説明

同時シート材料パラメーターを取得するための、時間領域分光法(TDS)に基づく方法及びシステム

製造システム700によって製造されている間にシート材料の特性を非接触で特徴付ける、in-situ時間領域分光法(TDS)に基づく方法200。時間領域分光システム100及び該システム100用の較正データが提供される。較正データは、シート材料の水分含有量の関数として、シート材料を通る透過電力又はシート材料からの反射電力に対するデータを含む。製造システム700によって処理されている間に、シート材料サンプル130上のサンプル位置に、送信機111からTHz放射又は近THz放射の少なくとも1つのパルスが向けられる。検出器110により、サンプル位置からの少なくとも1つの透過パルス又は反射パルスに関連する透過放射又は反射放射が同時に検出され、サンプルデータが取得される。同時データであるサンプルデータが較正データと合わせて処理され(207、208、209)、キャリパー、坪量及び水分含有量から選択されるシート材料サンプル130の少なくとも1つ、概して複数の特性が確定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001]本発明は、包括的にはプロセス測定システムに関し、より詳細には、紙又はプラスチック等の製造されたシート材料の1つ又は複数のパラメーターを測定する時間領域分光法(TDS)に基づく測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
[0002]製紙プロセス中に行われるオンライン測定には、一般に、キャリパー(厚み)、坪量及び水分(たとえば%水分)が含まれる。これら測定値を、生産物の品質を維持し、したがって不合格品の量を最小限にすることを目的に、プロセス変数を制御するために使用することができる。測定値は、一般に、センサー(複数可)を幅方向(cross direction)(CD)として知られる方向に走査することによって、紙シートを横切る複数の位置で取得されるか、又は、流れ方向(machine direction)(MD)として知られる方向において抄紙機の長さに沿って複数の位置で測定を行うことができる。後述するように、キャリパー、坪量及び水分含有量の測定は、従来、3つの別個のセンサー/ゲージを用いて行われる。
【0003】
[0003]キャリパー測定は、一般に、シート材料に物理的に接触する装置によって、又は物理的に非接触のレーザー三角測量に基づく装置によって行われる。キャリパーセンサーには、シートの両面へのアクセスが必要である。一般に、接触装置は好まれない。それは、接触装置には摩損又は堆積物問題がある可能性があり、かつ接触装置はシートに跡を付ける可能性があるためである。レーザーを用いる装置には、一般に、高度な位置合わせ許容要件がある。
【0004】
[0004]坪量センサーは、主に、放射線源を使用し、したがって、一般に規制問題が伴う。キャリパーセンサーと同様に、坪量センサーは、シートの両面へのアクセスが必要である。
【0005】
[0005]水分測定システムは、通常、シートの水分含有量を測定する赤外線分光システムを備えている。分光システムは、透過モード又は反射モードのいずれかで動作することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
[0006]キャリパー、坪量及び水分の測定のために別個のセンサー/ゲージが必要であることには、いくつかの不都合がある。1つの不都合はシステムのコスト及び複雑性である。別の不都合は、同時測定を行うことができないということであり、本明細書で使用する「同時」とは、同じ時点にかつ同じ位置で行われる複数の異なる測定を指す。測定がすべて紙の同じ位置で行われない場合、それぞれの測定値を組み合わせて使用して紙に関する他の情報を推測する場合に、誤差が発生する可能性がある。たとえば、ミリメートルからセンチメートルの規模の紙は、フォーメーションプロセスに起因していくつかのパラメーターにおいて比較的高い変動がある可能性がある。フォーメーションによってもたらされる水分の変動の場合、紙シート上の1cm間隔が空けられた2つの隣接する点の水分レベルは、1%程度の高さであることが知られている。2つの測定値を結合して、乾燥重量を計算するための坪量及びパーセント水分等の第3のパラメーターを計算する場合、2つの測定が紙の上の同じ位置で行われていない場合、それぞれの測定位置での水分含有量に著しい差があるため、計算された乾燥重量に誤差がもたらされる可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[0007]概要を、米国特許法施行規則(37C.F.R)第1.73条に従うように提供し、発明の本質及び内容を簡潔に示す発明の概要を提示する。これを、特許請求の範囲の範囲又はその意味を解釈又は制限するために使用されるものではないと理解して提示する。
【0008】
[0008]本発明の実施形態は、製造システムによって製作されたシート材料(たとえば紙又はプラスチック)の1つ又は複数の特性を特徴付ける、in-situ時間領域分光法(TDS)に基づく方法及びその方法からのシステムについて述べる。したがって、本発明の実施形態によるシステム及び方法は、非接触モードで動作可能である。
【0009】
[0009]本方法は、時間領域分光(TDS)システムとそのシステム用の較正データとを提供することを含み、較正データは、シート材料の水分含有量の関数としての、シート材料を通る透過電力若しくは電界又はシート材料からの反射電力若しくは電界、及び、概して、乾燥成分の屈折率及び密度に対するグレード依存較正を含む。
【0010】
[0010]テラヘルツ(THz)又は近THz放射の少なくとも1つのパルスは、製造システムによって処理されている間にシート材料サンプルのサンプル位置に向けられる。
[0011]本明細書で使用する、0.05THz〜50THzの周波数を有する放射を、本明細書では「THz又は近THz放射」であると呼ぶ。THz放射の場合、本技法はTHz−TDSを含む。THz領域の境界は、正確には画定されないが、一般には、30μm〜1500μmの波長、又は10THz〜0.2THzの周波数、又は330cm−1〜7cm−1の波数にあるものと解釈される。
【0011】
[0012]サンプル位置からの、少なくとも1つの透過パルスを含む透過放射、又は少なくとも1つの反射パルスを含む反射放射が同時に検出される。透過パルス又は反射パルスからのデータを較正データと共に処理して、水分含有量、物理的な厚み(キャリパー)及び坪量から選択されるシート材料サンプルの少なくとも1つの特性、概して複数の特性が確定される。本明細書で使用する「水分含有量」には、限定されないが水重量(WW)及びパーセント水分(PM)を含む、シート材料のすべての水分測度が含まれる。
【0012】
[0013]本技術分野で既知であるように、TDSは、生成及び検出方式を使用して、電磁放射の短いパルスにより材料の特性を調べる分光技法である。本発明者らにより、TDSは、THz又は近THz放射を使用して、放射の振幅及び/又は信号の位相の変化に基づいて、シート材料のキャリパー、坪量及び水分の確定を可能にする信号を検出するのに感度が高いことが分かった。信号の振幅を使用して、紙又は他のシート材料サンプルの含水量に関する情報を得ることができ、一方で、信号の位相を使用して、紙又は他のシート材料サンプルの厚み及び乾燥重量体積分率を得ることができる。この情報を較正データと組み合わせて用いることにより、シート材料サンプル(たとえば紙)の水分含有量(PMで表されるもの等)、キャリパー及び坪量を得ることができる。坪量が与えられると、PMからWWを確定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】[0014]本発明の一実施形態による、例示的なTHz又は近THz−TDS透過に基づくシート測定システムの概略図である。
【図2】[0015]図1に示す透過システム等の、THz又は近THz−TDSシステムから、紙であるものとして説明するシート材料サンプルのキャリパー(厚み)、坪量及びパーセント水分を得る例示的な方法のステップを示す図である。
【図3】[0016]本発明の一実施形態による、水重量(WW)を、基準透過パルス及び測定透過パルスの積分したパワースペクトル密度の比の対数に関連付ける較正曲線である。
【図4】[0017]コピー用紙から得られる水分の割合に対する測定値に基づく較正曲線適合を示す図である。
【図5】[0018]本発明の一実施形態による、透過に基づくTHz又は近THz−TDSシステムからの典型的な入力時間パルス及び出力時間パルスを示す図である。上部トレースは、THz−THDシステムから得られる時間基準及びサンプルパルスの電界の時間トレース(時間はピコ秒)を示し、下部トレースはそれらのフーリエ変換である。
【図6】[0019]紙を通るTHzパルスの透過によって得られる信号データに適合された物理モデルを示す図である。
【図7】[0020]製紙プロセス中にin-situ測定を提供する例示的な閉ループ制御シート材料製造システムのブロック図である。本システムは、生産物の品質を維持し不合格品の量を最小限にするようにプロセス変数を制御するために、in-situ測定値を使用するプロセスコントローラーを含む。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[0021]本発明を、添付図面を参照して説明する。図面を通じて、同様の又は等価の要素を指定するために同様の参照数字を使用する。図面は、一定比例尺で描かれておらず、単に本発明を例示するために提供されている。本発明のいくつかの態様を、例示のために応用例を参照して以下に説明する。本発明が完全に理解されるように、多くの特定の詳細、関係及び方法について示すことが理解されるべきである。しかしながら、当業者は、本発明を、特定の詳細のうちの1つ又は複数なしに又は他の方法で実施することができることを容易に理解するであろう。他の場合、本発明が不明瞭にならないように、既知の構造又は動作については詳細には示していない。本発明は、行為又は事象の例示する順序に限定されない。行為によっては、異なる順序で、かつ/又は他の行為若しくは事象と同時に発生する可能性があるためである。さらに、本発明による方法を実施するために、例示する行為又は事象のすべてが必要であるとは限らない。ここで、本発明を、その例示的な実施形態が示されている添付図面を参照して、以下に、より完全に説明する。しかしながら、本発明を、多くの異なる形態で具現化してもよく、本発明は、本明細書に示す実施形態に限定されるものと解釈されるべきではない。
【0015】
[0022]本発明者らは、近THz又はTHz−TDSをin-situで使用して、水重量、物理的な厚み(キャリパー)及び乾燥重量体積分率を含むシート材料の1つ又は複数のパラメーター/特性を同時に取得することができることが分かった。シート材料は、紙又はプラスチックを含むことができる。1つ又は複数の較正パラメーターと組み合わせてこれらパラメーター/特性から、シート材料のPM及び/又はWWを含むキャリパー、坪量及び水分含有量を取得することができる。
【0016】
[0023]較正パラメーターは、概して、電磁スペクトルのTHz又は近THzスペクトル領域における水の誘電率、試験対象の紙又は他のシート材料の乾燥成分屈折率、試験対象の紙の乾燥成分の密度、及び透過(又は反射)サンプル信号の電力に対する基準信号の電力比の対数に対する水重量の適合係数を取得するダブル(double)デバイ(Debye)モデルで使用される既知のデバイパラメーターを含む。
【0017】
[0024]含水率(パーセント水分(PM)で表されるもの等)及びWWを、サンプルを透過する近THz若しくはTHz電力又は電界を測定し、それを基準パルス(サンプルなし)と比較し、したがって水がどれだけパルスを減衰させたかを得ることにより、取得することができる。本技術分野において既知であるように、PMは以下の関係式を介してWWに関連する。すなわち、PM=WW/BWであり、ここでBWは坪量を表す(以下の式(12)で繰り返す)。BW=WW+DWであり、ここでDWは乾燥重量を表す(水は存在しない)。この減衰測定値及び(たとえば実験室の較正からの)較正データから、シート材料に存在する水の量に関連する測定値を確定することができる。
【0018】
[0025]含水率(PM又はWWとして表わされるもの等)はまた、反射配置を有するシステムにおいて同様の方法を介して得ることができる。反射に基づくシステムでは、THz送信機/エミッター及びTHz受信機/検出器はサンプルの同じ側にある。こうしたシステムでは、基準信号は、水を含まない反射面から取得され、サンプル信号は、サンプルからの反射したTHz信号又は近THz信号である。
【0019】
透過率に基づくシステムの場合、以下の通りである。
[0026]サンプルのキャリパー及び乾燥重量体積分率を、単層フィルム(たとえば1枚の紙)に対する透過率関数のモデルを、実験的に取得された透過THzパルスのモデルに適合させることによって得ることができる。使用することができる1つの物理モデルは以下の通りである。(M・ボーン(Born, M.)及びE・ウルフ(Wolf, E)著、「光学原理 第4版(Principles of Optics, 4th edition)」(Pergamon Press(1970))を参照されたい。)
【0020】
【数1】

【0021】
ここで、t12及びt23は、それぞれ第1のフィルム層界面及び第2のフィルム層界面における透過係数であり、r12及びr23は、それぞれ第1のフィルム層界面及び第2のフィルム層界面における反射係数であり、β=ω/c・n・hである。ここで、ωは、THz放射の角周波数であり、cは光の速度であり、hはフィルム厚みであり、nは、フィルム(たとえば紙)の複素屈折率である。式(1)の透過係数及び反射係数は以下によって与えられる。
【0022】
【数2】

【0023】
ここで、n及びnは、それぞれ、空気及び紙(又は他のシート材料)の屈折率である。空気の屈折率は、およそ1に等しく、紙の屈折率は、紙の乾燥成分屈折率と水の屈折率との一次結合である。乾燥成分屈折率は、概して較正ステップを介して得られ、著者により、紙のタイプによって決まることが分かった。水の屈折率は、その誘電関数を介して得られ、誘電関数を、概して、以下の形式のダブルデバイモデルで正確に記述することができる。
【0024】
【数3】

【0025】
ここで、εは静的誘電率であり、εは高周波数での極限値誘電率であり、εは誘電率の中間値であり、時定数τ及びτは、並進拡散及び回転拡散、水素結合再配置及び構造再配置に関連する。本明細書では、水の誘電率を記述するために概してダブルデバイモデルについて説明するが、他のモデル、たとえばシングル(single)デバイモデル又はいくつかの非デバイベースモデルを使用することも可能である。
【0026】
[0027]シート材料の屈折率を、以下のようにシート材料(たとえば紙)の誘電率を介して得ることができる。
【0027】
【数4】

【0028】
ここで、f及びfは、水の体積分率及び紙等の乾燥シート材料である。紙が水及び乾燥成分(たとえばセルロース)のみを含む場合、f=1−fである。本発明者らは、εを、当該周波数範囲にわたる実定数として近似することができることが分かった。しかしながら、本発明の実施形態はまた、フィルムの誘電率が吸収的(誘電率に対して非ゼロ虚数成分)でありかつ分散的であり得る場合も含む。
【0029】
[0028]屈折率は、以下の式により誘電関数に関連する。
【0030】
【数5】

【0031】
[0029]一実施形態では、紙を通るTHzパルスの透過率は、式(1)によって与えられる透過率関数を用いてモデル化される。そして、実験的に取得された透過THzパルスに対する上記モデルの2パラメーター最小二乗適合を実行することができる。適合から得られる2つの適合パラメーターは、乾燥成分体積分率及び物理的な厚みである。上述したように、含水量を、透過パルスの振幅から得ることができる。
【0032】
反射ベースシステムの場合は以下の通りである。
[0030]透過率システム構成の場合に上述したものと同じ方法を、反射構成で使用することができる。この構成では、透過率に対する式(式(1))の代りに、以下の反射率に対する式を使用することができる。
【0033】
【数6】

【0034】
[0031]図1は、本発明の一実施形態による例示的なTHz又は近THz−TDS透過に基づくシート測定システム100の簡略図である。本発明の実施形態で、種々の他のTHz−TDSに基づく測定システム構成を使用してもよく、それは、本発明の実施形態が、概して、水分含有率(PM及び/又はWW等)、キャリパー(厚み)及び坪量を含むシート材料の複数の特性のin-situ同時測定を可能にする新たなアルゴリズム及び関連較正データによって支持される、THz又は近THz−TDSシステムに対する新たな使用を含むためである。
【0035】
[0032]システム100は、光パルスのビームを放出する少なくとも1つのパルスレーザー源(たとえばフェムト秒(fs)レーザー)105を含む近THz又はTHz発生器を備えている。ビームスプリッター106が、光ビームを2つのビーム、すなわち反射ビーム102及び透過ビーム103に分割する。反射ビーム102は、「ダミー」遅延段を含む反射遅延構成光学系108に向けられる。ダミー遅延の目的は、THz−TDSシステム100の発信源(送信機)アーム及び受信機(検出器)アームの両方が、名目上等しい光路長を有するようにすることであり、これにより、発信源fsパルス及び受信機fsパルスが同じ元のfsパルスから導出されることになる。ダミー遅延の意図はノイズを最小限にすることである。しかしながら、このダミー遅延は概して必要ではなく、いくつかの応用形態では、THz−TDSシステム100を、概してダミー遅延なしに動作させることも可能である。
【0036】
[0033]透過ビーム103は、ミラー104を介して、線形遅延段として示す遅延構成光学系109に向けられる。遅延構成光学系108及び109は、反射ビーム102の検出器110への光路長を、透過ビーム103の近THz又はTHz送信機111への光路長に名目上等しくするように構成されている。
【0037】
[0034]近THz又はTHz送信機111は、シート材料のサンプル位置に0.05THz〜50THzの周波数を有するTHz又は近THz放射パルスを放出するように動作可能な送信アンテナを有している。THz送信アンテナには、概して、バイアス電圧が印加され(図1には示さず)、そのバイアス電圧を、システム100においてロックイン検出方式を利用するために変調することができる。検出器110は、入射放射によって照射されるサンプル130上の位置によって透過される近THz又はTHz放射を受信するように動作可能な受信アンテナを有している。本発明の実施形態は、本明細書に記載されている光伝導アンテナの使用には限定されない。たとえば、テルル化亜鉛(ZnTe)等の結晶を用いる光整流等の他の方法を用いてもよい。THz検出器110は、受信アンテナに結合され、また、シート材料サンプル130によって透過されるTHz又は近THz放射を同時に検出するために、遅延構成光学系108から遅延した光パルスを受け取るようにも結合されている。検出器110は、電気検出信号を発生する。図1は、サンプル130と相互作用するTHz集束ビームを示すが、当業者には、平行配置等の他の光学配置を使用することも可能であることが理解される。
【0038】
[0035]検出器110には、電気検出信号を受け取る信号処理システム125が結合されている。信号処理システム125は、概して、シート材料の水分含有量、キャリパー又は坪量の計算を可能にする較正係数の形式である較正データを格納するメモリ126を備えている。メモリ126はまた、シート材料の乾燥サンプルの屈折率及びシート乾燥成分の密度に対する格納された推定値も含むことができる。信号処理システム125はまた、概して、トランスインピーダンス(電流から電圧)増幅器、フィルタ及びアナログ対デジタル(A/D)変換器を含む、処理電子回路128も備えている。プロセッサ(たとえばDSP)127が、処理電子回路128から処理された電気信号(増幅され、フィルタリングされ、デジタル信号に変換された電気信号)を受け取る。プロセッサ127は、透過パルスに関連する信号を較正データ及び基準信号パルスと合わせて結合することにより、水分含有量、坪量及びキャリパーから選択されたシート材料サンプルの少なくとも1つの特性を確定する。
【0039】
[0036]検出電子回路は、概して、変調されたバイアス電圧が送信アンテナに印加されるロックイン検出方式(図1には示さず)を利用する。この変調信号はまた、システムの信号対雑音比を向上させると共にあらゆる背景雑音の影響を最小限にするロックイン検出電子回路にも供給される。発信源のフェムト秒レーザービーム105において、DCバイアス電圧がアンテナに印可される場合、機械式チョッパを使用してロックイン検出を具現化することができる。
【0040】
[0037]以下、システム100等のTHz又は近THz−TDSシステムから、紙であるものとして説明するシート材料サンプルのキャリパー(厚み)、坪量及びパーセント水分を同時に取得する例示的な方法200について説明する。図2を参照すると、ステップ201において、紙の各グレードに対して、本技術分野において既知である標準的な手続きに従って、「絶乾」サンプル(本質的に水分のないサンプル、以下「乾燥サンプル」)を作製する。ステップ202において、紙の各グレードに対して、種々の既知の水分レベルの広がりを有する加湿したサンプルのセットを用意する。これらのサンプルは、本システムが概して動作する水分範囲を網羅するべきである。ステップ203は、THz又は近THz−TDSシステムを使用する基準空気走査(すなわち、サンプルなしの走査)を含む。ステップ204において、ステップ201で用意した乾燥サンプルをTHz−TDSシステムに挿入し、乾燥サンプル走査を取得する。ステップ205において、乾燥サンプルの厚みを独立して測定する。乾燥サンプルの厚みを測定する1つの方法は、lab TAPPIゲージである。
【0041】
[0038]ステップ206において、周波数の関数としての乾燥成分屈折率を、ステップ205で測定した乾燥サンプル厚みを用いて物理モデルを適合することによって確定する。そして、透過率に基づくシステムの場合の透過率関数に対してモデルを適合することにより、サンプルの乾燥成分屈折率を計算することができる(式(1)又は反射に基づくシステムの場合は反射率関数(式(6))。適合を実行すると、ステップ205からの厚み測定値(たとえばTAPPIキャリパーゲージから)を入力し、概して、サンプルの屈折率に対する水の寄与がごくわずかであり、すなわち、乾燥成分分率が1であるものと想定する。この適合から、概して較正パラメーターのうちの1つを構成する乾燥成分屈折率が得られる。本発明者らは、紙の場合、この乾燥成分屈折率パラメーターが、通常THz領域において1.3〜1.5にあることが分かった。
【0042】
[0039]ステップ206の物理モデルは、空気、乾燥成分(セルロース及び灰)及び水の均質な混合物を含む薄い誘電体スラブとしてシート材料(たとえば紙)をモデル化することを含むことができる。モデルでは、混合物の比率及びシート材料の厚みを変化させることができる。種々の温度でのTHz帯の水の誘電率に対する既存のデータを取得することができる。ダブルデバイモデルを使用して、近THz又はTHz周波数で水の電磁応答をモデル化することができる。
【0043】
[0040]たとえば、ステップ206のモデル適合は、最小二乗適合を実行することを含むことができる。サンプルは、完全に乾燥サンプルから成る(すなわち、0%水分)と想定することができる。
【0044】
[0041]ステップ207は、THz−TDSシステムを使用して、ステップ202で用意した紙の加湿サンプルを測定することにより、透過に基づくシステムの場合は透過電力又は透過電界、反射に基づくシステムの場合は反射電力又は反射電界を取得することを含む。透過に基づくシステムの場合、その後、透過電力又は透過電界を、ステップ203で取得した基準透過電力(サンプルなしの透過電力)と比較する。図3に示すように、WWに対する較正曲線を表示することができる。以下の関数を、図3にプロットしている。
【0045】
【数7】

【0046】
ここで、WWは、グラム/平方メートル(GSM)での水重量であり、y(t)は基準パルス又は入射パルス(サンプルなし)であり、y(t)は出力パルス又はサンプルパルス(サンプルあり)であり、m及びCは較正定数である。PSDは、積分したパワースペクトル密度を意味し、ノルム二乗フーリエ変換の周波数にわたる積分として定義される。基準パルス電力とサンプルパルス電力との比の対数に対してプロットされている、図3に示すWWを、本質的に線形であるように示すが、線形関数である必要はない。
【0047】
[0042]ステップ202において加湿サンプルセットから得られた同じデータセットを使用して、別の較正パラメーター、すなわち乾燥成分の密度ρを得ることができる。この較正パラメーターを、水分含有率対(v/(1−v))のプロットを構成し、ρを得るように式(9)で与える式を適合することによって得ることができる。この適合を図4に示し、図4は、コピー用紙を含むサンプルから得られた、測定された水分の割合の値に基づく較正曲線適合を示す。この図の横座標は(v/(1−v))であり、vは、透過THzパルスに対する物理的適合から得られる乾燥重量体積分率である。図4の縦座標は、試験対象のサンプルの含水率である。この含水率を、独立した測定技法を用いて取得することができ、通常は、実験室で重量測定によって取得することができる。乾燥紙成分の密度を、以下のモデルに対する最小二乗パラメーター適合によって取得することができる。
【0048】
【数8】

【0049】
ここで、PMはパーセント水分であり、ρ及びρは水及び乾燥紙成分の密度である。水の密度を、公開文献から取得することができる。
[0043]図5に、THz−TDSからの典型的な入力時間パルス及び出力時間パルスを示す。上部トレースは、THz−TDSシステムから得られた時間基準及びサンプルパルスに対する電界の時間トレース(時間はピコ秒)を示し、下部トレースはそれらのフーリエ変換(周波数はTHz)である。
【0050】
[0044]ステップ208において、透過率システムの場合、シート材料サンプルの物理的な厚み及び乾燥重量体積分率を得るために、シート材料の透過率関数を使用することができる(上述した式(1)を参照されたい)。透過率関数のパラメーターを、計算された透過パルスと測定された透過パルスとの間の最小二乗誤差を最小化するように調整することができ、それにより、2パラメーター最小二乗適合を使用して物理モデルを適合する。図6は、THzパルスが紙を透過することによって得られる信号データに対して適合された物理モデルを示す。計算された透過パルスを、透過率関数を用いて基準パルスの畳み込み(時間領域における)を使用することにより、計算された透過パルスを見つけることができる。以下のように定義する。
【0051】
【数9】

【0052】
誤差関数を以下のように定義することができる。
【0053】
【数10】

【0054】
h:物理的な厚み
:乾燥重量体積分率
上記誤差関数を最小化することにより、紙又は他のシート材料の物理的な厚み(h)及び乾燥重量体積分率vを提供することができる。ステップ209において、PM及びBWを以下のように計算することができる。
【0055】
【数11】

【0056】
【数12】

【0057】
ここで、ρ:繊維密度、ρ:水密度である。
[0045]図7は、シート材料(たとえば紙)作製プロセス中にシート材料の複数の特性のin-situ同時測定を可能にする例示的な閉ループ制御シート材料製造システム700のブロック図である。後述するように提供される閉ループ制御は、プロセス変数を、生産物の品質を維持し不合格品の量を最小限にするように制御するのに役立つ。システム700は、シート材料製造装置720と、in-situ測定システム715からのin-situ測定値を使用するプロセスコントローラー730とを備えている。測定システム715は、反射に基づくシステムか、又は図1に示すシステム100等の透過に基づくシステムであり得る。システム700のコンポーネント間の通信は、接続されたワイヤとして示すが、有線、光(たとえば光ファイバ)若しくは無線(たとえばRF)又はそれらの組合せであり得る。
【0058】
[0046]コントローラー730は、受け取った電気検出信号を処理し、1つ又は複数の紙品質特性、たとえば達成された水分プロファイル、及び製紙プロセス中に水分プロファイルが、製紙システムの場合に「ウェットエンド」からプレスまでかつプレスから「ドライエンド」における乾燥機までどのように更新されるべきかを確定することができる。本技術分野において既知であるように、水分プロファイルは、シート張力プロファイル、シート破断、収縮、ワインダ効率、印刷所運転等、製紙プロセスにおける既知の変数に著しい影響を与える可能性がある。
【0059】
[0047]本明細書で説明した実施形態の例示は、さまざまな実施形態の構造が概略的に理解されることが意図されており、それらは、本明細書で説明した構造を利用することができる装置及びシステムの要素及び特徴のすべてを完全に説明する役割を果たすようには意図されていない。当業者には、上記説明を検討することにより、他の多くの実施形態が明らかとなろう。本開示の範囲から逸脱することなく構造的かつ論理的置換及び変更を行うことができるように、他の実施形態を利用し、かつ上記説明から導出することができる。たとえば、本発明の実施形態は、幅方向(CD)として知られる方向において送信機及び検出器を走査することによるシート材料を横切る走査測定を含むことができ、又は流れ方向(MD)として知られる方向において抄紙機の長さに沿って複数の位置で測定を行うことができる。
【0060】
[0048]また、図は、単に代表的なものであり、一定の比例尺で描かれていない場合がある。その特定の比率のいくつかを誇張している場合もあり、他の比率を最小化している場合もある。したがって、明細書及び図面は、限定する意味ではなく例示的な意味で考慮されるべきである。
【0061】
[0049]したがって、本明細書では特定の実施形態について例示し説明したが、示した特定の実施形態の代りに、同じ目的を達成すると予測される任意の構成を用いてもよいことが理解されるべきである。本開示は、さまざまな実施形態のありとあらゆる適応又は変形を包含するように意図されている。上記説明を検討することにより、当業者には、上記実施形態の組合せ、及び本明細書では具体的に記載していない他の実施形態が明らかとなろう。したがって、本開示は、本発明を実施するために企図された最良の形態として開示されている特定の実施形態(複数可)に限定されず、本発明は、添付の特許請求の範囲内にあるすべての実施形態を含むことが意図されている。
【0062】
[0050]本開示の要約を、読者が本技術的開示の本質を迅速に確認することができるようにする要約を要求する、米国特許法施行規則第1.72条(b)項に従うように提供する。これを、特許請求の範囲又はその意味を解釈又は限定するために使用されるものでないと理解して提示する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製造システム(700)によって製造されたシート材料の特性を非接触で特徴付ける、in-situ時間領域分光法(TDS)に基づく方法(200)であって、
時間領域分光システム(100)と前記システム用の較正データとを提供するステップであって、前記較正データは、前記シート材料の水分含有量の関数として、前記シート材料を通る透過電力又は電界或いは前記シート材料からの反射電力又は電界を含む、提供するステップと、
前記製造システム(700)によって処理されている間に、シート材料サンプル(130)上のサンプル位置に、0.05THz〜50THzの周波数を有するTHz放射又は近THz放射の少なくとも1つのパルスを向けるステップと、
前記サンプル位置からの少なくとも1つの透過パルス又は反射パルスを含む透過放射又は反射放射を同時に検出するステップであって、サンプルデータを取得する、検出するステップと、
前記サンプルデータを前記較正データと合わせて処理するステップ(207、208、209)であって、キャリパー、坪量及び水分含有量から選択される前記シート材料サンプルの少なくとも1つの特性を確定する、処理するステップと
を含む、シート材料の特性を非接触で特徴付ける方法。
【請求項2】
前記方法(200)は排他的な非接触方法であり、前記サンプルデータは同時データであり、前記少なくとも1つの特性は、前記キャリパー、前記坪量及び前記水分含有量を含み、前記キャリパー、前記坪量及び前記水分含有量はすべて前記同時データから取得される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記較正データを生成するステップをさらに含み、該生成するステップは、前記シート材料の複数の基準パルスサンプルに対して前記透過電力若しくは電界又は反射電力若しくは電界を測定するステップを含み、前記複数の基準パルスサンプルは、異なるレベルの前記水分含有量を有する(202)、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記較正データは較正曲線を含み、前記較正曲線は、前記シート材料を排した経路を有する非相互作用基準パルスサンプルの透過電力若しくは電界又は反射電力若しくは電界と、前記シート材料サンプル(130)を通る透過電力若しくは電界又は該シート材料サンプル(130)からの反射電力若しくは電界との比に基づく、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記較正曲線は、
【数1】

を含み、ここで、WWは、グラム/平方メートル(GSM)での水重量であり、y(t)は前記非相互作用基準パルスサンプルであり、y(t)は前記透過パルスの出力であり、m及びCは定数であり、PSDは積分したパワースペクトル密度である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記較正データは、前記シート材料の乾燥成分密度及び乾燥成分屈折率をさらに含む、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記シート材料及び前記シート材料サンプルは紙を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
閉ループ制御シート材料製造システム(700)であって、
シート材料を製造するシート材料製造装置(720)と、
前記製造装置(720)に通信可能に結合されたin-situ近THz又はTHzに基づく測定システム(715)であって、前記シート材料の水分含有量の関数として前記シート材料を通る透過電力若しくは電界又は該シート材料からの反射電力若しくは電界を含む、該TDSシステム(715)に対する格納された較正データと、前記製造装置(720)によって処理されている間に、シート材料サンプル(130)上のサンプル位置に、0.05THz〜50THzの周波数を有するTHz又は近THz放射の少なくとも1つのパルスを向けるTHz送信機(1110と、前記サンプル位置からの少なくとも1つの透過パルス又は反射パルスを含む透過放射又は反射放射を同時に検出して、サンプルデータを得る検出器(110)とを有する、測定システム(715)と、
前記製造装置(720)及び前記測定システム(715)に通信可能に結合されたコントローラー(730)であって、前記サンプルデータを受け取り、該サンプルデータを前記較正データと合わせて処理して、キャリパー、坪量及び水分含有量から選択される前記シート材料サンプルの少なくとも1つの特性を確定し、前記製造システム(700)に対し、前記少なくとも1つの特性に基づいて前記シート材料サンプルを処理している間に少なくとも1つのパラメーターを変更するように動作可能である、コントローラー(730)と、
を備える、システム。
【請求項9】
前記測定システム(715)は透過に基づくシステムである、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記測定システム(715)は反射に基づくシステムである、請求項8に記載のシステム。
【請求項11】
前記較正データは較正曲線を含み、前記較正曲線は、前記シート材料を排した経路を有する非相互作用基準パルスサンプルの透過電力若しくは電界又は反射電力若しくは電界と、前記シート材料を通る透過電力若しくは電界又は該シート材料からの反射電力若しくは電界との比に基づく、請求項8に記載のシステム。
【請求項12】
前記製造システム(700)は紙製造システムを含む、請求項8に記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2011−530070(P2011−530070A)
【公表日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−521343(P2011−521343)
【出願日】平成21年7月31日(2009.7.31)
【国際出願番号】PCT/US2009/052338
【国際公開番号】WO2010/014867
【国際公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【出願人】(508322831)ハネウェル・アスカ・インコーポレーテッド (11)
【Fターム(参考)】