説明

合成梁構造

【課題】長大スパン構造物の鉛直荷重に耐えることができる合成梁構造を得る。
【解決手段】合成梁14は、鉄筋コンクリート造の梁部材15と、梁部材15の両端部に埋設され柱12に設けられた接合部40に接合される梁鉄骨28と、梁部材15の一方端から他方端まで設けられ梁部材15に圧縮力を導入するPC鋼線34とを有している。ここで、梁部材15の両端部に梁鉄骨28が埋設されることで梁鉄骨28と梁部材15が接合されるので、PC鋼線34は、梁部材15と梁鉄骨28の接合にプレストレス力を必要とされず、プレストレス力を自由に設定できる。これにより、合成梁14の必要とされるスパンが長くなっても、PC鋼線34によって梁部材15に必要なプレストレス力を導入することができ、合成梁14が長大スパン構造物の鉛直荷重に耐えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成梁構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、柱に接合される鉄骨造の梁端部と鉄筋コンクリート造の梁中央部とを有し、梁端部の端面と梁中央部の端面とを圧着接合した合成梁構造がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1の合成梁構造は、梁端部を鉄骨造とし、梁中央部をPC鋼材を用いたPRC造とすると共に、PC鋼材により付与されたプレストレス力(圧縮力)で梁端部の鉄骨部材と梁中央部のPRC部材とを接合している。
【0004】
しかし、特許文献1の合成梁構造は、PC鋼材により付与されるプレストレス力が鉄骨部材とPRC部材の接合に使われるため、長大スパン(例えば12m以上の幅)の構造物に適用した場合に、PC鋼材により付与されるプレストレス力が不十分となり、鉛直荷重に耐えることが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−211507
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、長大スパン構造物の鉛直荷重に耐えることができる合成梁構造を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1に係る合成梁構造は、鉄筋コンクリート造の梁部材と、前記梁部材の両端部に埋設され露出した露出部が、柱に設けられた接合部に接合される鉄骨部材と、前記梁部材に圧縮力を導入するプレストレス部材と、を有する。
【0008】
上記構成によれば、鉄筋コンクリート造の梁部材の両端部に鉄骨部材が埋設されることにより、鉄骨部材が梁部材と接合される。ここで、梁部材に設けられるプレストレス部材は、梁部材と鉄骨部材の接合にプレストレス力を必要とされないため、プレストレス力を自由に設定できる。
【0009】
これにより、合成梁の必要とされるスパンが長くなっても、プレストレス部材によって梁部材に必要なプレストレス力を導入することができ、合成梁が長大スパン構造物の鉛直荷重に耐えることができる。また、梁部材の両端部のみに鉄骨部材が用いられているので、合成梁全体を鉄骨部材で構成したものに較べて鉄骨量を減らすことができ、低コスト化が可能となる。
【0010】
本発明の請求項2に係る合成梁構造は、前記プレストレス部材は、前記梁部材に配置されたシース管へ挿通されたPC鋼線であり、前記PC鋼線には施工現場で引張力が導入され、前記シース管にグラウトを注入しない。
【0011】
上記構成によれば、シース管に挿通されたPC鋼線に施工現場で引張力が導入される。ここで、シース管にはグラウトが注入されず、PC鋼線がアンボンド状態となっているので、定着を緩めるだけでシース管からPC鋼線を取り除くことができる。これにより、PC鋼線を取り除いて梁部材を交換することが容易となり、異なる長さの梁部材を配置して合成梁の長さ調整が容易となる。
【0012】
本発明の請求項3に係る合成梁構造は、前記プレストレス部材は、前記梁部材に配置されたシース管へ挿通されたPC鋼線であり、前記PC鋼線には施工現場で引張力が導入され、前記シース管にグラウトが注入される。この構成によれば、シース管に挿通したPC鋼線に施工現場で引張力を導入後、シース管にグラウトを注入することでPC鋼線が固定されるので、プレストレス部材の固定が容易となる。
【0013】
本発明の請求項4に係る合成梁構造は、前記梁部材には複数のせん断補強筋が設けられ、該複数のせん断補強筋の配置間隔が、前記梁部材の中央部よりも両端部で狭くなっている。この構成によれば、鉄骨部材の端部で梁部材に作用するてこ反力の一部が、梁の中央部よりも狭い間隔で配置された両端部のせん断補強筋で負担されるため、梁の鉛直荷重に対する耐性が向上する。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、上記構成としたので、長大スパン構造物の鉛直荷重に耐えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1実施形態に係る合成梁を有する建物の全体図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る合成梁の構造を示す説明図である。
【図3】(a)本発明の第1実施形態に係る合成梁の図1のA−A’における断面図である。(b)本発明の第1実施形態に係る合成梁の図1のB−B’における断面図である。
【図4】(a)本発明の第1実施形態に係る合成梁の図3のC−C’における断面図である。(b)本発明の第1実施形態に係る合成梁の他の実施例を示す断面図である。
【図5】本発明の第1実施形態に係る合成梁を有する建物の施工状態を示す説明図である。
【図6】(a)本発明の第1実施形態に係る合成梁の模式図である。(b)本発明の第1実施形態に係る合成梁のモーメント図である。(c)本発明の第1実施形態に係る合成梁のせん断力図である。(d)本発明の第1実施形態に係る合成梁の鉛直荷重及びてこ反力の作用位置を示す模式図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係る合成梁の構造を示す説明図である。
【図8】(a)本発明の第2実施形態に係る合成梁の図7のD−D’における断面図である。(b)本発明の第2実施形態に係る合成梁の図1のE−E’における断面図である。
【図9】(a)〜(c)本発明の第2実施形態に係る合成梁の一部のプレキャスト部材を交換する手順を示す工程図である。
【図10】本発明の第1実施形態の他の実施例に係る合成梁の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の合成梁構造の第1実施形態を図面に基づき説明する。図1には、地盤20上に構築された構造物としての建物10の1、2階層が示されている。建物10は、地盤20上に立設された複数の柱12と、柱12に架設された複数の合成梁14とで構成されている。なお、合成梁14には小梁が架設されると共にコンクリート打設によりスラブが形成されているが、これらの図示を省略している。また、図1では、柱12及び合成梁14を正面視にて透視した状態での各部材の配置が示されている。
【0017】
図2に示すように、柱12は、軸方向(矢印Z方向:鉛直方向)に沿って配設された複数の柱主筋16と、柱主筋16に対して垂直方向に柱主筋16を囲んで複数配置され柱主筋16に緊結された帯筋18と、柱12の仕口部で略水平に配置されると共に大半が柱12に内包され、一方の端部が柱12の側面から外側へ突出したH形鋼からなる柱鉄骨22とを有している。
【0018】
柱鉄骨22の柱12の側面から外側へ突出した部位は、合成梁14が接合される接合部40を構成しており、柱鉄骨22の接合部40のウェブには、鉛直方向に並んだ複数の貫通孔23(図5参照)が形成されている。
【0019】
一方、合成梁14は、梁主筋24及びせん断補強筋としてのあばら筋26が設けられ、コンクリート打設により直方体状に形成された梁部材15を有している。梁部材15には、さらに、鉄骨部材としての梁鉄骨28と、シース管32と、プレストレス部材としてのPC鋼線34と、定着具36とが設けられている。
【0020】
ここで、合成梁14の左端面15Aと柱12との間隔、及び右端面15Bと柱12との間隔はL1となっている。また、合成梁14は、軸方向(矢印X方向:水平方向)において、長さL2の左端部14A、長さL3の中央部14B、及び長さL2の右端部14Cで区分されており、左端部14A及び右端部14Cに梁鉄骨28の一部が埋設されている。
【0021】
梁主筋24は、合成梁14の軸方向に沿って延伸した異形鉄筋であり、合成梁14の幅方向(図2の奥行き方向)及び鉛直方向に間隔を空けて複数(本実施形態では4本)配設されている。また梁主筋24は、両端部がU字状に曲げられた形状となっている。なお、合成梁14の梁主筋としては、両端部がU字形状の梁主筋24に限らず、例えば、図10(a)に示すように、瘤(こぶ)状部25Aが両端部に形成された梁主筋25を用いてもよく、あるいは、図10(b)に示すように、ナットや鍔(つば)部材等の金具27Aが螺合又は溶接により両端部に取り付けられた梁主筋27を用いてもよい。つまり、主筋の外径より大径で、アンカー効果が期待できるものであればよい。
【0022】
図2に示すように、あばら筋26は、梁主筋24に対して垂直となる方向に配置された異形鉄筋からなるせん断補強筋であり、全ての梁主筋24を四角形状に取り囲むと共に合成梁14の軸方向に間隔を空けて複数配置されている。ここで、合成梁14の左端部14A及び右端部14Cにおけるあばら筋26の間隔d2は、中央部14Bにおけるあばら筋26の間隔d1よりも小さくなっている。
【0023】
また、合成梁14の中央部14Bでは、両端からそれぞれ内側へ向けて距離L4の範囲のみ、あばら筋26の間隔がd2となっている。あばら筋26は、梁主筋24に緊結されている。なお、各図面における梁主筋24及びあばら筋26の表示は、異形鉄筋としての表示を省略して丸鋼として表示している。
【0024】
梁鉄骨28は、合成梁14の左端部14Aと右端部14Cに一つずつ設けられており、大半の部位が左端部14A又は右端部14Cに埋設され、残りの部位が柱12と対向する梁部材15の左端面15A又は右端面15Bから外側へ露出した配置となっている。
【0025】
また、図3(a)に示すように、梁鉄骨28はH形鋼であり、合成梁14の幅方向(矢印Y方向)を面外方向として合成梁14の断面中央に立設された板状のウェブ28Aと、ウェブ28Aの上端で合成梁14の幅方向両側に突出した上側フランジ28Bと、ウェブ28Aの下端で合成梁14の幅方向両側に突出した下側フランジ28Cとを有している。上側フランジ28B及び下側フランジ28Cは、上側フランジ28Bの上面から上方に向けて、又は下側フランジ28Cの下面から下方に向けて、それぞれ複数のスタッド38が突設されている。なお、梁鉄骨28は、上側フランジ28B及び下側フランジ28Cにスタッド38を設けたものに限定されず、スタッド38が無いものであってもよい。
【0026】
図4(a)に示すように、梁部材15の各端面15A、15Bからそれぞれ外側へ露出した梁鉄骨28の露出部28Dには、鉛直方向に並んだ複数の貫通孔29が形成されている。ここで、図2に示すように、柱鉄骨22の接合部40と梁鉄骨28の露出部28Dとを合わせた状態で、柱鉄骨22のウェブ22Aと梁鉄骨28のウェブ28A(図3(a)参照)とに跨って接合用のプレート部材42が配置されており、プレート部材42に形成された貫通孔(図示省略)と柱鉄骨22の貫通孔23(図5参照)、及びプレート部材42に形成された貫通孔と梁鉄骨28の貫通孔29を連通させた状態でボルト44を締結することで、柱鉄骨22に合成梁14が接合されている。
【0027】
図3(a)には、図2の合成梁14の左端部14AをA−A’で切ったときの断面図が示されており、図3(b)には、図2の合成梁14の中央部14BをB−B’で切ったときの断面図が示されている。なお、合成梁14の左端部14Aと右端部14Cの構成は同様であるため、ここでは左端部14Aについて説明し、右端部14Cの説明を省略する。
【0028】
図3(a)に示すように、合成梁14の左端部14Aでは、梁部材15のコンクリートで覆われた梁鉄骨28のウェブ28Aの両側にシース管32(32A、32B)が埋設されている。シース管32A内及びシース管32B内には、それぞれPC鋼線34(34A、34B)が挿通されており、PC鋼線34には、プレストレス力(圧縮力)が作用している。なお、左端部14Aの断面におけるシース管32の埋設位置は、合成梁14の梁せい方向(矢印Z方向)の略中央となっている。
【0029】
図3(b)に示すように、合成梁14の中央部14Bでは、梁鉄骨28が無く、梁主筋24、あばら筋26、シース管32、及びPC鋼線34だけが設けられた構成となっている。また、中央部14Bでは、断面におけるシース管32の埋設位置が、合成梁14の梁せい方向(矢印Z方向)の下端側となっている。
【0030】
図4(a)には、合成梁14を図3(a)、(b)のC−C’で切ったときの断面図が示されている。合成梁14において、シース管32及びPC鋼線34は、全体が下側に凸となるように偏心して曲線配置されている。
【0031】
ここで、シース管32は、梁部材15の左端面15Aでウェブ28Aの両側に形成された凹部35Aから、梁部材15の右端面15Bでウェブ28Aの両側に形成された凹部35Bまで埋設されている。
【0032】
一方、PC鋼線34は、シース管32内に挿通されると共に両端部が凹部35A、35B内にそれぞれ突出されており、即ち合成梁14の一方端から他方端まで設けられている。また、PC鋼線34の両端部は、凹部35A、35B内でそれぞれ定着具36によって固定(定着)され、梁部材15に圧縮力を導入している。なお、定着具36は、凹部35A、35B内に配置された支圧板及び雌コーンと、図示しないジャッキで引っ張られたPC鋼線34に外挿されるクサビ状の雄コーンとで構成されており、PC鋼線34の引張力を解除することで雄コーンが雌コーンと接触して固定されるクサビ方式のものを用いている。
【0033】
次に、合成梁14及び建物10の施工手順について説明する。
【0034】
図2、図3(a)、(b)、及び図4(a)に示すように、まず、合成梁14に合わせて形成された型枠(図示省略)内に梁主筋24(図2参照)及びあばら筋26を配置し、梁主筋24にあばら筋26を緊結する。そして、梁鉄骨28を露出部28Dが露出するように型枠の両端にそれぞれ配置し、型枠内で梁鉄骨28のウェブ28Aの両側に下側に凸となるようにシース管32を配置する。このとき、シース管32の両端部には凹部35A、35Bを形成するための型枠を配置する。
【0035】
続いて、型枠内にコンクリートを打設し所定の期間養生してから型枠を取り外すことにより梁部材15が形成される。そして、梁部材15のシース管32内にPC鋼線34を挿通する。挿通したPC鋼線34の両端部には、凹部35A、35B内において定着具36の支圧板及び雌コーンを配置する。
【0036】
続いて、施工現場にてPC鋼線34の両端部を図示しないジャッキを用いて引っ張り、PC鋼線34に所定の引張力を導入すると共にPC鋼線34に定着具36の雄コーンを外挿した後、ジャッキを取り外す。このとき、PC鋼線34が元の状態に縮もうとする復元力によって定着具36の雄コーンが移動し、雌コーンと接触して、PC鋼線34の両端部が凹部35A、35B内に固定される。そして、シース管32内にグラウトを充填して硬化させる。このようにして、合成梁14が形成される。
【0037】
一方、図5に示すように、柱主筋16、帯筋18、及び柱鉄骨22を図示しない型枠内に配設した状態でコンクリートを打設することにより、地盤20上に複数の柱12を立設する。なお、ここでは例として、3本の柱12が立設され8箇所の接合部40が設けられている場合について説明するが、これに限らず、柱12及び接合部40の数は適宜選択されるものである。
【0038】
続いて、柱12の立設後、合成梁14の上面にワイヤーWを取り付けると共にクレーン(図示省略)で吊り下げ、1階左側の1組の接合部40の間に合成梁14を配置する。そして、柱鉄骨22の接合部40と梁鉄骨28の露出部28Dの位置を合わせた状態で、柱鉄骨22のウェブ22Aと梁鉄骨28のウェブ28Aとに跨ってプレート部材42を配置し、ボルト44で締結する。これにより、柱12へ合成梁14が接合される。
【0039】
同様にして、2階左側の接合部40、1階右側の接合部40、及び2階右側の接合部40に順次合成梁14を接合することで、柱12への複数の合成梁14の接合が完了する。そして、合成梁14の接合が完了した後、小梁(図示省略)を配設し、型枠を配置してコンクリート打設することによりスラブ(図示省略)を形成する。このようにして、建物10が構築される。
【0040】
次に、本発明の第1実施形態の作用について説明する。
【0041】
図2に示すように、梁部材15の両端部に梁鉄骨28が埋設されることにより、梁鉄骨28が梁部材15と接合される。ここで、梁部材15に設けられるPC鋼線34は、梁部材15と梁鉄骨28の接合にプレストレス力(圧縮力)が必要とされないため、プレストレス力を自由に設定できる。
【0042】
これにより、合成梁14の必要とされるスパンが長くなっても、PC鋼線34によって梁部材15に必要な圧縮力を導入することができ、合成梁14が、長大スパン構造物の鉛直荷重に耐えることができる。また、合成梁14の左端部14A及び右端部14Cのみに梁鉄骨28が用いられているので、合成梁14全体を鉄骨部材で構成したものに較べて鉄骨量を減らすことができ、低コスト化が可能となる。
【0043】
ここで、図6(a)〜(d)を用いて、合成梁14に作用する応力伝達状態について説明する。図6(a)には、柱12に接合された合成梁14の中央から左半分が模式図で示されている。なお、合成梁14の中央から右半分については同様のため説明を省略する。柱12の側面から梁部材15の左端面15Aまでの距離L1の領域では、鉄骨部材のみで構成されているため、この領域を鉄骨部Tとする。また、梁部材15の左端面15Aから梁部材15に埋設された梁鉄骨28の右端面までの距離L2の領域では、鉄筋コンクリートと鉄骨部材が混在しており、鉄筋コンクリートから鉄骨部材へ応力が伝達されるため、この領域を伝達部Dとする。
【0044】
さらに、梁鉄骨28の右端面から梁部材15の中央までの距離L5(=(L3)/2)の領域では、鉄筋コンクリートのみで構成されているため、この領域を鉄筋コンクリート部Rとする。なお、鉄骨部Tと伝達部Dの境界位置を点A、伝達部Dと鉄筋コンクリート部Rの境界位置を点B、鉄筋コンクリート部Rで梁部材15の中央位置を点Cとし、点Cの位置において梁部材15に鉛直荷重Pが作用しているものとする。
【0045】
図6(b)には、合成梁14に作用するモーメント図が示されており、図6(c)には、合成梁14に作用するせん断力図が示されている。図6(b)、(c)では、梁鉄骨28に作用するモーメント又はせん断力の分布領域をSとし、梁部材15の鉄筋コンクリートに作用するモーメント又はせん断力の分布領域をRCで表示している。また、図6(d)には、合成梁14に作用する鉛直荷重P、P2及びてこ反力P1が模式図で示されている。
【0046】
図6(d)において、点Cの位置に作用する鉛直荷重をP、点Bの位置に作用するてこ反力をP1、点Aの位置に作用する鉛直荷重をP2とすると、合成梁14は静止しているので、鉛直分力の総和ΣV=0、力のモーメントの総和ΣM=0となる。いま、ΣV=P1−P−P2=0であるから、P1=P+P2となる。また、ΣM=P×L5−P2×L2=0であるから、P2=P×L5/L2となる。これらの式から、てこ反力P1を鉛直荷重Pで表すと、P1=P×(L2+L5)/L2となる。
【0047】
ここで、図2に示すように、合成梁14は、中央部14Bでのあばら筋26の間隔d1よりも、左端部14Aでのあばら筋26の間隔d2の方が狭くなっており、中央部14Bよりも左端部14Aの方が、反力を負担できるようになっている。このため、梁鉄骨28の右端面位置(点B)で梁部材15に作用するてこ反力P1が、左端部14Aのあばら筋26で負担されるため、合成梁14を長大スパンとした場合でも、鉛直荷重Pに対する耐性が向上する。
【0048】
次に、本発明の合成梁構造の第2実施形態を図面に基づき説明する。なお、前述した第1実施形態と基本的に同一の部材には、前記第1実施形態と同一の符号を付与してその説明を省略する。
【0049】
図7に示すように、第2実施形態の建物60は、第1実施形態の建物10(図1参照)の合成梁14に換えて、合成梁70が設けられた構成となっている。合成梁70は、軸方向の長さL6のプレキャスト部材70A、軸方向の長さL7のプレキャスト部材70B、及び軸方向の長さL8(=L7)のプレキャスト部材70Cが直線状に接合され形成されている。
【0050】
図7及び図8(a)に示すように、プレキャスト部材70Aは、合成梁70の左端部を構成しており、内部に梁主筋77A、あばら筋26、梁鉄骨28、及びシース管72(72A、72B)が設けられコンクリートで一体化されている。梁主筋77Aは、一端がU字状に形成された異形鉄筋である。また、あばら筋26は、プレキャスト部材70Aの軸方向で一方の端面から長さL2+L4の範囲において間隔d2をあけて配置されている。
【0051】
また、プレキャスト部材70Aは、シース管72A、72Bが梁鉄骨28のウェブ28Aの両側で梁せい方向(矢印Z方向)の略中央に配設されている。そして、シース管72A、72B内にプレストレス部材としてのPC鋼線76A、76Bが挿通されており、端部に形成された凹部78において、PC鋼線76A、76Bの一端がそれぞれ定着具36で固定されている。なお、梁鉄骨28は、大半がプレキャスト部材70Aの左端部に長さL2の幅で埋設されており、一端がプレキャスト部材70Aの左端面から露出している。
【0052】
同様に、プレキャスト部材70Cは、合成梁70の右端部を構成しており、内部に梁主筋77A、あばら筋26、梁鉄骨28、及びシース管74(74A、74B)が設けられコンクリートで一体化されている。あばら筋26は、プレキャスト部材70Cの軸方向で一方の端面から長さL2+L4の範囲において、間隔d2をあけて配置されている。
【0053】
また、プレキャスト部材70Cは、シース管74A、74Bが梁鉄骨28のウェブ28Aの両側で梁せい方向(矢印Z方向)の略中央に配設されている。そして、シース管74A、74B内にPC鋼線76A、76Bが挿通されており、端部に形成された凹部79において、PC鋼線76A、76Bの一端がそれぞれ定着具36で固定されている。なお、梁鉄骨28は、大半がプレキャスト部材70Cの右端部に長さL2の幅で埋設されており、一端がプレキャスト部材70Cの右端面から露出している。
【0054】
図7及び図8(b)に示すように、プレキャスト部材70Bは、合成梁70の中央部を構成しており、内部に梁主筋77B、あばら筋26、梁鉄骨28、及びシース管73(73A、73B)が設けられコンクリートで一体化されている。梁主筋77Bは、直線状の異形鉄筋である。また、あばら筋26は、プレキャスト部材70Bの軸方向で間隔d1をあけて配置されている。シース管73A、73Bは、梁せい方向(矢印Z方向)の略中央に間隔をあけて配設されており、内部にPC鋼線76A、76Bが挿通されている。
【0055】
ここで、合成梁70において、シース管72、73、74は同じ内径となっており、シース管72、73、74の内部が連通した状態でPC鋼線76が挿通され、ジャッキにより引張力が付与されて定着具36により固定された後、引張力が解除されることで合成梁70内にプレストレス力(圧縮力)が導入されている。なお、シース管72、73、74内にはグラウトは充填されておらず、PC鋼線76はアンボンド状態となっている。
【0056】
次に、合成梁70及び建物60の施工手順について説明する。
【0057】
図7に示すように、まず、プレキャスト部材70Aに合わせて形成された型枠(図示省略)内に梁主筋77A(図8(a)参照)及びあばら筋26を配置し、梁主筋77Aにあばら筋26を緊結する。そして、梁鉄骨28を貫通孔29が露出するように型枠の端部に配置し、型枠内で梁鉄骨28のウェブ28Aの両側にシース管72を配置する。このとき、シース管72の端部には凹部78を形成するための型枠を配置する。続いて、型枠内にコンクリートを打設し、所定の期間養生してから型枠を取り外すことによりプレキャスト部材70Aが形成される。
【0058】
同様に、プレキャスト部材70Cに合わせて形成された型枠(図示省略)内に梁主筋77A及びあばら筋26を配置し、梁主筋77Aにあばら筋26を緊結する。そして、梁鉄骨28を貫通孔29が露出するように型枠の端部に配置し、型枠内で梁鉄骨28のウェブ28Aの両側にシース管74を配置する。このとき、シース管74の端部には凹部79を形成するための型枠を配置する。続いて、型枠内にコンクリートを打設し、所定の期間養生してから型枠を取り外すことによりプレキャスト部材70Cが形成される。
【0059】
一方、プレキャスト部材70Bに合わせて形成された型枠(図示省略)内に梁主筋77B(図8(b)参照)及びあばら筋26を配置し、梁主筋77Bにあばら筋26を緊結する。そして、型枠内にシース管73を配置する。続いて、型枠内にコンクリートを打設し、所定の期間養生してから型枠を取り外すことによりプレキャスト部材70Bが形成される。
【0060】
続いて、プレキャスト部材70A、70B、70Cを直線状に配置して各端面を接触させ、シース管72、73、74の内部が連通した状態でシース管72、73、74内にPC鋼線76を挿通する。
【0061】
続いて、施工現場にてPC鋼線76の両端部を図示しないジャッキを用いて引っ張り、PC鋼線76に所定の引張力を導入すると共にPC鋼線76に定着具36の雄コーンを外挿した後、ジャッキを取り外す。このとき、PC鋼線76が元の状態に縮もうとする復元力によって定着具36の雄コーンが移動し、雌コーンと接触して、PC鋼線76の両端部が凹部78、79内に固定される。このようにして、合成梁70が形成される。なお、シース管72、73、74内にはグラウトを充填しない。
【0062】
一方、地盤20(図1参照)上に複数の柱12を立設した後、各接合部40の間にクレーン(図示省略)を用いて合成梁70を配置する。そして、柱鉄骨22の接合部40と、梁鉄骨28の露出部28Dの位置を合わせた状態でプレート部材42を配置し、ボルト44により締結固定する。これにより、柱12への合成梁70の接合が完了する。続いて、合成梁70の接合が完了した後、小梁(図示省略)を配設し、型枠を配置してコンクリート打設することによりスラブ(図示省略)を形成する。このようにして、建物60が構築される。
【0063】
次に、本発明の第2実施形態の作用について説明する。
【0064】
図7に示すように、合成梁70の両端部に梁鉄骨28が埋設されることにより、梁鉄骨28がプレキャスト部材70A、70Cとそれぞれ接合されている。ここで、合成梁70では、PC鋼線76により導入されているプレストレス力によって、プレキャスト部材70A、70B、70Cが接合しているが、プレキャスト部材70A、70Cと梁鉄骨28の接合にプレストレス力が必要とされていないため、従来のように鉄骨部材と鉄筋コンクリート部材をPC鋼線で接合させるものに比べて、プレストレス力を自由に設定できる。
【0065】
これにより、合成梁70の必要とされるスパンが長くなっても、PC鋼線76によってプレキャスト部材70A、70B、70Cに必要な圧縮力を導入することができ、合成梁70が、長大スパン構造物の鉛直荷重に耐えることができる。また、合成梁70の左端部であるプレキャスト部材70A及び右端部であるプレキャスト部材70Cのみに梁鉄骨28が用いられているので、合成梁70全体を鉄骨部材で構成したものに較べて鉄骨量を減らすことができ、低コスト化が可能となる。
【0066】
ここで、図9(a)〜(c)に示すように、合成梁70よりも長スパンの合成梁80を形成する場合、まず、接合部40(図7参照)のボルト44を外して合成梁70単体とし、さらに合成梁70の定着具36を緩めて外す。このとき、シース管72、73、74内にはグラウトが充填されておらず、PC鋼線76がアンボンド状態となっているため、PC鋼線76を引き抜いて取り除くことができる。そして、PC鋼線76を取り除くことで、合成梁70が、プレキャスト部材70A、70B、70Cに分割される。
【0067】
一方、プレキャスト部材70Bよりも長スパンのプレキャスト部材70Dを、プレキャスト部材70Bと同様の手順で、且つスパンが長い型枠を用いることで形成する。プレキャスト部材70Dは、シース管73よりも長いシース管82を有している。
【0068】
続いて、プレキャスト部材70Bに換えてプレキャスト部材70Dを配置し、シース管72、82、74の内部を連通させた状態で、PC鋼線76よりも長いPC鋼線84をシース管72、82、74内に挿通する。そして、プレキャスト部材70A、70Bの凹部78、79においてPC鋼線84の両端部を定着具36で固定することにより、合成梁80が形成される。
【0069】
このように、合成梁70を複数のプレキャスト部材70A、70B、70Cで形成しておき、中央部のプレキャスト部材70Bを長さの異なるプレキャスト部材70Dで置き換えることで、合成梁70のスパンを必要に応じて変更して、長大スパンの合成梁とすることができる。また、PC鋼線76をアンボンド状態としておくことで、合成梁70の各プレキャスト部材70A、70B、70Cへの分解及び交換が容易となると共に、各プレキャスト部材70A、70B、70Cを再利用することができる。なお、本実施形態ではPC鋼線76をアンボンド状態としたが、合成梁70の各プレキャスト部材70A、70B、70Cの交換が必要ない場合は、シース管72、73、74内にグラウトを充填してPC鋼線76を固定してもよい。
【0070】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されない。
【0071】
柱12は、プレキャスト部材を積み上げて構築するものであってもよい。また、合成梁14は、施工現場においてPC鋼線34を引っ張り定着するポストテンション方式により形成していたが、他の実施例として図4(b)に示すように、プレテンション方式により合成梁50を形成してもよい。
【0072】
合成梁50は、まず、型枠内に梁主筋24(図2参照)及びあばら筋26を配置し、梁鉄骨28を貫通孔29が露出するように型枠の両端にそれぞれ配置してから、型枠内で梁鉄骨28のウェブ28Aの両側にPC鋼線52を配置する。続いて、PC鋼線52の両端部を図示しないジャッキを用いて引っ張り、PC鋼線52に所定の引張力を導入した状態で型枠内にコンクリートを打設する。そして、所定の期間養生してからジャッキ及び型枠を取り外すことにより形成される。
【0073】
定着具36は、クサビ方式のものに限らず、例えば、ナットを緩めている間にPC鋼線34を引っ張り、所定の引張力を付与した後にナットを締結して定着するネジ方式のものを用いてもよい。また、接合部40における柱鉄骨22と梁鉄骨28の接合は、合成梁14のように再利用を前提としない場合において、溶接により接合してもよい。
【0074】
合成梁70の分割数は、プレキャスト部材70A、70B、70Cの3分割に限定されず、2分割又は4分割以上の複数分割であってもよい。また、各シース管及び各PC鋼線の数は、2本だけでなく4以上の偶数本であってもよい。さらに、プレストレス部材として、PC鋼線34、76、84だけでなくPC鋼棒を用いてもよい。
【符号の説明】
【0075】
10 建物
12 柱(柱)
14 合成梁(合成梁構造)
15 梁部材(梁部材)
26 あばら筋(せん断補強筋)
28 梁鉄骨(鉄骨部材)
28D 露出部(露出部)
32 シース管(シース管)
34 PC鋼線(プレストレス部材、PC鋼線)
40 接合部(接合部)
70 合成梁(合成梁構造)
70A プレキャスト部材(梁部材)
70B プレキャスト部材(梁部材)
70C プレキャスト部材(梁部材)
70D プレキャスト部材(梁部材)
72 シース管(シース管)
73 シース管(シース管)
74 シース管(シース管)
76 PC鋼線(プレストレス部材、PC鋼線)
80 合成梁(合成梁構造)
84 PC鋼線(プレストレス部材、PC鋼線)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリート造の梁部材と、
前記梁部材の両端部に埋設され露出した露出部が、柱に設けられた接合部に接合される鉄骨部材と、
前記梁部材に圧縮力を導入するプレストレス部材と、
を有する合成梁構造。
【請求項2】
前記プレストレス部材は、前記梁部材に配置されたシース管へ挿通されたPC鋼線であり、前記PC鋼線には施工現場で引張力が導入され、前記シース管にグラウトを注入しない請求項1に記載の合成梁構造。
【請求項3】
前記プレストレス部材は、前記梁部材に配置されたシース管へ挿通されたPC鋼線であり、前記PC鋼線には施工現場で引張力が導入され、前記シース管にグラウトが注入される請求項1に記載の合成梁構造。
【請求項4】
前記梁部材には複数のせん断補強筋が設けられ、該複数のせん断補強筋の配置間隔が、前記梁部材の中央部よりも両端部で狭くなっている請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の合成梁構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−256575(P2011−256575A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−131053(P2010−131053)
【出願日】平成22年6月8日(2010.6.8)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】