説明

吊橋等のハンガーロープ端末部近傍の腐食度評価方法および装置

【目的】最も腐食しやすいと考えられるハンガーロープの下部端末部近傍の腐食度を評価できる方法および装置を提供する。
【構成】ハンガーロープの下端末部が吊橋の桁部材の支圧部分の孔を通り,その下側でソケットを付けることにより定着されている。ハンガーロープの支圧部分より上方の部分を巻回するように主励磁コイルを配置し,支圧部分の下方にあるソケットを巻回するように補助励磁コイルを配置し,これらの励磁コイルとによってハンガーロープを同方向に磁化し,上記両励磁コイルによる磁化によってハンガーロープ内を通る磁束量を,支圧部分よりも上方に配置したサーチコイルによって測定するとともに,サーチコイルによる磁束量測定位置とほぼ同じ高さ位置においてハンガーロープのまわりの磁界の強さを測定し,少なくとも測定により得られた磁束量と磁界の強さに基づいて,ハンガーロープの腐食の程度を表わす信号を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,吊橋等のハンガーロープ端末部近傍の腐食度評価方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
吊橋,斜張橋などに用いられる鋼性メインケーブル(メインロープ)またはハンガーロープ(ハンガーケーブル)の腐食の程度を評価する方法および装置が既に開発され,実用に供されている。
【特許文献1】特許第3056136号公報
【特許文献2】特許第3545369号公報
【0003】
吊橋,斜張橋等のハンガーロープでは,雨水等は重力によりハンガーロープの下部にたまる傾向があるので,その下部ソケット口元が腐食しやすいと考えられる。
【発明の開示】
【0004】
そこでこの発明は,従来開発された腐食度評価法をさらに発展させて,最も腐食しやすいと考えられるハンガーロープの下部端末部近傍の腐食度を評価できる方法および装置を提供するものである。
【0005】
この発明は,ハンガーロープの下端末部が吊橋等の桁部材の支圧部分の孔を通り,その下側でソケットを付けることにより定着されている構造において,ハンガーロープの支圧部分より上方の端末部分の腐食度を評価する方法であり,ハンガーロープの支圧部分より上方の端末部分を巻回するように主励磁コイルを配置し,支圧部分の下方にあるソケットを巻回するように補助励磁コイルを配置し,上記主励磁コイルと補助励磁コイルとによってハンガーロープを同方向に磁化するように両励磁コイルに通電し,上記両励磁コイルによる磁化によってハンガーロープ内を通る磁束量を,支圧部分よりも上方に配置したサーチコイルによって測定するとともに,サーチコイルによる磁束量測定位置とほぼ同じ高さ位置においてハンガーロープのまわりの磁界の強さを測定し,少なくとも測定により得られた磁束量と磁界の強さに基づいて,ハンガーロープの腐食の程度を表わす信号を生成するものである。
【0006】
この発明による腐食度評価装置は,ハンガーロープの支圧部分より上方の端末部分においてハンガーロープを磁化する主励磁コイル,支圧部分の下方にあるソケットを巻回するように配置可能な補助励磁コイル,上記両励磁コイルによる磁化によってハンガーロープ内を通る磁束量を,支圧部分よりも上方の位置(主励磁コイル内の範囲)で測定するサーチコイルを含む磁束量測定装置,上記サーチコイルによる磁束量測定位置とほぼ同じ高さ位置においてハンガーロープのまわりの磁界の強さを測定する磁界測定装置,および少なくとも測定により得られた磁束量と磁界の強さに基づいて,ハンガーロープの腐食の程度を表わす信号を生成する手段を備えているものである。
【0007】
吊橋等は,吊橋以外に斜張橋等を含み,斜張橋の吊索もハンガーロープというものとする。腐食度とは腐食の程度と同義であり,後述するようにハンガーロープの断面積,ハンガーロープを通る磁束量,断面積比,磁束量比等によって表わされる。支圧部分とはハンガーロープによる吊り力が働く桁部材の一部を指し,支圧板,フランジ,シーム等,種々の名称で呼ばれるものを含む。
【0008】
ハンガーロープの下端末部近傍では周囲の鋼材の存在によってその部分のロープを飽和まで充分に磁化することが困難であったが,この発明によると,ハンガーロープの定着部に設けられているソケットを囲むように補助励磁コイルを配置し,この補助励磁コイルによって主励磁コイルと同じ方向にハンガーロープを磁化しているから,ハンガーロープの端末定着部口元付近においてもハンガーロープを飽和まで充分に磁化することができるようになり,測定する磁束量と磁界の強さにもとづいて腐食度に関する信号を生成することができる。
【0009】
好ましい実施態様では,磁束量測定位置および磁界の強さ測定位置を上下方向に移動させかつ磁界強度を同じに保った状態で磁束量の測定を行い,腐食の程度を表わす信号の変化量を得る。これにより,腐食の程度と様子をより良く知ることができるようになる。
【0010】
好ましい他の実施態様では,主励磁コイルの外周側と補助励磁コイルの外周側との間に磁気回路を形成するようにヨークを配置した上で,上記両励磁コイルに通電する。ヨークの配置により,ハンガーロープ内を通る磁束の帰路が強化されるので,ハンガーロープをより強く磁化することが可能となる。すなわち,ハンガーロープの支圧部分近傍または直近位置も他の測定位置と同じ磁界強度とすることが可能となり,腐食の程度をより広い範囲で検出できるようになる。
【実施例】
【0011】
この実施例は吊橋におけるハンガーロープの腐食の有無,その程度および腐食箇所を検出するものであり,特にハンガーロープ端末部近傍における腐食の有無,程度,腐食箇所を検出するものである。ハンガーロープの全体についての腐食の有無,程度,腐食箇所の検出に関しては先に挙げた特許文献1,2に記述されている。
【0012】
図1は吊橋においてそのハンガーロープの端末部近傍における腐食の有無,程度,腐食箇所を検出する様子を示すものである。吊橋1は,複数の塔2の間,一または複数の塔2と橋台(図示略)との間にメインケーブル3を架設し,メインケーブル3から垂下された多数本のハンガーロープ4によって橋梁5の両側部を吊るものである。
【0013】
図2および図3は,ハンガーロープ4の下端部の定着部(下部端末部)を拡大して示すものである。
【0014】
これらの図を参照して,橋梁は多くの縦桁,横桁,補剛桁,床トラス等を組み合わせることにより構成されるが,図2,図3には,横桁11,縦桁12,補剛桁13,トラス14および床板15の一部のみが示されている。この実施例では,横桁11の一部が橋梁5から両側外方に突出し,この突出した部分にハンガーロープ4の下端部が定着されている。横桁を吊る構造のみならず,縦桁をハンガーロープで吊る型式の吊橋もあり,このような吊橋にもこの発明が適用できるのはいうまでもない。この発明は吊橋の構造を問わずに適用可能である。
【0015】
この実施例においては,横桁11はH鋼の型につくられており,上下の水平なフランジ11a,11bとフランジ11a,11bの幅の中央部に長手方向に設けられ上下のフランジ11a,11bを結合するウエブ11cとから構成されている。横桁11の橋梁5の両側方に突出した部分11A(以下,定着部11Aという)において,上下のフランジ11a,11bに2対のハンガーロープ4およびソケット21を通すための孔19a,19bがあけられている。これらの孔19a,19bはソケット21が通る大きさに形成されている。2対の孔はウエブ11cを挟んでその両側に設けられている。各対において,2つの孔19aまたは19bは定着部11Aの長手方向に間隔をあけて設けられている。上側のフランジ11aにあけられた孔19aは振れ止め兼蓋11eによって被われている。この振れ止め兼蓋11eはハンガーロープ4が通る孔を有し,左右の半体から構成され,上側フランジ11aにボルトにより固定されている。孔19a,19bがあけられた位置の両側および横桁11の先端部には,ウエブ11cに直交する補強板11dが上下のフランジ11a,11bの間に設けられている。
【0016】
メインケーブル3から垂下されたハンガーロープ4の下部端末部は定着部11Aにおいて上側のフランジ11aの孔19aを通り,さらに下側のフランジ11bの孔19bを通り,下側のフランジ11bの下側においてソケット21が鋳込等によって付けられることにより定着されている。下側フランジ11bとソケット21との間にシーム22が設けられている。シーム22にはハンガーロープ4が通る程度(ソケット21は通らない)の孔22aが形成されている。シーム22は孔22aを通る線で2分された左右の半体から構成され,下側フランジ11bにボルト等により固定されている。シーム22はハンガーロープ4の吊り力を受ける支圧部分である。ソケット21の下部外周には雄ねじ21aが切られている。
【0017】
ハンガーロープ4の腐食度の検出のために主磁化器30と補助磁化器40とが用いられる。
【0018】
主磁化器30は,非磁性体の絶縁体,たとえばMCナイロンにより形成されたリール34とこれに巻回された主励磁コイル31とを含む。リール34は,図4に示すように,全体をその中心を通る面で軸方向に丁度半分に割った2つのリール半体34A,34Bから構成され,これらのリール半体34A,34Bは,それらのフランジに当板36を当てボルトで止めることにより,一体化され,リール34がつくられる。このリール34に主励磁コイル31が巻回される。リール34は定着部11Aのフランジ11a,11bの孔19a,19bを通る大きさに作られる。
【0019】
したがって,腐食度測定の現場において,測定対象のハンガーロープ4を囲むように2つのリール半体34A,34Bを上記のように結合させてリール34をつくった上でこのリール34に主励磁コイル31を巻回して,主磁化器30がハンガーロープ4に取付けられた状態で完成する。主磁化器30はハンガーロープ4に沿って上下方向に移動自在である。また,主磁化器30は,定着部11Aにおいて上側フランジ11aの孔19aを通り,かつ補強板11d間の間隙内に入る大きさである。したがって主磁化器30は定着部11Aの上方でハンガーロープ4に取付けた状態で組立てても,ハンガーロープ4に沿って下側フランジ11bの孔19b内に入り,シーム22に接する位置まで下降させることが可能である。ハンガーロープ4のうち,上下のフランジ11a,11bの間の部分,特に下側フランジ11bに近い部分が腐食の程度を評価すべき下部端末部である。
【0020】
もっとも上記特許文献に記載のように,リールに励磁コイルを巻回した形のものを,あたかもその中心を通る平面で軸方向に半分に割った形の2つの磁化器半体をつくっておき,これを現場において結合,接続するような構成とすることもできる。励磁コイルの接続のためにあらかじめコネクタ等が設けられよう。
【0021】
補助磁化器40は,非磁性体の絶縁体より形成されるリール44とこれに巻回された補助励磁コイル41とから構成される。リール44はその中心孔内にソケット21がゆるく入る程度の内径(中心孔の内径)を持ち,かつソケット21の全体がリール44の中心孔の中にすっぽりと収まる程度の長さを持つ。
【0022】
補助磁化器40の取付けの一例としては,一端部において孔があけられ,この孔に雌ねじが形成され,他端部の外周面に雄ねじが形成された治具23が用いられる。この治具23の雌ねじをソケット21下部の外周面の雄ねじ21aにねじ嵌め,かつ治具23の雄ねじにナット24をねじ嵌め,ナット24によってリール44を受けることにより,補助磁化器40がソケット21をとり囲んだ状態で(補助磁化器40がシーム22に接する程度の高さ位置で)取付けられる。
【0023】
要すれば,吊り足場80を,横桁11の定着部11Aの下側フランジ11bに固定したクランプ81から垂下されるロープ82によって,定着部11Aの下方に吊ることにより,補助磁化器40の取付け作業を行うとよい。もちろん,橋梁によってはメンテナンス用の台車が橋梁の側部に沿って走行するような構成のものもあるので,この台車を利用して補助磁化器40の取付け作業を行うこともできる。さらに現場によっては,吊り足場も台車も用いることなく補助磁化器40を取付けることもできる。また,補助磁化器40の取付けは,治具23を用いずに,補助磁化器40のリール44を定着部11Aの適所に固定したロープ等により吊るようにして実現することもできる。
【0024】
ハンガーロープ4の腐食度の検出のためにさらに磁界検出用プローブ51およびサーチコイル(検出コイル)61が用いられる。プローブ51は磁界の強さを測定するもので,たとえばホール素子を含む。このプローブ51は現場においては,ハンガーロープ4に粘着テープ等によって止めることができる。サーチコイル61はハンガーロープ4内を通る磁束量を検出するものである。現場においてコイルをハンガーロープ4の廻りに巻回し(サーチコイルの形成),粘着テープ等でハンガーロープ4に固定することができる。もっとも,上記特許文献に記載のように,半割にされたものを,現場でハンガーロープを囲むように取付けて電気的に接続するような構造の検出コイル(サーチコイル)を用いてもよい。
【0025】
プローブ51による磁界の検出高さ位置とサーチコイル61による磁束の検出高さ位置は,ほぼ同じ(誤差が無視しうる程度の範囲ならば多少異なっていてもほぼ同じである)に設定される。すなわち,サーチコイル61による磁束量測定高さ位置でプローブ51により磁界の強さを測定する。
【0026】
図5は,腐食度評価装置の電気的構成を示すものである。
【0027】
主励磁コイル31および補助励磁コイル41には双極電流源33,43によりそれぞれ電流が流される。これらの両コイル31,41への通電方向は,これらのコイル31,41によるハンガーロープ4の磁化方向が同一になるようにする。すなわち,主励磁コイル31によるハンガーロープ4の磁化を補助励磁コイル41によって補助,補強する。ハンガーロープ4に生じる磁界−磁束曲線のヒステリシスの影響による誤差をできるだけ少なくするために,両コイル31,41への通電方向(ハンガーロープ4の磁化の方向)が極性切替スイッチ32,42により切替可能である。これらの電流源33,43の出力電流,切替スイッチ32,42の切替はコンピュータ70によって制御されるか,または手動で操作される。
【0028】
プローブ51は,磁界測定装置(ガウスメータ)50に接続されている。磁界測定装置50によりハンガーロープ4の近傍の磁界の強さ,すなわち主磁化器30および補助磁化器40によって発生する磁界の強さが計測され,コンピュータ70に与えられる。
【0029】
サーチコイル61はシールド線により磁束測定装置(フラックスメータ)60に接続されている。サーチコイル61の誘導起電力をフラックスメータで積分してハンガーロープ4内の磁束量を計測する。主励磁コイル31および補助励磁コイル41により磁化されたハンガーロープ4内を通る磁束量が磁束測定装置60によって計測され,この計測信号がコンピュータ70に与えられる。
【0030】
コンピュータ70は,計測した磁界の強さおよび磁束量に基づいてハンガーロープ4における腐食の程度を表わすデータを作成して出力する。
【0031】
これらの電流源33,43,切替スイッチ32,42,磁界測定装置50,磁束測定装置60,コンピュータ70等は現場の適所,たとえば橋梁の上に置かれる(図2参照)。
【0032】
ハンガーロープ4の下端部端末部近傍,とくに定着部11Aの付近(横桁11の上側フランジ11aと下側フランジ11bとの間)における腐食度の評価は次のようにして行なわれる。
【0033】
上述のように主磁化器30をハンガーロープ4に取付け,補助磁化器40をソケット21を囲むように取付ける。ハンガーロープ4の上部に滑車26を取付け,一端を主磁化器30のアイボルト35に結びつけた吊索28を滑車26に掛け,橋梁5上に固定した巻取機27で吊索28を巻取り,巻戻しすることにより,主磁化器30の高さを容易に変え,かつ所望の位置に固定することができる(図1参照)。
【0034】
いずれにしても,主磁化器30の高さ位置を適当な間隔で変えながら,主磁化器30と補助磁化器40によってハンガーロープ4を磁化し,磁界測定装置50および磁束測定装置60によって磁界の強さと磁束量を測定する。このとき,プローブ51とサーチコイル61は主磁化器30の高さの中央部,すなわち最も磁界の強い位置においてハンガーロープ4に固定する。主磁化器30が定着部11Aの下側フランジ11bに固定されたシーム22上に達したときには,これ以上主磁化器30を下降させることはできない。このときには主磁化器30をシーム22上に置いて(固定して),プローブ51とサーチコイル61の位置を適当な間隔で下方に移動させて(測定時には当然ハンガーロープ4に固定),磁界の強さと磁束量を測定する。
【0035】
主励磁コイル31および補助励磁コイル41に流す電流の大きさは,磁束量が飽和する磁界を発生する程度とし,各測定位置においてこの磁界の強さを一定に保持するように通電制御する。補助励磁コイル41には主励磁コイル31による磁化と同方向に磁化するように通電する。同一位置で通電の極性を切替えて磁界強度と磁束量の計測を行い,その平均値により後述する計算処理を行なえば精度が向上する。
【0036】
ハンガーロープ4を磁化したときの磁界の強さをHとする。磁化されたハンガーロープ4内を通る磁束量をφ,その磁束密度をBとする。ハンガーロープの透磁率をμ,その断面積をAとすると次式が成り立つ。
【0037】
B=μH=φ/A ‥‥式(1)
【0038】
この式(1)を変形すると次式が得られる。
【0039】
A=φ/μH ‥‥式(2)
【0040】
透磁率μおよび磁界の強さHを一定とすると,ハンガーロープ4内の断面積Aは,磁束量φに比例する。
【0041】
ハンガーロープ4の断面積はその腐食の度合いに応じて変化する。ハンガーロープ4を磁化器30,40によって磁化するとき,磁束量が飽和するように磁界の強さを一定に設定することで腐食のある箇所では磁束量は減少し,磁界の強さは増大する。したがって,磁界の強さHを一定と考えれば(透磁率も一定),測定した磁束量の変化に基づいてハンガーロープの腐食箇所とその程度を知ることができる。
【0042】
腐食の程度を表わすデータとしては,磁束量でもよいし,これに比例する値(上記の断面積Aを含む)でもよい。また,測定した磁束量(断面積)と正常なハンガーロープにおける基準磁束量(基準断面積)との比によって腐食の程度を表わすこともできる。
【0043】
発明者は図6に示すように,実物の1/3模型を用いて実験を行った。ハンガーロープの模擬試料には,直径20mmの7×7ロープを用いた。ハンガーロープを直接磁化するための主励磁コイル(内径18mm,巻厚22mm,長さ 150mm,巻数 150)に加えて,支圧板を介した下側には,ソケットを取り囲むように補助励磁コイル(内径40mm,巻厚35mm,長さ 145mm,巻数 252)を配置した。主励磁コイルの中には,サーチコイル(巻数5,巻幅3mm程度で,その誘導起電力をフラックスメータで積分してロープ内の磁束量を計測する)と,ガウスメータのプローブ(サーチコイル位置での磁界の強さを計測する)を配置した。サーチコイルと磁界プローブを励磁コイルの長さ中央位置(最も磁界が強い位置)に置き,励磁コイルと一体として上下方向に移動させることで,ハンガーロープの長さに沿った断面積の変化を評価するのが好ましい訳であるが,このような方法では,主励磁コイルが支圧板に接触したときには,その長さ中央位置から下の部分が計測不能区間となる。そこで,この部分の腐食度評価が可能かどうかを検討するために,主励磁コイルは固定とし,サーチコイルと磁界プローブだけを移動させても,腐食の程度が正しく評価できるかどうかを実験した。
【0044】
図7に示すとおり,模擬欠陥は,ソケット口元近くの素線をおよそ90mmの区間にわたって3本取り去ったものである(断面積損失率にして約6%)。サーチコイルと磁界プローブを10mm間隔で順次移動させながら,各位置で2つのコイルへの順次通電を行って,磁化曲線を求めた。磁束量を求める磁界強度を20kA/mとした。
【0045】
図8は,各位置での磁束量計測値を,欠陥のない健全試料と比較して示したものである。磁束量の分布には模擬欠陥による断面積減少がはっきりと捉えられている。図9は,健全試料と模擬欠陥試料の磁束量の比を示したもので,支圧板直近を除き,その断面積減少率(6%)が,ほぼ正確に測定できていることがわかる。したがって,補助励磁コイルを加えることによって少なくとも20kA/mの磁界強度を確保すれば,ほぼ満足のいく劣化評価が行えるといえる。
【0046】
図10から図12はヨーク90が用いられた他の実施例を示している。ヨーク90は,主磁化器30の主励磁コイル31の外周側と補助磁化器40の補助励磁コイル41の外周側との間に,磁気回路を形成するように配置されている。
【0047】
すなわち,ヨーク90は鋳鉄,鋳鋼,鋼等の磁性体により形成され,主磁化器30の主励磁コイル31の外周側に接する弧状凹面91aを有する上部当接部91と,補助磁化器40の補助励磁コイル41の外周側に接する弧状凹部92aを有する下部当接部92と,これらの上,下部当接部91,92を結合する連結部93とから構成され,上,下部当接部91,92の弧状凹面91a,92aがそれぞれ主励磁コイル31,補助励磁コイル41の外周側に接するように,支持板96上に配置されている。
【0048】
支持板96は冶具23が通る孔を有し,冶具23をこの孔内に嵌め,支持板96の下方からナット24を冶具23の雄ねじにねじ嵌めることにより,冶具23に固定されている。支持板96の上に補助磁化器40も載置される。また,ヨーク90の上面にアイボルト94を取付け,このアイボルト94に通した吊索95の上端をハンガーロープ4に結びつけることによりヨーク90の落下防止とする。
【0049】
このようにヨーク90を設けることにより,主磁化器30により形成される磁気回路のうちの主磁化器30の外側を通る回路部分と,補助磁化器40により形成される磁気回路のうちの補助磁化器40の外側を通る回路部分とがヨーク90を通る磁気回路として一つになり,主磁化器30と補助磁化器40との間,すなわちシーム22(支圧板)付近の磁界が強められる。これにより,シーム22(支圧板)直近の位置でも磁界の強さを他の測定位置と同じにすることが可能となる。
【0050】
実験によれば,ヨークの当接部91,92が励磁コイル31,41(磁化器30,40)の高さ方向の中央部に接するようにしたときに,最も磁界の強さが大きくなり効果があることが分った。したがって,ヨーク90の下部当接部92の高さ(厚さ)を上部当接部91の高さ(厚さ)と同程度とし,支持板96上に非磁性体の支持台(その高さは補助磁化器40の高さの半分以下)を配置し,この支持台上にヨーク90の全体を載せるようにするとよい。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】吊橋の全体を示す。
【図2】腐食度評価のための配置構成を拡大して示す斜視図である。
【図3】腐食度評価のための配置構成の断面図である。
【図4】主励磁器のリールを示すもので,(A)は平面図,(B)は縦断面図である。
【図5】腐食度評価のための電気的構成を示すブロック図である。
【図6】この発明の効果を確認する実験のための構成を示す。
【図7】この発明の効果を確認する実験に用いた模擬欠陥を設けた試料を示す。
【図8】この発明の効果を確認する実験による結果を示すもので,磁束量計測値を示すグラフである。
【図9】この発明の効果を確認する実験による結果を示すもので,磁束量率を示すグラフである。
【図10】この発明の他の実施例を示すもので,図2相当の斜視図である。
【図11】ヨークを配置した状態を示す拡大断面図である。
【図12】ヨークの平面図である。
【符号の説明】
【0052】
4 ハンガーロープ
11A 定着部
21 ソケット
22 シーム(支圧部分)
30 主磁化器
31 主励磁コイル
40 補助磁化器
41 補助励磁コイル
50 磁界測定装置
51 プローブ
60 磁束測定装置
61 サーチコイル
90 ヨーク
91 上部当接部
92 下部当接部
93 連結部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンガーロープの下端末部が吊橋等の桁部材の支圧部分の孔を通り,その下側でソケットを付けることにより定着されている構造において,ハンガーロープの支圧部分より上方の部分の腐食度を評価する方法であり,
ハンガーロープの支圧部分より上方の部分を巻回するように主励磁コイルを配置し,
支圧部分の下方にあるソケットを巻回するように補助励磁コイルを配置し,
上記主励磁コイルと補助励磁コイルとによってハンガーロープを同方向に磁化するように両励磁コイルに通電し,
上記両励磁コイルによる磁化によってハンガーロープ内を通る磁束量を,支圧部分よりも上方に配置したサーチコイルによって測定するとともに,サーチコイルによる磁束量測定位置とほぼ同じ高さ位置においてハンガーロープのまわりの磁界の強さを測定し,
少なくとも測定により得られた磁束量と磁界の強さに基づいて,ハンガーロープの腐食の程度を表わす信号を生成する,
ハンガーロープ端末部近傍の腐食度評価方法。
【請求項2】
磁束量測定位置および磁界の強さ測定位置を上下方向に移動させて,腐食の程度を表わす信号の変化量を得る,
請求項1に記載の腐食度評価方法。
【請求項3】
上記主励磁コイルの外周側と上記補助励磁コイルの外周側との間に磁気回路を形成するようにヨークを配置した上で上記両励磁コイルに通電する,請求項1または2に記載の腐食度評価方法。
【請求項4】
ハンガーロープの下端末部が吊橋等の桁部材の支圧部分の孔を通り,その下側でソケットを付けることにより定着されている構造において,ハンガーロープの支圧部分より上方の部分の腐食度を評価する装置であり,
ハンガーロープの支圧部分より上方の部分においてハンガーロープを磁化する主励磁コイル,
支圧部分の下方にあるソケットを巻回するように配置可能な補助励磁コイル,
上記両励磁コイルによる磁化によってハンガーロープ内を通る磁束量を,支圧部分よりも上方の位置で測定するサーチコイルを含む磁束量測定装置,
上記サーチコイルによる磁束量測定位置とほぼ同じ高さ位置においてハンガーロープのまわりの磁界の強さを測定する磁界測定装置,および
少なくとも測定により得られた磁束量と磁界の強さに基づいて,ハンガーロープの腐食の程度を表わす信号を生成する手段,
を備えたハンガーロープ端末部近傍の腐食度評価装置。
【請求項5】
上記主励磁コイルの外周側と上記補助励磁コイルの外周側との間に磁気回路を形成するヨークをさらに備えた請求項4に記載の腐食度評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−286026(P2007−286026A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−208032(P2006−208032)
【出願日】平成18年7月31日(2006.7.31)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年9月25日〜27日 社団法人資源・素材学会主催の「資源・素材2005(室蘭) 平成17年度資源・素材関係学協会合同秋季大会」において文書をもって発表
【出願人】(000003528)東京製綱株式会社 (139)
【Fターム(参考)】