説明

噴射装置

【課題】作業空間内の視界を向上すると共に、作業空間外への水の流出を防止できる噴射装置を提供する。
【解決手段】構造物の表面に水を噴射する噴射装置Aにおいて、前記水に粉状の高吸水性高分子を混合して噴射する。噴射装置Aは、前記水が圧送される第1配管21と、前記高吸水性高分子が圧送される第2配管22と、前記第1配管から供給される前記水と前記第2配管から供給される高吸水性高分子とを混合して噴射するノズル10とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の天井や壁等を含む構造物の付着物若しくはその表層の剥離、或いは、当該構造物の表面を洗浄する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昭和49年頃までの建築物では、天井や壁に耐火材、断熱材或いは吸音材として、アスベスト含有物(例えば、アスベストと結合剤とを混合したもの。)が多用されていた。しかし、近年に至ってアスベストが人体の健康を損なう畏れがあることが指摘され、既設建築物におけるアスベスト含有物の除去が急務となっている。このような建築物の付着物を除去する装置として、例えば、特許文献1には圧力水をアスベスト含有物に噴射し、噴射位置を順次移動していくことでアスベスト含有物を剥離粉砕する装置が開示されている。また、特許文献2には床上に高吸水性高分子を予め布設しておき、床上に落下した水分を含むアスベスト含有物を高吸水性高分子で吸収させて回収効率を高めたものが開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開平1−165875号公報
【特許文献2】特許第2668696号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のように水を噴射することで付着物の剥離を行なう場合、噴射水や、剥離された付着物の粉塵が霧状に浮遊・散乱するため、作業空間内の視界が悪化する。作業空間内の視界が悪化すると付着物の剥離状況等を確認しずらくなり、作業性を低下させる。また、噴射された水が床上に落下するため、アスベスト含有物を含んだ、床上の水が作業空間外に流出する畏れもある。上記したアスベスト含有物以外の危険物を剥離する場合にも同様の畏れがある。
【0005】
特許文献2のように床上に高吸水性高分子を予め布設しておけば、水が作業空間外へ流出することは防止できるが、作業空間内の視界の悪化を防止することはできない。また、必要な場所に必要なだけ散布することが困難であることから床上に布設する高吸水性高分子の消費量が多くなり、更に散布作業が別途必要となる。
【0006】
本発明の目的は、作業空間内の視界を向上すると共に、作業空間外への水の流出を防止できる噴射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、構造物の表面に水を噴射する噴射装置において、前記水に粉状の高吸水性高分子を混合して噴射することを特徴とする噴射装置が提供される。
【0008】
本発明によれば、前記水に前記高吸水性高分子を混合して噴射することで、前記水は前記高吸水性高分子に吸収されながら構造物の表面に衝突し、飛散する。したがって、構造物の表面から除去された物質の粉塵を含む前記水がミストとなって浮遊する量が抑制されると同時に、小径のミストの発生自体も抑制されるのでミストが早期に落下し、作業空間内の視界を向上することができる。また、床上には、構造物の表面から除去された物質の粉塵を含む前記水が前記高吸水性高分子に吸収されてサラサラとしたゲル状粒子となるため、当該水が作業空間外へ流出することが防止できる。更には、噴射する前記水の量に応じて前記高吸水性高分子の量を規定することで、前記高吸水性高分子の無駄を減らすことができる。
【0009】
本発明においては、前記水が圧送される第1配管と、前記高吸水性高分子が圧送される第2配管と、前記第1配管から供給される前記水と前記第2配管から供給される高吸水性高分子とを混合して噴射するノズルと、を備えた構成を採用できる。
【0010】
この構成によれば、前記水と前記高吸水性高分子とを別配管で前記ノズルに供給することで、噴射時に前記高吸水性高分子が前記水を過剰に吸収して前記ノズルが詰まることを防止できる。
【0011】
また、本発明においては、前記高吸水性高分子と粉状の研削材との混合粉を貯留する貯留手段を備え、前記第2配管を介して前記混合粉が前記貯留手段から前記ノズルに供給され、前記ノズルは前記水と前記混合粉とを混合して噴射するようにしてもよい。
【0012】
この構成によれば、前記研削材をも噴射することで、構造物の表面に付着した付着物の剥離性能を向上できる。また、前記貯留手段に前記高吸水性高分子と前記研削材との前記混合粉を貯留しておくことで、これらの噴射に際して個別の配管を設ける必要がなく、更に、前記高吸水性高分子と前記研削材との噴射割合の調整も容易化する。
【0013】
上記構成からなる本発明は、建築物の天井、壁等の構造物の表面に付着した付着物或いは当該構造物の表層の剥離、特に、アスベスト含有吹付耐火被覆材、放射性物質、ダイオキシン等の人体に害を与える畏れがある危険物を有する付着物、表層の剥離、或いは、放射化等により人体に害を与える畏れがある建築物の天井、壁等の構造物の表面の洗浄、に好適である。
【発明の効果】
【0014】
以上述べた通り、本発明によれば、作業空間内の視界を向上すると共に、作業空間外への水の流出を防止できる噴射装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は本発明の一実施形態に係る噴射装置Aを採用したシステムBの構成図である。システムBは既設建築物の天井、壁等に施工された、アスベスト含有吹付耐火被覆材に代表されるアスベスト含有物を除去するシステムである。
【0016】
室1はアスベスト含有物が天井、壁に施工された既設建築物の一室である。室1には、隣接して仮設の作業室2及び3が設けられている。室1内にはアスベスト含有物の除去作業を行なうロボット4が配設されている。ロボット4は、走行部4a(ここではクローラー)と、多関節アーム4bと、土工板4cと、を備える。ロボット4の本体の上部にはビデオカメラ4dが設けられており、多関節アーム4bの先端部周辺を撮影可能となっている。
【0017】
多関節アーム4bの先端には、選択的に噴射装置Aのノズルユニットとバケット4eが装着可能となっている。ノズルユニットはノズル10とノズル支持体11とから構成される。アスベスト含有物の剥離作業時にはノズルユニットを多関節アーム4bの先端に装着する。剥離されて床上に散乱したアスベスト含有物は土工板4cにより集められる。
【0018】
剥離したアスベスト含有物の回収時には、バケット4eを多関節アーム4bの先端に装着する。床上のアスベスト含有物はバケット4eによりを掬い上げられ、ホッパ5に投入される。ホッパ5に投入されたアスベスト含有物は作業室3内の圧送装置6により回収装置7に圧送され、回収装置7にて回収袋に袋詰されて回収されることになる。
【0019】
作業室2内には、ロボット4を遠隔操作するための制御装置8とテレビモニタ8aが配設されている。テレビモニタ8aにはビデオカメラ4d及び室1内の各所を撮影するビデオカメラ9により撮影された映像が表示される。作業者は作業室2内にてテレビモニタ8aに表示された映像を見ながらロボット4の遠隔操作を行い、アスベスト含有物の除去作業を行なう。
【0020】
次に、噴射装置Aの構成について説明する。図2は噴射装置Aのブロック図である。噴射装置Aはフラットノズル型のノズル10と、ノズル支持体11(図2において不図示)と、ノズル10の後部に接続された分岐配管23と、を備える。分岐配管23は水が圧送される配管21と、高吸水性高分子及び研削材の混合粉が圧送される配管22と、を有する。
【0021】
配管21で圧送される水は本実施形態の場合、水道水であり、水タンク31に貯留される。水タンク31には水道から水道水を常時供給することができる。配管21には水道水を高圧で圧送する水ポンプ30が設けられており、水ポンプ30は水タンク31から水道水を吸引してノズル10へ圧送する。
【0022】
配管22にはコンプレッサ40が接続されており、コンプレッサ40からの圧縮空気が配管22へ圧送される。また、配管22の途中には貯留ホッパ41が接続されている。貯留ホッパ41は粉状の高吸水性高分子及び粉状の研削材の混合粉を貯留し、単位時間あたり予め定めた一定量の混合粉を配管22へ供給する。配管22へ供給された混合粉はコンプレッサ40からの圧縮空気によりノズル10へ供給される。
【0023】
高吸水性高分子の粉体としては、例えば、部分架橋ポリアクリル酸ナトリウムの顆粒(例えば、商品名:サンフレッシュST-500D、販売元:三洋化成工業(株))等、水を吸収して粒子状のゲルを生成するものであれば使用できる。また、研削材としては、例えば、重曹、炭酸カルシウム等が挙げられる。高吸水性高分子、研削材はいずれも0.2乃至0.3mm程度の粒径の粉体を用いることが望ましい。混合粉における高吸水性高分子の容積比は5乃至20%とすることが望ましく、この範囲であれば、研削材によるアスベスト含有物の剥離効果を発揮させながら、高吸水性高分子による噴射水の微細化防止効果を得られる。
【0024】
水道水、高吸水性高分子、研削材及びコンプレッサ40からの空気の単位あたりの分量としては、例えば、水道水を5.4l/minとすると、高吸水性高分子を70ml/min、研削材を430ml/min、空気を3乃至3.5m3/minとすることが挙げられる。
【0025】
係る構成からなる噴射装置Aでは、配管21内を圧送される水道水と、配管22内を圧送される、高吸水性高分子と研削材との混合粉と、がノズル10の手前で合流して混合され、ノズル10からアスベスト含有物が付着した壁面等に噴射される。噴射圧によりアスベスト含有物が壁面等から剥離される。
【0026】
噴射する水道水に高吸水性高分子を混合することで、剥離されたアスベスト含有物の粉塵を含む水道水は高吸水性高分子に吸収されながら壁等に衝突する。この時、微小ゲルを多数含んでいることから水の衝撃が緩和され、アスベスト含有物の粉塵を含む水道水がミストとなって浮遊する量そのものが抑制されると同時に、小径のミストの発生自体も抑制されるので、発生したミストが比較的早期に落下することで、作業空間内の視界を向上する。具体的には、ビデオカメラ4d及び9により撮影される室1内の画像がより鮮明となってテレビモニタ8aに映し出される。作業者は、アスベスト含有物の剥離状態をテレビモニタ8aで確認しながら作業を進めることができる。
【0027】
また、室1の床上には、アスベスト含有物の粉塵を含む水道水が高吸水性高分子に吸収されてサラサラとしたゲル状粒子となるため、当該水道水が作業空間外へ流出することが防止できる。また、アスベスト含有物をサラサラとしたゲル状粒子として回収できるため、土工板4cによる収集、バケット4eによる掬い上げがより簡易になり、回収効率を高められる。更には、噴射する水道水の量に応じて高吸水性高分子の量を規定することで、高吸水性高分子の無駄を減らすことができ、また、床上に事前に高吸水性高分子を散布しておく必要もない。
【0028】
本実施形態のように単一のノズル10により、水道水と高吸水性高分子とが混合された状態で噴射することで、装置の構成を簡略化できるだけでなく、高吸水性高分子による水道水の吸収性を向上できる。また、水道水と高吸水性高分子とを別配管(21、22)でノズル10に供給し、これらを噴射直前に混合することで、噴射時に高吸水性高分子が水道水を過剰に吸収してノズル10が詰まることを防止できる。
【0029】
また、本実施形態では研削材をも噴射することで、アスベスト含有物の剥離性能を向上できる。加えて、貯留ホッパ41に高吸水性高分子と研削材との混合粉を貯留しておくことで、これらの噴射に際して個別の配管、貯留ホッパを設ける必要がなく装置を簡略化できると共に、高吸水性高分子と研削材との噴射割合を貯留ホッパ41に対するこれらの投入量で調整することができるので、容易に噴射割合を調整できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施形態に係る噴射装置Aを採用したシステムBの構成図である。
【図2】噴射装置Aのブロック図である。
【符号の説明】
【0031】
A 噴射装置
10 ノズル
20 分岐配管
21、22 配管
41 貯留ホッパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の表面に水を噴射する噴射装置において、
前記水に粉状の高吸水性高分子を混合して噴射することを特徴とする噴射装置。
【請求項2】
前記水が圧送される第1配管と、
前記高吸水性高分子が圧送される第2配管と、
前記第1配管から供給される前記水と前記第2配管から供給される高吸水性高分子とを混合して噴射するノズルと、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の噴射装置。
【請求項3】
前記高吸水性高分子と粉状の研削材との混合粉を貯留する貯留手段を備え、
前記第2配管を介して前記混合粉が前記貯留手段から前記ノズルに供給され、
前記ノズルは前記水と前記混合粉とを混合して噴射することを特徴とする請求項2に記載の噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−194564(P2008−194564A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−29692(P2007−29692)
【出願日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「緊急アスベスト削減実用化基盤技術開発」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】