説明

含塩有機物を用いた蒸気吸放出材料

【課題】 優れた蒸気吸放出能力を有する材料を提供すること。
【解決手段】 含塩有機物を300〜1000℃の温度で焼成して得られる炭化物、あるいは、得られた炭化物をさらに、100〜1000℃の温度で活性化処理することにより得られる活性炭化物、さらに得られた炭化物あるいは活性炭化物に添加剤を配合し、さらに300〜1000℃の温度で活性化処理して得られる炭化物を蒸気吸放出材料として利用する。これらの炭化物は、所望の形状に成形される。この蒸気吸放出材料は、市販のシリカゲルや木炭などに比べると、非常に高い調湿能を有しており、自重と同量またはそれ以上の水蒸気を吸放出できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水、有機溶媒などの蒸気を吸収および放出する材料に関する。さらに詳しくは、含塩有機物の炭化物を用いた蒸気吸放出材料に関する。
【背景技術】
【0002】
蒸気吸放出材料は、例えば水蒸気などの蒸気を吸放出する特性を有しており、冷暖房装置用のヒートポンプ用吸着剤、湿度調整用吸着剤などとして利用されている。このような蒸気吸放出材料としては、金属塩あるいは表面に細孔を有する多孔体が知られている。
【0003】
細孔を有する金属あるいは金属酸化物を蒸気吸放出材として利用する試みが多くなされている。例えば、特許文献1には、層状のシリカ多孔体あるいは層状のシリカ金属酸化物多孔体が記載されている。この多孔体は、湿度90%時の蒸気吸着量(W90)から湿度50%時の蒸気吸着量(W50)を差し引いた値(W90−W50)が、自重の50%を示す。このことは、自重の50%の水蒸気を吸放出できることを示しており、木炭などに比べると、高い値である。そのため、調湿材料としては優れている。しかし、製造コストが高く、利用されにくい。また、特許文献2には、所定の大きさの細孔を有するメソ多孔体の細孔に塩化ナトリウムなどの金属塩を添着させた蒸気吸放出材が記載されている。この蒸気吸放出材は、W90−W50の値が自重の数%程度と低いため、調湿材よりは、吸湿材としての用途が適している上、製造工程が複雑であり、製造コストが高い。特許文献3は、ケイ素化合物溶液とアルミニウム化合物あるいは遷移金属化合物溶液とを混合し、水熱合成することにより得られる調湿材料を記載している。この調湿材料のW90−W50の値は自重の55%であり、その能力は比較的高いが、製造コストが高くなり、汎用性があるとはいえない。このように、金属あるいは金属酸化物を用いる蒸気吸放出材は、製造工程、製造コストに問題がある。
【0004】
他方、木炭を始めとする炭化物も細孔を有するため、蒸気吸放出材料として検討されている。特許文献4には、木材チップを原形のまま炭化させた床下調湿材が記載されている。そして、非特許文献1には、木炭の水蒸気に対する調湿能力について、記載がある。それによると、木炭は、湿度が低いときにはあまり水蒸気を吸着しない。その理由は、木炭表面が疎水性であり、水蒸気との親和性が低いことにある。木炭は湿度が40〜50%になると吸着量が急激に増加し、湿度が90%程度になると、吸着量の増加が鈍くなり、一定値に近づく。非特許文献1には、木炭の調湿能(W90−W55)の記載があり、木炭の場合は、調湿能は、2〜3%程度であり、活性炭になると、15〜45%程度であることが示されている。そのため、特許文献5には、木炭を活性炭化する試みが記載されている。
【0005】
ところで、木炭はもろく、扱いにくいため、これを他の材料と組み合わせて調湿材料とする試みがなされている。例えば、特許文献6には、木炭(炭材)、多孔質材および接着剤を混合して建材用のパネルあるいはシートに成形することが記載されている。この材料はもっぱらアルデヒド類の吸着に使用されており、汎用性に乏しい。また、特許文献7には、粉粒炭(例えば、木炭、パルプスラッジ、コーヒー、おから、食物など食品廃棄物炭)と不燃性調湿材(例えば、セピオライト、ゼオライトなど)との造粒物からなる調湿材が記載されている。しかし、その調湿能力は低く、実用的ではない。
【特許文献1】特開平6−304437号公報
【特許文献2】特開平11−11410号公報
【特許文献3】特開2002−95926号公報
【特許文献4】特開平4−124343号公報
【特許文献5】特開2000−226207号公報
【特許文献6】特開平10−305226号公報
【特許文献7】特開2000−325733号公報
【非特許文献1】「炭の力」 2001年、No.8、18〜22頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、蒸気吸放出能力が改良された炭化物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、含塩有機物の炭化物を含有する蒸気吸放出材料を提供する。
【0008】
一つの実施態様では、上記含塩有機物の炭化物が含塩有機物を300〜1000℃の温度で焼成して得られる炭化物である。
【0009】
また、別の実施態様では、上記含塩有機物の炭化物が含塩有機物を100〜1000℃の温度で焼成して得られる炭化物を、さらに300〜1000℃の温度で活性化処理して得られる炭化物である。
【0010】
さらに、別の実施態様では、上記含塩有機物が醤油粕、塩昆布廃棄物、佃煮廃棄物、味噌廃棄物、スープ、出し汁、漬物、都市厨芥、および調理屑からなる群から選択される少なくとも一つの廃棄物である。
【0011】
異なる実施態様では、上記含塩有機物が醤油粕である。
【0012】
さらに異なる実施態様では、蒸気吸放出材料が添加剤を含有する。
【0013】
別の実施態様では、蒸気吸放出材料が成形されている。
【0014】
さらに別の実施態様では、蒸気吸放出材料は、成形後、さらに300〜1000℃の温度で活性化処理して得られる。
【0015】
また、異なる実施態様では、上記添加剤が、上記含塩有機物の炭化物1質量部に対して、0.05〜10質量部の割合で添加される。
【0016】
さらに別の実施態様では、自重と同量またはそれ以上の水蒸気を吸放出し得る。
【発明の効果】
【0017】
本発明の含塩有機物の炭化物を含有する蒸気吸放出材料は、水蒸気の場合、自重と同程度またはそれ以上の吸放出能力を有している。これは、市販のシリカゲルの3倍の吸放出能力に相当する。そのため、冷暖房装置の吸着ヒートポンプ用吸着剤、湿度調節用吸着剤(調湿剤)として非常に優れている。さらに、この含塩有機物の炭化物は、蒸気吸放出材料に用いられる添加剤との親和性がよいため、種々の形状に成形可能である。さらに、炭自体が有する有機溶媒などの有害物質吸収能力も期待できる。また、含まれている塩分により、木炭以上の抗菌・抗蟻作用がある。そのため、この炭化物の微粉末に添加物を加えて木材に塗布すれば防菌・防黴・防蟻効果も得られる。また、衣類や不織布などの繊維に混ぜ込むあるいは含浸させることにより、脱臭抗菌衣類あるいは床下、押入れの下敷きマットに活用できる。そのため、日用雑貨品、住宅建材、室内インテリアなどに利用できる。本発明の蒸気吸放出材料は、不要となった場合には、熱源として利用できるため、有機性廃棄物の再利用(マテリアルリサイクル)と熱源としての再利用(サーマルリサイクル)が可能であり、2回資源を利用できるという効果を奏する。石膏ボードも発電所などからの再利用品(マテリアルリサイクル)であるが、熱利用ができないため、処理ができず、増え続けるという問題がある。これに対して、含塩有機物の炭化物を含有する蒸気吸放出材料は、熱源として再利用(サーマルリサイクル)が可能であり、かつカーボンニュートラルであるため、二酸化炭素排出抑制という効果も奏する点で、優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
A:含塩有機物
(含塩有機物)
本明細書において、含塩有機物とは、塩分を含有する有機性物質をいう。例えば、塩分(食塩)を含有する食品(例えば、味噌、醤油、塩辛、塩昆布など)、塩分を含有する有機性廃棄物(以下、「含塩有機性廃棄物」あるいは、単に「含塩廃棄物」ということがある)などが挙げられるが、これらに制限されない。資源の有効利用という観点からは、含塩有機性廃棄物が好ましく用いられる。含塩有機物は、有価物として購入する、無償で入手する、お金を貰って入手する(逆有償購入)などの方法で入手できる。あるいは、これらの方法を組み合わせて入手してもよい。
【0019】
含塩有機性廃棄物としては、例えば、都市ごみ、下水汚泥、集落排水汚泥、し尿汚泥、家畜糞尿、食品廃棄物がある。家畜糞尿としては、例えば、牛糞、豚糞、鶏糞などがある。食品廃棄物としては、例えば、醤油の製造過程で生じる醤油の絞り粕(醤油粕)、塩昆布廃棄物、佃煮廃棄物、味噌廃棄物、スープ、出し汁、漬物、調理屑などが例示される。これらの含塩廃棄物は、単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。含塩廃棄物は、炭化物としたときの塩分濃度を考慮して、組み合わせて用いてもよい。例えば、塩分濃度が比較的低い都市ごみ、下水汚泥、集落排水汚泥、し尿汚泥、家畜糞尿、調理屑などを用いる場合は、塩分濃度が比較的高い醤油粕、塩昆布廃棄物、佃煮廃棄物、あるいは味噌廃棄物、または食塩などを混合して用いてもよい。含塩廃棄物を混合物として用いる場合、そのまま炭化処理に用いてもよい。炭化物中に食塩を均一に分散させるために、例えば、ミキサーなどで混合し、均一にしてから焼成することが、より好ましい。
【0020】
B.含塩有機物の炭化物およびその製法
含塩有機物(例えば、含塩廃棄物)の炭化物は、後述する含塩有機物の一次処理で得られた炭化物、および一次処理で得られた炭化物をさらに処理(二次処理)して得られる活性炭化物、並びに含塩有機物を薬品賦活法で処理して得られる活性炭化物など、種々の方法で得られる炭化物が含まれる。含塩炭化物は、粉末であることが好ましい。あるいは、粉末の含塩炭化物を種々の形状に成型したものを用いてもよい。含塩炭化物を粉末にする方法は、当業者に周知の炭化物の粉末化方法が適用される。
【0021】
(一次処理)
含塩有機物の炭化(一次処理)は、含塩有機物を好ましくは100〜1000℃、より好ましくは650〜850℃の温度で焼成することにより、行われる。100℃未満では、この含塩炭化物を含む発熱性混合物の発熱特性が悪くなる傾向にあり、1000℃を超えると炭化物中の食塩が揮発するおそれがある。得られた含塩炭化物は粉末としてもよい。
【0022】
一次処理で得られた含塩炭化物中には、通常、10〜50質量%の食塩が均一に分散された状態で含まれる。この含塩炭化物の比表面積は、用いる含塩有機物によっても異なるが、一般的には、約1m/g〜60m/gの範囲にある場合が多い。
【0023】
(二次処理)
二次処理は、上記一次処理で得られた含塩炭化物にさらに活性化処理を行う処理である。活性化処理には、大きくガス賦活法と薬品賦活法とがある。どちらの方法を用いてもよい。ガス賦活法は、炭化された原料に、水蒸気、二酸化炭素、酸素(空気)、これらのガスと燃焼ガスとの混合ガス、燃焼ガスなどを高温で接触反応させる方法である。本発明においては、一次処理して得られた含塩炭化物に、例えば、水蒸気、空気(酸素)、二酸化炭素などを添加しながら600〜1000℃、好ましくは800〜900℃の温度で処理する方法(ガス賦活法)を用いて、行われる。あるいは、含塩有機物を、例えば、一次処理を300〜500℃の温度で行い、得られた炭化物を二次処理してもよい。二次処理の温度が600℃未満では炭化物の活性化が不十分となる場合があり、1000℃を超えると活性炭化物中の食塩が揮発するおそれがある。
【0024】
二次処理で得られる活性炭化物中には、通常、10〜50質量%の食塩が均一に分散された状態で含まれる。活性炭化物の比表面積は、用いる含塩有機物によっても異なるが、一般的には、約100m/g〜300m/gの範囲にある場合が多く、これは一次処理のみの炭化物の5〜100倍の比表面積である。また、二次処理を行うことで、炭化物の均質化、表面洗浄効果もあることから、活性炭化物が、好ましく用いられる場合がある。
【0025】
(薬品賦活法)
薬品賦活法は、原料に賦活薬品を均等に含浸させて、不活性ガス雰囲気中で加熱(焼成)し、薬品による脱水および酸化反応により、活性炭化する方法である。賦活薬品としては、塩化亜鉛、リン酸、塩化カルシウム、硫化カルシウム、水酸化カリウムなどの脱水性、酸化性あるいは侵食性を有する化合物が挙げられる。最も好ましくは、塩化亜鉛である。薬品賦活法によって含塩有機物の活性炭化物を得る方法は、例えば、100〜200℃で数時間乾燥した含塩有機物に、上記記載の賦活薬品(例えば、塩化亜鉛)の飽和水溶液を添加、混合し、賦活薬品を含塩有機物に含浸させ、さらに不活性ガス雰囲気中で100〜200℃で数時間乾燥(焼成)させる方法である。薬剤賦活法における賦活薬品と乾燥含塩有機物との質量比(賦活薬品含浸質量/乾燥含塩有機物質量)は、使用する賦活薬品および含塩有機物により異なるが、一般的には、0.5〜5であり、好ましくは、1〜4である。なお、質量比は以下の式で表される。
【0026】
質量比=(Y−X)/X
X:賦活薬品を含浸する前の含塩有機物の乾燥質量
Y:賦活薬品を含浸した後の含塩有機物の乾燥質量
【0027】
賦活薬品として塩化亜鉛を用いる場合、含塩有機物を110℃で乾燥し、塩化亜鉛を含浸させた後、約110℃で乾燥させることが好ましい。塩化亜鉛の質量比は約3であることが好ましい。
【0028】
この薬品賦活化法で処理して得られた含塩炭化物は、賦活薬品による脱水および酸化反応により、微細な多孔質を有しており、比表面積が大きくなるため、本発明における含塩炭化物として、好適に用いられる。薬品賦活化した炭化物を、さらに、300〜1000℃の温度で、活性化処理(二次処理)してもよい。この処理により、さらに活性炭としての機能が向上する。二次処理の温度が300℃未満では活性炭化物の活性化が不十分となるおそれがあり、1000℃を超えると、活性炭化物中の食塩が揮発する恐れがある。
【0029】
炭化処理(一次処理および二次処理)あるいは薬品賦活処理に用いる方法に特に制限はなく、バッチ処理でもよく、連続処理でもよい。炭化処理装置としては、バッチ炉、キルン型処理装置、流動層型処理装置、スクリュー型処理装置など、その装置は問わない。
【0030】
C.蒸気吸放出材料
得られた含塩炭化物は、そのまま、本発明の蒸気吸放出材料として用いられる。例えば、通気性を有する容器、袋などに収容して、蒸気吸放出材料として、さらに、調湿用品、脱臭用品、有害物質除去用品などに利用される。そして、炭化物を、添加剤を用いて所望の形状に成形し、必要に応じてさらに上記二次処理と同様の処理(例えば、活性化処理)を行って、蒸気吸放出材料として、調湿用品、脱臭用品、有害物質除去用品などに利用してもよい。なお、「含塩有機物の炭化物を含有する」とは、「含塩有機物の炭化物からなる」場合を包含する。
【0031】
(含塩炭化物の成形)
含塩炭化物は、また、種々の添加物を組み合わせて、用途に応じて、所望の形状に成形することができる。本発明に用いる添加剤として、無機系添加剤、有機系添加剤などが挙げられる。添加剤およびその配合割合は、主に用途に応じた形状への成形あるいは成形物の強度付与を考慮して、決定すればよい。本発明で用いる含塩炭化物は、添加剤との親和性がよいため、成形性に優れている。
【0032】
無機系添加剤としては、石膏あるいはセメントのいずれかを主成分とする水硬化性材料からなる建材;セラミック、発泡セラミックおよびタイルからなる群から選択される少なくとも1つを主成分とする焼成材料建材;ロックウール、スラグウール、グラスウール、およびパルプからなる群から選択される少なくとも1つを主成分とする繊維材料建材;珪藻土、パーライト、および土壁などの建材からなる群から選択される材料;などが挙げられる。
【0033】
有機系添加剤としては、ピッチ、コールタール、クレオソートなどの直鎖あるいは環状炭化物のいずれかを含む石油系材料;植物に由来するバイオマスタール、クレオソートなどの直鎖あるいは環状成分;バイオマスを炭化した炭化物、または炭化物を活性化処理して得られる活性炭化物;でんぷん糊、カルボキシメチルセルロース(CMC)、膠などの水溶性高分子材料;あるいは、これらを組み合わせて得られる材料;などが挙げられる。
【0034】
その他の添加剤として、水道水、純水、超純水、工業用水、蒸留水、イオン交換水が挙げられる。
【0035】
添加剤は、上記のように用途、形状などによって、用いる種類、量などが決定されるが、一般的には、含塩炭化物1質量部に対して、0.05〜10質量部の割合で、好ましくは0.1〜5質量部の割合で添加される。
【0036】
さらに、染料、顔料などを添加しても良く、表面に塗布してもよい。
【0037】
上記含塩炭化物、添加剤などを混合して、所望の形状に成形する。成形方法に特に制限はなく、用いる添加剤の種類や量に応じて、例えば、塗布、熱(加熱あるいは冷却)、加圧、化学反応、磁力、放射線照射、紫外線照射、爆砕、超臨界状態あるいは亜臨界状態などにおける水熱反応などの方法を利用することができる。
【0038】
蒸気吸放出材料の形状に特に制限はなく、用途、使用場所などに応じた形状が選択される。例えば、球状、円柱、円板、円錐、立方体、三角柱、多角柱、多面体、星型、板状、人型、動物型、植物型などが例示されるが、これらに限定されない。これらの成形体の破砕物もまた、利用できる。
【0039】
さらに、蒸気吸放出材料あるいは必要に応じて成形された蒸気吸放出材料と他の部材、例えば建築用材料と積層してもよい。
【0040】
所望の形状に成形された含塩炭化物を含有する成形体は、各種蒸気との接触が妨げられることから、蒸気吸放出能力が低下する場合がある。この場合、さらに、活性化処理を行うことが好ましい。特に、有機系の添加剤を用いた場合、含塩炭化物および添加剤がともに活性化される。
【0041】
さらに、蒸気吸放出材料は、液状でもあり得る。例えば、含塩炭化物と、水および有機溶媒以外の添加剤とを、水あるいは有機溶媒中に分散させ、これを所望の形状の所望の部位に塗布、あるいは含浸させることもできる。例えば、木材上に塗布する、あるいは繊維材料に塗布あるいは含浸させ、乾燥することにより、蒸気吸放出材料としてのみならず、防菌・防黴・防蟻剤として、さらに消臭剤としても使用できる。特に、本発明の蒸気吸放出材料は塩分を高濃度に含んでいるため、防菌・防黴・防蟻剤としても優れている。
【実施例】
【0042】
以下に含塩有機物として醤油粕を用いる実施例について本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0043】
(実施例1:醤油粕炭化物(炭化物A)の調製)
水分を含有する生醤油粕を無酸素条件下、450℃の連続式炭化炉で炭化し、炭化物Aを得た。生醤油粕の処理量は19kg/hであった。炭化物Aの食塩含量は21.7質量%であった。なお、ナトリウム濃度(Na濃度)は、JIS K0102.48.1に基づくフレーム光度法で測定した。塩素濃度(Cl濃度)は、ポンプ燃焼法による塩素濃度とJIS K0102.35.3に基づくイオンクロマトグラフ法による燃焼性塩素濃度の加算値である。醤油粕炭化物中の食塩濃度は、Na濃度とCl濃度を加算した値である。
【0044】
得られた炭化物Aを約0.1g秤量し、120℃で10時間、真空下で脱気を行った。その後、自動蒸気吸着量測定装置(日本ベル製 BELSORP 28)を用いて、25℃における水蒸気の吸着量を相対平衡圧0.95までの範囲(25℃における水の飽和蒸気圧が23.76mmHgであるので、平衡圧が22.57mmHg以下の範囲)で測定した。相対平衡圧が0.95を超えた時点から、水蒸気の脱着量の測定を開始した。吸着過程における相対平衡圧が0.90のときの水蒸気の吸着量(質量:W90)と脱着過程における相対平衡圧が0.55のときの水蒸気の吸着量(質量:W55)との差(W90−W55)を炭化物Aの質量で除した値の百分率を調湿能(%)として評価した。表1に炭化物Aの調湿能を、図1(a)に炭化物Aの吸着等温線および脱着等温線を示す。
【0045】
(実施例2:醤油粕炭化物(炭化物B)の調製)
炭化温度を600℃としたこと以外は調整例1と同様にして、炭化物Bを得た。炭化物Bの食塩含量は28.2質量%であった。
【0046】
炭化物Aの代わりに炭化物Bを用いたこと以外は実施例1と同様にして、炭化物Bの調湿能を求めた。表1に炭化物Bの調湿能を、図1(b)に吸着等温線および脱着等温線を示す。
【0047】
(実施例3:活性化醤油粕炭化物(活性化炭化物C)の調製)
実施例1で調製した炭化物Aを、再度炭化炉に投入し、800℃の温度で、水蒸気を導入して、1時間反応させた。これにより、活性化炭化物Cを得た。活性化炭化物Cの食塩含量は29.4質量%であった。
【0048】
炭化物Aの代わりに活性化炭化物Cを用いたこと以外は実施例1と同様にして、活性化炭化物Cの調湿能を求めた。表1に活性化炭化物Cの調湿能を、図1(c)に吸着等温線および脱着等温線を示す。
【0049】
(実施例4:醤油粕炭化物の成形体(成形体D)の調製)
実施例1で調製した炭化物A1500gに、添加剤としてピッチを450g、クレオソートを75g、水を225g添加、混合した。不二パウダル製ディスクペレッターF−5を用いて、150〜200kg/cmの加圧下で、円柱状に成形して、成形体Dを得た。成形体Dの食塩含量は16.0質量%であった。
【0050】
炭化物Aの代わりに成形体Dを用いたこと以外は実施例1と同様にして、成形体Dの調湿能を求めた。表1に成形体Dの調湿能を、図1(d)に吸着等温線および脱着等温線を示す。
【0051】
(実施例5:活性化成形体(成形体E)の調製)
実施例4で調製した醤油粕炭化物の成形体Dを、再度炭化炉に投入し、800℃の温度で、水蒸気を導入して、1時間反応させた。これにより、活性化成形体Eを得た。活性化成形体Eの食塩含量は35.2質量%であった。
【0052】
炭化物Aの代わりに活性化成形体Eを用いたこと以外は実施例1と同様にして、活性化成形体Eの調湿能を求めた。表1に活性化成形体Eの調湿能を、図1(e)に吸着等温線および脱着等温線を示す。
【0053】
(比較例1〜3)
炭化物Aの代わりに、市販の3種類のシリカゲル(比較例1〜3)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、調湿能を求めた。表1に各シリカゲルの調湿能を、図2(a)〜2(c)に各シリカゲルの吸着等温線および脱着等温線を示す。
【0054】
(比較例4〜5)
炭化物Aの代わりに、市販の備長炭(比較例4)、市販の竹炭(比較例5)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、調湿能を求めた。表1に備長炭および竹炭の調湿能を、図2(d)〜2(e)にそれぞれ備長炭および竹炭の吸着等温線および脱着等温線を示す。
【0055】
【表1】

【0056】
図1(a)からわかるように、炭化物Aは、湿度が上昇するにつれて吸着量が増加し、相対平衡圧(P/P〔-〕)0.9で1759ml/g炭化物A(1.41g/g炭化物A)の水蒸気を吸着した。そして、相対平衡圧0.55では、88ml/g炭化物A(0.7g/g炭化物A)の水蒸気を吸着していた。従って、W90−W55は、1.34g/g炭化物Aであり、調湿能は、134%であった(表1参照)。図1(b)に示す炭化物Bもまた、図1(a)と同様の挙動を示した。炭化物Bの調湿能は133%であった。このことから、塩分を含有する醤油粕炭化物は、自重の1.3倍以上の水蒸気を吸収−放出できることがわかった。
【0057】
これに対して、表1に示すように、市販のシリカゲルの調湿能は6〜46%であり、通常の炭化物(備長炭、竹炭)の調湿能は1〜3%と低かった。この結果は、本願発明の含塩炭化物からなる蒸気吸放出材料は、従来にない、優れた調湿能を有する非常優れた蒸気吸放出材料であることを示している。
【0058】
また、図1(c)に示す活性化炭化物Cは、湿度が上昇するにつれて吸着量が増加し、相対平衡圧0.9で1436ml/g炭化物C(1.15g/g炭化物C)の水蒸気を吸着した。調湿能は105%と、炭化物Aおよび炭化物Bには劣るものの、自重と同程度またはそれ以上の水蒸気を吸着できることがわかった。従って、従来の炭化物よりもはるかに優れた調湿能を有している。
【0059】
図1(d)に示す成形体Dは、炭化物Aに有機系添加剤を添加して成形したものであるが、調湿能は14%と低かった。これは、添加物により、活性炭が水蒸気と接触することを妨げられたことによると考えられる。
【0060】
図1(e)に示す活性化成形体Eは、成形体Dをさらに活性化処理したものである。湿度が上昇するにつれて吸着量が増加し、相対平衡圧0.9で1591ml/g成形体E(1.27g/g成形体E)の水蒸気を吸着した。調湿能は115%と、炭化物Aおよび炭化物Bには劣るものの、自重以上の水蒸気を吸着できることがわかった。従って、従来の炭化物よりもはるかに優れた調湿能を有している。
【0061】
さらに、図1と図2とを比較すると、含塩炭化物を含有する蒸気吸放出材料の吸着等温線および脱着等温線は、相対平衡圧0.7を超えると大きく吸脱着能力が増大するという特徴を有している。このことは、湿度が高いときにのみ、吸脱着が起こることを意味している。従って、必要なときに吸湿するという、非常に効率のよい調湿ができることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の含塩有機物の炭化物を含有する蒸気吸放出材料は、非常に高い蒸気吸放出能力を有しており、市販のシリカゲルの3倍の水蒸気の吸放出能力を有する。そのため、冷暖房装置の吸着ヒートポンプ用吸着剤、湿度調節用吸着剤(調湿剤)として、非常に優れている。さらに炭自体が持つ有機溶媒などの有害物質吸収能力が優れている。本発明の蒸気吸放出材料は、不要となった場合には、熱源として利用できるため、有機性廃棄物の再利用(マテリアルリサイクル)と熱源としての再利用(サーマルリサイクル)が可能であり、2回資源を利用できるので、環境に配慮した蒸気吸放出材料として、産業上有用である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の含塩有機物の炭化物を含有する蒸気吸放出材料の吸着等温線および脱着等温線を示す図である。
【図2】比較例であるシリカゲル(図2(a)〜(c))、備長炭(図2(d))および竹炭(図2(e))の吸着等温線および脱着等温線を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含塩有機物の炭化物を含有する、蒸気吸放出材料。
【請求項2】
前記含塩有機物の炭化物が、含塩有機物を300〜1000℃の温度で焼成して得られる炭化物である、請求項1に記載の蒸気吸放出材料。
【請求項3】
前記含塩有機物の炭化物が、含塩有機物を100〜1000℃の温度で焼成して得られる炭化物を、さらに300〜1000℃の温度で活性化処理して得られる炭化物である、請求項1または2に記載の蒸気吸放出材料。
【請求項4】
前記含塩有機物が醤油粕、塩昆布廃棄物、佃煮廃棄物、味噌廃棄物、スープ、出し汁、漬物、都市厨芥、および調理屑からなる群から選択される少なくとも一つの廃棄物である、請求項1から3のいずれかの項に記載の蒸気吸放出材料。
【請求項5】
前記含塩有機物が醤油粕である、請求項1から4のいずれかの項に記載の蒸気吸放出材料。
【請求項6】
さらに、添加剤を含有する、請求項1から5のいずれかの項に記載の蒸気吸放出材料。
【請求項7】
成形されている、請求項6に記載の蒸気吸放出材料。
【請求項8】
成形後、さらに300〜1000℃の温度で活性化処理して得られる、請求項7に記載の蒸気吸放出材料。
【請求項9】
前記添加剤が、前記含塩有機物の炭化物1質量部に対して0.05〜10質量部の割合で添加される、請求項6から8のいずれかの項に記載の蒸気吸放出材料。
【請求項10】
自重と同量またはそれ以上の水蒸気を吸放出し得る、請求項1から9のいずれかの項に記載の蒸気吸放出材料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−297341(P2006−297341A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−126627(P2005−126627)
【出願日】平成17年4月25日(2005.4.25)
【出願人】(000133032)株式会社タクマ (308)
【Fターム(参考)】