説明

含フッ素ポリマー分散体及び含フッ素ポリマー分散体製造方法

【課題】電極や膜の材料として好適な、酸型基及び/又は酸塩型基を有する含フッ素ポリマーを含む分散体を提供することにある。
【解決手段】含フッ素ポリマーからなる微粒子を含有する含フッ素ポリマーが液状媒体に分散されてなることを特徴とする含フッ素ポリマー分散体であって、上記含フッ素ポリマーは、酸・酸塩型基を有するものであり、上記酸・酸塩型基は、スルホン酸基、−SONR1718、カルボキシル基、−SONR、−SO1/L、−COONR又は−COOM1/L(R17及びR18は、同一又は異なって、水素原子、アルカリ金属、アルキル基若しくはスルホニル含有基を表し、R、R、R及びRは、同一又は異なり、水素原子若しくは炭素数1〜4のアルキル基を表し、R、R、R及びRは、同一又は異なり、水素原子若しくは炭素数1〜4のアルキル基を表し、M及びMは、同一又は異なり、L価の金属を表し、前記L価の金属は、周期表の1族、2族、4族、8族、11族、12族又は13族に属する金属である。)であり、上記含フッ素ポリマーからなる微粒子は、実質的に球形である含フッ素ポリマー球形微粒子を25質量%以上含む含フッ素ポリマーが液状媒体に分散されてなることを特徴とする含フッ素ポリマー分散体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素ポリマー分散体及び含フッ素ポリマー分散体製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スルホン酸基やカルボキシル基を有するフルオロポリマーは、主に食塩電解等に利用されるイオン交換膜に用いる目的で開発が開始された。このような膜状成形体は、従来、−SOFを有するフルオロポリマーを押出成形等により成形したのち、加水分解することにより製造していた。
【0003】
スルホン酸基等の酸型基を有するフルオロポリマーは、近年、食塩電解用イオン交換膜のほかにも、燃料電池、化学センサー等の電解質膜等の材料として注目されている。
【0004】
電解質膜等の製造において電解質膜の表面に触媒を固定させる媒体として、アルコール類からなる混合溶媒中にスルホン酸基を有するフルオロポリマーを溶解してなる溶液が知られている(例えば、特開平8−236122号公報参照。)。しかしながら、この溶液は乾燥過程で触媒の活性点を被覆する等して、燃料電池の性能を低下させる問題があった(例えば、内田誠,「PEFC用ガス拡散電極の要素技術とその設計指針」,電気化学および工業物理化学,社団法人電気化学会,2002年,第70巻,第8号,P639参照。)。また、この溶液は、環境上や作業上の問題があり、この点から、スルホン酸基を有するフルオロポリマーの水分散体が求められていた。
【0005】
スルホン酸基を有するフルオロポリマーの水分散体は、また、それ自体を溶液等として用いることができるので、キャスト製膜、含浸等に好適に用いることができ、幅広い用途がある。
スルホン酸基を有するフルオロポリマーの水分散体を得る方法としては、−SOFを有するフルオロポリマーを用いて成形した膜状成形体をアルカリ処理、次いで、酸処理に供して−SOFをスルホン酸基に変換し、更に、水と低級アルコールとの混合溶媒中又は水中において、高温、高圧で処理して溶解させる方法が用いられている。
【0006】
膜状成形体を得るために用いられていた−SOFを有するフルオロポリマーは、従来、膜状成形体の製法である押出成形等に用いるペレットにするため、主として溶液重合により製造していた。
【0007】
フルオロポリマーの水分散体を得る方法として、溶液重合に代えて乳化重合することが考えられる。乳化重合で調製したポリマーラテックスからは、通常、電解質を添加してポリマー粒子を凝析させてポリマーを得ているが、必須成分である乳化剤、電解質等が残存する問題があり、高品質のフルオロポリマーの水分散体を得ることは困難であるあった。乳化剤は、特に除去が困難であり、得られたポリマーの乾燥時に発生する気体によって乾燥機に錆が生じたり、ポリマーを製膜に供する際に分解して発泡したり、黒く着色したりするという問題もあった。
【0008】
従来の乳化剤を用いずにフルオロポリマーの水分散体を得る方法として、塩を形成していてもよいスルホン酸基又はカルボキシル基を有するパーフルオロビニルエーテルの存在下、テトラフルオロエチレン、ビニリデンフルオライド等のフルオロモノマーを重合させる方法が知られている(例えば、特開昭59−196308号公報、特開昭55−29519号公報及び特開平8−67795号公報参照。)。しかしながら、この方法について、−SOFを有するフルオロビニルエーテル誘導体を重合に供する際に用いることの記載はない。
【0009】
フルオロポリマーの水分散体を得る方法として、また、−SONa等を有するフッ素含有単量体を重合に用いることにより、従来の乳化剤を用いることなくスルホン酸塩型のフルオロポリマーを得る方法が知られている(例えば、特開2001−226436号公報及び特開2001−226425号公報参照。)。しかしながら、スルホン酸基を有するフルオロポリマーの水分散体を得る方法は記載されていない。
【0010】
スルホン酸基を有するフルオロポリマーの水分散体を得る方法としては、−SOFを有するフルオロポリマーを用いて成形した膜状成形体をアルカリ処理、次いで、酸処理に供して−SOFをスルホン酸基に変換し、この膜状成形体を、水と低級アルコールとの混合溶媒中又は水中において高温かつ高圧で処理して溶解させるか、又は、本質的に水からなる溶媒中において攪拌下に高温、高圧で処理することにより、2〜30nmの水性分散体を得る方法等が知られている(例えば、特表2001−504872号公報参照。)。
【0011】
特表2001−504872号公報に示された方法は、しかしながら、重合により液状で得られたフルオロポリマーを一旦膜状成形体にしてから再度液状にする点で、効率的でなく、また、高温、高圧での処理が必要である点で、相応する反応装置とエネルギーとを要するという問題があった。
【0012】
また、特表2001−504872号公報に示された方法により得られるポリマー粒子の形状は、一般的にアスペクト比が5〜6で長軸長が11nm程度のロッド状又はスレッド状であることが知られているが、ロッド状又はスレッド状のポリマー粒子を分散してなる水性分散体は、キャスト製膜や含浸等により製膜する際、多量の分散媒体を蒸発除去する必要があり、著しく非効率的であり、厚い膜の製造は困難であった。また、乾燥時にクラックが発生する等の問題もあった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の1つの目的は、上記現状に鑑み、電極や膜の材料として好適な、酸型基及び/又は酸塩型基を有する含フッ素ポリマーを含む組成物、上記組成物の分散体、及び、上記分散体の製造方法を提供することにある。本発明のもう1つの目的は、含フッ素乳化剤を用いない上記分散体の製造方法を提供することにある。本発明の更にもう1つの目的は、従来の乳化剤を用いなくても酸型基又はその誘導型基を有する含フッ素ポリマーを水系反応媒体中で重合する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、含フッ素ポリマーからなる微粒子を含有する含フッ素ポリマー固形状組成物であって、上記含フッ素ポリマーは、酸・酸塩型基を有するものであり、上記酸・酸塩型基は、スルホン酸基、−SONR1718、カルボキシル基、−SONR、−SO1/L、−COONR又は−COOM1/L(R17及びR18は、同一又は異なって、水素原子、アルカリ金属、アルキル基若しくはスルホニル含有基を表し、R、R、R及びRは、同一又は異なり、水素原子若しくは炭素数1〜4のアルキル基を表し、R、R、R及びRは、同一又は異なり、水素原子若しくは炭素数1〜4のアルキル基を表し、M及びMは、同一又は異なり、L価の金属を表し、上記L価の金属は、周期表の1族、2族、4族、8族、11族、12族又は13族に属する金属である。)であり、上記含フッ素ポリマーからなる微粒子は、実質的に球形である含フッ素ポリマー球形微粒子を25質量%以上含むものであることを特徴とする含フッ素ポリマー固形状組成物である。
【0015】
本発明は、上記含フッ素ポリマー固形状組成物が液状媒体に分散されてなることを特徴とする含フッ素ポリマー分散体である。
本発明は、含フッ素ポリマーからなる微粒子が水系分散媒に分散されてなる含フッ素ポリマー分散体を製造するための含フッ素ポリマー分散体製造方法であって、上記含フッ素ポリマーは、スルホン酸基及び/又はカルボキシル基を有するものであり、上記含フッ素ポリマー分散体製造方法は、含フッ素ポリマー前駆体が有する−SO(Xは、ハロゲン原子を表す。)及び/又は−COZ(Zは、炭素数1〜4のアルコキシル基を表す。)を水系媒体中で加水分解することにより含フッ素ポリマーを得る加水分解工程からなることを特徴とする含フッ素ポリマー分散体製造方法である。
【0016】
本発明は、含フッ素ポリマーからなる微粒子が液状媒体に分散されてなる含フッ素ポリマー分散体を製造するための含フッ素ポリマー分散体製造方法であって、上記含フッ素ポリマーは、酸塩型基を有するものであり、上記酸塩型基は、−SONR、−SO1/L、−COONR又は−COOM1/L(R、R、R及びRは、同一又は異なり、水素原子若しくは炭素数1〜4のアルキル基を表し、R、R、R及びRは、同一又は異なり、水素原子若しくは炭素数1〜4のアルキル基を表し、M及びMは、同一又は異なり、L価の金属を表し、上記L価の金属は、周期表の1族、2族、4族、8族、11族、12族又は13族に属する金属である。)であり、上記含フッ素ポリマー分散体製造方法は、含フッ素ポリマー前駆体が有する−SO(Xは、ハロゲン原子を表す。)及び/又は−COZ(Zは、炭素数1〜4のアルコキシル基を表す。)を液状媒体中で加水分解することにより含フッ素ポリマーを得る加水分解工程からなる含フッ素ポリマー分散体製造方法である。
【0017】
本発明は、上記含フッ素ポリマー分散体と、メタノール、エタノール、プロパノール及びテトラフルオロプロパノールからなる群より選択される少なくとも1種のアルコールとからなることを特徴とする薄膜形成用分散体組成物である。
【0018】
本発明は、上記含フッ素ポリマー分散体又は上記薄膜形成用分散体組成物を用いてキャスト製膜を行うことにより得られたものであることを特徴とする膜である。
本発明は、上記含フッ素ポリマー分散体又は上記薄膜形成用分散体組成物を多孔性支持体に含浸させたのち、液状媒体を除去することにより得られたものであることを特徴とする膜である。
【0019】
本発明は、含フッ素ポリマーと活性物質とからなる活性物質固定体であって、上記含フッ素ポリマー分散体又は上記薄膜形成用分散体組成物と、上記活性物質とからなる液状組成物を基材に塗装することにより得られたものであることを特徴とする活性物質固定体である。
【0020】
本発明は、上記活性物質固定体を有することを特徴とする電解質膜である。
本発明は、上記電解質膜を有することを特徴とする固体高分子電解質型燃料電池である。
【0021】
本発明は、下記一般式(VI)
CF=CF−O−(CFCFY−O)−(CFY−A(VI)
(式中、Yは、フッ素原子、塩素原子又はパーフルオロアルキル基を表す。nは、0〜3の整数を表す。n個のYは、同一であってもよいし異なっていてもよい。Yは、フッ素原子又は塩素原子を表す。mは、1〜5の整数を表す。m個のYは、同一であってもよいし異なっていてもよい。Aは、−SO、−COZ及び/又は−CONR1920を表す。Xは、ハロゲン原子を表す。Zは、炭素数1〜4のアルコキシル基を表す。R19及びR20は、同一又は異なって、水素原子、アルカリ金属、アルキル基若しくはスルホニル含有基を表す。)で表されるフルオロビニルエーテル誘導体(Rm)の重合反応を水系反応媒体中で行うことにより、酸誘導型基含有含フッ素コポリマーを製造することよりなる酸誘導型基含有含フッ素コポリマー製造方法であって、上記重合反応は、下記一般式(VII)
CF=CF−O−(CFCFY−O)−(CFY−A(VII)
(式中、Yは、フッ素原子、塩素原子又はパーフルオロアルキル基を表す。nは、0〜3の整数を表す。n個のYは、同一であってもよいし異なっていてもよい。Yは、フッ素原子又は塩素原子を表す。mは、1〜5の整数を表す。m個のYは、同一であってもよいし異なっていてもよい。Aは、−SO、−SONR1718及び/又は−COOZを表す。Xは、−OM又は−OM1/2を表し、Mは、アルカリ金属又はNRを表し、R、R、R及びRは、同一又は異なって、水素原子若しくは炭素数1〜4のアルキル基を表し、Mは、アルカリ土類金属を表す。R17及びR18は、同一又は異なって、水素原子、アルカリ金属、アルキル基若しくはスルホニル含有基を表す。Zは、M又はM1/2を表し、Mは、アルカリ金属又はNRを表し、R、R、R及びRは、同一又は異なって、水素原子若しくは炭素数1〜4のアルキル基を表し、Mは、アルカリ土類金属を表す。)で表される酸・酸塩型フルオロビニルエーテル誘導体を用いて行うものであることを特徴とする酸誘導型基含有含フッ素コポリマー製造方法である。
以下に本発明を詳細に説明する。
【0022】
本発明の含フッ素ポリマー固形状組成物は、含フッ素ポリマーからなる微粒子を含有するものである。
上記含フッ素ポリマーからなる微粒子は、実質的に球形である含フッ素ポリマー球形微粒子を25質量%以上含むものである。
本明細書において、上記「含フッ素ポリマー球形微粒子を25質量%以上含む」とは、含フッ素ポリマーからなる微粒子の25質量%以上が含フッ素ポリマー球形微粒子であることを意味する。
上記含フッ素ポリマーからなる微粒子の粒子形状は、アスペクト比を目安にすることができる。
【0023】
本明細書において、上記「実質的に球形である」とは、アスペクト比が3以下であることを意味する。通常、アスペクト比が1に近づくほど球形に近くなる。上記含フッ素ポリマーからなる微粒子のアスペクト比は、3以下であることが好ましい。より好ましい上限は、2であり、更に好ましい上限は、1.5である。
一般に、ポリマー微粒子の粒子形状に異方性があると、上記ポリマー微粒子の分散体は高粘度になりやすく、上記ポリマー微粒子の分散体が高粘度であると、分散体中のポリマー微粒子の濃度を高くすることが困難になることから好ましくない。
【0024】
上記含フッ素ポリマーからなる微粒子が、実質的に球形である含フッ素ポリマー球形微粒子を25質量%以上含むものであると、例えば、上記含フッ素ポリマー固形状組成物を用いて得られた含フッ素ポリマー分散体の粘度を、上記含フッ素ポリマーからなる微粒子の形状が実質的に球形でない場合に比べて、低くすることが可能であり、含フッ素ポリマー分散体の固形分濃度を高くすることができ、ひいてはキャスト製膜等の方法によって製膜する際、高い生産性を実現することが可能である。
上記含フッ素ポリマーからなる微粒子は、含フッ素ポリマー球形微粒子を50質量%以上含むものであることが好ましい。
【0025】
含フッ素ポリマー球形微粒子を上記範囲内の含有率で有する含フッ素ポリマー固形状組成物は、乳化重合により得たディスパージョンから調製することにより得ることができる。乳化重合により得たディスパージョンから含フッ素ポリマー球形微粒子が90質量%以上のものも得ることができる。上記含フッ素ポリマー固形状組成物は、含フッ素ポリマー球形微粒子を比較的高い含有率で有する組成物に、含フッ素ポリマーからなる微粒子のうち、実質的に球形ではない微粒子を配合して目的に応じた性能を発揮するよう調整することも可能である。
【0026】
上記含フッ素ポリマーからなる微粒子は、平均粒子径が10nm以上であるものが好ましい。10nm未満であると、電極材料として使用する場合において、活性点を被覆してしまい良好な電池特性が得られない場合がある。
上記平均粒子径は、上記範囲内であれば、含フッ素ポリマーからなる微粒子を液状媒体に分散させて含フッ素ポリマー分散体としたときの安定性や後述する含フッ素ポリマー前駆体の作りやすさという点から、上限を例えば300nmとすることができるが、300nmを超えるものであっても電池特性に大きく影響を与えるものではない。
上記含フッ素ポリマーからなる微粒子は、平均粒子径が10〜300nmであるものがより好ましい。平均粒子径の更に好ましい下限は、30nmであり、更に好ましい上限は、160nmである。
【0027】
上述のアスペクト比と平均粒子径とは、走査型若しくは透過型の電子顕微鏡、原子間力顕微鏡等で、上記含フッ素ポリマー分散体をガラス基板に塗布したのち水系分散媒を除去して得られた含フッ素ポリマーからなる微粒子の集合体を観測し、得られた画像上の20個以上の微粒子について測定した長軸及び短軸の長さの比(長軸/短軸)を上記アスペクト比、長軸及び短軸の長さの平均値を後述の平均粒子径としてそれぞれ得ることができる。
【0028】
本発明の含フッ素ポリマー固形状組成物は、含フッ素ポリマーからなる微粒子のうち、平均粒子径が10nm以上である含フッ素球形微粒子を25質量%以上含むものであることが好ましい。
【0029】
本発明の含フッ素ポリマー固形状組成物は、含フッ素ポリマーからなる微粒子のうち、平均粒子径が10〜300nmである含フッ素球形微粒子を25質量%以上含むものであることがより好ましい。
【0030】
本発明の含フッ素ポリマー固形状組成物は、含フッ素ポリマーからなる微粒子のうち、平均粒子径が30〜160nmである含フッ素球形微粒子を25質量%以上含むものであることが更に好ましい。
【0031】
上記含フッ素ポリマーは、酸・酸塩型基を有するものである。
上記酸・酸塩型基は、酸型基及び/又は酸塩型基である。
上記酸型基は、スルホン酸基、−SONR1718及び/又はカルボキシル基である。上記R17及びR18は、同一又は異なって、水素原子、アルカリ金属、アルキル基若しくはスルホニル含有基を表す。
【0032】
上記アルカリ金属としては特に限定されず、例えば、Li、Na、K、Cs等が挙げられる。上記アルキル基としては特に限定されず、例えば、メチル基、エチル基等の炭素数1〜4のアルキル基等が挙げられる。上記アルキル基は、ハロゲン原子により置換されていてもよい。上記スルホニル含有基は、スルホニル基を有する含フッ素アルキル基であり、例えば、末端に置換基を有していてもよい含フッ素アルキルスルホニル基等が挙げられ、上記含フッ素アルキルスルホニル基としては、例えば、−SO(Rは、含フッ素アルキレン基を表し、Zは、有機基を表す。)等が挙げられる。上記有機基としては、例えば、−SOFが挙げられ、−SO(NR17SOSONR17SO−(kは、1以上の整数を表し、Rは、含フッ素アルキレン基を表す。)のように無限につながっていてもよく、例えば、−SO(NR17SOSONR17SOF(kは、1以上、100以下の整数を表す。R17及びRfは、上記と同じ。)であってもよい。
【0033】
上記酸塩型基は、塩を形成しているスルホン酸基及び/又は塩を形成しているカルボキシル基である。上記塩を形成しているスルホン酸基は、−SONR又は−SO1/Lであり、上記塩を形成しているカルボキシル基は、−COONR又は−COOM1/Lである。上記R、R、R及びRは、同一又は異なり、水素原子若しくは炭素数1〜4のアルキル基を表し、R、R、R及びRは、同一又は異なり、水素原子若しくは炭素数1〜4のアルキル基を表し、M及びMは、同一又は異なり、L価の金属を表す。
【0034】
上記L価の金属は、周期表の1族、2族、4族、8族、11族、12族又は13族に属する金属である。上記L価の金属としては特に限定されず、例えば、周期表の1族として、Li、Na、K、Cs等が挙げられ、周期表の2族として、Mg、Ca等が挙げられ、周期表の4族として、Al等が挙げられ、周期表の8族として、Fe等が挙げられ、周期表の11族として、Cu、Ag等が挙げられ、周期表の12族として、Zn等が挙げられ、周期表の13族として、Zr等が挙げられる。上記炭素数1〜4のアルキル基としては特に限定されないが、直鎖アルキル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。
【0035】
上記酸・酸塩型基は、含フッ素ポリマーからなる微粒子の粒子表面における存在比率が粒子内部における存在比率よりも大きいことが好ましく、特に、イオン交換樹脂等に用いる場合は、粒子表面における存在比率が大きいことが望ましい。上記酸・酸塩型基の粒子表面における存在比率が粒子内部よりも大きいと、分散安定性を向上することができる。
【0036】
含フッ素ポリマーからなる微粒子の粒子表面における上記酸・酸塩型基の存在比率が粒子内部における存在比率よりも大きい粒子は、例えば、本発明の含フッ素ポリマー分散体製造方法における乳化重合法において、いわゆる「コア/シェル」の技術を用いて得ることが可能である。即ち、上記酸・酸塩型基を有する後述のフルオロビニルエーテル誘導体の供給比率を重合初期よりも重合後期に大きくすることにより得ることができる。
本明細書において、上記「粒子内部」とは、粒子の全質量のうち中心の50質量%を占める部分を意味する。本明細書において、上記「粒子表面」とは、粒子のうち、上記粒子内部を除く部分を意味する。
【0037】
本発明の含フッ素ポリマー固形状組成物は、上記含フッ素ポリマーからなる微粒子のほか、必要に応じて、添加剤を添加してなるものであってよい。上記添加剤としては特に限定されず、例えば、ポリテトラフルオロエチレン〔PTFE〕、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体〔FEP〕、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体〔PFA〕等のフッ素樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタラート〔PET〕等の熱可塑性樹脂;ポリアミド、ポリイミド等の熱硬化性樹脂;他のイオン交換樹脂等の微粉末;アルミナ、シリカ、ジルコニア、カーボン等の無機材料の微粉末等が挙げられる。
【0038】
本発明の含フッ素ポリマー固形状組成物は、通常、後述の含フッ素ポリマー分散体を乾燥して得ることができる。上記含フッ素ポリマー固形状組成物を含フッ素ポリマー分散体から得る手順としては、含フッ素ポリマー分散体を濃縮し、80〜400℃の温度で乾燥する方法等が挙げられる。
【0039】
本発明の含フッ素ポリマー固形状組成物は、基材上に塗布したものである場合、上述の80〜400℃の温度で加熱乾燥した後、更に、含フッ素ポリマーからなる微粒子の融点以上の温度まで加熱し基材上に得られる塗膜であってもよい。
上述の含フッ素ポリマーからなる微粒子の粒子形状と平均粒子径とは、上述の加熱乾燥後のものであって、含フッ素ポリマーからなる微粒子の融点以上の温度での加熱を行っていないものについて充足すればよい。
【0040】
本発明の含フッ素ポリマー分散体は、上記含フッ素ポリマーからなる微粒子が液状媒体に分散されてなるものである。
上記液状媒体は、上記含フッ素ポリマーからなる微粒子を濡らし得る液体である。上記液状媒体は、特に限定されないが、室温で液体であることが好ましい。
【0041】
上記液状媒体としては、上記含フッ素ポリマーからなる微粒子の良好な分散性が望まれる場合には、水のほかにも、メタノール等のアルコール類;N−メチルピロリドン〔NMP〕等の含窒素溶剤;アセトン等のケトン類;酢酸エチル等のエステル類;ジグライム、テトラヒドロフラン〔THF〕等の極性エーテル類;ジエチレンカーボネート等の炭酸エステル類等の極性を有する有機溶剤が挙げられ、これらのなかから1種又は2種以上を混合して用いることができる。上記液状媒体としては、また、後述するように、キャスト製膜、含浸等により膜状に成形する目的においては、レベリング性を改善するためのアルコール類、造膜性を改善するためのポリオキシエチレン類等を用いることができる。
【0042】
本発明の含フッ素ポリマー分散体は、上述の含フッ素ポリマー固形状組成物が液状媒体に分散されてなるものであってもよいし、重合反応により得た分散体から、上述の含フッ素固形状組成物である状態を経ることなく、ディスパージョンのまま調製したものであってもよい。
【0043】
上記含フッ素ポリマー分散体は、含フッ素ポリマー固形状組成物を液状媒体に分散してなるものである場合、上記含フッ素ポリマー固形状組成物が上記含フッ素ポリマー分散体の合計質量の2〜80質量%であるものが好ましい。上記含フッ素ポリマー分散体中の含フッ素ポリマーからなる微粒子の量は、通常、上記含フッ素ポリマー分散体中の固形分質量に相当する。含フッ素ポリマー分散体中の含フッ素ポリマー固形状組成物の含有量が2質量%未満であると、液状媒体の量が多くなり製膜に用いた場合、生産性が低下する場合がある。一方、80質量%を超えると、粘度が高くなり取り扱いが困難になりやすい。より好ましい下限は、5質量%、より好ましい上限は、60質量%である。
【0044】
本発明の含フッ素ポリマー分散体は、液状媒体が水系分散媒であるものが好ましい。この場合、本発明の含フッ素ポリマー分散体は、含フッ素ポリマーからなる微粒子が水系分散媒に分散されてなるものであり、即ち、上記含フッ素ポリマーからなる微粒子と、上記水系分散媒とからなる。上記含フッ素ポリマー分散体は、上記含フッ素ポリマーからなる微粒子を分散質として有し、上記水系分散媒を分散媒として有するものである。
本明細書において、上記「水系分散媒」は、含フッ素ポリマー分散体の分散媒であって、水を含むものである。上記水系分散媒としては、水からなるものであれば、水とともに更に水溶性の有機溶剤からなるものであってもよい。上記水系分散媒は、水系の分散体に通常用いられる界面活性剤、安定剤等の添加剤を有するものであってもよい。
【0045】
上記水系分散媒は、水含有率が10〜100質量%であることが好ましい。10質量%未満であると、分散性が悪化しやすく環境及び人体への影響の点でも好ましくない。より好ましい下限は40質量%である。
【0046】
本発明の含フッ素ポリマー分散体は、重合反応により得られた含フッ素ポリマー前駆体が有するスルホン酸基若しくはカルボキシル基のハロゲン化物を水系媒体中で加水分解することにより酸塩型基に変換するか、又は、この酸塩型基を水系媒体中で酸を作用させて中和することにより酸型基に変換することを基本とする本発明の含フッ素ポリマー分散体製造方法により製造することができる。本発明の含フッ素ポリマー分散体は、また、酸・酸塩型基が−SONR1718である場合、−SONR1718を有する含フッ素ポリマーからなる微粒子を含有する含フッ素ポリマー固形状組成物が液状媒体に分散されてなる分散体として調製することができる。
【0047】
本明細書において、本発明の含フッ素ポリマー分散体製造方法のうち、酸塩型基を得るものを「含フッ素ポリマー分散体製造方法(i)」ということがあり、酸型基としてスルホン酸基及び/又はカルボキシル基を得るものを「含フッ素ポリマー分散体製造方法(ii)」ということがある。
【0048】
本発明の含フッ素ポリマー分散体製造方法(i)は、含フッ素ポリマーからなる微粒子が上述の液状媒体に分散されてなる含フッ素ポリマー分散体を製造するためのものである。
本発明の含フッ素ポリマー分散体製造方法(i)において、上記含フッ素ポリマーは、酸塩型基を有するものである。上記酸塩型基は、含フッ素ポリマー固形状組成物について上述した塩を形成しているスルホン酸基、又は、塩を形成しているカルボキシル基と同じである。
【0049】
本発明の含フッ素ポリマー分散体製造方法(i)は、後述の含フッ素ポリマー分散体製造方法(ii)のうち、酸塩型基を得るまでの工程と同様の方法である。
本発明の含フッ素ポリマー分散体製造方法(i)は、従って、後述の含フッ素ポリマー分散体製造方法(ii)と同様、含フッ素ポリマー前駆体が有する−SO(Xは、ハロゲン原子を表す。)及び/又は−COZ(Zは、炭素数1〜4のアルコキシル基を表す。)を液状媒体中で加水分解することにより含フッ素ポリマーを得る加水分解工程からなるものである。
本明細書において、上記「含フッ素ポリマー前駆体」とは、上記加水分解工程を経ることにより上記含フッ素ポリマーになる重合体を意味する。
【0050】
本発明の含フッ素ポリマー分散体製造方法(i)は、後述の含フッ素ポリマー分散体製造方法(ii)と同様の特徴を有し、その一つとして、上記加水分解工程が含フッ素モノマー(Pm)と含フッ素モノマー(Qm)とを共存させて重合することにより含フッ素ポリマー前駆体を得る重合反応工程、及び、アルカリを用いて処理するアルカリ処理工程からなるものであってもよい。
【0051】
上記含フッ素モノマー(Pm)は、−SO(Xは、ハロゲン原子を表す。)及び/又は−COZ(Zは、炭素数1〜4のアルコキシル基を表す。)を有するものであり、上記含フッ素モノマー(Qm)は、−SO(Xは、−ONR101112又は−OM1/Lを表し、R、R10、R11及びR12は、同一又は異なって、水素原子若しくは炭素数1〜4のアルキル基を表す。Mは、上記L価の金属を表す。)及び/又は−COOZ(Zは、NR13141516又はM1/Lを表し、Mは、上記L価の金属を表す。)を有するものである。
【0052】
本発明の含フッ素ポリマー分散体製造方法(ii)は、含フッ素ポリマーからなる微粒子が水系分散媒に分散されてなる含フッ素ポリマー分散体を製造するためのものである。
上記「含フッ素ポリマー分散体製造方法(ii)」は、含フッ素ポリマー分散体の分散媒が水系分散媒であり、分散質である含フッ素ポリマーがスルホン酸基及び/又はカルボキシル基を有する点で、分散媒が液状媒体であり含フッ素ポリマーが酸塩型を有する上述の「含フッ素ポリマー分散体製造方法(i)」とは区別すべき概念である。本明細書において、上記含フッ素ポリマー分散体製造方法(ii)及び含フッ素ポリマー分散体製造方法(i)を区別することなく用いるときは、単に「含フッ素ポリマー分散体製造方法」という。
本発明の含フッ素ポリマー分散体製造方法(ii)において、上記含フッ素ポリマーは、スルホン酸基及び/又はカルボキシル基を有するものである。
【0053】
上記スルホン酸基及び/又はカルボキシル基は、下記一般式(I)
−O−(CFCFY−O)−(CFY− (I)
(式中、Yは、フッ素原子、塩素原子又はパーフルオロアルキル基を表す。nは、0〜3の整数を表す。n個のYは、同一であってもよいし異なっていてもよい。Yは、フッ素原子又は塩素原子を表す。mは、1〜5の整数を表す。m個のYは、同一であってもよいし異なっていてもよい。)で表されるフルオロエーテル側鎖に結合しているものであることが好ましい。上記スルホン酸基及び/又はカルボキシル基は、フルオロエーテル側鎖に上記一般式(I)における−(CFY−に隣接するように結合しているものである。
【0054】
上記フルオロエーテル側鎖は、含フッ素ポリマーの主鎖中フルオロエチレン単位を構成している炭素原子にエーテル結合しているものであることが好ましい。本明細書において、上記「フルオロエチレン単位」とは、含フッ素ポリマーの分子構造上の一部分であって、上記含フッ素ポリマーの単量体が有していたパーフルオロビニル基に由来する部分を意味する。上記パーフルオロビニル基は、通常、上記パーフルオロビニル基と上記フルオロエーテル側鎖とが結合してなるフルオロビニルエーテル誘導体に由来するものである。上記「エーテル結合している」とは、上記パーフルオロエチレン単位[−(CF−CF)−]を構成している炭素原子に結合しているフッ素原子が置換されて上記一般式(I)で表されるフルオロエーテル側鎖が
−(CF−CF)−O−(CFCFY−O)−(CFY
のように2価の酸素原子を介してエーテル結合していることである。
本発明の含フッ素ポリマー分散体製造方法(ii)は、上記含フッ素ポリマー分散体を製造するためのものであり、上記含フッ素ポリマー分散体製造方法(ii)は、含フッ素ポリマー前駆体が有する−SO及び/又は−COZを水系媒体中で加水分解することにより含フッ素ポリマーを得る加水分解工程からなるものである。
【0055】
本明細書において、上記「水系媒体」とは、上記加水分解工程において、加水分解をその中で行わせる媒体であって、水からなるものを意味する。上記加水分解は、水系媒体と、上記含フッ素ポリマー前駆体とからなる水系の分散体において行われる。この加水分解が行われる水系の分散体は、水系媒体を分散媒とするものであって、上記加水分解の開始前において少なくとも上記含フッ素ポリマー前駆体からなる微粒子を分散質とし、また、上記加水分解工程の終了後において少なくとも上記含フッ素ポリマーからなる微粒子を分散質とするものである。上記水系媒体は、水からなるものであれば、水とともに水溶性の有機溶剤からなるものであってもよい。
【0056】
本発明の含フッ素ポリマー分散体製造方法において、上記含フッ素ポリマー前駆体が−SO及び/又は−COZを有するものである場合、上記加水分解工程は、上記含フッ素ポリマー前駆体をアルカリを用いて処理するアルカリ処理工程(以下、アルカリ処理工程(Aalk)ということがある。)からなるものであることが好ましい。上記加水分解工程は、以下、加水分解工程(A)という。上記−SO及び/又は−COZを有する含フッ素ポリマー前駆体を、以下、含フッ素ポリマー前駆体(P)という。上記含フッ素ポリマー前駆体(P)は、−SOを有するものであることが好ましい。
【0057】
上記Xは、ハロゲン原子を表す。上記Xのハロゲン原子としては特に限定されず、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子の何れであってもよいが、好ましくは、フッ素原子、塩素原子であり、より好ましくはフッ素原子である。
上記Zは、炭素数1〜4のアルコキシル基を表す。上記Zの炭素数1〜4のアルコキシル基としては、特に限定されないが、n−アルコキシル基であることが好ましく、メトキシ基であることがより好ましい。
上記−SOとしては−SOFであることが好ましく、上記−COZとしては、−COOCHであることが好ましい。
【0058】
上記アルカリ処理工程(Aalk)を行うことにより、上記含フッ素ポリマー前駆体(P)が有する−SO及び/又は−COZは酸塩型基となる。本明細書において、上記「酸塩型基」とは、塩を形成しているスルホン酸基及び/又はカルボキシル基のことを意味する。上記酸塩型基は、アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩を形成していることが好ましい。
【0059】
上記加水分解工程(A)は、上記アルカリ処理工程(Aalk)ののち、更に、酸を用いて中和処理する工程(以下、酸処理工程(Aacd)ということがある。)からなるものであることが好ましい。酸処理工程(Aacd)を行うことにより、上記アルカリ処理工程(Aalk)を行うことにより得られた酸塩型基は、スルホン酸基及び/又はカルボキシル基になる。
上記加水分解工程(A)における加水分解反応の終点は、アルカリ及び酸の消費がなくなり、pHが安定することにより検知することができる。
【0060】
上記加水分解工程(A)は、上記アルカリ処理工程(Aalk)ののち、更に、低分子物質を除去する工程(以下、低分子物質除去工程(Armv)ということがある。)からなるものであることが好ましい。上記低分子物質は、重合反応工程で残存するモノマー、重合開始剤残基、不要な低分子量の重合体、又は、含フッ素ポリマー前駆体(P)をアルカリを用いて処理することにより生じたものであり、重合反応に用いた乳化剤残基等が存在する場合、これらも除去することができる。
【0061】
上記低分子物質除去工程(Armv)には、遠心分離法、電気泳動法、限外濾過法等を用いることができるが、生産性に優れる点から、限外濾過法を用いることが好ましい。上記限外濾過法は、限外濾過膜を有する限外濾過装置を用いて低分子物質を除去する方法であれば特に限定されず、例えば、遠心式限外濾過法、循環式限外濾過法等が挙げられる。上記限外濾過膜及び限外濾過膜を有する限外濾過装置は、除去する低分子物質の分子量、種類、水系媒体の種類、含フッ素ポリマーの分子量、種類等により適宜選択される。上記限外濾過膜を有する限外濾過装置としては、市販のものを好適に使用することができ、研究用としては、例えば、Centriprep(アミコン社製)、ミリタン(ミリポア社製)等が挙げられる。上記限外濾過工程により、また、得られた含フッ素ポリマーの濃縮も行うことができる。また、上述の限外濾過法等を用いて精製した含フッ素ポリマー分散体を濃縮及び乾固して得られる含フッ素ポリマー固形状組成物は不純物が少ない点で好ましい。
上記低分子物質除去工程(Armv)は、上記酸処理工程(Aacd)の前に行ってもよいし、上記酸処理工程(Aacd)の後に行ってもよい。
【0062】
本発明の含フッ素ポリマー分散体製造方法において、上記含フッ素ポリマー前駆体が、上記−SO及び/又は−COZを有する含フッ素モノマー(Pm)と−SO(Xは、−OM又は−OM1/2を表し、Mは、アルカリ金属又はNRを表し、R、R、R及びRは、同一又は異なって、水素原子若しくは炭素数1〜4のアルキル基を表し、Mは、アルカリ土類金属を表す。)及び/又は−COOZ(Zは、M又はM1/2を表し、Mは、アルカリ金属又はNRを表し、R、R、R及びRは、同一又は異なって、水素原子若しくは炭素数1〜4のアルキル基を表し、Mは、アルカリ土類金属を表す。)を有する含フッ素モノマー(Qm)とを共存させて重合することにより得られるものである場合、上記加水分解工程は、含フッ素ポリマー前駆体を得る重合反応工程、アルカリを用いて処理するアルカリ処理工程(以下、アルカリ処理工程(Balk)ということがある。)、及び、酸を用いて中和処理する工程(以下、酸処理工程(Bacd)ということがある。)をこの順序に行うことからなるものであることが好ましい。上記加水分解工程は、以下、加水分解工程(B)という。上記含フッ素モノマー(Pm)は、−SOを有するものであり、上記含フッ素モノマー(Qm)は、−SOを有するものであることが好ましい。
【0063】
上記Xは、−OM又は−OM1/2を表し、Mは、アルカリ金属又はNRを表し、R、R、R及びRは、同一又は異なって、水素原子若しくは炭素数1〜4のアルキル基を表し、Mは、アルカリ土類金属を表す。上記炭素数1〜4のアルキル基としては、特に限定されず、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基の何れであってもよい。上記アルカリ金属としては特に限定されず、例えば、Li、Na、K、Cs等が挙げられ、上記アルカリ土類金属としては特に限定されず、例えば、Mg、Ca等が挙げられる。
【0064】
上記Zは、M又はM1/2を表し、Mは、アルカリ金属又はNRを表し、R、R、R及びRは、同一又は異なって、水素原子若しくは炭素数1〜4のアルキル基を表し、Mは、アルカリ土類金属を表す。上記アルカリ金属、アルカリ土類金属及び炭素数1〜4のアルキル基としては特に限定されず、上記Xで挙げたものと同様のものが挙げられる。
【0065】
上記重合反応工程により得られる含フッ素ポリマー前駆体は、例えば、下記一般式(III)
CF=CF−O−(CFCFY−O)−(CFY−A (III)
(式中、Yは、フッ素原子、塩素原子又はパーフルオロアルキル基を表す。nは、0〜3の整数を表す。n個のYは、同一であってもよいし異なっていてもよい。Yは、フッ素原子又は塩素原子を表す。mは、1〜5の整数を表す。m個のYは、同一であってもよいし異なっていてもよい。Aは、−SO及び/又は−COZを表す。Xは、ハロゲン原子を表す。Zは、炭素数1〜4のアルコキシル基を表す。)で表される含フッ素モノマー(Pm1)と、下記一般式(IV)
CF=CF−O−(CFCFY−O)−(CFY−A (IV)
(式中、Y、n、Y及びmは、上記のとおり。Aは、−SO及び/又は−COOZを表し、Xは、−OM又は−OM1/2を表し、Mは、アルカリ金属又はNRを表し、R、R、R及びRは、同一又は異なって、水素原子若しくは炭素数1〜4のアルキル基を表し、Mは、アルカリ土類金属を表す。Zは、M又はM1/2を表し、Mは、アルカリ金属又はNRを表し、R、R、R及びRは、同一又は異なって、水素原子若しくは炭素数1〜4のアルキル基を表し、Mは、アルカリ土類金属を表す。)で表される含フッ素モノマー(Qm1)とを共存させて重合することにより得ることができる。上記重合工程により得られる含フッ素ポリマー前駆体は、上記−SO及び/又は−COOZが親水性であり、上記−SO及び/又は−COZが疎水性であるので、水系媒体において、上記モノマー(Pm)からなるポリマー鎖をコアとし、上記含フッ素モノマー(Qm)からなるポリマー鎖をシェルとするコア/シェル構造をとることができる。上記重合反応工程において上記含フッ素モノマー(Qm)及び上記含フッ素モノマー(Qm)からなるポリマー鎖が乳化作用を有するので、従来の乳化重合に通常用いられている乳化剤を添加しなくてもよく、従って後工程で上記乳化剤を除去する必要がなくなる。
【0066】
上記アルカリ処理工程(Balk)を行うことにより、上記含フッ素モノマー(Pm)からなるポリマー鎖が有する−SO及び/又は−COZが酸塩型基となり、次いで、上記酸処理工程(Bacd)を行うことにより、上記酸塩型基がスルホン酸基及び/又はカルボキシル基となり、上記含フッ素モノマー(Qm)からなるポリマー鎖が有する−SO及び/又は−COOZがスルホン酸基及び/又はカルボキシル基となる。
【0067】
上記加水分解反応(B)における加水分解反応の終点は、アルカリ及び酸の消費がなくなり、pHが安定することにより検知することができる。
加水分解工程(B)において、上記含フッ素ポリマー前駆体は、例えば、上記含フッ素モノマー(Qm)を重合することにより得られた含フッ素モノマー(Qm)からなるポリマーと、上記含フッ素モノマー(Pm)とを共存させて重合させることにより得られたシード重合体でもよい。上記シード重合体は、上述した含フッ素モノマー(Qm)及び上記含フッ素モノマー(Pm)からなるポリマー鎖と同様に乳化作用を有するので、従来の乳化重合に通常用いられている乳化剤を添加しなくてもよく、従って後工程で上記乳化剤を除去する必要がなくなる。本発明の含フッ素ポリマー分散体製造方法は、このように後工程が不要であるという点で、スルホン酸基及び/又はカルボキシル基を有する含フッ素ポリマー分散体及び含フッ素ポリマー固形状組成物を、効率よく製造することができる方法であるといえる。
【0068】
上記加水分解工程(B)は、アルカリ処理工程(Balk)ののち、更に、低分子物質を除去する工程(以下、低分子物質除去工程(Brmv)ということがある。)からなるものであることが好ましい。上記低分子物質は、重合反応工程で残存するモノマー、重合開始剤残基、不要な低分子量の重合体、又は、含フッ素ポリマー前駆体をアルカリを用いて処理することにより生じたものであり、低分子物質除去工程(Armv)で上述したもの等が挙げられ、低分子物質除去工程(Armv)と同様に他の低分子物質を除去することもできる。
【0069】
上記低分子物質除去工程(Brmv)は、上述の低分子物質除去工程(Armv)と同様の方法で行うことができ、上述の低分子物質除去工程(Armv)における限外濾過法と同様の限外濾過法を用いるものであることが好ましい。
上記低分子物質除去工程(Brmv)は、上記酸処理工程(Bacd)の前に行ってもよいし、上記酸処理工程(Bacd)の後に行ってもよい。
【0070】
含フッ素ポリマー前駆体が−SO(Xは、ハロゲン原子を表す。)を有するものである場合、通常、酸の添加により凝析しやすく不安定であるが、本発明の含フッ素ポリマー分散体製造方法は、アルカリを添加するものであるので、急激にアルカリを添加しなければ上記含フッ素ポリマー前駆体は凝析することなく安定に水系媒体中に分散した状態を保つことができ、−SOを定量的にスルホン酸塩型基に変換することができる。
【0071】
本発明の含フッ素ポリマー分散体製造方法は、含フッ素ポリマー分散体を製造するためのものであり、含フッ素ポリマー前駆体が有する−SOX及び/又は−COZを水系媒体中で加水分解することにより含フッ素ポリマーを得る加水分解工程からなるものである。本明細書において、上記「含フッ素ポリマー前駆体」とは、上記加水分解工程を経ることにより上記含フッ素ポリマーになる重合体を意味する。
上記Xは、ハロゲン原子、−OM又は−OM1/2を表し、Mは、アルカリ金属又はNR101112を表し、Mは、アルカリ土類金属を表す。上記Xのハロゲン原子としては上述したXで挙げたものと同様のものが挙げられる。
上記−SOXとしては−SOFであることが好ましく、上記−COZとしては、−COOCHであることが好ましい。
上記加水分解工程を経ることにより、上記含フッ素ポリマー前駆体が有する−SOX及び/又は−COZは、X及び/又はZの種類により、酸塩型基を経るか又は酸塩型基を経ることなく、−SO及び/又は−COOとなる。上記加水分解工程は、アルカリ及び中和のために酸を用いて行うものであってもよい。
【0072】
含フッ素ポリマー前駆体が−SO(Xは、ハロゲン原子を表す。)及び/又は−COZ(Zは、炭素数1〜4のアルコキシル基を表す。)を有するものである場合、アルカリ及び中和のために酸をこの順序で用いて加水分解を行うことができる。アルカリを用いて処理することにより、含フッ素ポリマー前駆体が有する−SO及び/又は−COZは酸塩型基となり、次いで、酸を用いて処理することにより、上記酸塩型基はスルホン酸基及び/又はカルボキシル基にすることができる。
【0073】
上記加水分解工程で用いるアルカリとしては特に限定されず、通常、加水分解に用いることがあるアルカリであればよく、例えば、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物等が挙げられ、このような水酸化物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等が挙げられる。
上記加水分解工程で用いる酸としては、特に限定されず、通常、加水分解に用いる酸であればよく、例えば、鉱酸等が挙げられ、鉱酸としては、例えば、塩酸、硫酸等が挙げられる。
【0074】
上記加水分解工程で用いるアルカリ及び酸は、上述の加水分解工程(A)及び加水分解工程(B)においても同様のものを用いることができる。
上記加水分解工程は、上記水系媒体中で行うものである。
上記水系媒体は、後述する重合反応の水系反応媒体に由来するものであってよい。上記重合反応は、上記含フッ素ポリマー前駆体を得るためのものである。本発明において、含フッ素ポリマー前駆体を得るものである重合反応を、重合反応工程ということがある。上記含フッ素ポリマー前駆体を得るための重合反応は、後述するように、乳化重合であることが好ましい。上記重合反応は、乳化重合である場合、水系反応媒体中で行うものである。本明細書において、上記「水系反応媒体」とは、その中で重合反応を行わせる媒体であって、水からなるものを意味する。上記重合反応は、上記水系反応媒体中で行わせるものである場合、上記水系反応媒体と、上記重合反応により生成してくる含フッ素ポリマー前駆体からなる微粒子とからなる水系の分散体において行われるものである。上記重合反応が行われる水系の分散体は、上記水系反応媒体を分散媒とし、上記含フッ素ポリマー前駆体からなる微粒子を分散質とするものである。上記水系反応媒体は、水からなるものであれば、水とともに水溶性の有機溶剤からなるものであってもよいが、水溶性の有機溶剤は有しないものであることが好ましい。上記水系反応媒体は、水系の分散体に通常用いられる界面活性剤、安定剤、後述の既存乳化剤、乳化作用剤等の添加剤を含むものであってもよい。上記水系反応媒体は、上述の水系媒体が上記水系反応媒体に由来するものである場合、上記重合反応工程の後、そのまま上記加水分解工程における水系媒体として加水分解反応を行わせることができる。
【0075】
上記加水分解工程における水系媒体は、上記加水分解工程の後、そのまま上述の含フッ素ポリマー分散体の水系分散媒にすることができる。この場合、上記水系分散媒は、上記水系媒体に由来するものである。
上記水系媒体は、上記加水分解が行われる水系の分散体の分散媒であり、上記水系分散媒は、上記加水分解を行う加水分解工程を経て得られる含フッ素ポリマー分散体の分散媒であり、上記水系反応媒体は、上記重合反応が行われる水系の分散体の分散媒である点で、上記水系媒体、上記水系分散媒及び上記水系反応分散媒は、概念上異なるものである。
【0076】
本発明の含フッ素ポリマー分散体製造方法は、上記加水分解工程と、後述のように、更に上記重合反応工程とからなるものである場合、上記重合反応工程及び上記加水分解工程を経て含フッ素ポリマー分散体を製造することを水系で行うことができる。上記「水系で」とは、水からなる媒体中であることを意味する。本発明の含フッ素ポリマー分散体製造方法は、上記重合反応工程及び上記重合反応工程終了時から上記加水分解工程を経て含フッ素ポリマー分散体を製造するまでを通して、水からなる媒体中で行うことができる。本発明の含フッ素ポリマー分散体製造方法は、この水からなる媒体として、上述のように、上記重合反応工程における重合反応が乳化重合である場合、水系反応媒体を用いることができ、この水系反応媒体を重合反応工程の終了後引き続いて加水分解工程の水系媒体として用いることができ、この水系媒体を上記加水分解工程の終了後引き続いて含フッ素ポリマー分散体の水系分散媒とすることができるものである。
【0077】
本発明の含フッ素ポリマー分散体製造方法は、上述のように上記重合反応工程及び上記加水分解工程を経て含フッ素ポリマー分散体を製造することを水系で行う場合、上記含フッ素ポリマー前駆体及び含フッ素ポリマーを乾燥させることなく上記含フッ素ポリマー分散体を製造することができる。上記「含フッ素ポリマー前駆体及び含フッ素ポリマーを乾燥させることなく」とは、含フッ素ポリマー前駆体及び含フッ素ポリマーが上記水系媒体中に存在していることを意味する。含フッ素ポリマー前駆体及び含フッ素ポリマーが上記水系媒体中に存在している場合、上述の−SOXにおけるXの種類及び/又は−COZにおけるZの種類により上記含フッ素ポリマー前駆体から加水分解工程を経て含フッ素ポリマーが得られるまでに生成することがある上述の酸塩型基を有する中間体は、上記水系媒体中で生成し、スルホン酸基及び/又はカルボキシル基を有する含フッ素ポリマーに変換されるまで上記水系媒体中に存在することとなる。
【0078】
上記加水分解工程における反応温度としては、特に限定されず、室温であってもよいが、反応速度の点から、30〜100℃の温度で行うことが好ましい。上記加水分解を行う際の含フッ素ポリマー前駆体の濃度は、特に限定されないが、水系媒体の5〜15質量%であると、水系媒体と含フッ素ポリマー前駆体とからなる分散体の粘度が好ましい範囲であり、また、含フッ素ポリマー前駆体の粒子が均一に分布するので、加水分解が円滑に進行する。上記反応温度は、上述の加水分解工程(A)及び加水分解工程(B)についても同様にすることができる。
アルカリによる加水分解反応が終了したのち、後述する限外濾過を行うことにより、重合反応工程で残存するモノマー、重合開始剤残基、不要な低分子量の重合体、又は、含フッ素ポリマー前駆体をアルカリを用いて処理することにより生じたものを除去することができ、重合反応後の乳化剤等が存在する場合、これらも除去することができる。
【0079】
上記含フッ素ポリマー前駆体は、下記一般式(II)
CF=CF−O−(CFCFY−O)−(CFY−A (II)
(式中、Yは、フッ素原子、塩素原子又はパーフルオロアルキル基を表す。nは、0〜3の整数を表す。n個のYは、同一であってもよいし異なっていてもよい。Yは、フッ素原子又は塩素原子を表す。mは、1〜5の整数を表す。m個のYは、同一であってもよいし異なっていてもよい。Aは、−SOX又は−COZを表す。Xは、ハロゲン原子、−OM又は−OM1/2をを表し、Mは、アルカリ金属又はNR101112を表し、Mは、アルカリ土類金属を表し、R、R10、R11及びR12は、同一又は異なって、水素原子若しくは炭素数1〜4のアルキル基を表す。Zは、炭素数1〜4のアルコキシル基を表す。)で表されるフルオロビニルエーテル誘導体を重合して得られるものである。
上記含フッ素ポリマー前駆体が上記フルオロビニルエーテル誘導体を重合して得られたものである場合、上述した加水分解工程において加水分解される−SOX及び/又は−COZは、上記一般式(II)で表されるフルオロビニルエーテル誘導体に由来するものである。
【0080】
上記フルオロビニルエーテル誘導体は、上記一般式(II)におけるnが、0〜3の整数を表すものである。上記nは、0又は1であることが好ましい。上記一般式(II)におけるmは、1〜5の整数を表す。上記mは、2であることが好ましい。
【0081】
上記一般式(II)におけるYは、フッ素原子、塩素原子又はパーフルオロアルキル基を表し、n個のYは、同一であってもよいし、異なっていてもよい。上記一般式(II)におけるYは、フッ素原子又は塩素原子を表し、m個のYは、同一であってもよいし、異なっていてもよい。上記パーフルオロアルキル基としては特に限定されず、例えば、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基等が挙げられる。上記一般式(II)において、Yは、トリフルオロメチル基であることが好ましく、Yは、フッ素原子であることが好ましい。
上記一般式(II)におけるXは、上述したものと同じものが挙げられる。上記Xのハロゲン原子のうちフッ素原子又は塩素原子と、Yのフッ素原子又は塩素原子と、Yのフッ素原子又は塩素原子とは、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0082】
上記一般式(II)におけるZは、上述したものと同じものが挙げられる。
上記フルオロビニルエーテル誘導体としては、上記一般式(II)におけるYがトリフルオロメチル基、Yがフッ素原子、nが0又は1、及び、mが2であるものが好ましい。
【0083】
上記含フッ素ポリマー前駆体は、通常、上記フルオロビニルエーテル誘導体と、上記フルオロビニルエーテル誘導体と共重合可能なモノマーとの共重合体であり、上記フルオロビニルエーテル誘導体と含フッ素エチレン性単量体とを重合して得られる2元以上の共重合体であることが好ましい。上記含フッ素エチレン性単量体は、ビニル基を有するものであれば特に限定されず、上記フルオロビニルエーテル誘導体とは異なるものである。
【0084】
上記含フッ素エチレン性単量体としては、例えば、下記一般式
CF=CF−R
(式中、Rは、フッ素原子、塩素原子、−R又は−ORを表し、Rは、炭素数1〜9のエーテル酸素を有していてもよい直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基を表す。)で表されるハロエチレン性モノマー、下記一般式
CHY=CFY
(式中、Yは、水素原子又はフッ素原子を表し、Yは、水素原子、フッ素原子、塩素原子、R又は−ORを表す。Rは、炭素数1〜9のエーテル酸素を有していてもよい直鎖状又は分岐状のフルオロアルキル基を表す。)で表される水素含有フルオロエチレン性単量体等が挙げられる。
【0085】
上記含フッ素エチレン性単量体は、CF=CF、CH=CF、CF=CFCl、CF=CFH、CH=CFH、CF=CFCF、及び、CF=CF−O−R(式中、Rは、炭素数1〜9のフルオロアルキル基又は炭素数1〜9のフルオロポリエーテル基を表す。)で表されるフルオロビニルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。上記フルオロビニルエーテルは、Rの炭素数が1〜3のパーフルオロアルキル基であることが好ましい。
【0086】
上記含フッ素エチレン性単量体は、パーハロエチレン性単量体、特にパーフルオロエチレン性単量体であることが好ましく、CF=CFであることがより好ましい。上記含フッ素エチレン性単量体としては、1種又は2種以上を用いることができる。
【0087】
上記含フッ素エチレン性単量体以外にも、更に、上記含フッ素ポリマーに種々の機能を付与するために、含フッ素ポリマーとしての基本的な性能を損なわない範囲で、その他の共重合可能な単量体を添加してもよい。上記その他の共重合可能なモノマーとしては特に限定されず、例えば、重合速度の制御、ポリマー組成の制御、弾性率等の機械的物性の制御、架橋サイトの導入等の目的に応じて共重合可能なモノマーのなかから適宜選択され、パーフルオロジビニルエーテル等の不飽和結合を2つ以上有するモノマー、シアノ基を含有するモノマー等が挙げられる。
【0088】
上記含フッ素ポリマー前駆体は、フルオロビニルエーテル誘導体単位の含有率が、5〜40モル%であることが好ましい。5モル%未満であると、得られる含フッ素ポリマーの電解質としての性能が低下する場合があり、40モル%を超えると、得られる含フッ素ポリマーを用いて得られる膜の機械的強度が不充分になる場合がある。本発明の含フッ素ポリマー固形状組成物において、含フッ素ポリマー粒子表面のスルホン酸基及び/又はカルボキシル基の濃度が含フッ素ポリマー粒子内部よりも大きい場合は、含フッ素ポリマー粒子表面におけるフルオロビニルエーテル誘導体単位の含有率が上記範囲内にある必要がある。より好ましい下限は、8モル%であり、より好ましい上限は、35モル%である。
【0089】
本明細書において、上記「フルオロビニルエーテル誘導体単位」とは、上記含フッ素ポリマー前駆体の分子構造上の一部分であって、フルオロビニルエーテル誘導体に由来する部分を意味する。本明細書において、上記「フルオロビニルエーテル誘導体単位の含有率」は、含フッ素ポリマー前駆体の分子における全単量体単位が由来する単量体のモル数に占める、フルオロビニルエーテル誘導体単位が由来するフルオロビニルエーテル誘導体のモル数の割合である。上記「全単量体単位」は、上記含フッ素ポリマー前駆体の分子構造上、単量体に由来する部分の全てである。上記「全単量体単位が由来する単量体」は、従って、上記含フッ素ポリマー前駆体をなすこととなった単量体全量である。上記フルオロビニルエーテル誘導体単位の含有率は、赤外吸収スペクトル分析[IR]、又は、300℃における溶融NMRを用いて得られる値である。
【0090】
本発明の含フッ素ポリマー分散体製造方法は、上述の加水分解工程からなり、更に、重合反応を行う重合反応工程からなるものであり、上記重合反応は、含フッ素ポリマー前駆体を得るためのものである。上記重合反応は、水系反応媒体中で行うものであることが好ましい。
【0091】
上記重合反応は、乳化重合によるものであることが好ましい。上記乳化重合において、乳化させる方法としては、従来の乳化重合に通常用いられている乳化剤(以下、「既存乳化剤」という。)を用いて乳化させる方法であってもよいし、乳化作用を持つものであって、上記既存乳化剤とは異なるもの(以下、「乳化作用剤」という。)を既存乳化剤の代わりに用いて乳化させる方法であってもよいし、既存乳化剤と乳化作用剤との両方を用いて乳化させる方法であってもよい。本明細書において、「乳化重合」とは、上述の水系反応媒体中において、既存乳化剤、及び/又は、乳化作用剤を用いて行う重合を意味する。
【0092】
上記既存乳化剤としては、従来の乳化重合に乳化剤として通常用いられているものであれば特に限定されないが、本明細書において、界面活性能を有し不飽和結合を有しない有機化合物を意味する。本明細書において、上記界面活性能を有するとは、ミセル形成能力があることを意味する。上記不飽和結合は、通常、炭素−炭素二重結合である。上記界面活性能を有し不飽和結合を有しない有機化合物は、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤又はベタイン界面活性剤の何れであってもよいが、乳化力の点で、アニオン界面活性剤が好ましい。上記アニオン界面活性剤としては特に限定されず、例えば、X(CFCOOH(Xは、フッ素原子又は水素原子を表す。sは、6〜20の整数を表す。)若しくはC2t+1O〔CF(CF)CFO〕CF(CF)COOH(tは、1〜5の整数を表し、uは、1〜5の整数を表す。)で表される含フッ素カルボン酸、又は、上記含フッ素カルボン酸の塩;C2v+1(CHSOH(vは、6〜20の整数を表し、wは、0〜4の整数を表す。)で表される含フッ素スルホン酸、又は、上記含フッ素スルホン酸の塩等の含フッ素乳化剤等が挙げられ、上記塩としては、例えば、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩、第4級アンモニウム塩等が挙げられる。上記アニオン界面活性剤としては、例えば、耐候性や耐水性の点でパーフルオロオクタン酸アンモニウム[C15COONH]、パーフルオロノナン酸アンモニウム[C17COONH]等が挙げられる挙げられる。
【0093】
上記乳化作用剤としては、スルホン酸塩等が挙げられる。
上記乳化作用剤としては、例えば、下記一般式(VII)
CF=CF−O−(CFCFY−O)−(CFY−A(VII)
(式中、Yは、フッ素原子、塩素原子又はパーフルオロアルキル基を表す。nは、0〜3の整数を表す。n個のYは、同一であってもよいし異なっていてもよい。Yは、フッ素原子又は塩素原子を表す。mは、1〜5の整数を表す。m個のYは、同一であってもよいし異なっていてもよい。Aは、−SO、−SONR1718及び/又は−COOZを表す。Xは、−OM又は−OM1/2を表し、Mは、アルカリ金属又はNRを表し、R、R、R及びRは、同一又は異なって、水素原子若しくは炭素数1〜4のアルキル基を表し、Mは、アルカリ土類金属を表す。R17及びR18は、同一又は異なって、水素原子、アルカリ金属、アルキル基若しくはスルホニル含有基を表す。Zは、M又はM1/2を表し、Mは、アルカリ金属又はNRを表し、R、R、R及びRは、同一又は異なって、水素原子若しくは炭素数1〜4のアルキル基を表し、Mは、アルカリ土類金属を表す。)で表される酸・酸塩型フルオロビニルエーテル誘導体等が挙げられ、好ましくは、下記一般式(V)
CF=CF−O−(CFCFY−O)−(CFY−A (V)
(式中、Y、Y、n及びmは、上記に同じ。n個のYは、同一であってもよいし異なっていてもよい。m個のYは、同一であってもよいし異なっていてもよい。Aは、−SO又は−COOZを表す。X及びZは、上記に同じ。)で表される酸塩型フルオロビニルエーテル誘導体である。
【0094】
上記酸・酸塩型フルオロビニルエーテル誘導体や酸塩型フルオロビニルエーテル誘導体を用いた場合、水系反応媒体は既存乳化剤を有さなくても乳化することができるので、乳化重合後に従来のように既存乳化剤を除去する必要がない。上記酸・酸塩型フルオロビニルエーテル誘導体や酸塩型フルオロビニルエーテル誘導体は、乳化重合において乳化作用を有するとともに、エチレン性化合物であるので重合反応における単量体として付加させて、含フッ素ポリマー前駆体の分子構造上の少なくとも一部となるように重合させることができる。上記酸・酸塩型フルオロビニルエーテル誘導体や酸塩型フルオロビニルエーテル誘導体を重合して得られる含フッ素ポリマー前駆体もまた、乳化作用を有することができる。
【0095】
上述した加水分解工程(B)において、含フッ素モノマー(Qm)は、上記酸・酸塩型フルオロビニルエーテル誘導体のうち上記一般式(VII)におけるA、即ち、上記酸塩型フルオロビニルエーテル誘導体のうち上記一般式(V)におけるAが、−SOであるものであってもよい。上記含フッ素モノマー(Qm)及び上記含フッ素モノマー(Qm)からなるポリマー鎖は、乳化剤としての作用を有するものであるので、水系媒体は既存乳化剤を有しなくてもよい。この場合、通常、上記含フッ素ポリマー前駆体(Q)は、上述のように既存乳化剤を有していない水系反応媒体中で重合反応を行うことにより得られたものである。
【0096】
上記乳化重合は、既存乳化剤を用いてもよいし、既存乳化剤を用いずに乳化作用剤を用いてもよいが、重合反応後に乳化剤を除去する必要がなく、また、上記酸・酸塩型フルオロビニルエーテル誘導体や酸塩型フルオロビニルエーテル誘導体を用いる場合は、乳化剤を除去する必要がないことに加え、更に、乳化作用を有するものを単量体として用いることができて効率的である点から、既存乳化剤を用いずに乳化作用剤を用いることが好ましい。上記乳化重合に際し、重合条件によっては、得られる含フッ素ポリマー前駆体の粒子数が低下して粒子径が大きくなり、上述の低分子物質除去工程において限外濾過膜に負荷がかかる場合があり、また、製膜の際に膜が不均質になる場合があるので、既存乳化剤を用いることが好ましい。
【0097】
なお、含フッ素ポリマー前駆体の粒子数を増やすためには、多量の既存乳化剤又は乳化作用剤を用いて重合し得られたディスパージョンを希釈し、引き続き重合を継続する、所謂「シード重合」を行うことができる。
上記乳化重合に用いる上記既存乳化剤及び/又は乳化作用剤は、一般に、水系反応媒体の0.01〜10質量%使用する。
【0098】
上記重合反応は、上記乳化作用剤を用いることができること以外は、通常の方法に従うことができる。
上記重合反応は、重合開始剤を用いて行ってもよい。上記重合開始剤としては特に限定されず、通常、フルオロポリマーの重合に用いられているものであればよく、例えば、有機過酸化物、無機過酸化物、アゾ化合物等が挙げられる。特に、過硫酸アンモニウム[APS]を用いることが好ましい。上記重合開始剤の添加量としては、重合反応に使用する全ての単量体の合計の0.01〜1質量%であることが好ましい。
【0099】
上記重合反応における水系反応媒体のpHとしては、4〜7であることが好ましい。pHが上記範囲内であると、重合反応が円滑に進行し、また、重合反応中のフルオロビニルエーテル誘導体及び/若しくは含フッ素ポリマー前駆体が有する−SOX並びに/又は−COZの加水分解を最小限に抑えることができる。
【0100】
上記重合反応により得られた含フッ素ポリマー前駆体は、乳化作用剤として上述の一般式(V)で表される酸塩型フルオロビニルエーテル誘導体を用いた場合、上述の−SO及び/又は−COOZを有することとなる。上記−SOは、酸を用いて酸処理を行うことにより、スルホン酸基にすることができ、上記酸処理の方法としては、上述の酸処理工程(Aacd)及び酸処理工程(Bacd)と同様の方法を用いることができる。上記−COOZは、上述の酸処理工程(Aacd)及び酸処理工程(Bacd)と同様の酸処理を行うことにより、カルボキシル基にすることができるものと考えられる。
【0101】
本発明の含フッ素ポリマー分散体製造方法において、上記重合反応は、ヨウ素化合物の存在下で共重合を行ってブロックポリマーを得る、いわゆるヨウ素移動重合により行うものであってもよい。上記ヨウ素移動重合を行うことにより、上記フルオロビニルエーテル誘導体単位の含有率が比較的低い場合であっても後述する膜の機械的強度が優れたものとなる。
【0102】
上記ヨウ素移動重合に用いるヨウ素化合物としては、例えば、1,3−ジヨードパーフルオロプロパン、1,4−ジヨードパーフルオロブタン、1,3−ジヨード−2−クロロパーフルオロプロパン、1,5−ジヨード−2,4−ジクロロパーフルオロペンタン、1,6−ジヨードパーフルオロヘキサン、1,8−ジヨードパーフルオロオクタン、1,12−ジヨードパーフルオロドデカン、1,16−ジヨードパーフルオロヘキサデカン等のパーフルオロアルキレンジアイオダイド、CF=CFIやCF=CFOCFCFI等の不飽和結合を有するパーフルオロアルケニルアイオダイド、ジヨードメタン、1,2−ジヨードエタン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。なかでも1,4−ジヨードパーフルオロブタンが好ましい。上記ヨウ素化合物の量は、重合反応に使用する全ての単量体の合計の0.01〜1質量%であればよい。
【0103】
本発明の酸誘導型基含有含フッ素コポリマー製造方法は、下記一般式(VI)
CF=CF−O−(CFCFY−O)−(CFY−A(VI)
(式中、Yは、フッ素原子、塩素原子又はパーフルオロアルキル基を表す。nは、0〜3の整数を表す。n個のYは、同一であってもよいし異なっていてもよい。Yは、フッ素原子又は塩素原子を表す。mは、1〜5の整数を表す。m個のYは、同一であってもよいし異なっていてもよい。Aは、−SO、−COZ及び/又は−CONR1920を表す。Xは、ハロゲン原子を表す。Zは、炭素数1〜4のアルコキシル基を表す。R19及びR20は、同一又は異なって、水素原子、アルカリ金属、アルキル基若しくはスルホニル含有基を表す。)で表されるフルオロビニルエーテル誘導体(Rm)の重合反応を水系反応媒体中で行うことにより、酸誘導型基含有含フッ素コポリマーを製造することよりなるものであって、上記重合反応は、上記一般式(VII)で表される酸・酸塩型フルオロビニルエーテル誘導体を用いて行うものである。上記水系反応媒体は、上述したものが挙げられる。
上記重合反応は、乳化重合によるものが好ましい。
【0104】
本発明の酸誘導型基含有含フッ素コポリマー製造方法は、既存乳化剤を併用して重合反応を行うものであってもよいが、上記酸・酸塩型フルオロビニルエーテル誘導体が上述の乳化作用剤として機能するので、乳化作用剤を用いた重合反応について上述したことと同様、既存乳化剤を用いなくても乳化が可能であり、得られる酸誘導型基含有含フッ素コポリマーも乳化作用を有し得るという利点がある。既存乳化剤を用いない場合、重合後に既存乳化剤を除去する必要がないので経済的で工程簡便化に資することができ、高純度の生成物を得やすく、得られる酸誘導型基含有含フッ素コポリマーを用いて製膜する際に既存乳化剤が存在する場合に生じ得る不都合がない。上記不都合としては、例えば、既存乳化剤の分解に起因した、膜の発泡や着色、乾燥機内壁の腐蝕等がある。
本発明の酸誘導型基含有含フッ素コポリマー製造方法は、重合反応が既存乳化剤を用いずに行うものであることが好ましい。
【0105】
本発明の酸誘導型基含有含フッ素コポリマー製造方法は、酸誘導型基含有含フッ素コポリマーを製造するものであるが、上記酸誘導型基含有含フッ素コポリマーは、上記重合反応により得られた分散体(第1の分散体)であって酸誘導型基含有含フッ素コポリマーからなる粒子が水系媒体中に分散されている分散体におけるものであってもよいし、上記重合反応により得られる第1の分散体に凝集、凝析、安定化処理等の後処理を施して得られる第2の分散体におけるものであってもよいし、上記第1の分散体若しくは上記第2の分散体から取り出し乾燥して得られる酸誘導型基含有含フッ素コポリマーからなる粒子又は上記粒子の集合体である粉末におけるものであってもよい。
【0106】
上記酸誘導型基含有含フッ素コポリマーは、フルオロビニルエーテル誘導体(Rm)に由来する上記一般式(VI)におけるAを有するが、このAとして−SO又は−COZ(X及びZは、上記に同じ)を有し得る点で、上述の含フッ素ポリマー前駆体と共通する。上記酸誘導型基含有含フッ素コポリマーは、また、含フッ素ポリマー前駆体が好ましくは上記一般式(II)で表されるフルオロビニルエーテル誘導体を重合して得られるものであり、上記一般式(II)は上記一般式(VI)と共通する化学構造を有する。従って、上記酸誘導型基含有含フッ素コポリマーは、含フッ素ポリマー前駆体に適用する上述の加水分解工程と同じ処理により、上記−SOと−COZを水系媒体中で加水分解させ得るものである。上記酸誘導型基含有含フッ素コポリマーが有するAが−CONR1920(R19及びR20は、上記に同じ。)である場合、−CONR19は、上記加水分解工程と同じ処理により、通常、水系媒体中で加水分解する。
【0107】
上記酸誘導型基含有含フッ素コポリマーは、上記フルオロビニルエーテル誘導体(Rm)に由来して有する上記一般式(VI)におけるAを加水分解して得られるプロトン伝導性の官能基を有し得る点で、電解質膜等のイオン交換能やプロトン移送能を有する膜に用いた場合、上記膜の性能を向上させることができる。
【0108】
本発明の含フッ素ポリマー分散体は、上述のように含フッ素ポリマー固形状組成物を液状媒体に分散することによっても容易に得ることができる。本発明の含フッ素ポリマー固形状組成物を液状媒体に分散する方法としては特に限定されず、例えば、ディゾルバー等の攪拌機を使用する方法、サンドグラインダー等の媒体分散機を用いる方法、超音波を照射する方法等が挙げられ、特に簡便さの点で超音波を照射する方法が好ましい。
【0109】
本発明の含フッ素ポリマー分散体は、上述の液状媒体の範囲内である種の液状媒体を他の種の液状媒体に定法によって置換したものであってもよい。例えば、水等の比較的低沸点の液状媒体からなる含フッ素ポリマー分散体にN−メチルピロリドン等の比較的高沸点の液体を添加し、加熱して低沸点の液状媒体を蒸発し除去することにより、高沸点の液状媒体に分散した含フッ素ポリマー分散体を得ることができる。
上述の含フッ素ポリマー分散体製造方法により製造された含フッ素ポリマー分散体もまた、本発明のひとつである。
【0110】
本発明の含フッ素ポリマー分散体は、必要に応じてアルコールを配合して、後述する多孔性支持体に含浸させて製膜したり、キャスト製膜したりして、薄膜形成用途に好適に用いることができる。本発明の含フッ素ポリマー分散体は、また、必要に応じてポリエチレングリコール等を配合して、厚膜を形成する用途に用いることもできる。
【0111】
上記必要に応じて配合するアルコールとしては特に限定されず、通常、薄膜形成のためにポリマー分散体に配合するものであればよく、例えば、炭素数1〜5の直鎖状又は分岐状のフッ素原子により置換されていてもよいアルカノールが挙げられ、上記アルカノールは、炭素数1〜3のものが好ましい。このようなアルカノールとしては特に限定されず、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、テトラフルオロプロパノール等が挙げられ、上記テトラフルオロプロパノールとしては、2,2,3,3−テトラフルオロプロパノールが挙げられる。
【0112】
本発明の薄膜形成用分散体組成物は、上記含フッ素ポリマー分散体と、メタノール、エタノール、プロパノール及びテトラフルオロプロパノールからなる群より選択される少なくとも1種のアルコールとからなるものである。上記テトラフルオロプロパノールとしては、2,2,3,3−テトラフルオロプロパノールであることが好ましい。上記アルコールは、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0113】
上記アルコールの添加量は、上記含フッ素ポリマー分散体に対して10〜80容量%であることが好ましい。アルコールを上記範囲の量で添加することにより、上記薄膜形成用分散体組成物の表面張力を調整することができ、上記薄膜形成用分散体組成物を用いて後述するように膜を形成する場合に、均質な膜を得ることができる。
【0114】
上記薄膜形成用分散体組成物は、上記薄膜形成用分散体組成物の製膜性等の特性を損なわない範囲で、上記含フッ素ポリマー分散体及び上記アルコール以外のその他の成分を含有していてもよい。上記その他の成分としては、例えば、上記アルコール以外のその他のアルコール、造膜補助剤、後述する活性物質等が挙げられる。
【0115】
上記含フッ素ポリマー分散体又は上記薄膜形成用分散体組成物は、膜の形成に好適に用いることができる。本明細書において、上記「膜」は、いわゆる薄膜を含む膜であり、フィルム、シート等をも含む概念である。上記膜は、例えば、キャスト製膜、含浸、コーティング等により得られる膜であってもよく、製膜時に用いる基材、多孔性支持体等は含まない。
【0116】
本発明の膜は、上記含フッ素ポリマー分散体又は上記薄膜形成用分散体組成物を用いてキャスト製膜を行うことにより得られたものである。上記「キャスト製膜」とは、通常、上記含フッ素ポリマー分散体又は上記薄膜形成用分散体組成物をガラス等の基材の表面に塗布し、常温下及び/又は加熱下で乾燥し、必要に応じて水中に浸漬して基材の表面から剥離することにより薄膜を得ることをいう。上記乾燥を常温下でのみ行った場合、含フッ素ポリマー分散体又は薄膜形成用分散体組成物を塗布して得られる膜は、水等に容易に溶解することがあるので、少なくとも加熱下で乾燥を行うことが好ましい。なお、本明細書において、「常温下」は、30℃付近の温度であり、「加熱下」は、通常、80〜400℃の温度である。上記乾燥の温度は、200℃以上であることが好ましい。
【0117】
本発明の膜は、また、上記含フッ素ポリマー分散体又は上記薄膜形成用分散体組成物を多孔性支持体に含浸させたのち、液状媒体を除去することにより得られたものである。液状媒体は、通常、常温下及び/又は加熱下で乾燥することにより除去することができる。上記含フッ素ポリマー分散体又は上記薄膜形成用分散体組成物を含浸して得られる膜は、上記乾燥を常温下のみで行うと、水等に容易に溶解することがあるので、少なくとも加熱下で乾燥を行うことが好ましい。上記含浸における「加熱下で乾燥」は、含フッ素ポリマーの融点以上の温度、例えば、200〜350℃で行うことができる。
【0118】
上記多孔性支持体は、多孔構造を有するものであれば特に限定されず、有機又は無機の材料の何れでもよく、例えば、グラスウール、セラミック、アルミナ、ポリテトラフルオロエチレン[PTFE]製多孔フィルム、カーボン、不織布、各種ポリマーからなるもの等が挙げられる。
【0119】
上述したキャスト製膜を行うことにより得られた膜及び多孔性支持体に形成された膜の膜厚としては、5〜50μmであることが好ましい。5μm未満であると、膜の機械的強度が不充分であり、50μmを超えると、例えば、後述する固体高分子電解質型燃料電池に用いた場合、燃料電池としての性能が低下することがあるので好ましくない。
【0120】
厚い膜を得るためには、含フッ素ポリマー分散体に含まれる含フッ素ポリマーからなる微粒子の濃度が高いほうがキャストの回数を減らすことができる点及び乾燥時の体積収縮を抑えられる点から好ましい。濃度が低いと、特に数十μm以上の厚みの膜を得る際、含フッ素ポリマー分散体のキャスト及び乾燥の工程を数回繰り返す必要があり好ましくない。
【0121】
本発明の活性物質固定体は、含フッ素ポリマーと活性物質とからなるものであって、上記含フッ素ポリマー分散体又は上記薄膜形成用分散体組成物と、上記活性物質とからなる液状組成物を基材に塗装することにより得られたものである。上記液状組成物を基材に塗装することにより、上記含フッ素ポリマー及び活性物質が基材上に固定される。
【0122】
上記活性物質としては上記活性物質固定体において活性を有し得るものであれば特に限定されず、本発明の活性物質固定体の目的に応じて適宜選択されるが、例えば、触媒を好適に用いることができる場合がある。
【0123】
上記触媒としては、電極触媒として通常使用されるものであれば特に限定されず、例えば、白金、ルテニウム等を含有する金属;通常1種類以上の金属からなる中心金属をもつ有機金属錯体であって、その中心金属の少なくとも1つが白金又はルテニウムである有機金属錯体等が挙げられる。上記白金、ルテニウム等を含有する金属としては、ルテニウムを含有する金属、例えば、ルテニウム単体等であってもよいが、白金を含有する金属が好ましく、上記白金を含有する金属としては特に限定されず、例えば、白金の単体(白金黒);白金−ルテニウム合金等が挙げられる。上記触媒は、通常、シリカ、アルミナ、カーボン等の担体上に担持させて用いる。
【0124】
上記液状組成物は、少なくとも、上記含フッ素ポリマー分散体又は上記薄膜形成用分散体組成物と、上記活性物質とからなるものであり、必要に応じてその他の成分を含有していてもよい。上記その他の成分としては、例えば、造膜補助剤等が挙げられる。
【0125】
上記基材としては特に限定されず、例えば、上述した多孔性支持体、樹脂成形体、金属板等が挙げられ、燃料電池等に用いられる電解質膜、多孔性カーボン電極等が好ましい。上記電解質膜としては、フルオロポリマーからなるものが好ましく、上記含フッ素ポリマーからなるものであってもよい。
【0126】
上記「液状組成物を基材に塗装する」ことは、上記液状組成物を上記基材に塗布し、必要に応じて乾燥し、通常更に含フッ素ポリマーの融点以上の温度で加熱することよりなる。上記加熱の条件は含フッ素ポリマーと活性物質とを基材上に固定することができるものであれば特に限定されないが、例えば、200〜350℃で数分間、例えば、2〜30分間加熱することが好ましい。
【0127】
本発明の電解質膜は、上記活性物質固定体を有するものである。上記電解質膜は、活性物質固定体の性質を妨げない範囲であれば、上記活性物質固定体以外のその他の物質を含むものであってよい。
【0128】
本発明の固体高分子電解質型燃料電池は、上記電解質膜を有するものである。上記固体高分子電解質型燃料電池は、上記電解質膜を有するものであれば特に限定されず、通常、固体高分子電解質型燃料電池を構成する電極、ガス等の構成成分を含むものであってよい。
【0129】
上述した薄膜形成用分散体組成物、キャスト製膜を行うことにより得られた膜、多孔性支持体上に形成された膜、活性物質固定体、電解質膜又は固体高分子電解質型燃料電池は、何れも、酸・酸塩型基を有する含フッ素ポリマーを用いてなるものであるが、スルホン酸基を有する含フッ素ポリマーを用いてなるものであることが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0130】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0131】
実施例1
(1)容積300mlのステンレス製攪拌式オートクレーブに、2.4gのCF=CFOCFCFSONa及び20mgの過硫酸アンモニウム[APS]を純水に溶解した水溶液を入れ、0℃に冷却してテトラフルオロエチレン[TFE]ガスでオートクレーブ内の空間を充分に脱気置換した後真空とした。Nガスで脱気した20gのCF=CFOCFCFSOFを注入し、更にヘキサフルオロプロピレン[HFP]ガスを0.08MPaまで圧入し、最後にTFEガスを0.9MPaまで圧入して直ちに昇温を開始した。約10分後に温度を60℃に設定したところ、圧力は1.2MPaであったが、直ちに圧力降下が始まり、1.5時間後に0.7MPaまで低下した。その後、圧力を0.7〜0.9MPaに保持しながら重合を継続し、4時間後に昇温、放圧して重合を停止した。テトラフルオロエチレン[TFE]及びCF=CFOCFCFSOFからなる含フッ素ポリマー前駆体が無色透明の分散体の状態で得られ、未反応のCF=CFOCFCFSOFは約4gであった。分散体中の含フッ素ポリマー前駆体の固形分含量は16質量%で、含フッ素ポリマー前駆体中のCF=CFOCFCFSOF単位の含有率は16モル%であった。なお、本明細書において、上記CF=CFOCFCFSOF単位の含有率は、含フッ素ポリマー前駆体を酸で凝析、洗浄したのち、赤外吸収スペクトル分析[IR]、又は、300℃における溶融NMRを用いて測定し得られた値である。
【0132】
(2)上記(1)で得られた含フッ素ポリマー前駆体の分散体50mlを純水を用いて2倍に希釈し、容積200mlのビーカー中で攪拌し、温度を55℃にして、10質量%の水酸化カリウム水溶液を滴下しながらpHを10以上に保持して、含フッ素ポリマー前駆体が有する−SOFの加水分解を行った。約3時間後にpHの低下がみられなくなったが、加水分解を更に2時間継続し、停止した。この間、含フッ素ポリマーの析出は目視により確認されなかった。
【0133】
(3)上記(2)で得られた反応液に1規定の塩酸を添加して酸による加水分解を行い、Centriprep YM−10(アミコン社製)を用いて、遠心式限外濾過法により低分子物質の除去及び含フッ素ポリマーの精製濃縮を行った。得られた含フッ素ポリマー分散体は、含フッ素ポリマー濃度が32質量%であり、安定な−SOK及び少量の−SONaを有する含フッ素ポリマーを含んでいた。
【0134】
(4)上記(3)で得られた含フッ素ポリマー分散体に、分散体の容積の半量のエタノール−イソプロパノール等容混合液を添加して薄膜形成用分散体組成物を得た。得られた薄膜形成用分散体組成物の粘度は約0.08Pa・sであった。上記薄膜形成用分散体組成物をガラス板上に塗布後、室温で乾燥して無色透明の膜を得た。得られた膜を300℃で10分間熱処理して固定し、純水中に浸漬してガラス板から薄膜を剥離した。得られた薄膜は、膜厚5〜10μmであった。なお、上記粘度はB型粘度計を用いて、25℃で測定して得られた値である。
【0135】
実施例2
上記実施例1の(1)において、CF=CFOCFCFSONaの代りにパーフルオロオクタン酸アンモニウム[C15COONH]を乳化剤として水の2質量%添加し、ヘキサフルオロプロピレン[HFP]ガスを圧入しないこと以外は実施例1の(1)と同様の方法で、含フッ素ポリマー前駆体を分散体の状態で得た。得られた分散体は無色透明で、分散体中の含フッ素ポリマー前駆体の固形分含量は18質量%、含フッ素ポリマー前駆体のCF=CFOCFCFSOF単位の含有率は16.5モル%であった。
得られた含フッ素ポリマー前駆体の分散体は、上記実施例1の(2)、(3)及び(4)と同様の方法で処理して含フッ素ポリマー前駆体が有する−SOFを−SOKに変換することが可能であり、また、塗膜を形成することも可能であった。
【0136】
実施例3
上記実施例1の(1)において、CF=CFOCFCFSONaを使用しないこと以外は実施例1の(1)と同様の方法で、含フッ素ポリマー前駆体を分散体の状態で得た。得られた分散体は、含フッ素ポリマー前駆体の凝析が多少起こり、また、含フッ素ポリマー前駆体の粒子径が大きいので、不透明であった。
得られた分散体に対して、上記実施例1の(2)と同様の方法でアルカリによる加水分解を行ったところ、反応初期に含フッ素ポリマーの粒子が凝析したが、加水分解反応は完了した。
上記加水分解後の反応液に対して、上記実施例1の(3)と同様の方法で遠心式限外濾過法により限外濾過を行ったところ、粒子径が大きいので含フッ素ポリマーが沈降分離したが、純水中で攪拌すると含フッ素ポリマーを再分散することが可能であった。
上記実施例1の(4)と同様の方法で、精製後の含フッ素ポリマー分散体からなる薄膜形成用分散体組成物をガラス板上に塗布して室温で乾燥したところ、膜が不均質であるので、乳白色であった。しかしながら、膜を300℃に加熱すると無色透明となり、薄膜を得ることが可能であった。
【0137】
実施例4
実施例1の(1)において、1,4−ジヨードパーフルオロブタン[I(CFI]100mgをCF=CFOCFCFSOFと共に添加する以外は実施例1の(1)と同様の方法で、透明な分散体を得た。次いで、Nガスをパージしながら40℃で30分間減圧脱気処理にかけることにより残存CF=CFOCFCFSOFを除去した後、CF=CFCFガスを0.6MPaまで圧入し、更にCF=CFガスを1MPaまで圧入した。60℃に昇温したところ直ちに圧力降下が始まった。CF=CFガスを供給して圧力を0.9〜1.0MPaに保持しながら重合を1.5時間継続した後、放圧して重合反応を停止して、無色透明の含フッ素ポリマー前駆体の分散体を得た。
得られた含フッ素ポリマー前駆体の分散体は、上記実施例1の(2)、(3)及び(4)と同様の方法で処理して含フッ素ポリマー分散体及び塗膜を得ることが可能であった。
以上のことから、乳化剤の作用を有する単量体又は乳化剤の何れも含有しない水系反応媒体中の重合反応により得られた含フッ素ポリマー前駆体を用いて製造した実施例3の含フッ素ポリマー分散体及びは、分散体の状態で得ることができ、製膜することが可能であった。乳化剤の作用を有する単量体又は乳化剤を含有する水系反応媒体中の重合反応により得られた含フッ素ポリマー前駆体を用いて製造した実施例1又は2の含フッ素ポリマー分散体は、分散性、製膜性等がより良好であった。ヨウ素移動重合を用いて得られた含フッ素ポリマー前駆体を用いて製造した実施例4の含フッ素ポリマー分散体は、分散性、製膜性等に問題はなかった。
【0138】
実施例5
(1)容積3000mlのステンレス製攪拌式オートクレーブに、C15COONHの10%水溶液300gと純水1170gを仕込み、充分に真空、窒素置換を行った。オートクレーブを充分に真空にした後、テトラフルオロエチレン〔TFE〕ガスをゲージ圧力で0.2MPaまで導入し、50℃まで昇温した。その後、CF=CFOCFCFSOFを100g注入し、TFEガスを導入してゲージ圧力で0.7MPaまで昇圧した。引き続き0.5gの過硫酸アンモニウム[APS]を60gの純水に溶解した水溶液を注入して重合を開始させた。
重合により消費されたTFEを補給するため、連続的にTFEを供給してオートクレーブの圧力を0.7MPaに保つようにした。更に供給したTFEに対して、質量比で0.53倍に相当する量のCF=CFOCFCFSOFを連続的に供給して重合を継続した。
供給したTFEが522gになった時点で、オートクレーブの圧力を開放し、重合を停止した。その後室温まで冷却し、含フッ素ポリマー前駆体を約33質量%含有する、やや白濁した水性分散体2450gを得た。
上記水性分散体の一部をとり、硝酸で凝析させ、水洗し、乾燥した後、溶融NMRを測定したところ、含フッ素ポリマー前駆体中のフルオロビニルエーテル誘導体単位の含有率は19モル%であった。
【0139】
(2)上記(1)で得られた含フッ素ポリマー前駆体の分散体50mlを純水を用いて5倍に希釈し、容積500mlのビーカー中で攪拌し、温度を55℃にして、10質量%の水酸化ナトリウム水溶液を滴下しながらpHを10以上に保持して、含フッ素ポリマー前駆体が有する−SOFの加水分解を行った。約3時間後にpHの低下がみられなくなったが、加水分解を更に2時間継続し、停止した。この間、含フッ素ポリマーの析出は目視により確認されなかった。
【0140】
(3)上記(2)で得られた反応液に1規定の塩酸を添加して酸による加水分解を行い、Centriprep YM−10(アミコン社製)を用いて、遠心式限外濾過法により低分子物質の除去及び含フッ素ポリマーの精製濃縮を行った。得られた含フッ素ポリマー分散体は、含フッ素ポリマー濃度が43質量%であり、安定な−SOKを有する含フッ素ポリマーを含んでいた。
同含フッ素ポリマー分散体を純水で100倍に希釈し、アルミ板の上に滴下し、60℃で乾燥して粒子形状測定用サンプルを作成した。同サンプルを原子間力顕微鏡〔AFM〕で測定し、得られた画像内の粒子の20個を無作為に抽出してアスペクト比、平均粒子径を測定したところ、それぞれ1.0、100nmであった。
【0141】
(4)上記(3)で得られた含フッ素ポリマー分散体に、分散体の容積の半量のエタノール−イソプロパノール等容混合液を添加して薄膜形成用分散体組成物を得た。得られた薄膜形成用分散体組成物の粘度は約0.08Pa・sであった。上記薄膜形成用分散体組成物をガラス板上に塗布後、室温で乾燥して無色透明の膜を得た。得られた膜を300℃で10分間熱処理して固定し、純水中に浸漬してガラス板から薄膜を剥離した。得られた薄膜は、膜厚12〜17μmであった。なお、上記粘度はB型粘度計を用いて、25℃で測定して得られた値である。
【0142】
(5)上記(3)で得られた含フッ素ポリマー分散体を、ロータリーエバポレーターを用いて乾固し、含フッ素ポリマー固形状組成物を得た。上記含フッ素ポリマー固形状組成物の表面を走査型電子顕微鏡〔SEM〕で観測したところ、(3)と同じ結果が得られた。
【0143】
(6)上記(5)で得られた含フッ素ポリマー固形状組成物5gを200mlのフラスコに入れ、95gのNMPを添加し、時々振蕩しながら、15分間超音波を照射したところ、やや白濁した含フッ素ポリマー分散体が得られた。
【0144】
実施例6
(1)容積3000mlのステンレス製攪拌式オートクレーブに、C15COONHの10%水溶液600gと純水870gを仕込み、充分に窒素置換を行った。オートクレーブを充分に真空にした後、TFEガスをゲージ圧力で0.2MPaまで導入し、50℃まで昇温した。その後、CF=CFOCFCFSOFを20g注入し、TFEガスを導入してゲージ圧力で0.7MPaまで昇圧した。引き続き0.5gの過硫酸アンモニウム[APS]を60gの純水に溶解した水溶液を注入して重合を開始させた。
重合により消費されたTFEを補給するため、連続的にTFEを供給してオートクレーブの圧力を0.7MPaに保つようにした。更に供給したTFEに対して、質量比で0.30倍に相当する量のCF=CFOCFCFSOFを連続的に供給して重合を継続した。
供給したTFEが400gになった時点で、含フッ素ポリマー前駆体の分散体を一部サンプリングし、CF=CFOCFCFSOFを120g圧入して更に重合を継続した。この時点で急速に圧力が低下するため、TFEの供給量は大きくなるが、これは重合で消費されたものではない。圧力が回復した後、重合により消費されるTFEに対して、質量比で0.60倍に相当する量のCF=CFOCFCFSOFを連続的に供給して重合を継続した。
供給したTFEが200gになった時点でオートクレーブの圧力を開放し、重合を停止した。その後室温まで冷却し、含フッ素ポリマー前駆体を約33質量%含有する、やや白濁した水性分散体2470gを得た。
上記水性分散体から実施例5と同様にして乾燥した含フッ素ポリマー前駆体を得た。溶融NMR測定の結果、含フッ素ポリマー前駆体中のCF=CFOCFCFSOF単位の含有率は10モル%、上記水性分散体のCF=CFOCFCFSOF単位の含有率は13モル%であった。
実施例5と同様の加水分解工程、及び、精製濃縮工程を経て、目的の含フッ素ポリマー分散体を得た。
得られた含フッ素ポリマー分散体中のポリマー粒子のアスペクト比は、1.1であり、平均粒子径は、60nmであった。
【産業上の利用可能性】
【0145】
本発明の含フッ素ポリマー分散体製造方法は、上述の構成を有するので、重合反応工程及び加水分解工程を経て、酸・酸塩型基を有する含フッ素ポリマーを分散してなる含フッ素ポリマー分散体を水系で製造することができる。得られる含フッ素ポリマー分散体及び含フッ素ポリマー固形状組成物は、特に固体高分子電解質型燃料電池の電解膜に好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含フッ素ポリマーからなる微粒子を含有する含フッ素ポリマーが液状媒体に分散されてなることを特徴とする含フッ素ポリマー分散体であって、
前記含フッ素ポリマーは、酸・酸塩型基を有するものであり、
前記酸・酸塩型基は、スルホン酸基、−SONR1718、カルボキシル基、−SONR、−SO1/L、−COONR77又は−COOM1/L(R17及びR18は、同一又は異なって、水素原子、アルカリ金属、アルキル基若しくはスルホニル含有基を表し、R、R、R及びRは、同一又は異なり、水素原子若しくは炭素数1〜4のアルキル基を表し、R、R、R及びRは、同一又は異なり、水素原子若しくは炭素数1〜4のアルキル基を表し、M及びMは、同一又は異なり、L価の金属を表し、前記L価の金属は、周期表の1族、2族、4族、8族、11族、12族又は13族に属する金属である。)であり、
前記含フッ素ポリマーからなる微粒子は、実質的に球形である含フッ素ポリマー球形微粒子を25質量%以上含む含フッ素ポリマーが液状媒体に分散されてなる
ことを特徴とする含フッ素ポリマー分散体。
【請求項2】
含フッ素ポリマーは、含フッ素ポリマー分散体の合計質量の2〜80質量%である請求項1記載の含フッ素ポリマー分散体。
【請求項3】
液状媒体は、水系分散媒であり、
前記水系分散媒は、水含有率が10〜100質量%である請求項1又は2記載の含フッ素ポリマー分散体。
【請求項4】
含フッ素ポリマーからなる微粒子は、含フッ素ポリマー球形微粒子を50質量%以上含むものである請求項1、2又は3記載の含フッ素ポリマー分散体。
【請求項5】
含フッ素ポリマー球形微粒子は、平均粒子径が10nm以上であるものである請求項1、2、3又は4記載の含フッ素ポリマー分散体。
【請求項6】
含フッ素ポリマー球形微粒子は、平均粒子径が10〜300nmであるものである請求項1、2、3、4又は5記載の含フッ素ポリマー分散体。
【請求項7】
含フッ素ポリマー球形微粒子は、平均粒子径が30〜160nmであるものである請求項1、2、3、4、5又は6記載の含フッ素ポリマー分散体。
【請求項8】
酸・酸塩型基は、含フッ素ポリマーからなる微粒子の粒子表面における存在比率が前記含フッ素ポリマーからなる微粒子の粒子内部における存在比率よりも大きい請求項1、2、3、4、5,6又は7記載の含フッ素ポリマー分散体。
【請求項9】
酸・酸塩型基は、下記一般式(I)
−O−(CFCFY−O)−(CFY− (I)
(式中、Yは、フッ素原子、塩素原子又はパーフルオロアルキル基を表す。nは、0〜3の整数を表す。n個のYは、同一であってもよいし異なっていてもよい。Yは、フッ素原子又は塩素原子を表す。mは、1〜5の整数を表す。m個のYは、同一であってもよいし異なっていてもよい。)で表されるフルオロエーテル側鎖に結合しているものであり、
前記フルオロエーテル側鎖は、含フッ素ポリマーの主鎖中パーフルオロエチレン単位を構成している炭素原子にエーテル結合しているものである請求項1、2、3、4、5、6、7又は8記載の含フッ素ポリマー分散体。
【請求項10】
更に、メタノール、エタノール、プロパノール及びテトラフルオロプロパノールからなる群より選択される少なくとも1種のアルコールを含有する
請求項1、2、3、4、5、6、7、8又は9記載の含フッ素ポリマー分散体。
【請求項11】
請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10記載の含フッ素ポリマー分散体を用いてキャスト製膜を行うことにより得られたものであることを特徴とする膜。
【請求項12】
請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10記載の含フッ素ポリマー分散体を多孔性支持体に含浸させたのち、液状媒体を除去することにより得られたものであることを特徴とする膜。
【請求項13】
含フッ素ポリマーと活性物質とからなる活性物質固定体であって、
請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10記載の含フッ素ポリマー分散体と、前記活性物質とを含有する液状組成物を基材に塗装することにより得られたものである
ことを特徴とする活性物質固定体。
【請求項14】
活性物質は、触媒である請求項13記載の活性物質固定体。
【請求項15】
触媒は、白金を含有する金属である請求項14記載の活性物質固定体。
【請求項16】
請求項13、14又は15記載の活性物質固定体を有する
ことを特徴とする電解質膜。
【請求項17】
請求項16記載の電解質膜を有する
ことを特徴とする固体高分子電解質型燃料電池。
【請求項18】
下記一般式(VI)
CF=CF−O−(CFCFY−O)−(CFY−A(VI)
(式中、Yは、フッ素原子、塩素原子又はパーフルオロアルキル基を表す。nは、0〜3の整数を表す。n個のYは、同一であってもよいし異なっていてもよい。Yは、フッ素原子又は塩素原子を表す。mは、1〜5の整数を表す。m個のYは、同一であってもよいし異なっていてもよい。Aは、−SO、−COZ及び/又は−CONR1920を表す。Xは、ハロゲン原子を表す。Zは、炭素数1〜4のアルコキシル基を表す。R19及びR20は、同一又は異なって、水素原子、アルカリ金属、アルキル基若しくはスルホニル含有基を表す。)で表されるフルオロビニルエーテル誘導体(Rm)の重合反応を水系反応媒体中で行うことにより、酸誘導型基含有含フッ素コポリマーを製造することよりなる酸誘導型基含有含フッ素コポリマー製造方法であって、
前記重合反応は、下記一般式(VII)
CF=CF−O−(CFCFY−O)−(CFY−A(VII)
(式中、Yは、フッ素原子、塩素原子又はパーフルオロアルキル基を表す。nは、0〜3の整数を表す。n個のYは、同一であってもよいし異なっていてもよい。Yは、フッ素原子又は塩素原子を表す。mは、1〜5の整数を表す。m個のYは、同一であってもよいし異なっていてもよい。Aは、−SO、−SONR1718及び/又は−COOZを表す。Xは、−OM又は−OM1/2を表し、Mは、アルカリ金属又はNRを表し、R、R、R及びRは、同一又は異なって、水素原子若しくは炭素数1〜4のアルキル基を表し、Mは、アルカリ土類金属を表す。R17及びR18は、同一又は異なって、水素原子、アルカリ金属、アルキル基若しくはスルホニル含有基を表す。Zは、M又はM1/2を表し、Mは、アルカリ金属又はNRを表し、R、R、R及びRは、同一又は異なって、水素原子若しくは炭素数1〜4のアルキル基を表し、Mは、アルカリ土類金属を表す。)で表される酸・酸塩型フルオロビニルエーテル誘導体を用いて行うものである
ことを特徴とする酸誘導型基含有含フッ素コポリマー製造方法。
【請求項19】
重合反応は、既存乳化剤を用いずに行うものである請求項18記載の酸誘導型基含有含フッ素コポリマー製造方法。

【公開番号】特開2008−144139(P2008−144139A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−274466(P2007−274466)
【出願日】平成19年10月22日(2007.10.22)
【分割の表示】特願2005−501226(P2005−501226)の分割
【原出願日】平成15年6月16日(2003.6.16)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】