説明

呼吸用保護マスク

【課題】 吸収缶の破過時期を推定する破過曲線図を用いずに、作業者自身に呼吸用保護マスクの吸収缶の交換時期を的確に報知することができる呼吸用保護マスクを提供する。
【解決手段】 硫化水素ガスを吸収する吸収材を内臓した吸収缶を一側に着脱自在に取り付け、他側に開口部を有する保護面体と、該保護面体に連結した半導体ニオイセンサーとを具備し、前記半導体ニオイセンサーにより前記吸収缶の交換時期を報知するように構成した呼吸用保護マスク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化水素ガスを含む大気環境下で作業者が使用する呼吸用保護マスクに関する。
【背景技術】
【0002】
有毒ガスを発生する特定化学物質等の物質を扱う作業者は、一般に呼吸用保護マスクを装着し、健康被害を防止しつつ、作業を行っている。このような有毒ガス環境下で使用する呼吸用保護マスクは、労働安全衛生保護具に指定されている。その中で、有機ガス用のマスクとして特許文献1などが知られている。
しかし、毒性が強い硫化水素ガスについては、その硫化水素ガスを含む大気環境下で作業を行う場合に、高濃度の硫化水素ガスを作業者が吸い込むと健康上甚大な影響が身体に残る。このため、呼吸用保護マスクを使用するに当たって作業者は、硫化水素ガスを吸収する吸収材を内蔵した吸収缶の破過(吸収材の効果がなくなること)が生じる前に、吸収缶を交換することが、自分の安全を確保するうえで極めて重要である。
【0003】
従来から、呼吸用保護マスクの吸収缶の破過を知る手段として破過曲線図が使用されている。かかる破過曲線図は、呼吸用保護マスクの使用実績に基づいて、大気環境化で作業を行なう際に予想される有毒ガスの濃度から破過時期を推定できるようになっている。
したがって、呼吸用保護マスクを装着して作業を行う作業者は、普通、破過曲線図に基づいて推定される破過時期に至るまでの間、吸収缶の交換を行わないのが普通である。
【特許文献1】特開2002−102367号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、呼吸用保護マスク装着して作業を行う作業者は、毒性が強い硫化水素ガスを含む大気環境化で作業を行なうに際し、吸収缶の破過時期が破過曲線に基づいた推定値であるので、吸収缶の交換を行うまでの間、不安な状態で作業を行わざるを得なかった。
本発明は、上記従来技術の問題点を解消し、吸収缶の破過磁気を推定する破過曲線図を用いずに、作業者自身に呼吸用保護マスクの吸収缶の交換時期を的確に報知することができる呼吸用保護マスクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、呼吸用保護マスクについて鋭意検討し、吸収缶の破過が近いことを知らせる半導体ニオイセンサーを具備した呼吸用保護マスクとするか、もしくは、吸収缶の破過が近いことを着色度合により知らせる多孔質白色検知板を具備した呼吸用保護マスクとすることで、上記課題を解決した。
本発明は、以下のとおりである。
1.硫化水素ガスを吸収する吸収材を内臓した吸収缶を一側に着脱自在に取り付け、他側に開口部を有する保護面体と、
該保護面体に連結した半導体ニオイセンサーとを具備し、
前記半導体ニオイセンサーにより前記吸収缶の交換時期を報知するように構成したことを特徴とする呼吸用保護マスク。
2.前記半導体ニオイセンサーは、前記吸収缶を通過する硫化水素ガスの濃度が0.01〜10ppmの範囲で警報を発生する報知手段を有することを特徴とする前記1.に記載の呼吸用保護マスク。
3.硫化水素ガスを吸収する吸収材を内臓した吸収缶を一側に着脱自在に取り付け、他側に開口部を有する保護面体と、
前記吸収缶の交換時期を着色度合により報知する多孔質白色検知板とを具備し、
該多孔質白色検知板が前記保護面体内に配置されてなることを特徴とする呼吸用保護マスク。
4.前記多孔質白色検知板は、前記吸収缶を通過する硫化水素ガスの濃度が0.01〜10ppmの範囲で着色度合が変わる物質を有することを特徴とする前記3.に記載の呼吸用保護マスク。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、吸収缶の破過時期を推定する破過曲線図を用いずに、作業者自身に呼吸用保護マスクの吸収缶の交換時期を的確に報知することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、図を用いて、実施の形態について説明する。
第1実施の形態にかかる呼吸用保護マスク1は、図1に模式的に示すように、一側に吸収缶2を着脱自在に取り付けるとともに、他側に開口部3を有する保護面体4と、該保護面体4に連結した半導体ニオイセンサー5とを具備している。この吸収缶2には、硫化水素ガスを吸収する吸収材が内臓されている。半導体ニオイセンサー5は、例えば、硫化水素ガスに対する耐腐食性を有する樹脂製連結管6により、呼吸用保護マスク1の保護面体4に連結することができる。半導体ニオイセンサー5としては、公知の半導体ニオイ素子と、吸引ポンプを内蔵した装置とすることができる。
【0008】
図1に示した呼吸用保護マスク1の使用時には、吸引ポンプを作動させ、吸収缶2を通過した保護面体4内の空気を半導体ニオイセンサー5内へ導入し、半導体素子と接触させて空気中に含まれる硫化水素などの有毒ガスの濃度を検出する。
ここで、半導体ニオイセンサー5内では、硫化水素ガスの濃度が0.01ppm以上、10ppm以下の範囲内で半導体ニオイ素子が硫化水素ガスの濃度を検出して、ブザー7や濃度表示部8の点滅発光などにより警報を発するように電気回路を構成するのが好ましい。
【0009】
この理由は、吸収缶2を通過する空気中の硫化水素ガスの濃度が0.01〜10ppmの範囲で、報知手段7により警報を発するように半導体ニオイセンサー5を構成した場合には、作業者自身が呼吸用保護マスク1を装着して使用している最中に、吸収缶2を通過する硫化水素ガスの濃度が0.01ppm以上、10ppm以下の範囲内となったときに、報知手段7,8により吸収缶2の破過が近いことを知ることができ、吸収缶2の交換作業を行う必要があると判断できるからである。
【0010】
その際、報知手段7により警報を発するときの硫化水素ガスの濃度を0.01以上、10ppm以下の所定値に設定できるように半導体ニオイセンサー5の電気回路を構成することがより好ましい。なお、報知手段7により警報を発するようにした硫化水素ガスの濃度の下限値0.01ppmは、公知の半導体ニオイ素子の検出下限値であり、報知手段7により警報を発するようにした硫化水素ガスの濃度の上限値10ppmは、労働安全衛生法に定められた管理濃度である。
【0011】
次いで第2実施の形態にかかる呼吸用保護マスク11について図2により説明する。
第2実施の形態にかかる呼吸用保護マスク11は、半導体ニオイセンサー5の代わりに、吸収缶2の破過時期が近いことを着色度合いにより知らせる多孔質白色検知板12を具備し、多孔質白色検知板12が保護面体4内に配置(特許事務所のコメント:図2によると、多孔質白色検知板12は、樹脂製連結管6の接続部の上方に位置され、吸収缶2と保護面体4との間には配置されていないように見えますが、図2が不正確であれば修正をお願いします。)されている。多孔質白色検知板12には、硫化水素ガスと反応して呈色物質を生じる酢酸鉛が含浸させてある。
【0012】
多孔質白色検知板12は、例えばJIS P 3801に規定のろ紙と、JIS K 8374に規定の酢酸鉛を用い、上記酢酸鉛10gを水100mlに溶解し、酢酸鉛の水溶液中に上記ろ紙を浸漬し、その後、常温で自然乾燥させて得ることができる。
図2に示すように、多孔質白色検知板12は、開放窓を有している差込クリップ13、13の間に挟んだ状態で保護面体4に内装されている。開放窓は、図2中、上側のクリップ13に設けてある。この理由は、呼吸用保護マスク11の使用時、吸収缶2を通過したガスが開放窓から露出している多孔質白色検知板12の上側の検知面と接触するようにするためである。なお、差込クリップ13、13は樹脂製とし、多孔質白色検知板12を間に挟んだ状態で、保護面体4内に装入できるようにするのが好ましい。
【0013】
呼吸用保護マスク11の使用時において、吸収缶2を通過する空気中に硫化水素ガスが含まれている場合、その濃度とそれに曝されている曝露時間に応じて、多孔質白色検知板12の着色度合が呈色反応により増す。
呈色反応は下記の化学反応によって生じ、呈色物質であるPbSが黒色を呈するので、検知面の呈色が白色(無着色状態)からうすい黄灰色に変化し、次いで黄灰色、暗い黄灰色を経て灰色に変化する。
【0014】
Pb(CHCOO)2 + H2S → PbS↓ +2CHCOOH
そこで、呼吸用保護マスク11の使用時には、作業者自身が多孔質白色検知板12の着色度合をチェックし、検知面の着色度合の変化により、吸収缶2の破過時期が近いことを検知できるのである。
呼吸用保護マスク11から検知面の着色度合の変化により吸収缶2の破過時期が近いとの報知を作業者が受けた場合、吸収缶2の交換を行う。
【実施例】
【0015】
以下に、第2実施の形態にかかる呼吸用保護マスク11の暴露試験結果を示す。
呼吸用保護マスク11の暴露試験条件:
上記ろ紙に酢酸鉛を含浸させたものを多孔質白色検知板12とし、呼吸用保護マスク11の暴露試験を表1に示す条件(硫化水素濃度0.00〜10ppmの範囲、暴露時間60秒)及び表2に示す条件(硫化水素濃度0.00〜200ppmの範囲、暴露時間5秒)でそれぞれ行った。
【0016】
【表1】

【0017】
【表2】

【0018】
表1及び表2に示す結果から多孔質白色検知板12の検知面の着色度合は、大気中の硫化水素ガスの濃度及び硫化水素ガスを含む大気環境化での暴露時間が増すにしたがって増すことを確認した。また、多孔質白色検知板12による硫化水素ガスの検知能力は、労働安全衛生法に定められた管理濃度である10ppmに比べて十分低い低濃度領域、すなわち0.05〜1ppmの濃度の硫化水素ガスを検知することができることも判明した。
【0019】
第2実施の形態にかかる呼吸用保護マスク11は、吸収缶2の破過が近いことを着色度合により知らせる多孔質白色検知板12を具備したものであるから、半導体ニオイセンサー5により吸収缶2の破過が近いことを知らせる第1実施の形態にかかる呼吸用保護マスク1に比べて、簡易的なものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1実施の形態にかかる呼吸用保護マスク1の模式図である。
【図2】第2実施の形態にかかる呼吸用保護マスク11の部分模式図である。
【符号の説明】
【0021】
1、11 呼吸用保護マスク
2 吸収缶
3 開口部
4 保護面体
5 半導体ニオイセンサー
6 連結管
7 ブザー(報知手段)
8 濃度表示部(報知手段)
12 多孔質白色検知板
13 差込クリップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫化水素ガスを吸収する吸収材を内臓した吸収缶を一側に着脱自在に取り付け、他側に開口部を有する保護面体と、該保護面体に連結した半導体ニオイセンサーとを具備し、
前記半導体ニオイセンサーにより前記吸収缶の交換時期を報知するように構成したことを特徴とする呼吸用保護マスク。
【請求項2】
前記半導体ニオイセンサーは、前記吸収缶を通過する硫化水素ガスの濃度が0.01〜10ppmの範囲で警報を発生する報知手段を有することを特徴とする請求項1に記載の呼吸用保護マスク。
【請求項3】
硫化水素ガスを吸収する吸収材を内臓した吸収缶を一側に着脱自在に取り付け、他側に開口部を有する保護面体と、前記吸収缶の交換時期を着色度合により報知する多孔質白色検知板とを具備し、
該多孔質白色検知板が前記保護面体内に配置されてなることを特徴とする呼吸用保護マスク。
【請求項4】
前記多孔質白色検知板は、前記吸収缶を通過する硫化水素ガスの濃度が0.01〜10ppmの範囲で着色度合が変わる物質を有することを特徴とする請求項3に記載の呼吸用保護マスク。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−263238(P2006−263238A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−87215(P2005−87215)
【出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(591067794)JFEケミカル株式会社 (220)
【Fターム(参考)】