説明

含フッ素スチレン誘導体及びその重合体

【課題】分岐状フッ素置換基を有する新規なスチレン誘導体、それから得られる高いガラス転移温度を持ち、優れた耐熱性を有するとともに、高い撥水・撥油性及び低屈折率を有する重合体及びそれらの製造方法。
【解決手段】下記一般式(1)で表される含フッ素スチレン誘導体化合物、その重合体、及びそれらのフィルム又はレンズ等の光学部材、その他の用途。
Φ(R〜R)−O−R ・・・・ (1)
(置換基R〜Rのうち少なくとも一つは重合官能性のビニル基あるいは2−プロペニル基、残りは水素あるいはフッ素、塩素、メチル基、メトキシ基、トリフルオロメチル基のいずれかであり、各々が同一でも異なっていてもよく、RはCあるいはC、C11、C15、C17のペルフルオロアルケニル基あるいはこれらが混合した置換基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規含フッ素スチレン誘導体、その重合体及びその用途に関するものであり、更に詳しくは、分岐状フッ素置換基を有する新規なスチレン誘導体、当該スチレン誘導体から得られる、ガラス転移温度が高く、耐熱性に優れ、耐溶剤性、低屈折率であることを特徴とする含フッ素重合体と共重合体、それらを得るための含フッ素単量体とその製造方法及びそれらの用途に関するものである。本発明の含フッ素スチレン誘導体から得られる重合体は、高い撥水・撥油性及び低屈折率を有すると共に、優れた耐熱性を有し、例えば、それ自身に機械的な強度が要求されるフィルム又はレンズ等の光学部材として使用することが可能であり、更に、当該重合体は、これを基材上にコーティングした多層反射防止材料、撥水・撥油性フィルム、気体及び液体透過膜、多孔質粒子によるクロマトグラフ充填剤等として有用である。
【背景技術】
【0002】
疎水・疎油性であるペルフルオロアルキル基を分子中に含有する化合物は、水だけでなく有機溶媒中でも界面活性を示すことから、界面活性剤として有用である。このような性質を有する化合物の中でも特に重合体は、基材となる樹脂類に少量添加することにより基材の表面自由エネルギーを下げ、表面に撥水・撥油性を付与できる改質剤として利用されている。また、フッ素含量の高い重合体は低屈折率であることから、光学レンズあるいは反射防止フィルム等に用いられている。
【0003】
ペルフルオロアルキル基を分子中に含有する重合体のうち、広く実用化されているものは含フッ素アクリレート及びメタクリレート樹脂であるが、その単量体の原料となる含フッ素アルコール類の製造には、多段階の工程を必要とし、生成物の単離精製も煩雑な場合が多い。また、含フッ素スチレン樹脂は、単量体の合成がアクリレート及びメタクリレート樹脂に比べ更に困難であるため、先行文献には、これまでに、比較的少数の合成例が報告されているのみで(特許文献1−7、非特許文献1)、広く実用化には至っていない。
【0004】
簡便な製造方法で得られる含フッ素アクリレート及びメタクリレート単量体として、先行文献には、分岐状ペルフルオロアルケニル基を有するアクリレート及びメタクリレート単量体が報告されている(特許文献8、9)。しかしながら、それらの単量体を重合してなる樹脂類に関しては何も報告されていない。分岐状ペルフルオロアルケニル基を有するスチレン単量体に関しては、これまで報告例が無い。
【0005】
また、先行文献には、例えば、ポリビニルフェノールにペルフルオロオレフィンを反応させることにより分岐状ペルフルオロアルケニル基を有するスチレン樹脂を得る方法が報告されている(特許文献10 −12)。しかしながら、当該製法では、前駆体となるポリビニルフェノールを必要とすることから、高分子量の含フッ素樹脂を得ることは困難である。
【0006】
また、前駆体とペルフルオロオレフィンとの反応における転化率を100%にすることは困難であり、当該文献中では、未反応のフェノール性水酸基をむしろ積極的に利用して次段階のグラフト化反応を行なっていることからも分かるように、当該製法では、樹脂中にフェノール性水酸基が相当量残留することは避けられない。更に、前駆体調製時の重合反応が特殊なために、種々の汎用な単量体との共重合体を得ることが困難である。
【0007】
【特許文献1】特開昭56−41208号公報
【特許文献2】特公平4−75898号公報
【特許文献3】特許第1785515号公報
【特許文献4】特公平7−13113号公報
【特許文献5】特公平7−13114号公報
【特許文献6】特開平7−030308号公報
【特許文献7】特許第2509274号公報
【特許文献8】特開昭50−52019号公報
【特許文献9】特開昭61−10534号公報
【特許文献10】特公平3−77207号公報
【特許文献11】特開平7−18242号公報
【特許文献12】特開平7−18247号公報
【非特許文献1】Macromolecules,25,1461−1467(1992)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ペルフルオロアルキル基を有する種々のフッ素系アクリレート、メタクリレート及びスチレン樹脂が開発されているが、それらの製造工程、特に単量体の合成プロセスは煩雑である。また、フッ素置換基として直鎖状ペルフルオロアルキル基を有するアクリレート、メタクリレート及びスチレン樹脂は、分子中の当該基の鎖長が長くなるにつれ、その可塑効果により樹脂のガラス転移温度が室温付近まで低下し、バルク材としての使用が困難になる。この場合、樹脂の用途は、添加物あるいはコーティング等に限定され、光学レンズのようにそれ自身に機械的な強度が要求される用途では使用できないという問題点があった。このような欠点を解消するために、当技術分野では、簡便な合成法により製造され、且つ、熱安定性に優れた含フッ素重合体の開発が強く望まれていた。
【0009】
このような状況の中で、本発明者らは、上記の問題点を解決するために鋭意研究を重ねた結果、分岐状フッ素置換基を有する新規なスチレン誘導体の簡便な製法を確立することに成功し、また、本発明の含フッ素スチレン誘導体から得られる重合体が、高い撥水・撥油性及び低屈折率を有すると共に、優れた耐熱性を有することを見出し、更に研究を重ねて、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、有用な重合体合成の単量体として有用な分岐状フッ素置換基を有する新規なスチレン誘導体化合物及びその製造方法を提供することを目的とするものである。また、本発明は、上記スチレン誘導体化合物を単量体とする重合体及び他の単量体との共重合体及びそれらの製造方法を提供することを目的とするものである。更に、本発明は、上記重合体又は共重合体からなる光学部材、多層反射防止材料、撥水・撥油性フィルム、気体及び液体透過膜、及びクロマトグラフ充填剤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)下記一般式(1)で表される含フッ素スチレン誘導体化合物。
【0012】
【化3】

【0013】
(式中R〜Rのうち少なくとも一つは重合官能性のビニル基あるいは2−プロペニル基、残りは水素あるいはフッ素、塩素、メチル基、メトキシ基、トリフルオロメチル基のいずれかであり、各々が同一でも異なっていてもよく、RはCあるいはC、C11、C15、C17のペルフルオロアルケニル基あるいはこれらが混合した置換基を表す。)
(2)上記一般式(1)中、Rのペルフルオロアルケニル基が、ヘキサフルオロプロペン三量体である前記(1)に記載の化合物。
(3)上記一般式(1)中、Rのペルフルオロアルケニル基が、ペルフルオロ(2−イソプロピル−1,3−ジメチル−1−ブテニル)基である前記(1)に記載の化合物。
(4)ヒドロキシスチレン誘導体とペルフルオロオレフィンを非水溶媒中、塩基性触媒の存在下に脱フッ酸反応させることを特徴とする下記の一般式(1)で表される含フッ素スチレン誘導体の製造方法。
【0014】
【化4】

【0015】
(式中R〜Rのうち少なくとも一つは重合官能性のビニル基あるいは2−プロペニル基、残りは水素あるいはフッ素、塩素、メチル基、メトキシ基、トリフルオロメチル基のいずれかであり、各々が同一でも異なっていてもよく、RはCあるいはC、C11、C15、C17のペルフルオロアルケニル基あるいはこれらが混合した置換基を表す。)
(5)前記(1)に記載の一般式(1)で表される含フッ素スチレン誘導体化合物を重合することにより得られる重合体。
(6)前記(1)に記載の一般式(1)で表される含フッ素スチレン誘導体化合物と一種又は数種の他の単量体とを共重合することにより得られる共重合体。
(7)前記(5)又は(6)に記載の重合体あるいは共重合体を成形してなる低屈折率であることを特徴とするフィルム又はレンズからなる光学部材。
(8)前記(5)又は(6)に記載の重合体あるいは共重合体を基材上にコーティングしてなることを特徴とする多層反射防止材料。
(9)前記(5)又は(6)に記載の重合体あるいは共重合体を成形すること、あるいは、樹脂等に添加することによりなることを特徴とする撥水・撥油性フィルム。
(10)前記(5)又は(6)に記載の重合体あるいは共重合体を成形してなることを特徴とする気体及び液体透過膜。
(11)前記(5)又は(6)に記載の重合体あるいは共重合体からなることを特徴とする多孔質粒子によるクロマトグラフ充填剤。
【0016】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、上記問題点を解決することができるものであり、下記の一般式(1)
【0017】
【化5】

【0018】
(式中R〜Rのうち少なくとも一つは重合官能性のビニル基あるいは2−プロペニル基、残りは水素あるいはフッ素、塩素、メチル基、メトキシ基、トリフルオロメチル基のいずれかであり、各々が同一でも異なっていてもよく、RはCあるいはC、C11、C15、C17のペルフルオロアルケニル基あるいはこれらが混合した置換基を表す。)で表される新規な含フッ素スチレン誘導体及びそれらの製造方法を提供するものである。また、上記単量体を重合することにより得られる、高いガラス転移温度を持ち熱安定性に優れる重合体、更には他の単量体との共重合体を提供するものである。
【0019】
本発明の含フッ素スチレン誘導体は、対応するヒドロキシスチレン誘導体とペルフルオロアルケンとを非水溶媒中、塩基性触媒の存在下に脱フッ酸反応させることにより収率良く合成することができる。ヒドロキシスチレン誘導体としては、例えば、4−ヒドロキシスチレン、4−ヒドロキシ−α−メチルスチレン、及びそれらのベンゼン環上に種々のハロゲンあるいはメチル基、メトキシ基、トリフルオロメチル基が置換したものを使用することができる。しかし、これらに制限されるものではない。
【0020】
ペルフルオロアルケンとしては、例えば、テトラフルオロエチレン及びヘキサフルオロプロペンのオリゴマー類で、C(ヘキサフルオロプロペン)、C(テトラフルオロエチレン二量体)、C12(ヘキサフルオロプロペン二量体あるいはテトラフルオロエチレン三量体)、C16(テトラフルオロエチレン四量体)、C18(ヘキサフルオロプロペン三量体)、あるいはこれらの混合物を使用することができる。特にヘキサフルオロプロペン三量体であるペルフルオロ(3−エチル−2,4−ジメチル−2−ペンテン)及びペルフルオロ(3−イソプロピル−4−メチル−2−ペンテン)が好適である。しかし、これらに制限されるものではない。
【0021】
塩基性触媒は、脱フッ酸反応を促進し、生成するフッ酸を中和する作用を有するものであり、好適な触媒としては、例えば、トリエチルアミン及びトリメチルアミンが挙げられる。また、反応溶媒としては、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジグリム、アセトニトリル、ヘキサメチルホスホルアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド又はN−メチルピロリドン等を用いることができる。しかし、これらに制限されるものではない。
【0022】
本発明の方法では、反応温度は0〜150℃、好ましくは10〜80℃の範囲であるが、原料及び生成物の熱重合反応を防止する上では40℃以下で行なうことが望ましい。
【0023】
本発明の含フッ素スチレン誘導体は、通常のラジカル重合法により容易に高分子量の重合体とすることが可能であり、この際、反応は、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合などの公知の方法を用いることができる。ラジカル重合反応は、単なる加熱あるいは紫外線の照射により行なうことが可能であるが、ラジカル開始剤の添加によって速やかに開始することができる。
【0024】
反応に好適に用いられるラジカル開始剤としては、例えば、過酸化ラウロイル、過酸化ベンゾイル等の過酸化物あるいはアゾビスイソブチロニトリルのようなアゾ化合物を例示することができる。重合反応に好適な溶媒として、例えば、ベンゼン、トルエン、クロロベンゼン、テトラヒドロフラン、クロロホルム、メチルエチルケトン、アセトン、フルオロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン、トリフルオロメチルベンゼン、ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン等を例示できるが、これらに限定されるものではない。また、無溶媒でも構わない。反応は、通常40〜100℃の範囲で行う。
【0025】
更に、本発明の含フッ素スチレン誘導体と他の一種類又は数種類の単量体とを混合し、ラジカル重合することにより共重合体を得ることができる。共重合することのできる単量体としては、例えば、スチレン、4−メチルスチレン、4−クロロスチレン、4−クロロメチルスチレン、ペンタフルオロスチレン、4−アミノスチレン等のスチレン誘導体、エチレン、プロピレン、ブテン等のアルケン類、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類を例示することができる。
【0026】
また、上記単量体としては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2,3−ジヒドロキシプロピルアクリレート、ブチルアクリレート、ポリフルオロアルキルアクリレート等のアクリル酸エステル類、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、ポリフルオロアルキルメタクリレート等のメタクリル酸エステル類、アクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸、アクロレイン、アクリル酸、メタクリル酸等を例示することができる。
【0027】
本発明の含フッ素スチレン誘導体から得られる重合体及び共重合体は、100℃以上の高いガラス転移温度を持ち室温付近でガラス状態を保つため、添加剤あるいは支持体上の薄膜としての利用だけでなく、機械的強度を要するバルク部材として広い温度範囲での利用が可能である。また、フィルム表面に対する水の接触角が111°と、ポリ(テトラフルオロエチレン)並みの高い撥水・撥油性を有し、フィルムの屈折率は、n20:1.4148である。更に、この重合体のフィルムは、酸素及び窒素の透過係数がPO:4.22x10−9及びPN:1.41x10−9[cm(STP)cmcm−2−1cmHg−1]であり、酸素を選択的に透過する特性を有し、この酸素透過性はポリスチレンの10倍以上に及ぶ。また、この誘導体から得られる球状多孔質重合体は、クロマトグラフィー固定相として、フッ素含量の多い分子を選択的に保持する性質を有する。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、以下のような効果が奏される。
(1)非常に容易に重合する性質を有する含フッ素不飽和化合物を製造することができ、それらを重合してなる有用な高フッ素含量の高分子化合物を得ることができる。
(2)既存の含フッ素アクリレート及びメタクリレート、スチレン樹脂は、その製造工程、特に単量体の合成プロセスが煩雑であり、含フッ素基の官能基変換反応が必要であるが、本発明によれば、ヒドロキシスチレン誘導体とペルフルオロオレフィンオリゴマー類から一段階且つ高収率で単量体を合成できる。
【0029】
(3)当該単量体からは、ラジカル開始剤等を用いることにより容易に高分子量の新規な重合体を得ることができる。それらは,高フッ素含量であるにもかかわらず溶剤に可溶であり、フィルム等に成形が可能である。
【0030】
(4)また、既存の直鎖状ペルフルオロアルキル基を有する樹脂は、分子中の当該基の鎖長が長くなるにつれ、その可塑効果により樹脂のガラス転移温度が室温付近まで低下し、バルク材としての使用が困難になるという問題点があったが、本発明による分岐状のペルフルオロアルケニル基を有するスチレン重合体では、このようなガラス転移温度の低下が起こらず、広い温度範囲で用いることができる。
【0031】
(5)本発明による分岐状のペルフルオロアルケニル基を有するスチレン重合体及び共重合体は、溶剤に可溶であり、フィルム等に成形が可能である。
(6)このような高フッ素含量のフィルムは、撥水・撥油性フィルム、及び、低屈折フィルム・多層反射防止フィルム、気体分離膜等に利用できる。
(7)また、懸濁重合あるいは乳化重合等により、多孔質球状の重合体を調製することが可能であり、液体クロマトグラフ固定相のカラム充填剤としての利用が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
次に、実施例、比較例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、以下の例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0033】
(単量体の合成)
下記式に示す反応により含フッ素単量体、4−ペルフルオロ(2−イソプロピル−1,3−ジメチル−1−ブテニル)オキシスチレン(A)を得た。
【0034】
【化6】

【0035】
具体的には、4−ヒドロキシスチレン(2.14g,17.8mmol)及びトリエチルアミン(5ml)のジメチルホルムアミド溶液(24ml)に、ヘキサフルオロプロペン三量体(8.00g,17.8mmol)を加え、2層の混合物を室温で1時間撹拌した。反応の進行により1層になった混合物に水を加えることにより再び2層とし、塩酸を加え、上部の水層を酸性にした後、ヘキサンを用いて有機層を数回抽出した。抽出した有機層は、合わせて、炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶液を減圧下で濃縮した後、シリカゲルを充填し、ヘキサンを展開液としたカラムクロマトグラフにより精製した(収量8.83g、収率90%)。
【0036】
以下に、得られた単量体Aの物性を示す。
沸点 61.5−62.0℃/0.25 Torr
MS(EI,70eV)m/e:550M(相対強度:25),431[C17 (0.1),119[CO](8),103[C(100),91[C(9),77[C(51),69[CF(16),65[C(8),51[C(10)
【0037】
19F−NMR(CDCl):−56.3ppm(d,3F,J=57.6Hz), −71.5(s,6F),−72.6(d,6F,J=34.2),−167.7(qm,1F,J=57.6),−169.7(sept m,1F,Jsept=34.2)
H−NMR(CDCl):7.5−7.3ppm(m,2H),7.0−6.7(m,2H),6.68(dd,1H,Jd1=17.6Hz,Jd2=10.9),5.70 (dd,1H,Jd1=17.6,Jd2=0.6),5.27(dd,1H,Jd1=10.9,Jd2=0.6)
【0038】
IR(neat):1618,1601,1505,1409cm−1
20:1.627
20:1.4103
【0039】
図1のa)に、単量体Aの19F−NMRスペクトル(CDCl中、CFCl標準)を示し、図1のb)に、単量体Aとスチレンとの共重合体の19F−NMRスペクトル(同上)を示す。
【実施例2】
【0040】
(塊状重合)
上記実施例1で合成した単量体A(5.00g,9.09mmol)及びラジカル重合開始剤としての4,4’−アゾビス(イソブチロニトリル)(1.49mg,0.00907mmol)をガラスアンプル中に仕込み、常法により脱気した後、アンプルを熔封した。このアンプルを60℃の油浴中に5時間放置することにより重合反応を行なった。重合反応の後、反応混合物をヘキサフルオロベンゼンに溶解し、この溶液を多量のヘキサン中に注ぐことにより、重合体を沈殿物として得た。沈殿物は、ろ別及び乾燥し、白色粉末状の重合体を得た(収量2.42g)。得られた重合体を再度適当な溶媒に溶解し、ヘキサン中へ沈殿させることにより精製した。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(展開液:CFCFCHCl/CClFCFCHClF混合液)により求めたポリ(ジメチルシロキサン)換算の数平均分子量は、Mn:2.36x10、重量平均分子量は、Mw:3.05x10であった。また、示差走査熱量計により測定した重合体のガラス転移温度は、124℃であった。
【0041】
元素分析:実測値:C,36.19%;H,1.30%;F,58.37%、計算値(C17OF17):C,37.11%;H,1.28%;F,58.70%
【0042】
重合体の示差走査熱量測定のチャートを図2の一部に示す。
【実施例3】
【0043】
(低屈折率フィルム)
上記実施例2で合成した重合体を、ヘキサフルオロベンゼンに溶解し、約2%溶液を調製した。この溶液をガラス基板上に流延し、溶媒を室温で蒸発させた。生成したフィルムを基板から剥離し、40℃で24時間真空乾燥した。得られたフィルムの屈折率をアッベ屈折率計により測定したところ、n20:1.4148であった。
【実施例4】
【0044】
(反射防止膜)
上記実施例2で合成した重合体を、ヘキサフルオロベンゼンに溶解し、約2%溶液を調製した。この溶液をポリエチレンテレフタレート(PET)基板上に流延し、溶媒を室温で蒸発させた後、40℃で24時間真空乾燥した。得られた多層膜の反射率スペクトルを図3に示す。
【実施例5】
【0045】
(撥水性フィルム)
上記実施例2で合成した重合体を、ヘキサフルオロベンゼンに溶解し、約2%溶液を調製した。この溶液をガラス基板上に流延し、溶媒を室温で蒸発させた。生成したフィルムを基板から剥離し、40℃で24時間真空乾燥した。得られたフィルム表面に対する水の接触角を測定したところ、111°と非常に高い撥水性を示した。
【実施例6】
【0046】
(気体選択透過膜)
上記実施例2で合成した重合体を、ヘキサフルオロベンゼンに溶解し、約2%溶液を調製した。この溶液をガラス基板上に流延し、溶媒を室温で蒸発させた。生成したフィルムを基板から剥離し、40℃で24時間真空乾燥した。得られたフィルムの酸素及び窒素透過係数を空気を用いて測定したところ、PO=4.22x10−9[cm(STP)cmcm−2−1cmHg−1]及びPN=1.41x10−9と酸素を選択的に透過した。また、水素透過係数はPH=1.59x10−8[cm(STP)cmcm−2−1cmHg−1]であった。
【実施例7】
【0047】
(共重合)
上記実施例2に示した操作により、実施例1で合成した単量体Aとスチレンを0.1mol%の4,4’−アゾビス(イソブチロニトリル)により重合し、共重合体を得た。共重合反応の仕込み組成及び共重合体の生成重量、単量体組成比、分子量、ガラス転移温度を表1に示す。また、共重合体の19F−NMRスペクトルを図1の一部に、示差走査熱量測定のチャートを図2の一部に示す。
【0048】
【表1】

【実施例8】
【0049】
(溶液重合)
上記実施例1で合成した単量体A(1.00g,1.82mmol)及びラジカル重合開始剤としての4,4’−アゾビス(イソブチロニトリル)(1.49mg,0.00907mmol)、ベンゼン(0.50ml)をガラスアンプル中に仕込み、常法により脱気した後、アンプルを熔封した。このアンプルを60℃の油浴中に4時間放置することにより重合反応を行なった。重合反応の後、反応混合物をヘキサフルオロベンゼンに溶解し、この溶液を多量のメタノール中に注ぐことにより、白色固体状の重合体を沈殿物として得た。沈殿物は、ろ別及び乾燥し、白色粉末状の重合体を得た(収量0.27g)。得られた重合体を再度適当な溶媒に溶解し、メタノール中へ沈殿させることにより精製した。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(展開液:CFCFCHCl/CClFCFCHClF混合液)により求めたポリ(ジメチルシロキサン)換算の数平均分子量は、Mn:1.44x10、重量平均分子量は、Mw:2.08x10であった。
【実施例9】
【0050】
(懸濁重合)
上記実施例1で合成した単量体A(5.00g,9.09mmol)及び架橋剤としてのジビニルベンゼン(1.18g,9.06mmol)、ラジカル重合開始剤としての過酸化ベンゾイル(0.088g,0.36mmol)をジエチルベンゼンに溶解し、全量を10mlとした。この溶液をポリビニルアルコール(3.00g,重合度:約2000,けん化度:0.8)を含む水(300ml)に加え、毎分750回転で機械的に撹拌することにより、懸濁液を調製した。この懸濁液を減圧により脱気した後、アルゴン雰囲気下75℃で20時間重合反応を行い、数十ミクロンの球状多孔質重合体をほぼ定量的に得た。
【実施例10】
【0051】
(液体クロマトグラフカラム固定相)
上記実施例9で調製した球状多孔質重合体を、メタノールに分散し、ふるいにより粒径45−75μmの重合体を分取した。このものをスラリー法により100kgf/cmでステンレス製の液体クロマトグラフ用カラム(長さ25cm、内径0.46cm)に充填した。ベンゼンにより求めたカラムの理論段数は、約200であった(展開液:ヘキサン、流速:0.8ml/分)。このカラムにより、ベンゼン及びフルオロベンゼン、ペンタフルオロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼンの分析を行なったところ、表2に示すとおり、フッ素含量の多い分子が保持され、このカラムが含フッ素化合物類の液体クロマトグラフ分析に有効であることが分かった。
【0052】
【表2】

【0053】
比較例1
(スチレンの塊状重合)
上記実施例2と同様の操作により、ラジカル重合開始剤として4,4’−アゾビス(イソブチロニトリル)(15.8mg,0.0962mmol)を用いてスチレン(10.0g,96.0mmol)を単独重合し、白色粉末状の重合体を得た(収量1.01g)。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(展開液:テトラヒドロフラン)により求めた数平均分子量は、Mn:1.18x10、重量平均分子量は、Mw:2.10x10であった。また、示差走査熱量計により測定した重合体のガラス転移温度は、104℃であった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
以上詳述したように、本発明は、含フッ素スチレン誘導体及びその重合体に係るものであり、本発明により、分岐状フッ素置換基を有する新規スチレン誘導体化合物及びその製造方法を提供することができる。本発明による新規な化合物は、公知の方法により有用な新規重合体及び共重合体に変換することができる。それらの重合体は、高い撥水・撥油性及び低屈折率を有すると共に、優れた耐熱性を有することから、例えば、撥水・撥油性フィルム、樹脂等に撥水・撥油性を付与する表面改質剤、低屈折率光学フィルム及びレンズ材料、多層反射防止フィルム、気体分離膜、クロマトグラフ用カラム充填剤等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】実施例1により合成した単量体Aの19F−NMRスペクトルを示す。
【図2】実施例2及び7、比較例1により合成した重合体及び共重合体の示差走査熱量計チャートを示す。
【図3】実施例4により調製した多層膜の反射率スペクトルを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される含フッ素スチレン誘導体化合物。
【化1】

(式中R〜Rのうち少なくとも一つは重合官能性のビニル基あるいは2−プロペニル基、残りは水素あるいはフッ素、塩素、メチル基、メトキシ基、トリフルオロメチル基のいずれかであり、各々が同一でも異なっていてもよく、RはCあるいはC、C11、C15、C17のペルフルオロアルケニル基あるいはこれらが混合した置換基を表す。)
【請求項2】
上記一般式(1)中、Rのペルフルオロアルケニル基が、ヘキサフルオロプロペン三量体である請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
上記一般式(1)中、Rのペルフルオロアルケニル基が、ペルフルオロ(2−イソプロピル−1,3−ジメチル−1−ブテニル)基である請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
ヒドロキシスチレン誘導体とペルフルオロオレフィンを非水溶媒中、塩基性触媒の存在下に脱フッ酸反応させることを特徴とする下記の一般式(1)で表される含フッ素スチレン誘導体の製造方法。
【化2】

(式中R〜Rのうち少なくとも一つは重合官能性のビニル基あるいは2−プロペニル基、残りは水素あるいはフッ素、塩素、メチル基、メトキシ基、トリフルオロメチル基のいずれかであり、各々が同一でも異なっていてもよく、RはCあるいはC、C11、C15、C17のペルフルオロアルケニル基あるいはこれらが混合した置換基を表す。)
【請求項5】
請求項1に記載の一般式(1)で表される含フッ素スチレン誘導体化合物を重合することにより得られる重合体。
【請求項6】
請求項1に記載の一般式(1)で表される含フッ素スチレン誘導体化合物と一種又は数種の他の単量体とを共重合することにより得られる共重合体。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の重合体あるいは共重合体を成形してなる低屈折率であることを特徴とするフィルム又はレンズからなる光学部材。
【請求項8】
請求項5又は6に記載の重合体あるいは共重合体を基材上にコーティングしてなることを特徴とする多層反射防止材料。
【請求項9】
請求項5又は6に記載の重合体あるいは共重合体を成形すること、あるいは、樹脂等に添加することによりなることを特徴とする撥水・撥油性フィルム。
【請求項10】
請求項5又は6に記載の重合体あるいは共重合体を成形してなることを特徴とする気体及び液体透過膜。
【請求項11】
請求項5又は6に記載の重合体あるいは共重合体からなることを特徴とする多孔質粒子によるクロマトグラフ充填剤。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【公開番号】特開2007−9163(P2007−9163A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−195605(P2005−195605)
【出願日】平成17年7月4日(2005.7.4)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(399020212)東山フイルム株式会社 (6)
【Fターム(参考)】