同期装置
【課題】簡単な構成で、変速ギヤの遊転時にシンクロナイザリングの引き摺りトルクが発生するのを防止することができるとともに、同期完了後のシンクロナイザリングの食い付きを防止することができ、製造コストが増大するのを防止することができるとともに小型化を図ることができる信頼性の高い同期装置を提供すること。
【解決手段】シンクロナイザリング13を、クラッチハブ6側に向かうに従って縮径されたコーン面41aが内周面に形成されるアウターシンクロナイザリング41と、コーン面41aに当接するようにクラッチハブ6側に向かうに従って縮径されたコーン面43aが外周面に形成されるとともに、ギヤピース部9のコーン面11に対向するコーン面43bが外周面に形成され、径方向に拡径または縮径するように弾性変形自在なインナーシンクロナイザリング43とから構成する。
【解決手段】シンクロナイザリング13を、クラッチハブ6側に向かうに従って縮径されたコーン面41aが内周面に形成されるアウターシンクロナイザリング41と、コーン面41aに当接するようにクラッチハブ6側に向かうに従って縮径されたコーン面43aが外周面に形成されるとともに、ギヤピース部9のコーン面11に対向するコーン面43bが外周面に形成され、径方向に拡径または縮径するように弾性変形自在なインナーシンクロナイザリング43とから構成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同期装置に関し、特に、手動変速機に設けられ、回転軸に相対回転可能に取付けられた変速ギヤを回転軸の回転速度に同期させる同期装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、手動変速機は、複数段の変速ギヤ列を有しており、シフトレバーによって変速段を切換えて各段のギヤを噛合させることにより、内燃機関の動力を走行条件に応じて変換して取り出し、駆動輪を駆動している。
【0003】
このような手動変速機においては、ギヤの噛み合い状態を切換えて変速する際に、変速を迅速、かつ容易に行うために、同期装置を備えている。
【0004】
この同期装置は、ハブスリーブがシンクロナイザリングを押圧することによって同期荷重を発生させ、回転差を有する変速ギヤとハブスリーブの回転を同期させ、変速ギヤとハブスリーブの同期が完了したときに、シンクロナイザリングのスプラインがハブスリーブのスプラインによって掻き分けられ、次いで、ハブスリーブが変速ギヤに一体的に取付けられたギヤピース部のスプラインを掻き分けることにより、変速が完了する。
【0005】
このような同期装置にあっては、変速ギヤの係合時および同期動作時以外には、シンクロナイザリングのテーパ状のコーン面とこのコーン面に対向するギヤピース部のコーン面とが互いに離間されており、相対回転されている。このとき、シンクロナイザリングは、変速ギヤとハブスリーブとの間に遊嵌されているだけで、径方向への変位がある程度許容された状態となっている。
【0006】
このため、シンクロナイザリングにその径方向へのぶれが生じることがあり、ギヤピース部のコーン面とシンクロナイザリングのコーン面との間の隙間をシンクロナイザリングの円周方向に亘って一定に保持しておくことが困難となる。
【0007】
このため、シンクロナイザリングとギヤピース部との相対回転中に、このぶれによってシンクロナイザリングのコーン面とギヤピース部のコーン面とが部分的に接触してシンクロナイザリングの引き摺りが発生し、不要な摩擦が生じてしまうことがある。
【0008】
このようにシンクロナイザリングの引き摺りトルクによる摩擦抵抗の増大が発生してしまうと、手動変速機の駆動効率が悪化してしまい、結果的に燃費の悪化を招いてしまうおそれがある。
【0009】
また、上述したように、変速ギヤとハブスリーブの同期が完了してハブスリーブが変速ギヤに一体的に取付けられたギヤピース部を掻き分ける際に、シンクロナイザリングのコーン面が、このコーン面に対向するギヤピース部のコーン面に密着する、所謂、食い付きが発生しまうことがある。
【0010】
このように食い付きが発生すると、シンクロナイザリングがギヤピースに対して回転しないため、ハズフリーブのスプラインがギヤピース部のスプラインを掻き分ける際にシンクロナイザリングが抵抗となってしまい、ハブスリーブのスプラインのチャンファがギヤピース部のスプラインのチャンファに接触してそれ以上進めないロック状態になることがあり、変速を円滑に行うことができないことがある。
【0011】
前者のようにシンクロナイザリングの引き摺りトルクが発生するのを防止するものとしては、回転軸に取付けられ、外周にスプラインを有するクラッチハブと、クラッチハブの外周部にスプライン嵌合されるとともに、軸方向に摺動自在に取付けられたハブスリーブと、クラッチハブと共に回転し、内周部にテーパ状のコーン面を有するシンクロナイザリングと、変速ギヤと一体的に形成され、外周部にシンクロナイザリングのコーン面と対向するテーパ状のコーン面と、クラッチハブのスプラインに設けられ、シンクロナイザリングが変速ギヤのコーン面から離間する方向にシンクロナイザリングを付勢するピース部材とを備えた同期装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0012】
また、シンクロナイザリングのテーパ状のコーン面が形成された内周面の裏面にあたる外周面に対して、シンクロナイザリングのコーン面を変速ギヤのコーン面から離間させる方向に付勢するばね部材を設けた同期装置も知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0013】
これらの同時装置では、簡単な構成で変速ギヤの遊転時(ニュートラル時等)におけるシンクロナイザリングと変速ギヤのコーン面との間の摩擦による引き摺りトルクを低減することができる。
【0014】
また、後者の同期完了後の食い付きの発生を防止するものとしては、シンクロナイザリングのコーン面およびギヤピース部のうちのいずれか一方を2段階に傾斜させるとともに、一方のコーン面を弾性材層により形成したものがある(例えば、特許文献3参照)。
【0015】
この同期装置にあっては、同期操作を行っているときには弾性材層の圧縮変形によりシンクロナイザリングとギヤピース部との摩擦接触面積を増大させ、かつ、同期操作が完了したときには、弾性材層の復元によってシンクロナイザリングとギヤピース部との摩擦接触面積を大幅に減少させることができる。このため、シンクロナイザリングのコーン面がギヤピース部のコーン面に食い付いてしまうのを防止することができ、同期操作のための大きな制動能力を確保しつつ同期操作完了後にハブスリーブのスプラインをギヤピース部のスプラインと噛合する位置まで円滑に移動させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2007−292151号公報
【特許文献2】特開2004−76764号公報
【特許文献3】特開平1−242826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、特許文献1、2に記載される従来の同期装置にあっては、シンクロナイザリングのコーン面を変速ギヤのコーン面から離間させる方向に付勢するピース部材やばね部材を設けたため、同期装置に新たに構成部品を追加する必要があった。このため、同期装置の製造コストが増大してしまうとともに同期装置が大型化してしまうという問題があった。
【0018】
また、同期装置は、高い回転数で回転するため、同期装置の遠心力、回転変動、あるいは振動等によってピース部材やばね部材から異音が発生したり、ピース部材やばね部材の破損が生じるおそれがあり、同期装置の信頼性が低下してしまうおそれがあった。
【0019】
また、特許文献3に記載される同期装置にあっては、シンクロナイザリングの食い付きを防止することができるが、シンクロナイザリングの引き摺りトルクを防止することができない。
【0020】
仮に、シンクロナイザリングの引き摺りを防止するためには、特許文献1、2に記載されるようなピース部材やばね部材が必要になってしまうため、同期装置に新たに構成部品を追加する必要があるため、同期装置の製造コストが増大してしまうとともに同期装置が大型化してしまうという問題があった。
【0021】
本発明は、上述のような従来の問題を解決するためになされたもので、簡単な構成で、変速ギヤの遊転時にシンクロナイザリングの引き摺りトルクが発生するのを防止することができるとともに、同期完了後のシンクロナイザリングの食い付きを防止することができ、製造コストが増大するのを防止することができるとともに小型化を図ることができる信頼性の高い同期装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明に係る同期装置は、上記目的を達成するため、(1)回転軸と一体的に回転するクラッチハブと、前記回転軸と相対回転可能なように前記回転軸に遊嵌された変速ギヤと、前記回転軸の軸方向に沿って移動自在に設けられ、前記クラッチハブの外周部にスプライン嵌合する内周歯を有するハブスリーブと、前記変速ギヤに設けられ、外周部に前記ハブスリーブの前記内周歯に嵌合可能な外周歯を有するギヤピース部と、前記ハブスリーブと前記ギヤピース部との間に介装され、前記ハブスリーブの内周歯と前記ギヤピース部の外周歯との噛合に際して、前記ハブスリーブにより前記ギヤピース部の外周部に形成されたコーン面に押圧されることにより、前記ハブスリーブおよび前記変速ギヤの回転を同期させるシンクロナイザリングとを備えた同期装置において、前記シンクロナイザリングを、前記クラッチハブ側に向かうに従って縮径された第1のコーン面が内周面に形成されるアウターシンクロナイザリングと、前記第1のコーン面に当接するように前記クラッチハブ側に向かうに従って縮径された第2のコーン面が外周面に形成されるとともに、前記ギヤピース部のコーン面に対向する第3のコーン面が内周面に形成され、径方向に拡径または縮径するように弾性変形自在なインナーシンクロナイザリングとから構成し、非同期時には、前記インナーシンクロナイザリングが径方向外方に拡径するように弾性変形することにより、前記アウターシンクロナイザリングを径方向外方に押圧して前記インナーシンクロナイザリングの前記第3のコーン面および前記ギヤピース部の前記コーン面との間に隙間を画成し、同期時には、前記インナーシンクロナイザリングが径方向内方に縮径するように弾性変形することにより、前記ギヤピース部の前記コーン面を押圧するものから構成されている。
【0023】
この構成により、非同期時には、インナーシンクロナイザリングが径方向外方に拡径するように弾性変形することにより、アウターシンクロナイザリングを径方向外方に押圧してインナーシンクロナイザリングの第3のコーン面およびギヤピース部のコーン面との間に隙間を画成するので、変速ギヤの遊転時に、インナーシンクロナイザリングの第3のコーン面をギヤピース部のコーン面から離隔させることができ、シンクロナイザリングに引き摺りトルクが発生するのを防止することができる。このため、変速機の駆動効率が悪化するのを防止して燃費を向上させることができる。
【0024】
また、同期時には、インナーシンクロナイザリングが径方向内方に縮径するように弾性変形することにより、ギヤピース部のコーン面を押圧するので、同期荷重を発生させ、回転差を有する変速ギヤとハブスリーブの回転を同期させることができる。
【0025】
さらに、変速ギヤとハブスリーブの同期が完了したときの非同期時には、ハブスリーブからシンクロナイザリングに押し付け力が作用しなくなるので、ハブスリーブの外周歯が変速ギヤに一体的に取付けられたギヤピース部の内周歯を掻き分ける際に、インナーシンクロナイザリングの第3コーン面をギヤピース部のコーン面から離隔させることができ、インナーシンクロナイザリングの第3コーン面がギヤピース部のコーン面に食い付いてしまうのを防止することができる。
【0026】
このため、構成部品を追加することなしにインナーシンクロナイザリングに引き摺りトルクが発生するのを防止することができるとともに、食い付きを防止することができるため、同期装置の製造コストが増大してしまうのを防止することができるとともに、同期装置の小型化を図ることができる。
【0027】
また、構成部品を追加する必要がないため、従来のように同期装置の高回転時に追加部品による異音の発生や破損が生じることがなく、同期装置の信頼性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、簡単な構成で、変速ギヤの遊転時にシンクロナイザリングの引き摺りトルクが発生するのを防止することができるとともに、同期完了後のシンクロナイザリングの食い付きを防止することができ、製造コストが増大するのを防止することができるとともに小型化を図ることができる信頼性の高い同期装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る同期装置の一実施の形態を示す図であり、同期装置を備えた手動変速機の断面図である。
【図2】本発明に係る同期装置の一実施の形態を示す図であり、インナーシンクロナイザリングの正面図である。
【図3】本発明に係る同期装置の一実施の形態を示す図であり、同期装置の要部断面部である。
【図4】本発明に係る同期装置の一実施の形態を示す図であり、図1の矢印A方向から見た同期装置の要部平面図である。
【図5】本発明に係る同期装置の一実施の形態を示す図であり、同期時の同期装置の要部平面図である。
【図6】本発明に係る同期装置の一実施の形態を示す図であり、押し分け後の同期装置の要部平面図である。
【図7】本発明に係る同期装置の一実施の形態を示す図であり、シフト完了後の同期装置の要部平面図である。
【図8】本発明に係る同期装置の一実施の形態を示す図であり、同期時の同期装置の状態を示す同期装置を有する手動変速機の断面図である。
【図9】本発明に係る同期装置の一実施の形態を示す図であり、同期終了後の同期装置の状態を示す同期装置を有する手動変速機の断面図である。
【図10】本発明に係る同期装置の一実施の形態を示す図であり、他の形状のインナーシンクロナイザリングの正面図である。
【図11】本発明に係る同期装置の一実施の形態を示す図であり、他の形状のインナーシンクロナイザリングの正面図である。
【図12】ピン型同期装置の断面図である。
【図13】同期時の状態を示すピン型同期装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明に係る同期装置の実施の形態について、図面を用いて説明する。
図1〜図11は、本発明に係る同期装置の一実施の形態を示す図である。
まず、構成を説明する。
図1において、変速機としての手動変速機1は、自動車等の車両の走行状態に応じて内燃機関の回転速度および回転トルクを変換して駆動輪に伝える動力伝達装置である。手動変速機1としては、車両の運転者が操作するシフトレバーと手動変速機1とが離れており、その間をケーブルおよびリンク等で連結する、所謂、リモートコントロール型の手動変速機1だけでなく、手動変速機1に直接シフトレバーを取付けた、所謂、ダイレクトコントロール方式の手動変速機1であってもよい。
【0031】
また、リモートコントロール方式において、シフトレバーの位置に関しては特に限定されず、ステアリングコラム部にシフトレバーが取付けられたコラムシフト式、シフトレバーがフロアに取付けられたフロアシフト式等を採用することが可能である。
【0032】
図1では、常時噛合い式の手動変速機1を示している。また、手動変速機1としては、アクチュエータ等によりセレクトレバーを移動させて変速を行う、半自動変速機や全自動変速機にも本発明を適用することが可能である。
【0033】
手動変速機1は、回転軸2を備えており、内燃機関からの回転力が伝達されることにより、回転軸2は一点鎖線で示す軸心3を中心として回転するようになっている。回転軸2内には、潤滑油を供給するための潤滑油通路4が設けられており、潤滑油通路4は、回転軸2に沿って一方向に延在し、その一部分が枝分かれして回転軸2の放射方向外方に向かって延びている。なお、潤滑油通路4においては、矢印で示す方向に潤滑油が供給される。
【0034】
回転軸2にはギヤ5が接続されており、ギヤ5と回転軸2とが一体となって回転するようになっている。回転軸2にはクラッチハブ6が取付けられており、クラッチハブ6は、回転軸2と共に回転するように、回転軸2にスプライン嵌合している。なお、回転軸2に対するクラッチハブ6の固定方法としては、スプライン嵌合に限られず、その他の方法を用いてもよい。
【0035】
回転軸2には変速ギヤ7、8が遊転自在に設けられており、変速ギヤ7、8は回転軸2に対して相対回転するようになっている。すなわち、図1で示す状態では、回転軸2の回転力が変速ギヤ7、8には伝達されず、変速ギヤ7、8は空転する。
【0036】
このときに、変速ギヤ7、8の内周部は回転軸2に対して摺動するので、この摺動時の摩擦を低減させるために、潤滑油通路4から矢印で示すように、回転軸2と変速ギヤ7、8との間の摩擦面に潤滑油が供給される。
【0037】
変速ギヤ7、8にはギヤピース部9、10がスプライン嵌合されており、このギヤピース部9、10は、変速ギヤ7、8と一体的に回転するようになっている。なお、ギヤピース部9、10は図1で示す状態ではクラッチハブ6に固定されていない。このため、変速ギヤ7、8はクラッチハブ6に対して自由に回転することができる。
【0038】
ギヤピース部9、10には回転軸2に対して傾斜したテーパ面であるコーン面11、12が設けられており、このコーン面11、12上にシンクロナイザリング13、14が嵌合されている。
【0039】
シンクロナイザリング13、14は、ハブスリーブ15と変速ギヤ7、8のギヤピース部9、10との間に介装されており、ハブスリーブ15の軸方向への移動に伴ってギヤピース部9、10とクラッチハブ6との回転を同期させるための部品である。
【0040】
このシンクロナイザリング13、14は、アウターシンクロナイザリング41、42とアウターシンクロナイザリング41、42の内方に設けられたインナーシンクロナイザリング43、44とから構成されている。
【0041】
アウターシンクロナイザリング41、42の内周面にはコーン面(第1のコーン面)41a、42aが形成されており、このコーン面41a、42aは、クラッチハブ6側に向かうに従って縮径されている。
【0042】
インナーシンクロナイザリング43、44の外周面にはコーン面(第2のコーン面)43a、44aが形成されており、このコーン面43a、44aは、コーン面41a、42aに当接するようにクラッチハブ6側に向かうに従って縮径されている。
【0043】
また、インナーシンクロナイザリング43、44の内周面にはコーン面(第3のコーン面)43b、44bが形成されており、このコーン面43b、44bは、ギヤピース部9、10のコーン面11、12に対向して接触している。このため、インナーシンクロナイザリング43、44およびギヤピース部9、10は、コーン面11、12、43b、44bを介して摩擦摺動するようになっている。
【0044】
また、図2に示すように、インナーシンクロナイザリング43、44は、C字形状に形成されたゴム等の弾性部材から構成されており、径方向に拡径または縮径するように弾性変形自在となっている。
【0045】
本実施の形態では、アウターシンクロナイザリング41、42の外周部とクラッチハブ6とが接触するとともに、アウターシンクロナイザリング41、42のコーン面41a、42aとインナーシンクロナイザリング43、44のコーン面43a、44aとが接触することにより、インナーシンクロナイザリング43、44の取付け位置が決定されるようになっている。
【0046】
クラッチハブ6の外周部にはスプライン18が形成されており、クラッチハブ6の外周部にはハブスリーブ15が嵌合している。ハブスリーブ15は、回転軸2の軸心3方向に摺動(スライド)自在となっており、ハブスリーブ15の内周部に形成されたスプライン19は、クラッチハブ6のスプライン18に噛合している。
【0047】
クラッチハブ6はハブスリーブ15をスライド自在に保持しており、ハブスリーブ15は変速ギヤ7または変速ギヤ8のいずれへもスライドすることができるようになっている。また、ハブスリーブ15の外周部には円環状のシフトフォーク溝15aが形成されており、このシフトフォーク溝15aには図示しないシフトフォークが嵌合され、ハブスリーブ15は、シフトフォークによって軸方向に摺動されるようになっている。
【0048】
また、ギヤピース部9、10の外周部にはスプライン20、21が形成されており、このスプライン20、21は、ハブスリーブ15の内周部に形成されたスプライン19に嵌合可能になっている。
【0049】
なお、本実施の形態では、クラッチハブ6、変速ギヤ7、8、ギヤピース部9、10、シンクロナイザリング13、14およびハブスリーブ15が同期装置30を構成している。
【0050】
また、アウターシンクロナイザリング41、42の外周部にスプライン41b、42bが形成されており、このスプライン41b、42bに対してハブスリーブ15のスプライン19が通過可能になっている。
【0051】
図4は、図1中の矢印Aで示す方向から見た同期装置30の平面図である。図4において、ギヤピース部9のスプライン20は、1列に並ぶように配置されており、それぞれが一定の間隔を有している。
スプライン20は、相手側のハブスリーブ15のスプライン19に嵌合可能なように先端部が細く形成されたチャンファ20aを有している。
【0052】
アウターシンクロナイザリング41のスプライン41bは、ギヤピース部9のスプライン20とハブスリーブ15のスプライン19との間に設けられており、ギヤピース部9のスプライン20と一定の間隔を隔てた位置に配置されている。
【0053】
また、アウターシンクロナイザリング41のスプライン41bとハブスリーブ15のスプライン19の対向面には、ハブスリーブ15がアウターシンクロナイザリング41のスプライン41bに嵌合可能なように、それぞれチャンファ41cおよびチャンファ19aが形成されている。
【0054】
本実施の形態では、アウターシンクロナイザリング41、42のスプライン41b、42bとハブスリーブ15のスプライン19とが噛合していない非同期時(同期前および同期完了後)には、インナーシンクロナイザリング43、44が径方向外方に拡径するように弾性変形することにより、アウターシンクロナイザリング41、42を径方向外方に押圧してインナーシンクロナイザリング43、44およびギヤピース部9、10のコーン面11、12との間に隙間Sを画成するようになっている(図3参照)。すなわち、本実施の形態のインナーシンクロナイザリング43、44は、自然状態においてギヤピース部9、10のコーン面11、12の外周径よりも大きく形成されている。
【0055】
また、アウターシンクロナイザリング41、42のスプライン41b、42bとハブスリーブ15のスプライン19とが噛合する同期時には、インナーシンクロナイザリング43、44が径方向内方に縮径するように弾性変形することにより、ギヤピース部9、10のコーン面11、12を押圧するようになっている。
【0056】
次に、同期の動作について説明する。
同期前、すなわち、非同期時には、図1、図3および図4で示すように、ハブスリーブ15は中立位置にあり、変速ギヤ7およびギヤピース部9は、ハブスリーブ15に対して空転(遊転)している。
【0057】
この非同期時には、インナーシンクロナイザリング43が径方向外方に拡径するように弾性変形することにより、アウターシンクロナイザリング41を径方向外方に押圧してインナーシンクロナイザリング43のコーン面43bとギヤピース部9のコーン面11との間に隙間Sを画成するので(図3参照)、変速ギヤ7の遊転時に、インナーシンクロナイザリング43のコーン面43bをギヤピース部9のコーン面11から離隔させることができ、シンクロナイザリング13に引き摺りトルクが発生するのを防止することができる。このため、手動変速機1の駆動効率が悪化するのを防止して燃費を向上させることができる。
【0058】
図5は、同期時の同期装置30の平面図である。ハブスリーブ15と変速ギヤ7との回転を同期させる場合には、図1で示す状態からハブスリーブ15を変速ギヤ7に近づく方向に移動させる。これにより、アウターシンクロナイザリング41のスプライン41bとハブスリーブ15のスプライン19とが接触する。このときの状態を図8に示す。
【0059】
なお、アウターシンクロナイザリング41のスプライン41bは、アウターシンクロナイザリング41の円周方向に沿って多数設けられているが、説明の便宜上、図4〜図7においては、スプライン41bは、3つだけを図示している。
【0060】
図6は、押し分け後の同期装置30の平面図である。図6を参照して、さらに同期動作を進めると、ハブスリーブ15が変速ギヤ7側に移動する。これにより、図5で示す位置からハブスリーブ15のスプライン19がギヤピース部9のスプライン20に移動する。このときに、ハブスリーブ15の複数のスプライン19がアウターシンクロナイザリング41のスプライン41bを掻き分ける。
【0061】
このようにアウターシンクロナイザリング41のスプライン41bとハブスリーブ15のスプライン19とが接触してからハブスリーブ15のスプライン19がアウターシンクロナイザリング41のスプライン41bを掻き分けるまでに、アウターシンクロナイザリング41によりインナーシンクロナイザリング43が径方向内方に押圧されるため、インナーシンクロナイザリング43が径方向内方に縮径するように弾性変形することにより、ギヤピース部9のコーン面11を押圧するので、同期荷重を発生させ、回転差を有する変速ギヤ7とハブスリーブ15の回転を同期させることができる。
【0062】
図7は、シフト完了後の同期装置30の断面図である。図6で示す位置からさらにハブスリーブ15を変速ギヤ7に近づく方向に押込むと、図7で示すようにハブスリーブ15のスプライン19がギヤピース部9のスプライン20の間に入り込む。
【0063】
この状態では、ハブスリーブ15のスプライン19がアウターシンクロナイザリング41のスプライン41bを通過した後、ハブスリーブ15のスプライン19とギヤピース部9のスプライン20とが一体となって回転し、ハブスリーブ15からギヤピース部9に動力が伝達される。これによりシフト動作が完了する。この結果、回転軸2と変速ギヤ7とが一体回転する。このときの状態を図9に示す。
【0064】
図7、図9に示すように変速ギヤ7とハブスリーブ15の同期が完了したときの非同期時には、ハブスリーブ15からシンクロナイザリング13のアウターシンクロナイザリング41に押し付け力が作用しなくなるので、ハブスリーブ15のスプライン19がギヤピース部9のスプライン20を掻き分ける際に、インナーシンクロナイザリング43のコーン面43bをギヤピース部9のコーン面11から離隔させることができ、インナーシンクロナイザリング43のコーン面43bがギヤピース部9のコーン面12に食い付いてしまうのを防止することができる。
なお、図4〜図7、図8、図9に示す同期動作は、変速ギヤ8側とシンクロナイザリング14側も同様の動作である。
【0065】
このように本実施の形態では、シンクロナイザリング13、14を、クラッチハブ6側に向かうに従って縮径されたコーン面41a、42aが内周面に形成されるアウターシンクロナイザリング41、42と、コーン面41a、42aに当接するようにクラッチハブ6側に向かうに従って縮径されたコーン面43a、44aが外周面に形成されるとともに、ギヤピース部9、10のコーン面11、12に対向するコーン面43b、44bが外周面に形成され、径方向に拡径または縮径するように弾性変形自在なインナーシンクロナイザリング43、44とから構成し、非同期時には、インナーシンクロナイザリング43、44が径方向外方に拡径するように弾性変形することにより、インナーシンクロナイザリング43、44に引き摺りトルクが発生するのを防止して、手動変速機1の駆動効率が悪化するのを防止して燃費を向上させることができるとともに、インナーシンクロナイザリング43、44のコーン面43b、44bがギヤピース部9、10のコーン面11、12に食い付いてしまうのを防止することができる。
【0066】
また、同期時には、インナーシンクロナイザリング43、44が径方向内方に縮径するように弾性変形することにより、ギヤピース部9、10のコーン面11、12を押圧するので、同期荷重を発生させ、回転差を有する変速ギヤ7、8とハブスリーブ15との回転を同期させることができる。
【0067】
このため、構成部品を追加することなしにシンクロナイザリング13、14に引き摺りトルクが発生するのを防止することができるとともに、食い付きを防止することができるため、同期装置30の製造コストが増大してしまうのを防止することができるとともに、同期装置30の小型化を図ることができる。
【0068】
また、構成部品を追加する必要がないため、従来のように同期装置30の高回転時に追加部品による異音の発生や破損が生じることがなく、同期装置30の信頼性を向上させることができる。
なお、本実施の形態では、ギヤピース部9、10を変速ギヤ7、8と別体に構成しているが、これに限らず、変速ギヤ7、8とギヤピース部9、10とを一体化してもよい。
【0069】
また、本実施の形態のインナーシンクロナイザリング43、44は、C字形状に形成されているが、これに限らず、図10に示すように、インナーシンクロナイザリング45を、環状の弾性部材が3等分された分割リング45a〜45cと、分割リング45a〜45cを連結するばね等の弾性部材45dから構成してもよい。この場合でも、インナーシンクロナイザリング45の自然状態は、ギヤピース部9、10のコーン面11、12の外周径よりも大きくなるように形成される。
【0070】
また、図11に示すように、インナーシンクロナイザリング46を、環状の弾性部材が3等分された分割リング46a〜46cから構成し、この分割リング46a〜46cをアウターシンクロナイザリング41、42とギヤピース部9、10の間に介装してもよい。この場合には、回転軸2の回転に伴う遠心力によって分割リング46a〜46cが放射方向外方に移動する力が作用することで、インナーシンクロナイザリング46およびギヤピース部9、10のコーン面11、12との間に隙間Sを画成することができる。
【0071】
(ピン型同期装置)
次に、図12、図13に基づいて、シンクロナイザリングを有するピン型同期装置を説明する。図12、図13は、ピン型の同期装置の要部断面部である。なお、図12、図13において、同期装置は、回転軸51の軸心52を境にして上下対称となっており、軸心52の下方は図示省略している。
【0072】
図12において、回転軸51にはハブスリーブ53が取付けられており、ハブスリーブ53は、回転軸51と共に回転するように、回転軸51の外周部に形成されたスプライン部51aにスプライン嵌合している。
【0073】
回転軸51には変速ギヤ54、55が遊転自在に設けられており、変速ギヤ54、55は回転軸51に対して相対回転するようになっている。すなわち、図12で示す状態では、回転軸51の回転力が変速ギヤ54、55には伝達されず、変速ギヤ54、55は空転する。
【0074】
変速ギヤ54、55には切欠き部54a、55aが形成されており、切欠き部54a、55aの底面にはスプライン部54b、55bが形成されており、このスプライン部54b、55bにはハブスリーブ53の内周面に形成されるスプライン部53aがスプライン嵌合されるようになっている。
【0075】
切欠き部54a、55aの上面には回転軸51に対して傾斜したテーパ面であるコーン面54c、55cが設けられており、切欠き部54a、55aにはコーン面54c、55cに対向するようにシンクロナイザリング56、57が設けられている。シンクロナイザリング56、57は、ハブスリーブ53の軸方向への移動に伴って変速ギヤ54、55と回転軸51との回転を同期させるための部品である。
【0076】
このシンクロナイザリング56、57は、アウターシンクロナイザリング58、59とアウターシンクロナイザリング58、59の内方に設けられたインナーシンクロナイザリング60、61とから構成されている。
【0077】
アウターシンクロナイザリング58、59の外周面にはコーン面58a、59aが形成されているとともに、アウターシンクロナイザリング58、59の内周面にはコーン面58b、59bが形成されており、このコーン面58a、58b、59a、59bは、ハブスリーブ53側に向かうに従って拡径されている。
【0078】
インナーシンクロナイザリング60、61の外周面にはコーン面60a、61aが形成されており、このコーン面60a、61aは、コーン面58b、59bに当接するようにハブスリーブ53側に向かうに従って拡径されている。また、インナーシンクロナイザリング60、61はロッド64を介してハブスリーブ53に連結されている。
【0079】
また、アウターシンクロナイザリング58、59は、図2と同様にゴム等の弾性部材から構成されたC字形状に形成されており、径方向に拡径または縮径するように弾性変形自在となっている。
【0080】
ハブスリーブ53の外周部には円環状のピン溝53bが形成されており、このピン溝53bにはピン62が嵌合されている。このピン62には図示しないシフトレバーに連結されるケーブル63が取付けられており、ハブスリーブ53は、ピン62によって軸方向に摺動されるようになっている。
【0081】
この同期装置は、ハブスリーブ53のスプライン部53aが変速ギヤ54、55に噛合していない非同期時には、アウターシンクロナイザリング58、59のコーン面58a、59aと変速ギヤ54、55のコーン面54c、55cとの間に隙間Sが画成されるようになっている。
【0082】
次に、同期の動作について説明する。
同期前、すなわち、非同期時には、ハブスリーブ53は中立位置にあり、変速ギヤ54、55は、ハブスリーブ53に対して空転(遊転)している。
【0083】
この非同期時には、アウターシンクロナイザリング58、59のコーン面58a、59aと変速ギヤ54、55のコーン面54c、55cとの間に隙間Sが形成されているため、変速ギヤ54、55の遊転時に、シンクロナイザリング56、57に引き摺りトルクが発生するのを防止することができる。このため、手動変速機の駆動効率が悪化するのを防止して燃費を向上させることができる。
【0084】
一方、ハブスリーブ53と変速ギヤ54(変速ギヤ55も同様である)との回転を同期させる場合には、ケーブル63によりピン62を介してハブスリーブ53を変速ギヤ54に近づく方向に移動させる。
【0085】
これにより、図13に示すように、インナーシンクロナイザリング60のコーン面60aがアウターシンクロナイザリング58のコーン面58bに沿って摺動し、アウターシンクロナイザリング58を径方向外方に押し広げる。
【0086】
このとき、アウターシンクロナイザリング58のコーン面58aを変速ギヤ54のコーン面54cに押し付けることにより、同期荷重を発生させ、回転差を有する変速ギヤ54とハブスリーブ53の回転を同期させることができる。
【0087】
このような構成を有する同期装置にあっても、構成部品を追加することなしにシンクロナイザリング56、57に引き摺りトルクが発生するのを防止することができるため、同期装置の製造コストが増大してしまうのを防止することができるとともに、同期装置の小型化を図ることができる。
【0088】
また、構成部品を追加する必要がないため、従来のように同期装置の高回転時に追加部品による異音の発生や破損が生じることがなく、同期装置の信頼性を向上させることができる。
【0089】
また、今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であってこの実施の形態に制限されるものではない。本発明の範囲は、上記した実施の形態のみの説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0090】
以上のように、本発明に係る同期装置は、簡単な構成で、変速ギヤの遊転時にシンクロナイザリングの引き摺りトルクが発生するのを防止することができるとともに、同期完了後のシンクロナイザリングの食い付きを防止することができ、製造コストが増大するのを防止することができるとともに小型化を図ることができる信頼性の高い同期装置を提供するという効果を有し、手動変速機に設けられ、回転軸に相対回転可能に取付けられた変速ギヤを回転軸の回転速度に同期させる同期装置等として有用である。
【符号の説明】
【0091】
1 手動変速機(変速機)
2 回転軸
6 クラッチハブ
7、8 変速ギヤ
9、10 ギヤピース部
11、12 コーン面
13、14 シンクロナイザリング
15 ハブスリーブ
30 同期装置
41、42 アウターシンクロナイザリング
41a、42a コーン面(第1のコーン面)
43、44 インナーシンクロナイザリング
43a、44a コーン面(第2のコーン面)
43b、44b コーン面(第3のコーン面)
【技術分野】
【0001】
本発明は、同期装置に関し、特に、手動変速機に設けられ、回転軸に相対回転可能に取付けられた変速ギヤを回転軸の回転速度に同期させる同期装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、手動変速機は、複数段の変速ギヤ列を有しており、シフトレバーによって変速段を切換えて各段のギヤを噛合させることにより、内燃機関の動力を走行条件に応じて変換して取り出し、駆動輪を駆動している。
【0003】
このような手動変速機においては、ギヤの噛み合い状態を切換えて変速する際に、変速を迅速、かつ容易に行うために、同期装置を備えている。
【0004】
この同期装置は、ハブスリーブがシンクロナイザリングを押圧することによって同期荷重を発生させ、回転差を有する変速ギヤとハブスリーブの回転を同期させ、変速ギヤとハブスリーブの同期が完了したときに、シンクロナイザリングのスプラインがハブスリーブのスプラインによって掻き分けられ、次いで、ハブスリーブが変速ギヤに一体的に取付けられたギヤピース部のスプラインを掻き分けることにより、変速が完了する。
【0005】
このような同期装置にあっては、変速ギヤの係合時および同期動作時以外には、シンクロナイザリングのテーパ状のコーン面とこのコーン面に対向するギヤピース部のコーン面とが互いに離間されており、相対回転されている。このとき、シンクロナイザリングは、変速ギヤとハブスリーブとの間に遊嵌されているだけで、径方向への変位がある程度許容された状態となっている。
【0006】
このため、シンクロナイザリングにその径方向へのぶれが生じることがあり、ギヤピース部のコーン面とシンクロナイザリングのコーン面との間の隙間をシンクロナイザリングの円周方向に亘って一定に保持しておくことが困難となる。
【0007】
このため、シンクロナイザリングとギヤピース部との相対回転中に、このぶれによってシンクロナイザリングのコーン面とギヤピース部のコーン面とが部分的に接触してシンクロナイザリングの引き摺りが発生し、不要な摩擦が生じてしまうことがある。
【0008】
このようにシンクロナイザリングの引き摺りトルクによる摩擦抵抗の増大が発生してしまうと、手動変速機の駆動効率が悪化してしまい、結果的に燃費の悪化を招いてしまうおそれがある。
【0009】
また、上述したように、変速ギヤとハブスリーブの同期が完了してハブスリーブが変速ギヤに一体的に取付けられたギヤピース部を掻き分ける際に、シンクロナイザリングのコーン面が、このコーン面に対向するギヤピース部のコーン面に密着する、所謂、食い付きが発生しまうことがある。
【0010】
このように食い付きが発生すると、シンクロナイザリングがギヤピースに対して回転しないため、ハズフリーブのスプラインがギヤピース部のスプラインを掻き分ける際にシンクロナイザリングが抵抗となってしまい、ハブスリーブのスプラインのチャンファがギヤピース部のスプラインのチャンファに接触してそれ以上進めないロック状態になることがあり、変速を円滑に行うことができないことがある。
【0011】
前者のようにシンクロナイザリングの引き摺りトルクが発生するのを防止するものとしては、回転軸に取付けられ、外周にスプラインを有するクラッチハブと、クラッチハブの外周部にスプライン嵌合されるとともに、軸方向に摺動自在に取付けられたハブスリーブと、クラッチハブと共に回転し、内周部にテーパ状のコーン面を有するシンクロナイザリングと、変速ギヤと一体的に形成され、外周部にシンクロナイザリングのコーン面と対向するテーパ状のコーン面と、クラッチハブのスプラインに設けられ、シンクロナイザリングが変速ギヤのコーン面から離間する方向にシンクロナイザリングを付勢するピース部材とを備えた同期装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0012】
また、シンクロナイザリングのテーパ状のコーン面が形成された内周面の裏面にあたる外周面に対して、シンクロナイザリングのコーン面を変速ギヤのコーン面から離間させる方向に付勢するばね部材を設けた同期装置も知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0013】
これらの同時装置では、簡単な構成で変速ギヤの遊転時(ニュートラル時等)におけるシンクロナイザリングと変速ギヤのコーン面との間の摩擦による引き摺りトルクを低減することができる。
【0014】
また、後者の同期完了後の食い付きの発生を防止するものとしては、シンクロナイザリングのコーン面およびギヤピース部のうちのいずれか一方を2段階に傾斜させるとともに、一方のコーン面を弾性材層により形成したものがある(例えば、特許文献3参照)。
【0015】
この同期装置にあっては、同期操作を行っているときには弾性材層の圧縮変形によりシンクロナイザリングとギヤピース部との摩擦接触面積を増大させ、かつ、同期操作が完了したときには、弾性材層の復元によってシンクロナイザリングとギヤピース部との摩擦接触面積を大幅に減少させることができる。このため、シンクロナイザリングのコーン面がギヤピース部のコーン面に食い付いてしまうのを防止することができ、同期操作のための大きな制動能力を確保しつつ同期操作完了後にハブスリーブのスプラインをギヤピース部のスプラインと噛合する位置まで円滑に移動させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2007−292151号公報
【特許文献2】特開2004−76764号公報
【特許文献3】特開平1−242826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、特許文献1、2に記載される従来の同期装置にあっては、シンクロナイザリングのコーン面を変速ギヤのコーン面から離間させる方向に付勢するピース部材やばね部材を設けたため、同期装置に新たに構成部品を追加する必要があった。このため、同期装置の製造コストが増大してしまうとともに同期装置が大型化してしまうという問題があった。
【0018】
また、同期装置は、高い回転数で回転するため、同期装置の遠心力、回転変動、あるいは振動等によってピース部材やばね部材から異音が発生したり、ピース部材やばね部材の破損が生じるおそれがあり、同期装置の信頼性が低下してしまうおそれがあった。
【0019】
また、特許文献3に記載される同期装置にあっては、シンクロナイザリングの食い付きを防止することができるが、シンクロナイザリングの引き摺りトルクを防止することができない。
【0020】
仮に、シンクロナイザリングの引き摺りを防止するためには、特許文献1、2に記載されるようなピース部材やばね部材が必要になってしまうため、同期装置に新たに構成部品を追加する必要があるため、同期装置の製造コストが増大してしまうとともに同期装置が大型化してしまうという問題があった。
【0021】
本発明は、上述のような従来の問題を解決するためになされたもので、簡単な構成で、変速ギヤの遊転時にシンクロナイザリングの引き摺りトルクが発生するのを防止することができるとともに、同期完了後のシンクロナイザリングの食い付きを防止することができ、製造コストが増大するのを防止することができるとともに小型化を図ることができる信頼性の高い同期装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明に係る同期装置は、上記目的を達成するため、(1)回転軸と一体的に回転するクラッチハブと、前記回転軸と相対回転可能なように前記回転軸に遊嵌された変速ギヤと、前記回転軸の軸方向に沿って移動自在に設けられ、前記クラッチハブの外周部にスプライン嵌合する内周歯を有するハブスリーブと、前記変速ギヤに設けられ、外周部に前記ハブスリーブの前記内周歯に嵌合可能な外周歯を有するギヤピース部と、前記ハブスリーブと前記ギヤピース部との間に介装され、前記ハブスリーブの内周歯と前記ギヤピース部の外周歯との噛合に際して、前記ハブスリーブにより前記ギヤピース部の外周部に形成されたコーン面に押圧されることにより、前記ハブスリーブおよび前記変速ギヤの回転を同期させるシンクロナイザリングとを備えた同期装置において、前記シンクロナイザリングを、前記クラッチハブ側に向かうに従って縮径された第1のコーン面が内周面に形成されるアウターシンクロナイザリングと、前記第1のコーン面に当接するように前記クラッチハブ側に向かうに従って縮径された第2のコーン面が外周面に形成されるとともに、前記ギヤピース部のコーン面に対向する第3のコーン面が内周面に形成され、径方向に拡径または縮径するように弾性変形自在なインナーシンクロナイザリングとから構成し、非同期時には、前記インナーシンクロナイザリングが径方向外方に拡径するように弾性変形することにより、前記アウターシンクロナイザリングを径方向外方に押圧して前記インナーシンクロナイザリングの前記第3のコーン面および前記ギヤピース部の前記コーン面との間に隙間を画成し、同期時には、前記インナーシンクロナイザリングが径方向内方に縮径するように弾性変形することにより、前記ギヤピース部の前記コーン面を押圧するものから構成されている。
【0023】
この構成により、非同期時には、インナーシンクロナイザリングが径方向外方に拡径するように弾性変形することにより、アウターシンクロナイザリングを径方向外方に押圧してインナーシンクロナイザリングの第3のコーン面およびギヤピース部のコーン面との間に隙間を画成するので、変速ギヤの遊転時に、インナーシンクロナイザリングの第3のコーン面をギヤピース部のコーン面から離隔させることができ、シンクロナイザリングに引き摺りトルクが発生するのを防止することができる。このため、変速機の駆動効率が悪化するのを防止して燃費を向上させることができる。
【0024】
また、同期時には、インナーシンクロナイザリングが径方向内方に縮径するように弾性変形することにより、ギヤピース部のコーン面を押圧するので、同期荷重を発生させ、回転差を有する変速ギヤとハブスリーブの回転を同期させることができる。
【0025】
さらに、変速ギヤとハブスリーブの同期が完了したときの非同期時には、ハブスリーブからシンクロナイザリングに押し付け力が作用しなくなるので、ハブスリーブの外周歯が変速ギヤに一体的に取付けられたギヤピース部の内周歯を掻き分ける際に、インナーシンクロナイザリングの第3コーン面をギヤピース部のコーン面から離隔させることができ、インナーシンクロナイザリングの第3コーン面がギヤピース部のコーン面に食い付いてしまうのを防止することができる。
【0026】
このため、構成部品を追加することなしにインナーシンクロナイザリングに引き摺りトルクが発生するのを防止することができるとともに、食い付きを防止することができるため、同期装置の製造コストが増大してしまうのを防止することができるとともに、同期装置の小型化を図ることができる。
【0027】
また、構成部品を追加する必要がないため、従来のように同期装置の高回転時に追加部品による異音の発生や破損が生じることがなく、同期装置の信頼性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、簡単な構成で、変速ギヤの遊転時にシンクロナイザリングの引き摺りトルクが発生するのを防止することができるとともに、同期完了後のシンクロナイザリングの食い付きを防止することができ、製造コストが増大するのを防止することができるとともに小型化を図ることができる信頼性の高い同期装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る同期装置の一実施の形態を示す図であり、同期装置を備えた手動変速機の断面図である。
【図2】本発明に係る同期装置の一実施の形態を示す図であり、インナーシンクロナイザリングの正面図である。
【図3】本発明に係る同期装置の一実施の形態を示す図であり、同期装置の要部断面部である。
【図4】本発明に係る同期装置の一実施の形態を示す図であり、図1の矢印A方向から見た同期装置の要部平面図である。
【図5】本発明に係る同期装置の一実施の形態を示す図であり、同期時の同期装置の要部平面図である。
【図6】本発明に係る同期装置の一実施の形態を示す図であり、押し分け後の同期装置の要部平面図である。
【図7】本発明に係る同期装置の一実施の形態を示す図であり、シフト完了後の同期装置の要部平面図である。
【図8】本発明に係る同期装置の一実施の形態を示す図であり、同期時の同期装置の状態を示す同期装置を有する手動変速機の断面図である。
【図9】本発明に係る同期装置の一実施の形態を示す図であり、同期終了後の同期装置の状態を示す同期装置を有する手動変速機の断面図である。
【図10】本発明に係る同期装置の一実施の形態を示す図であり、他の形状のインナーシンクロナイザリングの正面図である。
【図11】本発明に係る同期装置の一実施の形態を示す図であり、他の形状のインナーシンクロナイザリングの正面図である。
【図12】ピン型同期装置の断面図である。
【図13】同期時の状態を示すピン型同期装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明に係る同期装置の実施の形態について、図面を用いて説明する。
図1〜図11は、本発明に係る同期装置の一実施の形態を示す図である。
まず、構成を説明する。
図1において、変速機としての手動変速機1は、自動車等の車両の走行状態に応じて内燃機関の回転速度および回転トルクを変換して駆動輪に伝える動力伝達装置である。手動変速機1としては、車両の運転者が操作するシフトレバーと手動変速機1とが離れており、その間をケーブルおよびリンク等で連結する、所謂、リモートコントロール型の手動変速機1だけでなく、手動変速機1に直接シフトレバーを取付けた、所謂、ダイレクトコントロール方式の手動変速機1であってもよい。
【0031】
また、リモートコントロール方式において、シフトレバーの位置に関しては特に限定されず、ステアリングコラム部にシフトレバーが取付けられたコラムシフト式、シフトレバーがフロアに取付けられたフロアシフト式等を採用することが可能である。
【0032】
図1では、常時噛合い式の手動変速機1を示している。また、手動変速機1としては、アクチュエータ等によりセレクトレバーを移動させて変速を行う、半自動変速機や全自動変速機にも本発明を適用することが可能である。
【0033】
手動変速機1は、回転軸2を備えており、内燃機関からの回転力が伝達されることにより、回転軸2は一点鎖線で示す軸心3を中心として回転するようになっている。回転軸2内には、潤滑油を供給するための潤滑油通路4が設けられており、潤滑油通路4は、回転軸2に沿って一方向に延在し、その一部分が枝分かれして回転軸2の放射方向外方に向かって延びている。なお、潤滑油通路4においては、矢印で示す方向に潤滑油が供給される。
【0034】
回転軸2にはギヤ5が接続されており、ギヤ5と回転軸2とが一体となって回転するようになっている。回転軸2にはクラッチハブ6が取付けられており、クラッチハブ6は、回転軸2と共に回転するように、回転軸2にスプライン嵌合している。なお、回転軸2に対するクラッチハブ6の固定方法としては、スプライン嵌合に限られず、その他の方法を用いてもよい。
【0035】
回転軸2には変速ギヤ7、8が遊転自在に設けられており、変速ギヤ7、8は回転軸2に対して相対回転するようになっている。すなわち、図1で示す状態では、回転軸2の回転力が変速ギヤ7、8には伝達されず、変速ギヤ7、8は空転する。
【0036】
このときに、変速ギヤ7、8の内周部は回転軸2に対して摺動するので、この摺動時の摩擦を低減させるために、潤滑油通路4から矢印で示すように、回転軸2と変速ギヤ7、8との間の摩擦面に潤滑油が供給される。
【0037】
変速ギヤ7、8にはギヤピース部9、10がスプライン嵌合されており、このギヤピース部9、10は、変速ギヤ7、8と一体的に回転するようになっている。なお、ギヤピース部9、10は図1で示す状態ではクラッチハブ6に固定されていない。このため、変速ギヤ7、8はクラッチハブ6に対して自由に回転することができる。
【0038】
ギヤピース部9、10には回転軸2に対して傾斜したテーパ面であるコーン面11、12が設けられており、このコーン面11、12上にシンクロナイザリング13、14が嵌合されている。
【0039】
シンクロナイザリング13、14は、ハブスリーブ15と変速ギヤ7、8のギヤピース部9、10との間に介装されており、ハブスリーブ15の軸方向への移動に伴ってギヤピース部9、10とクラッチハブ6との回転を同期させるための部品である。
【0040】
このシンクロナイザリング13、14は、アウターシンクロナイザリング41、42とアウターシンクロナイザリング41、42の内方に設けられたインナーシンクロナイザリング43、44とから構成されている。
【0041】
アウターシンクロナイザリング41、42の内周面にはコーン面(第1のコーン面)41a、42aが形成されており、このコーン面41a、42aは、クラッチハブ6側に向かうに従って縮径されている。
【0042】
インナーシンクロナイザリング43、44の外周面にはコーン面(第2のコーン面)43a、44aが形成されており、このコーン面43a、44aは、コーン面41a、42aに当接するようにクラッチハブ6側に向かうに従って縮径されている。
【0043】
また、インナーシンクロナイザリング43、44の内周面にはコーン面(第3のコーン面)43b、44bが形成されており、このコーン面43b、44bは、ギヤピース部9、10のコーン面11、12に対向して接触している。このため、インナーシンクロナイザリング43、44およびギヤピース部9、10は、コーン面11、12、43b、44bを介して摩擦摺動するようになっている。
【0044】
また、図2に示すように、インナーシンクロナイザリング43、44は、C字形状に形成されたゴム等の弾性部材から構成されており、径方向に拡径または縮径するように弾性変形自在となっている。
【0045】
本実施の形態では、アウターシンクロナイザリング41、42の外周部とクラッチハブ6とが接触するとともに、アウターシンクロナイザリング41、42のコーン面41a、42aとインナーシンクロナイザリング43、44のコーン面43a、44aとが接触することにより、インナーシンクロナイザリング43、44の取付け位置が決定されるようになっている。
【0046】
クラッチハブ6の外周部にはスプライン18が形成されており、クラッチハブ6の外周部にはハブスリーブ15が嵌合している。ハブスリーブ15は、回転軸2の軸心3方向に摺動(スライド)自在となっており、ハブスリーブ15の内周部に形成されたスプライン19は、クラッチハブ6のスプライン18に噛合している。
【0047】
クラッチハブ6はハブスリーブ15をスライド自在に保持しており、ハブスリーブ15は変速ギヤ7または変速ギヤ8のいずれへもスライドすることができるようになっている。また、ハブスリーブ15の外周部には円環状のシフトフォーク溝15aが形成されており、このシフトフォーク溝15aには図示しないシフトフォークが嵌合され、ハブスリーブ15は、シフトフォークによって軸方向に摺動されるようになっている。
【0048】
また、ギヤピース部9、10の外周部にはスプライン20、21が形成されており、このスプライン20、21は、ハブスリーブ15の内周部に形成されたスプライン19に嵌合可能になっている。
【0049】
なお、本実施の形態では、クラッチハブ6、変速ギヤ7、8、ギヤピース部9、10、シンクロナイザリング13、14およびハブスリーブ15が同期装置30を構成している。
【0050】
また、アウターシンクロナイザリング41、42の外周部にスプライン41b、42bが形成されており、このスプライン41b、42bに対してハブスリーブ15のスプライン19が通過可能になっている。
【0051】
図4は、図1中の矢印Aで示す方向から見た同期装置30の平面図である。図4において、ギヤピース部9のスプライン20は、1列に並ぶように配置されており、それぞれが一定の間隔を有している。
スプライン20は、相手側のハブスリーブ15のスプライン19に嵌合可能なように先端部が細く形成されたチャンファ20aを有している。
【0052】
アウターシンクロナイザリング41のスプライン41bは、ギヤピース部9のスプライン20とハブスリーブ15のスプライン19との間に設けられており、ギヤピース部9のスプライン20と一定の間隔を隔てた位置に配置されている。
【0053】
また、アウターシンクロナイザリング41のスプライン41bとハブスリーブ15のスプライン19の対向面には、ハブスリーブ15がアウターシンクロナイザリング41のスプライン41bに嵌合可能なように、それぞれチャンファ41cおよびチャンファ19aが形成されている。
【0054】
本実施の形態では、アウターシンクロナイザリング41、42のスプライン41b、42bとハブスリーブ15のスプライン19とが噛合していない非同期時(同期前および同期完了後)には、インナーシンクロナイザリング43、44が径方向外方に拡径するように弾性変形することにより、アウターシンクロナイザリング41、42を径方向外方に押圧してインナーシンクロナイザリング43、44およびギヤピース部9、10のコーン面11、12との間に隙間Sを画成するようになっている(図3参照)。すなわち、本実施の形態のインナーシンクロナイザリング43、44は、自然状態においてギヤピース部9、10のコーン面11、12の外周径よりも大きく形成されている。
【0055】
また、アウターシンクロナイザリング41、42のスプライン41b、42bとハブスリーブ15のスプライン19とが噛合する同期時には、インナーシンクロナイザリング43、44が径方向内方に縮径するように弾性変形することにより、ギヤピース部9、10のコーン面11、12を押圧するようになっている。
【0056】
次に、同期の動作について説明する。
同期前、すなわち、非同期時には、図1、図3および図4で示すように、ハブスリーブ15は中立位置にあり、変速ギヤ7およびギヤピース部9は、ハブスリーブ15に対して空転(遊転)している。
【0057】
この非同期時には、インナーシンクロナイザリング43が径方向外方に拡径するように弾性変形することにより、アウターシンクロナイザリング41を径方向外方に押圧してインナーシンクロナイザリング43のコーン面43bとギヤピース部9のコーン面11との間に隙間Sを画成するので(図3参照)、変速ギヤ7の遊転時に、インナーシンクロナイザリング43のコーン面43bをギヤピース部9のコーン面11から離隔させることができ、シンクロナイザリング13に引き摺りトルクが発生するのを防止することができる。このため、手動変速機1の駆動効率が悪化するのを防止して燃費を向上させることができる。
【0058】
図5は、同期時の同期装置30の平面図である。ハブスリーブ15と変速ギヤ7との回転を同期させる場合には、図1で示す状態からハブスリーブ15を変速ギヤ7に近づく方向に移動させる。これにより、アウターシンクロナイザリング41のスプライン41bとハブスリーブ15のスプライン19とが接触する。このときの状態を図8に示す。
【0059】
なお、アウターシンクロナイザリング41のスプライン41bは、アウターシンクロナイザリング41の円周方向に沿って多数設けられているが、説明の便宜上、図4〜図7においては、スプライン41bは、3つだけを図示している。
【0060】
図6は、押し分け後の同期装置30の平面図である。図6を参照して、さらに同期動作を進めると、ハブスリーブ15が変速ギヤ7側に移動する。これにより、図5で示す位置からハブスリーブ15のスプライン19がギヤピース部9のスプライン20に移動する。このときに、ハブスリーブ15の複数のスプライン19がアウターシンクロナイザリング41のスプライン41bを掻き分ける。
【0061】
このようにアウターシンクロナイザリング41のスプライン41bとハブスリーブ15のスプライン19とが接触してからハブスリーブ15のスプライン19がアウターシンクロナイザリング41のスプライン41bを掻き分けるまでに、アウターシンクロナイザリング41によりインナーシンクロナイザリング43が径方向内方に押圧されるため、インナーシンクロナイザリング43が径方向内方に縮径するように弾性変形することにより、ギヤピース部9のコーン面11を押圧するので、同期荷重を発生させ、回転差を有する変速ギヤ7とハブスリーブ15の回転を同期させることができる。
【0062】
図7は、シフト完了後の同期装置30の断面図である。図6で示す位置からさらにハブスリーブ15を変速ギヤ7に近づく方向に押込むと、図7で示すようにハブスリーブ15のスプライン19がギヤピース部9のスプライン20の間に入り込む。
【0063】
この状態では、ハブスリーブ15のスプライン19がアウターシンクロナイザリング41のスプライン41bを通過した後、ハブスリーブ15のスプライン19とギヤピース部9のスプライン20とが一体となって回転し、ハブスリーブ15からギヤピース部9に動力が伝達される。これによりシフト動作が完了する。この結果、回転軸2と変速ギヤ7とが一体回転する。このときの状態を図9に示す。
【0064】
図7、図9に示すように変速ギヤ7とハブスリーブ15の同期が完了したときの非同期時には、ハブスリーブ15からシンクロナイザリング13のアウターシンクロナイザリング41に押し付け力が作用しなくなるので、ハブスリーブ15のスプライン19がギヤピース部9のスプライン20を掻き分ける際に、インナーシンクロナイザリング43のコーン面43bをギヤピース部9のコーン面11から離隔させることができ、インナーシンクロナイザリング43のコーン面43bがギヤピース部9のコーン面12に食い付いてしまうのを防止することができる。
なお、図4〜図7、図8、図9に示す同期動作は、変速ギヤ8側とシンクロナイザリング14側も同様の動作である。
【0065】
このように本実施の形態では、シンクロナイザリング13、14を、クラッチハブ6側に向かうに従って縮径されたコーン面41a、42aが内周面に形成されるアウターシンクロナイザリング41、42と、コーン面41a、42aに当接するようにクラッチハブ6側に向かうに従って縮径されたコーン面43a、44aが外周面に形成されるとともに、ギヤピース部9、10のコーン面11、12に対向するコーン面43b、44bが外周面に形成され、径方向に拡径または縮径するように弾性変形自在なインナーシンクロナイザリング43、44とから構成し、非同期時には、インナーシンクロナイザリング43、44が径方向外方に拡径するように弾性変形することにより、インナーシンクロナイザリング43、44に引き摺りトルクが発生するのを防止して、手動変速機1の駆動効率が悪化するのを防止して燃費を向上させることができるとともに、インナーシンクロナイザリング43、44のコーン面43b、44bがギヤピース部9、10のコーン面11、12に食い付いてしまうのを防止することができる。
【0066】
また、同期時には、インナーシンクロナイザリング43、44が径方向内方に縮径するように弾性変形することにより、ギヤピース部9、10のコーン面11、12を押圧するので、同期荷重を発生させ、回転差を有する変速ギヤ7、8とハブスリーブ15との回転を同期させることができる。
【0067】
このため、構成部品を追加することなしにシンクロナイザリング13、14に引き摺りトルクが発生するのを防止することができるとともに、食い付きを防止することができるため、同期装置30の製造コストが増大してしまうのを防止することができるとともに、同期装置30の小型化を図ることができる。
【0068】
また、構成部品を追加する必要がないため、従来のように同期装置30の高回転時に追加部品による異音の発生や破損が生じることがなく、同期装置30の信頼性を向上させることができる。
なお、本実施の形態では、ギヤピース部9、10を変速ギヤ7、8と別体に構成しているが、これに限らず、変速ギヤ7、8とギヤピース部9、10とを一体化してもよい。
【0069】
また、本実施の形態のインナーシンクロナイザリング43、44は、C字形状に形成されているが、これに限らず、図10に示すように、インナーシンクロナイザリング45を、環状の弾性部材が3等分された分割リング45a〜45cと、分割リング45a〜45cを連結するばね等の弾性部材45dから構成してもよい。この場合でも、インナーシンクロナイザリング45の自然状態は、ギヤピース部9、10のコーン面11、12の外周径よりも大きくなるように形成される。
【0070】
また、図11に示すように、インナーシンクロナイザリング46を、環状の弾性部材が3等分された分割リング46a〜46cから構成し、この分割リング46a〜46cをアウターシンクロナイザリング41、42とギヤピース部9、10の間に介装してもよい。この場合には、回転軸2の回転に伴う遠心力によって分割リング46a〜46cが放射方向外方に移動する力が作用することで、インナーシンクロナイザリング46およびギヤピース部9、10のコーン面11、12との間に隙間Sを画成することができる。
【0071】
(ピン型同期装置)
次に、図12、図13に基づいて、シンクロナイザリングを有するピン型同期装置を説明する。図12、図13は、ピン型の同期装置の要部断面部である。なお、図12、図13において、同期装置は、回転軸51の軸心52を境にして上下対称となっており、軸心52の下方は図示省略している。
【0072】
図12において、回転軸51にはハブスリーブ53が取付けられており、ハブスリーブ53は、回転軸51と共に回転するように、回転軸51の外周部に形成されたスプライン部51aにスプライン嵌合している。
【0073】
回転軸51には変速ギヤ54、55が遊転自在に設けられており、変速ギヤ54、55は回転軸51に対して相対回転するようになっている。すなわち、図12で示す状態では、回転軸51の回転力が変速ギヤ54、55には伝達されず、変速ギヤ54、55は空転する。
【0074】
変速ギヤ54、55には切欠き部54a、55aが形成されており、切欠き部54a、55aの底面にはスプライン部54b、55bが形成されており、このスプライン部54b、55bにはハブスリーブ53の内周面に形成されるスプライン部53aがスプライン嵌合されるようになっている。
【0075】
切欠き部54a、55aの上面には回転軸51に対して傾斜したテーパ面であるコーン面54c、55cが設けられており、切欠き部54a、55aにはコーン面54c、55cに対向するようにシンクロナイザリング56、57が設けられている。シンクロナイザリング56、57は、ハブスリーブ53の軸方向への移動に伴って変速ギヤ54、55と回転軸51との回転を同期させるための部品である。
【0076】
このシンクロナイザリング56、57は、アウターシンクロナイザリング58、59とアウターシンクロナイザリング58、59の内方に設けられたインナーシンクロナイザリング60、61とから構成されている。
【0077】
アウターシンクロナイザリング58、59の外周面にはコーン面58a、59aが形成されているとともに、アウターシンクロナイザリング58、59の内周面にはコーン面58b、59bが形成されており、このコーン面58a、58b、59a、59bは、ハブスリーブ53側に向かうに従って拡径されている。
【0078】
インナーシンクロナイザリング60、61の外周面にはコーン面60a、61aが形成されており、このコーン面60a、61aは、コーン面58b、59bに当接するようにハブスリーブ53側に向かうに従って拡径されている。また、インナーシンクロナイザリング60、61はロッド64を介してハブスリーブ53に連結されている。
【0079】
また、アウターシンクロナイザリング58、59は、図2と同様にゴム等の弾性部材から構成されたC字形状に形成されており、径方向に拡径または縮径するように弾性変形自在となっている。
【0080】
ハブスリーブ53の外周部には円環状のピン溝53bが形成されており、このピン溝53bにはピン62が嵌合されている。このピン62には図示しないシフトレバーに連結されるケーブル63が取付けられており、ハブスリーブ53は、ピン62によって軸方向に摺動されるようになっている。
【0081】
この同期装置は、ハブスリーブ53のスプライン部53aが変速ギヤ54、55に噛合していない非同期時には、アウターシンクロナイザリング58、59のコーン面58a、59aと変速ギヤ54、55のコーン面54c、55cとの間に隙間Sが画成されるようになっている。
【0082】
次に、同期の動作について説明する。
同期前、すなわち、非同期時には、ハブスリーブ53は中立位置にあり、変速ギヤ54、55は、ハブスリーブ53に対して空転(遊転)している。
【0083】
この非同期時には、アウターシンクロナイザリング58、59のコーン面58a、59aと変速ギヤ54、55のコーン面54c、55cとの間に隙間Sが形成されているため、変速ギヤ54、55の遊転時に、シンクロナイザリング56、57に引き摺りトルクが発生するのを防止することができる。このため、手動変速機の駆動効率が悪化するのを防止して燃費を向上させることができる。
【0084】
一方、ハブスリーブ53と変速ギヤ54(変速ギヤ55も同様である)との回転を同期させる場合には、ケーブル63によりピン62を介してハブスリーブ53を変速ギヤ54に近づく方向に移動させる。
【0085】
これにより、図13に示すように、インナーシンクロナイザリング60のコーン面60aがアウターシンクロナイザリング58のコーン面58bに沿って摺動し、アウターシンクロナイザリング58を径方向外方に押し広げる。
【0086】
このとき、アウターシンクロナイザリング58のコーン面58aを変速ギヤ54のコーン面54cに押し付けることにより、同期荷重を発生させ、回転差を有する変速ギヤ54とハブスリーブ53の回転を同期させることができる。
【0087】
このような構成を有する同期装置にあっても、構成部品を追加することなしにシンクロナイザリング56、57に引き摺りトルクが発生するのを防止することができるため、同期装置の製造コストが増大してしまうのを防止することができるとともに、同期装置の小型化を図ることができる。
【0088】
また、構成部品を追加する必要がないため、従来のように同期装置の高回転時に追加部品による異音の発生や破損が生じることがなく、同期装置の信頼性を向上させることができる。
【0089】
また、今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であってこの実施の形態に制限されるものではない。本発明の範囲は、上記した実施の形態のみの説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0090】
以上のように、本発明に係る同期装置は、簡単な構成で、変速ギヤの遊転時にシンクロナイザリングの引き摺りトルクが発生するのを防止することができるとともに、同期完了後のシンクロナイザリングの食い付きを防止することができ、製造コストが増大するのを防止することができるとともに小型化を図ることができる信頼性の高い同期装置を提供するという効果を有し、手動変速機に設けられ、回転軸に相対回転可能に取付けられた変速ギヤを回転軸の回転速度に同期させる同期装置等として有用である。
【符号の説明】
【0091】
1 手動変速機(変速機)
2 回転軸
6 クラッチハブ
7、8 変速ギヤ
9、10 ギヤピース部
11、12 コーン面
13、14 シンクロナイザリング
15 ハブスリーブ
30 同期装置
41、42 アウターシンクロナイザリング
41a、42a コーン面(第1のコーン面)
43、44 インナーシンクロナイザリング
43a、44a コーン面(第2のコーン面)
43b、44b コーン面(第3のコーン面)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と一体的に回転するクラッチハブと、前記回転軸と相対回転可能なように前記回転軸に遊嵌された変速ギヤと、前記回転軸の軸方向に沿って移動自在に設けられ、前記クラッチハブの外周部にスプライン嵌合する内周歯を有するハブスリーブと、前記変速ギヤに設けられ、外周部に前記ハブスリーブの前記内周歯に嵌合可能な外周歯を有するギヤピース部と、前記ハブスリーブと前記ギヤピース部との間に介装され、前記ハブスリーブの内周歯と前記ギヤピース部の外周歯との噛合に際して、前記ハブスリーブにより前記ギヤピース部の外周部に形成されたコーン面に押圧されることにより、前記ハブスリーブおよび前記変速ギヤの回転を同期させるシンクロナイザリングとを備えた同期装置において、
前記シンクロナイザリングを、前記クラッチハブ側に向かうに従って縮径された第1のコーン面が内周面に形成されるアウターシンクロナイザリングと、前記第1のコーン面に当接するように前記クラッチハブ側に向かうに従って縮径された第2のコーン面が外周面に形成されるとともに、前記ギヤピース部のコーン面に対向する第3のコーン面が内周面に形成され、径方向に拡径または縮径するように弾性変形自在なインナーシンクロナイザリングとから構成し、
非同期時には、前記インナーシンクロナイザリングが径方向外方に拡径するように弾性変形することにより、前記アウターシンクロナイザリングを径方向外方に押圧して前記インナーシンクロナイザリングの前記第3のコーン面および前記ギヤピース部の前記コーン面との間に隙間を画成し、同期時には、前記インナーシンクロナイザリングが径方向内方に縮径するように弾性変形することにより、前記ギヤピース部の前記コーン面を押圧することを特徴とする同期装置。
【請求項1】
回転軸と一体的に回転するクラッチハブと、前記回転軸と相対回転可能なように前記回転軸に遊嵌された変速ギヤと、前記回転軸の軸方向に沿って移動自在に設けられ、前記クラッチハブの外周部にスプライン嵌合する内周歯を有するハブスリーブと、前記変速ギヤに設けられ、外周部に前記ハブスリーブの前記内周歯に嵌合可能な外周歯を有するギヤピース部と、前記ハブスリーブと前記ギヤピース部との間に介装され、前記ハブスリーブの内周歯と前記ギヤピース部の外周歯との噛合に際して、前記ハブスリーブにより前記ギヤピース部の外周部に形成されたコーン面に押圧されることにより、前記ハブスリーブおよび前記変速ギヤの回転を同期させるシンクロナイザリングとを備えた同期装置において、
前記シンクロナイザリングを、前記クラッチハブ側に向かうに従って縮径された第1のコーン面が内周面に形成されるアウターシンクロナイザリングと、前記第1のコーン面に当接するように前記クラッチハブ側に向かうに従って縮径された第2のコーン面が外周面に形成されるとともに、前記ギヤピース部のコーン面に対向する第3のコーン面が内周面に形成され、径方向に拡径または縮径するように弾性変形自在なインナーシンクロナイザリングとから構成し、
非同期時には、前記インナーシンクロナイザリングが径方向外方に拡径するように弾性変形することにより、前記アウターシンクロナイザリングを径方向外方に押圧して前記インナーシンクロナイザリングの前記第3のコーン面および前記ギヤピース部の前記コーン面との間に隙間を画成し、同期時には、前記インナーシンクロナイザリングが径方向内方に縮径するように弾性変形することにより、前記ギヤピース部の前記コーン面を押圧することを特徴とする同期装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−242886(P2010−242886A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−93135(P2009−93135)
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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