造した触媒を用いた高純度パラキシレンの製造方法

【課題】分子篩作用(又は形状選択性)を有し触媒活性に優れた触媒を用いることにより、異性化・吸着分離工程を行わなくても、高純度のパラキシレンを効率よく製造することが可能な方法を提供する。
【解決手段】ベンゼン、トルエンのうち少なくとも1種を原料としたアルキル化または不均化を行う際、1次粒子径が100μm以下であるMFI型ゼオライトを単結晶シリケートで被覆する合成ゼオライト触媒の製造方法において、原料として、MFI型ゼオライト、構造規定剤、及び平均粒径が10nm以上1.0μm未満であるシリカ原料を用い、X×Y<0.05を満たす範囲(ここで、X:シリカ原料の濃度(mol%)、Y:構造規定剤の濃度(mol%))で混合した水溶液を用いて、前記MFI型ゼオライトを被覆化処理して製造した合成ゼオライト触媒を使用することを特徴とする高純度パラキシレンの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単結晶シリケート被覆合成ゼオライト触媒の製造方法、並びに該方法で製造した触媒を用いた高純度パラキシレンの製造方法に関し、特には、効率よく高純度のパラキシレンを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
芳香族化合物の中でも、キシレン類は、ポリエステルの原料となるテレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸などを製造する出発原料として、極めて重要な化合物である。これらのキシレン類は、例えば、トルエンのトランスアルキル化、不均化反応などによって製造されるが、生成物中には構造異性体であるp−キシレン、o−キシレン、m−キシレンが存在する。p−キシレンを酸化することによって得られるテレフタル酸は、ポリエチレンテレフタレートの主要原料として、o−キシレンから得られる無水フタル酸は、可塑剤などの原料として、また、m−キシレンから得られるイソフタル酸は、不飽和ポリエステルなどの主要原料としてそれぞれ使用されるので、生成物の中からこれらの構造異性体を効率的に分離する方法が求められている。
【0003】
しかしながら、p−キシレン(沸点138℃)、o−キシレン(沸点144℃)、m−キシレン(沸点139℃)の沸点には、ほとんど差がなく、通常の蒸留方法によって、これらの異性体を分離することは困難である。これに対し、これらの異性体を分離する方法としては、p−、o−及びm−異性体を含むキシレン混合物を精密蒸留した後に、融点の高いp−キシレンを冷却結晶化させて分離する深冷分離方法や、分子篩作用を有するゼオライト系吸着剤を用いて、p−キシレンを吸着分離する方法等がある。
【0004】
深冷分離によって、p−キシレンを選択的に分離する方法では、構造異性体を含むキシレン混合物を精密蒸留した後に、冷却結晶化しなければならず、工程が多段階になり複雑になることや、精密蒸留や冷却結晶工程が製造コストを高める原因となる等の問題がある。そのため、この方法に代わって、吸着分離方法が現在もっとも広く実施されている。該方法は、原料のキシレン混合物が吸着剤の充填されている吸着塔を移動していく間に、他の異性体より吸着力の強いパラキシレンが吸着され、他の異性体と分離される方式である。ついで、脱着剤によりパラキシレンは系外に抜き出され、脱着後、蒸留により、脱着液と分離される。実際のプロセスとしては、UOPのPAREX法、東レのAROMAX法が挙げられる。この吸着分離法は、パラキシレンの回収率、純度が他の分離法と比較して高いが、その反面10数段に及ぶ疑似移動床からなる吸着塔により吸着と脱着を順次繰返し、吸着剤からパラキシレンを除去するための脱着剤を別途分離除去する必要があり、パラキシレンを高純度化する際には決して運転効率の良いものではなかった。
【0005】
これに対し、パラキシレンの吸着分離法の効率を向上させる試みがいくつかなされており、触媒に分離機能を持たせて反応させながら分離も行う方法も開示されている。例えば、下記特許文献1には、触媒活性を有する第一ゼオライト結晶と分子篩作用を有する第二ゼオライト結晶とからなるゼオライト結合ゼオライト触媒が開示されている。しかしながら、特許文献1に開示のゼオライト結合ゼオライト触媒は、分子篩作用を有する第二ゼオライト結晶が連続相的なマトリックスまたはブリッジを形成するので、触媒活性を有する第一ゼオライト結晶のゼオライト結合ゼオライト触媒中に占める割合が小さくなり、触媒活性低下の原因となるだけでなく、分子篩作用を有する第二ゼオライト結晶が連続相的なマトリックスを形成する場合には、選択される分子の透過抵抗が大きくなりすぎて、分子篩作用が低下する傾向がある。さらに、形状保持のためのバインダー(担体)を使用せずに、第二ゼオライト結晶がバインダー(担体)としての役割を担うので、第一ゼオライト結晶が第二ゼオライト結晶によって凝集された又は塊状のゼオライト結合ゼオライト触媒が一旦得られる。凝集状または塊状の前記触媒は、使用に際して粉砕して用いられるが、粉砕によって第二ゼオライト結晶が剥離して、第一ゼオライト結晶が露出する部分が生じ、分子篩作用が低下する原因になる。
【0006】
また、下記特許文献2には、固体酸触媒粒子に分子篩作用を有するゼオライト結晶をコーティングする方法が開示されている。しかしながら、この方法では、触媒粒子が平均粒径として0.3〜3.0mmであることから、目的とする反応に必要な反応場、すなわち触媒の比表面積が非常に小さい。そのため、該方法は、反応効率が不十分であり、トルエン転化率やパラキシレンの選択性が決して高くなく、工業的に使用できるものではなかった。
【0007】
【特許文献1】特表2001−504084号公報
【特許文献2】特開2003−62466号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、従来の技術では、異性化・吸着分離工程のような複雑な工程を経ずに高純度のパラキシレンを効率よく製造する方法、及びそれに用いるのに有用な触媒は提供されていなかった。特に、触媒を表面修飾する際に、修飾剤の結晶相にまで言及したものはなかった。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、分子篩作用(又は形状選択性)を有し触媒活性に優れた新規触媒を用いることにより、異性化・吸着分離工程を行わなくても、高純度のパラキシレンを効率よく製造することが可能な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討の結果、最適な触媒を選定することで、不純物を実質全く含まず分離が容易である、画期的なパラキシレンの製造方法に想到した。本発明においては、触媒粒子内部で生成した生成物の特定構造の異性体のみが分子篩作用を有する単結晶シリケート膜を選択的に通過するので、触媒の活性を低下させることなく特定構造の異性体の選択率を高めることができ、また逆に、特定構造の異性体のみが選択的に触媒活性な触媒粒子内部へ浸入して、触媒粒子内部で選択的(特異的)な反応を起こすことができる。その結果、本発明によれば、効率よく高純度のパラキシレンを製造することができる。
【0011】
すなわち、本発明は、
(1)1次粒子径が100μm以下であるMFI型ゼオライトを単結晶シリケートで被覆する合成ゼオライト触媒の製造方法において、原料として、少なくともMFI型ゼオライト、構造規定剤、及び平均粒径が10nm以上1.0μm未満であるシリカ原料を用い、X×Y<0.05を満たす範囲(ここで、X:シリカ原料の濃度(mol%)、Y:構造規定剤の濃度(mol%))で混合した水溶液を用いて、前記MFI型ゼオライトを被覆化処理する、合成ゼオライト触媒の製造方法である。
(2)前記単結晶シリケートがシリカライトである、前記(1)に記載の合成ゼオライト触媒の製造方法である。
(3)ベンゼン、トルエンのうち少なくとも1種を原料としたアルキル化又は不均化を行う際に、前記(1)又は(2)に記載の製造方法により製造した合成ゼオライト触媒を使用する、高純度パラキシレンの製造方法である。
(4)トルエン転化率が30mol%以上で、炭素数が8である芳香族炭化水素中のパラキシレン選択率が97.5mol%以上である、前記(3)に記載の高純度パラキシレンの製造方法である。
なお、本発明において構造規定剤とは、R.F.Lobo et.al,Phenomena and Molecular Recognition in Chem., 21, 47 (1995)に例示されているように、水熱合成時にゼオライト構造(例えばMFI等)を決定付ける試薬のことであり、テンプレートあるいは鋳型分子とも言われる。主に4級アンモニウム型の有機化合物である。
【発明の効果】
【0012】
本発明で用いる触媒粒子は、特定のシリカ原料と構造規定剤との比率を選択することにより、粒状MFI型ゼオライトの個々が、分子篩作用を有する単結晶シリケート膜で表面全体がコーティングされているので、分子篩作用を利用して特定構造の異性体を選択的に製造するのに好適に用いることができる。特に、MFI構造のZSM−5に対して同様の構造を有する単結晶シリカライト膜でコーティングすることにより、必要最低限の量の修飾によりパラキシレンの形状選択性を触媒粒子に付与することができる。以上のことから、工業的に有用なパラキシレンを選択的にかつ転化率を低下させることなく製造するための優れた触媒を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
[触媒]
本発明の高純度パラキシレンの製造方法においては、1次粒子径が100μm以下であるMFI型ゼオライトを単結晶シリケートで被覆してなる触媒を使用する。該触媒の核として使用するMFI構造を有するゼオライトは、芳香族炭化水素同士または芳香族炭化水素とアルキル化剤との反応によりパラキシレンを生成する反応に対する触媒性能が優れる。該MFI型ゼオライトとして、特には、ZSM−5、SAPO−34が好ましい。これらゼオライトは、細孔の大きさがパラキシレン分子の短径と同じ0.5〜0.6nmであるため、パラキシレンと、パラキシレンよりわずかに分子サイズが大きいオルトキシレンやメタキシレンとを区別することができ、目的のパラキシレンを製造する場合には有効である。
【0014】
上記触媒の核となるMFI型ゼオライトは、1次粒子径が100μm以下である。MFI型ゼオライトの粒径が100μmを超えると拡散抵抗が大きくなるため、原料の芳香族炭化水素の転化率が低くなることから、工業的に使用できない。なお、使用するMFI型ゼオライトの粒径は、小さいほど細孔内拡散の影響を軽減できるため望ましく、好ましくは50μm以下、より好ましくは20μm以下、特に好ましくは10μm以下である。
【0015】
また、上記MFI型ゼオライトのシリカ/アルミナ比は、30以上10,000以下が好ましく、50以上5,000以下がより好ましい。シリカ/アルミナ比が30より低い場合はMFI構造を安定的に保持することが難しく、一方、10,000より高い場合は反応活性点である酸量が少なくなってしまうため好ましくない。
【0016】
本発明で使用する触媒は、上述のMFI型ゼオライトを単結晶シリケートで被覆してなり、該単結晶シリケートが分子篩作用を発現する。該分子篩作用を有する単結晶シリケート膜(ゼオライト膜)は、核となるMFI型ゼオライトと同類の構造を有しかつ細孔が連続していることが好ましい。なお、細孔の連続性を確認する方法としては、細孔サイズに応じた炭化水素の拡散速度を測定する方法、細孔サイズに応じたハメット指示薬を用いる方法等が挙げられる。また、上記単結晶シリケートは、不均化反応及びアルキル化反応に不活性であることが望ましく、アルミナ成分を含まない純シリカゼオライト(シリカライト−1)であることが特に好ましい。シリカライト−1は、酸点がほとんど無いため、コーティング後の表面を不活性化するために特に好適である。なお、単結晶シリケート膜の珪素は、部分的にガリウム、ゲルマニウム、リン、またはホウ素等の他の元素で置換されていても良いが、その場合においても表面の不活性状態が維持されることが重要である。
【0017】
前記単結晶シリケート膜の重量は、核となるMFI型ゼオライト100部に対して、好ましくは10部以上、より好ましくは20部以上であり、また、好ましくは100部以下、より好ましくは70部以下である。MFI型ゼオライト100重量部に対して単結晶シリケートが10重量部未満では、単結晶シリケート膜の分子篩作用を十分に発揮させることができず、一方、100重量部を超えると、触媒中のMFI型ゼオライトの割合が低すぎて、触媒活性低下の原因となるだけでなく、原料や生成物などの被処理体が単結晶シリケート膜を通過する抵抗が大きくなり過ぎることがある。この場合の単結晶シリケートの膜厚は、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.05μm以上であり、また、好ましくは50μm以下、より好ましくは10μm以下である。単結晶シリケートの膜厚が0.01μm未満では、単結晶シリケート膜の分子篩作用を十分に発揮させることができず、一方、50μm超では、単結晶シリケートの膜厚が厚すぎて、原料や生成物などの被処理体が単結晶シリケート膜を通過する抵抗が大きくなりすぎるからである。
【0018】
本発明において、粒状のMFI型ゼオライトの個々の表面全体を単結晶シリケート膜でコーティングする方法としては、以下に記載の通り、従来のゼオライト膜を調製する方法、例えば水熱合成法を使用することができる。例えば、まず、目的とする単結晶シリケート膜の組成に応じて、無定形シリカ、アモルファスシリカ、ヒュームドシリカ、コロイダルシリカなどのシリカ源、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシドなどの構造規定剤、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物などの鉱化剤などを水やエタノールなどに溶かして単結晶シリケート膜形成用ゾルを調製する。
【0019】
ここで、適切な比率のシリカ原料と構造規定剤を用いることで、単結晶のシリケート膜を形成することができる。その際、シリカ原料の濃度をX(mol%)、構造規定剤の濃度をY(mol%)としたとき、X×Y<0.05を満たす範囲で混合した水溶液を用いて被覆化処理を行う。このX×Yの値が0.05以上になると結晶化速度が速すぎてしまい、目的とする効率的な被覆処理が行われず、単結晶構造が得られにくくなるため好ましくない。
【0020】
また、使用するシリカ原料は、被覆用水溶液へのシリカ溶出速度を適切に制御することを目的として、平均粒径が10nm以上1.0μm未満であり、20nm以上0.5μm未満であることが望ましい。シリカ原料の平均粒径が10nmより小さい場合はシリカ源同士の結晶成長により単結晶構造が得られにくく、一方、1.0μm以上の場合は膜形成自体が困難であるため好ましくない。
【0021】
同様に、水溶液のpHについても7以上10未満が望ましい。水溶液のpHが前記範囲以外ではシリケート膜の膜形成反応が充分に進行しないため好ましくない。
【0022】
次に、前記単結晶シリケート膜形成用ゾルに粒状のMFI型ゼオライトの個々を浸漬し、又は、前記単結晶シリケート膜形成用ゾルを粒状のMFI型ゼオライトの個々に塗布することにより、粒状MFI型ゼオライトの個々の表面全体を単結晶シリケート膜形成用ゾルで処理する。次いで、水熱処理を行うことにより、粒状MFI型ゼオライトの個々の表面全体に単結晶シリケート膜を形成させる。該水熱処理は、単結晶シリケート膜形成用ゾルで処理した粒状MFI型ゼオライトを熱水中、若しくはオートクレーブ内の熱水中に浸漬することにより、または加熱水蒸気中に放置することにより行うことができる。また、前記水熱処理は、粒状MFI型ゼオライトを単結晶シリケート膜形成用ゾルに浸漬したまま行ってもよく、この場合は粒状MFI型ゼオライトと単結晶シリケート膜形成用ゾルを入れたオートクレーブをオーブンに直接入れて加熱すればよい。
【0023】
前記水熱処理は、好ましくは120℃以上、より好ましくは150℃以上、好ましくは250℃以下、より好ましくは200℃以下で、また、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは1時間以上、好ましくは48時間以下、より好ましくは36時間以下行う。前記水熱処理の後、粒状MFI型ゼオライトを取り出して乾燥し、さらに熱処理を行うことによって、単結晶シリケート膜を焼成する。該焼成は、必要に応じて0.1〜10℃/分の昇温速度で昇温し、その後500〜700℃の温度で2〜10時間熱処理することにより行えばよい。
【0024】
[芳香族炭化水素の不均化・アルキル化]
本発明のパラキシレンの製造方法は、上述の触媒の存在下で、芳香族炭化水素同士の反応(不均化)あるいは芳香族炭化水素とアルキル化剤との反応(アルキル化)により、パラキシレンを選択的に製造することを特徴とする。
【0025】
原料の芳香族炭化水素としては、ベンゼン及びトルエンが挙げられる。なお、原料の芳香族炭化水素は、ベンゼン及びトルエン以外の炭化水素化合物を含んでいてもよい。ただし、パラキシレンが目的生成物であることから、メタキシレンやオルトキシレンを原料に含むものは好ましくない。
【0026】
本発明に用いるアルキル化剤としては、メタノール、ジメチルエーテルが挙げられる。これらは、市販品を利用することもできるが、例えば、水素と一酸化炭素との混合ガスである合成ガスから製造したメタノールやジメチルエーテルや、メタノールの脱水反応で製造したジメチルエーテルを出発原料としてもよい。なお、ベンゼン、トルエン及びメタノール、ジメチルエーテル中に存在する可能性がある不純物としては、水、オレフィン、硫黄化合物及び窒素化合物が挙げられるが、これらは少ない方が好ましい。好ましい含有量としては、水分としては200重量ppm以下、より好ましくは100重量ppm以下、オレフィンとしては1重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下、硫黄化合物及び窒素化合物としては1重量ppm以下、より好ましくは0.1重量ppm以下である。
【0027】
前記アルキル化反応におけるアルキル化剤と芳香族炭化水素の比率については、メチル基と芳香族炭化水素のモル比として5/1〜1/20が好ましく、2/1〜1/10がより好ましく、1/1〜1/5が特に好ましい。芳香族炭化水素に対してアルキル化剤が極端に多い場合は、望ましくないアルキル化剤同士の反応が進行してしまい、触媒劣化の原因となるコーキングを引き起こす可能性があるため好ましくない。また、芳香族炭化水素に対してアルキル化剤が極端に少ない場合には、実質的には芳香族炭化水素へのアルキル化反応が進行せず、芳香族炭化水素としてトルエンを使用した場合はトルエン同士の不均化反応が進行することになる。
【0028】
上記不均化反応またはアルキル化反応は、原料の芳香族炭化水素を液空間速度(LHSV)0.01h−1以上、より好ましくは0.1h−1以上であり、10h−1以下、より好ましくは5h−1以下で供給して、上述の触媒と接触させることにより行うことが望ましい。不均化反応またはアルキル化反応の反応条件は、特に限定されるものではないが、反応温度が好ましくは200℃以上、より好ましくは230℃以上、特に好ましくは260℃以上であり、好ましくは550℃以下、より好ましくは530℃以下、特に好ましくは510℃以下であり、また、圧力が好ましくは大気圧以上、より好ましくは0.1MPaG以上、特に好ましくは0.5MPaG以上、好ましくは10MPaG以下、より好ましくは5MPaG以下である。また、アルキル化反応の際には、窒素やヘリウムのような不活性ガスやコーキングを抑制するための水素を流通、または加圧してもよい。なお、反応温度が低すぎると、芳香族炭化水素やアルキル化剤の活性化が不充分であること、及び反応によって生成する水による活性点が被毒されることから、原料芳香族炭化水素の転化率が低く、一方、反応温度が高すぎると、エネルギーを多く消費してしまうことに加え、触媒寿命が短くなる傾向がある。
【0029】
上記触媒の存在下で、トルエンのメチル化反応が進行すると、目的生成物のパラキシレンの他、構造異性体であるオルトキシレン、メタキシレン及びエチルベンゼン、未反応のトルエン、メチル化が進行した炭素数9以上のアルキルベンゼン類の生成が想定される。この中で、炭素数8の芳香族炭化水素のうちパラキシレンの構成比率は高いほど好ましく、当反応一段工程で95mol%以上が好ましく、97.5mol%以上がより好ましく、99.7mol%以上がより一層好ましく、99.8mol%以上が特に好ましく、99.9mol%以上が最も好ましい。
【0030】
一方、炭素数8以外の生成物は少ないほど好ましい。炭素数6であるベンゼンと炭素数7であるトルエンの残存量は、反応温度やアルキル化剤との混合比率に大きく依存するが、実際のプロセスを想定した場合、残存率として70mol%以下が好ましく、50mol%以下がより好ましく、30mol%以下が特に好ましく、換言すれば、転化率として30mol%以上が好ましく、50mol%以上がより好ましく、70mol%以上が特に好ましい。残存率が高い場合、すなわち転化率が低い場合は、未反応トルエンを原料ラインへ戻し、再び反応させる必要が生じるため、生産効率を大幅に低下させてしまうデメリットがある。
【0031】
炭素数9以上の芳香族炭化水素は、アルキル化剤の比率が高い反応条件ほど生成しやすいため、アルキル化剤の比率は前述の通り極端に高くない方が好ましい。反応生成物中の炭素数9以上の芳香族炭化水素の合計含有率は、5mol%以下が好ましく、1mol%以下がより好ましく、0.1mol%以下が特に好ましい。炭素数9以上の芳香族炭化水素が多い場合は蒸留等の分離のため多くのエネルギーが必要となることから、含有率は0.1mol%以下であることが特に好ましい。
【0032】
反応生成物は、既存の方法で分離・濃縮してもよいが、本発明では純度の極めて高いパラキシレンが選択的に得られるため、簡便な蒸留方法のみで単離することが可能である。すなわち、簡便な蒸留により、未反応のベンゼンやトルエンよりも低沸点の留分、高純度パラキシレン、パラキシレンよりも高沸点の留分に分けることができる、また、パラキシレンよりも高沸点留分の生成量が極めて少ない場合は、軽質分の留去のみで高純度パラキシレンを単離することができる。なお、未反応のトルエンは原料として再反応してもよい。
【実施例】
【0033】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0034】
(触媒の被覆処理)
<触媒A1〜A8の調製>
0.3gのH−ZSM−5(粒径10μm)に対して、表1に示すような比率となるように、非水溶性で平均粒径112nmのヒュームドシリカ(和光純薬製アエロジル200)、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAOH)、エタノール、イオン交換水を適宜使用した混合溶液15gを用い、オートクレーブにて180℃、24時間かけて水熱合成を実施した。得られた生成物を洗浄ろ過後、600℃にて5時間焼成して、触媒A1〜A8を得た。なお、表1中、触媒A7−2は、触媒A7−1に対してさらに被覆処理を施したものであり、また、重量増加分はH−ZSM−5の重量を基準として被覆処理により増加した重量の割合を示す。その結果、触媒A1では多結晶型、その他は単結晶型のコーティング相であることがSEM測定から確認された。図1に、触媒A8(単結晶シリケート被覆ゼオライト触媒)のSEM写真を示す。なお、平均粒径については、堀場製レーザー回折型粒度分布計(LA−920)を用い、水中に20%分散させて測定した。

【0035】
【表1】

【0036】
<触媒T1〜T7の調製>
混合溶液を調製する際、ヒュームドシリカの代わりに水溶性のテトラエトキシシラン(TEOS)(液中の粒子サイズ10nm未満)を用い、表2に記載の仕込み量とした以外、前記と同様の条件で触媒T1〜T7を得た。その結果、これらすべての触媒は多結晶型のコーティング相であることがSEM測定から確認された。図2に、触媒T6(多結晶シリケート被覆ゼオライト触媒)のSEM写真を示す。
【0037】
【表2】

【0038】
(実施例1)
内径4mmの固定層反応容器に、0.05gの触媒A6を1.0mmφのガラスビーズで希釈充填して触媒層長を20mmとし、ヘリウムガスを流通しながら、LHSVを2.0h−1、メタノール/トルエンを1.0mol/molとして、大気圧下400℃でトルエンのアルキル化反応を行った。反応開始から1時間後の反応容器出口の生成物をガスクロマトグラフィーにより分析し、各異性体の生成割合を求めた。結果を表3に、ガスクロマトグラフィーの測定条件を以下に示す。
【0039】
測定装置:島津製作所製GC−2014
カラム:キャピラリーカラムXylene Master、内径0.32mm、50m
温度条件:カラム温度50℃、昇温速度2℃/分、検出器(FID)温度250℃
キャリアーガス:ヘリウム
【0040】
トルエン転化率(mol%)=100−(トルエン残存モル/原料中トルエンモル)×100
【0041】
パラキシレン選択率(mol%)=(パラキシレン生成モル/C8芳香族炭化水素生成モル)×100
【0042】
(実施例2〜4、比較例1〜6)
触媒として、表3に記載した触媒を使用した以外は、実施例1と同様の条件でトルエンのアルキル化を行った。結果を表3に示す。尚、比較例6で使用した触媒は、前述の被覆処理を行わなかったH−ZSM−5である。
【0043】
【表3】

【0044】
実施例に記載のとおり、触媒として単結晶シリケート被覆ゼオライト触媒(触媒A6〜A8)を用いることにより、p−キシレンの選択率は97.5%以上と熱力学的平衡組成(約25%)と比較して極めて高く、p−キシレンが選択的に製造されていることが明らかとなった。また、生成油は原料のトルエン(沸点110℃)の他、実質的にはパラキシレン(沸点138℃)及び炭素数9以上の芳香族炭化水素(沸点165〜176℃)のみとなるため、蒸留により高濃度パラキシレンを容易に得ることができる。
【0045】
一方、比較例1〜6に示すような、触媒として多結晶シリケート被覆ゼオライト触媒(A1、T1〜T7)あるいは非コーティング触媒を用いた場合では、パラキシレン選択率が実施例に比べて大幅に低下することが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】触媒A8(単結晶シリケート被覆ゼオライト触媒)のSEM写真である。
【図2】触媒T6(多結晶シリケート被覆ゼオライト触媒)のSEM写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1次粒子径が100μm以下であるMFI型ゼオライトを単結晶シリケートで被覆する合成ゼオライト触媒の製造方法において、
原料として、MFI型ゼオライト、構造規定剤、及び平均粒径が10nm以上1.0μm未満であるシリカ原料を用い、
X×Y<0.05を満たす範囲(ここで、X:シリカ原料の濃度(mol%)、Y:構造規定剤の濃度(mol%))で混合した水溶液を用いて、前記MFI型ゼオライトを被覆化処理することを特徴とする合成ゼオライト触媒の製造方法。
【請求項2】
前記単結晶シリケートがシリカライトであることを特徴とする、請求項1に記載の合成ゼオライト触媒の製造方法。
【請求項3】
ベンゼン、トルエンのうち少なくとも1種を原料としたアルキル化または不均化を行う際に、請求項1又は2に記載の製造方法により製造した合成ゼオライト触媒を使用することを特徴とする高純度パラキシレンの製造方法。
【請求項4】
トルエン転化率が30mol%以上で、炭素数が8である芳香族炭化水素中のパラキシレン選択率が97.5mol%以上であることを特徴とする請求項3に記載の高純度パラキシレンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−89034(P2010−89034A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−262943(P2008−262943)
【出願日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【出願人】(304003860)株式会社ジャパンエナジー (344)
【Fターム(参考)】