説明

品質推定方法、品質推定システム、ユーザ端末、品質管理端末およびプログラム

【課題】ユーザ端末と品質管理端末の演算処理量およびメモリ使用量を軽減する。
【解決手段】ユーザ端末は、情報送信端末1と自装置との間でコンテンツの品質劣化が生じたときに、品質推定に必要な品質情報を求めるIPパケット解析部101と、品質情報を品質管理端末4に送信する品質情報フィードバック部103とを備える。品質管理端末4は、情報送信端末1からユーザ端末2A〜2Nに送信されるコンテンツの情報を記憶する送信情報記憶部201と、記憶しているコンテンツの情報と品質情報に基づいて、この品質情報を送信したユーザ端末におけるコンテンツの品質を推定し、品質情報を送信しないユーザ端末については、記憶しているコンテンツの情報に基づいて、この品質情報を送信しないユーザ端末におけるコンテンツの品質を推定する品質推定部104とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インターネットのようなIPネットワーク経由で行うIPTVサービス、映像配信サービス、映像コミュニケーションサービス、VoIPなどの通信の品質を推定する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インターネットアクセス回線の高速・広帯域化に伴い、音声信号や映像信号などを送受信する通信サービスが期待されている。インターネットは必ずしも通信品質の保証されていないネットワークであるため、音声信号や映像信号などを送受信する場合、ユーザ間のネットワークの回線帯域が狭かったり、回線が輻輳したりすると、音声信号や映像信号などに対してユーザが知覚するユーザ体感品質(QoE:Quality of Experience)が劣化してしまう。具体的には、映像に品質劣化が加わると、ぼけ、にじみ、モザイク状の歪、ぎくしゃく感などとして知覚される。通信サービスを品質良く提供するためには、サービス提供に先立った品質設計やサービス開始後の品質管理が重要となり、このためには、ユーザが享受する品質を適切に表現でき、しかも簡便かつ効率的な品質評価技術が必要となる。
【0003】
従来、国際標準化機関ITU−T(International Telecommunication Union Telecommunication Standardization Sector)が勧告した非特許文献1や非特許文献2には、音声や映像などのコンテンツの品質を推定する客観品質評価法が記載され、同じくITU−Tが勧告した非特許文献3や非特許文献4には、コンテンツの品質に影響を与える品質パラメータからコンテンツの品質を推定する客観品質評価法が記載され、さらにITU−Tが勧告した非特許文献5には、IPパケットのヘッダ情報のみからコンテンツの品質を推定する客観品質評価法が記載されている。これらの客観評価技術によれば、ある一定の条件下で主観品質の統計的曖昧さと同程度の推定誤差で主観品質を推定可能である。
【0004】
従来の通信サービスでは、非特許文献1〜非特許文献5に記載された品質推定モデルを用いてユーザ端末におけるコンテンツの品質を推定し、推定した品質値をユーザ端末から品質管理センタに通知し、ユーザが知覚する品質を品質管理センタで管理するようにしている。
【0005】
また、VoIP(Voice over IP)において、品質情報をRTCP−XR(RTP Control Protocol Extended Reports)というプロトコルで品質管理センタに送る技術がある(非特許文献6参照)。この技術は、受信端末でコンテンツの品質に影響を与える品質情報を解析し、これらの品質情報を品質管理センタに逐次フィードバックするものである。
【0006】
【非特許文献1】“Perceptual evaluation of speech quality (PESQ): An objective method for end-to-end speech quality assessment of narrow-band telephone networks and speech codecs”,ITU-T Recommendation P.862,2001
【非特許文献2】“Objective perceptual video quality measurement techniques for digital cable television in the presence of a full reference”,ITU-T Recommendation J.144,2003
【非特許文献3】“The E-model, a computational model for use in transmission planning”,ITU-T Recommendation G.107,2005
【非特許文献4】“Opinion model for video-telephony applications”,ITU-T Recommendation G.1070,2007
【非特許文献5】“Conformance testing for narrowband voice over IP transmission quality assessment models ”,ITU-T Recommendation P.564,2006
【非特許文献6】“RTP Control Protocol(RTCP),and defines how the use of XR packets”,IETF Network Working Group,Request for Comments 3611,<http://www.ietf.org/rfc/rfc3611.txt>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1〜非特許文献6に開示された方法では、ユーザ全数の品質を管理する場合、音声信号や映像信号もしくはパケットの情報に基づきコンテンツの品質を推定する品質推定モデルをユーザ端末に組み込むか、もしくは品質推定用の外付け装置が必要になるという問題点があった。ユーザ端末のコストをなるべく低減したいという要求からすれば、受信側に高価な装置を用意することは避けたい。
【0008】
また、一般に、音声信号や映像信号に基づいて品質を推定する品質推定モデルは計算量が多く、リアルタイムに品質推定する用途に適しておらず、ユーザ端末の処理負荷も増大するという問題点があった。また、パケット情報からパケットの統計量(例えば、パケット損失率、パケット廃棄率など)を計算して品質を推定する品質推定モデルは、音声信号や映像信号に基づいて品質を推定するモデルと比較すると計算量は低い。しかしながら、携帯電話端末のようにユーザ端末の演算処理能力が低い場合や、ユーザ端末が高い演算処理能力を有しているが電池消耗の観点から多くの演算をユーザ端末内で行いたくない場合には、パケット情報から品質を推定するモデルもユーザ端末への搭載に適していないという問題点があった。
【0009】
更に、以上の品質推定モデルにより推定した品質値や導出した品質情報をRTCP−XRのようなプロトコルにより品質管理センタに定期的(例えば、10秒間隔)に送ると、品質管理センタが定期的に全ユーザ(例えば、1万ユーザ)から品質値もしくは品質情報を受信して演算処理することになるので、品質管理センタの処理負荷が大きくなるという問題点があった。また、RTCP−XRを利用する技術では、ユーザ端末の処理負荷軽減を実現することはできない。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、ユーザ端末の演算処理量およびメモリ使用量を軽減して従来型の品質推定モデルが利用できないユーザ端末においても品質管理技術を適用できるようにすると共に、品質管理端末の演算処理量およびメモリ使用量を軽減することができる品質推定方法、品質推定システム、ユーザ端末、品質管理端末およびプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ユーザ端末におけるコンテンツの品質を前記コンテンツの送信側の品質管理端末で推定する品質推定方法において、品質管理端末が、送信側からネットワーク経由でユーザ端末に送信されるコンテンツの情報を記憶する記憶手順と、送信側と前記ユーザ端末との間でコンテンツの品質劣化が生じたときに、このユーザ端末が、品質推定に必要な品質情報をネットワーク経由で前記品質管理端末に送信する品質情報送信手順と、前記品質管理端末が、記憶しているコンテンツの情報と前記品質情報に基づいて、この品質情報を送信したユーザ端末におけるコンテンツの品質を推定し、前記品質情報を送信しないユーザ端末については、記憶しているコンテンツの情報に基づいて、この品質情報を送信しないユーザ端末におけるコンテンツの品質を推定する品質推定手順とを備えることを特徴とするものである。
また、本発明の品質推定方法の1構成例において、前記品質情報送信手順は、品質推定のために必要な前記品質情報を品質劣化要因に応じて判断し、この判断に応じて必要な品質情報を前記品質管理端末に送信する手順を含むことを特徴とするものである。
また、本発明の品質推定方法の1構成例において、前記品質推定手順は、記憶しているコンテンツの情報と前記品質情報に基づいて、コンテンツ内の品質劣化位置および劣化伝搬位置を特定する劣化判定手順と、記憶しているコンテンツの情報、前記品質劣化位置および前記劣化伝搬位置に基づいて、品質劣化がコンテンツの品質に影響する程度を示す損失パラメータを算出する損失パラメータ算出手順と、記憶しているコンテンツの情報からコンテンツの送信品質を推定する送信品質推定手順と、前記送信品質と損失パラメータに基づいて、前記品質情報を送信したユーザ端末におけるコンテンツの品質を推定し、前記品質情報を送信しないユーザ端末については、前記送信品質をこのユーザ端末におけるコンテンツの品質とする受信品質推定手順とを含むことを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明は、ユーザ端末におけるコンテンツの品質を前記コンテンツの送信側の品質管理端末で推定する品質推定システムにおいて、前記ユーザ端末は、送信側と自装置との間でコンテンツの品質劣化が生じたときに、品質推定に必要な品質情報を求める解析手段と、前記品質情報をネットワーク経由で前記品質管理端末に送信する品質情報フィードバック手段とを備え、前記品質管理端末は、送信側からネットワーク経由で前記ユーザ端末に送信されるコンテンツの情報を記憶する記憶手段と、記憶しているコンテンツの情報と前記品質情報に基づいて、この品質情報を送信したユーザ端末におけるコンテンツの品質を推定し、前記品質情報を送信しないユーザ端末については、記憶しているコンテンツの情報に基づいて、この品質情報を送信しないユーザ端末におけるコンテンツの品質を推定する品質推定手段とを備えることを特徴とするものである。
また、本発明の品質推定システムの1構成例において、さらに、前記ユーザ端末は、品質推定のために必要な前記品質情報を品質劣化要因に応じて判断する品質情報判断手段を備え、前記ユーザ端末の品質情報フィードバック手段は、前記品質情報判断手段の判断に応じて必要な品質情報を前記品質管理端末に送信することを特徴とするものである。
また、本発明の品質推定システムの1構成例において、前記品質管理端末の品質推定手段は、記憶しているコンテンツの情報と前記品質情報に基づいて、コンテンツ内の品質劣化位置および劣化伝搬位置を特定する劣化判定手段と、記憶しているコンテンツの情報、前記品質劣化位置および前記劣化伝搬位置に基づいて、品質劣化がコンテンツの品質に影響する程度を示す損失パラメータを算出する損失パラメータ算出手段と、記憶しているコンテンツの情報からコンテンツの送信品質を推定する送信品質推定手段と、前記送信品質と損失パラメータに基づいて、前記品質情報を送信したユーザ端末におけるコンテンツの品質を推定し、前記品質情報を送信しないユーザ端末については、前記送信品質をこのユーザ端末におけるコンテンツの品質とする受信品質推定手段とを含むことを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明のユーザ端末は、送信側と自装置との間でコンテンツの品質劣化が生じたときに、前記品質管理端末による品質推定に必要な品質情報を求める解析手段と、前記品質情報をネットワーク経由で前記品質管理端末に送信する品質情報フィードバック手段とを備えることを特徴とするものである。
また、本発明の品質管理端末は、送信側からネットワーク経由で前記ユーザ端末に送信されるコンテンツの情報を記憶する記憶手段と、記憶しているコンテンツの情報と、送信側と前記ユーザ端末との間でコンテンツの品質劣化が生じたときにこのユーザ端末から送信される品質情報に基づいて、この品質情報を送信したユーザ端末におけるコンテンツの品質を推定し、前記品質情報を送信しないユーザ端末については、記憶しているコンテンツの情報に基づいて、この品質情報を送信しないユーザ端末におけるコンテンツの品質を推定する品質推定手段とを備えることを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明のユーザ端末プログラムは、送信側と自装置との間でコンテンツの品質劣化が生じたときに、前記品質管理端末による品質推定に必要な品質情報を求める解析手順と、前記品質情報をネットワーク経由で前記品質管理端末に送信する品質情報フィードバック手順とを、コンピュータに実行させることを特徴とするものである。
また、本発明の品質管理端末プログラムは、送信側からネットワーク経由で前記ユーザ端末に送信されるコンテンツの情報を記憶する記憶手順と、記憶しているコンテンツの情報と、送信側と前記ユーザ端末との間でコンテンツの品質劣化が生じたときにこのユーザ端末から送信される品質情報に基づいて、この品質情報を送信したユーザ端末におけるコンテンツの品質を推定し、前記品質情報を送信しないユーザ端末については、記憶しているコンテンツの情報に基づいて、この品質情報を送信しないユーザ端末におけるコンテンツの品質を推定する品質推定手順とを、コンピュータに実行させることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、送信側とユーザ端末との間で品質劣化が発生したときにユーザ端末が品質情報を取得し、品質劣化が発生したユーザ端末のみが品質情報を品質管理端末にフィードバックするので、従来のように定期的に品質情報を品質管理センタヘフィードバックする必要がなく、ユーザ端末および品質管理端末が情報処理に必要とする演算処理量を低減することができる。送信側との間で品質劣化が発生していないユーザ端末端末については、ユーザ端末からの情報を必要とせず、品質管理端末側の情報のみでこの端末における品質を管理することができる。また、送信側との間で品質劣化が発生しているユーザ端末のみが品質情報を品質管理端末にフィードバックし、この品質情報に基づき品質管理端末がユーザ端末における品質値を推定するため、従来のようにユーザ端末で品質を推定する場合や、RTCP−XRにより定期的に品質情報を品質管理センタにフィードバックし品質管理センタで品質を推定する場合と比較して、ユーザ端末および品質管理端末の演算処理量やメモリ使用量を軽減することができる。さらに、品質情報をユーザ端末からフィードバックさせることで、品質劣化した送信情報を送信情報記憶部から引き出して、品質推定に利用することが可能となる。こうして、本発明では、サービスを利用するユーザに対してある一定以上の品質を保っているかどうかを容易に判断することが可能となる。
【0016】
また、本発明では、ユーザ端末が、品質推定のために必要な品質情報を品質劣化要因に応じて判断し、この判断に応じて必要な品質情報を品質管理端末に送信するようにしたので、品質管理端末は品質劣化要因に応じた品質推定モデルでユーザ端末における受信品質の推定を行うことが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
[発明の原理]
本発明の実施の形態では、送信側の情報送信端末からユーザ端末に送信される情報のうち、コンテンツに品質劣化が生じた場合の品質情報(パケット損失、ゆらぎ、遅延)のみをユーザ端末から品質管理端末に送信し、品質管理端末ではユーザ端末から受信した品質情報の個所のみ品質推定を行う。品質情報が戻ってこない個所については、品質管理端末で品質推定を実施する。これにより、ユーザ端末には、品質情報を送信する機能のみを組み込めばよく、ユーザ端末の処理負荷およびコストの軽減につながるほか、従来、品質値を品質管理センタに逐次送信することにより品質管理センタの処理負荷が増加してしまっていた点も改善できる。
【0018】
より具体的に説明すると、従来の品質推定モデルを用いる方法では、ユーザ端末において品質値を計算するか、もしくはパケットの統計情報に基づく品質情報(例えば、パケット損失率やパケット廃棄率)を計算していた。これに対して、本発明の実施の形態では、損失したパケットや廃棄されたパケットの番号に関する品質情報を抽出して品質管理端末にフィードバックする機能のみをユーザ端末に持たせることで、ユーザ端末の演算処理量とメモリ使用量と電力消費量が増加することを防いでいる。
【0019】
また、情報送信端末との間で品質劣化が発生していない場合のユーザ端末におけるコンテンツの品質は、符号化歪による品質劣化の影響のみを受けるため、情報送信端末から送出されるコンテンツの品質とユーザ端末で視聴するコンテンツの品質は等価である。
品質管理端末は、符号化前後のコンテンツと送信するIPパケットやTS(Transport Stream)パケット等の情報を有しているため、品質劣化が発生していない場合のユーザ端末におけるコンテンツの品質を推定することは可能である。ただし、場合によっては、符号化前のコンテンツが品質管理端末に無いことは有り得る。
【0020】
品質管理端末がユーザ端末におけるコンテンツの品質を推定する技術としては、上記の非特許文献2に開示された客観品質評価法を用いて符号化直後の映像品質を推定する技術などがある。演算能力に余裕のある品質管理端末であれば、コンテンツの品質をリアルタイムに計算することができ、品質劣化が発生していない場合のユーザ端末におけるコンテンツの品質を管理することができる。
【0021】
つまり、本発明の実施の形態では、情報送信端末とユーザ端末との間で品質劣化が発生していない場合、ユーザ端末から品質管理端末に品質情報をフィードバックする必要がなくなるので、ユーザ端末の演算処理量とメモリ使用量と電力消費量を軽減することができ、また品質管理端末にフィードバックされる情報量を削減できるので、結果として品質管理端末の演算処理量も軽減することができる。ただし、通信が行われているか否かを確認するコントロールパケットなどは、ユーザ端末と品質管理端末との間で遂次送受信される可能性はある。
【0022】
また、例えばネットワークの回線の輻輳などによってパケット損失が発生した場合のユーザ端末におけるコンテンツの品質を推定するためには、品質情報をユーザ端末から品質管理端末にフィードバックして、品質管理端末でユーザ端末におけるコンテンツの品質を推定すればよい。例えば品質管理端末は、上記の非特許文献2に開示された客観品質評価法を用いて符号化直後の映像品質を推定し、パケット損失により影響を受けた映像の位置からパケット損失による影響を考慮した損失パラメータを抽出し、この損失パラメータの値からユーザが知覚する映像品質を推定することが可能である。
【0023】
以上の機能により、情報送信端末との間で品質劣化が発生していない場合のユーザ端末におけるコンテンツの品質は、コンテンツの送信側の情報のみから推定可能となり、ユーザ端末から定期的に品質値もしくは品質情報を品質管理端末にフィードバックする必要がなくなる。
また、情報送信端末との間で品質劣化が発生している場合のユーザ端末については、品質管理端末に品質情報をフィードバックするため、ユーザ端末でコンテンツの品質を推定する必要はなく、品質管理端末で品質情報を送ってきたユーザ端末のみ品質を推定すればよいので、品質管理端末およびユーザ端末の演算処理量やメモリ使用量を削減することができる。
【0024】
また、コンテンツが著作権保護の観点から暗号化される場合、ユーザ端末側でコンテンツの情報を抽出して品質推定することは原理的に困難であるが、送信側には、送信情報(つまり、コンテンツの情報)があるため、品質劣化した情報にどのような情報が含まれていたかを品質管理端末で解析し、その情報から品質を推定できる点も品質推定精度を上げる観点で効果的である。
【0025】
[実施の形態]
以下、図面を用いて本発明の実施の形態を説明する。図1は本発明の実施の形態に係る品質推定システムの構成を示すブロック図である。
品質推定システムは、コンテンツを送出する情報送信端末1と、コンテンツを受信する複数のユーザ端末2A〜2Nと、情報送信端末1とユーザ端末2A〜2Nとを接続するネットワーク3と、ユーザ端末2A〜2Nにおけるコンテンツの品質を推定する品質管理端末4とから構成される。
【0026】
図1の例では、情報送信端末1からユーザ端末2A〜2Nに対してコンテンツを配信する通信サービスが行われており、ユーザが知覚するコンテンツの品質を品質管理端末4で管理するようにしている。以下、本実施の形態では、IPパケットによって送信されるコンテンツの1例として映像情報を送信する場合について説明する。なお、図1では、情報送信端末1と品質管理端末4とが別々の装置で構成されているが、これらは1つの装置で構成されていてもよい。
【0027】
各ユーザ端末2A〜2Nは、IPパケットキャプチャ部100と、IPパケット解析部101と、品質情報記憶部102と、品質情報フィードバック部103と、品質情報判断部105とを有する。
【0028】
品質管理端末4は、送信情報記憶部201と、品質推定部104とを有する。さらに、品質推定部104は、品質情報記憶部104Aと、劣化判定部104Bと、損失パラメータ算出部104Cと、送信品質推定部104Dと、受信品質推定部104Eと、係数データベース104Fとから構成される。
【0029】
次に、ユーザ端末2A〜2Nの構成について説明する。IPパケットキャプチャ部100は、情報送信端末1からネットワーク3を介して送信されたIPパケットを受信して、このIPパケットをIPパケット解析部101へ入力する。
【0030】
図2はIPパケットのフォーマットの1例を示す図である。図2に示すように、IPパケット内には、IPヘッダ20、UDP(User Datagram Protocol)ヘッダ21、RTP(Real-time Transport Protocol)ヘッダ22、TS(Transport Stream)ヘッダ23、PES(Packetized Elementary Streams)ヘッダ24、映像信号や音声信号が符号化されパケット化されたES(Elementary Stream)25などが存在する。図2における26はTSパケットを示している。
【0031】
IPパケット解析部101は、パケット送信側で品質推定を行うために必要な品質情報(RTPシーケンス番号に準ずる値、ソースアドレス、タイムスタンプ、パケットのゆらぎ情報、パケットの遅延情報など)をIPパケットから抽出して、この品質情報を品質情報記憶部102に格納する。
【0032】
具体的には、IPパケット解析部101は、例えばIPヘッダに記述されるIPソース(送信元)アドレスおよびIPデスティネーション(宛先)アドレス、TSヘッダに記述されるパケット識別子であるPID、損失したTSパケットに記述されるCC(Continuity counter)の番号、損失したIPパケットのRTPシーケンス番号、損失したIPパケットの前後のRTPシーケンス番号およびタイムスタンプ、品質測定区間(例えば、10秒間隔)に受信した最初のパケットのRTPシーケンス番号およびタイムスタンプ、品質測定区間に受信した最後のパケットのRTPシーケンス番号およびタイムスタンプなどを抽出する。なお、本実施の形態では、以上のパラメータから映像品質を推定するモデルを記述するが、品質情報としてパケット遅延時間やパケットのゆらぎ情報を加味するようにしてもよい。
【0033】
品質管理端末4は、複数存在するサーバである情報送信端末1のうちどの情報送信端末1からユーザ端末2A〜2Nに送出されたパケットかを特定するためにIPソースアドレスを利用する。
また、品質管理端末4は、TV番組ごとに異なるマルチキャストアドレスを識別し、どの番組の映像情報の品質推定を行えばよいかを判断するためにIPデスティネーションアドレスを利用する。なお、説明を容易にするため、以下では、1つの番組のみの品質管理とし、デスティネーションアドレスについての記述は省略する。
【0034】
品質管理端末4は、TSヘッダに記述されたPIDから映像、音、その他の情報の識別が可能であり、PID毎に、映像と音のTSパケットの損失の有無を判断することができる。
また、品質管理端末4は、ユーザ端末2A〜2Nが品質測定区間内に受信した最初のパケットのRTPシーケンス番号およびタイムスタンプと、品質測定区間内に受信した最後のパケットのRTPシーケンス番号およびタイムスタンプと、損失したTSパケットのCCの番号と、このTSパケットを含むIPパケットのRTPシーケンス番号とタイムスタンプとを、どの位置のパケットが損失したかを明確にするために利用することができる。
【0035】
例えば、ユーザ端末2Aが品質測定区間内に受信した最初のパケットのRTPシーケンス番号が1でタイムスタンプが0、ユーザ端末2Aが品質測定区間内に受信した最後のパケットのRTPシーケンス番号が50000でタイムスタンプが10秒であり、損失したIPパケットのRTPシーケンス番号が10番と11番で、この損失したパケットに含まれる映像TSのCCが1〜10番、損失したパケットの直前のパケットのRTPシーケンス番号が9番でタイムスタンプが0.009秒、損失したパケットの直後のパケットのRTPシーケンス番号が12番でタイムスタンプが0.011秒であったとする。
【0036】
これらの情報のフィードバックを受けた品質管理端末4は、送信情報記憶部201に記憶されているIPパケットやTSパケットの情報から、損失したパケットの位置を特定し、どのように品質劣化が発生しているかを知ることができる。
【0037】
ユーザ端末2A〜2Nの品質情報フィードバック部103は、品質情報記憶部102に記憶された品質情報を、ネットワーク3を介して情報送信側の品質管理端末4に送信する。品質情報判断部105は、品質推定のために送信側にフィードバックすべき品質情報を判断する。品質情報判断部105は、品質推定のためにどのような品質情報が必要かを品質劣化要因ごとに予め記憶している。品質情報フィードバック部103は、品質情報判断部105の判断に応じて必要な品質情報を品質管理端末4に送信する。
【0038】
次に、品質管理端末4の構成について説明する。まず、品質管理端末4には、情報送信端末1からネットワーク3を介してユーザ端末2A〜2Nに送信される情報を記憶する送信情報記憶部201がある。本実施の形態では、送信情報記憶部201に、ユーザ端末2A〜2Nに送信されるコンテンツの情報としてIPパケット、TSパケットが記憶されている例を示す。なお、本実施の形態では、送信情報記憶部201が品質管理端末4に実装されている例を示すが、送信情報記憶部201は情報送信端末1に実装されていてもよい。
【0039】
次に、品質管理端末4の品質推定部104の構成について説明する。
品質情報記憶部104Aは、ユーザ端末2A〜2Nから送信された品質情報(損失したパケットのRTPシーケンス番号、損失したRTPパケットに含まれるCCの番号、損失したパケットの前後のパケットのRTPシーケンス番号およびタイムスタンプ、ソースアドレスなど)を記憶する。
【0040】
劣化判定部104Bは、ユーザ端末2A〜2Nに送信された情報を送信情報記憶部201から読み出すと共に、品質情報を品質情報記憶部104Aから読み出し、TSパケットの損失による品質劣化位置(損失したTSパケットの位置およびフレームの位置)、および損失したフレームを参照しているために品質劣化が伝搬した劣化伝搬位置を特定し、特定した位置の情報を損失パラメータ算出部104Cへ入力する。
【0041】
図3は損失したTSパケットの位置の特定方法を説明するための図であり、NoはRTPシーケンス番号を示している。例えば、図3に示すように、ユーザ端末2Aが品質測定区間内に受信した最初のパケットのRTPシーケンス番号が1でタイムスタンプが0、ユーザ端末2Aが品質測定区間内に受信した最後のパケットのRTPシーケンス番号が50000でタイムスタンプが10秒、損失したIPパケットのRTPシーケンス番号が10番と11番で、この損失したパケットの直前のパケットのRTPシーケンス番号が9番でタイムスタンプが0.009秒、損失したパケットの直後のパケットのRTPシーケンス番号が12番でタイムスタンプが0.011秒、損失したパケットに含まれる映像TSのCCが1〜10番であったとする。
【0042】
送信情報記憶部201には、情報送信端末1からユーザ端末2Aに送信されたものと同じ情報が記憶されているため、劣化判定部104Bは、送信情報記憶部201に記憶されている情報とユーザ端末2Aから受信した品質情報から、損失したTSパケットを特定することができる。また、RTPシーケンス番号は65536で1周し、0から再度カウントアップされる。このため、劣化判定部104Bは、ユーザ端末2Aが品質測定区間内に受信した最初のパケットのRTPシーケンス番号およびタイムスタンプと、ユーザ端末2Aが品質測定区間内に受信した最後のパケットのRTPシーケンス番号およびタイムスタンプとから、送信情報記憶部201に記憶されているIPパケットのどの範囲が品質測定区間に相当するかを判別する。
【0043】
また、劣化判定部104Bは、ユーザ端末2Aが品質測定区間内に受信した最初のパケットのRTPシーケンス番号およびタイムスタンプと、ユーザ端末2Aが品質測定区間内に受信した最後のパケットのRTPシーケンス番号およびタイムスタンプを、品質測定区間のどの位置に損失したTSパケットが存在するかを特定するために利用することができる。
【0044】
次に、劣化判定部104Bは、損失したTSパケットに含まれるCCの番号に基づいて、映像TSの損失したフレームの位置(例えば7フレーム目)とこの損失したフレームのタイプを判別する。さらに、劣化判定部104Bは、損失したフレームを参照しているために劣化が伝搬したフレームを特定する。
【0045】
MPEG2(Moving Picture Experts Group 2)やH.264などの映像符号化方式では、映像信号はI,B,Pフレームなどのフレームに符号化され圧縮される。Iフレームは、それだけで完結しており、Iフレームの情報だけで元のフレーム画像を復元できる。Pフレームは、該当フレームの画像とその直前のIフレームやPフレームの画像との差分情報である。Pフレームをデコードするためには、直前のIフレームやPフレームの情報が必要となる。Bフレームは、前のフレームだけでなく後のフレームとの差分も使って圧縮されたものである。Bフレームをデコードするためには、前後のIフレーム、Pフレームの情報が必要となる。
【0046】
MPEG2やH.264などの映像符号化方式では、上記I,B,Pの各フレームが独立してではなく、GOP(Group of Picture)という固まり単位で圧縮、伸長が行われる。例えば、MPEG2の場合、GOPは、IBBPBBPBBPBBPBB、のように、15フレーム単位(0.5秒)で構成される。上のケースでは、1GOPの中に、Iフレーム1個、Pフレーム4個、Bフレーム10個が存在する。
【0047】
このように、フレームの中には他のフレームを参照するPフレーム、Bフレームが存在するため、図4に示すように、パケット損失が発生したフレームに応じて、劣化の伝搬が異なり、結果として、ユーザが知覚する映像の劣化範囲が異なる。なお、図4の例は、GOP(M=3、N=15)の場合を示している。図4のIlossで示すようにIフレームにパケット損失が発生すると、次のIフレームまでの区間、劣化が伝搬する。図4の40は、このときの劣化伝搬範囲を示す。図4の例では、劣化が17フレーム存在したように知覚される。
【0048】
図4のPlossで示すようにPフレームにパケット損失が発生すると、次のIフレームまでの区間、劣化が伝搬する。図4の41は、このときの劣化伝搬範囲を示す。図4の例では、劣化が11フレーム存在したように知覚される。
一方、図4のBlossに示すように、Bフレームにパケット損失が発生しても、ユーザが知覚する劣化範囲は当該Bフレームのみとなり、他のフレームに劣化が伝搬することはない。劣化判定部104Bは、この図4で説明したような現象を利用して、損失したフレームを参照しているために劣化が伝搬したフレームを特定する。
【0049】
そして、劣化判定部104Bは、損失したフレームの位置を表す情報と、この損失したフレームを参照しているために品質劣化が伝搬したフレームの位置を表す情報とを損失パラメータ算出部104Cへ入力する。
【0050】
損失パラメータ算出部104Cは、劣化判定部104Bで特定された損失したフレームの位置と品質劣化が伝搬したフレームの位置とから、フレームの損失によって符号化直後の映像品質が影響される程度を示す損失パラメータを算出し、この損失パラメータを受信品質推定部104Eへ入力する。
【0051】
損失パラメータの例としては、無効フレーム数がある。無効フレーム数とは、損失したフレームの数と、損失したフレームを参照しているために劣化が伝搬したフレームの数との合計値である。例えば、7フレーム目のPフレームが損失して、この損失による劣化が18フレーム目まで伝搬したとすると、無効フレーム数は11となる。ただし、ここでは16フレーム目のIフレームには劣化は伝搬しないものとして、このIフレームを無効フレームから除いている。
【0052】
送信品質推定部104Dは、ユーザ端末2A〜2Nに送信された情報を送信情報記憶部201から読み出し、符号化直後の送信品質(符号化品質)を推定して、この送信品質を表す情報を受信品質推定部104Eへ入力する。具体的には、送信品質推定部104Dは、ユーザ端末2A〜2Nに送信されたIPパケット内に記述された映像符号化情報(量子化パラメータ)から符号化直後の送信品質を推定する。
【0053】
受信品質推定部104Eは、損失パラメータ算出部104Cから入力される損失パラメータの値と送信品質推定部104Dから入力される送信品質の値とから、ユーザ端末2A〜2Nのユーザが知覚する映像品質を推定する。
係数データベース104Fは、送信品質推定部104Dおよび受信品質推定部104Eによる品質推定のための係数を予め記憶している。
【0054】
本実施の形態では、送信品質推定部104Dおよび受信品質推定部104Eにメディアに関する情報が記載されているビットストリームを用いる例を示す。
上記では、パケット損失による品質劣化の例を挙げたが、品質劣化の要因はパケット損失だけではない。
【0055】
例えば、ネットワーク3の回線の輻輳などにより、パケットの到着間隔がユーザ端末でのコンテンツ出力タイミングより遅れてきた場合、コンテンツの品質に劣化が生じる。このとき、ユーザ端末2A〜2Nは、パケットが到着するまで一定時間待つ場合、ユーザ端末2A〜2Nにおけるコンテンツの表示が一定期間止まってしまう。また、ユーザ端末2A〜2Nは、パケットの到着を待たない場合、遅れてきたパケットを損失したパケットと同様に廃棄する。
【0056】
このようなパケットの遅延による映像の品質劣化を推定するためには、ユーザ端末2A〜2NのIPパケット解析部101は、到着したIPパケットとその直前に到着したIPパケットとの間隔(例えば10ms)を測定し、この測定した到着間隔が所定のしきい値より長いかどうかを判断し、パケットの到着間隔がしきい値よりも長い場合には、パケットの到着が遅れたと判断して、この遅れて到着したパケットのRTPシーケンス番号およびタイムスタンプを品質情報として抽出すればよい。品質管理端末4は、遅れて到着したパケットをユーザ端末2A〜2Nが待つのか廃棄するのかを事前に認識していれば、パケットの遅延という品質劣化要因を捉えることができる。
【0057】
また、パケットに順序の逆転が生じた場合、順序を元に戻すことができる環境が整っていれば、パケットに大きな遅れが生じない限り、通常通りコンテンツは出力される。ただし、パケットの順序に逆転が生じ、しかも大きな遅延が生じると、前述の遅れてきたパケットと同様に出力タイミングに間に合わず、パケットは廃棄される。
【0058】
このように品質劣化要因によって、品質推定のために送信側にフィードバックすべき情報は異なる。そこで、ユーザ端末2A〜2Nは、品質推定のために必要な品質情報を劣化要因に応じて判断する品質情報判断部105を有する。品質情報フィードバック部103は、この品質情報判断部105の判断に応じて必要な品質情報を品質情報記憶部102から取り出して品質管理端末4に送信する。
【0059】
また、品質情報フィードバック部103は、品質劣化要因を品質管理端末4で区別できるようにするために、品質情報判断部105が判断した品質劣化要因に基づいて、この品質劣化要因を示す劣化要素番号を品質情報に付加して品質管理端末4に送信する。品質情報フィードバック部103は、例えば品質劣化要因がパケット損失の場合は劣化要素番号を1とし、品質劣化要因がパケットの遅延の場合は劣化要素番号を2とし、品質劣化要因がパケットの順序逆転の場合は劣化要素番号を3とする。こうして、品質管理端末4は、劣化要素番号によって品質劣化要因を区別できるようになり、品質劣化要因毎に予め用意された品質推定モデルを用いて品質を推定することができる。
【0060】
次に、本実施の形態の品質推定システムの動作を説明する。図5は品質管理端末4の動作を示すフローチャート、図6はユーザ端末2A〜2Nの動作を示すフローチャートである。
まず、品質管理端末4の送信情報記憶部201は、情報送信端末1からユーザ端末2A〜2Nに送信される送信情報を記憶する(図5ステップS101)。本実施の形態では、送信情報として、IPパケットおよびTSパケットをキャプチャし記憶しておく。ただし、送信品質および受信品質を推定する際に、パケット化される前の映像信号を用いる場合は、映像信号を記憶してもよい。
【0061】
ユーザ端末2A〜2NのIPパケットキャプチャ部100は、情報送信端末1から送信された情報、すなわちIPパケットを受信して、このIPパケットをIPパケット解析部101へ入力する(図6ステップS201)。
【0062】
ユーザ端末2A〜2NのIPパケット解析部101は、IPパケットキャプチャ部100から入力されたIPパケットから、IPソースアドレス、IPデスティネーションアドレス、PID、損失したTSパケットに記述されるCCの番号、損失したIPパケットのRTPシーケンス番号、損失したIPパケットの前後のRTPシーケンス番号およびタイムスタンプ、品質測定区間に受信した最初のパケットのRTPシーケンス番号およびタイムスタンプ、品質測定区間に受信した最後のパケットのRTPシーケンス番号およびタイムスタンプなどを品質情報として抽出する(ステップS202)。ただし、品質推定や劣化位置の判定をする際にほかのパラメータを用いる場合は、適宜、解析すればよい。IPパケット解析部101が抽出した品質情報は、品質情報記憶部102に格納される。
【0063】
ユーザ端末2A〜2Nの品質情報フィードバック部103は、品質情報判断部105の判断に応じて必要な品質情報を品質情報記憶部102から取り出して品質管理端末4に送信する(ステップS203)。
なお、前述のとおり、各ユーザ端末2A〜2Nは、パケットの損失、遅延、順序逆転などの品質劣化要因が発生していない場合には、ステップS202,S203の処理を実行しない。
【0064】
次に、品質管理端末4の品質情報記憶部104Aは、ユーザ端末2A〜2Nから送信された品質情報を記憶する(図5ステップS102)。
品質管理端末4の劣化判定部104Bは、ユーザ端末2A〜2Nに送信された情報を送信情報記憶部201から読み出すと共に、品質情報を品質情報記憶部104Aから読み出し、IPパケット内の品質劣化位置(損失したTSパケットの位置と損失したフレームの位置)、および損失したフレームを参照しているために品質劣化が伝搬した劣化伝搬位置を特定し、特定した位置の情報を損失パラメータ算出部104Cへ入力する(ステップS103)。
【0065】
劣化判定部104Bは、損失したIPパケットのRTPシーケンス番号、損失したIPパケットの前後のRTPシーケンス番号およびタイムスタンプ、品質測定区間に受信した最初のパケットのRTPシーケンス番号およびタイムスタンプ、品質測定区間に受信した最後のパケットのRTPシーケンス番号およびタイムスタンプから、IPパケット内のどの位置が劣化したかを特定することができる。また、劣化判定部104Bは、損失したTSパケットに含まれるCCの番号に基づいて、損失したフレームの位置とこの損失したフレームのタイプを判別することができる。
【0066】
さらに、劣化判定部104Bは、損失したフレームを参照しているために劣化が伝搬したフレームを特定する。例えば、映像データは、しばしば、I,B,Pフレームといったフレーム構造をもつ情報に符号化される。Iフレームは後続するBフレームやPフレームで情報を復号する際に利用され、Iフレームに損失が発生するとユーザが知覚する映像の品質に劣化を与えることが知られている。このような場合には、損失したフレームの位置と、この損失したフレームによる劣化がどこまで伝搬するかを特定することが重要になる。劣化伝搬位置の特定方法の詳細については、図4で説明したとおりである。
【0067】
次に、品質管理端末4の損失パラメータ算出部104Cは、劣化判定部104Bで特定された品質劣化位置と劣化伝搬位置とから、フレームの損失によって符号化直後の映像品質が影響される程度を示す損失パラメータを算出し、この損失パラメータを受信品質推定部104Eへ入力する(ステップS104)。
【0068】
本実施の形態では、損失パラメータとして、例えば特開2006−33722号公報、特開2007−019802号公報、特開2007−060475号公報、特開2007−135040号公報、特開2007−258919号公報、 特開2007−329771号公報、特開2007−329772号公報、特開2008−005108号公報に開示された無効フレーム数を用いる。なお、動きベクトルを考慮し、劣化が発生した位置と劣化が伝搬した位置を参照するブロック数を計数し、ブロック数の合計値を損失パラメータとしてもよい。
【0069】
品質管理端末4の送信品質推定部104Dは、ユーザ端末2A〜2Nに送信された情報を送信情報記憶部201から読み出し、この情報からメディアに関する情報が記述されているビットストリーム情報を抜き出し、さらにビットストリーム情報の中に記述されている量子化パラメータから符号化直後の送信品質を推定して、この送信品質を表す情報を受信品質推定部104Eへ入力する(ステップS105)。
【0070】
送信品質(符号化直後の符号化品質)Vcは、量子化パラメータQPが大きくなると低下し、量子化パラメータQPが小さくなると上昇する。この特徴を利用して、送信品質推定部104Dは、以下の式により送信品質Vcを推定する。
【0071】
【数1】

【0072】
vl,v2,v3は、コーデック(CODEC)などにより決まる係数である。係数vl,v2,v3を決定するために、送信品質推定部104Dは、図7に示すような係数データベース104Fを参照し、情報送信端末1からユーザ端末2A〜2Nに提供されるサービスの種別とユーザ端末2A〜2Nに送信される映像信号を符号化する際に使用されるコーデックの種別と送信される映像信号のフォーマットとに対応した係数vl,v2,v3の値を係数データベース104Fから取得すればよい。
【0073】
サービス種別としては、例えばIPTV、TV電話、VoD(Video On Demand)などがある。コーデック種別としては、例えばH.264、H.261、MPEG2、MPEG4などがある。映像フォーマットとしては、例えばHD(High Definition)、SD(Standard Definition)、VGA(Video Graphics Array)、QCIF(Quarter Common Intermediate Format)などがある。なお、本実施の形態では、ビットストリーム情報を用いて送信品質を推定したが、映像信号を用いる品質推定技術を利用して送信品質を推定してもよい。
【0074】
品質管理端末4の受信品質推定部104Eは、損失パラメータ算出部104Cから入力される損失パラメータ(無効フレーム数)と送信品質推定部104Dから入力される送信品質の値とから、品質情報の送信元のユーザ端末2A〜2Nにおける受信品質Vq(ユーザ端末2A〜2Nのユーザが知覚する映像品質)を以下の式により推定する(ステップS106)。
【0075】
【数2】

【0076】
IFは無効フレーム数、v4はコーデックなどにより決まる係数である。係数vl,v2,v3,v4を決定するために、受信品質推定部104Eは、係数データベース104Fを参照し、送信品質推定部104Dと同様に、サービス種別とコーデック種別と映像フォーマットとに対応した係数vl,v2,v3,v4の値を係数データベース104Fから取得すればよい。
【0077】
なお、式(2)は、品質劣化要因がパケット損失である場合、すなわちユーザ端末2A〜2Nから品質情報と共に送られてくる劣化要素番号が1の場合の品質推定モデルの式である。品質劣化要因がパケットの遅延や順序逆転の場合は別の品質推定モデルの式を用いて受信品質を推定してもよい。
【0078】
また、受信品質推定部104Eは、品質情報を送信しないユーザ端末、すなわち情報送信端末1との間で品質劣化が発生していないユーザ端末については、送信品質推定部104Dが推定した送信品質をこのユーザ端末における受信品質とすればよい。
【0079】
以上説明したように、本実施の形態によれば、情報送信端末とユーザ端末との間で品質劣化が発生したときに品質情報を取得し、品質劣化が発生したユーザ端末のみが品質情報を品質管理端末にフィードバックするので、従来技術のように定期的に品質情報を品質管理センタヘフィードバックする必要がなく、ユーザ端末および品質管理端末が情報処理に必要とする演算処理量を低減することができる。情報送信端末との間で品質劣化が発生していないユーザ端末については、ユーザ端末からの情報を必要とせず、品質管理端末側の情報のみでこの端末における品質を管理することができる。
【0080】
また、情報送信端末との間で品質劣化が発生しているユーザ端末のみが品質情報を品質管理端末にフィードバックし、この品質情報に基づき品質管理端末がユーザ端末における品質値を推定するため、従来のようにユーザ端末で品質を推定する場合や、RTCP−XRにより定期的に品質情報を品質管理センタにフィードバックし品質管理センタで品質を推定する場合と比較して、ユーザ端末および品質管理端末の演算処理量やメモリ使用量を軽減することができる。さらに、品質情報をユーザ端末からフィードバックさせることで、品質劣化した送信情報を送信情報記憶部から引き出して、品質推定に利用することが可能となる。こうして、本実施の形態では、サービスを利用するユーザに対してある一定以上の品質を保っているかどうかを容易に判断することが可能となる。
【0081】
なお、本実施の形態のユーザ端末2A〜2Nと品質管理端末4とは、それぞれCPU、記憶装置および外部とのインタフェースを備えたコンピュータとこれらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。これらのコンピュータにおいて、ユーザ端末プログラムと品質管理端末プログラムは、フレキシブルディスク、CD−ROM、DVD−ROM、メモリカードなどの記録媒体に記録された状態で提供される。ユーザ端末のCPUは、記録媒体から読み込んだユーザ端末プログラムを記憶装置に書き込み、ユーザ端末プログラムに従って本実施の形態で説明したような処理を実行する。同様に、品質管理端末のCPUは、記録媒体から読み込んだ品質管理端末プログラムを記憶装置に書き込み、品質管理端末プログラムに従って本実施の形態で説明したような処理を実行する。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、IPTVサービス、映像配信サービス、映像コミュニケーションサービス、VoIPなどの通信の品質を推定する技術に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の実施の形態に係る品質推定システムの構成を示すブロック図である。
【図2】IPパケットのフォーマットの1例を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態において損失したTSパケットの位置の特定方法を説明するための図である。
【図4】本発明の実施の形態における無効フレームの概念を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る品質推定システムの品質管理端末の動作を示すフローチャートである。
【図6】本発明の実施の形態に係る品質推定システムのユーザ端末の動作を示すフローチャートである。
【図7】本発明の実施の形態における係数データベースの例を示す図である。
【符号の説明】
【0084】
1…情報送信端末、2A,2N…ユーザ端末、3…ネットワーク、4…品質管理端末、100…IPパケットキャプチャ部、101…IPパケット解析部、102…品質情報記憶部、103…品質情報フィードバック部、104…品質推定部、104A…品質情報記憶部、104B…劣化判定部、104C…損失パラメータ算出部、104D…送信品質推定部、104E…受信品質推定部、104F…係数データベース、105…品質情報判断部、201…送信情報記憶部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザ端末におけるコンテンツの品質を前記コンテンツの送信側の品質管理端末で推定する品質推定方法において、
品質管理端末が、送信側からネットワーク経由でユーザ端末に送信されるコンテンツの情報を記憶する記憶手順と、
送信側と前記ユーザ端末との間でコンテンツの品質劣化が生じたときに、このユーザ端末が、品質推定に必要な品質情報をネットワーク経由で前記品質管理端末に送信する品質情報送信手順と、
前記品質管理端末が、記憶しているコンテンツの情報と前記品質情報に基づいて、この品質情報を送信したユーザ端末におけるコンテンツの品質を推定し、前記品質情報を送信しないユーザ端末については、記憶しているコンテンツの情報に基づいて、この品質情報を送信しないユーザ端末におけるコンテンツの品質を推定する品質推定手順とを備えることを特徴とする品質推定方法。
【請求項2】
請求項1記載の品質推定方法において、
前記品質情報送信手順は、品質推定のために必要な前記品質情報を品質劣化要因に応じて判断し、この判断に応じて必要な品質情報を前記品質管理端末に送信する手順を含むことを特徴とする品質推定方法。
【請求項3】
請求項1記載の品質推定方法において、
前記品質推定手順は、
記憶しているコンテンツの情報と前記品質情報に基づいて、コンテンツ内の品質劣化位置および劣化伝搬位置を特定する劣化判定手順と、
記憶しているコンテンツの情報、前記品質劣化位置および前記劣化伝搬位置に基づいて、品質劣化がコンテンツの品質に影響する程度を示す損失パラメータを算出する損失パラメータ算出手順と、
記憶しているコンテンツの情報からコンテンツの送信品質を推定する送信品質推定手順と、
前記送信品質と損失パラメータに基づいて、前記品質情報を送信したユーザ端末におけるコンテンツの品質を推定し、前記品質情報を送信しないユーザ端末については、前記送信品質をこのユーザ端末におけるコンテンツの品質とする受信品質推定手順とを含むことを特徴とする品質推定方法。
【請求項4】
ユーザ端末におけるコンテンツの品質を前記コンテンツの送信側の品質管理端末で推定する品質推定システムにおいて、
前記ユーザ端末は、
送信側と自装置との間でコンテンツの品質劣化が生じたときに、品質推定に必要な品質情報を求める解析手段と、
前記品質情報をネットワーク経由で前記品質管理端末に送信する品質情報フィードバック手段とを備え、
前記品質管理端末は、
送信側からネットワーク経由で前記ユーザ端末に送信されるコンテンツの情報を記憶する記憶手段と、
記憶しているコンテンツの情報と前記品質情報に基づいて、この品質情報を送信したユーザ端末におけるコンテンツの品質を推定し、前記品質情報を送信しないユーザ端末については、記憶しているコンテンツの情報に基づいて、この品質情報を送信しないユーザ端末におけるコンテンツの品質を推定する品質推定手段とを備えることを特徴とする品質推定システム。
【請求項5】
請求項4記載の品質推定システムにおいて、
さらに、前記ユーザ端末は、品質推定のために必要な前記品質情報を品質劣化要因に応じて判断する品質情報判断手段を備え、
前記ユーザ端末の品質情報フィードバック手段は、前記品質情報判断手段の判断に応じて必要な品質情報を前記品質管理端末に送信することを特徴とする品質推定システム。
【請求項6】
請求項4記載の品質推定システムにおいて、
前記品質管理端末の品質推定手段は、
記憶しているコンテンツの情報と前記品質情報に基づいて、コンテンツ内の品質劣化位置および劣化伝搬位置を特定する劣化判定手段と、
記憶しているコンテンツの情報、前記品質劣化位置および前記劣化伝搬位置に基づいて、品質劣化がコンテンツの品質に影響する程度を示す損失パラメータを算出する損失パラメータ算出手段と、
記憶しているコンテンツの情報からコンテンツの送信品質を推定する送信品質推定手段と、
前記送信品質と損失パラメータに基づいて、前記品質情報を送信したユーザ端末におけるコンテンツの品質を推定し、前記品質情報を送信しないユーザ端末については、前記送信品質をこのユーザ端末におけるコンテンツの品質とする受信品質推定手段とを含むことを特徴とする品質推定システム。
【請求項7】
ユーザ端末におけるコンテンツの品質を前記コンテンツの送信側の品質管理端末で推定する品質推定システムにおける前記ユーザ端末であって、
送信側と自装置との間でコンテンツの品質劣化が生じたときに、前記品質管理端末による品質推定に必要な品質情報を求める解析手段と、
前記品質情報をネットワーク経由で前記品質管理端末に送信する品質情報フィードバック手段とを備えることを特徴とするユーザ端末。
【請求項8】
ユーザ端末におけるコンテンツの品質を前記コンテンツの送信側の品質管理端末で推定する品質推定システムにおける前記品質管理端末であって、
送信側からネットワーク経由で前記ユーザ端末に送信されるコンテンツの情報を記憶する記憶手段と、
記憶しているコンテンツの情報と、送信側と前記ユーザ端末との間でコンテンツの品質劣化が生じたときにこのユーザ端末から送信される品質情報に基づいて、この品質情報を送信したユーザ端末におけるコンテンツの品質を推定し、前記品質情報を送信しないユーザ端末については、記憶しているコンテンツの情報に基づいて、この品質情報を送信しないユーザ端末におけるコンテンツの品質を推定する品質推定手段とを備えることを特徴とする品質管理端末。
【請求項9】
ユーザ端末におけるコンテンツの品質を前記コンテンツの送信側の品質管理端末で推定する品質推定システムにおける前記ユーザ端末としてコンピュータを動作させるユーザ端末プログラムであって、
送信側と自装置との間でコンテンツの品質劣化が生じたときに、前記品質管理端末による品質推定に必要な品質情報を求める解析手順と、
前記品質情報をネットワーク経由で前記品質管理端末に送信する品質情報フィードバック手順とを、コンピュータに実行させることを特徴とするユーザ端末プログラム。
【請求項10】
ユーザ端末におけるコンテンツの品質を前記コンテンツの送信側の品質管理端末で推定する品質推定システムにおける前記品質管理端末としてコンピュータを動作させる品質管理端末プログラムであって、
送信側からネットワーク経由で前記ユーザ端末に送信されるコンテンツの情報を記憶する記憶手順と、
記憶しているコンテンツの情報と、送信側と前記ユーザ端末との間でコンテンツの品質劣化が生じたときにこのユーザ端末から送信される品質情報に基づいて、この品質情報を送信したユーザ端末におけるコンテンツの品質を推定し、前記品質情報を送信しないユーザ端末については、記憶しているコンテンツの情報に基づいて、この品質情報を送信しないユーザ端末におけるコンテンツの品質を推定する品質推定手順とを、コンピュータに実行させることを特徴とする品質管理端末プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−273013(P2009−273013A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−123366(P2008−123366)
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】