説明

周期的微細凹凸構造材料

【課題】サブミクロンサイズからミクロンサイズの周期性を有する高アスペクト比の微細凹凸構造材料を、非常に単純な方法でかつ広範囲に形成する。
【解決手段】基板(D)の少なくとも一部又は全体を少なくとも一軸方向に延伸(F)された状態の基板(D)上に表層(E)を形成し、基板(D)の延伸状態を解除したときに発生する圧縮歪みに基づき形成された凹凸構造を有し、前記凹凸構造のアスペクト比が0.2〜1.0の範囲にある、微細凹凸構造材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サブミクロンからミクロンサイズの周期的微細凹凸構造を有する材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、周期的微細凹凸構造は、高分子弾性体上に相対的に硬い薄膜を形成し、そこに側方応力を加え座屈不安定性の臨界応力を超えることで、調製されていた。その凹凸構造の周期は硬い薄膜と柔らかい基板のヤング率(硬さ)の比と薄膜の厚みによって制御が可能であることが公知である。弾性体基材としてはシリコーンゴム(ポリジメチルシロキサン)が主に報告されている(非特許文献1〜6)。また、表面薄膜としては、蒸着金属膜、高分子薄膜、有機無機複合薄膜など幅広い材料による報告例がある(非特許文献1〜6)。この技術は光リソグラフィーなどを用いずに非常に簡便に且つ大面積でサブミクロンの周期構造が達成できるために、広範囲に渡る応用が期待できる。
【0003】
しかしながら、これまでにこの微細凹凸構造の凹凸の高さについては明確な制御は行われていなかった。この高さのパラメーターはこの部材を応用する場合に極めて重要である。特に、高いアスペクト比(周期に対する凹凸の高さの比)を持つ構造は、従来のナノインプリント技術により得られる構造に匹敵し、且つナノインプリント技術よりも簡単な工程により達成できるために非常に有用性が高い。しかしながら、これまでに0.4程度に達する高アスペクト比を有する構造を作製した例はない。
【特許文献1】特開2003−266570
【非特許文献1】Bowden, N.; Brittain, S.; Evans, A. G.; Hutchinson, J. W.; Whitesides, G. M. Nature 1998, 393, 146.
【非特許文献2】Bowden, N.; Huck, W. T. S.; Paul, K. E.; Whitesides, G. M. Appl. Phys. Lett. 1999, 75, 2557.
【非特許文献3】Huck, W. T. S.; Bowden, N.; Onck, P.; Pardoen, T.; Hutchinson, J. W.; Whitesides, G. M. Langmuir 2000, 16, 3497.
【非特許文献4】Ohzono, T.; Shimomura, M. Phys. Rev. B. 2004, 69, 132202.
【非特許文献5】Yoo, P. J.; Lee, H. H. Phys. Rev. Lett. 2003, 91, 154502.
【非特許文献6】Stafford, C. M.; Harrison, C.; Beers, K. L.; Karim, A.; Amis, E. J.; Vanlandingham, M. R.; Kim, H.; Volksen, W.; Miller, R. D.; Simonyi, E. E. Nat. Mat. 2004, 3, 545.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
基板表面の凹凸は、光学的描画法や鋳型を用いる方法などにより作製可能であるが、これらの方法で得られる基板は非常に高価であり、広範囲にわたる周期構造を形成するのが困難であった。
【0005】
これまで側方からの応力による座屈を利用した方法は公知であるが、本発明では、サブミクロンサイズからミクロンサイズの周期性を有し、特にアスペクト比の制御が再現性よく行われた高アスペクト比の微細凹凸構造材料を、非常に単純な方法でかつ広範囲に形成可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題に鑑み検討を重ねた結果、延伸状態の基板(D)上に硬い(基板の弾性率よりも大きい弾性率を有する)表層(E)を形成し、次いで基板(D)の延伸状態を解除することで、表層(E)に周期的な凹凸を形成させることができ、しかも高アスペクト比の凹凸でありながら基板(D)と表層(E)が良好な密着性を有し、基板(D)に対する表層(E)の剥離のない微細凹凸構造材料が得られることを見出した。本発明によれば、基板(D)と表層(E)の材料、厚み、延伸の程度を制御することで、再現性良く所定のアスペクト比と周期を有する微細凹凸構造材料を有利に得ることができる。
【0007】
本発明は、以下の微細凹凸構造材料に関する。
項1. 基板(D)の少なくとも一部又は全体を少なくとも一軸方向に延伸(F)された状態の基板(D)上に表層(E)を形成し、基板(D)の延伸状態を解除したときに発生する圧縮歪みに基づき形成された凹凸構造を有し、前記凹凸構造のアスペクト比が0.2〜1.0の範囲にある、微細凹凸構造材料。
項2. 基板(D)の弾性率(Ea)と表層(E)の弾性率(Eb)が、Ea≦Ebの関係を有する、項1に記載の材料。
項3. 前記構造が、50nm以上500μm以下の周期を有する、項1〜2のいずれかに記載の材料。
項4. 基板(D)の材料の延伸率(延伸時の延伸方向の長さ/非延伸時の延伸方向の長さ)が1.2〜10である、項1〜3のいずれかに記載の材料。
項5. 以下の工程1〜工程3:
工程1:基板(D)の少なくとも一部又は全体を少なくとも一軸方向に延伸(F)する工程、
工程2:延伸された状態の基板(D)上に表層(E)を形成する工程、
工程3:基板(D)の延伸状態を解除して、凹凸構造を形成する工程、
を含むことを特徴とする、アスペクト比が0.2〜1.0の範囲にある微細凹凸構造を有する項1〜4のいずれかに記載の材料の製造方法。
項6. 工程1における基板(D)の材料の延伸率(延伸時の延伸方向の長さ/非延伸時の延伸方向の長さ)が1.2〜10である、項5に記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明で得られた材料は、高アスペクト比であるため、一般的な光学部材、回折格子、防眩表面、異方散乱、などの凹凸表面を、金型を使用することなく効率的かつ経済的に得ることができる。また、本発明の好ましい材料は非常に薄く、光透過性を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明において、基板(D)の材料は、延伸率(延伸時の延伸方向の長さ/非延伸時の延伸方向の長さ)が1.01〜10程度(好ましくは1.2〜10程度)の延伸状態が可能な材料である。このような材料としては、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ジフェニルシロキサンなどのポリシロキサン系ポリマー、シリコーン樹脂/シリコーンゴム、天然ゴムないし合成ゴム、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリウレタン、ポリスチレン、フッ素化ポリマー(PTFE、PVdFなど)、ポリ塩化ビニル、ポリメチルハイドロゲンシロキサン、ジメチルシロキサンとメチルハイドロジェンシロキサン単位のコポリマーなどのホモポリマー或いはコポリマー、さらにはこれらのブレンドが挙げられるが、延伸可能な材料であれば特に限定されるものではない。
【0010】
基板(D)と表層(E)の透過率は特に限定されないが、光学部材に使用する場合は、
基板(D)と表層(E)を合わせた部材は透明又は半透明の材料であるのが好ましく、可視・赤外光の透過率は30%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上である。
【0011】
基板(D)の材料の弾性率は、0.5〜10MPa程度である。
【0012】
表層(E)の材料の弾性率は、0.5〜100GPa程度である。
【0013】
基板(D)の材料の弾性率(Ea)と表層(E)の弾性率の比(Ea/Eb)は、10-5〜10-1程度、好ましくは10-4〜10-2程度である。
【0014】
弾性率は、JIS K7171、ASTM D790に準拠した方法により測定できる。
【0015】
表層(E)の材料としては、基板(D)よりも大きな弾性率を有し、基板(D)の収縮とともに周期的な凹凸構造を形成できる材料であれば特に限定されず、例えば金属、セラミック、カーボン、或いは、シリコーン樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、アクリル樹脂などのポリマーが挙げられる。
【0016】
表層(E)は、単層であるのが好ましいが、2層以上の表層(E)を積層させてもよい。このようにすることで、表層(E)の特性や基板(D)との密着性を向上させることができる、
表層(E)の厚みとしては、1〜50000nm程度が挙げられる。
【0017】
基板(D)の厚みとしては、0.3〜20mm程度が挙げられる。
【0018】
表層(E)の凹凸構造のアスペクト比は、0.2〜1.0、例えば0.2〜0.5、好ましくは0.25〜0.45である。
【0019】
図3に示されるように、本発明の材料は、一軸延伸により形成することができ、一方向に周期性を有する凹凸を備えている。凹凸の周期としては、50nm〜500μm程度、凸部の高さとしては、20nm〜200μm程度である。
【0020】
基板(D)上への表層(E)の形成は、上記のような十分に薄い表層(E)を形成できるものであれば特に限定されないが、金属であればスパッタ、樹脂であれば塗布(スピンコート、キャストなど)、セラミックであれば有機セラミック原料のプラズマ酸化処理(表面部分のみが酸化されてセラミックになる)が例示される。また電子線や紫外線、イオン線照射によっても表面の変性を促し表層(E)を形成可能である。
【0021】
基板(D)用の材料は、一軸延伸、二軸延伸、曲率を利用した延伸、温度差を利用した延伸などの1種又は2種以上の延伸方法を組み合わせて延伸状態にすることができる。このような方法により延伸して基板(D)を延伸状態とし、その表面上に表層(E)を形成し、基板(D)の延伸状態を解除して周期的凹凸構造を形成するので、延伸率は重要な因子である。好ましい基板(D)の延伸率は1.01〜10程度、より好ましくは1.2〜1.8程度、さらに好ましくは1.3〜1.7程度である。延伸率が大きいとアスペクト比が大きくなるが、延伸率が大きくなりすぎると基板(D)と表層(E)が剥離することがある。また、アスペクト比が小さすぎると、光学部材特性などの改善効果が低下する。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例を用いてより詳細に説明するが、本発明がこれら実施例に限定されないことはいうまでもない。
実施例1
(1)0.4程度の高アスペクト比かつサブミクロンの規則性の高い凹凸構造を得る方法
厚さ1mm程度の20×40mm程度のPDMSゴムを成形し、それを両側で固定し延伸機で150%程度延伸した状態で、スパッタ蒸着により金(白金でも可)を約1nm蒸着し、その後、延伸状態を解放し、100%の状態に戻すことで目的の凹凸構造(図1)を得る。ここで表層と基板の有効弾性率はそれぞれ、約200GPa、20MPaである。
【0023】
比較例として、上記において延伸率を105%倍で得られるものはアスペクト比が0.17程度となり、0.2を超えず、低アスペクト比となる。
(2)アスペクト比を再現性よく制御する方法
前項同様に、厚さ1mm程度の20×40mm程度のPDMSゴムを成形し、それを両側で固定し延伸機でX倍に延伸した状態で、スパッタ蒸着により金(白金でも可)を数nm蒸着し、その後、延伸状態を解放し、100%の状態に戻すことで目的の凹凸構造を得るが、そのアスペクト比と延伸率Xとの関係(図2)を得た。データは空間波長200nm-1000nmでの結果を含む。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】高アスペクト比、微小周期構造体の原子間力顕微鏡像(上)とそのプロファイル(下)、周期(約220nm)、高さ(90nm)、アスペクト比(0.4)。
【図2】延伸率とアスペクト比の関係を示す。
【図3】本発明による微小周期構造体の製造方法を示す模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板(D)の少なくとも一部又は全体を少なくとも一軸方向に延伸(F)された状態の基板(D)上に表層(E)を形成し、基板(D)の延伸状態を解除したときに発生する圧縮歪みに基づき形成された凹凸構造を有し、前記凹凸構造のアスペクト比が0.2〜1.0の範囲にある、微細凹凸構造材料。
【請求項2】
基板(D)の弾性率(Ea)と表層(E)の弾性率(Eb)が、Ea≦Ebの関係を有する、請求項1に記載の材料。
【請求項3】
前記構造が、50nm以上500μm以下の周期を有する、請求項1〜2のいずれかに記載の材料。
【請求項4】
基板(D)の材料の延伸率(延伸時の延伸方向の長さ/非延伸時の延伸方向の長さ)が1.2〜10である、請求項1〜3のいずれかに記載の材料。
【請求項5】
以下の工程1〜工程3:
工程1:基板(D)の少なくとも一部又は全体を少なくとも一軸方向に延伸(F)する工程、
工程2:延伸された状態の基板(D)上に表層(E)を形成する工程、
工程3:基板(D)の延伸状態を解除して、凹凸構造を形成する工程、
を含むことを特徴とする、アスペクト比が0.2〜1.0の範囲にある微細凹凸構造を有する請求項1〜4のいずれかに記載の材料の製造方法。
【請求項6】
工程1における基板(D)の材料の延伸率(延伸時の延伸方向の長さ/非延伸時の延伸方向の長さ)が1.2〜10である、請求項5に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−96081(P2009−96081A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−270049(P2007−270049)
【出願日】平成19年10月17日(2007.10.17)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】