説明

同一航跡判定装置

【課題】航跡作成装置が異なるセンサであっても、処理負荷を削減し、なおかつ、それまでに得られた信頼度を蓄積し、多くの航跡が密集した状態等、位置運動情報(航跡間の距離及び速度)に差がつかない状況においても、安定した確度の高い相関結果を得ることのできる同一航跡判定装置を得る。
【解決手段】従来の同一航跡判定装置の位置相関判定器7に目標類識別データ選択器11および目標類識別相関判定器12を取りつけ、位置相関判定で絞り込まれた相関の可能性がある航跡対を、目標特徴量から類推される目標類識別結果を用いてさらに絞り込む。次に従来の同一航跡判定装置の尤度算出器14に信頼度算出器15を、信頼度算出器15に信頼度記憶器16を取りつけ、航跡データ対についての信頼度を尤度算出器14で算出された尤度、及び信頼度記憶器16に記憶されている1サンプリグ前の信頼度を用いて算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、異なる複数の航跡作成装置で作成された各航跡が、同一目標か否かを判定する同一航跡判定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の同一航跡判定装置においては、サンプリング毎に航跡作成装置で作成された複数の航跡に対して、各航跡の位置運動情報である誤差共分散行列を用いたχ自乗検定を行うことにより航跡間の相関可能性を考慮し、相関可能性のある航跡を複数の同型の類と呼ばれる航跡群に分類し、各々の同型の類において航跡の組み合わせを矛盾なく抽出することにより、複数の仮説を生成する。そして、得られた各々の仮説に対し、サンプリング毎に得られた尤度を用いてその信頼度を計算し、最も高い信頼度があるしきい値を越えている場合にその仮説が正しいとし、全ての航跡の組み合わせを一つに決定した相関結果を得る。最も高い信頼度があるしきい値を越えていない場合、正しい仮説はないと判定し、決定を次回以降のサンプリングに持ち越す(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平06−094830号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように、従来の同一航跡判定装置では、相関の可能性がある全ての航跡対の組み合わせを生成し、信頼度を計算し、最終的に正しいと考えられる航跡の組み合わせを生成する。このため、全ての航跡対の組み合わせを生成する処理は、航跡数の増加とともに航跡数の階乗に比例した処理負荷となり、当該装置の運用上現実的ではない時間がかかっていた。
【0005】
また、従来の同一航跡判定装置は、それまでに得られた信頼度を使用せず、サンプリング毎に独立した相関判定を行うため、多くの航跡が密集した状態等においては航跡のランダム誤差成分の影響を受け易く、相関結果が毎回異なる等の確度の低い相関結果が得られる場合があった。
【0006】
さらに、従来の同一航跡判定装置は、前記のような処理負荷が増大する事態を回避するために、全ての航跡対の組み合わせを生成する処理の前段に、航跡間の距離及び速度の差から同一性を判定する処理を行い、そこで相関の可能性のあるものに対してだけ航跡対の組み合わせを生成し、処理負荷を抑制している。しかしながら、多くの航跡が密集した場合、位置運動情報(航跡間の距離及び速度)に差がつかず、多くの航跡が相関の可能性があると判定されるため、目的である処理負荷の抑制の効果が得られずにいた。
【0007】
また、従来の同一航跡判定装置においては、レーダセンサ等が出力する電波反射断面積等の航跡の特徴量を使用しないため、明らかにそれらの特徴が異なる場合であっても、位置運動情報から同一と判定されたときは、装置の運用者に同一航跡として表示している。そのため、装置の運用者が最終的に航跡の特徴量から同一航跡か否かを判定する必要があり、装置の運用者に負荷をかけるものとなっていた。
【0008】
さらに、同一航跡作成装置に入力される2つの航跡が、レーダと赤外線探知装置または電波傍受器等異なるセンサからの入力である場合、レーダからは電波反射断面積、赤外線からは撮像画像、電波傍受器からは電波の周波数帯、パルス幅等それぞれ異なる特徴量が得られる。そのため、特徴量から同一性を判定する場合、特徴量から目標の種別等を推定した上で比較を行う必要があり、運用者にさらなる負担をかけていた。
【0009】
この発明は上述のような課題を解決するためになされたもので、航跡作成装置が異なるセンサであっても、処理負荷を削減し、なおかつ、それまでに得られた信頼度を蓄積し、多くの航跡が密集した状態等位置運動情報に差がつかない状況においても、安定した確度の高い相関結果を得ることのできる同一航跡判定装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明に係る同一航跡判定装置は、2つの航跡作成装置より転送される航跡ベクトルおよびそれらの誤差を評価した誤差共分散行列からなる航跡データを記憶する航跡データ記憶器と、前記航跡データ記憶器から航跡データ対を選択する航跡データ対選択器と、前記航跡データ対選択器で選択された航跡対の相関可能性を判定する位置相関判定器と、前記相関判定器で相関可能性があると判定された航跡データ対を同型な類に分類する類生成器と、前記類生成器で算出された各々の類に属する航跡データ対が同一目標である可能性を示す尤度を算出する尤度算出器と、信頼度に基づいて各々の航跡データ対は相関があるか否かを判定する同一航跡検定器とを備えた同一航跡判定装置において、目標の類識別結果を用いて相関の可能性を判定し、前記位置相関判定器の結果をさらに絞り込む目標類識別相関判定器と、前記類生成器で生成された各々の同型な類に属する航跡対についての信頼度を前記尤度算出器で算出された尤度及び1サンプリグ前の信頼度を用いて算出する信頼度算出器と、前記信頼度算出器で1サンプリング前に算出された航跡データ対毎の信頼度を記憶する信頼度記憶器とをさらに備え、前記同一航跡検定器は、前記信頼度算出器で算出された信頼度に対して信頼度判定を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、多くの航跡が密集し、位置運動情報(航跡間の距離及び速度)に差がつかない場合においても、航跡の特徴量を用いた相関判定を行うことにより、事前に相関の可能性がある航跡の組合せを絞り込み、運用上妥当な処理時間で安定した確度の高い相関結果を出力することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係る同一目標判定装置の構成を示すブロック図である。図1において、レーダ等に付随した航跡作成装置1及び航跡作成装置2の出力(航跡ベクトル、及び航跡ベクトルの誤差共分散行列)は、この発明の同一航跡判定装置3に入力され、同一航跡判定装置3は、その入力から同一の目標から得られた航跡データの対(航跡対)を抽出する。また、同一航跡判定装置3の出力(同一の目標から得られた航跡対)は、同一航跡表示装置4に入力され、装置の使用者に対して表示を行う。
【0013】
次に、同一航跡判定装置3の内部について説明する。航跡作成装置1及び航跡作成装置2から出力される航跡ベクトルおよびそれらの誤差を評価した誤差共分散行列からなる航跡データは、航跡データ記憶器5に入力され、航跡データ記憶器5にあるサンプリング時刻tでの航跡データが全て記憶される。
【0014】
航跡データ対選択器6では、航跡データ記憶器5に記憶された航跡作成装置1の航跡T1k(i)と航跡作成装置2の航跡T2k(j)の組み合わせを航跡対として1つ1つ選択し、位置相関判定器7に出力する。
【0015】
位置相関判定器7では、入力された航跡対{T1k(i)、T2k(j)}の航跡ベクトルから相関可能性を判定し、目標類識別データ選択器11に出力する。
【0016】
目標類識別推定器8では、航跡データ記憶器5に記憶された航跡作成装置1の航跡T1k(i)と航跡作成装置2の航跡T2k(j)の特徴量、目標特徴量データベース9に登録されている目標から得られる特徴量の条件付確率及び目標類識別記憶器10に記憶されている1サンプリング前の目標類識別推定結果から、目標の類識別を推定し、目標類識別データ選択器11に出力する。
【0017】
目標特徴量データベース9では、あらかじめ格納されている目標から得られる特徴量の条件付確率を、目標類識別推定器8へ出力する。
【0018】
目標類識別記憶器10では、目標類識別推定器8で算出された目標の類識別結果を格納し、目標類識別データ選択器11に出力する。また、1サンプリング前の目標の類識別結果を目標類識別推定器8に出力する。
【0019】
目標類識別データ選択器11では、位置相関判定器7で相関可能性ありと判定された航跡対{T1k(i)、T2k(j)}の目標類識別結果を、目標類識別記憶器10から選択し、目標類識別相関判定器12に出力する。
【0020】
目標類識別相関判定器12では、目標類識別データ選択器11から入力した航跡対{T1k(i)、T2k(j)}の目標類識別結果から、相関可能性を判定し、類生成器13に出力する。
【0021】
類生成器13では、入力された航跡対毎の相関可能性から、航跡データ記憶器5に記憶されている航跡の集合{T1k(i)}と{T2k(j)}を同型な類の集合{Xlk}に分類し、類Xlkに含まれる航跡作成装置1の航跡{T1,lk(i)}と航跡作成装置2の航跡{T2,lk(j)}とともに、尤度算出器14に出力する。
【0022】
尤度算出器14では、入力された同型な類Xlkに含まれる各々の航跡対{T1,lk(i)、T2,lk(j)}の尤度{glk(i,j)}を航跡ベクトルの差分、及び航跡ベクトルの誤差共分散を用いて算出し、信頼度算出器15に出力する。
【0023】
信頼度算出器15では、尤度算出器14から入力された尤度{glk(i,j)}と信頼度記憶器16に記憶されている前回のサンプリング時刻tk−1における信頼度{βlk−1(i,j)}を用いて、航跡対の組み合わせ{T1,lk(i)、T2,lk(j)}の信頼度{βlk(i,j)}を算出し、信頼度記憶器16及び同一航跡検定器17に出力する。
【0024】
信頼度記憶器16では、信頼度算出器15から入力される航跡対{T1,lk(i)、T2,lk(j)}の信頼度{βlk(i,j)}を記憶する。
【0025】
同一航跡検定器17では、信頼度算出器15から入力される航跡対{T1,lk(i)、T2,lk(j)}の信頼度βlk(i,j)の値により、当該の航跡対が同一目標から得られたものか否かを判定し、同一目標から得られたものである場合、同一航跡表示装置へ出力する。
【0026】
以上が実施の形態1の構成である。装置の構成要素の内、5〜11及び13〜17の構成は従来の技術であり、目標類識別相関判定器12、信頼度算出器15及び信頼度記憶器16がこの発明の実施の形態1による部分である。
【0027】
図2は、図1に示す実施の形態1に係る同一航跡判定装置の動作を説明するフローチャートである。図2のステップST1において、航跡データ記憶器5では、あるサンプリング時刻tでの航跡作成装置1及び航跡作成装置2からの航跡データ(位置、速度からなる航跡ベクトルTlk(i)、T2k(j)及び各航跡の誤差共分散行列Plk(i)、P2k(j)、目標の特徴量ベクトルAlk(i)、A2k(j))が全て記憶される。
【0028】
次いで、ステップST2において、航跡データ対選択器6により航跡データ記憶器5から選択された航跡対{T1k(i)、T2k(j)}が位置相関判定器7に入力され、式(1、式(2)及び式(3)を同時に満たす場合、相関可能性ありと判定する。
【0029】
【数1】

【0030】
【数2】

【0031】
【数3】

【0032】
ただし、{x1k(i)、y1k(i)、z1k(i)}:航跡ベクトルT1k(i)の位置成分、{vx1k(i)、vy1k(i)、vz1k(i)}:航跡ベクトルT1k(i)の速度成分、{x2k(j)、y2k(j)、z2k(j)}:航跡ベクトルT2k(j)の位置成分、{vx2k(j)、vy2k(j)、vz2k(j)}:航跡ベクトルT2k(j)の速度成分、θk(i,j):航跡ベクトルT1k(i)と航跡ベクトルT2k(j)の進行方向の角度差、d:実験的に決定する位置の差のしきい値、d:実験的に決定する速度の差のしきい値、θ:実験的に決定する進行方向の角度差のしきい値である。
【0033】
次いで、ステップST3において、目標類識別推定器8に、航跡データ記憶器5からはあるサンプリング時刻tでの航跡作成装置1及び航跡作成装置2からの航跡の特徴量ベクトルA1k(i)、A2k(j)が、目標特徴量データベース9からは目標から得られる特徴量の条件付確率P(Alk(i)|H(l))及びP(Ak(i)|H(l))が、目標類識別記憶器10からは1サンプリング前の目標類識別結果P(Zlk−1(i)|H(l))、P(Z2k−1(i)|H(l))が入力され、式(4)からサンプリング時刻tにおける目標類識別結果P(H(l)|Zlk(i))、P(H(l)|Z2k(i))を算出し、目標類識別記憶器10に出力する。
【0034】
【数4】

【0035】
ただし、Amk(i):サンプリング時刻tにおける航跡作成装置m(m=1または2)からの航跡の特徴量ベクトル、Zk(i):サンプリング時刻tまでに得られた航跡作成装置m(m=1または2)からの航跡の特徴量ベクトルAmk(i)の集合、H(l):目標特徴量データベース9に登録されているl番目の目標タイプ、P(H(l)|Zk(i)):サンプリング時刻tまでに得られた特徴量ベクトルAmk(i)の集合Zk(i)から推定される目標がH(l)である確率、P(Ak(i)|H(l)):目標特徴量データベースに登録されている目標がH(l)である場合に特徴量Ak(i)が得られる条件付確率、P(H(l)|Zk−1(i)):サンプリング時刻tk−1までに得られたZk1(i)から推定される目標がH(l)である確率である。なお、目標特徴量データベース9に登録されているすべての目標タイプについて、分母の和がとられる。
【0036】
次いで、ステップST4において、位置相関判定器7で算出された相関可能性のある航跡{T1k(i)、T2k(j)}の目標類識別結果が、目標類識別データ選択器11により目標類識別記憶器10から選択され、目標類識別相関判定器12に入力される。目標類識別相関判定器12では、式(5)により目標の特徴量による同一性を算出し、Pk(i,j)が式(6)の条件を満たすとき航跡{T1k(i)、T2k(j)}が同一目標である可能性があると判定する。
【0037】
【数5】

【0038】
【数6】

【0039】
ただし、P(H(l)|Zk(i)):サンプリング時刻tにおける航跡T1k(i)が目標H(l)である確率、P(H(l)|Zk(j)):サンプリング時刻tにおける航跡Tk(j)が目標H(l’)である確率、Pk(i,j):航跡{T1k(i)、T2k(j)}が同一目標である確率、c': 実験的に決められたある値である。
【0040】
次いで、ステップST5において、類生成器13では、位置相関判定器7で算出された相関可能性及び式(7)〜式(9)により同型な類を算出し、尤度算出器14に出力する。
【0041】
同型な類の算出方法は以下の通りである。
【0042】
航跡作成装置1で作成された航跡Tlk(i)とTlk(j)が航跡作成装置2で作成されたT2k(m)と相関可能性がある場合、航跡T1k(i)とT1k(j)を類似航跡と呼び、式(7)と書く。
【0043】
【数7】

【0044】
航跡作成装置1の航跡が式(8)の関係にある時、T1k(i)とT1k(j)は同値関係にあるといい、式(9)と書く。同値関係にある航跡群を類と呼び、航跡作成装置1の類X1kのある航跡と航跡作成装置2の類X1kのある航跡に相関可能性がある場合、類X1kと類X2kは同型な類Xlkと呼ぶ。
【0045】
【数8】

【0046】
【数9】

【0047】
次いで、ステップST6において、尤度算出器14では、類生成器13で算出された同型な類Xlkに含まれる航跡対{T1,lk(i)、T2,lk(j)}の尤度glk(i,j)を式(10)により算出し、式(13)の尤度行列XGlkとして信頼度算出器15に出力する。
【0048】
尤度算出式は以下の通りである。
【0049】
【数10】

【0050】
ただし、f(T1,lk(i)−T2,lk(j)、P1,lk(i)、P2,lk(j)):航跡対{T1,lk(i)、T2,lk(j)}の一致の度合いを表す尤度関数、P1,lk(i):T1,lk(i)の誤差共分散行列、P1,lk(j):T2,lk(j)の誤差共分散行列である。
【0051】
具体的な尤度算出式の例として、式(11)のχ自乗分布関数を用いる方法や、式(12)の航跡ベクトルの差の2次形式の逆数を用いる方法がある。
【0052】
【数11】

【0053】
【数12】

【0054】
ただし、{T1,lk(i)−T2,lk(j)}T:{T1,lk(i)−T2,lk(j)}の転置行列を示す。
【0055】
尤度行列XGlkは以下の通りである。
【0056】
【数13】

【0057】
ただし、M:類Xlkに含まれる航跡作成装置1の航跡数、N:類Xlkに含まれる航跡作成装置2の航跡数である。
【0058】
次いで、ステップST7において、信頼度算出器15では、尤度算出器14で算出された式(13)の尤度行列XGlk、及び信頼度記憶器16に保持されている時刻tk−1における式(14)の類Xlkの信頼度行列XBlk−1を入力し、式(15)〜式(16)により時刻tにおける航跡対{T1,lk(i)、T2,lk(j)}の信頼度βlk(i,j)を全てのM×N{(類Xlkに含まれる航跡作成装置1の航跡数)×(類Xlkに含まれる航跡作成装置2の航跡数)}の行列要素について算出し、式(14)の信頼度行列XBlkを信頼度記憶器16に記憶させ、同一航跡検定器17に出力する。
【0059】
信頼度行列XBlk−1は以下の通りである。
【0060】
【数14】

【0061】
ただし、時刻tにおいて類Xlkが初めて生成された場合は、信頼度記憶器には信頼度行列XBlk−1が記憶されていないため、βlk(i,j)=(実験的に決定されたある一定値)として用いる。
【0062】
信頼度βlk(i,j)の式は以下の式(15)〜式(16)の通りである。
【0063】
まず、航跡対{T1,lk(i)、T2,lk(j)}の時刻tにおける尤度glk(i,j)と1サンプリング前の信頼度βlk−1(i,j)を用い、時刻tまでに得られた尤度の積に比例する、信頼度の重みγlk(i,j)を式(15)により求める。
【0064】
【数15】

【0065】
次に、航跡対{T1,lk(i)、T2,lk(j)}は相関があるという仮説に対して背反する仮説(航跡T1,lk(i)は航跡T2,lk(j):j=1、2、・・・、Nと相関がある、または航跡T2,lk(j)は航跡T1,lk(i):i=1、2、・・・、Mと相関があるという仮説)の信頼度の重みγlk(m,j)(ただし、m=1、2、・・・、M)、γlk(i,n)(ただし、n=1、2、・・・、N)を用いて時刻tにおける信頼度の重みγlk(i,j)を規格化し、式(16)により時刻tにおける信頼度βlk(i,j)を求める。
【0066】
【数16】

【0067】
信頼度行列XBlkは以下の通りである。
【0068】
【数17】

【0069】
次いで、ステップST8において、同一航跡検定器17では、信頼度算出器15で算出された信頼度行列XBlkの要素βlk(i,j)に対して、式(18)の信頼度判定を行う。βlk(i,j)が信頼度判定の条件を満たした場合、航跡対{T1,lk(i)、T2,lk(j)}のχ自乗判定を式(19)を用いて行う。航跡対{T1,lk(i)、T2,lk(j)}がχ自乗判定の条件を満たした場合、その2つは同一航跡であるとして、同一航跡表示装置4に出力され、装置の使用者が確認できる。
【0070】
信頼度の判定式は以下の通りである。
【0071】
【数18】

【0072】
ただし、c:実験的に決められたある値
【0073】
χ自乗判定の条件式は以下の通りである。
【0074】
【数19】

【0075】
ただし、d:実験的に決められたある値
【0076】
以上が実施の形態1の動作である。ステップST1〜ステップST3、及びステップST6、ステップST8は従来の技術であり、ステップST4の目標類識別相関判定器12、ステップST7の信頼度算出器15、及び信頼度記憶器16の動作がこの発明にかかる部分である。
【0077】
従って、実施の形態1によれば、目標類識別相関判定器12を設けることにより、多くの航跡が密集し、位置運動情報(航跡間の距離及び速度)に差がつかない場合においても、航跡の特徴量を用いた相関判定により、事前に相関の可能性がある航跡の組合せを絞り込みが可能となり、さらに、同一航跡作成装置に入力される航跡の種類が異なる場合であっても、航跡の特徴量から目標の種別を類推し、同一航跡か否かを判定できる同一航跡判定装置を得ることができる。また、信頼度算出器15、及び信頼度記憶器16を設けることにより、全ての航跡対の可能な組み合わせを生成することなく、処理負荷を航跡数の自乗程度(M×N)に抑制し、なおかつ過去に得られた信頼度を使用することにより、多くの航跡が密集した状態等においても運用上妥当な処理時間内で、安定した確度の高い相関結果を装置の運用者に提供することができる。
【0078】
実施の形態2.
上述した実施の形態1では、過去に得られた信頼度を使用することにより、安定した確度の高い相関結果を得ることができる。しかしながら、航跡対の信頼度は、時間の経過とともに過去に得られた信頼度の重みが大きくなるため、航跡作成装置から入力される航跡の相関状況が変化した場合、各々の航跡対の信頼度が新しい状況を反映した信頼度となるまでに多くの時間を必要とする、または各々の航跡対の信頼度が新しい状況を反映することが不可能となる状況が発生する。例えば、相関の可能性が低い航跡対の信頼度は時間の経過とともに0に近づくため、後に当該航跡対の相関の可能性が高くなったとしても、実施の形態1ではその状況を逐次反映することができなくなる。また、信頼度の初期値は、航跡対の尤もらしさに関する事前情報がないため一律同じ値が設定され、信頼度が正しい状況を反映するまでに時間がかかる問題がある。
【0079】
この実施の形態2では、このような状況を避けるため、各々の航跡対の信頼度を一定範囲内に制限し、相関状況の変化に対しても適切な時間内で各々の航跡対の信頼度が反応できるようにし、なおかつ信頼度の初期値に尤もらしい値を設定し、信頼度が正しい状況を反映するまでの時間を短縮したものである。
【0080】
図3は、この発明の実施の形態2に係る同一航跡判定装置の構成を示すブロック図である。図3における1〜11及び13〜14までは実施の形態1に係る図1の構成と同様のため、その説明を省く。
【0081】
目標類識別相関判定器12aでは、実施の形態1の目標類識別相関判定器12と同様に、式(5)により航跡{T1k(i)、T2k(j)}が同一目標である確率Pk(i,j)を算出し、信頼度初期値設定器19に出力する。
【0082】
信頼度初期値設定器19では、目標類識別相関判定器12aから入力された航跡{T1k(i)、T2k(j)}が同一目標である確率Pk(i,j)を、信頼度記憶器16aに信頼度行列XBlkの初期値βlk−1(i,j)として出力する。
【0083】
信頼度算出器15aでは、実施の形態1の信頼度算出器15と同様に、式(17)の信頼度行列XBlkを算出し、信頼度制限器18に出力する。
【0084】
信頼度制限器18では、信頼度算出器15aから入力される航跡対の組み合わせ{T1,lk(i)、T2,lk(j)}の信頼度βlk(i,j)をある一定値内に制限し、信頼度記憶器16a及び同一航跡検定器17aへ出力する。
【0085】
信頼度記憶器16aでは、信頼度制限器18から入力される信頼度行列XBlkを記憶する。また、初期値を設定する必要がある航跡対に関しては、信頼度初期値設定器19から入力される航跡{T1k(i)、T2k(j)}が同一目標である確率Pk(i,j)をXBlkの初期値βlk−1(i,j)として設定する。
【0086】
同一航跡検定器17aでは、信頼度制限器18から入力される航跡対の組み合わせ{T1,lk(i)、T2,lk(j)}の信頼度βlk(i,j)に対し、実施の形態1の同一航跡検定器18と同様の動作を行う。
【0087】
図4は、図3の実施の形態2の動作を説明するフローチャートである。
ステップST1〜ステップST3、ステップST5、ステップST7は実施の形態1と同様であるため、その説明を省く。
【0088】
図4のステップST4aにおいて、図3の目標類識別相関判定器12aでは、実施の形態1の目標類識別相関判定器12と同様に、航跡{T1k(i)、T2k(j)}の目標類識別結果から式(6)により航跡{T1k(i)、T2k(j)}が同一目標である確率Pk(i,j)を算出し、相関の可能性を判定する。加えて、前記で算出された航跡{T1k(i)、T2k(j)}が同一目標である確率Pk(i,j)を図3の信頼度初期値設定器19に出力する。
【0089】
次いで、ステップST6aにおいて、図3の信頼度算出器15aでは、実施の形態1の信頼度算出器15と同様に式(17)の信頼度行列XBlkを算出し、信頼度制限器18に出力する。また、信頼度行列XBlkの初期値βlk(i,j)は、信頼度記憶器16aにおいて、信頼度初期値設定器19から入力される航跡{T1k(i)、T2k(j)}が同一目標である確率Pk(i,j)が設定される。
【0090】
次いで、ステップST9において、信頼度制限器18では、信頼度算出器15aから入力される航跡対の組み合わせ{T1,lk(i)、T2,lk(j)}の信頼度βlk(i,j)を式(20)、及び式(21)によりある一定値内に制限し、信頼度記憶器16aに記憶させ、同一航跡検定器17aへ出力する。
【0091】
信頼度βlk(i,j)の上限式は以下の通りである。
【0092】
【数20】

【0093】
ただし、βupper:実験的に決定された信頼度の上限値である。
【0094】
信頼度βlk(i,j)の下限式は以下の通りである。
【0095】
【数21】

【0096】
ただし、βlower:実験的に決定された信頼度の下限値である。
【0097】
次いで、ステップST8aにおいて、同一航跡検定器17aでは、信頼度制限器18から入力された信頼度行列XBlkの要素βlk(i,j)に対して、実施の形態1の同一航跡検定器17と同様の信頼度判定を行い、同一航跡を同一航跡表示装置4に出力する。
【0098】
従って、実施の形態2によれば、実施の形態1と同様の動作を行う信頼度算出器15a、信頼度記憶器16a、同一航跡検定器17aに信頼度制限器18を接続し、各々の航跡対の信頼度を一定範囲内に制限するようにしたため、相関状況の変化に対しても適切な時間内で各々の航跡対の信頼度が反応できるようにし、相関状況の変化に応じた相関結果を装置の運用者に提供することができる。また、実施の形態1と同様の動作を行う目標類識別相関判定器12a、信頼度記憶器16aに信頼度初期値設定器19を接続し、目標の類識別結果から推定される航跡対が同一である確率を、航跡対が同一である信頼度の初期値に設定するようにしたため、信頼度が正しい状況を反映するまでの時間を短縮し、適切な時間内で相関結果を装置の運用者に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】この発明の実施の形態1に係る同一航跡判定装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図1の動作を説明するフローチャートである。
【図3】この発明の実施の形態2に係る同一航跡判定装置の構成を示すブロック図である。
【図4】図2の動作を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0100】
1 第1の航跡作成装置、2 第2の航跡作成装置、3 同一航跡判定装置、4 同一航跡表示装置、5 航跡データ記憶器、6 航跡データ対選択器、7 位置相関判定器、8 目標類識別推定器、9 目標特徴量データベース、10 目標類識別記憶器、11 目標類識別データ選択器、12 目標類識別相関判定器、13 類生成器、14 尤度算出器、15 信頼度算出器、15a 信頼度算出器、16 信頼度記憶器、16a 信頼度記憶器、17 同一航跡検定器、17a 同一航跡検定器、18 信頼度制限器、19 信頼度初期値設定器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの航跡作成装置より転送される航跡ベクトルおよびそれらの誤差を評価した誤差共分散行列からなる航跡データを記憶する航跡データ記憶器と、
前記航跡データ記憶器から航跡データ対を選択する航跡データ対選択器と、
前記航跡データ対選択器で選択された航跡対の相関可能性を判定する位置相関判定器と、
前記相関判定器で相関可能性があると判定された航跡データ対を同型な類に分類する類生成器と、
前記類生成器で算出された各々の類に属する航跡データ対が同一目標である可能性を示す尤度を算出する尤度算出器と、
信頼度に基づいて各々の航跡データ対は相関があるか否かを判定する同一航跡検定器と
を備えた同一航跡判定装置において、
目標の類識別結果を用いて相関の可能性を判定し、前記位置相関判定器の結果をさらに絞り込む目標類識別相関判定器と、
前記類生成器で生成された各々の同型な類に属する航跡対についての信頼度を前記尤度算出器で算出された尤度及び1サンプリグ前の信頼度を用いて算出する信頼度算出器と、
前記信頼度算出器で1サンプリング前に算出された航跡データ対毎の信頼度を記憶する信頼度記憶器と
をさらに備え、
前記同一航跡検定器は、前記信頼度算出器で算出された信頼度に対して信頼度判定を行う
ことを特徴とする同一航跡判定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の同一航跡判定装置において、
前記信頼度算出器で算出された航跡データ対についての信頼度を一定範囲内に制限する信頼度制限器と、
前記目標類識別相関判定器で算出された目標の同一性を示す確率を、航跡データ対についての信頼度の初期値に設定する信頼度初期値設定器と
をさらに備え、
前記信頼度記憶器は、初期値を設定する必要がある航跡対に関しては、前記信頼度初期値設定器から入力される航跡対を初期値として設定すると共に、前記信頼度制限器から入力される信頼度を記憶し、
前記同一航跡検定器は、前記信頼度制限器から入力される航跡対の組み合わせの信頼度に対し信頼度判定を行う
ことを特徴とする同一航跡判定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−177884(P2006−177884A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−373713(P2004−373713)
【出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】