説明

品質計測システム、通信装置、通信端末及びそれらに用いるストリーミング配信品質計測方法

【課題】 加入者端末と加入者収容ルータとの間のトラフィックを増加させず、ストリーミングを視聴中の全ての加入者端末における配信品質をコスト効率的に収集可能な通信装置を提供する。
【解決手段】 加入者収容ルータ2a,2bは、全ての加入者端末1a〜1fに対してマルチキャスト配信の周期クエリーを行い、マルチキャストグループに参加中の加入者端末1a〜1fは受信したクエリーに応答し、配信品質情報を付与したグループメンバ報告を加入者収容ルータ2a,2bに送信する。加入者収容ルータ2a,2bは加入者端末1a〜1fが返送してきた配信品質情報と、加入者収容ルータ2a,2b内で計数している品質情報とを比較することで、加入者端末1a〜1cとの間の配信品質の計測を行う。遠隔の品質管理サーバ5は加入者収容ルータ2a,2b各々の品質レコードを収集する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は品質計測システム、通信装置、通信端末及びそれらに用いるストリーミング配信品質計測方法に関し、特にマルチキャスト網におけるパケット配信品質を測定するシステムにおいて、受信端末における受信品質の収集方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インタネット、ブロードバンド技術の発展によって、通信ネットワーク上でマルチメディアコンテンツの流通が普及しつつあり、中でもストリーミング配信の本格化が期待されている。このストリーミング配信は、音声や動画像を配信する際に、受信端末側でファイル全体を受信し終えてから再生するのではなく、パケットを受信しながら逐次再生を行う技術であり、ライブ中継やTV(テレビ)放送の再配信等、リアルタイム性を要求されるコンテンツの配信に適している。
【0003】
このストリーミング配信及び品質管理を実現する通信プロトコルとしては、IETF(Internet Engineering Task Force)にて制定されたRTP(Real Time Streaming Protocol)及びRTCP(Real Time Control Protocol)が利用されている(例えば、非特許文献1参照)。RTPは音声・動画像等のメディアをリアルタイム配送するためのデータ転送プロトコルであり、RTCPはRTPセッション上の送信者・受信者間で配信品質をはじめとする情報のやり取りを行う制御プロトコルである。
【0004】
また、インタネット上で多数の端末へ同一データを配信する方法としては、IP(Internet Protocol)マルチキャスト技術を利用することによって、配信サーバが送信した単一のパケットをネットワーク内の分岐点において複製し、複数の端末へ到達させることが可能である。これによって、大規模ユーザに対するストリーミング配信を行った場合には、配信サーバの負荷や通信路の帯域を効率化することができる。
【0005】
尚、IPマルチキャストではパケットの到達確認を行わないコネクションレス通信が一般に利用されていることから、パケットロスや遅延、及びジッタ(jitter:揺らぎ)等による配信品質劣化を想定する必要がある。この対策として、CDN(Contents Derivery Network)技術によるストリーミング配信トラフィックの高品質転送等が中継網で普及してきたものの、ADSL/VDSL(Asymmetric Digital Subsciber Line./Very high−speed Digital Subsciber Line)等ビットエラー率の高い物理回線が使用されるアクセス網においては、依然として品質劣化の可能性が残っており、受信者毎の配信品質測定に対するニーズが高い。
【0006】
ところが、RTCPのような制御プロトコルを利用して配信サーバが受信端末から配信品質を直接収集する場合には、配信サーバが全ての受信端末からのRTCPパケットを受信する必要がある。このため、受信端末数に応じてサーバ受信負荷が増大し、配信数に制約が生じてしまうという課題があり、大規模なストリーミング配信における品質測定をコスト効率的に実現することが困難である。
【0007】
【非特許文献1】“RTP:A Transport protocol for Real−Time Applications”(RFC3550,July 2003,5章及び6章)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した従来の配信システムでは、大規模ユーザに対するストリーミング配信を行う場合に、配信サーバの負荷や通信路の帯域を効率化することが可能なIPマルチキャスト技術が利用されているが、インタネットのようなベストエフォート通信網では通信路におけるパケットロス発生が想定されるため、受信者毎の配信品質管理が必要とされている。
【0009】
ところが、RTCPのような制御プロトコルを利用して配信サーバが受信端末から配信品質を直接収集する場合には、配信サーバが全ての受信端末からRTCPパケットを受信する必要がある。このため、従来の配信システムでは、受信端末数に応じてサーバ受信負荷が増大し、配信数に制約が生じてしまうという課題があり、大規模なストリーミング配信における品質測定をコスト効率的に実現することが困難である。
【0010】
そこで、本発明の目的は上記の問題点を解消し、加入者端末と加入者収容ルータとの間のトラフィックを増加させず、ストリーミングを視聴中の全ての加入者端末における配信品質をコスト効率的に収集することができる品質計測システム、通信装置、通信端末及びそれらに用いるストリーミング配信品質計測方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明による品質計測システムは、マルチキャスト網において通信装置から通信端末に配信されるパケットの配信品質を測定する品質計測システムであって、
前記通信装置は、前記通信端末との間でルーティングパケットを定期的に交換する手段と、前記通信端末からのルーティングパケット内に付加された配信品質情報を基に前記通信端末との間の配信品質を測定する手段とを備えている。
【0012】
本発明による通信装置は、マルチキャスト網において通信端末にパケットを配信する通信装置であって、 前記通信端末との間でルーティングパケットを定期的に交換する手段と、前記通信端末からのルーティングパケット内に付加された配信品質情報を基に前記通信端末との間の配信品質を測定する手段とを備えている。
【0013】
本発明による通信端末は、 マルチキャスト網において通信装置からパケットが配信される通信端末であって、
前記通信装置との間で定期的に交換するルーティングパケット内に前記通信装置との間の配信品質情報を付加して返送する手段を備え、
当該ルーティングパケット内に付加した配信品質情報を基に前記通信装置にて自端末と前記通信装置との間の配信品質を測定している。
【0014】
本発明によるストリーミング配信品質計測方法は、マルチキャスト網において通信装置から通信端末に配信されるパケットの配信品質を測定する品質計測システムに用いるストリーミング配信品質計測方法であって、
前記通信装置が、前記通信端末との間でルーティングパケットを定期的に交換する処理と、前記通信端末からのルーティングパケット内に付加された配信品質情報を基に前記通信端末との間の配信品質を測定する処理とを実行している。
【0015】
すなわち、本発明の品質計測システムは、IP(Internet Protocol)マルチキャストを利用して大規模なストリーミング配信を行う通信システムにおいて、加入者端末と加入者収容ルータとの間で定期的に交換されるルーティングパケット内に配信品質情報を付加することによって、加入者単位における配信品質の収集をコスト効率的に実現可能とすることを特徴としている。
【0016】
より具体的に説明すると、本発明の品質計測システムでは、加入者収容ルータが全ての加入者端末に対してマルチキャスト配信の周期クエリーを行う。マルチキャストグループに参加中の加入者端末は、加入者収容ルータから受信したクエリーに応答し、配信品質情報を付与したグループメンバ報告を加入者収容ルータに送信する。
【0017】
このグループメンバ報告を受信した加入者収容ルータは、ルーティングプロトコルにしたがって経路情報を更新するとともに、加入者端末が返送してきた配信品質情報と、加入者収容ルータ内で計数している品質情報とを比較することによって、加入者収容ルータと加入者端末との間の配信品質の計測を行う。
【0018】
上記のようにして、本発明の品質計測システムでは、加入者端末と加入者収容ルータとの間のトラフィックを増加させることなく、ストリーミングを視聴中の全ての加入者端末における配信品質をコスト効率的に収集することが可能となる。
【0019】
つまり、本発明の品質計測システムでは、加入者収容ルータが、IGMP(Internet Group Management Protocol)によって周期的に送信されるクエリー及びグループメンバ報告のパケットに品質情報を相乗りさせることで、ソフトウェアのパケット送受信負荷への影響を与えずに、加入者端末毎の品質情報を容易に収集することが可能となる。
【0020】
特に、本発明の品質計測システムでは、加入者収容ルータ及び加入者端末における機能配備が、従来のルータ/端末におけるソフトウェア/ハードウェアの枠組みで実現可能であり、機器コストに与える影響が微小であるという効果も奏する。
【0021】
また、本発明の品質計測システムでは、フォーマット拡張によるパケット長の増加分が高々10数バイトであり、MAC(Media Access Control)/IPヘッダを含めたIGMPパケット全体に与える影響もわずかであることから、回線帯域への影響も少ないという効果を奏する。
【0022】
さらに、本発明の品質計測システムでは、複数の加入者収容ルータを配置した際に、夫々に構成される加入者品質情報格納部の品質レコードを遠隔の品質管理サーバで収集し、一元管理することも可能となる。
【0023】
このように、本発明の品質計測システムでは、加入者端末と加入者収容ルータとの間のトラフィックを増加させず、ストリーミングを視聴中の全ての加入者端末における配信品質をコスト効率的に収集することが可能であり、配信サーバや配信ルータ等、その他の機器に影響を与えることがなく、容易に導入できることも効果として期待される。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、上記のような構成及び動作とすることで、加入者端末と加入者収容ルータとの間のトラフィックを増加させず、ストリーミングを視聴中の全ての加入者端末における配信品質をコスト効率的に収集することができるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
次に、本発明の実施例について図面を参照して説明する。図1は本発明の一実施例による品質計測システムの構成例を示すブロック図である。図1において、本発明の一実施例による品質計測システムは、ストリーミングを視聴する加入者端末1a〜1cと、これらの加入者端末1a〜1cを収容する加入者収容ルータ2と、複数のルータから構成される中継網100と、IP(Internet Protocol)マルチキャストによってストリーミングパケットを配信する配信サーバ4と、この配信サーバ4を収容する配信ルータ3とからなるネットワーク構成となっている。
【0026】
尚、本実施例では記載しないが、加入者端末1a〜1cと加入者収容ルータ2との間に、複数段のレイヤ2スイッチや、ADSL/VDSL(Asymmetric Digital Subsciber Line./Very high−speed Digital Subsciber Line)のようなメタリックアクセスシステム、PON(Passive Optival Network)のような光アクセスシステムが挿入されていてもよい。
【0027】
加入者収容ルータ2は、全ての加入者端末1a〜1cに対してマルチキャスト配信の周期クエリーを行う。マルチキャストグループに参加中の加入者端末1a〜1cは、加入者収容ルータ2から受信したクエリーに応答し、配信品質情報を付与したグループメンバ報告を加入者収容ルータ2に送信する。
【0028】
このグループメンバ報告を受信した加入者収容ルータ2は、ルーティングプロトコルにしたがって経路情報を更新するとともに、加入者端末1a〜1cが返送してきた配信品質情報と、加入者収容ルータ2内で計数している品質情報とを比較することによって、加入者収容ルータ2と加入者端末1a〜1cとの間の配信品質の計測を行う。
【0029】
図2は図1の加入者収容ルータ2の構成例を示すブロック図である。図2において、加入者収容ルータ2は、複数の加入者端末1a〜1cを収容する回線終端部21a〜21cと、制御パケット抽出部22a〜22cと、パケット転送部23と、中継網100と接続される回線終端部24と、経路情報格納部25と、マルチキャストグループ管理部26と、同期タイマ管理部27と、品質管理部28と、加入者品質情報格納部29と、受信統計情報格納部30とから構成されている。
【0030】
尚、加入者端末1a〜1cと加入者収容ルータ2との間でやりとりするマルチキャストルーティングプロトコルには、IPv4 IGMP(Internet Group Management Protocol)[RFC1112(非特許文献2)、RFC2236(非特許文献3)等参照]やIPv6 MLD(Multicast Listener Discovery)[RFC2710(非特許文献4)等参照]が代表的である。
【0031】
本実施例の適用においては、これらのプロトコルを特に限定しないが、以下、本実施例においては説明の簡略化のためにIGMPv2を使用する場合について述べるものとする。また、本実施例においては、ユニキャストパケットの転送方法について特に触れないが、これはルータ機器のごく基本的な動作概念に基づいて実装されることを前提としている。
【0032】
回線終端部21a〜21cは、光ファイバやツイストペアケーブル等を介して、加入者宅に設置された加入者端末1a〜1cを収容し、フレーム同期や誤り制御といったレイヤ1,2の機能を実現するブロックであり、イーサネット(登録商標)等の規格に準拠したPHY(physical:物理層)デバイスやMAC(Media Access Control)デバイスによって構成されている。
【0033】
制御パケット抽出部22a〜22cは、加入者端末1a〜1cと加入者収容ルータ2との間でマルチキャストルーティングプロトコルを交換する際に、このパケットを抽出し、マルチキャストグループ制御部26に転送するブロックである。IGMPプロトコルの場合、宛先IPアドレス及びIPヘッダ内のプロトコルタイプフィールドを参照することによって実現され、ハードウェア回路で容易に実現可能なものである。
【0034】
回線終端部24は、光ファイバやツイストペアケーブル等を介して中継網100に接続されるインタフェースであり、上記の回線終端部21a〜21cと同様に、フレーム同期や誤り制御といったレイヤ1,2の機能を実現するブロックである。
【0035】
パケット転送部23は、任意の回線終端部21a〜21c,24から受信したパケットを別の回線終端部21a〜21c,24に中継転送する一般的なパケットスイッチであり、ハードウェア回路及びパケットバッファメモリによる構成で高速処理を行うことが可能なものである。
【0036】
経路情報格納部25には、宛先IPアドレスに対応した転送先ポートの一覧が保持されている。特に、マルチキャストパケットを回線終端部24から受信した場合には、経路情報格納部25を参照し、転送先の加入者端末1a〜1cを決定した上で、パケットの複製を行い、該当の回線終端部21a〜21cへ転送する機能を有している。
【0037】
マルチキャストグループ管理部26では、加入者端末1a〜1cから受信したマルチキャストルーティングパケットを終端するブロックであり、一般にソフトウェアによって実現される。受信統計情報格納部30は、回線終端部24において中継網100からストリーミング配信のマルチキャストパケットを受信した際に、累積受信パケット数を宛先IPアドレス単位で計数するカウンタ(図示せず)を備えている。
【0038】
同期タイマ管理部27は、NTP(Network Time Protocol)[RFC1305(非特許文献5)等参照]等の時刻同期プロトコルを利用して、加入者端末1a〜1cと加入者収容ルータ2との間で時刻同期を行うブロックであり、一般にソフトウェアによって実現されるものである。
【0039】
品質管理部28は、加入者端末1a〜1cから収集した配信品質情報と、受信統計情報格納部30内で計数された品質情報とを比較することによって、加入者収容ルータ2と加入者端末1a〜1cとの間の配信品質の計測を行うブロックである。この計測結果が、加入者端末1a〜1c単位に、加入者品質情報格納部29に保持される。
【0040】
図3は本発明の一実施例による加入者端末の構成例を示すブロック図である。図3においては、加入者端末1は、回線終端部11と、制御パケット抽出部12と、受信バッファ部13と、ストリーム再生部14と、ストリーム制御部15と、マルチキャストグループ管理部16と、受信統計情報格納部17と、同期タイマ管理部18と、品質管理部19とから構成されている。尚、図1に示す加入者端末1a〜1cはこの加入者端末1と同様の構成となっている。
【0041】
回線終端部11は、光ファイバやツイストペアケーブル等を介して加入者収容ルータ2に接続されるインタフェースであり、上記の回線終端部21a〜21c,24と同様に、フレーム同期や誤り制御といったレイヤ1,2の機能を実現するブロックである。
【0042】
制御パケット抽出部12は、加入者端末1a〜1cと加入者収容ルータ2との間でマルチキャストルーティングプロトコルを交換する際に、このパケットを抽出し、マルチキャストグループ管理部16に転送するブロックである。IGMPプロトコルにおいては、宛先IPアドレス及びIPヘッダ内のプロトコルタイプフィールドを参照することによって実現される。
【0043】
受信バッファ部13は、配信サーバ4から受信したストリーミング配信パケットが格納されるバッファメモリである。また、ストリーム再生部14は、受信パケットのUDP(User Datagram Protocol)、RTP(Real Time Streaming Protocol)レイヤを終端してストリームを組み立てるとともに、オーディオ・ビデオCODEC(COmpression/DECompression:コーデック)を終端して動画像等のマルチメディアコンテンツを再生するブロックである。
【0044】
ストリーム制御部15は、ユーザの入力操作等に応じて、視聴対象のマルチキャストグループアドレスを決定し、マルチキャストグループ管理部16を通して同グループアドレスへのメンバ報告(参加/離脱要求)を行うブロックである。マルチキャストグループ管理部16では、加入者収容ルータ2から受信したマルチキャストルーティングパケットを終端するブロックである。
【0045】
受信統計情報格納部17は、受信バッファ部13に格納されるストリーミング配信のマルチキャストパケットに対して、累積受信パケット数を計数するカウンタ(図示せず)及びRTPヘッダのタイムスタンプ(Timestamp)フィールド及び受信パケット到着間隔から算出されるジッタ(jitter:揺らぎ)を計数するカウンタ(図示せず)を備えている。
【0046】
同期タイマ管理部18は、NTP(非特許文献5参照)等の時刻同期プロトコルを利用して、加入者収容ルータ2との間で時刻同期を行うブロックである。品質管理部19は、加入者収容ルータ2からクエリーを受信した際に、受信統計情報格納部17内で計数している品質情報を通知するための制御を行うブロックである。
【0047】
図4は本発明の一実施例による品質計測システムで用いるクエリーパケット(General Query)の構成を示す図であり、図5は本発明の一実施例による品質計測システムで用いるマルチキャストグループメンバ報告(Membership Report)の構成を示す図であり、図6は本発明の一実施例による品質計測システムの動作を示すシーケンスチャートであり、図7は本発明の一実施例による品質計測システムで用いる品質レコードの構成を示す図である。これら図1〜図6を参照して本発明の一実施例による品質計測システムの動作について説明する。以下、加入者端末1a〜1cについては加入者端末1と表記する。
【0048】
本実施例では、図4及び図5において、標準的なIGMPv2パケットに対し、加入者収容ルータ2が送信するクエリーパケットにQuery送信タイムスタンプ(図4の#3,#4ワード目)を付する点、加入者端末1が送信するグループメンバ報告パケットにQuery受信タイムスタンプ、受信パケット数、平均ジッタ(図5の#3〜#6ワード目)が付与されている点を特徴としている。
【0049】
まずはじめに、ストリーミング配信のマルチキャストパケットを受信した際における動作について説明する。加入者収容ルータ2では、回線終端部24において宛先IPヘッダを識別し(図6ステップS1)、受信統計情報格納部30において、受信パケット数の加算を行う(図6ステップS2)。
【0050】
同様に、加入者端末1では、受信バッファ部13において宛先IPヘッダを識別し(図6ステップS11)、受信統計情報格納部17において、受信パケット数の加算、直前のパケットの到着時刻t1’及びRTPヘッダタイムスタンプ値t1と、現在のパケットの到着時刻t2’及びRTPヘッダタイムスタンプ値t2とから、
ジッタ値=|(t2’−t1’)−(t2−t1)|
という式で、ジッタ値を算出する(図6ステップS12)。
【0051】
ここで、到着時刻t1’,t2’は、同期タイマ管理部18から取得される値である。また、加入者端末1では、上記のジッタ値と受信パケット数とを利用することで、平均ジッタ値を算出する(図6ステップS13)。
【0052】
続いて、IGMPプロトコルの問い合わせ周期であるQueryタイマが満了した際の動作について説明する。加入者収容ルータ2では、配下の全ての加入者端末1に対して、Query送信タイムスタンプが付与されたクエリーパケットを送信する(図6ステップS3)。
【0053】
このタイムスタンプは、同期タイマ管理部27から取得され、そのタイムスタンプ値がtであるとし、このタイムスタンプ値tを品質管理部28に保存しておく(図6ステップS4)。尚、本実施例においては、上位32ビットは整数部(単位:秒)を、下位32ビットは小数点以下(単位:マイクロ秒)で表した1900年1月1日0時基準に対する相対値を示すものとする。
【0054】
また、品質管理部28では、受信統計情報格納部30から現在の累積受信パケット数mをマルチキャストグループ毎に退避するとともに、累積受信パケット数のカウンタ値をリセットする(図6ステップS5)。
【0055】
次に、加入者端末1がクエリーパケットを受信した際における動作について説明する。加入者端末1では、制御パケット抽出部12、マルチキャストグループ管理部16を経由して、品質管理部19において、同期タイマ管理部18から現在時刻t’を取得するとともに、受信統計情報格納部17から現在の累積受信パケット数m’及び平均ジッタn’を退避し、累積受信パケット数m’及び平均ジッタn’のカウンタ値をリセットする(図6ステップS14)。
【0056】
以上の結果によって、加入者端末1は、加入者収容ルータ2に対して、Query受信タイムスタンプt’、受信パケット数m’、平均ジッタn’を付与したグループメンバ報告パケットを送信する(図6ステップS14)。
【0057】
最後に、加入者収容ルータ2がグループメンバ報告パケットを受信した際における動作について説明する。加入者収容ルータ2では、制御パケット抽出部22a〜22c、マルチキャストグループ管理部26を経由して、品質管理部28において、保存しておいたタイムスタンプ値t及び受信タイムスタンプ値t’から、
下り伝送遅延=t’−t
という式で、下り伝送遅延を算出する(図6ステップS6)。
【0058】
同様に、品質管理部28では、累積受信パケット数mに対して、
ロスパケット数=m−m’
という式で、ロスパケット数を算出する。また、品質管理部28では、加入者端末1から報告された平均ジッタn’を合わせ、加入者品質情報格納部29に、クエリー周期毎に、図7に示すような品質レコードを構成することができる。
【0059】
以上説明したように、本実施例では、加入者収容ルータ2がIGMPによって周期的に送信するクエリーパケット及び加入者端末1が送信するグループメンバ報告のパケットに品質情報を相乗りさせることで、ソフトウェアのパケット送受信負荷への影響を与えずに、図7に示すような加入者端末1毎の品質情報を容易に収集することができる。特に、加入者収容ルータ2及び加入者端末1における機能配備は、従来のルータ/端末におけるソフトウェア/ハードウェアの枠組みで実現することができ、機器コストに与える影響が微小であるという効果を奏する。
【0060】
また、本実施例では、図4及び図5に示すフォーマット拡張によるパケット長の増加分が高々10数バイトであり、MAC/IPヘッダを含めたIGMPパケット全体に与える影響もわずかであることから、回線帯域への影響も少ないという効果も奏する。
【0061】
図8は本発明の他の実施例による品質計測システムの構成例を示すブロック図である。図8において、本発明の他の実施例による品質計測システムは、複数の加入者収容ルータ2a,2bを配置し、品質管理サーバ5を設けた以外は、図1に示す本発明の一実施例による品質計測システムと同様の構成となっており、同一構成要素には同一符号を付してある。また、同一構成要素の動作は本発明の一実施例と同様である。
【0062】
本実施例では、加入者端末1a〜1cを収容する加入者収容ルータ2aと、加入者端末1d〜1fを収容する加入者収容ルータ2bとを配置した際に、加入者収容ルータ2a,2b各々の加入者品質情報格納部29の品質レコードを遠隔の品質管理サーバ5で収集しているので、品質レコードを品質管理サーバ5で一元管理することができる。
【0063】
このように、本発明では、加入者端末1,1a〜1fと加入者収容ルータ2a,2bとの間のトラフィックを増加させず、ストリーミングを視聴中の全ての加入者端末1,1a〜1fにおける配信品質をコスト効率的に収集することができる。また、本発明では、配信サーバ4や配信ルータ3等、その他の機器に影響を与えることがなく、容易に導入することができることも効果として期待される。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の一実施例による品質計測システムの構成例を示すブロック図である。
【図2】図1の加入者収容ルータの構成例を示すブロック図である。
【図3】本発明の一実施例による加入者端末の構成例を示すブロック図である。
【図4】本発明の一実施例による品質計測システムで用いるクエリーパケットの構成を示す図である。
【図5】本発明の一実施例による品質計測システムで用いるマルチキャストグループメンバ報告の構成を示す図である。
【図6】本発明の一実施例による品質計測システムの動作を示すシーケンスチャートである。
【図7】本発明の一実施例による品質計測システムで用いる品質レコードの構成を示す図である。
【図8】本発明の他の実施例による品質計測システムの構成例を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0065】
1,1a〜1c 加入者端末
2,2a,2b 加入者収容ルータ
3 配信ルータ
4 配信サーバ
5 品質管理サーバ
11,21a〜21c,24 回線終端部
12 制御パケット抽出部
13 受信バッファ部
14 ストリーム再生部
15 ストリーム制御部
16,26 マルチキャストグループ管理部
17,30 受信統計情報格納部
18,27 同期タイマ管理部
19,28 品質管理部
22a〜22c 制御パケット抽出部
23 パケット転送部
25 経路情報格納部
29 加入者品質情報格納部
100 中継網

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチキャスト網において通信装置から通信端末に配信されるパケットの配信品質を測定する品質計測システムであって、
前記通信装置は、前記通信端末との間でルーティングパケットを定期的に交換する手段と、前記通信端末からのルーティングパケット内に付加された配信品質情報を基に前記通信端末との間の配信品質を測定する手段とを有することを特徴とする品質計測システム。
【請求項2】
前記通信装置は、前記通信端末との間のパケットの受信数を少なくとも計数する手段を含み、
前記配信品質を測定する手段は、その計数値と前記通信端末から返送されてきた配信品質情報とを比較して前記通信端末との間の配信品質を測定することを特徴とする請求項1記載の品質計測システム。
【請求項3】
前記通信装置と前記通信端末との間で、IP(Internet Protocol)マルチキャストを利用して大規模なストリーミング配信を行うことを特徴とする請求項1または請求項2記載の品質計測システム。
【請求項4】
前記通信装置がIGMP(Internet Group Management Protocol)によって周期的に送信するクエリーと、前記通信端末が前記クエリーに応答して返送するグループメンバ報告のパケットとにそれぞれ前記配信品質情報を付加することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか記載の品質計測システム。
【請求項5】
前記通信装置が送信するクエリーパケットに送信タイムスタンプを付与し、
前記通信端末が送信するグループメンバ報告パケットに受信タイムスタンプ、受信パケット数、平均ジッタを付与することを特徴とする請求項4記載の品質計測システム。
【請求項6】
前記通信端末は、前記通信装置に収容される加入者端末であり、
前記通信装置は、少なくとも前記加入者端末を収容するルータ装置及びスイッチ装置のいずれかであることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか記載の品質計測システム。
【請求項7】
前記通信装置を複数配設し、
前記通信装置各々の測定結果を一括管理する品質管理装置を含むことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか記載の品質計測システム。
【請求項8】
マルチキャスト網において通信端末にパケットを配信する通信装置であって、 前記通信端末との間でルーティングパケットを定期的に交換する手段と、前記通信端末からのルーティングパケット内に付加された配信品質情報を基に前記通信端末との間の配信品質を測定する手段とを有することを特徴とする通信装置。
【請求項9】
前記通信端末との間のパケットの受信数を少なくとも計数する手段を含み、
前記配信品質を測定する手段は、その計数値と前記通信端末から返送されてきた配信品質情報とを比較して前記通信端末との間の配信品質を測定することを特徴とする請求項8記載の通信装置。
【請求項10】
前記通信端末との間で、IP(Internet Protocol)マルチキャストを利用して大規模なストリーミング配信を行うことを特徴とする請求項8または請求項9記載の通信装置。
【請求項11】
IGMP(Internet Group Management Protocol)によって周期的に送信するクエリーと、前記通信端末が前記クエリーに応答して返送するグループメンバ報告のパケットとにそれぞれ前記配信品質情報を付加することを特徴とする請求項8から請求項10のいずれか記載の通信装置。
【請求項12】
前記クエリーパケットに送信タイムスタンプを付与し、
前記グループメンバ報告パケットに受信タイムスタンプ、受信パケット数、平均ジッタを付与することを特徴とする請求項11記載の通信装置。
【請求項13】
少なくとも前記通信端末を収容するルータ装置及びスイッチ装置のいずれかであることを特徴とする請求項8から請求項12のいずれか記載の通信装置。
【請求項14】
マルチキャスト網において通信装置からパケットが配信される通信端末であって、
前記通信装置との間で定期的に交換するルーティングパケット内に前記通信装置との間の配信品質情報を付加して返送する手段を有し、
当該ルーティングパケット内に付加した配信品質情報を基に前記通信装置にて自端末と前記通信装置との間の配信品質を測定することを特徴とする通信端末。
【請求項15】
前記通信装置との間で、IP(Internet Protocol)マルチキャストを利用して大規模なストリーミング配信を行うことを特徴とする請求項14記載の通信端末。
【請求項16】
前記通信装置がIGMP(Internet Group Management Protocol)によって周期的に送信するクエリーに応答して返送するグループメンバ報告のパケットに前記配信品質情報を付加することを特徴とする請求項14または請求項15記載の通信端末。
【請求項17】
前記クエリーパケットに送信タイムスタンプを付与し、
前記グループメンバ報告パケットに受信タイムスタンプ、受信パケット数、平均ジッタを付与することを特徴とする請求項16記載の品通信端末。
【請求項18】
少なくともルータ装置及びスイッチ装置のいずれかに収容される加入者端末であることを特徴とする請求項14から請求項17のいずれか記載の通信端末。
【請求項19】
マルチキャスト網において通信装置から通信端末に配信されるパケットの配信品質を測定する品質計測システムに用いるストリーミング配信品質計測方法であって、
前記通信装置が、前記通信端末との間でルーティングパケットを定期的に交換する処理と、前記通信端末からのルーティングパケット内に付加された配信品質情報を基に前記通信端末との間の配信品質を測定する処理とを実行することを特徴とするストリーミング配信品質計測方法。
【請求項20】
前記通信装置が、前記通信端末との間のパケットの受信数を少なくとも計数する処理を実行し、
前記配信品質を測定する処理において、その計数値と前記通信端末から返送されてきた配信品質情報とを比較して前記通信端末との間の配信品質を測定することを特徴とする請求項19記載のストリーミング配信品質計測方法。
【請求項21】
前記通信装置と前記通信端末との間で、IP(Internet Protocol)マルチキャストを利用して大規模なストリーミング配信を行うことを特徴とする請求項19または請求項20記載のストリーミング配信品質計測方法。
【請求項22】
前記通信装置がIGMP(Internet Group Management Protocol)によって周期的に送信するクエリーと、前記通信端末が前記クエリーに応答して返送するグループメンバ報告のパケットとにそれぞれ前記配信品質情報を付加することを特徴とする請求項19から請求項21のいずれか記載のストリーミング配信品質計測方法。
【請求項23】
前記通信装置が送信するクエリーパケットに送信タイムスタンプを付与し、
前記通信端末が送信するグループメンバ報告パケットに受信タイムスタンプ、受信パケット数、平均ジッタを付与することを特徴とする請求項22記載のストリーミング配信品質計測方法。
【請求項24】
前記通信端末が、前記通信装置に収容される加入者端末であり、
前記通信装置が、少なくとも前記加入者端末を収容するルータ装置及びスイッチ装置のいずれかであることを特徴とする請求項19から請求項23のいずれか記載のストリーミング配信品質計測方法。
【請求項25】
前記通信装置を複数配設し、
前記通信装置各々の測定結果を一括管理する品質管理装置を含むことを特徴とする請求項19から請求項24のいずれか記載のストリーミング配信品質計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−324783(P2007−324783A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−150776(P2006−150776)
【出願日】平成18年5月31日(2006.5.31)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】