説明

含フッ素重合体の製造方法および表面処理

【課題】 優れた撥水撥油性、防汚性および離型性を与える含フッ素重合体を提供する。
【解決手段】 炭素数1〜6のフルオロアルキル基を有し、α位の水素原子が置換されている含フッ素アクリレートを含んでなる単量体を高圧流体中で重合することからなる含フッ素重合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水撥油剤、防汚加工剤および離型剤などの表面処理剤の有効成分として使用できる含フッ素重合体の製造方法および該含フッ素重合体を用いた処理に関する。本発明の含フッ素重合体は、繊維製品や石材、静電フィルター、防塵マスク、燃料電池の部品に、優れた撥水性、撥油性、防汚性を付与できる。
【背景技術】
【0002】
従来、撥水撥油剤の有効成分として含フッ素アクリレート系ポリマーが使用されている。実用的に使用されている含フッ素アクリレート系モノマーの側鎖のフルオロアルキル基の炭素数は通常8以上であり、通常、含フッ素アクリレート系ポリマーの製造のためには乳化重合を用いる場合が多く、溶液重合も用いられる。
乳化重合を用いる場合、乳化剤を多量に使用することに起因する撥水性の低下や使用できる乳化剤の種類が限られるといった問題があった。
また、溶液重合を用いる場合、含フッ素アクリレート系モノマーの重合溶媒に対する溶解性が低いことや、環境中へ溶媒が放出されるという問題があった。
【0003】
さらに、これまでの種々の研究結果では、表面処理剤(特に、撥水撥油剤)の繊維への実用処理では、その表面特性として、静的な接触角ではなく、動的接触角、特に後退接触角が重要であることを示している。すなわち、水の前進接触角はフルオロアルキル基の側鎖炭素数に依存しないが、水の後退接触角は、側鎖の炭素数8以上に比較して7以下では著しく小さくなることを示している。これと対応してX線解析は、側鎖の炭素数が7以上では側鎖の結晶化が起こることを示している。実用的な撥水性が側鎖の結晶性と相関関係を有していること、および表面処理剤分子の運動性が実用性能発現の重要な要因であることが知られている(例えば、前川隆茂、ファインケミカル、Vol23,No.6,P12(1994))。したがって、側鎖の炭素数が7以下(特に、6以下)と短いフルオロアルキル基をもつアクリレート系ポリマーでは側鎖の結晶性が低いため実用性能(特に撥水性)を満足しないと考えられていた。
【0004】
USP5496901では上記乳化重合や溶液重合に起因する問題点を解決するために含フッ素アクリレート系モノマーを超臨界液体中で重合することを開示している。これら公報においても、上記理由により、実施例において使用されているフルオロアルキル基の炭素数は8以上であり、6以下の炭素数のフルオロアルキル基を有するアクリレート系モノマーを用いるということは提案されていない。
【0005】
最近の研究結果(EPAレポート"PRELIMINARY RISK ASSESSMENT OF THE DEVELOPMENTAL TOXICITY ASSOCIATED WITH EXPOSURE TO PERFLUOROOCTANOIC ACID AND ITS SALTS" (http://www.epa.gov/opptintr/pfoa/pfoara.pdf))などから、PFOA(perfluorooctanoic acid)に対する環境への負荷の懸念が明らかとなってきており、2003年4月14日EPA(米国環境保護庁)がPFOAに対する科学的調査を強化すると発表した。
一方、Federal Register(FR Vol.68,No.73/April 16,2003[FRL-2303-8])
(http://www.epa.gov/opptintr/pfoa/pfoafr.pdf)や
EPA Environmental News FOR RELEASE: MONDAY APRIL 14, 2003
EPA INTENSIFIES SCIENTIFIC INVESTIGATION OF A CHEMICAL PROCESSING AID
(http://www.epa.gov/opptintr/pfoa/pfoaprs.pdf)や
EPA OPPT FACT SHEET April 14, 2003(http://www.epa.gov/opptintr/pfoa/pfoafacts.pdf)は、「テロマー」が分解または代謝によりPFOAを生成する可能性があると公表している。また、「テロマー」が、泡消火剤;ケア製品と洗浄製品;カーペット、テキスタイル、紙、皮革に設けられている撥水撥油被覆および防汚加工被覆を含めた多くの製品に使用されていることをも公表している。
【0006】
特開平5-202388は、超臨界液体を媒体とする繊維の汚れを除去する方法を開示しているが、この方法で繊維に撥水撥油処理を実施する場合には従来の撥剤のエマルションまたは撥剤の溶液を処理する必要がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、側鎖が短いフルオロアルキル基の炭素数6以下であっても、α位がフッ素、塩素等で置換されている含フッ素アクリレート系モノマーを超臨界液体中で重合することにより優れた撥水性、撥油性、防汚性、染み付着防止性および離型性を有する含フッ素アクリレート系ポリマーを提供すること、および超臨界液体を媒体として用いて繊維の汚れを除去したのち連続的に撥水撥油処理を実施する方法を提供することにある。
また、本発明の目的は、上記「テロマー」とは異なる化学骨格構造をもつ代替化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、炭素数1〜6のフルオロアルキル基を有し、α位の水素原子が置換されている含フッ素アクリレートを含んでなる単量体を高圧流体中で重合することからなる含フッ素重合体の製造方法を提供する。
【0009】
本発明は、
(1)炭素数1〜6のフルオロアルキル基を有し、α位の水素原子が置換されている含フッ素アクリレートを含んでなる単量体、
(2)重合開始剤、および
(3)高圧流体
を含んでなる重合用組成物をも提供する。
この重合用組成物を重合することによって、含フッ素重合体が得られる。
さらに、本発明は、上記製造方法によって得られた含フッ素重合体および高圧流体を含む混合物を繊維製品と接触させることを特徴とする繊維製品の処理方法をも提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、優れた撥水性、撥油性、防汚性、染み付着防止性および離型性を与える含フッ素重合体が製造される。本発明の方法によれば、含フッ素重合体の分子量分布は狭く、分子量を調整することが容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明において、単量体は、含フッ素アクリレートのみからなってもよいし、あるいは含フッ素アクリレートと含フッ素アクリレート以外の単量体(例えば、非フッ素単量体)との混合物であってもよい。
【0012】
1つの好ましい態様において、単量体は、
(a)含フッ素アクリレート、特に、α位がX基で置換されている含フッ素アクリレート、
(b)フッ素原子を含まない単量体、および
(c)場合により存在する、架橋性単量体
を含んでなる混合物であってよい。
【0013】
含フッ素アクリレート(a)の好ましい例は、
式:

[式中、Xは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、CFX12基(但し、X1およびX2は、水素原子、フッ素原子または塩素原子である。)、シアノ基、炭素数1〜20の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基、置換または非置換のベンジル基、置換または非置換のフェニル基、
Yは、炭素数1〜10の脂肪族基、炭素数6〜10の芳香族基または環状脂肪族基、−CH2CH2N(R1)SO2−基(但し、R1は炭素数1〜4のアルキル基である。)または−CH2CH(OY1)CH2−基(但し、Y1は水素原子またはアセチル基である。)、
Rfは炭素数1〜6の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基である。]
で示されるα置換含フッ素アクリレートである。
【0014】
式(I)において、Rf基が、パーフルオロアルキル基であることが好ましい。Rf基の炭素数は、1〜6、例えば1〜4である。
Yは、炭素数1〜10の脂肪族基、炭素数6〜10の芳香族基または環状脂肪族基、−CH2CH2N(R1)SO2−基(但し、R1は炭素数1〜4のアルキル基である。)または−CH2CH(OY1)CH2−基(但し、Y1は水素原子またはアセチル基である。)である。脂肪族基はアルキレン基(特に炭素数1〜4、例えば、1または2)であることが好ましい。芳香族基および環状脂肪族基は、置換されていてもあるいは置換されていなくてもどちらでもよい。
【0015】
含フッ素単量体(a)の例は、次のとおりである。








[式中、Rfは炭素数1〜6の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基である。]
【0016】
フッ素原子を含まない単量体(b)は、フッ素を含有せず、炭素-炭素二重結合を有する単量体であることが好ましい。単量体(b)は、フッ素を含有しないビニル性単量体であることが好ましい。フッ素原子を含まない単量体(b)は、一般に、1つの炭素-炭素二重結合を有する化合物である。フッ素原子を含まない単量体(b)として好ましい単量体としては、例えば、エチレン、酢酸ビニル、ハロゲン化ビニリデン、アクリロニトリル、スチレン、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ビニルアルキルエーテル、イソプレンなどが例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0017】
フッ素原子を含まない単量体(b)は、アルキル基を含有する(メタ)アクリル酸エステルであってよい。アルキル基の炭素数は、1〜30、例えば、6〜30、例示すれば、10〜30であってよい。例えば、フッ素原子を含まない単量体(b)は一般式:
CH=CACOOA
[式中、Aは水素原子またはメチル基、AはC2n+1(n=1〜30)で示されるアルキル基である。]
で示されるアクリレート類であってよい。
【0018】
架橋性単量体(c)は、少なくとも2つの反応性基および/または炭素−炭素二重結合を有し、フッ素を含有しない化合物であってよい。架橋性単量体(c)は、少なくとも2つの炭素−炭素二重結合を有する化合物、あるいは少なくとも1つの炭素−炭素二重結合および少なくとも1つの反応性基を有する化合物であってよい。反応性基の例は、ヒドロキシル基、エポキシ基、クロロメチル基、ブロックドイソシアネート、アミノ基、カルボキシル基、などである。
【0019】
架橋性単量体(c)としては、例えば、ジアセトンアクリルアミド、(メタ)アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ブタジエン、クロロプレン、グリシジル(メタ)アクリレートなどが例示されるが、これらに限定されるものでない。
【0020】
単量体(b)および/または単量体(c)を共重合させることにより、撥水撥油性や防汚性およびこれらの性能の耐クリーニング性、耐洗濯性、溶剤への溶解性、硬さ、感触などの種々の性質を必要に応じて改善することができる。
含フッ素重合体において、含フッ素単量体(a)100重量部に対して、フッ素原子を含まない単量体(b)の量が0.1〜100重量部、例えば0.1〜50重量部であり、架橋性単量体(c)の量が50重量部以下、例えば20重量部以下、特に0.1〜15重量部であってよい。
【0021】
重合体は、50000〜3000、例えば30000〜3000の重量平均分子量(Mw)、30000〜1000、例えば20000〜10000の数平均分子量(Mn)、4.0〜1.0、例えば2.0〜1.0の分子量分散度(Mw/Mn)を有していてよい。本発明によれば、溶液重合に比較して分子量が大きい重合体が得られる。
本発明において、高圧流体とは、大気圧(0.1MPa)よりも高い圧力、例えば102kPa以上の圧力を有する流体を意味する。高圧流体の圧力は、2MPa以上であることが好ましい。高圧流体の圧力は、一般に690MPa以下、特に100MPa以下である。
【0022】
高圧流体は、超臨界流体であることが好ましい。「超臨界流体」とは、臨界点よりも高い温度および圧力を有する流体を意味する。超臨界流体は、臨界温度(すなわち、圧力をさらに加えても液相に凝縮することのできない温度)を越えている温度を有する。高圧流体は、反応系外に排出された場合に、大気を汚染せず、動物、特に人間および植物に対して無毒であるものであることが好ましい。好ましい高圧流体は、二酸化炭素、ガス状のフッ素化されていてもされていなくてもどちらでもよい炭化水素[例えば、ヒドロフルオロカーボン(HFC)、パーフルオロカーボン(例えば、パーフルオロプロパンおよびパーフルオロシクロブタン)および炭化水素]、多原子気体(polyatomic gases)、希ガス、およびこれらの混合物が挙げられる。「ガス(状)」とは、STP(0℃および1気圧)において気体であることを意味する。多原子気体の例は、SF6、NH3、N2OおよびCOである。特に好ましい高圧流体は、二酸化炭素、ガス状のフッ素化炭化水素(特に、ヒドロフルオロカーボンおよびパーフルオロカーボン)である。
【0023】
フッ素化されていてもされていなくてもどちらでもよい炭化水素は、炭素数1〜5、特に1〜3であることが好ましい。フッ素化炭化水素の例は、テトラフルオロメタン(R14)、トリフルオロメタン(R23)、ジフルオロメタン(R32)、1,1,1,2,2,2−ヘキサフルオロエタン(R116)、1,1,2,2,2−ペンタフルオロエタン(R125)、1,1,1,2−テトラフルオロエタン(R134a)、1,1,1−トリフルオロエタン(R143a)、1,1−ジフルオロエタン(R152a)およびこれらの混合物である。
高圧流体の量は、単量体100重量部に対して、3000〜10重量部、例えば1000〜100重量部であってよい。
【0024】
含フッ素重合体は以下のようにして製造することができる。
オートクレーブに、単量体および高圧流体を仕込み、重合開始剤の存在下で、1〜10時間、撹拌して重合させる方法が採用される。必要により、有機溶剤(例えば、水溶性有機溶剤)および/または水を仕込んで、高圧流体と有機溶剤および/または水との組み合わせを媒体としてもよい。反応において、温度は、100〜0℃、特に30〜80℃、圧力は102kPa〜690MPa、特に790kPa〜100MPaであってよい。
【0025】
重合開始剤は、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、t−ブチルパーベンゾエート、1−ヒドロキシシクロヘキシルヒドロ過酸化物、3−カルボキシプロピオニル過酸化物、過酸化アセチル、アゾビスイソブチルアミジン−二塩酸塩、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの水溶性のものやアゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキシド、ラウリルパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド、t−ブチルパーオキシピバレート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネートなどの油溶性のものが用いられる。重合開始剤は単量体100重量部に対して、0.01〜10重量部の範囲の量で用いられる。
水溶性有機溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、エタノールなどが挙げられる。有機溶剤は、高圧流体100重量部に対して、1〜50重量部、例えば10〜40重量部の範囲で用いてよい。媒体として高圧流体とともに用いる水の量は、高圧流体100重量部に対して、0.1〜50重量部、例えば0.5〜10重量部の範囲であってよい。
【0026】
図1は、本発明の含フッ素重合体の製造方法に使用する装置の概略図である。
1は流体ボンベであり、冷却器2でガス(すなわち、高圧流体)を冷却することで液化させ、ポンプ3で重合容器5に仕込む。重合容器5には予め、モノマーを仕込んでおく。容器5はヒータ7によって加熱され、仕込み量に応じた圧力に到達する。設定圧力になるように、流体を仕込み、平衡状態になるまで、保持する。その後、開始剤を開始剤容器21からポンプ22で重合容器5に所定量仕込み、重合を開始する。
所定時間重合させた後、反応終了後、自動背圧弁によって、徐々に脱圧し、最終的に容器内を大気圧まで戻す。重合物は圧力が高い段階では、回収装置側に移動するが、圧力が低くなると、重合槽に析出する。最終的に全ての回収物をまとめて評価する。
装置は、流体(CO)ボンベ1、冷却器2、ポンプ3、流体供給ライン4、重合容器5、サンプル(単量体および高圧流体)6、ヒータ7、撹拌翼8、流体取出ライン9、フィルター10、自動背圧弁11、重合物および未反応物回収物12および13、第1回収容器14、回収ライン15、第2回収容器16、氷浴17、流量計18、流体排出ライン19、重合物回収ライン20、開始剤容器21、ポンプ22、開始剤供給ライン23、圧力計P、温度計Tおよび重量計Wを有する。
【0027】
表面処理剤は、含フッ素重合体および媒体(例えば、高圧流体、あるいは有機溶剤および水などの液状媒体)を含んでなる。表面処理剤において、含フッ素共重合体の濃度は、例えば、0.01〜50重量%であってよい。含フッ素重合体が撥水撥油剤および防汚加工剤として機能し、被処理物の表面に含フッ素重合体を付着させる処理により被処理物に優れた撥水撥油性、防汚性および染み付着防止性が付与される
【0028】
重合により得られた重合混合物をそのまま表面処理剤として用いることができる。オートクレーブの中で、重合混合物を被処理物(例えば、繊維製品)と接触させる。オートクレーブにおける温度および圧力は、0〜100℃、特に30〜80℃、および3MPa〜100MPa、特に10MPa〜50MPaであってよい。接触時間は、0.1〜48時間、例えば1〜24時間であってよい。重合混合物を流動させること(例えば、攪拌する)ことができる。重合混合物が高圧流体を含んでいることによって、高圧流体中に重合物が溶解しているもの(ガス状態)は、拡散係数は高圧流体とほぼ等しいため、複雑な表面に対しても処理できるという利点がある。一方、高圧流体が重合物に溶解しているもの(液体)は流体が重合物に溶解することで、粘性が低下することより、表面処理が容易になるという優れた効果が得られる。重合混合物における含フッ素重合体の量が、被処理物100重量部に対して、0.1〜100重量部であってよい。
【0029】
超臨界流体を含む重合混合物を、溶液、エマルションまたはエアゾールの形態に変換してもよい。変換は、高圧流体除去後に有機溶剤添加ことによって、あるいは重合混合物に水または有機溶剤を添加の後に高圧流体を除去することによって行える。溶液は、高圧流体ではない有機溶剤に含フッ素重合体を溶解した溶液である。エマルションは、主として、水(および必要に応じて上記のような水溶性有機溶剤)に分散したものである。
【0030】
本発明の表面処理剤(すなわち、高圧流体を含む表面処理剤、あるいは有機溶剤および水などの液状媒体を含む表面処理剤)は、従来既知の方法により被処理物に適用することができる。通常、該表面処理剤を有機溶剤または水に分散して希釈して、浸漬塗布、スプレー塗布、泡塗布などのような既知の方法により、被処理物の表面に付着させ、乾燥する方法が採られる。また、必要ならば、適当な架橋剤と共に適用し、キュアリングを行ってもよい。さらに、本発明の表面処理剤に他の表面処理剤(例えば、撥水剤や撥油剤)あるいは、防虫剤、柔軟剤、抗菌剤、難燃剤、帯電防止剤、塗料定着剤、防シワ剤などを添加して併用することも可能である。浸漬塗布の場合、浸漬液における含フッ素重合体の濃度は0.05〜10重量%であってよい。スプレー塗布の場合、処理液における含フッ素重合体の濃度は0.1〜5重量%であってよい。ステインブロッカーを併用してもよい。ステインブロッカーを使用する場合には、アニオン性またはノニオン性乳化剤を使用することが好ましい。
【0031】
本発明の表面処理剤(例えば、撥水撥油剤)で処理される被処理物としては、繊維製品、石材、フィルター(例えば、静電フィルター)、防塵マスク、燃料電池の部品(例えば、ガス拡散電極およびガス拡散支持体)、ガラス、紙、木、皮革、毛皮、石綿、レンガ、セメント、金属および酸化物、窯業製品、プラスチック、塗面、およびプラスターなどを挙げることができる。繊維製品は、特にカーペットであってよい。繊維製品としては種々の例を挙げることができる。例えば、綿、麻、羊毛、絹などの動植物性天然繊維、ポリアミド、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレンなどの合成繊維、レーヨン、アセテートなどの半合成繊維、ガラス繊維、炭素繊維、アスベスト繊維などの無機繊維、あるいはこれらの混合繊維が挙げられる。本発明の加工剤は、洗剤溶液、ブラッシング(機械的)に対する抵抗性に優れるので、ナイロン、ポリプロピレンのカーペットに対して好適に使用できる。
【0032】
繊維製品は、繊維、布等の形態のいずれであってもよい。本発明の表面処理剤でカーペットを処理する場合に、繊維または糸を表面処理剤で処理した後にカーペットを形成してもよいし、あるいは形成されたカーペットを表面処理剤で処理してもよい。
本発明の表面処理剤は、内部離型剤あるいは外部離型剤としても使用できる。
【実施例】
【0033】
以下に実施例を示し、本発明について具体的に説明するが、実施例が本発明を限定するものではない。
【0034】
シャワー撥水試験
シャワー撥水性は、JIS-L-1092のスプレー法による撥水性No.(下記表1参照)を持って表す。
【表1】

【0035】
撥水性試験
処理済試験布を温度21℃、湿度65%の恒温恒湿機に4時間以上保管する。試験液(イソプロピルアルコール(IPA)、水、及びその混合液、表2に示す)も温度21℃で保存したものを使用する。試験は温度21℃、湿度65%の恒温恒湿室で行う。試験液を試験布上に 0.05ml静かに滴下し、30秒間放置後、液滴が試験布上に残っていれば、その試験液をパスしたものとする。撥水性は、パスした試験液のイソプロピルアルコール(IPA)含量(体積%)の最大なものをその点数とし、撥水性不良なものから良好なレベルまでFail、0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、及び10の12段階で評価する。
【0036】
【表2】

【0037】
撥油性試験
処理済試験布を温度21℃、湿度65%の恒温恒湿機に4時間以上保管する。試験液(表3に示す)も温度21℃で保存したものを使用する。試験は温度21℃、湿度65%の恒温恒湿室で行う。試験布上に 0.05ml静かに滴下し、30秒間放置後、液滴が試験布上に残っていれば、その試験液をパスしたものとする。撥油性は、パスした試験液の最高点数とし、撥油性不良なものから良好なレベルまでFail、1、2、3、4、5、6、7、及び8の9段階で評価する
【0038】
【表3】

【0039】
以下のように、ポリマーを合成した。
製造例1
SC 9F-SFCLAポリマー
200mlの重合槽に9F-SFCLAモノマー(2-Propenoic acid, 2-chloro-3,3,4,4,5,5,6,6,6-nonafluorohexyl ester):
C4C9CH2CH2O-C(=O)-C(Cl)=CH2
12gを入れ、蓋を閉めた。冷却器を通してCOを液体とした後、ポンプで重量計を見ながら、室温において重合槽に80g入れた。重合槽温度を60℃に設定し、その温度に到達したことを確認し、圧力が15MPaになるまで、CO2を投入した。開始剤であるパーブチルPVをモノマーに対して1.5wt%になるように、パーブチルPVの50wt%メタノール溶液をポンプで仕込み、重合を開始した。4hr経過後、COを抜き、脱圧させることで重合を停止させた。抜き出し側には回収槽を置き、COに溶解した重合物を回収した。さらに、重合槽に残存した重合物を回収した。
ポリマーの同定は1H-NMR、19F-NMR、13C-NMRで行った。重合体は9F-SFCLAのホモポリマーであった。分子量測定結果を表4に示す。
【0040】
比較製造例1
9F-SFCLAポリマー
100ml 4つ口フラスコに9F-SFCLAモノマー(2-Propenoic acid, 2-chloro-3,3,4,4,5,5,6,6,6-nonafluorohexyl ester) 10g (0.028mol)とテトラクロロヘキサフルオロブタン(ダイキン工業社製S-316)80.95gを仕込んで30分間溶液中の窒素バブリング後、気相中の窒素置換を30分行った。内温を60℃に昇温後、トリクロロエタン 5.24gに溶かしたパーブチルPV 1.08g (0.062mol)を添加し、6時間反応させた。反応の工程管理はガスクロで行い、モノマーピークの消失を確認して反応終了とした。反応終了後、重合上がり溶液にメタノールを加えて析出した白色の沈殿物について減圧ろ過を行い、真空デシケーターで乾燥して白色粉体の化合物8.17g(ポリマー収率81.77%)を得た。
ポリマーの同定は1H-NMR、19F-NMR、13C-NMRで行った。重合体は9F-SFCLAのホモポリマーであった。分子量測定結果を表4に示す。
【0041】
比較製造例2
SC 9F-SFAポリマー
200mlの重合槽に2-(パーフルオロブチル)エチルアクリレート(9F-Alc/AA) (ダイキン化成品販売(株)製R-1420)12gを入れ、蓋を閉めた。COを冷却器を通して液体とした後、ポンプで重量計を見ながら、室温において重合槽に80g入れた。重合槽温度を60℃に設定し、その温度に到達したことを確認し、圧力が15MPaになるまで、CO2を投入した。開始剤であるパーブチルPVをモノマーに対して1.5wt%になるように、パーブチルPVの50wt%メタノール溶液をポンプで仕込み、重合を開始した。4hr経過後、COを抜き、脱圧させることで重合を停止させた。抜き出し側には回収槽を置き、COに溶解した重合物を回収した。さらに、重合槽に残存した重合物を回収した。 ポリマーの同定は1H-NMR、19F-NMR、13C-NMRで行った。重合体は9F-Alc/AAのホモポリマーであった。分子量測定結果を表4に示す。
【0042】
比較製造例3
9FAホモポリマー
200mL 4つ口フラスコに2-(パーフルオロブチル)エチルアクリレート(9F-Alc/AA) (ダイキン化成品販売(株)製R-1420) 15g (0.047mol) とテトラクロロヘキサフルオロブタン121gを仕込んで30分間溶液中の窒素バブリング後、気相中の窒素置換を30分行った。内温を60℃に昇温後、トリクロロエタン7.86gに溶かしたパーブチルPV 1.61g (0.0092mol) を添加し、5.5時間反応させた。反応の工程管理はガスクロマトグラフィーで行い、モノマーピーク消失を確認して反応終了とした。反応終了後、重合上がり溶液にメタノールを加えると沈殿した白色水あめ状沈殿物が析出した。デカンテーションにより上澄み液を取り除き、沈殿物をエバポレーターにかけて溶媒を除去すると、非常に粘度の高い透明な液状物質9.36g (ポリマー収率82%) が得られた。重合体は9F-Alc/AAのホモポリマーであった。分子量測定結果を表4に示す。
【0043】
実施例1
製造例1で得られたポリマー1.5gをHCFC-225 150gに溶解し、試験溶液を調製した。この試験溶液150gにナイロン試験布(510mm×205mm)×1枚を浸漬(約5分間)後、遠心脱水機で脱溶媒(500rpm, 20秒間)を行った。同じ操作をPET試験布(510mm×205mm)×1枚、PET/綿混紡試験布(510mm×205mm)×1枚について行った。その後夫々の試験布を28℃で一晩乾燥した。
次に、ナイロン試験布、PET試験布、PET/綿試験布を夫々一枚ずつ、ピンテンターで150℃処理(3分間)を行い、その後夫々の試験布を半分に切断し(255mm×205mm)、一方をシャワー撥水試験に使用し、残りを撥水試験、撥油試験に使用した。試験結果を表5に示す。
【0044】
比較例1
比較製造例1で得られたポリマーを実施例1と同様に処理後、シャワー撥水試験、撥水試験、撥油試験をおこなった。試験結果を表5に示す
比較例2
比較製造例2で得られたポリマーを実施例1と同様に処理後、シャワー撥水試験、撥水試験、撥油試験をおこなった。試験結果を表5に示す。
【0045】
比較例3
比較製造例3で得られたポリマーを実施例1と同様に処理後、シャワー撥水試験、撥水試験、撥油試験をおこなった。試験結果を表5に示す。
【0046】
【表4】


【0047】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の含フッ素重合体の製造方法に使用する装置の概略図を示す。
【符号の説明】
【0049】
1 流体(CO)ボンベ
2 冷却器
3 ポンプ
4 流体供給ライン
5 重合容器
6 サンプル
7 ヒータ
8 撹拌翼
9 流体取出ライン
10 フィルター
11 自動背圧弁
12、13 重合物、未反応物回収物
14 第1回収容器
15 回収ライン
16 第2回収容器
17 氷浴
18 流量計
19 流体排出ライン
20 重合物回収ライン
21 開始剤容器
22 ポンプ
23 開始剤供給ライン
P 圧力計
T 温度計
W 重量計





【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数1〜6のフルオロアルキル基を有し、α位の水素原子が置換されている含フッ素アクリレートを含んでなる単量体を高圧流体中で重合することからなる含フッ素重合体の製造方法。
【請求項2】
高圧流体が超臨界流体である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
高圧流体が、二酸化炭素、ガス状のフッ素化されていてもされていなくてもどちらでもよい炭化水素、多原子気体(polyatomic gases)、希ガス、およびこれらの混合物からなる群から選択されたものである請求項1に記載の方法。
【請求項4】
高圧流体が二酸化炭素である請求項1に記載の方法。
【請求項5】
高圧流体が、炭素数1〜5のフッ素化炭化水素である請求項4に記載の方法。
【請求項6】
フッ素化炭化水素が、テトラフルオロメタン(R14)、トリフルオロメタン(R23)、ジフルオロメタン(R32)、1,1,1,2,2,2−ヘキサフルオロエタン(R116)、1,1,2,2,2−ペンタフルオロエタン(R125)、1,1,1,2−テトラフルオロエタン(R134a)、1,1,1−トリフルオロエタン(R143a)、1,1−ジフルオロエタン(R152a)およびこれらの混合物からなる群から選択されたものである請求項5に記載の方法。
【請求項7】
高圧流体が、温度0〜100℃および圧力102kPa〜690MPaを有する請求項1に記載の方法。
【請求項8】
単量体が、含フッ素アクリレートのみからなる請求項1に記載の方法。
【請求項9】
単量体が、含フッ素アクリレートに加えて、含フッ素アクリレート以外の単量体をも含有する請求項1に記載の方法。
【請求項10】
単量体が、
(a)式:

[式中、Xは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、CFX12基(但し、X1およびX2は、水素原子、フッ素原子または塩素原子である。)、シアノ基、炭素数1〜20の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基、置換または非置換のベンジル基、置換または非置換のフェニル基、
Yは、炭素数1〜10の脂肪族基、炭素数6〜10の芳香族基または環状脂肪族基、−CH2CH2N(R1)SO2−基(但し、R1は炭素数1〜4のアルキル基である。)または−CH2CH(OY1)CH2−基(但し、Y1は水素原子またはアセチル基である。)、
Rfは炭素数1〜6の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基である。]
で示される含フッ素アクリレート、
(b)フッ素原子を含まない単量体、および
(c)必要により存在する、架橋性単量体
から成る請求項9に記載の方法。
【請求項11】
(1)炭素数1〜6のフルオロアルキル基を有し、α位の水素原子が置換されている含フッ素アクリレートを含んでなる単量体、
(2)重合開始剤、および
(3)高圧流体
を含んでなる重合用組成物。
【請求項12】
請求項1に記載の方法によって製造された含フッ素重合体。
【請求項13】
請求項1に記載の方法によって製造された含フッ素重合体および高圧流体を含む重合混合物を繊維製品と接触させることを特徴とする繊維製品の処理方法。
【請求項14】
含フッ素重合体が撥水撥油剤として機能し、繊維製品の処理により繊維製品に撥水撥油性が付与される請求項13に記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−219586(P2006−219586A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−34297(P2005−34297)
【出願日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】