説明

同一性判定方法及び同一性判定システム

【課題】 異なる特徴量がランダムに分布する判定対象の同一性を精度よく判定する。
【解決手段】 植物繊維の絡み合いに由来するランダムパターンの平均周期、即ち植物繊維の幅と、1画素当たりの観測領域との間には、同一性の判定精度を高くするために適切な関係があり、要素の一辺の長さをpとし、判定対象にランダムに分布する異なる特徴量の平均分布間隔をwとすると、10w≧p≧w/5の関係が成り立つように基準パターン及び照合用パターンを設定することにより、判定対象の同一性を判定するために必要十分な情報が基準パターン及び照合用パターンから得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、判定対象の同一性を判定する同一性判定方法及び同一性判定システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば有価証券、証明書及び機密文書などの紙に印刷された文書が偽造されて使用されることを防止するために、印刷された文書が原本であるか否かを判定する技術が求められている。
この種の判定を行う装置として、被検査紙を形成する植物繊維が作り出すランダムな繊維パターンを観測し、観測領域から得られるパターン画像の特徴量(特徴ベクトル)と予め記憶された特徴量との距離に応じて、被検査紙が原本の紙であるか否かを判定するものは公知である(特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2004−102562号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来例においては、被検査紙を形成する植物繊維の太さに対して、パターン画像を区切ったメッシュの大きさが適切に設定されなければ、被検査紙が原本の紙であるか否かを判定する精度が上がらないという問題があった。また、上記従来例においては、パターン画像を区切ったメッシュの適切な大きさを設定する方法について、何ら開示されていない。
【0005】
そこで、本発明は、異なる特徴量がランダムに分布する判定対象の同一性を精度よく判定することができる同一性判定方法及び同一性判定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の第1の特徴とするところは、未知の判定対象に対して照合用の特徴量の分布を示す1つ以上の照合用パターンを生成し、異なる特徴量がランダムに分布する判定対象に対して生成された基準となる特徴量の分布を示す基準パターンと前記照合用パターンとの相関により判定対象の同一性を判定する同一性判定方法において、少なくとも前記基準パターン及び前記照合用パターンのいずれかは、判定対象における異なる特徴量の平均分布間隔に基づいて、パターンを構成する要素のサイズが設定されている同一性判定方法にある。即ち、ランダムに分布する特徴量が変化する周期に基づいて、パターンを構成する要素のサイズが設定されるので、パターンによって特徴量の変化を十分に表現することができ、異なる特徴量がランダムに分布する判定対象の同一性を精度よく判定することができる。
【0007】
また、本発明の第2の特徴とするところは、異なる特徴量がランダムに分布する判定対象に対して生成された基準となる特徴量の分布を示す基準パターンに対して、未知の判定対象における前記基準パターンに対応すべき照合基準領域を含む探索領域を特定し、特定した探索領域内で選択可能な前記照合基準領域と略同じ面積を有する1つ以上の照合用領域に対して、照合用の特徴量の分布を示す1つ以上の照合用パターンを生成し、前記基準パターンに対する前記照合用パターンの相関値の最大値に基づいて判定対象の同一性を判定する同一性判定方法において、少なくとも前記基準パターン及び前記照合用パターンのいずれかは、判定対象における異なる特徴量の平均分布間隔に基づいて、パターンを構成する要素のサイズが設定されている同一性判定方法にある。即ち、基準パターンに対する照合用パターンの相関値の最大値に基づいて判定対象の同一性を判定する閾値を設定することが可能になるので、異なる特徴量がランダムに分布する判定対象の同一性を精度よく判定することができる。
【0008】
また、本発明の第3の特徴とするところは、異なる特徴量がランダムに分布する判定対象に対して生成された基準となる特徴量の分布を示す基準パターンに対して、未知の判定対象における前記基準パターンに対応すべき照合基準領域を含む探索領域を特定し、特定した探索領域内で選択可能な前記照合基準領域と略同じ面積を有する1つ以上の照合用領域に対して、照合用の特徴量の分布を示す1つ以上の照合用パターンを生成し、前記基準パターンに対する前記照合用パターンの相関値の最大値、及び相関値の最大値を正規化した値に基づいて判定対象の同一性を判定する同一性判定方法において、少なくとも前記基準パターン及び前記照合用パターンのいずれかは、判定対象における異なる特徴量の平均分布間隔に基づいて、パターンを構成する要素のサイズが設定されている同一性判定方法にある。即ち、基準パターンに対する照合用パターンの相関値の最大値、及び相関値の最大値を正規化した値に基づいて判定対象の同一性を判定する2つの閾値を設定することが可能になるので、異なる特徴量がランダムに分布する判定対象の同一性を精度よく判定することができる。
【0009】
好適には、前記要素は、少なくとも一辺の長さが前記平均分布間隔の10倍以下に設定された四角形である。
【0010】
また、好適には、前記要素は、少なくとも一辺の長さが前記平均分布間隔の5分の1以上に設定された四角形である。
【0011】
また、好適には、前記基準パターン及び前記照合用パターンは、直交する方向それぞれに前記要素を16以上有するパターンである。
【0012】
また、本発明の第4の特徴とするところは、異なる特徴量がランダムに分布する判定対象に対して基準となる特徴量の分布を示す基準パターンを生成するパターン生成手段と、このパターン生成手段が生成した基準パターンを記憶する記憶手段とを有し、前記パターン生成手段が生成した基準パターン、及び基準パターンと照合される未知の判定対象に対する照合用パターンの少なくともいずれかは、判定対象における異なる特徴量の平均分布間隔に基づいて、パターンを構成する要素のサイズが設定されている同一性判定システムにある。
【0013】
また、本発明の第5の特徴とするところは、未知の判定対象に対して照合用の特徴量の分布を示す1つ以上の照合用パターンを生成するパターン生成手段と、異なる特徴量がランダムに分布する判定対象に対して基準となる特徴量の分布を示す基準パターンと前記パターン生成手段が生成した照合用パターンとの相関により判定対象の同一性を判定する判定手段とを有し、前記パターン生成手段が生成した照合用パターン及び基準パターンの少なくともいずれかは、判定対象における異なる特徴量の平均分布間隔に基づいて、パターンを構成する要素のサイズが設定されている同一性判定システムにある。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、異なる特徴量がランダムに分布する判定対象の同一性を精度よく判定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1において、本発明の実施形態に係る同一性判定システム1の概要が示されている。同一性判定システム1は、印刷装置2及び判定装置本体3を有する。印刷装置2は、例えば電子写真方式の画像形成部を有し、判定装置本体3の制御に応じて文書画像を用紙20に印刷する。
【0016】
判定装置本体3は、例えば通信部30、記憶部32、ユーザインターフェイス(UI)部34、小型読取り装置36及び制御部38から構成される。通信部30は、インターネットなどのネットワークに接続されている。記憶部32は、制御部38が実行するプログラム及び画像データなどを記憶する。また、記憶部32は、例えばCD−ROMなどの記憶媒体320からプログラムを供給することができるようにされている。UI部34は、入力装置及び表示装置を有する。
【0017】
小型読取り装置36は、例えば用紙20などの判定対象表面の少なくとも一部を覆うことができるように形成された読取り装置本体360を有し、この読取り装置本体360に撮像素子362、窓部364及び読込みスイッチ366などが設けられており、例えば用紙20を形成する植物繊維がランダムに絡みあった状態を撮像素子362により撮像し(読取り)、画像データを制御部38に対して出力する。
【0018】
撮像素子362は、例えば640×480(約30万画素)の有効画素を有する白黒タイプのCCDであり、有効画素が占める領域全体に対し、用紙20上の7.7mm×5.7mmの領域が図示しない光学系(レンズ)によって結像するようにされている。つまり、1画素当たりの用紙20上の観測領域は、約12μm×12μm(7.7mm/640≒12μm、5.7mm/480≒12μm)となっている。例えば撮像素子362が1/3インチCCDであり、画素のサイズが8.4μm×8.4μmの正方格子(CCDの有効画面サイズが5.4mm×4.0mm)である場合、光学系(レンズ)の倍率は約0.7倍(5.4mm/7.7mm≒0.7、4.0mm/5.7mm≒0.7)に設定される。
【0019】
また、撮像素子362は、例えば367×291(約11万画素)の有効画素を有する8ビット(256階調)の白黒のCMOSセンサであり、有効画素が占める領域全体に対し、用紙20上の7.3mm×5.8mmの領域が図示しない光学系(レンズ)によって結像するようにされていてもよい。つまり、撮像素子362は、1画素当たりの用紙20上の観測領域が約20μm×20μm(7.3mm/367≒20μm、5.8mm/291≒20μm)となっているものでもよい。例えば撮像素子362が1/7インチ型のCMOSセンサであり、画素のサイズが5.6μm×5.6μmの正方格子(CMOSセンサの有効画面サイズが2.1mm×1.6mm)である場合、光学系(レンズ)の倍率は約0.3倍(2.1mm/7.3mm≒0.3、1.6mm/5.8mm≒0.3)に設定される。
【0020】
窓部364は、ユーザが小型読取り装置36によって読取ろうとする用紙20上の領域を確認することができるようにされている。読込みスイッチ366は、小型読取り装置36が用紙20上の所定の領域を読取るように、ユーザが操作するためのスイッチである。
【0021】
制御部38は、CPU380及びメモリ382などを含み、同一性判定システム1を構成する各部を制御する。例えば、判定装置本体3は、PC(パーソナルコンピュータ)、及びPCにUSBケーブルを介して接続された小型読取り装置36から構成される。なお、制御部38及び記憶部32は、通信部30を介して外部のサーバ(図示せず)に配置されてもよい。
【0022】
次に、同一性判定システム1が用紙20などの判定対象の同一性を判定する方法について説明する。
図2において、小型読取り装置36が読取る用紙20上の読取り領域例が示されている。小型読取り装置36は、上述したように撮像素子362によって用紙20上の7.7mm×5.7mmの領域を読取り、制御部38に対して出力する。例えば図2に破線で示したように、まず、小型読取り装置36は、ユーザの操作によって用紙20の左下から所定距離の位置にある領域を基準パターン登録時の読取り領域4として撮像し、撮像した画像データを制御部38に対して出力する。
【0023】
制御部38は、小型読取り装置36から受入れた画像データの一部を基準パターン40として採取し、記憶部32に記憶させる。基準パターン40は、例えば図3に示すように、x方向及びy方向にそれぞれ16画素分の独立した濃度を示す四角形の画像である要素400を有する画像パターンである。基準パターン40は、用紙20を形成する植物繊維がランダムに絡み合うことに由来する画像の濃度差を256個の独立した濃度の要素400によって示すものであり、異なる特徴量(特徴ベクトル)がランダムに分布するパターンの基準とされる。
以下、基準パターン40に対応する用紙20上の領域を照合基準領域Aとする。
【0024】
同一性判定システム1は、用紙20の同一性、即ち原本であるか否かを判定する場合、ユーザの操作に応じて、同一性が未知である用紙20上の照合基準領域Aに対応する領域を含む領域を小型読取り装置36によって照合用パターンの探索領域5(図2)として撮像することにより特定し、特定した探索領域5から基準パターン40と類似度の高い画像パターンを生成可能か否かに基づいて、基準パターン40を採取した用紙20に対する未知の用紙20の同一性を判定する。
なお、探索領域5は、同一性が未知である用紙20において、照合基準領域Aに対応する領域を含むように特定されればよく、例えば用紙20の外形に対する照合基準領域Aの位置が予めユーザに知らされていてもよいし、照合基準領域Aの位置をユーザが大まかに把握できるように記号などが用紙20に印刷されていてもよい。
【0025】
探索領域5が特定されると、制御部38は、図4に示すように、照合基準領域Aと略同じ面積を有する照合用領域B(観測領域)を探索領域5内に設定し、照合用領域Bに対して特徴量の分布を示す照合用パターン50(図3)を生成する。また、制御部38は、探索領域5内でx方向又はy方向に1画素分ずつ照合用領域Bをずらして設定し、設定した照合用領域Bそれぞれに対して特徴量の分布を示す照合用パターン50を生成する。
【0026】
そして、制御部38は、探索領域5から生成した照合用パターン50それぞれの基準パターン40に対する相関値を算出し、相関値の最大値、及び相関値の最大値を正規化した値(ノーマライズドスコア)に応じて基準パターン40と類似度の高い画像パターンが生成されたか否かを判定することにより、用紙20の同一性を判定する。つまり、制御部38は、特定した探索領域5内で選択可能な照合基準領域Aと略同じ面積を有する照合用領域Bそれぞれに対して照合用パターン50を生成することにより、探索領域5から基準パターン40と類似度の高い画像パターンが生成されるか否かを探索する。ここで、照合用パターン50の左上の画素が探索領域5においてx方向にi番目、y方向にj番目の画素となるように照合用領域Bが位置する場合の相関値(i,j)をrijとすると、ノーマライズドスコアnsijは、下式1のように表される。
【0027】
【数1】

【0028】
図5は、同一性判定システム1が用紙20などの判定対象の同一性を判定する処理(S10)を示すフローチャートである。
図5に示すように、ステップ100(S100)において、同一性判定システム1は、ユーザの操作に応じて、同一性が未知である用紙20上の照合基準領域Aに対応する領域を含む領域を小型読取り装置36によって照合用パターンの探索領域5(図2)として撮像することにより特定する。
【0029】
ステップ102(S102)において、制御部38は、探索領域5内で照合用領域Bを設定し、設定した照合用領域Bに対して特徴量の分布を示す照合用パターン50を生成する。
【0030】
ステップ104(S104)において、制御部38は、特定した探索領域5内で選択可能な照合用領域B(観測領域)を全て探索することを終了したか否かを判定し、終了していない場合にはS106の処理に進み、終了した場合にはS108の処理に進む。
【0031】
ステップ106(S106)において、制御部38は、探索領域5内で照合用領域Bをx方向又はy方向に1画素分ずらして(シフトさせて)設定する。
【0032】
ステップ108(S108)において、制御部38は、探索領域5から生成した照合用パターン50それぞれの基準パターン40に対する相関値を算出し、相関値の最大値を抽出する。
【0033】
ステップ110(S110)において、制御部38は、照合用パターン50のノーマライズドスコアを算出する。
【0034】
ステップ112(S112)において、制御部38は、照合用パターン50の相関値の最大値及び相関値の最大値のノーマライズドスコアに基づいて、用紙20の同一性を判定する。
【0035】
ステップ114(S114)において、UI部34は、用紙20の同一性の判定結果を表示(出力)する。
【0036】
次に、基準パターン40及び照合用パターン50を構成する要素400と、判定対象の同一性の判定精度との関係について説明する。
同一性判定システム1は、上述したように用紙20を形成する植物繊維の絡み具合によって、小型読取り装置36が用紙20を撮像した画像データに濃度差が生じることに注目して用紙20の同一性を判定する。用紙20は、植物繊維の幅を単位に特徴量が変化している。また、植物繊維の幅は、一般に4〜70μmである。
【0037】
例えば用紙20を形成する植物繊維の幅が平均20μmである場合、撮像素子362の1画素当たりの観測領域の一辺(要素400の一辺)が4μm未満の場合、フィブリル(繊維の損傷により内部のフィブリルが露出した状態)等の不安定なランダムパターンを観測することになり、基準パターン40と照合用パターン50との照合の精度が下がってしまう。
一方、撮像素子362の1画素当たりの観測領域の一辺(要素400の一辺)が200μmを超える場合、植物繊維の絡み具合によって生じる観測領域内の画像データ上の濃度が平均化されてしまい、特徴量の差が生じにくくなってしまう。
【0038】
図6において、異なる用紙20を照合した場合、及び同一の用紙20を照合した場合における基準パターン40に対する照合用パターン50の類似度と、照合用パターン50を正規化した頻度との関係が示されている。
用紙20の同一性を判定する場合、同一の用紙20を異なる用紙20と判定する誤りと、異なる用紙20を同一の用紙20とする誤りとが発生し得る。同一性判定システム1は、同一の用紙20を異なる用紙20と判定する誤り率(FRR:False Reject Ratio)、及び異なる用紙20を同一の用紙20とする誤り率(FRR:False Accept Ratio)が共に略0になるように閾値Thを設定されることが好ましい。つまり、同一性判定システム1は、図6に示すように、類似度に対する閾値Thによって用紙20の同一性を判定する場合、FRRに対応する分布hFRRとFARに対応する分布hFARがそれぞれ0になるように設定されることが好ましい。
【0039】
図7において、同一性判定システム1が異なる解像度で基準パターン40及び照合用パターン50を生成した場合における相関値の最大値及びノーマライズドスコアと、同一性を判定する精度との関係を示した実験結果が示されている。なお、図7に示した実験結果においては、標準偏差が10に対応するように変換されている。
【0040】
実験に用いた用紙は、広葉樹(植物繊維の幅が10〜50μm)及び針葉樹(植物繊維の幅が20〜70μm)から作られた普通紙である。図7(A)〜図7(G)は、解像度が順に100,200,300,400,600,800,1200dpiとなっている。つまり、図7(A)〜図7(G)それぞれにおける1画素当たりの観測領域の一辺(要素400の一辺)は、254,127,85,64,42,32,21μmである。図7において、領域aはFARが0であってもFRRが0でない領域を示し、領域bはFAR及びFRRが共に0である領域を示し、領域cはFRRが0であってもFARが0でない領域を示しており、領域bが広いほど同一性の判定精度が高い設定であることが示されている。
【0041】
図7(A)に示した比較例(100dpi:要素400の一辺が254μm)においては、同一性の判定精度を高くすることが困難であることが示されている。また、解像度が高くなり(要素400の一辺が小さくなり)すぎても、狭い面積を詳細に観測していることとなり、同一性の判定精度を高くすることが困難になる傾向があることが示されている。
【0042】
このように、植物繊維の絡み合いに由来するランダムパターンの平均周期、即ち植物繊維の幅と、1画素当たりの観測領域(要素400のサイズ)との間には、同一性の判定精度を高くするために適切な関係があり、要素400の一辺の長さをpとし、判定対象にランダムに分布する異なる特徴量の平均分布間隔(植物繊維の平均幅など)をwとすると、下式2の関係が成り立つ場合に、判定対象の同一性を判定するために必要十分な情報が基準パターン40及び照合用パターン50から得られることがわかる。
【0043】
10w≧p≧w/5 ・・・(2)
【0044】
また、基準パターン40及び照合用パターン50は、要素400(画素)の数をdとし、各画素それぞれの濃度レベルをqとすると、記述可能なパターン数がqのd乗通りとなる。用紙を形成する植物繊維の幅が4〜70μmであるため、解像度を2400dpiとすると、要素400の一辺の長さが11μmとなり、照合基準領域A及び照合用領域Bが狭く設定される場合、基準パターン40及び照合用パターン50は、ごく少数の植物繊維に由来する特徴量の分布を反映することとなり、同一性の判定精度を高くすることが困難である。例えば基準パターン40及び照合用パターン50が8×8の要素400(画素)から構成される場合、照合基準領域A及び照合用領域Bは、約85μm×85μmの面積となり、数本の植物繊維しか存在しないことが考えられる。したがって、十分な判定精度を得るために、基準パターン40及び照合用パターン50は、直交する方向それぞれに要素400を16以上有するパターンであることが好ましい。
【0045】
但し、基準パターン40及び照合用パターン50を構成する要素400の数が多くなると、同一性を判定するために必要な演算量が多くなるので、基準パターン40及び照合用パターン50は、16×16〜256×256の要素400から構成されることが好ましい。解像度が高い場合には、基準パターン40及び照合用パターン50が多くの要素400から構成されなければ同一性の判定精度を上げることができない。よって、判定対象が用紙の場合には、要素400の一辺の長さが42〜85μm(600〜300dpi)であり、要素400の数が32×32〜256×256であることが好ましい。
【0046】
また、撮像素子362の解像度が高く、1画素当たりの観測領域の一辺の長さが4μm未満である場合には、制御部38が受入れた画像データを標本化(モザイク処理など)することによって、要素400の一辺の長さが4μm以上になるようにしてもよい。
【0047】
なお、本実施形態においては、判定対象が用紙である場合を例に説明したが、これに限定されることなく、同一性判定システム1は、異なる特徴量がランダムに分布する判定対象であれば、判定対象の同一性を精度よく判定することができる。例えば、判定対象が不織布の一種であるフェルトの場合、フェルトの繊維である羊の毛(ウール)の太さが18〜25μmであり、繊維の平均径を20μmとすると、上記実施形態と同様に、要素400の一辺の長さを4μm〜200μmの範囲内に設定することが好ましい。
【0048】
また、画像形成装置によって用紙に定着させたトナーによるパターンの周辺において、トナーのパターン周辺のランダムなトナーの飛散りを観測する場合、トナー粒子(数μm〜10μm)の凝集等を考慮して、要素400の一辺の長さを4μm〜200μmの範囲内に設定することが好ましい。
【0049】
また、金属光沢塗装面などの塗料に分散された金属粒子の平均粒子径は15〜30μmであるため、金属光沢塗装面の同一性を判定する場合にも、要素400の一辺の長さを4μm〜200μmの範囲内に設定することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施形態に係る同一性判定システムの概要を示す構成図である。
【図2】小型読取り装置が読取る用紙上の読取り領域例である。
【図3】基準パターン及び照合用パターンの構成を示す画像パターンである。
【図4】探索領域から基準パターンと類似度の高い画像パターンが生成されるか否かを制御部が探索する状態を示す模式図である。
【図5】同一性判定システムが用紙などの判定対象の同一性を判定する処理(S10)を示すフローチャートである。
【図6】異なる用紙を照合した場合、及び同一の用紙を照合した場合における基準パターンに対する照合用パターンの類似度と、照合用パターンを正規化した頻度との関係を示すグラフである。
【図7】同一性判定システムが異なる解像度で基準パターン及び照合用パターンを生成した場合における相関値の最大値及びノーマライズドスコアと、同一性を判定する精度との関係の実験結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0051】
1・・・同一性判定システム
2・・・印刷装置
20・・・用紙
3・・・文書処理装置本体
32・・・記憶部
34・・・UI部
36・・・小型読取り装置
360・・・読取り装置本体
362・・・撮像素子
364・・・窓部
366・・・読込みスイッチ
38・・・制御部
380・・・CPU
382・・・メモリ
4・・・読取り領域
40・・・基準パターン
400・・・要素
5・・・探索領域
50・・・照合用パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
未知の判定対象に対して照合用の特徴量の分布を示す1つ以上の照合用パターンを生成し、異なる特徴量がランダムに分布する判定対象に対して生成された基準となる特徴量の分布を示す基準パターンと前記照合用パターンとの相関により判定対象の同一性を判定する同一性判定方法において、少なくとも前記基準パターン及び前記照合用パターンのいずれかは、判定対象における異なる特徴量の平均分布間隔に基づいて、パターンを構成する要素のサイズが設定されていることを特徴とする同一性判定方法。
【請求項2】
異なる特徴量がランダムに分布する判定対象に対して生成された基準となる特徴量の分布を示す基準パターンに対して、未知の判定対象における前記基準パターンに対応すべき照合基準領域を含む探索領域を特定し、特定した探索領域内で選択可能な前記照合基準領域と略同じ面積を有する1つ以上の照合用領域に対して、照合用の特徴量の分布を示す1つ以上の照合用パターンを生成し、前記基準パターンに対する前記照合用パターンの相関値の最大値に基づいて判定対象の同一性を判定する同一性判定方法において、少なくとも前記基準パターン及び前記照合用パターンのいずれかは、判定対象における異なる特徴量の平均分布間隔に基づいて、パターンを構成する要素のサイズが設定されていることを特徴とする同一性判定方法。
【請求項3】
異なる特徴量がランダムに分布する判定対象に対して生成された基準となる特徴量の分布を示す基準パターンに対して、未知の判定対象における前記基準パターンに対応すべき照合基準領域を含む探索領域を特定し、特定した探索領域内で選択可能な前記照合基準領域と略同じ面積を有する1つ以上の照合用領域に対して、照合用の特徴量の分布を示す1つ以上の照合用パターンを生成し、前記基準パターンに対する前記照合用パターンの相関値の最大値、及び相関値の最大値を正規化した値に基づいて判定対象の同一性を判定する同一性判定方法において、少なくとも前記基準パターン及び前記照合用パターンのいずれかは、判定対象における異なる特徴量の平均分布間隔に基づいて、パターンを構成する要素のサイズが設定されていることを特徴とする同一性判定方法。
【請求項4】
前記要素は、少なくとも一辺の長さが前記平均分布間隔の10倍以下に設定された四角形であることを特徴とする請求項1乃至3いずれか記載の同一性判定方法。
【請求項5】
前記要素は、少なくとも一辺の長さが前記平均分布間隔の5分の1以上に設定された四角形であることを特徴とする請求項1乃至4いずれか記載の同一性判定方法。
【請求項6】
前記基準パターン及び前記照合用パターンは、直交する方向それぞれに前記要素を16以上有するパターンであることを特徴とする請求項1乃至5いずれか記載の同一性判定方法。
【請求項7】
異なる特徴量がランダムに分布する判定対象に対して基準となる特徴量の分布を示す基準パターンを生成するパターン生成手段と、このパターン生成手段が生成した基準パターンを記憶する記憶手段とを有し、前記パターン生成手段が生成した基準パターン、及び基準パターンと照合される未知の判定対象に対する照合用パターンの少なくともいずれかは、判定対象における異なる特徴量の平均分布間隔に基づいて、パターンを構成する要素のサイズが設定されていることを特徴とする同一性判定システム。
【請求項8】
未知の判定対象に対して照合用の特徴量の分布を示す1つ以上の照合用パターンを生成するパターン生成手段と、異なる特徴量がランダムに分布する判定対象に対して基準となる特徴量の分布を示す基準パターンと前記パターン生成手段が生成した照合用パターンとの相関により判定対象の同一性を判定する判定手段とを有し、前記パターン生成手段が生成した照合用パターン及び基準パターンの少なくともいずれかは、判定対象における異なる特徴量の平均分布間隔に基づいて、パターンを構成する要素のサイズが設定されていることを特徴とする同一性判定システム。
【請求項9】
パターンを構成する要素は、少なくとも一辺の長さが判定対象における異なる特徴量の平均分布間隔の10倍以下に設定された四角形であることを特徴とする請求項7又は8記載の同一性判定システム。
【請求項10】
パターンを構成する要素は、少なくとも一辺の長さが判定対象における異なる特徴量の平均分布間隔の5分の1以上に設定された四角形であることを特徴とする請求項7乃至9いずれか記載の同一性判定システム。
【請求項11】
基準パターン及び照合用パターンは、直交する方向それぞれにパターンを構成する要素を16以上有するパターンであることを特徴とする請求項7乃至10いずれか記載の同一性判定システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2007−34380(P2007−34380A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−212569(P2005−212569)
【出願日】平成17年7月22日(2005.7.22)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】