説明

含フッ素ジオール化合物の製造方法

【課題】本発明は、簡便かつ効率的に1,1,1−トリフルオロ−2,3−プロパンジオールを製造する方法を提供する。
【解決手段】一般式(2):


(式中、Rfはポリフルオロアルキル基を示す。)
で表されるジオール化合物の製造方法であって、一般式(1):


(式中、Rはアルキル基を示し、Rfは前記に同じ。)
で表される化合物をヒドリド還元剤と反応させることを特徴とする製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素ジオール化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1,1,1−トリフルオロ−2,3−プロパンジオール(以下「ジオール」と呼ぶ)は、医薬系化合物等の重要中間体である。このジオールを簡便かつ効率的に製造する方法が望まれている。
【0003】
このジオールの製造方法としては、例えば、非特許文献1には、3,3,3−トリフルオロプロペンをOsOで酸化して製造する方法が報告されている。
【0004】
【化1】

【0005】
しかし、この方法では触媒として毒性の高いオスミウムを用いることから望ましくない。
【0006】
また、特許文献1には、1,1−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロアセトンを塩基性水溶液で処理してヒドロキシカルボン酸を得、これをアルコールでエステル化して、さらに還元することによりジオールを製造する方法が記載されている。
【0007】
【化2】

【0008】
しかし、この方法では原料の1,1−ジクロロ−3,3,3−トリフルオロアセトンの入手が困難であるばかりか、該化合物からさらに3ステップを要するため推奨できる方法ではない。
【非特許文献1】Ger. Offen. 1993年10月7日 4210733
【特許文献1】特開2004−18503号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、簡便かつ効率的に1,1,1−トリフルオロ−2,3−プロパンジオールを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記の課題を解決するため鋭意研究を行った結果、入手が容易な3,3,3−トリフルオロ−2−オキソプロピオン酸エステルを、ヒドリド還元剤(例えば、水素化ホウ素ナトリウム)を用いて還元することにより、高純度かつ好収率で1,1,1−トリフルオロ−2,3−プロパンジオールを製造できることを見いだした。かかる知見に基づき更に研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は以下のジオール化合物の製造方法を提供する。
【0012】
項1. 一般式(2):
【0013】
【化3】

【0014】
(式中、Rfはポリフルオロアルキル基を示す。)
で表されるジオール化合物の製造方法であって、一般式(1):
【0015】
【化4】

【0016】
(式中、Rはアルキル基を示し、Rfは前記に同じ。)
で表される化合物をヒドリド還元剤と反応させることを特徴とする製造方法。
【0017】
項2. 前記ヒドリド還元剤が、ホウ素ハイドライド系還元剤、ケイ素ハイドライド系還元剤、及びアルミニウムハイドライド系還元剤からなる群より選ばれる少なくとも1種である項1に記載の製造方法。
【0018】
項3. エーテル系溶媒中で反応させる項1に記載の製造方法。
【0019】
項4. エーテル系溶媒中で反応させ、さらにアルコール類を加えて反応させる項1に記載の製造方法。
【0020】
項5. 一般式(3):
【0021】
【化5】

【0022】
(式中、Rfはポリフルオロアルキル基を示す。)
で表される化合物の製造方法であって、一般式(1):
【0023】
【化6】

【0024】
(式中、Rはアルキル基を示し、Rfは前記に同じ。)
で表される化合物をヒドリド還元剤と反応させて、一般式(2):
【0025】
【化7】

【0026】
(式中、Rfは前記に同じ。)
で表されるジオール化合物とし、該ジオール化合物をカーボネート化試薬と反応させることを特徴とする製造方法。
【0027】
項6. 一般式(5):
【0028】
【化8】

【0029】
(式中、Rfはポリフルオロアルキル基、Xはハロゲン原子を示す。)
で表される化合物の製造方法であって、一般式(1):
【0030】
【化9】

【0031】
(式中、Rはアルキル基を示し、Rfは前記に同じ。)
で表される化合物をヒドリド還元剤と反応させて、一般式(2):
【0032】
【化10】

【0033】
(式中、Rfは前記に同じ。)
で表されるジオール化合物とし、該ジオール化合物をハロゲン化スルフリルと反応させて、一般式(4):
【0034】
【化11】

【0035】
(式中、Rfは前記に同じ。)
で表される化合物とし、該化合物を金属ハロゲン化物と反応させることを特徴とする製造方法。
【0036】
項7. 一般式(6):
【0037】
【化12】

【0038】
(式中、Rfはポリフルオロアルキル基を示す。)
で表される化合物の製造方法であって、一般式(1):
【0039】
【化13】

【0040】
(式中、Rはアルキル基を示し、Rfは前記に同じ。)
で表される化合物をヒドリド還元剤と反応させて、一般式(2):
【0041】
【化14】

【0042】
(式中、Rfは前記に同じ。)
で表されるジオール化合物とし、該ジオール化合物をハロゲン化スルフリルと反応させて、一般式(4):
【0043】
【化15】

【0044】
(式中、Rfは前記に同じ。)
で表される化合物とし、該化合物を金属ハロゲン化物と反応させて、一般式(5):
【0045】
【化16】

【0046】
(式中、Xはハロゲン原子を示し、Rfは前記に同じ。)
で表される化合物とし、該化合物に塩基を反応させることを特徴とする製造方法。
【0047】
項8. 一般式(3):
【0048】
【化17】

【0049】
(式中、Rfはポリフルオロアルキル基を示す。)
で表される化合物の製造方法であって、一般式(1):
【0050】
【化18】

【0051】
(式中、Rはアルキル基を示し、Rfは前記に同じ。)
で表される化合物をヒドリド還元剤と反応させて、一般式(2):
【0052】
【化19】

【0053】
(式中、Rfは前記に同じ。)
で表されるジオール化合物とし、該ジオール化合物をハロゲン化スルフリルと反応させて、一般式(4):
【0054】
【化20】

【0055】
(式中、Rfは前記に同じ。)
で表される化合物とし、該化合物を金属ハロゲン化物と反応させて、一般式(5):
【0056】
【化21】

【0057】
(式中、Xはハロゲン原子を示し、Rfは前記に同じ。)
で表される化合物とし、該化合物に塩基を反応させて、一般式(6):
【0058】
【化22】

【0059】
(式中、Rfは前記に同じ。)
で表される化合物とし、該化合物にアルカリ金属ハロゲン化物の存在下二酸化炭素を反応させることを特徴とする製造方法。
【発明の効果】
【0060】
本発明のジオールの製造方法によれば、簡便かつ効率的に1,1,1−トリフルオロ−2,3−プロパンジオールを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0061】
本発明のジオールの製造方法は、下記式[A]で示される1工程からなる。一般式(1)で表される化合物をヒドリド還元剤と反応させて、一般式(2)で表されるジオール化合物を得る。
【0062】
【化23】

【0063】
(式中、Rfはポリフルオロアルキル基、Rはアルキル基を示す。)
Rfで示されるポリフルオロアルキル基としては、直鎖又は分岐鎖のアルキル基の少なくとも1個の水素原子がフッ素原子に置換された基である。好ましくは炭素数1〜8、より好ましくは炭素数1〜5のポリフルオロアルキル基である。具体的には、−CF、−CHF、−CFH、−CFCF、−CFCFCF、−CFCFCFCF、−CF(CF、−CH(CF、などが例示され、好ましくは−CFである。
【0064】
で示されるアルキル基としては、直鎖又は分岐鎖の炭素数1〜8、好ましくは炭素数1〜6、より好ましくは炭素数1〜4のアルキル基である。具体的には、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、tert−ブチルなどが例示され、好ましくはメチル又はエチルである。
【0065】
ヒドリド還元剤としては、安全かつ温和な条件下で反応するものを用いることができ、例えば、ジボラン、BH・THF、BH・SMe、BH・[(CHCHCHS、BH・NH、BH・(CHCNH、BH・CN(C、BH・[(CHCH]NC、BH・(CHNH、BH・(CN、BH・(CHN、BH・(CPH、BH・(CP、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)、水素化ホウ素リチウム(LiBH)、NaBH−CeCl、Zn(BH、Ca(BH、Li(n−Bu)BH、NaBH(OMe)、NaBH(OAc)、NaBHCN、EtNBH、MeNBH(OAc)、(n−Bu)NBHCN、(n−Bu)NBH(OAc)、Li(sec−Bu)BH、K(sec−Bu)BH、LiSiaBH、KSiaBH、LiEtBH、KPhBH、(PhP)CuBH、ThxBH、SiaBH、カテコールボラン、IpcBH、IpcBH等のホウ素ハイドライド系;EtSiH、PhMeSiH、PhSiH、PhSiH−Mo(CO)等のケイ素ハイドライド系;水素化アルミニウムリチウム(LiAlH)、水素化ジイソブチルアルミニウム、水素化アルコキシアルミニウム、水素化アルミニウム等のアルミニウムハイドライド系等が挙げられる。好ましくはNaBH、LiAlH、BH・THF、BH・SMe、BH・NH、BH・(CN、BH・(CHNである。
【0066】
また、上記のヒドリド還元剤を使用する際、活性化剤としてルイス酸、例えば、AlCl、FeCl、GaCl、BF・EtO等を加えてもよい。この場合、ルイス酸の使用量は、一般に、ヒドリド還元剤1モルに対して、0.1〜1モル程度であればよい。
【0067】
ヒドリド還元剤の使用量は、一般式(1)で表される化合物1モルに対して、通常、1モル以上であり、好ましくは1〜1.5モル、より好ましくは1〜1.2モルである。
【0068】
反応は溶媒中で行われるが、反応溶媒としてはヒドリド還元剤及び一般式(1)で表される化合物が均一に溶解し得るものであれば特に限定はなく、例えば、n−ペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素系;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素系;塩化メチレン、クロロホルム、1、2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素系;ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、t−ブチルメチルエーテル、ジオキサン等のエーテル系;モノグライム、ジグライム、トリグライム、テトラグライム等のポリエーテル系;アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル系等が挙げられる。その中でも、エーテル系溶媒が好ましく、特に、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサンがより好ましい。これらの溶媒は、単独または組み合わせて用いることができる。
【0069】
本発明では、反応の初期において溶媒として水、アルコール系溶媒(メタノール、エタノール等)等の求核種となり得る溶媒を用いないことが肝要である。これは、一般式(1)で表される化合物の2位のカルボニル炭素は、隣接するRfで示されるポリフルオロアルキル基とエステル基により電子が吸引されているため電子密度が低くなっており、反応系中に例えばアルコール系溶媒が存在するとカルボニル炭素がその攻撃を受けて、ヒドリド(還元種)に不活性なヘミアセタール中間体を容易に形成してしまうからである。
【0070】
反応溶媒の使用量は、一般式(1)で表される化合物の濃度が10〜50重量%、好ましくは20〜50重量%になるように調整すればよい。
【0071】
反応操作は特に限定はないが、例えばヒドリド還元剤を含む溶媒中に、一般式(1)で表される化合物を加える、或いは、一般式(1)で表される化合物を含む溶媒中にヒドリド還元剤を加える等が挙げられる。
【0072】
反応温度は、例えば、30〜80℃であり、40〜80℃が好ましく、特に、50〜80℃がより好ましい。反応が進行すると発熱する場合があるが、その場合は水浴等の恒温槽を用いて上記の温度範囲に維持することもできる。反応に要する時間は通常3〜4時間程度である。反応の進行状況は、ガスクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、H−NMR、19F−NMR等の分析手段を用いてモニターすることができる。
【0073】
本発明の製造方法では、上述した条件で反応は良好に進行するが、原料が消失したことをモニターで確認した後、アルコール類を添加してもよい。これによりエステル基のヒドリド還元が効率よく進行する。該アルコール類としては、直鎖又は分岐鎖の炭素数1〜4(好ましくは1〜3)のアルコールが挙げられる。具体的には、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール等が例示される。好ましくは、メタノール又はエタノールである。
【0074】
アルコール類の添加量は、例えば、一般式(1)で表される化合物1モルに対して、1〜2モル、好ましくは1〜1.5モル、より好ましくは1〜1.2モルである。
【0075】
上記の製造方法により、一般式(2)で表されるジオール化合物を簡便かつ高収率で得ることができる。
【0076】
本発明は上述のジオール化合物の製造方法に加えて、さらに下記の一般式(3)、(4)、(5)及び(6)で表される化合物の製造方法をも提供する。具体的な反応スキームを下記に示す。
【0077】
【化24】

【0078】
(式中、Xはハロゲン原子を示し、Rf及びRは前記に同じ。)
一般式(1)で表される化合物は公知の原料及び反応を用いて当業者が容易に製造することができる。例えば、特開昭63−35538号公報、特開2003−252831号公報、Journal of Fluorine Chemistry 115 (2002) 67-74等に記載の方法に準じて容易に製造できる。
【0079】
一般式(2)で表されるジオール化合物に、溶媒の存在下又は不存在下、塩基の存在下、カーボネート化剤を反応させることにより、一般式(3)で表されるカーボネート化合物を製造することができる。
【0080】
塩基としては、例えば、炭酸リチウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム等の無機塩基、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ジエチルアミン、エチルアミン、ピリジン等の有機塩基などが挙げられる。塩基の使用量は、一般式(2)で表されるジオール化合物1モルに対し、例えば、0.01〜5モル、0.01〜1モル、好ましくは0.01〜0.1モルである。
【0081】
カーボネート化剤としては、例えば、ホスゲン、トリホスゲン、ジアルキルカーボネート(ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等)、カルボニルジイミダゾール(CDI)、二フッ化カルボニル(COF)等が挙げられる。カーボネート化剤の使用量は、トリホスゲンの場合は、一般式(2)で表されるジオール化合物1モルに対し、例えば、0.35〜1モル、好ましくは0.35〜0.5モルであればよい。トリホスゲン以外のカーボネート化剤の場合、一般式(2)で表されるジオール化合物1モルに対し、例えば、1〜1.5モル、好ましくは1〜1.2モルである。
【0082】
溶媒を用いる場合、溶媒としては、塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素系;ジエチルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル系;エチレングリコールジメチルエーテル(モノグライム)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグライム)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(テトラグライム)等のポリエーテル系等が例示される。
【0083】
カーボネート化剤としてジアルキルカーボネートを用いる場合には、無溶媒で反応させることもできる。この場合、アルコールを除去しながら触媒量の酸又は塩基の存在下で反応させることもできる。
【0084】
一般式(2)で表されるジオール化合物から、一般式(4)、(5)及び(6)で表される化合物への変換は、例えば、特開平2006−328011号公報に記載の方法に準じて製造することができる。具体例を以下に示す。
【0085】
一般式(2)で表されるジオール化合物に、溶媒中、塩基の存在下、ハロゲン化スルフリルを反応させることにより、一般式(4)で表される環状硫酸エステル化合物を製造することができる。
【0086】
塩基としては、例えば、イミダゾール、ピリジン、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、トリイソプロピルアミン等が挙げられる。塩基の使用量は、一般式(2)で表されるジオール化合物1モルに対し、例えば、2〜4モル、好ましくは2.4〜3モルである。
【0087】
ハロゲン化スルフリルとしては、フッ化スルフリル、塩化スルフリル、臭化スルフリルが挙げられる。ハロゲン化スルフリルの使用量は、一般式(2)で表されるジオール化合物1モルに対し、例えば、1〜2モル、好ましくは1.2〜1.5モルである。
【0088】
溶媒としては、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、グライム等が例示される。反応は0〜30℃程度で、2〜3時間程度である。
【0089】
一般式(4)で表される環状硫酸エステル化合物に、溶媒の存在下又は非存在下、金属ハロゲン化物を反応させることにより開環ハロゲン化して、一般式(5)で表されるハロヒドリン化合物を製造することができる。
【0090】
金属ハロゲン化物としては、アルカリ金属(リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム等)のハロゲン化物(フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物等)、アルカリ土類金属(マグネシウム、カルシウム、バリウム等)のハロゲン化物(フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物等)等が挙げられる。その中でもアルカリ金属の臭化物が好ましく、特に臭化カリウムがより好ましい。金属のハロゲン化物の使用量は、一般式(4)で表される環状硫酸エステル化合物1モルに対して、通常は0.9モル以上、好ましくは1〜10モル、より好ましく1.1〜7モルである。
【0091】
溶媒を用いる場合、溶媒としては、例えば、トルエン、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、アセトン、酢酸エチル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドおよびアセトニトリルが挙げられる。
【0092】
一般式(5)で表されるハロヒドリン化合物に、溶媒中、塩基の存在下反応させることにより、一般式(6)で表されるエポキシ化合物を製造することができる。
【0093】
塩基としては無機塩基が好ましく、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム等が挙げられる。その中でも水酸化リチウム、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムが好ましく、特に水酸化ナトリウムがより好ましい。無機塩基の使用量は、一般式(5)で表されるハロヒドリン化合物1モルに対して、0.9モル以上、好ましくは1.0〜10モル、より好ましくは1.1〜7モルである。
【0094】
溶媒としては、水、エチレングリコール、ジグライム等が挙げられる。その中でも水およびエチレングリコールが好ましく、特に水がより好ましい。
【0095】
一般式(6)で表されるエポキシ化合物に、溶媒中、アルカリ金属ハロゲン化物の存在下、炭酸ガス(CO)と反応させることにより、一般式(3)で表されるカーボネート化合物を製造することができる。
【0096】
アルカリ金属ハロゲン化物としては、ハロゲン化リチウム(例えば、フッ化リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム等)、ハロゲン化ナトリウム(例えば、フッ化ナトリウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム等)、ハロゲン化カリウム(例えば、フッ化カリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム等)、ハロゲン化セシウム(例えば、フッ化セシウム、塩化セシウム、臭化セシウム、ヨウ化セシウム等)等が挙げられる。その中でも臭化リチウムが好ましい。アルカリ金属ハロゲン化物の使用量は、一般式(6)で表されるエポキシ化合物1モルに対して、通常は0.01モル以上、好ましくは0.01〜1.0モル、より好ましく0.01〜0.1モルである。
【0097】
導入する炭酸ガス(CO)の圧力は、0.1〜1.5MPa、好ましくは0.5〜1.5MPaである。
【0098】
溶媒としては、N−メチルピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、テトラヒドロフラン(THF)、グライム等が挙げられる。その中でもNMP、DMAc、DMFが好ましく、特にNMP又はDMFが好ましい。
【0099】
得られる一般式(3)で表されるカーボネート化合物は、例えば、リチウム二次電池、太陽電池、ラジカル電池、キャパシタ用電解質、電気化学素子等の用途に好適に用いられる。また、一般式(6)で表されるエポキシ化合物は、例えば、医薬、農薬、液晶の中間体等の用途に好適に用いられる。
【実施例】
【0100】
以下に実施例を示し、本発明の特徴を明確にする。本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
ジムロート、滴下ロート及び温度計を備えた3L四つ口フラスコに、NaBH118g(1.0equiv:3.2mol)及びTHF500mlを入れ撹拌し溶液とした。滴下ロートから3,3,3−トリフルオロピルビン酸メチル500g(32mol)を、温度を約50℃に保ちながら約2hrかけて滴下した。還流下で1hr撹拌した後、発熱が収まったところで、HO 115ml(2.0equiv.:64mol)を加え、還流下で1hr反応させた。反応終了後、98%硫酸で酸性にし、さらに還流下で1hr反応させた。反応終了後、反応溶液を酢酸エチルで抽出し、水で洗浄を行った。また、洗浄に用いた水を酢酸エチルで2回抽出し、最初の有機層とまとめて溶媒を留去した。その後、残留物の蒸留精製を行った。単離収率60%(GC純度99.8%)で、1,1,1−トリフルオロ−2,3−プロパンジオールを得た。
[実施例2]
ジムロート、滴下ロート及び温度計を備えた1L四つ口フラスコに、NaBH23.9g(1.0equiv:0.64mol)及びTHF100mlを入れ撹拌し溶液とした。溶液を30℃に保ちながら、滴下ロートから3,3,3−トリフルオロピルビン酸メチル100g(0.64mol)を約2hrかけて加えた。続いて、EtOH 23ml(1.0equiv.:0.64mol)を滴下し、還流下1hr反応させた。発熱がおさまったところで、HO11ml(1.0equiv.:0.67mol)を加え、0.5hr撹拌した。反応終了後、1N HCl水溶液で酸性にし、酢酸エチルで抽出、溶媒を留去し、精留精製を行なうことにより、単離収率54%(GC純度99.5%)で、1,1,1−トリフルオロ−2,3−プロパンジオールを得た。このジオールを19F−NMR、H−NMR分析により解析した。
19F−NMR:(重アセトン):−88.5ppm(3F)
H−NMR:(重アセトン):4.06−4.22ppm(2H,m)4.45−4.51ppm(1H、q)、5.33ppm(2H、s)
[実施例3]
ジムロート、滴下ロート及び温度計を備えた1L四つ口フラスコに、NaBH22g(1.0equiv.:0.58mol)、溶媒にTHF100mlを入れ撹拌し溶液とした。溶液を30℃に保ちながら、滴下ロートから3,3,3−トリフルオロピルビン酸メチル100g(0.58mol)を約2hrかけて加えた。続いて、EtOH 21ml(1.0equiv.:0.58mol)を滴下し、還流下1hr反応させた。発熱がおさまったところで、HO10ml(1.0equiv.:0.58mol)を加え、0.5hr撹拌した。反応終了後、1N HCl水溶液で酸性にし、酢酸エチルで抽出、溶媒を留去し、精留精製を行なうことにより、単離収率54%(GC純度99.5%)で、1,1,1−トリフルオロ−2,3−プロパンジオールを得た。
[実施例4]
次にDean−stark装置を用いてエステル交換反応を検討した。1,1,1−トリフルオロ−2,3−プロパンジオール100g(0.77mol)と炭酸カリウム10g(10mol%:77mmol)とジメチルカーボネート330g(2equiv.:1.56mol)を反応容器に加え、還流下で反応を行った。反応の進行はGCを用いて追跡を行った。原料の消失を確認した後、反応溶媒をそのまま蒸留により精製を行うことにより、単離収率80%(GC純度99.5%)で3,3,3−トリフルオロプロピレンカーボネートを得た。これをH−NMR、19F−NMRにより解析した。
19F−NMR:(重アセトン):−83.5ppm(3F)
H−NMR:(重アセトン):4.76ppm(1H,m)4.86ppm(1H、m)、5.08ppm(1H、m)
[実施例5]
アルカリトラップを備え付けた反応装置を組み反応を行った。反応溶液に1,1,1−トリフルオロ−2,3−プロパンジオール100g(0.77mol)とトリエチルアミン187g(2.4equiv.:1.84mol)とテトラグライム200mlを加え、氷冷下で攪拌を行った。滴下ロートを用いてトリホスゲン76g(1/3equiv.:0.26mol)−テトラグライム300ml溶液を発熱に注意して滴下した。滴下していくうちに溶液が白濁していくのが確認できた。反応溶液をGCで分析し反応の進行を確認した。原料のジオールの消失を確認した後、反応溶液を1N−HCl水溶液にて再沈を行った。下層に析出する目的生成物を採取した、蒸留により精製を行うことにより、単離収率60%(GC純度99.5%)で3,3,3−トリフルオロプロピレンカーボネートを得た。
[実施例6]
1,1,1−トリフルオロ−2,3−プロパンジオール100g(0.77mol)とトリエチルアミン215g(2.75equiv.:2.12mol)とTHF 300mlを加えて溶解した。内温を0〜10℃に制御しながら、塩化スルフリル120g(1.16equiv.:0.89mol)−塩化メチレン165ml溶液を加え、0℃で4時間攪拌した。反応の変化率を19F−NMRにより測定したところ、95%であった。反応終了後に1N HCl水溶液を加え、酢酸エチルで2回抽出した。回収した有機層を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄し、10%食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮し、真空乾燥し、下記式で示される環状硫酸エステル体:
【0101】
【化25】

【0102】
の粗生成物を得た。粗生成物を19F−NMRによる内部標準法で定量したところ、収率は80%(19F−NMR純度=82%)であった。この環状硫酸エステル体をH−NMR、19F−NMRにより解析した。
19F−NMR:(重アセトン):−83.48ppm(3F)
H−NMR:(重アセトン):4.75ppm(1H,dd)4.85ppm(1H、dd)、5.08ppm(1H、m)
[実施例7]
実施例5で得られた環状硫酸エステル体の粗生成物50g(0.213mol:19F−NMR純度=82%)に臭化カリウム51g(2.03equiv.:0.433mol)を加え、40℃で5時間攪拌した。反応の変化率を19F−NMRにより測定したところ、100%であった。反応終了後に純水を加え、酢酸エチルで2回抽出した。回収有機相を10%食塩水で2回洗浄し、常圧濃縮し、ブロモヒドリン体:
【0103】
【化26】

【0104】
の粗生成物を得た。混合溶液を蒸留により目的生成物を単離収率60%で得た。また採取した生成物をH−NMR、19F−NMRにより解析した。
19F−NMR:(重アセトン):−88.5ppm(3F)
H−NMR:(重アセトン):3.34ppm(1H,br)3.47ppm(1H、dd)、3.62ppm(1H、dd)3.78ppm(1H、m)
[実施例8]
水酸化ナトリウム31g(3.28equiv.:0.781mol)−水60ml溶液に氷冷下、実施例6で得られたブロモヒドリン体50g(0.238mol)を加え、内温を61℃まで昇温し、発生したガスを反応器外に導き出し、−78℃に冷却したトラップで凝縮させ、1,1,1−トリフルオロ−2,3−エポキシプロパンを収率84%で得た。これをH−NMR、19F−NMRにより解析した。
19F−NMR:(重アセトン):−86.90ppm(3F、d)
H−NMR:(重アセトン):2.90ppm(1H,m)2.96ppm(1H、dd)、3.40ppm(1H、m)
[実施例9]
3Lのオートクレーブに、1,1,1−トリフルオロ−2,3−エポキシプロパンを800g(7.14mol)、LiBrを18.8g(3mol%、0.2mol)、N−メチル−2−ピロリドン600mlを入れた。氷浴下、減圧(100mmHg)にした後、COを導入した。その後、100℃まで加熱しながらCOを1.2MPaまで導入し、圧が下がらなくなるまで撹拌し反応させた。反応終了後、反応液を冷却し1mol/L HCl水溶液で洗浄、分液を行った。その後、蒸留精製し、含フッ素環上カーボネート:
【0105】
【化27】

【0106】
548g(3.5mol)を得た(収率49%)。
【0107】
この生成物をH−NMR、19F−NMRにより解析した。
19F−NMR:(neat):−79.1〜83.2ppm(3F)
H−NMR:(neat):4.44〜4.61ppm(2H)、4.91ppm(1H)
IR:(KBr):1801cm−1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(2):
【化1】

(式中、Rfはポリフルオロアルキル基を示す。)
で表されるジオール化合物の製造方法であって、一般式(1):
【化2】

(式中、Rはアルキル基を示し、Rfは前記に同じ。)
で表される化合物をヒドリド還元剤と反応させることを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記ヒドリド還元剤が、ホウ素ハイドライド系還元剤、ケイ素ハイドライド系還元剤、及びアルミニウムハイドライド系還元剤からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
エーテル系溶媒中で反応させる請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
エーテル系溶媒中で反応させ、さらにアルコール類を加えて反応させる請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
一般式(3):
【化3】

(式中、Rfはポリフルオロアルキル基を示す。)
で表される化合物の製造方法であって、一般式(1):
【化4】

(式中、Rはアルキル基を示し、Rfは前記に同じ。)
で表される化合物をヒドリド還元剤と反応させて、一般式(2):
【化5】

(式中、Rfは前記に同じ。)
で表されるジオール化合物とし、該ジオール化合物をカーボネート化試薬と反応させることを特徴とする製造方法。
【請求項6】
一般式(5):
【化6】

(式中、Rfはポリフルオロアルキル基、Xはハロゲン原子を示す。)
で表される化合物の製造方法であって、一般式(1):
【化7】

(式中、Rはアルキル基を示し、Rfは前記に同じ。)
で表される化合物をヒドリド還元剤と反応させて、一般式(2):
【化8】

(式中、Rfは前記に同じ。)
で表されるジオール化合物とし、該ジオール化合物をハロゲン化スルフリルと反応させて、一般式(4):
【化9】

(式中、Rfは前記に同じ。)
で表される化合物とし、該化合物を金属ハロゲン化物と反応させることを特徴とする製造方法。
【請求項7】
一般式(6):
【化10】

(式中、Rfはポリフルオロアルキル基を示す。)
で表される化合物の製造方法であって、一般式(1):
【化11】

(式中、Rはアルキル基を示し、Rfは前記に同じ。)
で表される化合物をヒドリド還元剤と反応させて、一般式(2):
【化12】

(式中、Rfは前記に同じ。)
で表されるジオール化合物とし、該ジオール化合物をハロゲン化スルフリルと反応させて、一般式(4):
【化13】

(式中、Rfは前記に同じ。)
で表される化合物とし、該化合物を金属ハロゲン化物と反応させて、一般式(5):
【化14】

(式中、Xはハロゲン原子を示し、Rfは前記に同じ。)
で表される化合物とし、該化合物に塩基を反応させることを特徴とする製造方法。
【請求項8】
一般式(3):
【化15】

(式中、Rfはポリフルオロアルキル基を示す。)
で表される化合物の製造方法であって、一般式(1):
【化16】

(式中、Rはアルキル基を示し、Rfは前記に同じ。)
で表される化合物をヒドリド還元剤と反応させて、一般式(2):
【化17】

(式中、Rfは前記に同じ。)
で表されるジオール化合物とし、該ジオール化合物をハロゲン化スルフリルと反応させて、一般式(4):
【化18】

(式中、Rfは前記に同じ。)
で表される化合物とし、該化合物を金属ハロゲン化物と反応させて、一般式(5):
【化19】

(式中、Xはハロゲン原子を示し、Rfは前記に同じ。)
で表される化合物とし、該化合物に塩基を反応させて、一般式(6):
【化20】

(式中、Rfは前記に同じ。)
で表される化合物とし、該化合物にアルカリ金属ハロゲン化物の存在下二酸化炭素を反応させることを特徴とする製造方法。

【公開番号】特開2008−230970(P2008−230970A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−68361(P2007−68361)
【出願日】平成19年3月16日(2007.3.16)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】