説明

周期表第13族金属窒化物半導体結晶の製造に使用する部材の選定方法、及び周期表第13族金属窒化物半導体結晶の製造方法

【課題】周期表第13族金属窒化物半導体結晶の製造に使用することができる、反応容器、撹拌翼、種結晶保持棒、種結晶保持台、バッフル、ガス導入管及びバルブ等の部材を正確かつ簡便に選定する方法、並びに部材の変質及び/又は劣化に悪影響を受けない周期表第13族金属窒化物半導体結晶の製造方法を提供する。
【解決手段】部材の体積及び/又は寸法を測定し、未使用の状態からの体積変化及び/又は寸法変化を指標として、周期表第13族金属窒化物半導体結晶の製造に使用する部材を選択することにより、結晶成長に悪影響を与えない部材を正確かつ簡易的に選択することができる。前記部材の選択方法は、部材の膨張に関して、水素を取り込む影響が大きいため、反応系中に水素元素を含む成分が存在する製造方法に対して特に好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周期表第13族金属窒化物半導体結晶の製造に使用する部材の選定方法、及び周期表第13族金属窒化物半導体結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウムに代表される周期表第13族金属窒化物半導体は、大きなバンドギャップを有し、さらにバンド間遷移が直接遷移型であることから、紫外、青色等の発光ダイオード、半導体レーザー等の比較的短波長側の発光素子として実用化されている。これらの素子は、同種の材料からなり、かつ転位密度の少ない高品質な基板を用いて製造されることが好ましく、このような基板となり得る周期表第13族金属窒化物半導体結晶の製造技術が盛んに研究されている。代表的な製造方法としては、ハライド気相成長法(HVPE法)や有機金属化学蒸着法(MOCVD法)等の気相エピタキシャル成長法が一般的に知られているが、最近では品質向上及び経済性の観点等から、ナトリウムフラックス法等の液相エピタキシャル成長法の検討も進められている。
【0003】
ナトリウムフラックス法等の液相エピタキシャル成長法については、製造に使用する反応容器が、膨潤・浸潤し、劣化するという課題が報告されており、かかる課題を解決する方法として窒化チタンや窒化ジルコニウムからなるセラミックス製の反応容器を使用することが提案されている(特許文献1参照)。また、セラミックス製の反応容器が加工性や機械的耐久性に劣ることから、表面に窒化物層を形成した周期表第4〜6族元素を含む金属製の部材(反応容器、撹拌翼、種結晶保持棒、種結晶保持台、バッフル、ガス導入管およびバルブ等)を使用することが提案されている(特許文献2参照)。耐食性・加工性に優れるかかる部材を使用することによって、製造コストを大幅に下げることができることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−265069号公報
【特許文献2】国際公開第2010/140665号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
周期表第13族金属窒化物半導体結晶の製造に用いられる反応容器等の部材は、耐食性に優れる材質が選択されているが、繰り返し及び/又は長時間の使用によって、変質及び/又は劣化が進行することがある。このような状態に至った部材を半導体結晶の製造に使用すると、結晶成長に悪影響を与える可能性があるため、使用する前に部材の使用可否を判断する必要がある。部材を精密に分析することによって変質及び/又は劣化の状況を把握することもできるが、操作が複雑となれば効率・コストの観点から好ましくない一方、正確な使用可否判断ができない場合には、窒化物半導体結晶の製造に悪影響を及ぼすことになる。
即ち、本発明は周期表第13族金属窒化物半導体結晶の製造に使用することができる部材を正確かつ簡便に選定する方法、並びに部材の変質及び/又は劣化に悪影響を受けない周期表第13族金属窒化物半導体結晶の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、周期表第13族金属窒
化物半導体結晶の製造に繰り返し及び/又は長時間の使用することによって、部材が累積的に膨張すること、及び特定の大きさまで膨張した部材を使用して結晶成長を行うと、周期表第13族金属窒化物半導体結晶の成長速度が著しく低下することを明らかにした。また、反応系中に水素元素を含む成分(H2、NH3、CH4等)が存在する製造方法に使用
した場合には、部材が特に水素を取り込んで膨張することを明らかにした。これらの知見に基づき、本発明者らはさらに鋭意検討を重ねた結果、部材の膨張率を観測することによって、結晶成長に悪影響を与える可能性がある部材を把握できることを見出し、周期表第13族金属窒化物半導体結晶の製造に使用する部材の選定方法を確立した。
【0007】
即ち本発明は以下のとおりである。
(1)周期表第13族金属窒化物半導体結晶の製造に使用する部材の選定方法であって、前記部材の体積及び/又は寸法を測定し、未使用の状態からの体積変化及び/又は寸法変化を指標として前記部材を選択することを特徴とする、部材の選定方法。
(2)未使用状態からの寸法変化率の最大値が、0.8%以下である部材を選択する、(1)に記載の部材の選定方法。
(3)未使用状態からの体積変化率が、2.4%以下である部材を選択する、(1)又は(2)に記載の部材の選定方法。
(4)前記部材が周期表第4〜6族元素、Sc、Y、Ni及びPdから選ばれる少なくとも1種を含むものである、(1)〜(3)の何れかに記載の部材の選定方法。
(5)前記部材が周期表第4〜6族元素、Sc、Y、Ni及びPdから選ばれる少なくとも1種を含む金属又は合金でその90重量%以上が構成されているものである、(1)〜(4)の何れかに記載の部材の選定方法。
(6)前記部材が表面に周期表第4〜6族元素から選ばれる少なくとも1種を含有する窒化物が形成されたものである、(1)〜(5)の何れかに記載の部材の選定方法。
(7)前記周期表第13族金属窒化物半導体結晶の製造が、反応系中に水素元素を含む成分が存在する製造方法である、(1)〜(6)の何れかに記載の部材の選定方法。
(8)前記部材が、反応容器、撹拌翼、種結晶保持棒、種結晶保持台、バッフル、ガス導入管及びバルブから選ばれる少なくとも1種である、(1)〜(7)の何れかに記載の部材の選定方法。
(9)(1)〜(8)の何れかに記載の部材の選定方法によって部材を選択する選定工程、原料及び溶媒を含む溶液又は融液を作製する工程、並びに前記溶液又は融液中で周期表第13族金属窒化物半導体結晶をエピタキシャル成長させる成長工程を含む周期表第13族金属窒化物半導体結晶の製造方法であって、前記融液又は溶液を作製する工程及び/又は前記成長工程が、前記選定工程で選択された部材及び/又は前記部材を含む装置を用いて行われることを特徴とする、周期表第13族金属窒化物半導体結晶の製造方法。
(10)前記成長工程が、反応系中に水素元素を含む成分が存在するものである、(9)に記載の周期表第13族金属窒化物半導体結晶の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、周期表第13族金属窒化物半導体結晶の製造に使用できる部材を、正確かつ簡便に選択することができ、加えて部材の変質及び/又は劣化に悪影響を受けずに周期表第13族金属窒化物半導体結晶の製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】部材表面を窒化する装置の概念図である。
【図2】本発明の周期表第13族金属窒化物半導体結晶の製造方法に使用する装置の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の周期表第13族金属窒化物半導体結晶の製造に使用する部材の選定方法、及び
周期表第13族金属窒化物半導体結晶の製造方法ついて以下詳細に説明するが、本発明の趣旨に反しない限り、これらの内容に限定されるものではない。
【0011】
<周期表第13族金属窒化物半導体結晶の製造に使用する部材の選定方法>
本発明は、周期表第13族金属窒化物半導体結晶(以下、「第13族窒化物半導体結晶」という場合がある)の製造に使用する部材であって、結晶成長に悪影響を与えない部材を選定する方法である。本発明者らは、第13族窒化物半導体結晶の製造に繰り返し及び/又は長時間使用することによって、部材が累積的に膨張すること(加熱等による一時的な膨張ではなく、室温状態における観測で、未使用状態から膨張している)、さらに特定の大きさまで膨張した部材を使用して結晶成長を行うと、第13族窒化物半導体結晶の成長速度が著しく低下することを見出した。かかる原理については充分に明らかとされていないが、部材が反応系中に存在する成分を吸収して膨張し、一定以上膨張することによって、部材から不純物が放出され易くなり、放出された不純物によって結晶成長が阻害されるためであると考えられる。部材が吸収する成分は、部材の材質や第13族窒化物半導体結晶の製造方法によっても異なるが、反応系中に水素元素を含む成分(H2、NH3、CH4等)が存在する製造方法に使用した場合、主に水素を取り込むことが明らかとなった。
部材の膨張、即ち体積変化については、未使用の状態の部材の体積を予め測定しておくことにより、選定時の測定結果と比較して簡易的に算出できる。従って、部材を選定するに当たり、部材の体積変化を観測し、かかる結果を指標とすることによって、結晶成長に悪影響を与えない部材を簡易的に判断することができる。
【0012】
本発明は、第13族窒化物半導体結晶の製造に使用する部材の選定方法であるが、本発明が対象とする第13族窒化物半導体結晶の製造方法は特に限定されず、ハライド気相成長法(HVPE法)、有機金属化学蒸着法(MOCVD法)等の気相エピタキシャル成長法、或いは融液成長、高圧溶液法、フラックス法、安熱法等の液相エピタキシャル成長法の何れの成長方法に対しても適用可能である。ただし、前述したように、部材の膨張に関して、水素を取り込む影響が大きいため、反応系中に水素元素を含む成分が存在する製造方法に対して特に好適である。「水素元素を含む成分」としては、例えばH2、NH3のほか、CH4、C26、C38等の炭化水素類、HF、HCl、HBr、HI等のハロゲン
化水素等が挙げられる。特にH2を反応系中に含む液相エピタキシャル成長法に利用する
場合、本発明の選定方法を好適に利用することができる。また、製造する第13族窒化物半導体結晶の種類も特に限定されず、GaN、AlN、InN等の1種類の第13族金属からなる窒化物のほかに、GaInN、GaAlN等の2種類以上の第13族金属からなる複合窒化物が挙げられる。
【0013】
本発明は、第13族窒化物半導体結晶の製造に使用する部材を選定するために、未使用の状態からの体積変化及び/又は寸法変化を指標とすることを特徴とする。前述のように、本発明者らは第13族窒化物半導体結晶の製造に繰り返し及び/又は長時間使用することによって、部材が累積的に膨張することを見出し、さらに特定の大きさまで膨張した部材を使用して結晶成長を行うと、結晶成長速度が著しく低下することを見出した。即ち、部材の膨張率を観測することによって、結晶成長に悪影響を与える可能性がある部材を把握できることを意味している。膨張率に関しては、部材の体積変化又は寸法変化を測定することによって把握することができるため、部材を選択するために、これらの値を指標として用いることができる。体積変化(寸法変化)は、第13族窒化物半導体結晶の製造に使用していない状態(以下、「未使用の状態」ともいう)の部材の体積(寸法)を予め測定しておき、選定時に測定した体積(寸法)と比較することにより容易に算出することができる。また、未使用の状態の部材の体積(寸法)を測定していない等の場合には、膨張していないことが明らかである状態の体積(寸法)の値を利用して算出してもよい。体積変化(寸法変化)は、体積(寸法)の量的変化を表す値であれば特に限定されず、選定時の体積(寸法)と未使用の状態の体積(寸法)の差によって算出される体積変化量(寸法
変化量)のほか、下記[1]、[2]の式によって算出される体積変化率(寸法変化率)であってもよい。また、体積(寸法)の量的変化を表すものであれば、所望の計算方法によって処理した値であってもよい。
【数1】

【0014】
本発明の選定方法は、体積変化又は寸法変化のどちらかを指標とするものであっても、或いは体積変化及び寸法変化の両方を指標とするものであってもよく、部材の種類等によって適宜選択することができる。例えば、測定する部材の形状が複雑である場合又は部材の膨張が微小である場合等には体積変化を指標とすることが好適である一方、体積の測定が困難な場合又は膨張が部分的・局所的に生じる場合等には寸法変化を指標とすることが好適である。特に、測定する部材の形状が複雑でない、例えば、直方体や立方体や円筒のような単純な形状である場合には、体積変化率と寸法変化率との間には、一定の相関がある場合がある。具体的には、測定する部材が立方体であって各辺において同じだけ膨張したと仮定すると、一辺の寸法変化率が0.5%である場合には、その部材の体積変化率は式[1]より、{(1+0.5×0.01)3−13}/13×100≒1.5%と算出す
ることができる。
【0015】
寸法変化を測定する場合の寸法の種類は特に限定されず、部材の縦、横、高さ等の値のほか、円筒形等の形状をもつ部材等の場合には、内径や外径、奥行き等も用いることができる。測定する寸法の種類も1つに限定されず、複数種類の寸法を測定し、それらの値を適宜利用してもよい。測定精度及び簡便性の観点から、代表的な寸法変化を選択し、その値を指標として用いることが好ましく、特に寸法変化率が最大となる寸法を利用することがより好ましい。本発明において、寸法変化率が最大となる寸法における寸法変化率を「寸法変化率の最大値」と呼ぶ。この最大値を指標とすることがさらに好ましい。
【0016】
体積(寸法)の測定方法は、公知の方法を適宜利用することができ、具体的には、定規、メジャー、ノギス等を使用して寸法を測定する方法、レーザー変位計を用いて測定する方法、画像撮影・画像処理装置を用いて測定する方法、水などの液体中に被測定物をつけたときの液体の除去体積を測定するアルキメデス法を利用して測定する方法等が挙げられる。
【0017】
「体積変化及び/又は寸法変化を指標とする」とは、具体的には、体積変化及び/又は寸法変化の測定値と比較する判定基準を予め設定しておき、かかる測定値が判定基準よりも大きい場合、その部材を使用しないと判断し、それ以外の場合には部材を使用してもよいと判断することが挙げられる。判断に用いる判定基準は、部材の種類、材質の種類、又は第13族窒化物半導体結晶の製造方法等に応じて適宜設定することができる。例えば、第13族窒化物半導体結晶の製造に使用した部材の体積変化及び/又は寸法変化を測定し、さらにその部材を使用した場合の結晶成長速度を算出して、体積変化及び/又は寸法変化と結晶成長速度の関係性を見出すことにより、判定基準となる数値を導き出すことができる。具体的な判定基準は特に限定されないが、体積変化率を用いる場合には、通常は2.4%以下、好ましくは1.2%以下を判定基準とすることが挙げられる。また、下限は特に限定されないが、通常は0.0%以上とすることが挙げられる。寸法変化率の最大値を用いる場合には、通常は0.8%以下、好ましくは0.4%以下を判定基準とすること
が挙げられる。また、下限は特に限定されないが、通常は0.0%以上とすることが挙げられる。上限超過の部材を用いて結晶成長を行った場合には、結晶成長速度が遅くなる傾向がある。判定基準の値が小さいほど、結晶成長に使用不可な部材を選定するリスクが減少するが、判定基準の値が小さすぎると、結晶成長に本来使用可能なはずの部材を使用不可と判定してしまう可能性が生じ、製造時の部材のコストが大きくなってしまう。
【0018】
本発明は、未使用の状態からの体積変化及び/又は寸法変化を指標とすることを特徴とする部材の選定方法であるが、本発明における「使用」とは、第13族窒化物半導体結晶の製造に実際に部材が使用された場合のほか、結晶成長に至らない条件であっても、部材が結晶成長における雰囲気ガス又は融液若しくは溶液に曝される状態に至った場合には、その部材は「使用」されたものとして含まれる。前述のように、反応系中に存在する成分を吸収していることによって部材が膨張すると考えられるため、雰囲気ガス又は融液若しくは溶液に曝されることによって、その成分を吸収している可能性がある。なお、後述する部材を窒化する工程は、「使用」されたことには含まれないこととする。
【0019】
本発明の選定方法が対象とする部材は、第13族窒化物半導体結晶の製造に使用するものであれば特に限定されないが、結晶の成長工程における雰囲気ガス或いは溶液又は融液等に曝される可能性のある部材を挙げることができる。具体的には、反応容器、撹拌翼、種結晶保持棒、種結晶保持台、バッフル、ガス導入管、バルブ等が挙げられる。
【0020】
本発明の選定方法が対象とする部材の材質は、第13族窒化物半導体結晶の製造に使用可能なものであれば特に限定されないが、前述したように部材が水素を取り込んで膨張する場合があるため、水素との親和性が高く、特に水素化物を形成し得る金属元素を含む部材に対して特に好適である。具体的には、周期表第4〜6族元素(Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W)、Sc、Y、Ni、Pdから選ばれる少なくとも1種を含む部材が挙げられる。その中でも、その水素化物の標準生成エネルギーΔGf0が0未満である元素を含む部材が好ましい。特にTi及びZrは、その水素化物の標準生成自由エネルギーΔGf0がそれぞれ−80.3kJ/mol、−128.8kJ/molであり、水素との親和性が特に高いことから本発明の選定方法に特に好適である。
【0021】
また、第13族窒化物半導体結晶の製造に使用する部材としては、加工性や機械的耐久性に富む材質であることが好ましく、部材は主に金属(バルク体)によって構成されていることがより好ましい。具体的には部材の90重量%以上が、より好ましくは99重量%以上が周期表第4〜6族元素、Sc、Y、Ni、Pdから選ばれる少なくとも1種を含む金属又は合金で構成されていることがより好ましい。また、部材は金属又は合金のほかに、酸化物、窒化物又は炭化物等が含まれていてもよい。特に周期表第4〜6族元素は、窒化物の標準生成自由エネルギーΔGf0が0未満であり、安定な窒化物を形成する。かか
る窒化物層を表面に形成することによって、第13族窒化物半導体結晶の製造に好適な耐久性が得られる。従って、本発明が対象とする部材は、周期表第4〜6族元素から選ばれる少なくとも1種を含有する窒化物を含むものが好ましく、特に表面にかかる窒化物層が形成されているものが好ましい。窒化物層の厚みは、特に限定されないが、通常10nm〜1mm程度であり、好ましくは100nm〜100μm、さらに好ましくは1μm〜10μmである。
【0022】
第13族窒化物半導体結晶の製造に使用する部材が、表面に窒化物層が形成されている部材である場合、その窒化物層の形成方法は特に限定されないが、PVD法(Physical Vapor Deposition)及びCVD法(Chemical Vapor Deposition)等の蒸着法によって窒化物層を積層する方法、窒化物を別途作製しておき、これを部材表面に張り合わせる方法等が挙げられる。また、部材表面の組成そのものを窒化して、窒化物層を形成させる方法も挙げられる。これらの内、部材の
形状が制限されず、かつ比較的容易に窒化物層を形成できることから、部材表面の組成そのものを窒化して窒化物層を形成する方法がより好ましい。
【0023】
部材表面の組成そのものを窒化する方法は、表面に窒化物層が安定に形成される方法であれば特に限定はされないが、例えば、100〜1500℃、好ましくは700℃以上の窒素雰囲気下において加熱保持することで、安定な窒化物層を形成することができる。また、アルカリ金属窒化物やアルカリ土類金属窒化物等を窒化剤として使用して窒化処理を行うことも可能であり、例えば、窒化剤の存在下、通常200〜1500℃、好ましくは600〜800℃の温度で部材を加熱保持することで安定な窒化物層を形成することができる。窒素雰囲気下とする場合は、常温常圧に換算した量で、好ましくは1〜10000cm3/min、10〜1000cm3/minでN2ガスを流通させて行うことがより好
ましい。
【0024】
本発明は、周期表第13族金属窒化物半導体結晶の製造に使用する部材の選定方法であるが、「周期表第13族金属窒化物半導体結晶の製造に使用する部材の交換時期の判断方法」、或いは「周期表第13族金属窒化物半導体結晶の製造への使用継続の判断方法」等も本発明の選定方法と同義であり、本発明に含まれる。
【0025】
<本発明の周期表第13族金属窒化物半導体結晶の製造方法>
本発明の部材の選定方法によって、結晶成長に悪影響を与えない部材を正確かつ簡便に選択することができるが、かかる選定方法によって選択された部材及び/又は選択された部材を含む装置を用いて第13族窒化物半導体結晶を製造する製造方法も本発明の1つである。具体的には、本発明の部材の選定方法を選定工程として含み、液相エピタキシャル成長法(Liquid Phase Epitaxy)を利用して第13族窒化物半導体結晶を製造する製造方法である。液相エピタキシャル成長法では、液相を介した部材の変質及び/又は劣化が生じ易く、結晶成長が悪影響を受けやすい。本発明の部材の選定方法を工程として含むことにより、部材の使用可否判断を正確かつ簡便に行うことができ、第13族窒化物半導体結晶の製造方法としても効率的な方法であると言える。以下、本発明の第13族窒化物半導体結晶の製造方法について詳細を説明する。
【0026】
本発明の第13族窒化物半導体結晶の製造方法は、以下の工程を含むことを特徴とする。
(1)製造に使用する部材を選択する選定工程
(2)原料及び溶媒を含む溶液又は融液を作製する工程
(3)溶液又は融液中で周期表第13族金属窒化物半導体結晶をエピタキシャル成長させる成長工程
【0027】
(1)製造に使用する部材を選択する選定工程とは、即ち前述した本発明の部材の選定方法である。かかる工程では、(2)の融液又は溶液を作製する工程や(3)の成長工程に使用できる部材や装置に組み込んでもよい部材を選定するための工程である。
【0028】
(2)原料及び溶媒を含む溶液又は融液を作製する工程とは、成長工程の前段階として、エピタキシャル成長に使用する液相用の溶液又は融液を調製する工程を意味し、(3)溶液又は融液中で周期表第13族金属窒化物半導体結晶をエピタキシャル成長させる成長工程とは、即ち、液相エピタキシャル成長方法を利用した成長工程であることを意味する。液相エピタキシャル方法を利用した成長工程とは、具体的には、フラックス法で主に用いられている温度差(Gradient Transport)法、徐冷(Slow Cooling)法、温度サイクル(Temperature Cycling)法、るつぼ加速回転(Accelerated Crucible Rotation Technique)法、トップシード(Top−Seeded Solution Growth
)法、溶媒移動法及びその変形である溶媒移動浮遊帯域(Traveling−Solvent Floating−Zone)法並びに蒸発法等、さらにはこれらの方法を任意に組み合わせた方法が挙げられる。これらの工程の詳細については特に限定されず、公知の条件を適宜採用して実施することができるが、これらの工程で用いる反応容器、撹拌翼、種結晶保持棒、種結晶保持台、バッフル、ガス導入管及びバルブ等の部材については、(1)の部材の選定工程で選択された部材を使用するものとする。(1)の部材の選定工程によって、結晶成長に悪影響を与えない部材が選択でき、第13族窒化物半導体結晶の製造方法としても効率的である。なお、原料及び溶媒を含む溶液又は融液とは、原料が溶媒に完全に溶解されている必要はなく、固体原料が分散又は固形物として溶液中に存在する不均一系であってもよい。また、成長工程における「溶液又は融液である液相」とは、溶液又は融液を作製する工程における「溶液又は融液」と必ずしも同一のものを意図するものではない。溶液又は融液を作製する工程における「溶液又は融液」は、成長工程に使用するために作製されるが、成長工程における「溶液又は融液」には、エピタキシャル成長の反応によって生じた副生成物等が含まれる場合があり、初期(エピタキシャル成長開始前)の組成と同一とは限らないためである。
【0029】
本発明の製造方法は、部材の選定方法を工程として含んだ第13族窒化物半導体結晶の製造方法であれば(3)の成長工程における条件は特に限定されないが、前述したように反応系中に水素元素を含む成分が存在する条件において、部材が水素を取り込んで膨張し、結晶成長に悪影響を及ぼす場合があるため、かかるような条件を有する製造方法において、特に有効である。以下に、反応系中に水素が存在する液相エピタキシャル法の製造方法を例に挙げる。
【0030】
図2は、反応系中に水素が存在する液相エピタキシャル法の製造方法に使用する製造装置の概念図である。図2中の104は反応容器、101は原料となるLi3GaN2複合窒化物(固体)、102は溶媒であるLiCl溶融塩、100は種結晶である窒化ガリウム結晶を表している。かかる製造方法では、気相中に水素が含まれていることを特徴とし、水素を利用して結晶成長を行うことを特徴とする(気相中には窒素も含まれる)。
かかる製造方法の成長工程では、液相中のLi3GaN2複合窒化物(Li3GaN2複合窒化物は、LiClと錯塩を作り溶解すると考えられる)が、同じく液相中に存在する種結晶表面に到達し、下記反応式[3]に示される反応を起こして結晶成長が進行する。
【化1】

【0031】
また、気相中の水素及び窒素が、直接又は液相中に溶解して、上記式[3]で生成したLi3Nを水素化及び/又は窒化し、水素化リチウム、リチウムイミド、又はリチウムア
ミドを生成させる。例えばリチウムアミド(LiNH2)は、下記式[4]に示される反
応によって生成する。窒化ガリウム結晶近傍のLi3N濃度の上昇は、成長速度の低下を
招き、また急激なLi3N濃度の低下も急激なGaN生成に繋がり、雑晶の発生や結晶性
の低下を招く。水素及び窒素は成長速度を適度に調節する役割を果たし、結晶性の高い半導体結晶を得るために特に重要である。なお、水素化リチウム、リチウムイミド、リチウムアミドが生成する反応は何れも平衡反応であり、水素及び窒素の濃度によってLi3
濃度を調節することができる。
【化2】

【0032】
[原料]
本発明の製造方法に使用する原料は、目的とする第13族窒化物半導体結晶に応じて適宜設定することができるが、例えば、前述したLi3GaN2複合窒化物のように、周期表第13族金属と周期表第1族金属及び/又は周期表第2族金属とを含有する複合窒化物が好適なものとして例示することができる。第13族金属としては、GaのほかにAl、In、GaAl、GaIn等が、第1族金属及び/又は第2族金属としては、LiのほかにNa、Ca、Sr、Ba、Mg等が挙げられる。第13族金属と第1族金属及び/又は第2族金属とを含有する複合窒化物としては、Li3GaN2のほかに、Ca3Ga24、B
3Ga24、Mg3GaN3等が挙げられる。第13族金属と第1族金属及び/又は第2
族金属とを含有する複合窒化物は、例えば第13族金属窒化物粉体と第1族金属及び/又は第2族金属窒化物粉体(例えばLi3N、Ca32)とを混合した後、温度を上げて固
相反応させる方法;第13族元素と第1族金属及び/又は第2族金属とを含む合金を作製し、窒素雰囲気中で加熱する方法;等により調整することができる。例えばLi3GaN2は、Ga−Li合金を窒素雰囲気中で600〜800℃で加熱処理することによって作製することができる。
【0033】
第13族金属と第1族金属及び/又は第2族金属を含有する複合窒化物以外の原料としては、第13族金属窒化物そのものを用いることができる。その他に、例えば第13族金属と第1族金属及び/又は第2族金属との合金からなるターゲットを用い、反応性スパッター法によって窒素プラズマと反応させて合成した混合窒化物膜を挙げることもできる。かかる混合窒化物膜は、化学的に合成が難しいような窒化物を用いる場合に好適である。
【0034】
原料が成長工程における条件下で固体である場合には、かかる固体原料は溶媒に完全に溶解している必要はない。一部が溶解せずに反応容器内に存在する場合であっても、結晶成長により消費された分が、随時、溶媒中に供給されることとなる。また、溶媒に対する原料の量は、特に限定されず目的に応じて適宜設定することができるが、5〜50重量%の範囲内であると連続生産のための効率性を高めることができ、さらに反応容器内のスペースを確保できる。
【0035】
[溶媒]
本発明の製造方法に使用する溶媒は、特に限定されないが、金属塩を主成分とする溶媒が好ましい。金属塩の含有量は50重量%以上が好ましく、70重量%以上がより好ましく、90重量%以上がさらに好ましい。特に金属塩を融解した溶融塩を溶媒として用いることが好ましい。
【0036】
金属塩の種類は、結晶成長を阻害しないものであれば特に限定されないが、Li、Na、K等のアルカリ金属および/またはMg、Ca、Sr等のアルカリ土類金属のハロゲン化物、炭酸塩、硝酸塩、イオウ化物等を挙げることができる。具体的には、LiCl、KCl、NaCl、CaCl2、BaCl2、CsCl、LiBr、KBr、CsBr、LiF、KF、NaF、LiI、NaI、CaI2、BaI2等の金属ハロゲン化物が好ましく、LiCl、KCl、NaCl、CsCl、CaCl2、BaCl2がより好ましい。金属塩の種類は1種類に限定されず、複数種類の金属塩を適宜組み合わせて用いてもよい。なかでも、ハロゲン化リチウムとこれ以外の金属塩を併用することがより好ましい。ハロゲン化リチウムの含有率は金属塩の全体量に対して30%以上が好ましく、80%以上がさらに好ましい。
【0037】
また、第13族金属と第1族金属及び/又は第2族金属とを含有する複合窒化物の溶解度を増加させるために、例えばLi3N、Ca32、Mg32、Sr32、Ba32など
の第1族金属又は第2族金属の窒化物等が溶媒に含まれていることが好ましい。
【0038】
金属塩は、一般的に吸湿性が強いため、多くの水分を含んでいる。本発明の周期表第1
3族金属窒化物半導体結晶を製造するためには、水分等の酸素源となり得る不純物をできるだけ取り除いておくことが必要であり、即ち溶媒を予め精製しておくことが好ましい。精製方法は特に限定されないが、例えば特開2007−084422号に記載されている装置を用い、溶媒に反応性気体を吹き込む方法が挙げられる。例えば、常温で固体の金属塩を溶媒とする場合には、加熱して融解し、塩化水素、ヨウ化水素、臭化水素、塩化アンモニウム、臭化アンモニウム、ヨウ化アンモニウム、塩素、臭素、又はヨウ素等の反応性気体を吹き込みバブリングすることによって水分等の不純物を取り除くことができる。塩化物の溶融塩に対しては、特に塩化水素を用いることが好ましい。
【0039】
[種結晶(下地基板)]
エピタキシャル成長を進行させる液相には、工業的に十分なサイズの結晶を得るために、種結晶を設置することが好ましい。種結晶は、GaN、InGaN、AlGaN等の目的とする第13族窒化物半導体結晶と同種のものを用いる他、サファイア、ZnO、BeO等の金属酸化物、SiC、Si等の珪素含有物、又はGaAs等を用いることができる。本発明で成長させる第13族窒化物半導体結晶との整合性を考えると、最も好ましいのは第13族窒化物である。種結晶の形状も特に制限されず、平板状であっても、棒状であってもよい。棒状の種結晶を用いる場合には、最初に種結晶部分で成長させ、次いで水平方向にも結晶成長を行いながら、垂直方向に結晶成長を行うことによってバルク状の結晶を作製することもできる。種結晶上に効率よく第13族窒化物結晶を成長させるためには、種結晶周辺に雑晶を成長させたり、付着させたりしないことが好ましい。雑晶とは種結晶上以外に成長する粒子径の小さい結晶であり、雑晶が種結晶付近に存在すると液相中の第13族窒化物成分を種結晶上の成長と雑晶の成長で分け合うことになり、種結晶上の第13族窒化物半導体結晶の成長速度が十分に得られない。
【0040】
[温度・圧力その他の条件]
成長工程において、反応容器内にて第13族窒化物半導体結晶を成長させる際の成長温度は、通常200℃以上、好ましくは400℃以上、より好ましくは600℃以上であり、また、通常1000℃以下、好ましくは850℃以下、より好ましくは800℃以下である。また、前記成長工程において、第13族窒化物半導体結晶を成長させる際の反応容器内の圧力は、条件によって適宜選択することができ特に限定されないが、製造装置が簡便になり工業的に有利に製造できることから、通常10MPa以下であり、好ましくは3MPa以下、さらに好ましくは0.3MPa以下、より好ましくは0.11MPa以下であって、通常0.01MPa以上、好ましくは0.09MPa以上である。
【0041】
成長工程における水素は、気相中に逐次供給しても或いは反応容器内に予め必要な量を準備しておいてもよいが、気相中に逐次供給することが好ましく、逐次供給する際の水素ガスの流量は常温常圧に換算した量で通常0.0001〜10L/min、好ましくは0.001〜5L/min、より好ましくは0.01〜1L/minである。上記範囲であると、副生成物の濃度を適度に保つことができる。気相中の水素濃度は通常0.001〜99.9mol%、好ましくは0.1〜99mol%、より好ましくは1〜90mol%である。
【0042】
成長工程における窒素は、気相中に逐次供給してもあるいは反応容器内に予め必要な量を準備しておいても良いが、気相中に逐次供給することが好ましく、逐次供給する際の窒素ガスの流量は常温常圧に換算した量で通常0.001〜100L/min、好ましくは0.01〜50L/min、より好ましくは0.1〜10L/minである。上記範囲であると、副生成物の濃度を適度に保つことができる。
【0043】
気相から液相に溶存する水素を溶液又は融液内に均一に分布させるためには、溶液又は融液内を攪拌することが望ましい。攪拌方法は特に限定されないが、種結晶を回転させて
攪拌する方法、攪拌翼を入れ回転させて攪拌させる方法、ガスを溶液又は融液内にバブリングすることで流動を与え攪拌する方法、送液ポンプで流動を作成し攪拌させる方法などが挙げられる。
【0044】
結晶成長の成長速度は、上記温度、圧力等によって調節することが可能であり、特に限定されないが、通常0.1μm/h〜1000μm/hの範囲であり、1μm/h以上が好ましく、10μm/h以上がより好ましく、100μm以上であることがさらに好ましい。
【0045】
本発明に係る周期表第13族金属窒化物半導体結晶は、さまざまな用途に用いることができる。特に紫外〜青色の発光ダイオード又は半導体レーザー等の比較的短波長側の発光素子、及び緑色〜赤色の比較的長波長側の発光素子を製造するための基板として、さらに電子デバイス等の半導体デバイスの基板としても有用である。
【実施例】
【0046】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0047】
<参考例1:Ti製反応容器(部材)の窒化処理と、窒化処理後使用履歴のないTi製反応容器を用いたGaNの結晶成長>
(部材の窒化処理工程)
以下に説明する窒化処理工程については、図1を参照して説明する。
(1)Arボックス内で、Ti製反応容器104(高さ200.0mm、外径34mm、内径30mm)内に、窒化作用を有する原料(窒化剤)101であるLi3GaN2 1.5g、並びに溶媒102としてLiCl 4.5gとを順次加えた。固体のLi3GaN2は、篩を使用して2μm未満の粒径のものを除外し、2μm以上の粒径のものを選んで使用した。(2)Ti製反応容器104を石英製反応管105に入れ、石英製反応管105のガス導入口110およびガス排気口106を閉状態にした。
(3)石英製反応管105をArボックスから取り出し、電気炉111にセットした。(4)真空ポンプを用いて石英製反応管内を減圧状態とした。
(5)バルブ109を開いて、ガス導入環110からN2ガスを導入し、石英反応管内を
2雰囲気とした後、バルブ107を開き、ガス排気管106を介して、N2ガスを100cm3/minで流通させた。
(6)電気炉111を用いてTi製反応容器105の内部が室温から745℃になるまで1時間かけて昇温しLiClを溶融させ、750℃で60時間保持し、Ti製反応容器104の内壁表面を窒化させた。
【0048】
(結晶成長工程)
以下に説明する結晶成長工程については、図2を参照して説明する。
(1)Arボックス中において、窒化処理後使用履歴のないTi製反応容器104中に固体のLi3GaN2 1.5gを入れ、続いてLiCl 15gを、炭化タングステン製乳鉢でよく粉砕混合してからTi製反応容器104に入れた。固体のLi3GaN2は、篩を使用して2μm未満の粒径のものを除外し、2μm以上の粒径のものを選んで使用した。
(2)Ti製反応容器104を石英製反応管105内にセットし、石英製反応管のガス導入口110およびガス排気口106を閉状態にした。
(3)石英製反応管105をArボックスから取り出し、電気炉111にセットした。石英製反応管105にガス導入管をつなぎ、導入管中を減圧にした後、さらに石英製反応管のガス導入口110を開いて石英製反応管105内を減圧してからH2 10vol%のH2/N2混合ガスで復圧し、石英製反応管105内をH210vol%のH2/N2混合ガス
雰囲気とした。その後、石英製反応管のガス排気口106を開き、H2/N2混合ガスを流
量計設定値100cm3/min(標準条件20℃、1atmにおける値)で流通させた

(4)電気炉の加熱を開始し、Ti製反応容器104の内部が室温から750℃になるまで1時間で昇温し、塩であるLiClを溶融させた。前処理として750℃で1時間保持した後、シード保持棒108の先端に取り付けたシード100をTi製反応容器中の溶液(溶融塩)102中に投入し、種結晶の回転速度が100rpmとなるように種結晶保持棒を回しながら結晶成長を行った。溶液102の底には原料101であるLi3GaN2が固体状で存在している。種結晶には(10−10)面から5°だけ(0001)面方向に傾いた面を主面とするGaN基板を用いた。
(5)6.3時間成長させた後、種結晶100を溶液102から引き上げてから炉の加熱を止め、石英製反応管105を冷却した。冷却後、石英製反応管105から種結晶を取り出し、種結晶に付着した塩を水に溶かし、種結晶の重量を重量計で測定した。種結晶の成長した重量増加は4.9mgであった。種結晶の重量増加分を成長時間で割って結晶成長速度を算出したところ、結晶成長速度は、56.6μm/dayであった。
【0049】
<実施例1:Ti製反応容器(部材)の窒化処理の後に窒化処理後使用履歴があり、部材の選定工程を含み、長さの変化率が0であるTi製反応容器を用いたGaNの結晶成長>
窒化処理工程の後、結晶成長への使用履歴がある反応容器を用いたこと、結晶成長工程の前に、反応容器の長さ(高さ)を測定する部材の選定工程(長さの変化率により使用の可否判断は行わなかった)を含むこと、かつ以下の条件(本対比実験の効果を確認する上で本質的な差ではない)で結晶成長を行った以外は、参考例1と同様にして、GaNの結晶成長を行った。
【0050】
(部材の窒化処理工程)
参考例1と同条件で行った。
【0051】
(部材の選定工程)
Ti製反応容器の長さをノギスにより測定したところ、200.0mmであった。窒化処理直後の長さ(高さ)は200.0mmであったので、長さの変化率を算出すると、0である。なお、長さの変化率が0であることから、体積変化率も0であると考えられる。長さの変化率により使用の可否判断は特に行わず、この反応容器を用いて結晶成長を行った。
【0052】
(結晶成長工程)
・種結晶には(11−22)面を主面とするGaN基板を用いた。
・結晶成長時間は6.8hであった。
結晶成長前後の種結晶の重量を測定したところ、結晶の成長量は3.6mgであり、結晶成長速度を算出したところ、結晶成長速度は、37.5μm/dayであった。
【0053】
<実施例2:Ti製反応容器(部材)の窒化処理の後に窒化処理後使用履歴があり、部材の選定工程を含み、長さの変化率が0.5%であるTi製反応容器を用いたGaNの結晶成長>
窒化処理工程の後、結晶成長への使用履歴がある反応容器を用いたこと、結晶成長工程の前に、反応容器の長さ(高さ)を測定する反応容器選定工程(長さの変化率により使用の可否判断は行わなかった)を含むこと、かつ以下の条件(本対比実験の効果を確認する上で本質的な差ではない)で結晶成長を行った以外は、参考例1と同様にして、GaNの結晶成長を行った。
【0054】
(部材の窒化処理工程)
参考例1と同条件で行った。
【0055】
(部材の選定工程)
Ti製反応容器の長さをノギスにより測定したところ、201.0mmであった。窒化処理直後の長さは200.0mmであったので、長さの変化率を算出すると、0.5%であった。なお、長さの変化率が0.5%であることから、体積変化率は1.5%であると考えられる。長さの変化率により使用の可否判断は特に行わず、この反応容器を用いて結晶成長を行った。
【0056】
(結晶成長工程)
条件:
・種結晶には(10−10)面から6°だけ(0001)面方向に傾いた面を主面とするGaN基板を用いた。
・結晶成長時間が7hであった。
結晶成長前後の種結晶の重量を測定したところ、結晶の成長量は4.5mgであり、結晶成長速度を算出したところ、結晶成長速度は、56.5μm/dayであった。
【0057】
<比較例1:Ti製反応容器(部材)の窒化処理と、窒化処理後使用履歴があり、長さの変化率が1.0%であるTi製反応容器を用いたGaNの結晶成長>
窒化処理工程の後、結晶成長への使用履歴がある反応容器を用いたこと、結晶成長工程の前に、反応容器の長さを測定する反応容器選定工程(長さの変化率により使用の可否判断は行わなかった)を含むこと、かつ以下の条件(本対比実験の効果を確認する上で本質的な差ではない)で結晶成長を行った以外は、参考例1と同様にして、GaNの結晶成長を行った。
【0058】
(部材の窒化処理工程)
参考例1と同条件であった。
【0059】
(部材の選定工程)
Ti製反応容器の長さをノギスにより測定したところ、202.0mmであった。窒化処理直後の長さは200.0mmであったので、長さの変化率を算出すると、1.0%であった。なお、長さの変化率が1.0%であることから、体積変化率は3.0%であると考えられる。長さの変化率により使用の可否判断は特に行わず、この反応容器を用いて結晶成長を行った。
【0060】
(結晶成長工程)
条件:
・種結晶には(11−22)面を主面とするGaN基板を用いた。
・結晶成長時間が6.5hであった。
結晶成長前後の種結晶の重量を測定したところ、結晶の成長量は0.2mgであり、結晶成長速度を算出したところ、結晶成長速度は、2.3μm/dayであった。参考例1、実施例1、2、比較例1の結果について、表1にまとめて記載する。
【0061】
【表1】

【0062】
表1の結果から、結晶成長工程に使用した部材(反応容器)が、未使用の状態に比べて膨張し、寸法が変化していることが確認される。また、特定の大きさまで膨張した部材を使用して結晶成長を行うと、第13族窒化物半導体結晶の成長速度が著しく低下することが明らかである。
【符号の説明】
【0063】
100 種結晶(GaN)
101 原料(Li3GaN2
102 融液もしくは溶媒(LiCl)
103 ワイヤー(Ta製)
104 反応容器
105 石英製反応管
106 ガス排気管
107 バルブ
108 種結晶保持棒(W製)
109 バルブ
110 ガス導入管
111 電気炉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期表第13族金属窒化物半導体結晶の製造に使用する部材の選定方法であって、
前記部材の体積及び/又は寸法を測定し、未使用の状態からの体積変化及び/又は寸法変化を指標として前記部材を選択することを特徴とする、部材の選定方法。
【請求項2】
未使用状態からの寸法変化率の最大値が、0.8%以下である部材を選択する、請求項1に記載の部材の選定方法。
【請求項3】
未使用状態からの体積変化率が、2.4%以下である部材を選択する、請求項1又は2に記載の部材の選定方法。
【請求項4】
前記部材が周期表第4〜6族元素、Sc、Y、Ni及びPdから選ばれる少なくとも1種を含むものである、請求項1〜3の何れか1項に記載の部材の選定方法。
【請求項5】
前記部材が周期表第4〜6族元素、Sc、Y、Ni及びPdから選ばれる少なくとも1種を含む金属又は合金でその90重量%以上が構成されているものである、請求項1〜4の何れか1項に記載の部材の選定方法。
【請求項6】
前記部材が表面に周期表第4〜6族元素から選ばれる少なくとも1種を含有する窒化物が形成されたものである、請求項1〜5の何れか1項に記載の部材の選定方法。
【請求項7】
前記周期表第13族金属窒化物半導体結晶の製造が、反応系中に水素元素を含む成分が存在する製造方法である、請求項1〜6の何れか1項に記載の部材の選定方法。
【請求項8】
前記部材が、反応容器、撹拌翼、種結晶保持棒、種結晶保持台、バッフル、ガス導入管及びバルブから選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜7の何れか1項に記載の部材の選定方法。
【請求項9】
請求項1〜8の何れか1項に記載の部材の選定方法によって部材を選択する選定工程、原料及び溶媒を含む溶液又は融液を作製する工程、並びに前記溶液又は融液中で周期表第13族金属窒化物半導体結晶をエピタキシャル成長させる成長工程を含む周期表第13族金属窒化物半導体結晶の製造方法であって、
前記融液又は溶液を作製する工程及び/又は前記成長工程が、前記選定工程で選択された部材及び/又は前記部材を含む装置を用いて行われることを特徴とする、周期表第13族金属窒化物半導体結晶の製造方法。
【請求項10】
前記成長工程が、反応系中に水素元素を含む成分が存在するものである、請求項9に記載の周期表第13族金属窒化物半導体結晶の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−100208(P2013−100208A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245856(P2011−245856)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】