説明

吸気流動制御弁の診断装置

【課題】イオン電流検出回路33によって検出されるイオン電流に基づいて、吸気流動制御弁29の作動状態を精度よく判定する。
【解決手段】エンジン1の燃焼室6内に発生するイオン電流を検出するイオン電流検出手段33と、燃焼室6における点火後にイオン電流検出手段33によって検出された、クランク角の進行に対するイオン電流の波形形状に基づいて、吸気流動制御弁29の作動状態を判定する判定手段30と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸気流動制御弁の診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
吸気通路に配設されて、その開閉作動により燃焼室内の吸気流動を制御する吸気流動制御弁の故障を診断する方法として、従来よりその制御弁の開度を検出するセンサを設け、そのセンサの検出値に基づいて故障診断を行う方法が知られている。
【0003】
また、そうしたセンサを設けることなく吸気流動制御弁の故障診断を行うために、例えば特許文献1には、正トルクの発生期間に基づいて吸気流動制御弁の故障を診断する技術が開示されている。
【特許文献1】特開2006−77637号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、燃焼室内の状態を検出する手段の一つとして、従来より燃焼室内のイオン電流を検出することが知られており、そのイオン電流に基づき燃焼室内の吸気流動強さを検出することによって、吸気流動制御弁の作動状態を判定することが考えられる。そうした場合は、例えば気筒毎に吸気流動制御弁の作動状態を判定することが可能になるといった、前記特許文献に記載された正トルクの発生期間に基づく故障診断では不可能なことが実現する。
【0005】
しかしながら従来、検出されるイオン電流に基づいて吸気流動制御弁の作動状態を精度よく判定する具体的な方法は見出されていなかった。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、イオン電流検出回路によって検出されるイオン電流に基づいて、吸気流動制御弁の作動状態を精度よく判定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者は、前記課題を解決すべく検討した結果、クランク角の進行に対するイオン電流波形の形状と燃焼室内の吸気流動の強さとの間に相関関係が存在することを見出して、本願発明を完成するに至ったものである。
【0008】
すなわち、本発明の一側面によると、吸気流動制御弁の診断装置は、吸気通路に配設されかつ、エンジンの運転状態に応じて開閉制御されることにより燃焼室内の吸気流動を制御する吸気流動制御弁と、前記エンジンの燃焼室内に発生するイオン電流を検出するイオン電流検出手段と、前記燃焼室における点火後に前記イオン電流検出手段によって検出された、クランク角の進行に対するイオン電流の波形形状に基づいて、前記吸気流動制御弁の作動状態を判定する判定手段と、を備える。
【0009】
イオン電流検出手段によって検出されるイオン電流の波形には、例えば図2(b)に示すように、前半及び後半の2つの山が現れる。ここで、前半の山は、主に着火後の火炎面に発生するイオンを媒体とするイオン電流の変化を表すものと考えられる一方、後半の山の示すイオン電流は、燃焼の進行による燃焼室の温度上昇に伴い、既燃ガス中に存在するNOxが熱電離して発生するイオンを媒体とするものと考えられる。よって、吸気流動制御弁が開状態であって吸気流動が弱いときには、燃焼が緩慢になることで、前半の山のピークは相対的に低くなると共に遅角側に移動し、吸気流動制御弁が閉状態であって吸気流動が強いときには、燃焼が活発になることで、前半の山のピークは相対的に高くなると共に進角側に移動する。
【0010】
このように、燃焼室内の吸気流動の強さに応じて、クランク角の進行に対するイオン電流波形の形状は変化することから、その形状に基づいて吸気流動の強さ、ひいては吸気流動制御弁の作動状態を判定することが可能である。
【0011】
また、前記判定手段は、クランク角の進行に対するイオン電流波形の形状に基づいて吸気流動強さを判定しており、検出したイオン電流の絶対値(イオン電流レベル)に基づいていないため、点火プラグの汚損やその他の条件による悪影響が排除されて、吸気流動制御弁の作動状態の判定精度は高くなるという利点がある。
【0012】
前記判定手段は、前記燃焼室における点火後、圧縮上死点付近までの期間に亘って検出されたイオン電流値に基づいて前記吸気流動制御弁の作動状態を判定する、とすればよい。
【0013】
前述したイオン電流の波形において、例えば排気ガス還流量が多い運転領域、負荷が低い運転領域、又は空燃比がリーン側に設定された運転領域等では、燃焼が緩慢になることで後半の山は消滅することになる。そのため、検出したイオン電流波形の、前半の山と後半の山とを含む全体に基づいて吸気流動制御弁の作動状態を判定するのでは、後半の山が低くなったときにその判定が困難になる虞があり、吸気流動制御弁の作動状態の判定が、限定された運転領域でしかできなくなる。
【0014】
これに対し、燃焼室における点火後、圧縮上死点付近までの期間に亘って検出されたイオン電流値、つまり前半の山の形状に基づいて吸気流動制御部の作動状態の判定をすることによって、全ての運転領域で作動状態の判定が可能になると共に、その判定精度も向上する。
【0015】
ここで、「燃焼室における点火後、圧縮上死点付近までの期間に亘って検出されたイオン電流値に基づいて」判定するとは、例えば点火から前半の山のピークまでの期間(クランク角の範囲)に基づいて判定してもよい。
【0016】
また例えば、イオン電流波形に含まれるノイズ成分によって前半の山のピークのクランク角位置が正確に検出することが困難な場合には、点火終了から圧縮上死点付近までの特定期間全体に亘って検出されたイオン電流値を積算し、その総積算値の所定割合までが積算されたクランク角位置を特定することによっても、クランク角の進行に対する前半の山の形状を特定することができる。つまり、点火から前記総積算値の所定割合までが積算されたクランク角位置までの期間に基づいて、吸気流動制御弁の作動状態を判定してもよい。
【0017】
前記イオン電流検出手段は、前記エンジンの気筒毎に備えられ、前記判定手段は、予め設定された、イオン電流値と吸気流動制御弁の開度との関係に従って、前記気筒毎に前記吸気流動制御弁の開度を予測すると共に、その開度予測に基づいて吸気流動制御弁の開度の気筒間ばらつきを判定するとして、前記診断装置は、前記判定手段によって判定された吸気流動制御弁の開度の気筒間ばらつきに応じて、前記エンジンの制御量を補正することによって、その開度ばらつきに伴う気筒間の燃焼ばらつきを低減させる補正手段をさらに備える、としてもよい。
【0018】
イオン電流検出手段を気筒毎に備えることによって、気筒毎に燃焼室内の吸気流動強さ、ひいては吸気流動制御弁の開度を推定することが可能になり、それに伴い例えば各吸気流動制御弁の組み付け誤差等に起因する気筒間の吸気流動制御弁の開度ばらつきを判定することが実現する。
【0019】
そうして、その開度ばらつきに応じてエンジンの制御量を補正することにより、気筒間の燃焼ばらつき(燃焼速さのばらつき)を低減、又は無くすことが可能になる。
【0020】
前記補正手段は、前記気筒間の開度ばらつきに応じて、気筒毎に空燃比を変更する制御を実行する、としてもよい。
【0021】
空燃比をリッチ側に変更したときには燃焼速さが速くなり、空燃比をリーン側に変更したときには燃焼速さが遅くなることから、気筒毎に空燃比を変更することによって、気筒毎に燃焼状態を変更することが可能である。そうすることにより、気筒間の吸気流動制御弁の開度ばらつきによって生じる気筒間の燃焼ばらつきが低減、又は無くなる。
【0022】
前記空燃比の変更制御に際し、その変更可能な上限空燃比と下限空燃比とが予め設定されており、前記補正手段は、前記気筒間の開度ばらつきに応じて空燃比を変更するときに、前記上限空燃比又は下限空燃比を超えて前記空燃比を変更する必要があるときには、空燃比を前記上限空燃比又は下限空燃比に変更した上でさらに、気筒毎に点火時期を変更する制御を実行する、とすることが好ましい。
【0023】
空燃比を大幅に変更することはエミッション性の低下を招くため、許容することができる上限空燃比及び下限空燃比を設定しておくことが好ましい。このように上限空燃比及び下限空燃比を設定した場合、空燃比の変更によって気筒間の燃焼ばらつきを低減させようとしても、上限空燃比及び下限空燃比によって空燃比の変更が制限されるため、燃焼ばらつきが低減できない場合が生じ得る。
【0024】
そこで、上限空燃比及び下限空燃比によって空燃比の変更が制限される場合、換言すれば、上限空燃比又は下限空燃比を超える空燃比の変更が必要な場合には、空燃比を上限空燃比又は下限空燃比に設定した上でさらに、気筒毎に点火時期を変更する。こうすることで、イオン電流波形における前半の山のピークのクランク角位置が気筒間で略一致するようになり、気筒間の燃焼ばらつきが低減、又は無くなる。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように、本発明によれば、クランク角の進行に対するイオン電流値の波形形状に基づいて、燃焼室内の吸気流動強さを推定することができるため、それによって吸気流動制御弁の作動状態を精度よく判定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0027】
(エンジンの概略構成)
図1は、本発明に係る診断装置を備えた実施形態のエンジン1を模式的に示し、この例ではエンジン1は、複数のシリンダ2,2,…(図には1つのみ示す)が直列に配置された火花点火式エンジンである。図示の如く、シリンダ2の上端はシリンダブロック3の上端面に開口し、そこに載置されたシリンダヘッド4の下面により閉塞されている。シリンダ2内にはピストン5が往復動可能に嵌挿されていて、このピストン5の上面とシリンダヘッド4の下面との間に燃焼室6が区画される。一方、ピストン5の下方のクランクケース内には、図示しないがクランク軸が配設され、コネクティングロッドによってピストン5と連結されている。
【0028】
前記シリンダヘッド4には各シリンダ2毎に点火プラグ7が配設され、その先端の電極が燃焼室6に臨む一方、該点火プラグ7の基端部は点火回路8に接続されている。この点火回路8には、図2(a)にのみ示すが、パワートランジスタからなるイグナイタ8aとイグニッションコイル8bとが含まれており、後述のPCM30からの制御信号を受けて各シリンダ2毎に所定のタイミング(点火時期)で点火プラグ7に通電するようになっている。この例では各点火回路8にイオン電流検出回路33が接続されていて、同図(b)のようにシリンダ2毎にイオン電流を検出することができるようになっているが、これについては後述する。
【0029】
また、シリンダヘッド4には、各シリンダ2毎の燃焼室6に臨んで開口するように吸気ポート9及び排気ポート10がそれぞれ形成され、その各ポート開口部にはそれぞれカム軸により開閉されるように吸気及び排気弁11,12が配設されている。同図には示さないが、カム軸は、吸気側及び排気側に1本ずつ設けられていて、共通のカムチェーンによりクランク軸に駆動連結されており、このクランク軸の回転に同期して吸気側及び排気側のカム軸がそれぞれ回転されることにより、吸気及び排気弁11,12がそれぞれ所定のタイミングで開閉されるようになっている。
【0030】
前記シリンダヘッド4の一側(同図の左側)には、下流端が吸気ポート9に連通するように吸気通路15が配設されている。この吸気通路15の上流端は外部から導入される新気を濾過するためのエアクリーナ16に接続されており、そこから下流側に向かって順に、吸気流量を検出するエアフローセンサ17と、電動モータ18aにより駆動されて吸気通路15を絞るスロットル弁18と、燃焼室6内の吸気流動の強さを制御するTSCV(Tunble Swirl Conrol Valve)29と、各シリンダ2毎に燃料を噴射供給するインジェクタ19,19,…(図には1つのみ示す)とが配設されている。
【0031】
前記TSCV29は、シリンダ2内へ流入する吸気の流れを絞って燃焼室6内の吸気流動の強さを調節する絞り弁であり、例えばステッピングモータ等のアクチュエータによって開閉作動される。このTSCV29の弁体には一部に切り欠きが形成されており、全閉状態ではその切り欠き部のみから下流側に流れる吸気の流速が高くなって、この高速の吸気流が燃焼室6において強い空気流動を生成する。一方、TSCV29が開かれるに従い、吸気は切り欠き部以外からも流通するようになって、その流速が徐々に低下し、燃焼室6内の空気流動の強さも徐々に低下するようになる。
【0032】
一方、シリンダヘッド4の反対側(図1の右側)には、排気ポート10に連通して各シリンダ2内の燃焼室6から既燃ガス(排気ガス)を排出するように、排気通路20が配設されている。この排気通路20には上流側から順に、排気ガス中の酸素濃度を基に混合気の空燃比を検出するための酸素濃度センサ(以下、O2センサ)21と、排気ガスを浄化するための触媒コンバータ22とが配設されている。
【0033】
また、前記O2センサ21よりも上流側の排気通路20には、排気ガスの一部を吸気通路15に還流するための排気還流通路24(以下、EGR通路)が分岐接続されていて、このEGR通路24の下流端が前記スロットル弁18よりも下流側の吸気通路15に連通している。このEGR通路24の下流端寄りには開度調節可能な電気式の流量制御弁25(以下、EGR弁)が配設されていて、EGR通路24を還流される排気ガス(以下、外部EGR)の流量を調節するようになっている。
【0034】
さらにまた、エンジン1のシリンダブロック3下部のクランクケース内には、クランク軸の回転角(クランク角)を検出する電磁ピックアップ等からなるクランク角センサ26が設けられている。このクランク角センサ26は、クランク軸の端部に一体に回転するように取り付けられたロータ27の回転に伴い、その外周部に設けられた凸部の通過に対応して信号を出力する電磁ピックアップコイル26からなる。また、シリンダブロック3のウォータジャケット(図示せず)には、冷却水の温度状態を検出する水温センサ28が臨設されている。
【0035】
前記エアフローセンサ17、O2センサ21、クランク角センサ26、水温センサ28等からの出力信号は、それぞれPCM(Power-train Control Module)30に入力されるようになっている。このPCM30は、周知の如くCPU、ROM、RAM、I/Oインターフェース回路等を備えており、前記各センサ以外に、少なくとも、アクセルペダルの操作量を検出するアクセル開度センサ32から出力される信号を受け入れる。
【0036】
そして、PCM30は、前記各センサ等から入力した信号に基づいてエンジン1の運転状態を判定し、これに応じてエンジン1の運転制御を行うようになっている。すなわち、PCM30は、点火回路8に対し各シリンダ2毎の点火時期の制御信号を出力し、スロットル弁18に対し吸気流量を制御するための信号を出力するとともに、各シリンダ2毎のインジェクタ19,19,…に対し燃料噴射量及び噴射タイミングを制御するためのパルス信号を出力し、さらに、EGR通路24によって吸気系に環流する排気ガス(外部EGR)の量を制御するため信号をEGR弁25に対し出力する。また、PCM30は、TSCV29に対し吸気流動の強さを制御するための信号を出力する。
【0037】
そして、この実施形態のエンジン1では、上述の如く点火回路8に接続したイオン電流検出回路33によって、点火後に燃焼室6に発生するイオン電流をシリンダ2毎に検出し、これによりTSCV29の作動状態を判定して、その故障の診断を行ったり、その作動状態の判定結果に基づいて、気筒間のTSCV29の開度ばらつき状態を判定して、そのばらつき状態に応じて各気筒の燃焼速さのばらつきを低減又はなくしたりする制御を行うようにしている。
【0038】
(イオン電流によるTSCVの作動状態の判定)
まず、検出したイオン電流値からTSCVの作動状態と相関の高い評価値Ip(以下、イオンパラメータという)を求める考え方について説明する。イオン電流は、従来より、燃焼に伴い発生するイオンが媒体となって発生するものと考えられており、この実施形態では、前記図2(a)に示すように、エンジン1の点火回路8にイオン電流検出回路33が接続されている。
【0039】
図の例ではイオン電流検出回路33は、イグニッションコイル8bの2次側が接地される点火プラグ7とは反対側の端部に直列に接続された電源コンデンサ33aと、検出回路33bとからなり、イグナイタ8aの作動によって点火プラグ7に通電される際(点火)に電源コンデンサ33aに蓄えられた電荷と、その後、燃焼室6において発生したイオンとで回路が構成されて電流が流れ、この電流を検出回路33bが検出するようになっている。検出回路33bからの信号はPCM30へ出力される。
【0040】
そうして検出されるイオン電流の値は、同図(b)に模式的に示すように点火後のクランク角の進行に伴い変化し、その波形には通常、前半及び後半の2つの山が現れる。前半の山に表されるイオン電流は、混合気が着火した後に、火炎核の成長に伴い拡大する火炎面に存在するイオン(ラジカル)を媒体とするものと考えられ、これは、特に初期燃焼の速度や燃焼室の流動強さの影響を強く受ける。すなわち、前半の山は、初期燃焼が活発であるほど急峻になり、そのピークが進角する。
【0041】
一方、後半の山に表されるイオン電流は、前記のように燃焼反応そのものによって発生するイオン(ラジカル)の他に、燃焼室の温度上昇に伴い既燃ガス中に存在するNOxが熱電離して発生するイオンをも媒体とするものと考えられ、そのピークは、燃焼室の温度が最高になるクランク角位置に現れて、全体として燃焼が活発であるほど高くなり、それが緩慢なほど低くなる。
【0042】
従って、燃焼室内の吸気流動の強さが強くなり燃焼が全体として活発になれば、イオン電流波形の前半の山は相対的に高くなって、そのピークが進角側に移動する一方、燃焼室内の吸気流動の強さが弱くなり燃焼が全体として緩慢になれば、イオン電流波形の前半の山は相対的に低くなって、そのピークが遅角側に移動する。また、外部EGR量が多い運転領域、負荷が低い運転領域、又は空燃比がリーン側に設定された運転領域等では、燃焼が全体として緩慢になることに伴い後半の山はそのピークが消滅する。
【0043】
つまり、イオン電流波形の前半の山におけるピークまでの立ち上がりの様子を観れば、燃焼室内の吸気流動強さを推定することができ、燃焼室6内の吸気流動強さ、ひいてはTSCV29の作動状態(開度)が精度よく判定可能になる。この場合、後半の山の様子は観ないことで、前述の通り特定の運転領域で後半の山のピークが消滅してもその影響を受けることなく、全ての運転領域でTSCV29の作動状態が判定可能になる。
【0044】
そこで、この実施形態では、図2(b)に示すように、点火開始から前半の山のピークが発生する間での期間(クランク角の範囲)を、イオン電流の立ち上がり特性を表す評価値、すなわちイオンパラメータIpとして用いるようにしている。
【0045】
ここで、初期燃焼の立ち上がりは、吸気流動強さ以外にも、その温度や新気と合わせたシリンダ2への吸気充填量、空燃比、さらには燃焼室6の温度等の影響を受けるから、イオンパラメータIpに基づいて吸気流動強さ(TSCV29の開度)を定量的に求めようとすれば、それと点火時期以外に、エンジンの運転状態も加味する必要がある。
【0046】
そこで、この実施形態では、図5に一例を示すように、基準エンジンを用いた実験により、TSCV29の開度と前記イオンパラメータIpとの関係を、エンジンの運転条件毎に求めてマップ化、関数化又はテーブル化しておき、PCM30のメモリに電子的に格納する。こうすれば、エンジン1の運転中に検出したイオン電流値から前記イオンパラメータIpを算出し、このイオンパラメータIpに基づき、そのときのエンジン運転状態に対応するマップ、関数又はテーブルを参照して、TSCV29の開度を定量的に求めることができる。
【0047】
次に、図3〜5を参照して、前記のようにイオン電流の検出値からイオンパラメータIpを求め、これによりTSCV29の作動状態を判定する手順を具体的に説明する。まず、図3は、イオン電流の検出値からイオンパラメータIpを計算する手順のフローチャートであり、例えばTSCV29の作動状態の判定フラグがオンされているときに、各シリンダ2の燃焼サイクル毎に実行される。
【0048】
図示のスタート後のステップSA1では、点火後、少なくともクランク角センサ26及びイオン電流検出回路33からの信号を入力して、点火ノイズがなくなったかどうか、すなわち点火終了かどうか判定し、この判定がNOであればリターンする一方、判定がYESで点火終了であればステップSA2に進んで、検出したイオン電流値をクランク角と対応付けてメモリに記憶した後、ステップSA3に進む。
【0049】
ステップSA3ではイオン電流値に対する微分処理を実行し(微分値=Δイオン電流値/Δクランク角)、続くステップSA4において、その微分値が0であるか否かを判定する。0でないのNOのときにはステップSA2〜SA4を繰り返し、微分値が0になるまでイオン電流の計測を繰り返す一方、微分値が0になればステップSA5に移行する。
【0050】
微分値が最初に0になるのはイオン電流波形の前半の山のピークであることから、そのクランク角と点火開始時のクランク角とによって、前記のイオンパラメータIpを算出し、それを記憶する。
【0051】
そして、ステップSA6に進み、フラグオンであれば、ステップSA1に戻って前記の手順を継続する(処理を継続)一方、例えばエンジン1の運転状態が変化して、フラグがオフになれば、処理を継続しないNOと判定して制御終了となる(エンド)。
【0052】
次に、図4に示すフローチャートを参照しながら、前記PCM30によるTSCV29の故障診断の手順について説明する。先ず、ステップS11では、TSCV故障診断実行のフラグを立て、続くステップS12では、前記図3のフローのように、計算したイオンパラメータIpとエンジン1の運転状態とに基づいて、PCM30に予め記憶されているイオンパラメータIpとTSCV開度との関係を示すマップ(図5参照)から、そのイオンパラメータIpに対応するTSCV開度(予測OA)を算出する。また、TSCV29の制御目標値である制御OAを得ておく。
【0053】
続くステップS13では、ステップS12で得た予測OAと制御OAとの差の絶対値を算出する。そして、制御目標値がTSCV全開であるときには、その絶対値をΔOAopとして記憶し、制御目標がTSCV全閉であるときにはその絶対値をΔOAclとして記憶する。
【0054】
ステップS14では、TSCV29の開状態の判定及び閉状態の判定がそれぞれ所定回数行われたか、つまり、開状態のデータと閉状態のデータとのそれぞれについて所定個のデータが取得できたか否かを判定し、取得できていないのNOのときにはステップS12に戻って前述したデータの取得を繰り返し、取得できたのYESのときにはステップS15に移行する。
【0055】
ステップS15では、前記ステップS12及びS13で得られたΔOAopの平均値ΔOAopAveと、ΔOAclの平均値ΔOAclAveと、をそれぞれ算出する。
【0056】
そうして、ステップS16で、前記ΔOAclAveが、ΔOAmaxと等しいか否かを判定する。ここで、ΔOAmaxは、前記TSCV29の全開状態と全閉状態との間の角度差を示しており、ΔOAclAveが、ΔOAmaxと同じであるのYESのときには、TSCV29が開状態で固着している(故障している)と判定する(ステップS111)。
【0057】
一方、ステップS16でNOのときには、続くステップS17で前記ΔOAopAveが、ΔOAmaxと等しいか否かを判定する。ΔOAopAveが、ΔOAmaxと同じであるのYESのときには、TSCV29が閉状態で固着している(故障している)と判定する(ステップS112)。
【0058】
ステップS17でNOのときには、続くステップS18で、前記ΔOAopAve+ΔOclAveが、ΔOAmaxと等しいか否かを判定する。そして、ΔOAopAve+ΔOclAve=ΔOAmaxのYESのときにはステップS113に移行して、TSCV29が全開と全閉との中間位置で固着した状態である(故障している)と判定する。
【0059】
ステップS18でNOのときには、続くステップS19でΔOAopAve=0でかつ、ΔOAclAve=0であるか否かを判定する。YESのときにはステップS110に移行してTSCV29の故障がないと判定する。一方、ΔOAopAve=0でない、又はΔOAclAve=0でないのNOのときにはステップS114に移行して、開固着故障、閉固着故障、及び中間固着故障以外の故障、例えば全閉前の状態又は全開前の状態で引っ掛かっている故障であると判定する。
【0060】
ここで、前記ステップS16〜S19における判定について、より具体的に説明する。TSCV29の全閉状態のときの開度を「0」、TSCV29の全開状態のときの開度を「100」と仮定する。この場合、TSCV29の全開状態と全閉状態との間の角度差ΔOAmaxは100−0=100である。
【0061】
TSCV29が開状態で固着しているときには、制御目標値が全閉のとき(つまり制御OAが「0」のとき)でも、予測OAは常に「100」になる。従って、ΔOAclAve=100となるため、ΔOAclAve=ΔOAmaxとなる。つまり、ステップS16においてΔOAclAve=ΔOAmaxであるときには、TSCV29が開固着故障であると判定することができる(ステップS111)。
【0062】
また、TSCV29が閉状態で固着しているときには、制御目標値が全開のとき(つまり制御OAが「100」のとき)でも、予測OAは常に「0」になる。従って、ΔOAopAve=100となるため、ΔOAopAve=ΔOAmaxとなる。つまり、ステップS17においてΔOAopAve=ΔOAmaxであるときには、TSCV29が閉固着故障であると判定することができる(ステップS112)。
【0063】
また、TSCV29が中間位置(例えば開度「50」)で固着しているときには、制御目標値が全閉のとき(つまり制御OAが「0」のとき)でも、予測OAは常に「50」になると共に、制御目標値が全開のとき(つまり制御OAが「100」のとき)でも、予測OAは常に「50」になる。従って、ΔOAclAve=50、ΔOAclAve=50となるため、ΔOAclAve+ΔOAopAve=ΔOAmaxとなる。つまり、ステップS18においてΔOAclAve+ΔOAopAve=ΔOAmaxであるときには、TSCV29が中間固着故障であると判定することができる(ステップS113)。
【0064】
また、TSCV29が故障していないときには、制御目標値が全開のとき(つまり制御OAが「100」のとき)には、予測OAは「100」になり、制御目標値が全閉のとき(つまり制御OAが「0」のとき)には、予測OAは「0」になる。従って、ΔOAclAve=ΔOAopAve=0となる。つまり、ステップS19においてΔOAclAve=ΔOAopAve=0であるときには、TSCV29が故障していないと判定することができ(ステップS110)、ΔOAclAve≠0又はΔOAopAve≠0のときには、何らかの故障が発生していると判定することができる(ステップS114)。
【0065】
このように、イオン電流に基づいてTSCV29の作動状態を判定する際に、その波形形状、具体的には燃焼室における点火後、圧縮上死点付近までの特定期間に亘って検出されたイオン電流値に基づいて、TSCV29の作動状態を判定することで、その作動状態を精度よく判定することが可能になる。
【0066】
この場合に、前半の山の形状に基づいて吸気流動制御部の作動状態の判定をし、後半の山の形状は見ないことによって、前述したように、全ての運転領域で作動状態の判定が可能になる。
【0067】
また、イオン電流からTSCV29の開度を予測することによって、その予測とTSCV29の制御目標値とに基づいて、TSCV29が全開状態で固着している、全閉状態で固着している、中間位置で固着している、又は全開又は全閉前で引っ掛かっている、等の、TSCV29の故障の状態を判定することができる。尚、こうしてTSCV29が故障していることを判定したときには、それをPCM30に記憶したり、必要に応じて乗員に報知したりすればよい。
【0068】
(気筒間の燃焼ばらつきの補正制御)
本発明の診断装置は、各気筒のイオン電流検出回路33により検出されたイオン電流に基づいてTSCV29の作動状態(吸気流動強さ)を判定するため、気筒毎に、その燃焼室6内の吸気流動の強さを予測することが可能である。
【0069】
そこで、例えばTSCV29の組み付け誤差等に起因する開度ばらつきによって生じる、各気筒の流動強さのばらつきを予測し、そのばらつきによって生じる気筒間の燃焼ばらつきを無くすように、各気筒の空燃比及び/又は点火時期を変更することが考えられる。
【0070】
図6は、そのTSCV29の気筒別開度ばらつき補正の手順に係るフローチャートを示している。
【0071】
同図のフローにおいて、ステップS21では、ばらつき補正の実行フラグを立て、続くステップS22ではTSCV29が閉の運転領域であるか否かを判定する。TSCV29が閉であるのYESのときにはステップS23に移行する一方、TSCV29が開であるのNOのときにはステップS21に戻る。これは、TSCV29が開いて吸気流動が相対的に弱い状態における状態よりも、TSCV29が閉じて吸気流動が相対的に強い状態の方が、気筒間の燃焼ばらつきの影響が大きいためである。
【0072】
ステップS23では、気筒毎に、前記図3のフローのように、イオン電流検出回路33により検出されたイオン電流に基づいてイオンパラメータIpを算出し、図5に示すマップからTSCV29の予測開度を計算する(予測OA−1、予測OA−2、予測OA−3、…。尚、以下において、-*は気筒番号を示す(*=1,2,3…))。
【0073】
ステップS24では、TSCV29の開閉状態の判定が所定回数行われたか否かを判定し、所定回数行われていないのNOのときにはステップS23に戻って前述したデータの取得を繰り返し、所定回数行われたのYESのときにはステップS25に移行する。
【0074】
ステップS25では、本フローの1回目のルーチンにおいては、前記ステップS23で得た各気筒のTSCV29の予測開度の平均を求め(つまり、予測OA−1、予測OA−2、予測OA−3、…の平均)、その平均予測開度に対する各気筒の開度ずれ(Δ予測OA−1、Δ予測OA−2、Δ予測OA−3、…)を算出する(図7(a)参照)。
【0075】
一方、2回目以降のルーチンにおいては、1回目のルーチンにおいて求めたTSCV29の予測開度の平均に対して、2回目以降のルーチンにおけるステップS23で得た各気筒のTSCV29の予測開度の開度ずれを算出する。但し、2回目以降のルーチンにおける開度ずれには、前回の補正制御において、空燃比及び/又は点火時期を変更しても補正しきれなかった開度ずれ分が存在するときには、その未補正の開度ずれを追加するようにする。
【0076】
ステップS25においてこのような演算を行うのは、本制御では後述するように、開度ずれに対して各気筒の空燃比を優先して変更し、その空燃比の変更だけでは燃焼ばらつきを補正不可能なときに限って、各気筒の点火時期の変更を行うようにしているためである。つまり、各気筒の補正すべき開度ずれの大きさを、後述するように、初期時における予測開度の平均に対する総ずれ量として認識して、その総ずれ量を、空燃比の変更により補正する分と、点火時期の変更により補正する分とに分配する必要があるためである。
【0077】
また、ステップS25では、その予測開度の平均に対する各気筒の開度ずれの分散(STDEV(Δ予測OAall))を算出する。
【0078】
ステップS26では、ステップS25で算出した分散(STDEV(Δ予測OAall))が、実験に基づいて予め設定された設定値よりも大きいか否か、換言すれば、TSCV29の気筒間の開度ずれ状態が所定よりも大きいか否かを判定し、TSCV29の気筒間の開度ずれ状態が比較的大きいのYESのときには、その開度ずれ状態を補正する必要があるとしてステップS27に移行する一方、TSCV29の気筒間の開度ずれ状態が比較的小さいのNOのときには、その開度ずれ状態を補正する必要はないとしてステップS21に戻る。
【0079】
ステップS27では、各気筒の、現時点における開度ずれの総量(Δ予測OA総-*)を次式により計算する。
【0080】
Δ予測OA総-*=Δ予測OA-*(−1)+Δ予測OA-*
但し、Δ予測OA-*(−1)は前回値であり、初期値は0(ゼロ)である。このように開度ずれの前回値に、今回値を加えることによって、初期時における予測開度の平均に対する開度ずれ量が算出される。
【0081】
続くステップS28では、ステップS27で得た各気筒の開度ずれの総量に基づいて、TSCV29の開度ばらつきによって生じる気筒間の燃焼ばらつきがなくなるように、各気筒の空燃比及び点火時期の補正を行う。
【0082】
具体的に、各気筒の空燃比の制御量(制御AFR-*)及び点火時期の制御量(制御Igt-*)を、
(制御AFR-*,制御Igt-*)
=(制御AFRave+ΔAFR-*,制御Igtave+ΔIgt-*)
として、平均制御空燃比(制御AFRave)に対し、気筒毎に補正量(ΔAFR-*)を加えると共に、平均制御点火時期(制御Igtave)に対し、気筒毎に補正量(ΔIgt-*)を加えることによって、それぞれ決定する。
【0083】
ここで、気筒毎の空燃比の補正量(ΔAFR-*)点火時期の補正量(ΔIgt-*)は、
(ΔAFR-*,ΔIgt-*)
=f(AFRave,Igtave,予測OAave,Δ予測OA総-*)
とし、平均空燃比(AFRave)、平均点火時期(Igtave)、平均予測開度(予測OAave)及び各気筒の開度ずれの総量(Δ予測OA−*)の関数として設定する。
【0084】
この関数は、図8に一例を示すように、予め実験を行うことによって設定されてPCM30に予め記憶されており、開度ずれの総量(予測OA総-*)に応じて、各気筒の空燃比を優先して変更するように、空燃比の補正量が最初に設定される。つまり、当該気筒のTSCV29が予測開度の平均よりも開側にずれているときには相対的に流動強さが弱いため、空燃比をリッチ側に変更して燃焼速さを高めるように、空燃比の補正量ΔAFRがリッチ側に設定される一方、当該気筒のTSCV29が予測開度の平均よりも閉側にずれているときには流動強さが相対的に強いため、空燃比をリーン側に変更して燃焼速さが低下するように、空燃比の補正量ΔAFRがリーン側に設定される。
【0085】
ここで、空燃比の補正量ΔAFRには、エミッション性の低下を考慮して、上限補正値ΔAFRmax、及び、下限補正値ΔAFRminが、予めそれぞれ設定されており、開度ずれが大きく、空燃比の補正量ΔAFRが、この上限補正値ΔAFRmax、又は、下限補正値ΔAFRminを超えてしまう場合には、空燃比の補正量を上限補正値ΔAFRmax、又は、下限補正値ΔAFRminに設定した上でさらに、点火時期の補正量ΔIgtを設定する。
【0086】
点火時期の補正量ΔIgtは、当該気筒のTSCV29が予測開度の平均よりも開側にずれているときにはイオン電流波形における前半の山のピークが相対的に遅角側になるため、点火時期が進角側に変更されるように、進角側に設定される一方、当該気筒のTSCV29が予測開度の平均よりも閉側にずれているときにはイオン電流波形における前半の山のピークが相対的に進角側になるため、点火時期が遅角側に変更されるように、遅角側に設定される。
【0087】
尚、空燃比の補正値ΔAFR及び点火時期の補正値ΔIgtはそれぞれ、エンジンの運転状態(充填効率ce及び回転数ne)に応じて補正するようにしてもよい。
【0088】
続くステップS29において、ステップS28で設定した各気筒の空燃比及び点火時期の制御量に従って、各気筒の空燃比及び点火時期の制御値を変更する。そして、ステップS210で制御を続行するか否かを判定し、制御を続行する場合はステップS21に戻り、制御を終了する場合はエンドとなる。
【0089】
このように、気筒毎の吸気流動強さを予測することが可能なことを利用して、例えばTSCV29の組み付け誤差等に起因する、気筒間の燃焼ばらつきを判定することができるため、その判定結果に基づいて燃焼ばらつきを低減、又は無くすことができる。
【0090】
その場合に、燃焼室6内の燃焼速さに直接的に関係する各気筒の空燃比を変更する補正を優先して行うことによって、燃焼速さのばらつき補正を効果的に行うことができる。
【0091】
また、その空燃比の変更を許容できる上限補正値ΔAFRmax及び下限補正値ΔAFRminがそれぞれ設定されているため、エミッション性の低下を防止することができると共に、空燃比の補正がその上限補正値ΔAFRmax及び下限補正値ΔAFRminによって制限されてしまう場合には、点火時期の補正を併せて行うことによって、気筒間の燃焼ばらつきを低減、又は無くすことができる。
【0092】
尚、図6に示すばらつき補正の制御と、図4に示すTSCV29の故障診断とは組み合わせることが可能であることは言うまでもない。
【0093】
(他の実施形態)
前記実施形態では、点火開始からイオン電流波形の前半の山のピークまでの期間をイオンパラメータIpとし、そのイオンパラメータIpに基づいてTSCV29の作動状態を判定するようにしているが(図2(b)参照)、イオン電流波形の前半の山のピークのクランク角位置が、ノイズ等の影響により正確に検出することが困難な場合には以下のようにしてもよい。
【0094】
つまり、図9に示すように、点火終了から点火圧縮上死点付近(圧縮上死点に対し±10°CA程度の範囲で適宜設定クランク角位置)までの特定期間に亘って検出されたイオン電流値を積算し、その総積算値(図に斜線を入れて示す範囲の面積に相当する)の所定割合(例えば50%、尚、この割合は任意に設定することが可能であり、例えば10%、25%又は90%としてもよい)までが積算されたクランク角位置を特定し、点火からそのクランク角位置までの期間をイオンパラメータIpとして用いるようにしてもよい。
【0095】
図10は、前記の積算値に基づくイオンパラメータIpを計算する手順のフローチャートであり、このフローは、例えば空燃比の検出フラグがオンされているときに、各シリンダ2の燃焼サイクル毎に実行される。
【0096】
図示のスタート後のステップSB1では、点火後、少なくともクランク角センサ26及びイオン電流検出回路33からの信号を入力して、点火ノイズがなくなったかどうか、すなわち点火終了かどうか判定し、この判定がNOであればリターンする一方、判定がYESで点火終了であればステップSB2に進んで、検出したイオン電流値をクランク角と対応付けてメモリに記憶した後、ステップSB3に進む。
【0097】
ステップSB3では、予め設定された積算終了点(前記特定期間の終了点)に達したかどうか判定し、積算終了点に達するまではステップSB2に戻って、所定時間間隔(例えば0.1ミリ秒)毎にクランク角位置とイオン電流値とを対応付けてメモリに記憶する一方、積算終了点に達すればステップSB4に進んで、イオンパラメータIpの計算を行う。すなわち、それまでに記憶したイオン電流の総積算値を求め、予め設定された所定割合(例えば50%)までが積算されたクランク角位置を特定する。そうして、点火からそのクランク角位置までの期間をイオンパラメータIpとして特定する。
【0098】
そして、ステップSB5に進み、フラグオンであれば、ステップSB1に戻って前記の手順を継続する(処理を継続)一方、例えばエンジン1の運転状態が変化して、フラグがオフになれば、処理を継続しないNOと判定して制御終了となる(エンド)。
【0099】
このように積算値に基づくイオンパラメータIpも、クランク角の進行に対する前半の山の形状を特定することができる。尚、点火時期がMBT(Minimum advance for the Best Torque)付近であるときには、前記イオン電流波形の前半の山のピークのクランク角と、前記積算割合50%のクランク角位置とは、ほぼ一致するという特徴がある。
【0100】
また、本実施形態では、吸気流動制御弁をTSCV29としているが、本発明が適用可能な吸気流動制御弁は、例えばタンブルコントロールバルブや、スワールコントロールバルブであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0101】
以上説明したように、本発明は、センサ等を設けることなく、イオン電流波形に基づいて吸気流動制御弁の作動状態を精度よく判定することができるから、例えば自動車等に搭載されるエンジンの吸気流動制御弁の作動状態を判定する装置として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】本発明の実施形態に係る吸気流動制御弁の診断装置を備えたエンジンの概略構成図である。
【図2】(a)イオン電流検出回路の構成、(b)イオン電流検出回路の出力信号の一例である。
【図3】イオンパラメータの計算の手順を示すフローチャートである。
【図4】TSCVの故障診断の手順を示すフローチャートである。
【図5】イオンパラメータとTSCV開度との関係を示すマップの一例である。
【図6】TSCV開度ばらつきに伴う燃焼速さのばらつきを補正する手順を示すフローチャートである。
【図7】TSCVの開度ずれを示す説明図である。
【図8】TSCVの開度ずれに対する空燃比及び点火時期の補正量を設定する関数の一例である。
【図9】図2(b)とは異なるイオンパラメータの定義を模式的に示す説明図である。
【図10】図9に係るイオンパラメータの計算の手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0103】
1 エンジン
15 吸気通路
29 TSCV(吸気流動制御弁)
30 PCM(判定手段、補正手段)
33 イオン電流検出回路(イオン電流検出手段)
6 燃焼室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気通路に配設されかつ、エンジンの運転状態に応じて開閉制御されることにより燃焼室内の吸気流動を制御する吸気流動制御弁と、
前記エンジンの燃焼室内に発生するイオン電流を検出するイオン電流検出手段と、
前記燃焼室における点火後に前記イオン電流検出手段によって検出された、クランク角の進行に対するイオン電流の波形形状に基づいて、前記吸気流動制御弁の作動状態を判定する判定手段と、を備えた吸気流動制御弁の診断装置。
【請求項2】
請求項1に記載の診断装置において、
前記判定手段は、前記燃焼室における点火後、圧縮上死点付近までの期間に亘って検出されたイオン電流値に基づいて前記吸気流動制御弁の作動状態を判定する診断装置。
【請求項3】
請求項1に記載の診断装置において、
前記イオン電流検出手段は、前記エンジンの気筒毎に備えられ、
前記判定手段は、予め設定された、イオン電流値と吸気流動制御弁の開度との関係に従って、前記気筒毎に前記吸気流動制御弁の開度を予測すると共に、その開度予測に基づいて吸気流動制御弁の開度の気筒間ばらつきを判定し、
前記判定手段によって判定された吸気流動制御弁の開度の気筒間ばらつきに応じて、前記エンジンに関する制御量を補正することによって、その開度ばらつきに伴う気筒間の燃焼ばらつきを低減させる補正手段をさらに備える診断装置。
【請求項4】
請求項3に記載の診断装置において、
前記補正手段は、前記気筒間の開度ばらつきに応じて、気筒毎に空燃比を変更する制御を実行する診断装置。
【請求項5】
請求項4に記載の診断装置において、
前記空燃比の変更制御に際し、その変更可能な上限空燃比と下限空燃比とが予め設定されており、
前記補正手段は、前記気筒間の開度ばらつきに応じて空燃比を変更するときに、前記上限空燃比又は下限空燃比を超えて前記空燃比を変更する必要があるときには、空燃比を前記上限空燃比又は下限空燃比に変更した上でさらに、気筒毎に点火時期を変更する制御を実行する診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−115730(P2008−115730A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−298065(P2006−298065)
【出願日】平成18年11月1日(2006.11.1)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】