説明

含フッ素樹脂コート層およびそれが形成されてなるコート材料

【課題】 従来品よりも安価かつ簡便な方法で、耐熱性、剥離性、防汚性、平滑性、撥水性、耐溶剤性、および基材との接着性に優れる、含フッ素樹脂コート層を提供する。
【解決手段】 基材上に形成されたコート層であって、コート層がフッ素改質された酸変性ポリオレフィン樹脂層からなり、酸変性ポリオレフィン樹脂が、不飽和カルボン酸成分と炭素数2〜4のオレフィン成分とを含有することを特徴とする含フッ素樹脂コート層。酸変性ポリオレフィン樹脂層が、イオン注入法またはフッ素ガス接触法によりフッ素改質されていることを特徴とする前記コート層。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水性、剥離性、防汚性、平滑性、耐溶剤性、耐熱性、および基材との接着性に優れる、含フッ素樹脂コート層に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フッ素を含むポリオレフィン樹脂(含フッ素樹脂)は、撥水性、耐溶剤性、剥離性、防汚性、耐熱性などに優れる特徴を有しており、幅広い用途で使用されている。このような樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂が挙げられ、上市されている商品としてはデュポン社のテフロン(登録商標)が挙げられる。それ以外にもポリフッ化ビニリデンのような部分フッ素化樹脂やエチレンなどとの共重合による含フッ素樹脂共重合体などが開発されている。しかしながら従来のフッ素を含むオレフィンを重合して得られる含フッ素樹脂は非常にコストの高い材料であり、上述したような優れた特性を有しているものの、使用できる範囲は限られていた。
【0003】
含フッ素樹脂の特性を活かした用途例として離型フィルムが挙げられる。離型フィルムとはその表面が優れた剥離性を示すフィルムのことであり、例えば、プリント基板材料製造ラインで用いられる工程紙、粘着テープなどの剥離材、粘着性を有する食品などを包む包装材料など、さまざまな用途で使用されている。
【0004】
従来、これらの離型フィルムには、上述のPTFEフィルム(例えば特許文献1)や、ポリメチルペンテンフィルム(例えば特許文献2)や、良好な剥離性を有するシリコーン系樹脂を各種基材フィルムに塗布したフィルム(例えば特許文献3)などが使用されてきた。
しかし、上述したとおりPTFEフィルムは非常に高価な材料であり、使用できる範囲は限られてきた。
また、ポリメチルペンテンフィルムは耐熱性が十分ではなく、熱処理を行った際に、他の材料と熱融着してしまう問題があった。
また、シリコーン系樹脂コートフィルムは、工場生産ラインの工程紙として使用した場合、離型成分であるシリコーンが、特にプリント基板や電子部品などの相手材に移行して付着するトラブルが発生することがあった。さらに、シリコーン系樹脂コートフィルムは、シリコーン系樹脂溶液を基材フィルムに塗布・乾燥して作製することが一般的であり、有機溶剤の使用が不可欠であるという問題を有している。
【0005】
これらの問題を解決するために、基材フィルムに含フッ素樹脂を塗布する方法(例えば特許文献4)が検討されている。一般に含フッ素樹脂は溶剤に対する溶解性が低く、使用できる溶剤が限定され、加工場によっては使用できないという問題が生じていた。また、基材フィルムと含フッ素樹脂層との接着性が劣ることにより、離型フィルムとして使用する際、被着体と含フッ素樹脂層との間で剥離せずに、基材フィルムと含フッ素樹脂層との間で剥離を起こす問題が生じることがあった。
【0006】
また特許文献5に示されているように、特定の成分を含有する含フッ素樹脂と、架橋剤と、有機溶剤とからなる塗液をポリエステルフィルムに塗布・乾燥した離型フィルムが開発されている。これによると剥離性に優れ、かつポリエステルフィルムと含フッ素樹脂層との接着性にも優れるフィルムが得られている。しかし、有機溶剤を使用することに加え、100℃以上の熱処理が必要不可欠である。
【0007】
また特許文献6には、高分子材料にフッ素ガスと不活性ガスを含むガスを接触させる処理を行って撥水性を付与する表面改質方法が示されている。これによると表面処理により水に対する接触角を10°以上大きくすることができるが、比重が1.6以下であってかつエーテル結合、カーボネート結合、アミド結合、ウレタン結合のいずれも含まない材料に限られる。
【特許文献1】特開平9−187898号公報
【特許文献2】特開2000−218752号公報
【特許文献3】特開平5−286084号公報
【特許文献4】特開2007−002066号公報
【特許文献5】特許第4033691号公報
【特許文献6】特許第3629031号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は以上のような状況に鑑みなされたものであり、従来品よりも安価かつ簡便な方法で、耐熱性、剥離性、防汚性、平滑性、撥水性、耐溶剤性、および基材との接着性に優れる、含フッ素樹脂コート層を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、不飽和カルボン酸成分と炭素数2〜4のオレフィン成分とを含有する酸変性ポリオレフィン樹脂層を基材上に形成し、この樹脂層を含フッ素樹脂層に改質することにより、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)基材上に形成されたコート層であって、コート層がフッ素改質された酸変性ポリオレフィン樹脂層からなり、酸変性ポリオレフィン樹脂が、不飽和カルボン酸成分と炭素数2〜4のオレフィン成分とを含有することを特徴とする含フッ素樹脂コート層。
(2)酸変性ポリオレフィン樹脂における不飽和カルボン酸成分の含有量が0.1〜15質量%であることを特徴とする(1)記載のコート層。
(3)不飽和カルボン酸成分が無水マレイン酸であることを特徴とする(1)または(2)記載のコート層。
(4)オレフィン成分がエチレンおよび/またはプロピレンであることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のコート層。
(5)酸変性ポリオレフィン樹脂層が、酸変性ポリオレフィン樹脂と塩基性化合物と水性媒体とを含有する水性分散体を基材上に塗布・乾燥することによって形成されていることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のコート層。
(6)酸変性ポリオレフィン樹脂層が、イオン注入法またはフッ素ガス接触法によりフッ素改質されていることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載のコート層。
(7)基材が熱可塑性樹脂フィルムであることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載のコート層。
(8)熱可塑性樹脂フィルムがポリエステルフィルムであることを特徴とする(7)記載のコート層。
(9)上記(1)〜(8)のいずれかに記載のコート層が基材上に形成されてなる含フッ素樹脂コート材料。
【発明の効果】
【0010】
本発明の含フッ素樹脂コート層は、撥水性、剥離性、防汚性、平滑性、耐溶剤性、耐熱性、および基材との接着性に優れ、離型材、防汚材、耐内容物特性に優れた包材料や容器などさまざまな用途に使用することができる。特に、コート層が、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ゴム系高分子、紙、木材、金属などさまざまな基材との良好な接着性を示すことにより、本発明の含フッ素樹脂コート層が形成された材料は広い用途範囲で使用することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳述する。
本発明の含フッ素樹脂コート層は、基材上に形成された、不飽和カルボン酸成分と炭素数2〜4のオレフィン成分とを含有する酸変性ポリオレフィン樹脂層であり、フッ素改質されたものである。
【0012】
本発明の含フッ素樹脂コート層が形成される基材としては、特に限定されないが、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ゴム系高分子、紙、木材、金属などが挙げられる。例えば、熱可塑性樹脂を用いた例として、熱可塑性樹脂フィルムが挙げられ、例として、機械的強度や透明性に優れた材料としてポリエステルフィルムが挙げられる。ポリエステルフィルムの例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムが挙げられるが、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸等のジカルボン酸成分や、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、テトラメチレングリコール、ビスフェノールA等の他のグリコール成分を共重合してもよく、これらの成分を2種類以上併用してもよい。また、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等の他のポリエステルとブレンドして用いることもできる。これらのポリエステルフィルムは未延伸フィルム、延伸フィルムのどちらでも用いることができる。
【0013】
本発明において、酸変性ポリオレフィン樹脂を構成する不飽和カルボン酸成分は、分子内に少なくとも1個のカルボキシル基または酸無水物基を有する化合物であり、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等のほか、不飽和ジカルボン酸のハーフエステル、ハーフアミド等が挙げられる。中でもアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸が好ましく、特にアクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸が好ましい。
不飽和カルボン酸成分は、ポリオレフィン樹脂中に、例えばランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合等により共重合されていれば特にその形態は限定されない。なお、樹脂中に導入された酸無水物は、樹脂の乾燥状態では隣接カルボキシル基が脱水環化した酸無水物構造を形成しているが、後述する水性媒体中では、その一部、または全部が開環してカルボン酸、あるいはその塩の構造をとる場合がある。
【0014】
酸変性ポリオレフィン樹脂における不飽和カルボン酸成分の含有量は、樹脂の分散化、基材との接着性を満足させる点から、0.1〜15質量%であることが好ましい。不飽和カルボン酸成分の含有量が0.1質量%未満では、樹脂の分散化が困難になり、15質量%を超えると基材によっては接着性が低下する場合がある。不飽和カルボン酸成分の含有量は、0.5〜8質量%がより好ましく、1〜6質量%が最も好ましい。
【0015】
本発明において、酸変性ポリオレフィン樹脂を構成する炭素数2〜4のオレフィン成分としては、エチレン、プロピレン、イソブチレン、1−ブテン等が挙げられ、これらは2種以上を用いてもよい。なかでも、酸変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体の製造のし易さ、ポリエステル基材に対する接着性などから、エチレンおよび/またはプロピレンが好ましい。オレフィン成分の炭素数が4を超えると、生産性に乏しく高価になり、基材との接着性が低下する場合がある。
【0016】
本発明において用いることのできる市販の酸変性ポリオレフィン樹脂としては、日本ポリエチレン社製レクスパールシリーズ、三井・デュポンポリケミカル社製ニュクレルシリーズ、アルケマ社製ボンダインシリーズなどが挙げられる。
【0017】
酸変性ポリオレフィン樹脂の分子量は特に限定されないが、分子量の目安となる190℃、2160g荷重におけるメルトフローレート(MFR)としては、0.01〜3000g/10分が好ましく、より好ましくは0.5〜1000g/10分、さらに好ましくは1〜500g/10分、最も好ましくは1〜300g/10分のものを用いることができる。酸変性ポリオレフィン樹脂のMFRが0.01g/10分未満では、樹脂の溶液化や分散化は困難になる。一方、酸変性ポリオレフィン樹脂のMFRが3000g/10分を超えると、接着性が低下する場合がある。
【0018】
本発明において、酸変性ポリオレフィン樹脂層は、上記酸変性ポリオレフィン樹脂と塩基性化合物と水性媒体とを含有する水性分散体を基材上に塗布・乾燥することによって形成することができる。
【0019】
酸変性ポリオレフィン樹脂は、含有する酸成分の全てまたは一部が、水性媒体中で塩基性化合物によって中和されることによって、水性分散体の形態をとることができる。なお水性媒体とは、水または、水と水溶性の有機溶媒との混合液のことである。
すなわち、酸変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体は、酸変性ポリオレフィン樹脂、塩基性化合物、有機溶媒と、水とを、80〜280℃の温度で混合する方法によって調製することができる。この方法により、乳化剤成分や保護コロイド作用を有する化合物等の不揮発性水性分散化助剤を含有しなくとも、粒子径が微細で良好な水性分散体を得ることができる。
【0020】
水性分散体を調製する際に使用する塩基性化合物としては、特に限定されず、アンモニア、有機アミンなどのアミン類、アルカリ金属化合物などが挙げられる。
水溶性の有機溶媒としては、20℃における水に対する溶解性が50g/L以上でかつ30〜250℃の沸点を有する、例えば、アルコール類、ケトン類、エーテル類などが挙げられる。なお水性分散化後に、水性分散体中に含有されるこの有機溶媒は、必要に応じて、脱溶剤処理によってその一部または全てを除去しても構わない。脱溶剤処理は、加熱や減圧などの方法によって実施することができる。
【0021】
本発明における不揮発性水性分散化助剤とは、水性分散化において、水性分散化促進や水性分散体の安定化の目的で添加される薬剤や化合物を指す。不揮発性水性分散化助剤は、塗膜形成後にも残存し、塗膜を可塑化することにより、樹脂の特性、例えば耐水性等を悪化させる。不揮発性とは、常圧での沸点を有さないか、もしくは、常圧で高沸点(例えば300℃以上)であることを指す。
不揮発性水性分散化助剤としては、例えば、後述する乳化剤、保護コロイド作用を有する化合物、変性ワックス類、高酸価の酸変性化合物、水溶性高分子などが挙げられる。乳化剤としては、カチオン性乳化剤、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、あるいは両性乳化剤が挙げられ、一般に乳化重合に用いられるもののほか、界面活性剤類も含まれる。例えば、アニオン性乳化剤としては、高級アルコールの硫酸エステル塩、高級アルキルスルホン酸塩、高級カルボン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルサルフェート塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルサルフェート塩、ビニルスルホサクシネート等が挙げられ、ノニオン性乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、エチレンオキサイドプロピレンオキサイドブロック共重合体、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイド共重合体などのポリオキシエチレン構造を有する化合物やポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどのソルビタン誘導体等が挙げられ、両性乳化剤としては、ラウリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイド等が挙げられる。
保護コロイド作用を有する化合物、変性ワックス類、高酸価の酸変性化合物、水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、変性デンプン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸およびその塩、カルボキシル基含有ポリエチレンワックス、カルボキシル基含有ポリプロピレンワックス、カルボキシル基含有ポリエチレン−プロピレンワックスなどの数平均分子量が通常は5000以下の酸変性ポリオレフィンワックス類およびその塩、アクリル酸−無水マレイン酸共重合体およびその塩、ポリイタコン酸およびその塩、アミノ基を有する水溶性アクリル系共重合体、ゼラチン、アラビアゴム、カゼイン等、一般に微粒子の分散安定剤として用いられている化合物が挙げられる。
【0022】
水性分散体における酸変性ポリオレフィン樹脂の固形分濃度は、1〜50質量%であることが好ましく、3〜40質量%であることがより好ましく、5〜30質量%であることが特に好ましい。樹脂固形分濃度が50質量%を超えると分散体の著しい粘度増加あるいは固化により取扱い性が低下する傾向がある。一方、樹脂固形分濃度が1質量%未満では分散液の著しい粘度低下により取扱い性が低下する傾向がある。
【0023】
本発明において酸変性ポリオレフィン樹脂層には、架橋剤や他の水溶性ポリマーを含有してもよい。例えばコート材料を離型フィルムとして用いる場合、被着体との剥離性を向上させるために、架橋剤を含有させ架橋処理を施すことが好ましい。架橋剤としては、カルボジイミド化合物、オキサゾリン基含有化合物、イソシアネート化合物、メラミン化合物、尿素化合物、エポキシ化合物、アジリジン化合物、ジルコニウム塩化合物、シランカップリング剤等が挙げられ、カルボジイミド化合物、オキサゾリン基含有化合物が効果的であり好ましく、特にオキサゾリン基含有化合物が好ましい。その含有量は、酸変性ポリオレフィン樹脂100質量部に対して、1〜30質量部が好ましく、3〜20質量部がより好ましく、5〜10質量部がさらに好ましい。1質量部未満では添加効果が乏しく、30質量部を超えると剥離性が低下する場合がある。
【0024】
本発明において、基材上に、酸変性ポリオレフィン樹脂層を形成する方法としては、酸変性ポリオレフィン樹脂と塩基性化合物と水性媒体とを含有する水性分散体を基材上に塗布・乾燥する方法が挙げられる。例えば、基材がフィルムの場合、水性分散体をフィルムに塗布する方法は特に限定されないが、マイヤーバーコーティング、エアナイフコーティング、スプレーコーティング、浸漬によるコーティングなどが例示できる。水性媒体を除去する方法としては、例えば60〜150℃、好ましくは70〜130℃で、水性媒体が揮発し除去される時間乾燥する方法が挙げられる。また必要に応じて、減圧乾燥する方法を用いてもよい。
【0025】
酸変性ポリオレフィン樹脂層の厚みは、酸変性ポリオレフィン樹脂層をフッ素改質した際の必要な発現機能に応じて任意に定めることができる。例えば、含フッ素樹脂の優れた剥離性を利用した離型材の場合、酸変性ポリオレフィン樹脂層の厚みは0.001〜5μmの範囲とすることが好ましく、0.01〜3μmであることがより好ましく、0.05〜2μmであることが最も好ましい。厚みが0.001μm未満であれば、酸変性ポリオレフィン樹脂層をフッ素イオン注入によってフッ素改質しても十分な剥離性が得られず、5μmを超える場合においてはコストアップとなる恐れがある。
【0026】
本発明のコート層は、酸変性ポリオレフィン樹脂層がフッ素改質されたものである。酸変性ポリオレフィン樹脂層をフッ素改質する方法としては、イオン注入法やフッ素ガス照射法などが挙げられる。イオン注入法の代表的な手法の一つにプラズマベースイオン注入法(PBII)法が挙げられる。PBII法とは、プラズマ中に対象物を置きパルス電圧を印加することにより、表面にイオンを注入する方法である。またフッ素ガス接触法とは、フッ素分子の高い反応性を利用し、フッ素ガスと窒素ガスなどの不活性ガスとの混合ガスと対象物を接触させることにより、対象物の表面をフッ素化する方法である。
【0027】
本発明の含フッ素樹脂コート層は、撥水性、剥離性、防汚性、平滑性、耐溶剤性、耐熱性、および基材との接着性に優れている。このコート層が基材上に形成されてなる含フッ素樹脂コート材料は、離型材、防汚材、耐内容物特性に優れた包材料や容器などとしてさまざまな用途に使用することができる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。ただし、本発明は下記実施例によって何ら制限されるものではない。
なお、後述する各種の特性は、以下の方法によって測定または評価した。
【0029】
(1)酸変性ポリオレフィン樹脂における不飽和カルボン酸単位の含有量
酸変性ポリオレフィン樹脂の酸価をJIS K5407に記載の方法に準じて測定し、その値から不飽和カルボン酸の含有量を求めた。
【0030】
(2)酸変性ポリオレフィン樹脂の構成
オルトジクロロベンゼン(d)中で、120℃にてH−NMR分析(バリアン社製、300MHz)を行い求めた。
【0031】
(3)酸変性ポリオレフィン樹脂のメルトフローレート(MFR)
酸変性ポリオレフィン樹脂のMFRをJIS K7210記載の方法に準して測定した。
【0032】
(4)水性分散体における酸変性ポリオレフィン樹脂粒子の数平均粒子径
日機装社製、マイクロトラック粒度分布計UPA150(MODEL No.9340、動的光散乱法)を用い、数平均粒子径を求めた。なお、樹脂の屈折率は1.50とした。
【0033】
(5)基材フィルム上に形成した酸変性ポリオレフィン樹脂層の厚み
接触式膜厚計を用いて、基材フィルムおよび酸変性ポリオレフィン樹脂層を塗布・乾燥した後のフィルム全体の厚みを測定し、コートフィルム全体の厚みから基材フィルム単独の厚みを減じることにより、酸変性ポリオレフィン樹脂層の厚みを求めた。
【0034】
(6)基材と酸変性ポリオレフィン樹脂層との接着性
基材と酸変性ポリオレフィン樹脂層との接着性は、JIS K5400に記載の方法に準じて碁盤目試験により評価した。
○:剥離なし
△:一部が剥離
×:完全に剥離
【0035】
(7)撥水性
コート層表面の水に対する接触角を、JIS R3257に記載の方法に準じて静滴法によって評価し、下記基準に沿って撥水性を評価した。
○:接触角100°以上
△:接触角80〜100°
×:接触角80°未満
【0036】
(8)材料表面の滑り性
含フッ素樹脂コート層が形成されたフィルム2枚を、表面(含フッ素樹脂コート層面)と裏面(フィルム面)とが重なるよう重ね合わせ、片方のフィルムのみを水平方向に一定の力で前方に押した際の滑り性について、下記基準に沿って評価した。
○:まったく引っかかりがなく滑る
△:わずかに引っかかりがある
×:引っかかりがあり、滑らない
【0037】
(9)総合評価
上記の各評価結果を総合して、下記基準に沿って3段階評価した。
○:良好
△:やや問題あり
×:問題あり
【0038】
参考例1
ヒーター付きの密閉できる耐圧1L容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、酸変性ポリオレフィン樹脂として60.0gのボンダイン「HX−8290」(アルケマ社製、無水マレイン酸変性エチレン−アクリル酸エチル共重合樹脂)、90.0gのイソプロパノール、3.0gのトリエチルアミン(TEA)及び147.0gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌しながら加熱し、系内温度を140℃に保って60分間撹拌した。その後、回転速度300rpmのまま攪拌しつつ室温(約25℃)まで冷却し、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧ろ過(空気圧0.2MPa)し、乳白色の均一な酸変性ポリオレフィン樹脂分散体「E−1」(固形分濃度20質量%)を得た。水性分散体中のポリオレフィン樹脂粒子の数平均粒子径は50nmであった。
【0039】
参考例2
ヒーター付きの密閉できる耐圧1L容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、酸変性ポリオレフィン樹脂として30.0gのニュクレル「N1108C」(三井・デュポンポリケミカル社製、メタクリル酸変性ポリエチレン樹脂)、105.0gのn−プロパノール(NPA)、39.0gのTEA及び156.0gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌しながら加熱し、系内温度を170℃に保って60分間撹拌した。その後、回転速度300rpmのまま攪拌しつつ室温(約25℃)まで冷却し、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧ろ過(空気圧0.2MPa)し、均一な酸変性ポリオレフィン樹脂分散体「E−2」(固形分濃度10質量%)を得た。水性分散体中のポリオレフィン樹脂粒子の数平均粒子径は110nmであった。
【0040】
参考例3
プロピレン−ブテン−エチレン三元共重合体(ヒュルスジャパン社製、ベストプラスト708)280gを、4つ口フラスコ中において窒素雰囲気下で加熱溶解させた。その後、系内温度を170℃に保って、攪拌下、不飽和カルボン酸としての無水マレイン酸32.0gとラジカル発生剤としてのジクミルパーオキサイド6.0gとをそれぞれ1時間かけて加え、その後1時間反応させた。反応終了後、得られた反応物を多量のアセトン中に投入し、樹脂を析出させた。この樹脂をさらにアセトンで数回洗浄し、未反応の無水マレイン酸を除去した後、減圧乾燥してポリオレフィン樹脂「P−1」を得た。ヒーター付きの密閉できる耐圧1L容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、酸変性ポリオレフィン樹脂として60.0gのポリオレフィン樹脂「P−1」、90.0gのNPA、6.2gのTEA、143.8gの蒸留水をガラス容器内に仕込み、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌しながら加熱し、系内温度を140℃に保って60分間撹拌した。その後、回転速度300rpmのまま攪拌しつつ室温(約25℃)まで冷却し、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加圧ろ過(空気圧0.2MPa)し、乳白黄色の酸変性ポリオレフィン樹脂分散体「E−3」(固形分濃度20質量%)を得た。水性分散体中のポリオレフィン樹脂粒子の数平均粒子径は90nm、重量平均分子量は40,000であった。
【0041】
参考例4
ヒーター付きの密閉できる耐圧1L容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、酸変性ポリオレフィン樹脂として60.0gのプリマコール「5980I」(ダウケミカル社製、アクリル酸変性ポリエチレン樹脂)、16.8gのTEA、223.2gの蒸留水を用い、水性分散体「E−2」と同様の方法により、微白濁の酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体「E−4」(固形分濃度10質量%)を得た。水性分散体中のポリオレフィン樹脂粒子の数平均粒子径は20nmであった。
【0042】
水性分散体「E−1」から「E−4」の製造に使用した酸変性ポリオレフィン樹脂の組成を表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
実施例1
酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体「E−1」を、二軸延伸PETフィルム(ユニチカ社製「エンブレットPET−25」、厚さ25μm)のコロナ処理面にマイヤーバーを用いて塗布した後、熱風乾燥機中で120℃、90秒間乾燥させることにより、1.0μmの酸変性ポリオレフィン樹脂層をコートしたPETフィルムを得た。
このフィルムを処理容器に入れ、フッ素ガス/窒素ガス(80/20体積%)の混合ガスを、酸変性ポリオレフィン樹脂層をコートした側にのみ接触させ、室温で2時間放置することにより、フィルムの酸変性ポリオレフィン樹脂層にフッ素改質処理を行い、含フッ素樹脂コート層が形成された二軸延伸PETフィルムを得た。
【0045】
実施例2〜4
酸変性ポリオレフィン樹脂水性分散体として「E−2」、「E−3」、「E−4」を用いる以外は実施例1と同様の方法により、含フッ素樹脂コート層が形成された二軸延伸PETフィルムを得た。
【0046】
実施例5
基材として、二軸延伸ナイロン(PA)フィルム(ユニチカ社製「エンブレムON−25」、厚さ25μm)を用いた以外は、実施例1と同様の方法により、含フッ素樹脂コート層が形成された二軸延伸PAフィルムを得た。
【0047】
実施例6
基材として、ポリカーボネート(PC)フィルム(SABIC社製「レキサン−8010」、厚さ100μm)を用いた以外は、実施例1と同様の方法により、含フッ素樹脂コート層が形成されたPCフィルムを得た。
【0048】
実施例7
基材として、ポリウレタン(PU)エラストマーフィルム(日清紡績社製「モビロン」、厚さ30μm)を用いた以外は、実施例1と同様の方法により、含フッ素樹脂コート層が形成されたPUエラストマーフィルムを得た。
【0049】
比較例1
実施例1と同様の方法により、酸変性ポリオレフィン樹脂層をコートしたPETフィルムを得た。次いでフッ素改質処理は実施しなかった。
【0050】
比較例2
二軸延伸PETフィルムを処理容器に入れ、実施例1と同様の方法で、フィルムのコロナ処理面にフッ素改質処理を行った。
【0051】
実施例1〜7および比較例1、2で得られた各フィルムについて、基材と酸変性ポリオレフィン樹脂層の接着性、撥水性、滑り性を評価した結果を表2に示す。
【0052】
【表2】

【0053】
実施例1〜3のように、PETフィルムの表面に、不飽和カルボン酸成分と炭素数2〜4のオレフィン成分を含む酸変性ポリオレフィン樹脂を形成した後、酸変性ポリオレフィン樹脂層をフッ素改質した含フッ素樹脂コート層は、基材とコート層の接着性、撥水性、滑り性のいずれもが良好であった。実施例4では、得られた含フッ素樹脂コート層は、良好な撥水性、滑り性を示したが、不飽和カルボン酸成分の含有量が15質量%を超える酸変性ポリオレフィン樹脂を使用したため、PETフィルムに対する接着性はやや低いものであった。
実施例5〜7のように、本発明のコート層の各種基材に対する良好な接着性により、PC、PA、PUなどのさまざまな種類の基材に関して、良好な特性を示す含フッ素樹脂コート材料を得ることができた。
【0054】
一方、比較例1のように、フッ素改質していない材料においては、明らかに撥水性、滑り性が実施例に比べて劣っており、また比較例2のように、PETフィルムの表面を直接フッ素改質した場合においては十分な性能が得られない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に形成されたコート層であって、コート層がフッ素改質された酸変性ポリオレフィン樹脂層からなり、酸変性ポリオレフィン樹脂が、不飽和カルボン酸成分と炭素数2〜4のオレフィン成分とを含有することを特徴とする含フッ素樹脂コート層。
【請求項2】
酸変性ポリオレフィン樹脂における不飽和カルボン酸成分の含有量が0.1〜15質量%であることを特徴とする請求項1記載のコート層。
【請求項3】
不飽和カルボン酸成分が無水マレイン酸であることを特徴とする請求項1または2記載のコート層。
【請求項4】
オレフィン成分がエチレンおよび/またはプロピレンであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のコート層。
【請求項5】
酸変性ポリオレフィン樹脂層が、酸変性ポリオレフィン樹脂と塩基性化合物と水性媒体とを含有する水性分散体を基材上に塗布・乾燥することによって形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のコート層。
【請求項6】
酸変性ポリオレフィン樹脂層が、イオン注入法またはフッ素ガス接触法によりフッ素改質されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のコート層。
【請求項7】
基材が熱可塑性樹脂フィルムであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のコート層。
【請求項8】
熱可塑性樹脂フィルムがポリエステルフィルムであることを特徴とする請求項7記載のコート層。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のコート層が基材上に形成されてなる含フッ素樹脂コート材料。

【公開番号】特開2010−95590(P2010−95590A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−266320(P2008−266320)
【出願日】平成20年10月15日(2008.10.15)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】