説明

周波数補正機能を有する圧電発振器

【課題】 エージング特性に優れ、低価格且つ、メンテナンスフリーな圧電発振器を提供する。
【解決手段】外部装置等から供給されるAFC信号を入力するAFC端子を備えた電圧制御型圧電発振器に於いて、温度センサと、各温度に於いて発生すべき当該発振器の周波数制御電圧に関する情報を記憶する為の書き換え可能な補正電圧記憶部と、前記補正電圧記憶部に記憶した情報を読み出し、該情報を基に前記制御電圧を制御する為の手段と、前記AFC信号によって所望の周波数で発信するようAFC制御する手段と、環境温度がほぼ基準温度のときに前記補正電圧記憶装置の内容をそのときのAFC信号に基づいて生成された制御電圧の情報に書き換えることを特徴とした周波数補正機能を備えることにより、リフローまたはエージング等により発生する周波数のズレを自動的に補正する為、製造コストの低下に伴う圧電発振器の低価格化が達成されると共に、搭載後のメンテナンスが不要になるという効果を奏する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は例えば網同期装置や携帯電話端末等に用いられる水晶発振器に関し、特に周波数補正機能を付加し発振周波数を長期間に亘って安定化した周波数補正装置付圧電発振器に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、圧電発振器例えば、水晶発振器の周波数安定度の向上、小型化、価格低減等はめざましいものがあり、網同期装置や携帯電話端末等の普及に大いに貢献している。通信機器の基準周波数源として用いられる水晶発振器の出力周波数は種々の要因で変化するが、周囲温度、電源電圧及び出力負荷等の条件変化による周波数変動については、これに対応する手段を講ずることができる。例えば温度変化に関しては水晶発振器に温度補償回路を付加すれば、温度変化による周波数変化を所望値の範囲におさめることができる。
【0003】温度補償水晶発振器(以下、TCXOと称す)は発振ループの負荷容量が変化すると発振周波数が変動するという周知の現象を利用して、水晶振動子固有の温度−周波数特性変動を相殺するように前記負荷容量を温度変化に対して制御するものであって、大きく分けて3つの補償方法がある。第1は直接型補償と称される方法であって、図7(a)に示すように補償回路を水晶振動子と直列に接続したものである。
【0004】同図に示すTCXOは、温度センサ(サーミスタ等)とコンデンサとを並列に接続したものを基本構成とする高温部補償回路と低温部補償回路との直列回路から構成する補償回路を備えており、その構成が単純で、小型化が容易であることから、携帯電話等の分野で広く用いられている。第2は間接型補償と称される方法であって、図7(b)に示すように可変容量ダイオードを水晶振動子と直列に接続すると共に、補償回路を高周波阻止抵抗Rを介して可変容量ダイオードの両端に接続したものである。この方法はサーミスタと抵抗とで構成される補償電圧発生回路において発生する直流電圧を前記高周波阻止抵抗Rを介して上記可変容量ダイオードDに加える構成とし、前記補償電圧発生回路の制御による周波数変化量が水晶振動子の温度特性と逆特性になるようにすることにより、水晶発振器の温度特性を補償を行うものである。
【0005】第3はデジタル型補償と称されている方法であって、図8に示すように第2の補償方法で示した補償回路を温度センサ、半導体メモリ、A/Dコンバータ、D/Aコンバータ等を用いてデジタル的に処理する補償方式である。これらTCXOにより、現用の携帯電話システムの端末機用の基準周波数源に要求されている周波数安定度(温度範囲-25〜75℃で±2〜2.5ppm)が実現されている。
【0006】一方、最近の携帯電話システムでは端末機用の基準周波数源として更に高い周波数安定度(例えば±0.2ppm )が要求されている。この要求を満たす為に、従来携帯電話端末の基準周波数源として電圧制御機能を備えたTCXO(VC−TCXOと称する)を用い、基地局から発射される高安定な信号の周波数に前記VC−TCXOの出力を同期させることにより、通信時の携帯電話端末の基準周波数源の周波数安定度を極めて高く保つ方法が用いられている。ここで、VC−TCXOを説明する前に電圧制御水晶発振器(VCXO)について少し触れておく。図9に示す発振回路は電圧制御水晶発振器の一例であり、水晶振動子と増幅器との発振ループ中に可変容量ダイオードCDを挿入し、その両端に高周波阻止抵抗Rを介して制御電圧Vを印可することによって可変容量ダイオードCDの容量を変化させる。これにより、発振ループの負荷容量の一部である可変容量ダイオードCDの容量が変化すると発振周波数が変動することを利用して回路の発振周波数を制御する水晶発振器である。
【0007】VC−TCXOはTCXOにVCXOの機能を付加したものであって、図10は従来のVC−TCXOの一例を示す構成図である。同図に示すVC−TCXOは、温度センサ部31、温度補償電圧発生部32及び可変容量ダイオードD1とから構成される温度補償回路Temと、水晶振動子Y1、増幅部及び外部信号電圧を印加する可変容量ダイオードD2から成るVCXOとから構成される。
【0008】この様な構成のVC−TCXOは、周囲温度を温度センサ部31が感知し、その時の感知情報に応じて温度補償電圧発生部32から発生した電圧が可変容量ダイオードD1に印加され、水晶振動子の温度を相殺して常にほぼ一定の周波数を発生する。更に水晶振動子と直列に接続された可変容量ダイオードD2に、外部の基準信号に同期させる為のAFC電圧VAFCを供給すればVC−TCXOの発振周波数は外部基準信号と同等の精度の周波数安定度となる。
【0009】尚、携帯電話端末等の内部発振器周波数を基地局の周波数に同期させる自動周波数制御回路を一般にAFC回路と称している。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来の水晶発振器においては該発振器を装置に実装する際のリフロ−等による水晶振動子への熱衝撃やエージング等により発振周波数のズレが生じる場合がある。一般に従来この様な周波数のズレは、ユーザにより発振ループに挿入したトリマーコンデンサを用いて補正を行っていたが、これに伴ない調整工程が増加するという問題があった。また、エージングによる周波数の経年変化は製造時の調整では如何ともしがたく、ユーザーによるメンテナンスが必要になるという欠点があった。更に、例えば上記のような発振器を基準周波数源として用いる携帯電話に於いては、エージングにより周波数のズレが大きくなると、AFC制御による発振周波数の再同期に時間がかかると共に、そのズレが極めて大きくなると同期を行うことが不可能となり、携帯端末としての機能が得られなくなる場合があった。本発明は上記問題を解決する為になされたものであって、ユーザーによる出力周波数の再調整を不要とする水晶発振器を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決する為の手段】上記目的を達成する為に本発明に係る周波数補正装置付温度補償水晶発振器の請求項1記載の発明は、外部装置等から供給されるAFC信号を入力するAFC端子を備えた電圧制御型圧電発振器に於いて、温度センサと、常温に於いて発振すべき当該発振器の規定周波数に対する周波数偏差を所望値以下にする為の制御電圧に関する情報を記憶する為の書き換え可能な補正電圧記憶部と、前記補正電圧記憶部に記憶した情報を読み出して該情報を基に前記制御電圧を制御する為の手段と、前記AFC信号によって所望の周波数で発振するようAFC制御する手段と、環境温度がほぼ基準温度のときに前記補正電圧記憶部の内容をそのときのAFC信号に基づいて生成された制御電圧の情報に書き換えることを特徴とする。
【0012】請求項2記載の発明は、外部装置等から供給されるAFC信号を入力するAFC端子を備えた電圧制御型圧電発振器に於いて、温度センサと、常温に於いて発振すべき当該発振器の規定周波数に対する周波数偏差を所望値以下にする為の制御電圧に関する情報を記憶する為の書き換え可能な補正電圧記憶部と、前記補正電圧記憶部に記憶した情報を読み出して該情報を基に前記制御電圧を制御する為の手段と、前記AFC信号によって所望の周波数で発振するようAFC制御する手段と、環境温度がほぼ基準温度であり、且つ、この時の制御電圧の値が前記自動周波数制御回路の基準電圧の時の制御電圧と異なる値であるときに前記補正電圧記憶部の内容をそのときのAFC信号に基づいて生成された制御電圧の情報に書き換えることを特徴とする。
【0013】請求項3記載の発明は請求項1または請求項2記載の発明に加え、前記圧電発振器は、更に、書き換えトリガー端子を備え、該書き換えトリガー端子に書き換えトリガー信号が供給された場合、前記補正電圧記憶部の内容を書き換えることを特徴とする。請求項4記載の発明は請求項1乃至請求項3記載の発明に加え、制御電圧に応じて周波数が変化する電圧制御型圧電発振器に於いて、前記制御電圧に関する情報を記憶する為の書き換え可能な補正電圧記憶部を備え、発振が停止した状態から再起動する際に前記補正電圧記憶部に記憶した情報を読み出すことを特徴とする。請求項5記載の発明は請求項1乃至請求項4記載の発明に加え、前記圧電発振器が水晶発振器であることを特徴とする。
【0014】請求項6記載の発明は請求項5記載の発明に加え、前記圧電発振器がATカット水晶振動子を発振源とする水晶発振器であることを特徴とする。請求項7記載の発明は請求項6記載の発明に加え、前記基準温度が25℃±10℃であることを特徴とする。請求項8記載の発明は請求項5記載の発明に加え、前記圧電発振器がSCカット水晶振動子を発振源とする水晶発振器であることを特徴とする。請求項9記載の発明は請求項1乃至請求項8記載の発明に加え、前記圧電発振器が温度補償型圧電発振器または圧電振動子を加熱する構成を備えた圧電発振器であることを特徴とする。
【0015】
【発明の実施の形態】以下本発明を図面に示した実施の形態に基づいて詳細に説明する。図1は本発明の一実施例である圧電発振器としての電圧制御型温度補償水晶発振器(以下、VC−TCXOと称す)の構成原理と動作を総括的に説明する為のブロック図である。図1に示すように本発明に基づくVC−TCXOは水晶発振部1と、該水晶発振部1の周波数温度特性を補償する為の温度補償電圧を発生する温度補償部2と、上述したように例えば携帯電話端末等に於いて、VC−TCXOに供給されるAFC回路からのAFC電圧と周波数補正部3からの補正電圧とに基づく制御電圧を前記水晶発振部1に供給する為の電圧供給部4と、前記周波数補正部3に補正電圧に関する情報を供給する補正電圧記憶部5と、環境温度がほぼ基準温度であるか否かを判定し、前記補正電圧記憶部5の記憶内容を書き換え得る状態であることを示す信号を発生する第一の監視部6と、前記制御電圧VADが基準制御電圧VADJと異なる時、前記補正電圧記憶部5の記憶内容を書き換えるべき状態であることを示す信号を発生する第二の監視部7と、前記第一の監視部6と第二の監視部7及び、発振器のトリガー端子TRGとから書き換えるべき状態であることを示す信号が供給された時、前記補正電圧記憶部5の内容をその時の制御電圧の情報に基づいて書き換える為の書き換え許可信号を発生する書き換え許可部8とを備えている。
【0016】尚、前記トリガー端子TRGには、例えば当該発振器を搭載した携帯電話機等のCPU等から書き換え指令信号としてトリガー信号が供給される。
【0017】図2は、前記図1に示したVC−TCXOの具体的構成例を示した図である。前記水晶発振部1は水晶振動子Y1と、該水晶振動子Y1の信号を増幅する為の増幅器AMPと、前記水晶振動子Y1と接地との間にダイオードD1及び、ダイオードD2を含んで発振ループを形成している。尚、コンデンサC1及び、コンデンサC2は直流カット用のコンデンサである。前記温度補償電圧発生部2は、温度センサ9と例えば抵抗回路網から成る補償回路10とを備え、発生した温度補償電圧を前記ダイオードD2のカソードに供給するよう構成する。
【0018】前記周波数補正部3はオペアンプU1とD/Aコンバータ11とを備え、前記オペアンプU1の反転入力端子に前記D/Aコンバータ11を接続するよう構成する。前記電圧供給部4は、結果的にAFC回路からAFC端子を介して供給されるAFC電圧VAFCと、前記周波数補正部3より供給される補正電圧VADJとの差である制御電圧VAFC − VADJを前記発振回路部1のダイオードD1に供給するよう構成され、更に、該制御電圧VAFC − VADJをオペアンプU2の反転・非反転入力端子間電圧として供給すると共に、前記オペアンプU2の出力はラッチ回路12にA/Dコンバータ13を介し接続するよう構成する。
【0019】また、前記補正電圧記憶部5は、データの書き換えが可能なEE−PROM14と、該EE−PROM14の記憶情報を読み出す為の読み出し可否付きラッチ回路15と、該ラッチ回路15を介して送られてくる前記EE−PROM14の記憶情報を一時的に記憶する為のRAM16とを備え、更に、該RAM16が出力する前記情報を前記D/Aコンバータ11に供給するよう構成する。前記第一の監視部6は、電圧コンパレータU3とU4とNANDゲートU5とを備え、前記電圧コンパレータU3の非反転入力端子と記電圧コンパレータU4の反転入力端子とに前記温度センサ9の温度感知データを入力するよう接続すると共に、それぞれの電圧コンパレータの他の一方の入力端子に基準電圧VSENS1とVSENS2とを供給するよう接続し、更に、それぞれの電圧コンパレータの出力を前記NANDゲートU5の入力に接続するよう構成する。
【0020】前記第二の監視部7は、前記電圧供給部4の制御電圧値を監視するものであり、電圧コンパレータU6の非反転入力端子と電圧コンパレータU7の反転入力端子とに前記オペアンプU2の出力端子を接続すると共に、それぞれの他の一方の入力端子に基準電圧VSENS3とVSENS4とを供給するよう接続し、更に、それぞれの電圧コンパレータの出力を前記ORゲートU8の入力に接続するよう構成する。前記書き換え許可部8は、ANDゲートU9を備え、第一及び第二の監視部の出力と発振器トリガー端子TRGとを該ANDゲートU9の入力に接続すると共に、該ANDゲートU9の出力信号に基づき前記EE−PROM14のデータ書き換えが可能となるよう構成している。
【0021】この様な構成のVC−TCXOの動作について以下に説明する。先ず、発振回路部1がATカット水晶振動子Y1を発振源とする発振器であるものとし、且つ、その周波数温度特性が図3の実線で示すように第1象現と第3象現とに位置するものであるとする。完成したVC−TCXOは、工場出荷前に常温25℃に於いて、その周波数が規定周波数(公称値)になるように周波数調整を行う必要がある。この調整は従来常温(25℃)の環境下に於いて発振ループ中に挿入したトリマコンデンサを操作し規定周波数になるようにしていた。本発明は、原理的にトリマーコンデンサの代わりに前記RAM16に必要なデータを記録するものである。
【0022】即ち、このように調整されたVC−TCXOが、もし、全く経年変化が無く25℃に於ける発振周波数が変化しなければ問題ないが、一般に上述したように経年変化は避けられない。そこで、本発明は前記EE−PROM14に記録したデータを書き換えることによって、上記経年変化分を補正する。即ち、例えば携帯電話端末に組み込んだ本発明のVC−TCXOの出力周波数は、携帯電話端末等のAFC回路から供給されるAFC電圧VAFCと、前記EE−PROM14の情報に基づくデジタル信号をD/Aコンバータ11によりアナログ化しこれをオペアンプU1により増幅して得た周波数補正電圧VADJとの差を制御電圧としてダイオードD1に印可することにより、該前記ダイオードD1の端子間容量が制御電圧VAFC − VADJに応じた交流等価容量値となり基地局から送信される極めて高精度な搬送波周波数の安定度と一致するよう制御される。
【0023】この時、同時に前記制御電圧は前記オペアンプU1を介してA/Dコンバータに供給され、デジタル情報に変換された後、前記ラッチ回路12に一時記憶される。
【0024】一方、前記温度補償回路2は水晶振動子Y1の周波数温度特性が安定となるように前記ダイオードD2間の容量値を制御するよう温度補償電圧VCOMPを発生する。この補償電圧VCOMPを可変容量ダイオードD2に印加することにより、可変容量ダイオ−ドD2の交流等価容量が変化し、発振部の発振周波数が制御されて、温度変化に対し発振部の周波数を規定値内に保つように動作する。
【0025】次に前記第一の監視部6は、温度センサ9の温度信号を前記電圧コンパレータU3とU4に供給し、これらの電圧コンパレータに予め設定した最低温度T1として例えば15℃(基準温度25℃に対し−10℃)以上の最高温度T2として例えば35℃(基準温度25℃に対し+10℃)以下の範囲に於いてのみ、EE−PROM14へのデータ書き換えを行う機能を有している。ここで、温度センサ9として例えば、半導体のPN接合バンドギャップ電圧変化(約−2mV/℃)を呈するダイオードを用いれば、温度センサ9の出力電圧は図4に示すように温度上昇と共に一定の割合で減少する特性となる。前記第一の監視部6は、最低温度T1での前記温度センサ9の出力電圧に相当する電圧VSENS1を電圧コンパレータU3の負側の入力端子に供給し、温度センサ電圧がVSENS1より高ければU3の出力は「HIGH」レベルとなるように設定する。
【0026】同様に、最高温度T2での前記温度センサ9の出力電圧に相当する電圧VSENS2を電圧コンパレータU4の正側の入力端子に加え、温度センサ9出力電圧がVSENS2より低ければU4の出力は「HIGH」レベルとなるように設定する。これによりNANDゲートU5は温度センサ出力電圧がVSENS1とVSENS2との範囲にある時にのみ書き換え可能信号である「HIGH」レベル信号を出力する。ここで、基準温度25℃±10℃の範囲に於いて、前記EE−PROM14の内容を補正する理由について説明する。TCXOの周波数は、基準温度として常温25℃±2℃の環境温度にて調整を行うのが一般的である。
【0027】そして、発振器は25℃での周波数f0を基準として上記の周波数温度特性を温度補償回路を用いて温度補償することにより図3の点線で示すような安定な周波数温度特性を得ている。図3の実線で示すように、25℃よりも高温または低温になるほど水晶振動子固有の周波数温度特性は基準周波数f0(25℃の時の周波数)から大きくズレる為、より多くの補償を必要とする。その為、温度補償回路による補償が不完全となった場合、25℃よりも高温及び、低温域に於いては基準周波数f0に対して大きな周波数偏差が生じてしまう傾向が高い。
【0028】一方、基準温度25℃近傍に於いては、図3R>3の実線に示すように周波数偏差は、小さい為、温度補償回路による温度補償量がそもそも小さく必然的に基準周波数f0に近い値となり補償回路による補償が不完全となっても安定な周波数温度特性が得られる。
【0029】従って、エージングによる発振周波数のズレを補正する際には、周波数温度特性の偏差量が比較的小さい基準温度(常温25℃)、若しくはその近傍にて実施するのが理想的であるが、あまりにも狭範囲に設定すると補正を行う条件が得られる頻度が小さくなり、十分に周波数の補正機能を生かすことができない。即ち、一般に携帯無線機等が使用される温度は常温近傍が比較的多いことからも、周波数安定度が比較的高安定である25℃±10℃という温度範囲を選択したところが本発明の特徴の一つである。
【0030】次に第二の監視部7は、前記制御電圧を電圧コンパレータU6、U7に供給し、これらの電圧コンパレータに予め設定した最低電圧VSENS3と最高電圧VSENS4との範囲内では発振回路部1の出力周波数が補正を必要とするほど変動していないと判断し、EE−PROMへのデータ書き換えを禁止する機能を有する。即ち、前記制御電圧がVSENS3より高ければU6の出力は「HIGH」レベルとなるように設定し、VSENS4より低ければU7の出力は「HIGH」レベルとなるように設定し、これによりORゲートU8は制御電圧がVSENS3以上及びVSENS4以下の範囲にある時にのみ書き換え可能信号である「HIGH」レベル信号を出力する。
【0031】尚、電圧VSENS1と電圧VSENS2及びVSENS3とVSENS4とは例えば定電圧回路を用いて発生させ、 更に、VSENS3とVSENS4とを基準温度25℃に於ける周波数偏差規格の最大及び最小値となる電圧とすることが望ましい。書き換え許可部8は、前記第一及び第二の監視部からの書き換え可能信号と、更に、発振器トリガー端子TGRより供給される信号も発振器動作状態が書き換え可能であることを示す「HIGH」レベルの書き換え可能信号が供給されると、前記ANDゲートU9より前記EE−PROM14の記憶情報を書き換え可能とする「HIGH」レベルの書き換え許可信号が出力され、前記ラッチ回路12に一時的に記憶していおいた制御電圧に関する情報にEE−PROM14の情報が書き換えられる。
【0032】次に、本発明に基づくVC−TCXOを用いた携帯電話端末においてそのキャリア周波数を基地局周波数に同期させる動作の一例を説明する。前記発振回路部1の出力が、基準周波数信号として当該携帯電話端末に備えられたPLL回路等を含むシンセサイザーに加えられ所要倍逓倍して該端末のキャリア周波数を発生すると、AFC回路は該周波数と基地局から発射され当該端末の受信部にて受信された周波数情報と比較し、その周波数又は位相差がゼロになるように、前記VAFCを制御する。即ち、前記AFC回路は、VC−TCXOが携帯電話端末に組み込まれた時点で規定周波数を出力するよう設定された基準電圧VAFC(0)に前記位相差を補正する為のVAFCJを加えたVAFCを発生する。これにより前記携帯電話端末の基準周波数は基地局の搬送波と同等の極めて高い周波数安定度となり得る。尚、AFC回路が動作していない場合、若しくは、AFC回路が動作開始直後は、基準電圧VAFC(0)が発振器AFC端子に印加されている。
【0033】次に、同期した状態をVC−TCXOが備えるメモリEE−PROMに保持する動作について説明する。可変容量ダイオードD1のアノ−ド、カソ−ド間に印加される電圧、VAFC−VADJはオペアンプU2によって電圧VADに変換され、A/Dコンバ−タによってデジタルデ−タDADに変換される。一方、電源投入後メモリEE−PROM14は、自身に記憶されているデジタルデ−タをRAMに転送した後、ラッチ回路15のREAD DISABLEモ−ドにおいてRAM16と切り離されて書き換えモ−ドに設定され、携帯電話端末からの同期信号LOCKによって上述したデジタルデ−タDADがラッチ回路12を介して書き込まれる。この一連の動作によって、その時点におけるVC−TCXOによって基地局の周波数と一致した発振周波数を得る為に必要な制御電圧情報がメモリEE−PROM14に記憶される。この情報は、前記電圧VAFC−VADJの変動量分だけ変化したVADJの電圧値に関するものである。そして、これにより再度AFC回路が制御する際は、VAFC = VAFC(0)にてVC−TCXOの出力が規定周波数に制御される。
【0034】即ち、ある温度において前記VC−TCXOの発振周波数が基地局から送信された高安定度の周波数信号に同期するようにVC−TCXOの制御が設定されるということは、その時点において水晶振動子の温度周波数特性あるいはその他の周辺部品のリアクタンス等が経年変化によって最初の出荷調整時と異なったものになったとしても当該VC−TCXOが希望する発振周波数を出力するよう可変容量ダイオードD1に印加すべき電圧を補正したことになる。
【0035】以後、携帯電話端末が電源投入される時、EE−PROM14に記憶された情報を上述のようにEE−PROM14からRAM16へ読み込み、これにより発生したデジタル信号をD/Aコンバータ11によりアナログ変換して、可変容量ダイオードD1に周波数補正電圧VADJとして印加することにより、VC−TCXOの発振周波数が高精度に維持されることになる。このように、AFC回路によりEE−PROM14に記憶した制御電圧情報を更新すれば、VC−TCXOの周波数精度を経年変化にかかわらず一定値内に保持することが可能となる。尚、携帯電話端末の電源を切ってもEE−PROMのデ−タが保持されることは言うまでもない。
【0036】次に、本発明の理解をより助ける為上述の動作を図5に示すフローチャートと具体的数値を用いて説明する。先ず、周波数同期用電圧VAFCは一般にその電圧範囲と基準電圧値VAFC(0)が決められており、ここでは例えば電圧範囲を+0.5V≦VAFC≦+2.5V、基準電圧値をVAFC(0)=+1.5Vとする。また、オペアンプU1、U2の電圧利得は共に1、すなわちG1=G2=1に設定した場合、A/Dコンバ−タの入力電圧VADと可変容量ダイオ−ドD1の印加電圧VAFC−VADJとの関係は VAD=VAFC−VADJ (1)
である。また、D/Aコンバ−タの出力電圧VDAと、オペアンプU2の出力電圧、即ち、可変容量ダイオ−ドD1のアノ−ド印加電圧VADJとの関係は VADJ=VAFC(0)−VDA (2)
となる。
【0037】始めにVC−TCXOはVAFCを基準電圧値VAFC(0)=+1.5Vに設定した状態で、その発振周波数を規定周波数に精度良く合わせる。この周波数調整はFADJ端子からデジタルデ−タを入力し、発振周波数が所望周波数になった時点で、このデジタルデ−タをラッチ回路12を介してEE−PROM14に書き込むことで行われる。この時のD/Aコンバ−タの出力電圧をVDA=+1.0Vとすると、(2)式よりVADJ=+0.5V、(1)式よりVAD=+1.0Vとなる。
【0038】上記VC−TCXOに熱衝撃等が加えられず、また、エージングによる周波数変化もなく、且つ携帯電話端末に実装した後もVC−TCXOがその調整時の発振周波数を維持している場合には、前記第二の監視部7に於いて、調整時と現時点での制御電圧がほぼ等しいことを検出するから、改めて前記EE−PROM14の情報を書き換える必要が無いと判断し、第二の監視部7から書き換え可能信号を出力しないので、EE−PROM14のデ−タは変化しない。
【0039】一方、 VC−TXCOが経時変化等により内蔵する水晶振動子や周辺部品等の特性変動に伴ってその発振周波数が変化した場合、当然ながら同期電圧VAFCが変化したことをきっかけとして、周囲の温度がほぼ基準温度(例えば25℃±10℃)であって、携帯電話端末機が送受信を行っていない待ち受け状態になったことを検知した時点でRAM16の内容の書き換えを実行する。仮に基地局周波数に一致させる為のAFCの同期電圧がVAFC=+1.7Vとなったとすると、式(1)より、VAD=+1.7V −0.5V=+1.2Vとなり前記第二の監視部7がこの値が最大基準電圧とした1Vより高電圧であることに基づき周波数偏差の許容範囲を超えたと判断し、前のVAD =1Vに代ってVAD =1.2Vなる値が、デジタルデ−タに変換されてEE−PROM14に書き込まれる。
【0040】従って、書き換え直後の動作時または、発振器の再起動時にて、VAFC=VAFC(0)=+1.5Vで周波数同期を得る為には、式(2)より、VADJ=1.5V−1.2V=+0.3Vとなる。この値を式(1)に代入すると、VAD=1.5V−0.3V=1.2Vとなり同期が得られる。従って基準電圧値VAFC=VAFC(0)=+1.5Vの同期電圧で周波数同期が得られることになり、周波数は自動的に補正されたことになる。
【0041】以上、携帯電話端末等に使用されるVC−TCXOの一例をもとに本発明を説明したが、その他のアプリケ−ション、例えば温度補償機能を備えない単なる電圧制御水晶発振器(VCXO)等においても、必要な機能ブロックを備えれば同様に本発明が適用することが可能である。更に、上記説明にて電源再投入時にEE−PROMの記憶情報を書き換える動作を例に上げ本発明を説明したが、本発明はこれに限定されるものでなく図6に示すように温度と制御電圧と装置状態及び、書き換えタイミングがすべて書き換え可能条件を満たす状態にてEE−PROM内の記憶情報を書き換え、周波数を補正するよう動作するものであっても良い。
【0042】また、上記説明にて装置が補正すべき状態である時にトリガー端子にトリガー信号が供給されるのみの構成として説明したが、本発明はこれに限定されるものでなく、前記発振器が周波数補正すべき状態である時、前記CPUにトリガー信号の供給を要求するリクエスト信号を送り、この時、装置が補正すべき状態であれば該CPUがトリガー信号を前記書き換え許可部に供給するよう構成しても良い。また、本発明をTCXOを用いて説明したが本発明はこれに限定されるものでなく、保温型発振器として例えば恒温槽型圧電発振器であっても良く、この場合、恒温槽の設定温度が基準温度となるよう前記第一の監視部及び第二の監視部を設定することが望ましい。
【0043】更に、本発明をATカット水晶振動子を発振源とする水晶発振器を用いて説明したが本発明はこれに限定するものでなく、SCカット水晶振動子またはその他の圧電素子からなる振動子を発振源とする圧電発振器であっても良い。例えば、水晶発振器の周波数を外部信号に同期し、同期時の状態、制御電圧等の情報を同期信号によって半導体メモリに書き換え、電源投入時はこれを読み出し、またこれを間欠的に書き換えることによって経年変化が生じたとしても水晶発振器の周波数を一定値以内に保持することが可能となる。
【0044】
【発明の効果】本発明は以上説明したように構成したので、発振器を実装する際のリフロー等による圧電振動子への熱衝撃やエージング等により発振部の周波数が変化する場合であっても、周波数補正部によりこの変化を自動的に補正してその状態を補正電圧記憶部にて記憶し、更新することができる為、周波数の補正工程の削減が可能となり、これにより発振器搭載時及び発振器搭載後に於いて、周波数調整を行うというメンテナンス作業が不要となるという効果を奏すると共に、例えば携帯端末機に用いた場合、エージングによる周波数ズレが無い為、AFC制御による再同期が短時間で行えるという効果を奏し、より使い勝手が良いものとなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】全体回路を機能別ブロック図で表した図である。
【図2】本発明に係る周波数補正機能を有する圧電発振器の実施の一形態例を示す図である。
【図3】水晶振動子及びTCXOの周波数温度特性を示す図である。
【図4】図2の温度センサ出力電圧を説明する図である。
【図5】本発明に係る周波数補正機能を有する圧電発振器の調整フローを示す図である。
【図6】本発明に係る周波数補正機能を有する圧電発振器の他の調整フローを示す図である。
【図7】(a)は従来の直接型温度補償水晶発振器、(b)は間接型温度補償水晶発振器の回路図である。
【図8】デジタル型温度補償水晶発振器の回路図である。
【図9】一般的な電圧制御水晶発振器の回路図である。
【図10】従来のVC−TCXOを示す回路図である。
【符号の説明】
Y1・・水晶振動子
D1、D2・・可変容量ダイオ−ド
C1、C2・・コンデンサ
R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10、R11・・抵抗
U1、U2、 ・・オペアンプ
U3、U4、U6、U7・・電圧コンパレータ
U5、U6・・NANDゲ−ト
U8・・・ORゲート
U9・・・ANDゲート
AMP・・増幅器
1・・・・発振回路部
2・・・・温度補償電圧発生回路
3・・・・周波数補正部
4・・・・電圧供給部
5・・・・補正電圧記憶部
6・・・・第一の監視部
7・・・・第二の監視部
8・・・・書き換え許可部
9・・・・温度センサ
10・・・補償回路
11・・・D/Aコンバータ
12・・・ラッチ回路
13・・・A/Dコンバータ
14・・・EE−PROM
15・・・ラッチ回路
16・・・RAM
11・・温度センサ
12・・温度補償電圧発生回路
COMP・・温度補償電圧
AFC・・・AFC電圧
AFC(0)・・AFC電圧
ADJ・・・・基準電圧
SENS1・・温度センサ出力電圧低温側設定値
SENS2・・温度センサ出力電圧高温側設定値
INPUT A/D /RAM・・EE−PROM書き換えデ−タ、A/D、RAM切換え
LOCK・・周波数同期時EE−PROM書き換え命令信号
MODE READ/WRITE・・EE−PROM読み出し、書き換えモ−ド選択
READ ABLE/DISABLE・・RAMのデ−タ読み出し可能、不能選択
ADJ DATA・・周波数調整デ−タ入力
WRITE ABLE/DISABLE ・・書き換え許可、不許可信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】外部装置等から供給されるAFC信号を入力するAFC端子を備えた電圧制御型圧電発振器に於いて、温度センサと、常温に於いて発振すべき当該発振器の規定周波数に対する周波数偏差を所望値以下にする為の制御電圧に関する情報を記憶する為の書き換え可能な補正電圧記憶部と、前記補正電圧記憶部に記憶した情報を読み出して該情報を基に前記制御電圧を制御する為の手段と、前記AFC信号によって所望の周波数で発振するようAFC制御する手段と、環境温度がほぼ基準温度のときに前記補正電圧記憶部の内容をそのときのAFC信号に基づいて生成された制御電圧の情報に書き換えることを特徴とする周波数補正機能を有する圧電発振器。
【請求項2】外部装置等から供給されるAFC信号を入力するAFC端子を備えた電圧制御型圧電発振器に於いて、温度センサと、常温に於いて発振すべき当該発振器の規定周波数に対する周波数偏差を所望値以下にする為の制御電圧に関する情報を記憶する為の書き換え可能な補正電圧記憶部と、前記補正電圧記憶部に記憶した情報を読み出して該情報を基に前記制御電圧を制御する為の手段と、前記AFC信号によって所望の周波数で発振するようAFC制御する手段と、環境温度がほぼ基準温度であり、且つ、この時の制御電圧の値が前記自動周波数制御回路の基準電圧の時の制御電圧と異なる値であるときに前記補正電圧記憶部の内容をそのときのAFC信号に基づいて生成された制御電圧の情報に書き換えることを特徴とする周波数補正機能を有する圧電発振器。
【請求項3】前記電圧制御型圧電発振器は、更に、書き換えトリガー端子を備え、該書き換えトリガー端子に書き換えトリガー信号が供給された場合、前記補正電圧記憶部の内容を書き換えることを特徴とする請求項1または請求項2記載の周波数補正機能を有する圧電発振器。
【請求項4】制御電圧に応じて周波数が変化する電圧制御型圧電発振器に於いて、前記制御電圧に関する情報を記憶する為の書き換え可能な補正電圧記憶部を備え、発振が停止した状態から再起動する際に前記補正電圧記憶部に記憶した情報を読み出すことを特徴とする請求項1乃至請求項3記載の周波数補正機能を有する圧電発振器。
【請求項5】前記圧電発振器が水晶発振器であることを特徴とする請求項1乃至請求項4記載の周波数補正機能を有する圧電発振器。
【請求項6】前記圧電発振器がATカット水晶振動子を発振源とする水晶発振器であることを特徴とする請求項5記載の周波数補正機能を有する圧電発振器。
【請求項7】前記基準温度が25℃±10℃であることを特徴とする請求項6記載の周波数補正機能を有する圧電発振器。
【請求項8】前記圧電発振器がSCカット水晶振動子を発振源とする水晶発振器であることを特徴とする請求項5記載の周波数補正機能を有する圧電発振器。
【請求項9】前記圧電発振器が温度補償型圧電発振器または圧電振動子を加熱する構成を備えた圧電発振器であることを特徴とする請求項1乃至請求項8記載の周波数補正機能を有する圧電発振器。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2000−183648(P2000−183648A)
【公開日】平成12年6月30日(2000.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−351866
【出願日】平成10年12月10日(1998.12.10)
【出願人】(000003104)東洋通信機株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】